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    2015年1月5日 週刊「世界と日本」第2044号より

    新春対談 教育問題と憲法改正を語る

    拓殖大学総長 渡辺 利夫氏 VS. 内外ニュース社長 千葉 榮爾

    渡辺利夫氏(右)と千葉社長
    渡辺利夫氏(右)と千葉社長

    縦横の人間関係の中における“私”

     千葉 明けましておめでとうございます。

     私どもは編集方針として毎年、年間スローガンを出しており、今年は『多様な時代 真実見据える 確かな評論』としました。

     私は、社長として、国の道筋を明確にすること、特に先生のおっしゃっている家族、共同体、国家の尊厳を尊重していく、この立場をより明確にしていきたいと思っております。

     さらに、講演、紙媒体、あるいはインターネットなどを通じて、今年は徹底してこのことを訴えていこうと。

     先生のご著書に『アジアを救った近代日本史講義』がありますが、前半のほうに、お祖父様の家族のお写真と先生のご家族のお写真があって、これは先生がご指摘なさっている「縦横の人間の関係の中における私」ということを、まさに初めからおっしゃりたいのだなと私は感じました。

     もう1つは、拓殖大学の「拓殖」という文字の中に秘められた「切り拓いて進む」のだ、という先人のご意志ですね。その辺のことに感銘を受けました。

     まず初めに、いわゆる「拓殖」の今日的な意味について、お話しいただければと。

     渡辺 私にとってはなんともうれしい最初のご質問ですねえ。

     台湾の開拓・殖産が、「拓殖」という校名の由来です。台湾がまず出発点でしたが、その後、朝鮮、それから満州、こういった地域が大日本帝国の一部になっていきますね。これらの地域が当時の日本のグローバリズムの重要な対象でした。

     この時代の拓殖大学では、現地語と現地事情、簿記、これがあればどこでも一人前の仕事ができるということで、この3つを徹底的に教え込みました。入学する時、学生は学校に「私は、卒業後は海外で仕事をする」という誓約書まで出させている。それほどまでの大学が往時あったことは、ちょっと不思議な感じさえします。拓殖大学は往時の日本のグローバリズムの体現者でした。

     千葉 時代的背景があるとはいえ、かなりユニークな大学と言えますね。

     渡辺 卒業生たちは強い個をもつグローバリストとしてアジアに羽ばたいたのですが、同時に彼らは共同体や国家に対する強いコミットメントを持っていました。おっしゃっていただいたように、その本の冒頭で私は、家族と血族という縦につながる垂直的な人間関係の重要性を指摘して、「歴史の中の私」に、学生たちを目覚めさせようとしたわけです。

     諸君は自分のことを個として認識しているかもしれないが、両親、祖父母、曾祖父母、祖先があって、初めて諸君が個としてここに在る。無数の祖先のうちのたった1人が欠けても、個としての諸君はここに存在してはないのだ。諸君の存在は、血族という縦の系列につながる運命的なものだと考えてほしい。「垂直的関係の中にある私」をまず自覚、確認せよというところから話を始めます。

     一方で、諸君は家族の成員であると同時に地域共同体の1人であり、特定の大学や企業の1員であって、その外縁には紛れもない国家があって、諸君はその国家の公民なのだ。こういう「水平的に広がっていく人間関係の中の私」をも確認してほしい。

     この垂直軸と水平軸が交わっているところに自分がいるのだ。そういう人間の立ち位置の自覚なくして、グローバリストとして雄々しく確かに育っていくことはできない、とまず言います。

     千葉 そこで問題なのは、いろんな人間の関係性を捨象した形で、いわば私、あるいは個人を優先させようという発想が蔓延化している事態だと思うのですが。

     渡辺 戦後の日本がまさにそうです。個の集合体が日本であるかのような幻想、これが一番危ない。

     2つの事例を挙げてみたいと思います。

     1つは、家族の崩壊。ちょっと前まで使っていた、両親と子供から成る家庭が標準世帯でした。しかし、これが2006年以降、単身世帯に取って代わられました。恐ろしいことですね。

     個を重視しすぎて、結婚、出産、育児をしていくという、生命体としての自然の営為が失われているのですよね。

     単身世帯化は、個々の人間がどういうライフスタイルを取るのかは個人の自由だ、という考え方から来ているわけですが、その背後に、現代人のエゴイズムが潜んでいることに、われわれは気がつかなければいけない。

     千葉 まさにエゴイズムですね。

     渡辺 単身世帯として老後を凌ぐ人々は、子供を持っている標準世帯からの所得移転に多くを依存して老後を凌いでいく人々のことですよね。単身世帯化は日本人のエゴイズムと自立心欠如を促すものだと気づいてほしい。

     もう1つの事例は、東日本大震災で大量に発生した瓦礫の処理のことです。県内で処理できないものは広域処理をやろうということになって、これを始めた途端に全国自治体に巣食う反対勢力が、いっせいに受け入れ拒否運動を始めました。何という醜いエゴイズムかと思わされました。

     千葉 なるほど。その関連で戦後教育の問題点ですが。

     渡辺 教育は大学の段階ではもう手遅れです。家庭教育の重要度が一番高いことに気がついてほしいですね。

     もう1つの大きな問題は、中学、高校の歴史教育です。自国の歴史のネガティブなところを拡大照射して「否定的自我」をあえてつくり出しているような歴史教育、教科書の問題です。これで子供が真っ当に育つとは思えません。

     千葉 おっしゃるとおりですね。

     渡辺 人間は元来が利己的な存在です。しかし、同時に利他的に生きなければ幸せにはなれない、そういう存在なのです。

     家族、共同体、国家への献身、つまり利他の心を教育しなければなりません。子供たちが献身すべき対象が何かを教えるのが歴史教育なのではないかと私は思うのです。自我形成と歴史意識を確かなものとしなければ、子供たちや学生は自分を豊かに受け容れることができません。

     千葉 先生は、冒頭に挙げた著作の中で、日本という国家の「国柄」を、どうみるかということを述べております。その関連で国家の独自性についてお話しをいただければと。

     渡辺 「憲法」を和英辞典で引くとコンスティチューション(Constitution)と出てきます。今度は英和辞典でConstitutionと入力すると、(1)に構成、構成体、(2)に体質、性質と出てくる。つまり、憲法とは国の体質なのです。人に人柄があるように、国にも国柄があり、国体があるということです。

     その国体のありようが前文に書き込まれなければ、これは独立した主権国家の憲法とは言えません。

     日本の憲法前文を読むたびに、私は嫌悪感を禁じ得ません。日本語もひどい。美しい日本語では全くない。これは全面的な書き換えが必要だと思います。

     盛られるべき観念のキーワードには3つがあります。

     1つは、「同質性」です。日本は四方を海で囲まれた「海洋の共同体」です。日本は、ほぼ同質の人種の人々から構成されています。

     次いで日本語です。いろんな学者が日本語の淵源についての研究をしておりますが、結論は分からないということです。分かったことは、少なくとも日本語は日本の国内でしか使われてこなかった「孤立言語」だということです。古来よりこれほど連続性を持って、文法的な構造も同質の言語が、ずっと使われていた国は世界の中で珍しいというべきでしょうね。日本語は日本の同質性の重要な象徴なのですよ。

     2番目は「自成性」。もちろん対語は「他成性」です。日本文明は、他文明の影響をほとんど受けずに今日まで紡がれてきたということです。逆に中国は他成性の典型です。人種的に言えば大変な混淆国家。他文明の影響を徹底的に受けて成った国が中国です。

     3番目は「連続性」です。日本には、連綿として続く連続的な歴史がある。これを象徴するものが万世一系の天皇です。一昨年の伊勢神宮の式年遷宮は、1300年にわたり続けられてきたものですよね。

     千葉 そういう意味では私も、憲法の前文の中に、いわゆるちゃんとした定め、方向性があって、以下の条文がその方向性に導かれながら、憲法全体が憲法として存立することが正しいと思うのです。

     渡辺 全くそう思います。すべての法律の上にある至高の規範が日本の憲法ですものね。

     千葉 そうですね。だから先生が先ほどおっしゃった同質性、日本語、それから自成性、連続性、これがわれわれの、はっきり言えば人間としての、日本人としての真正の規範なのですよね。

     渡辺 その表現はぴったりですね。

     千葉 そういう真正の規範性を、われわれ自身の日本語として新たに書き直す必要があるのではないか、と私は思っているのです。

     渡辺 美しい日本語で言語化しなければなりませんね。そういうことを言うと今までは右翼呼ばわりされてきました。幸いなことに左翼リベラリズムの本家本元の朝日新聞の権威がああいう形で失墜してくれましたね。

     千葉 あらためて、朝日新聞の報道姿勢というか、関連して現代のジャーナリズムの姿勢というか、その辺はどうお考えに・・・。

    真の保守とは歴史に耳を傾けること

     渡辺 この70年間、日本は非常に特殊な世界に生きてきたということでしょうね。ソ連から満州を通じて入ってきたマルキシズムが日本の知識人の思想の中枢を形成してきました。このマルキシズムが理想主義的なリベラリズムと結びついて、左翼リベラリズムともいうべき思想が長年、日本の思潮の中枢にありました。しかし、東西冷戦の惨めな崩落によって、その時代も終わったわけです。

     私の青春時代はまさに、左翼リベラリズムがジャーナリストとアカデミズムのほとんどを制していた時代でした。

     米ソを主軸とする冷戦は終わりましたが、極東アジアには新しい別の形の冷戦が始まっています。中韓の反日です。中韓の反日には欧米のクオリティペーパーも加わりつつあります。しかし、よく考えてみればわかりますように、反日は実は、すべてメイド・イン・ジャパンなのですよ。

     靖国、従軍慰安婦、南京事件、これらすべてが真実であるかのように報道したのは、日本のジャーナリストです。『すべては朝日新聞から始まった』という本がありますが、紛れもなくそうなんですよ。

     しかし、総本家の朝日新聞の完全なる権威失墜で、日本の左翼リベラリズムの時代も最終的に消滅していくのでしょうね。

     逆にいえば、ヨーロッパでは25年前のベルリンの壁の崩壊で片のついたイデオロギー対立が、ようやく日本でも解消されようとしている、と言えるのかもしれません。

     千葉 ようやく起こっている。先生はどういう態度で教育に携わっているのでしょうか。

     渡辺 自分では自分のことはわからないものです。他者という鏡に自分を映し出して、そこに投影された自分をみつめることによって初めて自己が確認され、自我が形成されていくわけですよね。

     人生における他者とは最初は家族、次いで地域社会の人々、大学になれば全国からやって来る友人たちです。自分を映す鏡に歪みがあっては歪んだ自己しか映らない。できるだけ多くの他者と付き合うことによって歪みのない自我形成、自己確認に努めてほしいと常に願っています。

     授業は教室が中心ですが、それと並行して学生を積極的に海外に出すようにしています。貧困国や悲劇に遭った被災地のフィールドでの救援活動など、最高の教育の場だ、という強い信念が今の私にはあります。

     千葉 そういうきっかけがあって、「個体至上主義」からの解放につながっていくというわけですね。

     渡辺 そうでしょうね。自分だけで生きているのではない。利己的にではなく利他的に生きよ、私的利益を追求するだけではなく「公」に生きよ、その体験を積ませて、実感させることが、私の教育の原則です。

     もう一つ、保守とは、歴史に耳を傾けることですよね。人間社会は、そう簡単に進歩するものではありません。先人の多様な生きようをみつめることによって、新しい歴史を拓いていく、これが真の保守の立場です。

     そういう本当の保守主義者が日本にどのくらい育っているのかと、強い危惧の念を覚えます。

     千葉 今日は本当にいいお話をありがとうございました。

    渡辺利夫(わたなべ としお)氏


    ●プロフィール

    1939年山梨県生まれ。拓殖大学総長。

    慶應義塾大学卒業、同大学院博士課程修了。経済学博士。

    筑波大学教授、東京工業大学教授を経て、2005年4月より拓殖大学学長。11年12月より第18代拓殖大学総長を兼任。13年3月に学長を退任。外務省国際協力有識者会議議長。第17期日本学術会議会員、アジア政経学会元理事長、山梨総合研究所理事長なども歴任。JICA国際協力功労賞、外務大臣表彰、第27回正論大賞、著書に『成長のアジア 停滞のアジア』(講談社学術文庫、吉野作造賞)、『開発経済学』(日本評論者、大平正芳記念賞)、『西太平洋の時代』(文藝春秋、アジア太平洋賞大賞)、『神経症の時代』(TBSブリタニカ、開高健賞正賞)、『新 脱亜論』(文春新書)、『国家覚醒』(海竜社)、『アジアを救った近代日本史講義 戦前のグローバリズムと拓殖大学』(PHP新書)ほか多数。

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