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    2015年1月19日 週刊「世界と日本」第2045号より

    新春インタビュー 「お客様満足」を追求して

    アサヒグループホールディングス(株)        相談役 福地 茂雄 氏

    インタビュアー 観光ジャーナリスト 大学講師 千葉 千枝子

    「君子豹変」と「朝令朝改」が褒め言葉に

     千葉 私はビールが大好きで、あちらこちらにジャーナリストとして取材に行きますが、その中でも御社のビールがとても大好きです。

     福地 それはよかった。

     千葉 まず初めに、1999年(平成11年)に社長にご就任されておられますね。その前年、アサヒビールはビールで首位に躍り出ましたが。

     福地 そうですね。

     千葉 その時期は発泡酒への参入が、かなり業界の中で噂というか、どうなのだろうかと言われていたかと存じます。その時のお気持ちなどを。

     福地 前任の瀬戸(雄三)社長の最後の年に、ビールで首位になりました。それで次の目標は、やっぱり発泡酒も入れてビール類トータルの中で首位にならないと駄目だという中で、私は社長に就任しました。

     ですから、福地が社長に就任したのは、アサヒビールも発泡酒を出す伏線があるのだろうと随分言われたわけです。しかし、私は「いや、絶対出しません」と突っぱねて、出すつもりはなかったのです。自分がまずいと思っているものをお客様に出しては駄目と。

     事実、発泡酒のグラスを持っただけで発泡酒臭、発泡酒特有の匂いがしていたわけです。自分で飲むかといったら飲まない。心の底から、この状態の発泡酒を出しては駄目だ、という信念になっていました。

     ところが、社長になって1年半後の2000年の6月に試作品を飲んでみると、発泡酒臭がしない。うまい!とにかくおいしい発泡酒が試作品でできたわけです。

     それからですよ、悩み、心が揺れ動いたのは。出すべきか、出すべきでないか。社内やOB、お得意先も「市場の変化に対応すべきだ」「まがいものは出すべきではない」と意見が分かれていました。

     なぜ意見が分かれていたかというと、私が社長になった時の発泡酒は、本当はビールが飲みたいのだが、安いから発泡酒で我慢しておこうか、という飲まれ方だったのです。

     しかし、ビールの代用品という考え方から、発泡酒の持つカジュアルな飲み物という性格が評価されてきていました。発泡酒の構成比も20%になってきています。

     世の中で発泡酒の位置づけが変わってきた時に、社長が前言にこだわって発泡酒を出さないことはどうなのかと悩んだわけです。そこにうまいものができたのです。具体的に言うと、発泡酒臭のしないものができた。お客様に自信を持って提供できる発泡酒ができたので、発泡酒市場への参入を決断しました。

     発泡酒市場への参入を発表した後、ある都市銀行の会長に「いよいよ出すことになりましたが『朝令暮改』と言われています」と言ったら、「福地さん、『朝令暮改』では遅すぎる。今は『朝令朝改』が求められる時期ですよ」と返されました。

     同じ日に新宿の百貨店の会長が「実は福地さん、今日の朝礼であなたのことを話したのですよ。今度いよいよアサヒは発泡酒を出すことになった。こういうのを『君子豹変』と言うのだと」。

     「ひどいですねえ」と言ったら、「いや、違う。『君子豹変』は褒め言葉ですよ」と。「朝令朝改」と「君子豹変」が褒め言葉だというのは、当時の2人のトップからたまたま聞いた話ですが、いまだに忘れられません。

     それから翌年の2月に発売、初出荷をしました。しかし、そうやって出荷したものの、果たしてお客様の反応はどうかと気になって、販売現場を回ってみました。コンビニの店頭ではどうなっているのかなと深夜にも行きました。

     また、スーパーマーケットがひしめく赤羽に行きました。そこでは新商品の試飲販売をしている女子社員が、「もう全て売り切れて試飲販売をする商品もないんですよ」と。すぐに増産体制を敷いて、商品が売れて、結果としてビール類トータルでキリンビールさんを抜くことができました。

     千葉 キリンビールを抜いたのですか!? その直後に。

     福地 ええ、その年のビールと発泡酒を合わせたビール類の総トータルで抜くことができました。結果論としては、本当に出してよかったわけですが、背中を押したのは「お客様満足」の考え方ですよ。

     千葉 でも使命感もお持ちで、そういうご判断を。

     福地 「顧客満足」の経営理念は、村井(勉)社長がつくられたのです。本来はマーケットインの発想でなければいけないのですが、それまでは、どちらかというと、プロダクトアウトで、このおいしいビールを折角つくったのに、なぜお客様は飲んでくださらないのだろうか、という発想のほうが、特に経営のほうに強かったのです。

     村井さんが、それは違うと言ってCIを導入した時に、経営品質、社員の行動品質、商品の品質を変え、そして、お客様が求めていらっしゃるものをつくらないと駄目だと、「顧客満足」のマーケットインの発想が生まれてきたのが、その時代です。

     千葉 福地さんは、NHKや新国立劇場などで、たくさんのご功績を残されていらっしゃいます。アサヒビールさん以外のお仕事も、ちょっと伺いたいと思います。

     福地 NHKは全員反対の中で行ったわけですが…。何も好き好んで火中の栗を拾う必要はないと思っていたのでしょう。

     当時のNHK経営委員長の古森重隆さん(フジフイルムホールディングス社長)が「福地さん、飯でも食べませんか」と電話をかけてきて六本木でお会いしました。その時に「NHK会長をやってみるきはありませんか」と言われたので、「さらさらないですよ」と答えました。

     そういったやりとりが続き、3回目にははっきりとお断りしたのですが、4回目に電話がかかってきた時には、もう何も聞かないで、「よし、わかった。やるよ」と返事をしました。だって、ああいう状況の時に会長をやる人はいませんよ。皆断って、断って、いよいよ困ったからでしょうね。

     NHK、東京芸術劇場、新国立劇場でもそうですが、「あなたが失敗すると思ったら絶対頼まないよ。成功するかどうかはわからない。しかし、どう考えても失敗する人にはものは頼まない。成功の可能性があるからものを頼むのだ。自分のことは自分が一番わからない。だから、ひとがやれと言ったものは素直に引き受けたらいいよ」と言ってきました。

     今でもその主義ですよ。そういうことで引き受けたのです。

     どこに行ってもアサヒビールの「顧客満足」の心が軸足です。NHKに行った時は「視聴者満足」、劇場に行った時は「観客満足」に置き換えました。いずれも消費者向け事業が主体の世界で、不特定多数のお客様を相手にする商売ですから。

     つまり、物事というのは理念さえしっかり持って、判断の軸足さえしっかり持っていれば、環境や現象が変わっても結果は一緒だと思うのです。

     千葉 福地さんは文化、芸術、マスメディア、そのいずれも凌駕されたと思うのです。

     その中で、食は文化とも言いますし、特に食事をおいしく引き立てる飲み物としてのビールは、私もどこでも飲んでいるのですが、日本のビールは本当においしいなと。特に日系のエアラインなんかに乗りますと、つくづく感じるのです。

     一方、日本の人たちは今、文化の醸成というか、アイデンティティーについて、すごく考える機運にあると思うのです。そのあたりについて…。

     福地 今までビールという食文化の世界にいました。それがNHKという放送文化の世界に入った。それから劇場というオペラ、バレエなどの舞台芸術文化ですね。私、一生を通じて文化の仕事に携われたのは、非常に幸せだと自分なりに思っています。

     よく言いましたのは、文化は人間が生きていくうえでの必需品ではない。しかし、人間が人間らしく生きていくためには文化は必需品だと。

      日本に置き換えた時に今、国民のニーズは、もっと人間らしく生きようというニーズですよね。そういった時の必要不可欠な要素は文化だと思います。

     千葉 福地さんは、教育にも造詣が深くていらっしゃいますね。最近の言葉の乱れとかにもご意見をされて、また新聞では書評も連載されて、本をたくさんお読みになっていらっしゃいますが。

     福地 本は昔から割合好きなほうですが、無節操読書法で、どういう系統の本とか、どういう作家の本じゃなくて、手当たり次第読んでいます。今、人気があるとか、話題になっているからということで読みます。たとえば、経営の問題でCSR(企業の社会的責任)が大きく取り上げられた時には、CSRの本を探して読みまくりました。

     またアサヒビールは環境に力を入れていますので、環境改善の本を読んだり、「顧客満足」の本を読んだり、いろいろその時、その時の経営課題に合わせた本を読んでいましたね。ハウツーものはあんまり好きではありません。

     千葉 素晴らしい。なかなか読む時間もないはずですが、若い時から? やはりお母様の影響で、ご本をたくさん読まれたのですね。

     福地 本は仕送りとは別に、全部母が送ってくれました。『中央公論』からファッション雑誌まで送ってきましたよ。ですから、母親の影響で本を読むようになったのでしょう。

    「変える勇気」と「変えない勇気」を

     千葉 今の時代、変化が激しくて、「今は三次元で物を考えるべき」と、よく福地さんはおっしゃっておられますが、その辺のお考えを。

     福地 私の好きな言葉に「変える勇気と変えない勇気」という言葉があります。

     今は三次元の時代、要するに変化の間口が広く、あらゆる分野で変化が起きており、加えて、1つの変化の奥行きが深い。

     1つの産業自体が、1つの企業自体が、その取り扱う商品が変わるぐらいに、それだけ変化が激しい時代です。

     もう1つは、変化のスピードがわれわれの考えていた以上に速い。もっとも変化のスピードはインターネットが普及し始めてからですよね。

     私も話をする時に「よりはやく、もっとはやく」と言うのですが、「よりはやく」の“はやい”は早い、「もっとはやく」の“はやい”は速い。

     早いというのは、前と比べて早く着手をしようということです。熟考するという時代じゃない、走りながら物を考えるという時代ではないのか、と思うのです。

     もっと速くは要するにスピードを上げろ、今まで3年かかったやつは2年か1年でやれということです。世の中の変化がそれほど激しいのだから、われわれの判断や行動も今までどおりではいけません。

     また、他人の話をよく聞けということも言います。変化の分野が広がっている中、今まで想像もしてない分野の仕事が舞い込んでくるからです。

     しかし、その中で変えてはいけないものが1つだけあります。それは経営理念です。個人商店であれ、大企業であれ、拠って立つ理念、これは世の中がどんなに変わっても変えてはいけません。それが「顧客満足」の理念です。

     堺屋太一さんが小説の中でチンギス・ハンの言葉として、「入りやすい入り口には出口がない。入りにくくても出やすい道筋を探すべきだ」ということを書かれています。

     要するに総論と各論を使い分ける、本音と建前を使い分けるのは非常に便利ですが、本音と建前、総論と各論を使い分けたら、人はついてこないですよね。この人、何を考えているのか…と。

     そこでは、この人は、いろんな現象面では変わるけれども、軸足は変えない。「顧客満足」の軸足は変えないというところが肝要です。

     千葉 どうもありがとうございました。

    福地茂雄(ふくち しげお)氏


    ●プロフィール

    1934年福岡県生まれ。アサヒグループホールディングス(株)相談役。

    1957年長崎大学経済学部卒業、アサヒビール(株)入社。1999年代表取締役社長、2002年代表取締役会長、2006年相談役。

    2007年企業メセナ協議会理事長に就任(現職)。同年東京芸術劇場館長に就任(現職)。

    2008年アサヒビール相談役退任。2008年〜2011年日本放送協会会長に就任。2011年アサヒビール(株)相談役。同年新国立劇場理事長就任(現職)。アサヒグループホールディングス(株)相談役就任。

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