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防衛コラム

第5回 週刊「世界と日本」2163号 令和元年12月16日

専守防衛ではなく積極防衛(アクティブ・ディフェンス)

元陸将

元東部方面総監

渡部 悦和 氏

 我が国は、先の大戦における敗戦後、世界に類を見ない不毛な安全保障議論を繰り返してきた。その象徴が「専守防衛」という非常識な政策だ。一般の国民は、専守防衛を「もっぱら防衛し、攻撃をしない」と解釈している。

 この解釈を忠実に守ると、軍事的には「百戦して百敗」の国防政策だと言わざるを得ない。

 一方、政府の「専守防衛」の解釈は、「相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」となっている。

 「相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使する」という表現は問題ない。しかし、「その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限る」とは余りにも消極的すぎる。

 歴代政府は、「専守防衛は国是だ」と主張しているが、この「百戦して百敗」の政策を国是にしてはいけない。

 専守防衛ではなく、「積極防衛」を採用すべきだ。この積極防衛は、「日本は先制攻撃しないが、相手から攻撃されたならば、自衛のために必要な防衛力で断固として反撃する」という防衛政策である。

 つまり、専守防衛の定義で使われている「防衛力の行使を自衛のための必要最小限にとどめ」とか「保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限る」などの過度に抑制的な表現を使うべきではない。

 単純に「自衛のために必要な防衛力で反撃する」という表現が妥当だ。この政策変更を主張する背景には、中国の急速な軍事力の増強や北朝鮮の核ミサイル開発の継続などの増大する脅威がある。これらの脅威に専守防衛では対処不能であり、積極防衛を採用すべきだ。

 ちなみに、日本の最大の脅威である中国人民解放軍の伝統的な戦略は「積極防御(アクティブ・ディフェンス)」である。

 

第4回 週刊「世界と日本」2162号 令和元年12月2日

「自由で開かれたインド太平洋」と「価値の対決」

元陸将

松村 五郎 氏

 10月末、中国本土で5G通信の提供が開始されるとの報道があった。今後中国企業による5Gインフラが、急速に世界中に広がっていくであろう。

 通信保全上の問題と併せて懸念されるのは、インフラと同時に、ビッグデータを国家が支配して国民を管理する中国型デジタル監視社会のモデルが世界の権威主義的国家に広まることである。

 7月に発表された中国の国防白書は、既存の米国を中心とした国際秩序を再構築し、中国こそが新しい「人類運命共同体」を築いていくのだと宣言している。そして具体的には、通信・サイバー分野はもちろんのこと、海洋、極地、宇宙など、あらゆる領域において、今後中国主導の秩序を打ち立てていくことを謳い上げているのである。

 それぞれの領域において、中国は国際社会が築き上げてきた国際法に基づく法の支配をないがしろにし、「力」を前面に押し出して自国に都合がよい秩序を築こうとしている。

 海洋においては、南シナ海に「九段線」と称する国際的根拠がない勢力圏を設定し、その中で中国が主権を行使することを一方的に主張して、他国が領有権を主張する島嶼や岩礁にまで、軍事基地を建設してきた。

 「自由で開かれたインド太平洋」構想は、このような「力」による秩序形成に反対し、法の支配に基づく国際秩序を確保して、航行の自由、紛争の平和的解決、自由な貿易などを推し進めていくイニシアチブである。

 すなわち、この構想を掲げる背景には、「力」や「権威」による秩序には断固として反対し、「自由」と「人権」が守られる開かれた秩序の形成に向けて、民主主義国が力を合わせて国際的な規範を打ち立てていくべきだという、「価値の対決」に向けた決意がある。

 この点を十分に意識した上で、この「自由で開かれたインド太平洋」という価値に関する理念を、少しでも多くのインド太平洋諸国と共有し、様々な領域、様々なレベルで具体的に推進していくことが、今まさに求められているのである。

 

第3回 週刊「世界と日本」2160号 令和元年11月4日

日米同盟の不公平?

元空将

尾上 定正 氏

 「誰かが日本を攻撃すれば、我々は直ちに赴いて第三次世界大戦を始めねばならない。だが我々が攻撃されても日本は我々を助ける必要がない。それはあまりにも不公平だろう」(2015.12.30、トランプ候補)。

 トランプ大統領は同様の発言を今年6月のG20の前後でも繰り返した。偽らざる本音であり、大統領支持派の米国民も賛同するだろう。

 同盟管理は庭仕事に例えられる。日照りもあれば大雨もあり、手を抜くとすぐに雑草がはびこる。同盟には双方の手入れが必要であり、長年「ひ弱な花」を育ててきた日米の専門家たちは、大事な庭を踏み荒らす大統領に激怒している。

 元々非対称な「人とモノの同盟」を、時代の変化に応じて思いやり予算や特措法で、

“Show the Flag”“Boots on the Ground”を実現し、そして限定的とはいえ集団的自衛権の行使を平和安全法制で可能にしたではないか。日米同盟の特殊性を理解しない大統領には、駐留軍経費の増額で納得してもらい、庭から出て行くのを待つしかない。

 果たしてそうか?

 世界の警察官役を降りると宣言したのはオバマ前大統領である。「ペルシャ湾のタンカーは、まず自国で守れ」とのトランプ氏の主張は正論である。米国といえども一国で国際秩序を支えることは無理だ。

 現状変更勢力の中国・ロシアともガチンコで競争しなければならない。そのような国際環境で、米国は価値観を共有する同盟国との利益と役割の配分を見直さざるを得ないのだ。旧知のMITサミュエルズ教授も「元には戻れない」と話す。それらを踏まえ、日本は自国の国益(平和と安全)を守るために何をすべきかを考えることが必要だ。

 日米同盟は、もはや「瓶のふた」でも「フリーライド(ただ乗り)」でもない。両国民の相互信頼と友好は揺るぎなく、米軍と自衛隊は様々な共同訓練を通じて高い相互運用能力を保持している。

 「トモダチ作戦」の絆は太い。カネではなく、自由で開かれたインド太平洋の基軸として、日米同盟の公平な役割分担を考えるべきである。

 

第2回 週刊「世界と日本」2159号 令和元年10月14日

ホルムズ海峡等における我が国の責務

元海将

山下 万喜(かずき) 氏

 日本の会社が運航するタンカーがホルムズ海峡で何者かに攻撃されて4か月が経とうとしている。その間、米国からの有志連合を中心とした対応の呼びかけに対し、歩調を合わせる国もあり、他方独自の対応を表明する国もある。

 

 我が国は米国と協調しながらも外交による対応を優先するとして未だ明確な方針は示していない。我が国から中東やアフリカに至る海上交通路の安全確保は、インド太平洋戦略にも関わる重要な課題である。しかし、法的制約もあり海上自衛隊による対応の難しさが指摘されており、防衛力をもって積極的に対応するという動きは今のところ見られない。

 

 安全保障の常識では、軍事は政治の一手段である。もちろん国の安全保障に関する事案に直ちに軍事力をもって対応することが最善の方法でない事は言うまでもない。ただし、軍事的手段を外交や経済的手段と切り離すことがあってはならない。海軍力は平時から有事に至る幅広い分野で活用すべき国力の一部である。

 

 先般の国連総会での米国や欧州主要国とイランとの距離感を見ても中東情勢は予断を許さない。仮に、ホルムズ海峡等において国益を守る必要のある事態が生起するようであれば、海上自衛隊の派遣を躊躇すべきではない。その際、派遣は国際公共財としての海上交通路の安全確保という国家の意思を伝えるものでなければならない。そのためには、関係国と連携しながらも、米国の意向とは一線を画す我が国独自の活動とするのが得策であろう。

 

 また、活動海域はホルムズ海峡に限る必要もない。船舶の護衛ができなくても情報の収集や配布など活動の幅を広げることもできる。その際、海賊対処行動のように、海上警備行動を端緒とし、後に特別措置法をもってする方法であっても、法的課題を云々し派遣のタイミングを逃すより国益に適ったものとなろう。

 

 もちろん派遣される部隊には危険をはらむ複雑な判断や対応を強いる可能性もあるが、海洋国家である我が国は海上自衛隊を積極的に活用し、海上交通路の安全確保に責任を果たすべきである。

 

第1回 週刊「世界と日本」2156号 令和元年9月2日

「防衛コラム」の連載開始にあたって

元海将/内外ニュース国防研究会編集主幹

金田 秀昭 氏

 昨今、国内外における安全保障・防衛環境は急激な変化を見せ、我が国への直接的影響事象のみを捉えても、北朝鮮の核・ミサイル廃棄、米露間のINF条約破棄、ホルムズ海峡での船舶攻撃、印度太平洋構想の提唱、日米安保の双務性論議、低調な憲法改正や関連政策見直し論議、中台衝突の日本への波及等、迅速かつ適切な対応を必要としています。

 

 そこで週刊『世界と日本』では新たに「防衛コラム」を設け、月1回のペースで、山積する防衛の課題に日本は如何に対応すべきか、その処方箋を明示することとしました。

 

 内外ニュース社編集部では、折々の我が国防衛上の喫緊の課題への対応策を「タイムリー」かつ「ストレート」に提示して欲しいとの全国会員からの要望もあり、検討を重ねて参りました。「防衛コラム」は、一般の会員や読者に馴染む内容とすることは当然として、防衛問題の専門の方々にも、一定の評価を頂ける内容にしたいと考えています。

 

 このため、現在、言論界で活躍中の元自衛隊高官や気鋭の評論家等に執筆をお願いすることにしました。執筆陣としては、尾上定正(元空将)、松村五郎(元陸将)、矢野一樹(元海将)、山下万喜(元海将)、渡部悦和(元陸将)、神保 謙(慶大教授)など、そうそうたる陣容を揃えました。及ばずながら小生も加わります。

 

 当面のテーマとしては、ホルムズ海峡等での海上交通路警護活動への参加(山下)、米大統領の日米安保条約双務性見直し提起(尾上)、印度太平洋戦略の早期策定と具体的な活動の必要性(松村)、周辺軍事動向に真に有効に対処するため必要な基本防衛政策の見直し(渡部)、国内外の防衛環境の変化への根本的な対応(神保)、中台衝突に備えた日台防衛協力(矢野)を予定していますが、新たに喫緊の防衛課題が現出した場合は、再設定いたします。

 

 今後とも、会員や読者の皆様方からのご鞭撻を賜りますよう、お願いします。(敬称略)

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