金沢40周年記念懇談会
明治150年 誇りある国づくりを
ジャーナリスト
(公財)国家基本問題研究所理事長
櫻井 よしこ 氏

内外ニュース「金沢40周年記念懇談会」は1月25日、金沢工業大学キャンパスで、ジャーナリストの櫻井よしこ氏が「2018年 日本の進路と誇りある国づくり―大きく揺らぐ国際情勢と日本の選択肢―」と題して講演した。櫻井氏は、北朝鮮の有事、中国共産党の目指すものまで言及し、さらに今年は、明治維新から150年、運命的に、今年こそ憲法改正をやらなくてはならない、と述べた。(講演要旨は次の通り)
明治維新 日本はなぜ生き残れたのか

今年は明治維新から150年。私たちは、たった1回のチャンスを与えられている。それは日本国の土台をつくり直す作業を始める、第一歩を踏み出すのが今年だと思うからだ。
あの当時、日本はどういう状況であっただろうか。
人口は約3000万人。江戸時代は約240年鎖国をしていたので、海外情勢には非常に疎く、情報力は極めて低かった。さらに、経済力も軍事力もなかった。しかし人々は、みんな幸せで疑うことを知らなかった。
こういう国がいきなり、国際社会の荒波に投げ込まれてしまうとどうなるか。普通なら食いつぶされ、略奪され、襲われる。アジアの多くの国々が欧米列強諸国の餌食になったのは、歴史の示すところだ。事実上の植民地にされてしまったところもある。
しかし我が国は、日本人の伝統的な生き方を基本的に守りながら、その価値観を失うことなく、日本民族、大和民族としてのまとまりを継続でき、アジアでたった一つ、国民国家として生き残った。
では、いかにして我が国は他国の餌食にならずにすんだのか。
私たちの国は、まず国民が非常に賢かった。世界の事実を見て、現実を見る聡明さを持ち合わせていた。先人たちは、我が国には足らざるものが3つあると思った。これをどうにかしなければ、食い潰されてしまうと。
明治政府をつくった人々は、国を守るには経済力と軍事力が不可欠だが、この2つとも我が国は非常に遅れていることを認識し、富国強兵政策を打ち出した。
だが、もう1つ足らないものとは、「日本国という一つの国の国民、統一国家の国民」という意識だった。そこで、列強諸国が押し寄せる危機の中、明治新政府ができ、一番最初に国民に発信されたメッセージが「五箇条の御誓文」だった。
日本はこの素晴らしい国の歴史を引き継いで、国が危機の中にある今、皆さん一人ひとりが志をたて、それを完成させ、集合体としての日本国を盛り立てていこうと教えた。我が国の基本は、皇室を中心とする社会だが、日本国内に狭く閉じこもってはいけない。広く世界に学ぶことが大事だが、そのときは、日本人の特性を大いに盛り立てていきなさい、と。
明治政府は、五箇条の御誓文に書かれていることを徹底して行い、それによって我が国は、国民国家として生き残ることができた。
150年後の今、私たちが置かれている状況は、当時よりももっと厳しいのではないかと思う。

2年前に「平和安全法制」ができた。安倍政権が本当に苦労して、集団的自衛権をごく一部分だけ行使することができる新しい法律をつくった。
しかし、安保法制という言葉で、思考を止めてはいけない。これによって実際に何ができるのか、できないのか、現実に基づいて考える能力、これがあの150年前の先輩世代と比べ、今の私たちに決定的に欠けているのではないだろうか。
今はインターネットもテレビ、新聞、雑誌もあり、情報があふれている。それらは今まで日本の歴史にはなかったはずだ。にもかかわらず私たちは、現実を見る目というものを失っているのではないか。それが往時と今との大きな違いである。
その結果、何が起きたか。つまり日本人は、平和は当たり前だと思っている。そして誰かが必ず守ってくれると思っている。
『アエラ』という朝日新聞系の雑誌が、「自衛隊や軍事力について」の対面調査で、かなり大掛かりな世論調査をした。その中で、「敵が襲ってきて、軍事力の行使を認めないとしたら、どのようにしてあなたは、自分の命、家族の命、国を守ったらいいと思うか」と聞いている。
すると1番多かった答えが、「日本には敵は襲ってこないと思う」。
2番目に多かった答えが、「軍事力ではなくて話し合いで解決できる。外交力を発揮したらいい」というもの。
3番目が「アメリカに守ってもらう」という答えだった。
しかし、「日本には敵は襲ってこない」、「危機はこない」という答えは論外であり、「話し合い」というのも論外。なぜなら、話し合いで決着できるような事態ばかりではないことは、明らかだからだ。
3番目の「アメリカに守ってもらったらいいでしょ。日本は戦う必要はないわ」というのは、女性たちに多く見られた答えだ。これは、立場を逆にして、アメリカのお母さんたちがどう感じるか、ということを考える想像力に欠けている。
アメリカのお母さんたちは、自分の子どもが日本のために戦って、ケガをしたり、最悪の場合死ぬことがあるかもしれないということを、どう思うのか。
その時に、日本のお母さんたちは、自分の子どもを大事に抱え、押し入れの中に隠している。こういうことをアメリカのお母さんたちが許すのか。立場を変えてみたら、絶対に許さないということは明らかである。
現実を見ることができない、現実感覚の欠落。これが150年前と今との、一番大きな違いだと思う。
中国“横暴”の阻止は日本の役割
アメリカが今、すごく内向きになり、中国とロシアがどんどん膨張している。そこで、中国は今、どういう国を目指しているのか、頭にいれておきたい。
昨年の10月、5年に1回行われる「中国共産党大会」が開かれた。習近平さんが初日に3時間20分にわたる演説をした。私はこの演説が非常に大事だと思い、演説文の全文を読んだ。5回も6回も読むうちに、この煩雑な表現の間から、彼らが目指しているものが見え始めた。そして正直言って、恐ろしいと思った。
中国共産党、習近平体制は、こういう世界、こういう未来を目指していることを、私たちは本当によくわきまえておかないと、大変なことになると思った。
中国は2035年までにアメリカを追い抜き、世界一の経済大国になる。49年、これは中華人民共和国建国から100年目だが、人類が見たこともないくらいの強力な軍隊を築き、アメリカを追い抜いて世界第一の軍事大国になると書いている。
また、中国共産党の教えをしっかり守ることが、13億の民が団結して進んでいくための基本である。党も政府も軍も民も学校教育も、全て共産党の教えを徹頭徹尾学ばなければならない。この思想を徹底することが大事で、経済でもそうだ、と書いてある。
経済において、共産党思想を徹底するとはどういうことか。各企業の中に共産党の小さな支部、これを細胞と呼んでいるが、細胞を設けることが大事だという。
『ウォールストリートジャーナル』は、すでに中国共産党は強力な、いわゆる指導体制を敷いて、中国でオペレートをしている、中国で運営されている外国の企業の中にも共産党支部、つまり細胞を埋め込んでいると。
中国の横暴を、どこかで止めなくてはならない。それをしないと、本当に大変なことになる。しかし習近平さんは言っている。世界は中華民族の価値観の下で、みんな幸福に、Win-Winになる。それを例えると「ザクロの実のような世界」と書いてある。
そして2049年までに、中華民族は世界の諸民族の中にそびえ立つと。これを実現するために軍事力を強め、経済力を強め、「一帯一路」という経済構想を考え、それを支えるための金融機関として、アジアインフラ投資銀行や中国開発銀行など、いろいろなことを考えている。
一方、中国は有無を言わさぬ方法で、勢力を広げている。そのやり方はお金と微笑みでやってくる。だからみんなだまされる。そして、小さな貧しい国が狙われる。1例として、ネパールやスリランカにおいて、中国は多額の金を貸し付けたり、プロジェクトに投資をして、結果、金利も払えず、借金を返せないところは破綻し、中国のものとなっていく。

こうしてやっと、アジアやヨーロッパの国々など多くの国が、中国のやり方に気づき始めた。オーストラリアは今まで中国にべったりだったが、今では中国マネーを禁止する法案もつくった。そして国際開発大臣は、「中国マネーがいくところ、その先に続くところもない道路が造られている。役に立たないビルが造られている。無用の長物ばかりが並んでいる」と言っている。
このような認識を先進国も発展途上国も持ち始めたが、今、国際社会はこれに対抗することができない。アメリカは、「秩序というものはこうであり、だましのテクニックや、21世紀にはふさわしくない価値観で、造ってはいけない」ということを、一番先に立って、もはや言わなくなった。オーストラリアは、中国のマネーは拒否することができても、中国に新しい仕組みを示すことはできない。
では誰がそれを言うのか。それは私たち日本の役割だと思う。日本は聖徳太子の時代から、たった一つ、中国と決別して、大和の道を歩んだ国家である。
日本民族の特長は穏やかな文明、非常に優しい文明、しかし、いざという時には雄々しく立ち上がるという文明である。このような価値観を今、アメリカに代わって説き、広げていくのが私たちの役割である。
そのためには私たちが、明治維新の時に先人たちが為したように、国の形をしっかりとつくり直し、国家の基盤を整える必要がある。そして国家の基盤とは経済力であり、いざという時には軍事力であり、正義のためにはその軍事力を使うという雄々しさである。
国民一人ひとりが、建国以来2700年になんなんとする、本当に深い文明とともに、日本国民として生きるのだという意識を持つこと。お互いによき日本人となり、この国の未来をともに紡いでいきたいものである。
そのための具体的な第一歩として、今年、憲法改正に手をつけなければならない。
来年は多くのすごい行事が待っている。天皇陛下の200年ぶりのご譲位。新天皇のご即位。その前に地方選挙がある。G20も、アフリカ開発会議(TICAD)も日本が主催する。7月には参議院選挙があり、10月には消費税増税がある。11月には新天皇が一世一代、1回限り行う大嘗祭(だいじょうさい)がある。こんな時に憲法改正はできない。
そう思うと、チャンスがあるのは今年だけだ。その今年が明治150年。これは日本の運命だと思う。私たちはどうしても憲法改正をやらなくてはならない。
そして皆様方に自民党に言明したい。自民党与党は、今年、必ず憲法改正のための発議を行う。私たち国民も、その気になって、憲法改正の機運を高めていこうと熱い思いを縦横に語った。

加賀百万石の城下町・金沢に内外ニュースの支社が創立されたのが、昭和52年1月26日。当時の記録によると、金沢の中心街・香林坊の金沢ニューグランドホテルにて長谷川才次社長他50名の会員が出席、発会式が開催されました。
内外ニュースの設立は、昭和47年3月。以来各地を“正論・公正な報道・的確な解説”の主張のもと、政治・経済・外交・防衛・教育など内外各般にわたり、講演会を開催し、賛同者を得、各地に支社・支局を創立しました。
さて、金沢との関わりですが、「北陸三県に内外ニュースの支局がない。何とかしたい」との長谷川の思いを金沢工業大学創設者の泉屋利吉常務理事、金沢経済同友会幹事であった福光博氏、県会議長だった米沢外秋氏に相談、協力を得て、昭和52年1月の発会式に至っています。
この昭和52年から起算して、平成30年1月は創立40周年にあたります。私共は、この先輩方が歩まれた40年の時を踏まえ、金沢の地でも新たな思いを持って、日本という国のたたずまいを問う作業をしていくことが大切だと考え櫻井先生を講師とする“創立40周年記念講演会”開催に至った次第です。