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一味清風

 どう決着するにせよ、ロシアのウクライナ侵攻が日本に与える教訓に真剣な思考が不可欠だ▼ウクライナ側の健闘は称賛に値するし西側諸国の援助も大きい。一方で諸国の援助疲れが語られ、双方に「妥協を」という圧力も目立つ▼この侵攻が日本への最大の教訓は、ウクライナが過去、米、ロ、英の保証に安易に乗り、自力で自国を守る大原則を放棄したことだ。世界有数の兵器、核保有国だったのに「ブタペスト覚書」を3大国と交わし、軍事小国となって安全保障を3国に丸投げした▼結果はクリミア併合に始まるプーチンの野心の好餌に。一方、米英は武器援助をしても、直接参戦することは絶対ない▼今防衛力強化論議がやっと緒についた日本。日米安保条約だけで十分か。中国、北朝鮮、ロシアの野心は止まない。憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して国を守る」と宣言している国に、喫緊に何が必要かは自明だ。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2236号

 

 FIFAワールドカップが盛り上っている。緒戦でサウジがアルゼンチンに勝ち、次いで日本がドイツに勝ち、モロッコがベルギーに勝って、いずれも大番狂わせと評された▼しかし、これらの結果には共通点がある。勝った国は暑い国であり、負けた国は寒い国だということである。寒い国の人は汗腺が発達していないと聞く。彼らはドーハの暑さに負けたのではないか▼筆者は十年ほど前にドーハを訪れたことがある。ホテルやレストランなどは寒いくらいに冷房が効いているが、ひと度外を歩いたりすればサウナの中のような息苦しさを覚える。率直にいって人がまともに住める環境ではない▼それを可能にしたものが石油文明である。そしてその行き着く先が地球温暖化であり、全世界のドーハ化だ。今回人権問題などが議論されているが、より深刻に議論し考えるべきことは、この石油文明からの脱却であろう。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2235号

 

 最近の防衛論議の盛り上がりを、大いに歓迎したい。敵基地攻撃能力の保有についても、具体的な討議が与党を中心に進行中だ▼折から日本記者クラブの講演会で、前防衛事務次官・島田和久氏の話を聞く機会があった。第2次安倍内閣で首相秘書官を長年務め、防衛事務次官後も内閣官房参与などを歴任。経歴、識見ともに防衛問題の第一人者だ▼島田氏は喫緊の課題は防衛力の抜本的強化という。日本の防衛は日米安保に大きく依存し、自力でできることは極めて限られる▼ウクライナは核兵器を放棄し、長距離射程の武器はなかったから、ロシアは自国への配慮皆無の中で侵攻した▼日本は力の信奉者のロシア、中国、北朝鮮に向き合うのに同盟国は米国のみだ▼しかも日本に対米防衛の義務はなく、米国は日本の危機には適切に支援するが、事態と世界情勢次第ということになる。こうした論理的説明の前には、何が喫緊の課題かは自明だ。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2234号

 

 5年に一度の中国共産党大会が閉幕し、習一強体制が確立した。江沢民系の上海閥も胡錦濤系の共青団も、7人の常務委員はおろか24人の中央政治局員に、一人もいないという徹底ぶりである。このようないわば「清一色(チンイーソー)」政権で、これからやっていけるのか▼孔子は、ある君主に、ひと言で国を滅ぼすという言葉はありますかと訊かれて、「ただその言にして"予違"(わたが)うことなきを楽しむなり」という言葉ではないかと答えている。周りはイエスマンばかり、不都合な真実は覆い隠され、阿諛(あゆ)追従(ついしよう)忖度(そんたく)欺瞞(ぎまん)策謀(さくぼう)などが渦巻く環境に置かれたら、どんな人間でも次第におかしくなっていくのだろう▼その「悪しき」見本は現在隣国で進行中だ。老婆心ながら習政権に対しては、隣国の独裁者の末路を他山の石とし、日夜『論語』を拳(けん)拳(けん)服膺(ふくよう)することを期待したい。そしてわれわれは隣国の独裁者が惨めな末路を迎えるよう努力すべきであろう。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2233号

 

 北朝鮮のミサイル発射実験が急ピッチだ。内外に開発の進展を誇示し、新核実験も近そうだ。金正恩を駆り立てているものは一体何か▼最も注目すべきはロシアへの共感だ。ウクライナ侵攻が行き詰まり、孤立感を深めるプーチンと一蓮托生の道を選ぶ。プーチンの古希に祝電を送って大宣伝をした唯一の国だ。ロシアのウクライナ4州併合には真っ先に賛成したし、武器や労働者を送ったという報道も▼北が独自の技術だけで核ミサイル開発に成功するはずはなく、旧ソ連以来、物心両面のロシアの援助は大きい。それが今や初めて、ロシアが北朝鮮の応援を必要とする時代になった▼不相応な核ミサイル保有に、北の国内情勢は厳しい。独裁者一人が肥え太っているが、国民は困苦の極だ▼北の暴走を前に、日本政府は米韓などと協力しながら防衛力の抜本的強化に踏み切る。こんな隣国を持てば避けられないと、覚悟を新たにすべきだろう。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2232号

 

 二つの国葬が終った。この二つを見て誰もが思ったことは、この二つは似て非なるものだということだろう▼エリザベス女王の場合は、死者を悼む殯(かりもがり)の時間があり、ウエストミンスター寺院においては、棺を前にして聖職者による儀式が執り行われ、讃美歌が歌われ、最後に棺はウィンザー城に埋葬された。見事な葬式であった▼対するに元首相の場合は、葬儀は既に終っており、会場には遺骨及び遺影があるのみである。聖職者がいる訳でもないし、念仏が唱えられる訳でもない。一言でいえばこれは大がかりな偲ぶ会であるということだ▼もう一つ似て非なるものが、一般市民の反応である。イギリスではエリザベス女王の棺に手を合わせるのに十数時間も列に並んだという。日本では一般献花に参列した人と反対運動に参加した人に分断された。その差を生んだものは、トップが私心なくひたすら国民に奉仕したかどうかであろう。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2231号

 

 エリザベス女王の逝去と前後して、女性のトラス新首相が誕生した英国。日本は外交、安保、経済の各面で対英関係を強化中で、日英新同盟時代の幕が開きそうだ▼トラス首相はサッチャー元首相の崇拝者で、その再来という評も。お互いを「基本的価値を共有する戦略的パートナー」と位置づけている日英両国だ。50余の英連邦を束ねる英国との関係強化は、日本にメリットも大きい▼この5年で装備、共同訓練など、軍事面での協力は飛躍的に改善し、既に事実上の同盟と言っていい状態になっている。日英で共同開発する空自のF2戦闘機の後継機も、今後は一層加速するだろう▼安保の全面的対米依存にも柔軟性が付加される。世界最強、最大の情報機関を持つ英国は、国際情報の収集、発信面で日本の弱点を補って余りある点も買いたい▼英国は原発事故後の日本食品輸入規制の撤廃方針だし、日本も英国のTPP加入申請を強く支持する。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2230号

 

 コロナ感染者の全数把握の見直しが迷走。政府から医療現場のひっ迫等を理由に、報告書の提出を重症者等に限定する方針が出されたが、東京都などは今まで通りの対応と足並みの乱れが明らかに▼ここで問題となっている病院や診療所が知事宛に提出する「新型コロナウイルス感染症発生届」なるものをある方から見せてもらった。住所氏名は当然だが、病状、診断方法、感染原因・経路、ワクチン接種状況、重症化リスクの有無などが続く。これを見ていると、様々なケースを想定してあれもこれもと要求し、完璧を期そうとする本部、それにつき合わされて疲弊する現場の姿が浮かんでくる。現場の負荷の軽重をよく見て、報告事項や手法を軽減するのが本部の役割ではないか▼同様の構図は日本社会の至る所に見られる。トラックなどの検査不正、ジェネリックの異物混入事件の根っ子も同じだ。日本社会劣化の検証が急務である。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2229号

 

 月刊『世界と日本』最近号に出た渡邊啓貴・帝京大教授の論文『不透明な時代の欧州』は秀逸で、まさに間然するところがない▼メディアは連日ウクライナ問題であふれ、その論も文字通り玉石混交。中にはロシア政治研究の第一人者を自認する大学教授で『プーチンは6月中に99%辞任する」と断言した人もいた。こういう手合いは「だから100%とは言っていない」と開き直るのか▼渡邊論文は奥が深く、日本人には複雑極まるウクライナ情勢も、読後はすっきり頭に入る。欧州国際関係の著書も多彩で、各種の賞も得ていて、本誌編集者の人選の確かさを先ず指摘したい▼欧米はウクライナを多面的に軍事援助しても、ロシアとの直接対決には絶対踏み込まない。同様事態になれば、日米同盟に全面依存する日本では直接死ぬのは自衛隊だけ、となる▼これがウクライナ侵攻に対する日本への教訓だ、という筆者の明確な指摘には全面賛成だ。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2228号

 

 先日三年ぶりに開かれた花火大会に行った。夏の夜空へ打ち上げられる花火に、コロナもウクライナもない一時を楽しんだ▼火薬は、羅針盤、活版印刷と並んで中国の三大発明とされるが、もともと道教の道士が不老長寿の仙薬を作る過程で発明されたものらしい。それがすぐに軍事利用され、瞬(またた)く内(うち)に広まったとされる。日本では戦国時代、群雄が火薬の原料の一つの硝石の入手に血眼になったことが知られている▼今回の元総理が凶弾に斃れるという事件、容疑者はネットで火薬の製法を知り、試作して、あれだけ殺傷能力の高い鉄砲を作ったというから驚きである。今や核兵器の作り方もネットに出ているのだろう▼このような事件をどうやって防ぐのか。それこそネットの閲覧履歴やホームセンターなどでの購買履歴などからAIが予想するのか。次第に中国が実現しつつあるという徹底した監視社会になるとしたら、その方が恐ろしい。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2227号

 

 ウクライナ侵攻を根源にまでさかのぼり、世界史への深甚な影響を論じた優れた論文が月刊『世界と日本』の最近号に出た。拓殖大学大学院客員教授・武貞秀士氏の『ロシアのウクライナ侵攻後の朝鮮半島情勢の展望』だ▼各国には建国時にさかのぼる「不条理への怨念」がある。中国の台湾に対する執念、北朝鮮の韓国に対する統一志向、それに何とロシアの北海道への領土的野望など。これに民族の恨みをすくいとる指導者が出れば、現実の侵略が起こることをウクライナが証明した。と武貞氏▼北海道については現にプーチンが「アイヌ民族をロシアの先住民と認定する」と発言したという。下院副議長も「北海道の全権はロシアにある」と述べた▼もしウクライナ侵攻がロシアの「成功体験」になれば、今後どんな影響が世界に出るか。武貞論文の視点は、国際政治にやや「ノー天気な日本人」に、示唆するところが大きいのではないか。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2226号

 

 異常に早く梅雨が明けたと思ったら一挙に酷暑が到来し、東京電力管内に電力需給ひっ迫注意報が発令され、政府は節電キャンペーンに乗り出した。今回は節電ポイントに財政援助するとの報道も▼ただ当局者から、クーラーは28度に設定する、小まめに照明を消す、テレビは家族そろって見る、冷蔵庫は頻繁に開閉しないなどとその教えを聞かされると、それ以前にすべきことがあるのではないかと思われてならない▼まずは再生エネルギー中心社会の構想とタイムスケジュールだ。その下で、原発再稼働の位置づけ、電力の地域独占の見直し、小型水力発電所などの地産地消の拡大、電力の貯蔵手段の多様化と技術革新、これらに伴う送電ロスの縮減などの施策を早急かつ着実に実践していくことが急務である▼今回の酷暑も、このところ世界各地で発生している異常気象も、地球温暖化地獄の一端である。脱酸素社会の構築は待ったなしだ。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2225号

 

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、ドイツやNATO非加盟国スウェーデンも、国防費をGDPの2%への引き上げを決めた▼日本も5月の日米首脳会談で、岸田首相が防衛費の「相当な増額」を表明したのは妥当だ。政府は年末までに予算額を詰めるが、単純な数値比較を超え、内外に国家としての覚悟を明示してほしい▼7月の参院選でも防衛費問題は与野党の争点になろうが、政治家は今世界を覆う不安定感に、もっと敏感になるべきだ。他国を批判する遠吠えにただ便乗したり、特定国の庇護にだけ頼ることは、もう許されない▼野党では日本維新の会が「積極防衛能力」の整備を図り、憲法9条の改正にも取り組む、とした。参院選で改憲勢力が3分の2を上回り、改正への機運が高まることを大いに期待したい▼国防には与党も野党もない。時代の変化を敏感に捉え、迅速に対応することこそが、政治家には求められる時代だ、と銘記してほしい。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2224号

 

 このほど岸田内閣は「新しい資本主義」の実行計画案を公表した。人への投資、科学技術、新興企業、脱炭素・デジタル化を四本柱とするもので、それぞれに喫緊の課題であり、掲げられた諸施策の着実な推進が期待される▼一国民としてはそれに尽きるが、望蜀(ぼうしよく)の思いで蛇足を加えるとすれば、何がしかキャッチフレーズのようなものが欲しい。それも国民が自分事として共感できるようなものが必要だ。国民の協力なしには、どんな政策も画餅に帰すからである▼例えば〇〇ミクスというようなものは、最近の例にもあったように竜頭蛇尾であったり、羊頭狗肉であったりすることが多いから避けるとして、どんな社会を作るのかについて、国民一人ひとりがイメージできるような言葉が良いのではないか▼その際、総理の人柄が滲み出てくるようなものがいい。例えば「誠実な政治・活き活きした経済・落ち着いた社会」などというのはどうだろうか。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2223号

 

 本土復帰50年を最近迎えた沖縄。その戦略環境が国際情勢の激変で大きく変わろうとしている▼ロシアのウクライナ侵攻は米・西欧対ロシアの正面対決を産んだ。最終的帰結はどうあれ、欧州ではフィンランド、スウェーデンの新加盟申請というNATO拡大を招く▼その結果改めて、ロシア同様武力にものを言わせる専制国家・中国のインド太平洋への脅威に、注目が集まる▼半世紀前の沖縄は中国の影響圏外だった。沖縄の目には今、圧倒的な中国の黒い影が広がる。強大な軍事力で、中国が尖閣や台湾に有事を招くと、沖縄も主戦場になる危険性がある▼中国のミサイル射程圏内に分散展開する前方基地作戦の中で、沖縄に司令部を置く米第3海兵遠征軍は中核的な役割を担う▼フィンランドがNATOに歓迎されるのは優れた軍事力だ。米中直接対決で米国の沖縄防衛の本気度は、日本自身の同盟への貢献次第と銘記すべきである

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2222号

 

 円安の進行が止まらない。資源・エネルギー価格の高騰や内外金利差の拡大など様々な要因が指摘されている。これに対し日銀は頑なに緩和政策を堅持するとの姿勢を崩していない▼何時からといえば、ゼロ金利政策が1999年、マイナス金利政策は2016年である。前者からは二十余年、後者からは6年。それで効果はあったのか、答は否であろう▼江戸中期享保の頃に活躍した思想家に石田梅岩という人がいる。心学と称される実践倫理の体系を作り上げ商道徳や人間の生き方を説いた。その梅岩の言葉に「ありべかかり」というものがある。「貸たる物はうけとり、借たる物は返し、毛すじほども私なく、ありべかかりにするは正直なる所也」というように、本来あるべき姿という意味だ。人からお金を借りて利息を払わない(ゼロ金利)、さらに利息をもらう(マイナス金利)ことが「ありべかかり」でないことは明白であろう。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2221号

 

 ロシアのウクライナ侵攻は最大級の世界的危機を招いた。日本の決定的転換点にもなり得る▼その意味でも、本紙の創立50周年記念東京懇談会に招かれた櫻井よしこ氏の講演は、聞き応えがあった。ロシア、中国が拒否権を持つ国連安保理は機能せず、米国中心の同志連合が辛うじてプーチンの横暴に抗し続けた▼米国も今や圧倒的な勢威がなく、バイデン大統領も幹事役どまり。核対決を避けたい思いが強すぎて、時にプーチンのはったりに立ちすくみ感さえあった▼際立ったのはウクライナのゼレンスキー大統領。正面からロシアの横暴に立ち向かった。「故国あってこそのわが命」という思いは世界中に届き、国民も奮い立たせた。これこそ乱世の指導者だ▼日本は何を学び取るか。頼りの米国も「更なる危機に日本は何ができるか」と問い続けるはずだ。他人事感さえまだ残る日本で、この危機は国家として当然な答えを明示してくれた。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2220号

 

 このところウクライナ報道の陰に隠れて、コロナ報道が小さくなった。しかし、感染者数で見ればピークアウトしたものの減少の勢いは緩やかで昨年秋のような激減ではない。その差は当時のデルタ株と現在のオミクロン株の感染力の差によるものとされる。一方ブースター接種もようやく4割を越した程度で遅々として進まない▼問題はこの接種間隔である。最近ある専門家から、厚労省が当初主張していた8か月というのはデルタ株を前提とした間隔で、オミクロン株の場合は3か月程度が適切だということは昨年末の段階でわかっていたということを聞いた▼それが事実だとすればとんでもない話である。ワクチンの確保が間に合わないとか自治体の準備ができないとか言い訳はいくらもあろう。しかし、ことは国民の命にかかわることである。しっかりとした科学的知見に基づいた対応と丁寧な説明を行ってほしいものである。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2219号

 

 本気で突き放したらプーチンも尻尾を巻く唯一の人、習近平。だがロシアのウクライナ侵攻が停頓(ていとん)する中で、中国の日和見的ずるさが際立つ▼プーチン期待通りの展開だったら、台湾侵攻も現実味を帯びたはずだが、現状では大きなブレーキだ。「台湾は不可分の領土で従来方針通り」と繰り返すが、ウクライナの抵抗や世界の支援を目の当たりにして、習自身かなり動揺している?▼国連総会のロシア非難決議で中国は棄権した。大国らしからぬ姑息な態度に、習の悩みの深さが表れた▼だが今、行動で示さないと、強権国家自体はもろい基盤に乗るのだから、自身が行き詰まる可能性さえある▼中国の国防予算は連続拡大し、日本の約5倍。対ロ関係も有効裡に維持しつつ時間を稼ぎ、対西側関係を有利に進める戦略だが、今その功罪が問われている▼中国に軍事援助を求めるロシアに支援に踏み切るか、撤退を迫るか、まだぐずつき続けるか。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2218号

 

 ロシアがウクライナに侵攻した。全世界を敵にした暴挙のように見えるが、プーチンの真意はどこにあるのか。ソ連邦時代の兄弟国であり衛星国でもあったウクライナが、次第に西側に傾斜していくのを武力行使で阻止し、傀儡(かいらい)国家を作っておかないと、枕を高くして寝られないということか▼パワーバランス、勢力圏、傀儡国家、衛星国、地政学等々。もうそんな時代ではないのではないか。興味深いのは、この侵攻に対し、ロシアを含め全世界の市民が反対の意思表明をし、それらが国境を越えてつながっていることである。いかに愛国者を気取っていても、もうそれは人を動かす力を失っているのだ▼それで思い出すのは、「近き者説(よろこ)び、遠き者来たる」という『論語』の言葉である。周囲の者が喜ぶような政治を行えば、自然に遠くから人が集まって来るというのだ。ロシアに限らず、いわゆる権威主義国の指導者に、この言葉を投げつけたい。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2217号

 

 ウクライナ危機が加速中だ。米ロ両軍の近隣への増派が決まり「キューバ・ミサイル危機の再来」という声さえある▼キューバ危機時私は在米中で「あわや核戦争か」という米国民の危機意識を鮮烈に記憶する。結局ケネディのキューバ封鎖決断にフルシチョフが土壇場で応じて急転解決した▼今回はロシアに中国がつき、米国にNATO諸国が同調する構図だが、米の圧倒的地位の衰退、中国の急速な台頭が背景にある▼両者が妥協できなかったら、中国戦略の台湾有事も一挙に現実味を帯びる。この混迷を奇貨とする北朝鮮の核ミサイル開発もさらに進もう。「日本が平和を保てたのは幸運だっただけ」とアーミテージ元国務副長官。日本の核武装論台頭を予言するボルトン米元大統領補佐官の発言も▼同盟の将来像は米国単独では描けず日米欧豪の協力が必須。「日本が主導権を」という尾上定正・元空将の本紙「防衛の扉」の心意気を高く買う。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2216号

 

 キャッシュレス化が進んでいる。今年から郵便局では大量のコインを持ち込んで貯金する場合は手数料を徴収するようになったという。少額貨幣は邪魔物扱いということか▼それで思い出すのは貯金箱である。以前は郵便局や銀行などがよく配っていた。郵便ポスト型とか干支の動物、今年だったら虎を形どったものなどがあった。これらは貯蓄が美徳とされた時代の代物ともいえるが、貯金箱には、「塵も積もれば山となる」を可視化するという教育的役割もあったと思う▼問題はキャッシュレス化がどんどん進むと、人間にとってお金は何になるのかということである。かつて給与振込みが普及して亭主の価値が低下したとか、キャッシュレス先進国中国では強盗事件が減ったとか、ネット犯罪が益々増加するのではないかとか、いろいろなことがいわれるが、お金は人が働いて得た代価であるという基本は忘れないようにしたい。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2215号

 

 ソ連崩壊から30年たった機会に、昨年末本紙に寄せた産経新聞論説顧問・斎藤勉氏の論考は興味深かった。その崩壊時、一連の傑出した報道で世界メディアを震撼させ、数々の賞を得た当人だ▼当時「ロシアもこれで初めて民主化されると夢想し、北方領土も返るかもと、感情の高ぶりを抑えられなかった」と正直に告白する。しかし今のプーチン政権は「史上最凶・最大の共産党独裁国家を構築中の中国とともに、近代的スターリン型体制に返った」と断定する▼ソ連崩壊後、東欧15の共和国は独立国として地歩を固めた。ロシアへの復帰はあり得ないのに、プーチンはNATOへの接近など許せない▼今焦点はウクライナ。ロシアは国境に軍事力を集中し威嚇を続ける。ロシアの支援を受けた分離派支配地域では1万人以上の死者が出ている▼米とEUはロシアの軍事侵攻に「断固たる措置」を明言するが、情勢は目を離せない。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2214号

 

▼今年、京都は雪の元旦を迎えた。雪の金閣寺、雪を屋根に積んだその姿は、後光が差したかのように荘厳であった。てっぺんに鳳凰を載せたその最上部を究竟頂(くっきょうちょう)という。完璧な美しさを極めたという意味だろう。▼追求完美、それを求め、あらゆる力を傾注し、そしてそれを良しとする価値観や社会風土、これこそ日本経済の競争力の源泉であった。この精神は、茶の湯、能楽といった伝統芸術、自動車から精密機械に至る工業製品群、そして「おもてなし」に代表されるサービスに及んでいる。▼問題はそれが正当に評価されず、不当廉売されている所にある。金閣寺でいうと拝観料大人四百円、安すぎる。折しも岸田内閣では「成長と分配の好循環」を標榜して、企業に従業員の賃上げを要請しているところだ。追求完美の価格が正当に評価され、価格が上がれば企業も賃上げに積極的になる。その好循環こそ経済再生の突破口だ。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2213号

 

 米中の覇権争いは激化するばかり。米国が110以上の国家、地域指導者を招きオンラインの民主主義サミットを開けば、中国は自国流の民主主義を主張し、経済力と軍事力で米の覇権に強力に挑戦する▼米政権の現状認識は単独で持続的な中国抑止の限界だ。それは即、日本の対中防衛への積極的な貢献要求になる▼焦点の一つは台湾。第2の毛沢東を目指す習主席は「台湾の完全統一は歴史的使命」と明言し、武力による現実化は遠くないという声も。台湾有事には沖縄や南西諸島も巻き込まれ、即日本有事だ▼岸田首相は敵基地攻撃能力を含め、全ての選択肢を排除しないと明言。自民党は防衛費をGNPの2%以上を目指すと宣言し、米の期待も高い▼一方で対中経済的実利追及派も政財界に多く、対米・対中二股外交は至難になるばかり。北京五輪支援問題、親中派という林外相の訪中招請など、戦後初の真の外交能力を問われる課題は山積だ。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2212号

 

 大谷翔平(27才)、米大リーグMVP獲得、二刀流を引っさげての快挙、その実力といい人柄といい文句なし、絶賛の嵐。対するに持続化給付金、家賃支援金を搾取し、このほど東京地裁で懲役刑を求刑された元経産省キャリアA(29才)及びB(28才)。月とスッポンとはこのことだ。▼この同世代の若者を分けたものは何か。1つは志の高さだろう。一方は世界一の野球プレーヤーになること、他方は高級外車を乗り回すこと、比べるのも恥ずかしい。▼その志の高さは絶え間ない自己研鑽を伴ってこそ可能であったに違いない。大谷には高校時代に作成した目標達成ノートがあって、そこには3×3のマトリックスで九項目の課題が記されているという。即ち、あいさつ、ゴミ拾い、掃除、運、プラス思考、本を読むというような項目である。ここにあるのはスキルではない、人間として完成を目指すという姿勢である。ここに何が大谷を作ったのかが如実に示されている。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2211号

 

 岸田自民党の行方を世界が注視する。本紙の『月刊・世界と日本』最近号は、作家・塩田潮氏の「岸田自民党の船出」を掲げ、伝統的保守復活の意義と問題点を余すところなく説く▼40年以上の独自の現場体験に裏打ちされた論は重厚だ。メディアで日常散見される他者の安直な解説の類とは幾味も違う▼今回の総裁選は「宏池会戦争」と筆者。保守本流、経済重視、リベラルを掲げる名門だが、激しい派内抗争の歴史を持ちつつ現実主義で生き延びてきた▼首相は「新資本主義実現」を掲げる。派閥主導人事を優先させ、党内安定を最重視するのが岸田流現実主義。菅凋落を招いた自民党の危機感の核は「二度と野党はご免」だ。結党以来時にトップを切り捨て「振り子の原理」で生き延びた党だ▼課題は成長力喪失危機の日本経済の活力回復だ。原油価格の上昇は企業のコスト増、消費者物価増を招く。岸田政権の多難さを本論は的確に突く。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2210号

 

▼秋篠宮家長女が結婚し、眞子様が眞子さんになった。この結婚は三年前の婚約から、大袈裟にいえば国論を二分する議論が交されてきた。1つは皇族の結婚はそれに相応しい、そして国民の誰もが祝福できる相手とするべきであり、金銭トラブルを抱えているような家庭とは縁組みすべきでないという考え。もう1つは皇族にも人権があり、相思相愛のカップルの結婚に反対する権利は誰にもないという考えである。▼二人は結婚に当って記者会見を行ったが、残念に思ったことは、そこに2つの「コウ」が見られなかったことだ。▼第1のコウは公。皇族は公人である。自分が自分がという前に公人として国民を思う気持ちをいって欲しかった。第2のコウは孝。自分達をここまで育ててくれた父母に対する感謝の気持ちをいって欲しかった。この2つの「コウ」の思いを持っていれば、国民の敬愛と共感を得ることができただろう。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2209号

 

 ▼米中の覇権争いで今後の焦点は台湾だ。習近平国家主席は辛亥革命記念式典で「中台統一実現」を強調した▼核心的利益で、外部の干渉は絶対に容認しないといい、台湾の防空識別圏侵犯も日常化する。バイデン米政権にとっても、台湾の現状維持は譲れない一線だ▼中国共産党の国内基盤は揺るがず、軍事的追い上げも急ピッチ。一方で米中両国は様々地球問題で深く結びつく。その一方で中国の「戦狼外交」に代表される攻撃的な態度は、台湾問題で火を噴きかねない▼4年後には中国は台湾に全面侵攻能力を持つと台湾軍幹部は語るし、既に中国の軍事力増強が米軍の抑止力を侵食している、と米海軍要人が警告する。一方で米英豪は中国に備え、豪の原潜保有支援の新安保枠組みAUKUSを設立した▼そこへ中台が揃ってTPPに加盟申請するなど、事態は日々目まぐるしい。まずここで議長国日本に何ができるか。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2208号

 

 ▼自民党総裁に岸田文雄氏が選出された。総裁選では様々な政策論争が交わされたが、筆者は特に、岸田氏の「新しい資本主義」「成長と分配の好循環」「新自由主義からの転換」などのキーワードで説かれる今後の経済政策に着目している。▼経済政策面での「新自由主義」の基本は、「市場原理主義」と「株主主権主義」であろう。ひと頃これらは錦の御旗となって様々な改革が行われた。それらの結果、格差が広がって中間層が痩せ細そり、経営者の所得は増えたがその視野は狭くなった。▼問題はこれらの「主義」にある。「主義」は何らかの一見整然たる言語体系であるが、千変万化、複雑多様な現実の一端を説明するに過ぎない。しかし、それに頭が支配されると、その体系にそぐわないすべてが切り捨てられ、否定、攻撃の対象となる。「イスラム原理主義」が好例である。新首相が何がしかの「主義」に侵されないことを期待したい。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2207号

 

 9月の英最新空母クイーン・エリザベスの横須賀初寄港は、両国関係に新紀元を画す契機となろう。空母打撃群をインド太平洋地域に常駐配備させる先駆けという見方も▼EU離脱後の英国はアジア回帰を目指す。香港問題も含め、覇権主義を強める中国への対抗意識が強く、日米とも利害を共有する。対米協力が基本の日本だが、日米格差がもたらす弊害を補う機能も期待できる▼英国が特に関心のある日本の「ファイブ・アイズ」加盟を例に考えてみる。米、英、加、豪、ニュージーランドのアングロサクソン英語圏5カ国の機密情報共有組織だ▼河野太郎前防衛相など強い関心を示す政治家はいるが、独自の深刻な問題も。国家機密共有の世界では「ギブ・アンド・テイク」が基本で、日本は特に諜報能力が弱く、機密保持能力欠如も致命的だ。媚中派といわれる政治家の存在もある▼一人前の国家として、ここらをどう解決するかが課題だ。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2206号

 

 まもなく9・11から20周年となる。その節目の今年、石もて追われるようにアメリカは「帝国の墓場」アフガニスタンから兵を引いた。既に「超大国」の名に値しない惨めな敗戦であった。テロとの戦いを旗印とし、一時は10万人の兵を派遣し、2兆㌦の戦費を費やしたが、それが根絶できるものでないことを証明したといえよう▼筆者はこのテロを根絶するという発想自体に敗因があると考える。テロを擁護するものではないが、テロは弱者の反撃手段である。弱者とは政治的、軍事的、社会的、思想的に他者から抑圧されていると感じている者である。その抑圧が何かを見極めることなく力ずくで抑え込もうとしたのが、この戦争ではなかったか▼「窮鼠猫を噛む」という。食物連鎖上鼠と猫は相容れない存在であるから仕方がないが、同じ人間が鼠と猫の関係になることは許されない。その意味において、宗教界の指導者の役割は大きい。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2205号

 

 月刊「世界と日本」最近号に出た武貞秀士・拓殖大学院客員教授の「米朝関係に変化の兆しあり」は、時宜を得た秀逸な論文といえよう▼武貞教授は防衛問題、朝鮮半島研究では傑出した専門家だ。私は長大な本論を熟読し、内なる疑念が相次いで氷解するのを覚えた▼まず米中関係の三重構造について。軍事的には対決、経済分野は競争。ただ気候変動・環境問題は協力関係にあり、複雑に入り組む▼この中で北朝鮮は、対中・対ロ関係を巧みにあやつりつつ、半島統一実現まで核放棄をする意思は皆無、と教授は断じる。北がICBMとSLBMで米本土攻撃核能力を持つ日、米国による北への核攻撃に対し抑止力を備える。北にはそれを視野に、対米打開へ新しく動く気配があるし、米も北との対話路線を鮮明にしたという▼一方日本は、今こそ北との諸課題解決に直接立ち向かうべきだ、というのが武貞論だ。この部分は項を改め詳細に論じてほしい。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2204号

 

 オリンピックが始まった。連日、勝者敗者のドラマが繰り広げられている。特筆すべきは、開会式に出た金メダルである。例の絵文字パフォーマンス、筆者はこれをピクトグラムということを初めて知った。海外メディアも絶賛だという▼白と青との衣裳に身を包んだ2人組が、50種類の競技の絵文字を1つも欠かすことなく、それこそ息をも継がぬ早業で次から次へと演じていく。全部で5分間くらいだっただろうか、あれには驚いた。同時に、これこそオリンピックだと思った。なぜなら人が主役だからである。ラケットを取り落とすなどのパプニングもあったが、人が演じることで暖かみが生まれてくるのである。そしてあそこまで完成度の高いものとするには、人知れぬ努力や大変な練習があったに相違ない。それこそアスリートの姿である▼これに引き換えドローンで作った地球は、未来の戦争の姿を不気味に暗示しているように思われた。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2203号

 

 日英の急接近が世界の趨勢を反映して興味深い。秋には最新鋭空母打撃群の日本派遣、海自との共同演習も予定され、武器の共同開発計画も進む。「旧日英同盟の復活」という声さえある▼EU脱退後の英国にすれば、今後世界の軍事、経済の重点が移るアジアに深くコミットすることで、新機軸が打ち出せる。旧時代の元植民地香港、豪州、ニュージーランドなどとの再緊密化も大きな誘因だ▼中国の急速な台頭への警戒感も日本と共通する。一体視されがちな英米関係だが、かつてのスエズ危機に米国が課した過酷な制裁で、旧英帝国は事実上瓦解する屈辱を味わった。これに耐え、再び米国との大人の関係を再構築したのは、英外交の老練さ、したたかさだ▼日本に「日米同盟が基軸」は不変だが、米中の覇権争いに否応なしに巻き込まれる日本に、英外交が大いに参考になる▼米国自身もこんな英国と結ぶ日本なら、信頼がより増すはずだ。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2202号

 

 今年の総会の中で注目を集めたのは東芝だ。数年前の巨額粉飾事件以降の迷走は目に余るものがある。今回会社側提案の取締役13人のうち、取締役会議長を含め5人が、取り下げ(2人)、総会で否決(2人)もしくは辞任(1人)という異常事態となった▼筆者は東芝といえばメザシの土光さんを思い出す。というのも子どもの頃、横浜の土光さんの自宅近くに住んでいたからである。その小さな自宅の目の前には女子校があって、土光さんは給料のほとんどをこの女子校の運営に充てていると聞いた。子ども心に偉い人は違うなと思った記憶がある。土光さんは草葉の陰で泣いているだろう▼どうしてこうなってしまったのか。一言でいえば、企業や事業経営を金儲けの道具としか見ない思想に染まった、換言すれば経営に志を失ってしまったからである。金の亡者という意味では、東芝の経営陣もアクティビストも、同じ穴の狢なのである。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2201号

 

 自衛隊の元最高幹部2人が先月記者会見したが、その率直かつ重要な内容に感銘した。1人は前統合幕僚長・河野克俊氏で他は元陸自東部方面総監・渡部悦和氏▼河野氏は「中台統一は建国時からの夢で、習近平の決意は固い。中国の理屈では尖閣はその一部だ」と警告し、習は3期目を狙う大義名分に、中台統一を掲げると推測する▼渡部氏は、台湾進攻があるなら中国は軍事手段の他に情報戦、サイバー戦から宇宙利用の混合戦で臨むとみる。中国の国防費は日本の5倍以上。単独では勝ちようがなく、日米同盟、多国間協力を活用するしかない。足かせは専守防衛策だ、と日本の防衛力強化の努力不足を突く▼河野氏もこの視点を共有する。外交的に中国を翻意させることは困難で「力の現状変更は高くつくと思わせる態勢を日米で作る」とするが、「最悪事態の想定を避けがちな日本の危機管理の在り方が問題」という指摘は本質を突く。

 (宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2200号

 

 医療従事者に続き高齢者へのワクチン接種が進んでいる。筆者も近々接種を受けられることになった▼興味深いのは自治体間での接種格差である。全般に都市部より地方が進捗しており、都内でも先進区と後進区が生まれている。その要因の1つとして注目したいことは、先進県、先進区では地域に様々なレベルで共同体が残っていて、それが行政の不備や不親切、あるいはキャパ不足を補っていることである。例えば、インターネット予約で途方に暮れるお年寄りの予約を代行するとか、体が不自由で1人では動けない人に一緒に会場に連れていってあげるとか、お節介かもしれないが、このような助け合いの精神が発揮されているようだ▼最近企業経営などでよくレジリエンス(復元力・回復力など)という言葉を聞く。社会においても事は同様である。助け合いの共同体の大切さを、このコロナという危機が再認識させることとなった。

 (舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2199号

 

 世界で最大の課題は米中関係の今後だ。慶応大大学院教授で前内閣官房参与の谷口智彦氏が、海洋地政学の見地から月刊「世界と日本」最近号で見事なメスを入れる▼中国は今夏が共産党発足100周年。高成長の継続が至上目標だ。尖閣と台湾支配が実現すれば、夢がかなう▼米バイデン政権の外交は対中国が最重点。領域は宇宙からサイバー空間に及ぶ。だが今の米国には圧倒的な力はない。日本を含む同盟国との徹底的な協調がカギだ▼これに対し日本は、地政学的に決定的に重要な位置にある自覚があるか。排他的経済水域は世界8位で中国より大きい。だがロシア、中国、北朝鮮という非友好国的核保有国群に対するには、価値観を共有する友好国と結ぶしかない▼日米豪印の「クワッド」が最大のカギ。具体的な戦略は今後の課題だが、英、仏も強い関心を示す。中国の野望封じ込めに日本の要石としての役割は大、と谷口氏は力説する。

 (宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2198号

 

 先ごろ米議会で行われたバイデン大統領の施政方針演説は、アメリカの進むべき道を明快に示したものであった。その範囲は、対中政策、コロナ対策、温暖化対策、通商政策など多岐にわたるが、筆者が特に着目したのは中産階級重視政策である▼「ウォール街がこの国を作ったのではない。中産階級がこの国を作った」と宣言し、その雇用を創出し、その所得や社会保障を充実させることを謳っている。そしてその財源は「企業と1%の最富裕層に公平な負担をしてもらう」と銃口の照準を彼らに絞っている▼数年前のピケティの分析、そしてトランプ現象とブレグジットを引き起こしたものが、過度のグローバリズム、新自由主義や株主主権主義の横行、それに伴って起こった先進国の中産階級の没落であったことを的確に見据え、その根本から社会を建て直そうとする強い決意が伺われた▼施政方針演説かくあるべしである。

 (舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2197号

 

 北朝鮮の東京五輪ボイコット決定は様々な憶測を呼ぶ。コロナ禍への備えが弱い北の切羽詰まった自衛策か▼既に中国との国境を閉鎖し、観光客や資金の流れを止めていた。軍が国境で密輸禁止の強硬策も取った。これでウイルスの完全締め出しに成功したかは謎だが、対中貿易が止まり、資金の流れも途絶えた影響は大きい。国連の制裁決議に加え、新たな景気後退は経済崩壊の危機に通じる。既に餓死者も出ているという▼韓国は五輪に南北統一チームで北との融和に取り組み、文政権の人気挽回構想を持っていただけに失望は大きい▼北の最後のよりどころの中国は東京五輪支持だ。一方で日米韓は協調して対北圧力を継続し、核ミサイル計画の解決で一致したばかり▼最大の危うさをはらむのが国内の反体制感情の高まりだ。コロナ危機で不安定さを増した金正恩政権は、内部統制を強め、思想強化を加速させるしか生き残りの道はない。

 (宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2196号

 

 オリンピックの聖火リレーが始まった。走り出したら止まらないというが、この流れで史上初海外観客ゼロのオリンピックまで行くのだろう。訪日客の落とすお金を当て込んでいた人々にとっては落胆しきりであろうが、見方を変えれば、オリンピックのあり方を見直すいい機会ではないか▼その方向は第1に、金メダルの数に国の威信をかけるという、オリンピックを国威発揚や政権浮揚に政治利用する思想からの脱却である。第2に無観客で経済効果何千億円の損失とか、何でもカネの物差しでしか見ない風潮からの脱却である▼よく「アスリートファースト」と叫ばれるが、それを徹底すれば何も鉦や太鼓で大騒ぎすることはない。そして各競技のサポーターが浄財を出し合い運営すれば無暗に税金を投入することもなく、巨額マネーで放映権を買ったメディアに気兼ねすることもないだろう。そんなオリンピックが出来ないものか。

 (舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2195号

 

 菅首相は4月に訪米し、バイデン大統領との首脳会談に臨む。日本が最初の国に選ばれた▼米外交の優先度が中国との覇権争いに絞られる。「米国は戻った」と宣言した大統領は、特にアジアでは友好国との緊密化で対中圧力を強化する。先駆けが日本、という筋書きだ▼米国防総省は、インド・太平洋での軍事バランスが中国有利に急傾斜しており、近く中国が接近阻止・領域拒否戦略を西太平洋の全域に拡大する、と予想している。大統領は日米豪印4カ国の枠組みを基軸に「自由で開かれたインド太平洋戦略」を主導すると明確にした▼だが尖閣では日米間に食い違いもある。表向き米は「安保適用範囲」と公言はしながら、「主権問題は日中で解決を」と腰が引ける。尖閣で中国と正面から対決する気はないとみる専門家も多い▼日本は日米同盟への貢献を積極化し、他の諸国との連携強化も必須だ。一方的な「米にお任せ」はもうない。

 (宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2194号

 

 総理の長男が役員を務める放送会社から接待を受けたとして、10人余の総務官僚が公務員倫理法違反として処分された。国会審議では当初お定まりの「記憶にございません」が連発され、会合音声の暴露という動かぬ証拠を突きつけられると、次には「利害関係者とは認識していなかった」という見苦しい言い訳に変った▼冗談もほどほどにして欲しいが、この後者の言い訳は言外に彼らが法に触れなければ何をしてもいいんだという開き直った思想を持っていることを示している点に留意したい▼国の政治や行政に携わる人がそれでは困る。法に触れなければいいんだというような低次のレベルでは、国民に何を説いても、何を訴えても、国民の共感を得ることはできない。逆に言えば政策の実現に必須の国民の信頼を得るには、法を超えた高潔さが求められるということである。公務員倫理法がかえってそのことを見失わさせていないだろうか。
 (舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2193号

 

 中国海警局の武器使用規定を明文化した「海警法」が施行され、早速中国による尖閣諸島周辺の領海侵入が繰り返されている

▼海警法は海警局による武器使用の法的根拠となる上、中国が独自に設定した「管轄海域」で外国の軍艦・公船を排除する規定が盛り込まれている。軍の直接影響力も強まり、管轄海域の適用範囲もあいまいだ。尖閣沖でも挑発を強化し、日本の実効支配を徐々に崩す狙いがありそうだ

▼米中の覇権争いの激化で、中国側が国内法を盾に主張の強化を狙う。先ず既得権益を作り、さらに一歩進めるのが習近平外交の特徴で、習の国内支配体制強化に連なる

▼菅首相がバイデン米大統領から「尖閣への日米安保適用」の確認を取りつけたのは時宜にかなう。日米豪印の連携緊密化も図る一方、日本の受け身の平和主義や米への過度の依存を脱する好機だ。領海警備担当の海保と海自との連携強化も、粛々と進める必要がある。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2192号

 

 ワクチン接種の議論が盛んである。何時から誰に、誰が、どのような体制で接種するのかなど、その膨大な作業に各自治体ではその対応に大わらわだと聞く。この際お役所流にやればすぐ公平に、平等にという考え方が出てくる。全国の全市町村に平等に行き渡らせ、1人の希望者も漏らすことなくといった建前の世界である

▼しかし、そんなことを言っている場合なのか。今われわれはコロナ戦争を闘っているのだ。戦争でしてはいけない事は兵力の分散であり、逐次投入である。一方、大事な事は敵の中枢に対する集中的かつ大規模な攻撃である。この観点に立てばまずは感染の震源地である大都市にワクチン爆弾を集中的に投下していくべきであろう。中枢が無力化されれば周辺は自然に武装解除されるのである

▼「兵は拙速」(『孫子』)を尊ぶという。徒らに時間を空費して、コロナ戦争の犠牲者をこれ以上出してはなるまい。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2191号

 

 政府対応のまずさもあり、コロナ禍は大騒動になった。後はワクチンだけが頼みだが、難問続出の様相だ

▼政府は開発成功の米英各社と大量の供給契約済みだが、接種は早くて今春以降。とうに本格接種が始まった各国に比べ、政府の無策ぶりがじれったい。一方で外交道具化するロシア産や中国産は信用し難い

▼ノーベル化学賞、医学賞などを近年20人近く輩出した国なのに、国産ワクチンの実用化は今年末という。外国報道でとうに問題提起されたが、国内メディアの反応もにぶく、最近やっと関連記事を散見する程度。それも政府や業界の弁護論が主だ

▼科学立国をうたっても、研究費は各国に比べ桁違いに少ない。研究者の質は劣化し、論文数も劣る。政府の支援策が不十分だったのだ

▼輸入後も物流に問題がないか、自治体や民間に丸投げにならないか、不安は尽きない。政、財界、メディアが問題の本質を見極め、早急に厳しい対応を。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2190号

 

 まもなくこの4年間世界を騒がせてきた男が檜舞台から下りる。この際あえてトランプ大統領の「功」について考えてみたい

▼第1は、民主主義とは何かを身を以て示したことである。不法移民排斥のための壁の建設、国民の雇用を守るための厳しい対中政策など、選挙公約の実現に彼は邁進した。選挙が終わったら都合の悪いことに知らんぷりを決め込むような卑劣な男ではなかった

▼第2は、一部の国際機関の偽善や欺瞞、政治的偏向を炙り出したことである。またそのトップ人事選挙などにおける中露の露骨な利益誘導工作を批判した。その批判すべてが真実とは思われないが、わが国もそろそろ国際機関信仰を改めるべきであろう

▼第3は、アメリカが既に世界秩序を主導する国ではなくなったことを明らかにしたことである。対米依存に安住しきっていたわが国には、茨の道が待っている。今年は覚悟の年になりそうだ。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2189号

 

 米バイデン新政権の発足に西側諸国の期待感が強い。トランプ大統領の米第一主義が余りに露骨で、各国ともうんざりだった

▼これを政権交代に持ち込んだのはさすが米国だが、国内の亀裂も大きく、復元力が試されるのはむしろこれからだ

▼外交では米中対立が最大の課題だろう。多国間主義に復帰し、国際協調を推進する方向性は確かだが、もう米国が世界のリーダーや警察官に復帰する能力も意思もなかろう

▼こちらも新発足の菅政権は、どう対応するか。まず日米同盟の足固めには両国とも異議はないはずだ。米の戦略国際問題研究所が発表した「アーミテージ・ナイ報告」が米、英、加、豪、ニュージーランドの機密情報共有組織に日本を入れる提案は、身内扱いへの格上げだけに大歓迎だ

▼菅首相が掲げた温室効果ガス規制案も同盟関係の裾野を広げる。不可欠の仲間となり、義務も果たしつつ、日本独自の立ち位置も明確にしたい。

(宮本 倫好)週刊「世界と日本」第2188号

 

 コロナで様々な景色が変った。中でもオンライン会議が常態化したことも挙げられるであろう。もちろん以前から電話会議、テレビ会議はあったが、それは限定的なもので海外に参加者がいるとか、急を要する件で全員が集まれない場合などに限られていた。それが今や当り前の光景となり、ズームとかチームズを活用して誰もが簡単にアクセスできるようになった

▼それで何が変ったかを一言でいえば、場の雰囲気がなくなったということであろう。PCの画面には全員の顔が見えているが、場の空気までは読み取れない。下手な忖度がなくなって良くなったとも思うが、議論が通り一遍になって深まらないという悩みも聞く

▼オンライン会議に限らず、リモートワークなどなど、コロナがわれわれに強いる新しい生活様式は、われわれに組織の意思決定や運営のあり方、さらには何のために仕事をし、生きているのかを問うている。

(舩橋 晴雄)週刊「世界と日本」第2187号

 

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