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    Coffee Break<週刊「世界と日本」2222号より>

    ウクライナ国民の避難と鉄道

    欧州鉄道フォトライター(チェコ共和国プラハ在住)

    橋爪 智之 氏

    《はしづめ ともゆき》

    1973年東京都生まれ。欧州鉄道フォトライター。日本旅行作家協会(JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビック社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。

     今年2月末にロシアがウクライナへ侵攻を開始して、すでに3カ月以上が経過した。当初は軍事力にものを言わせたロシアが、ウクライナをあっという間に制圧し終結すると予想されることも多かった戦争だったが、ふたを開けてみれば統率力に勝るウクライナが西側諸国からの後方支援もあって予想以上に反撃し、戦争は長期化する様相を呈してきた。

     しかし戦争が長引くにつれ、戦禍はウクライナ全土に広がりつつある。この3カ月間、女性と子供、お年寄りを中心とした多くのウクライナ人が故郷を後にしたことはすでに多くのメディアで報じられてきた。その避難者のかなりの割合に当たる人たちが、避難の手段として利用してきたのが鉄道だ。2022年5月現在、すでに600万人以上がウクライナ国外へ脱出したとされているが、その多くは鉄道を使って避難をしている。

     

     鉄道を利用した避難者が多いのには理由がある。まず車を使って避難をした場合、渋滞によって避難に支障をきたす恐れがあること。実際、開戦当初はウクライナの西側で、自家用車を使って避難しようとした人が国境検問所へ殺到し、30キロ以上の渋滞が発生し数日間にわたって身動きが取れなくなるといったことが発生した。そしてこれは避難民だけではなく、国を防衛する軍の運営にも支障をきたすことになる。渋滞が発生すれば、軍用車両の移動にも影響が出て、他国から供与された武器など支援物資の到着が遅れる可能性もあることから、状況によっては国防上の致命的な結果を招きかねない。東日本大震災の際、車を使って避難する人が続出したことで、救急車や消防車の到着が大幅に遅れた経験を思い出してもらえれば、分かりやすいだろうと思う。

    プシェミシル駅
    プシェミシル駅

    では、具体的にどのようなルートを通って避難が進められたのだろうか。避難者は、まずウクライナと直接国境を接しているポーランド、スロヴァキア、ハンガリー、ルーマニアなどへ向かうため、国境に近い町、もしくは国境を越えた近隣諸国の都市まで移動。そこから各国へ向かう列車に乗り換えている。

     

     ウクライナ国内は、ロシア軍の侵攻が始まってからも、基本的に列車の運行は維持されており、戦乱によって破壊された一部区間を除いてダイヤに沿った運行が続けられている。もちろん、開戦前まで運行されていたロシアからの直通列車は旅客・貨物ともに全て運行を停止しており、ウクライナ軍はロシア国境の線路や鉄橋を爆破した。意外と知られていないことだが、鉄道は戦争において非常に大きな影響を持つ輸送手段で、武器や兵員を満載した列車が線路を通じて侵攻してくれば、どれほど強力な戦力をもってしてもただでは済まない。ウクライナはロシアと同じ線路幅なので、侵攻を遅らせるために最初にしたことが国境間の線路の破壊だったというわけだ。

     ウクライナを脱出したあとは、それぞれその国に留まるか、さらに別の国へ向かって避難をしているが、ウクライナ国外へ脱出した人のうち、その半数近くはまずポーランドへ入国している。ポーランドはロシア軍が侵攻を開始してまもなく、ウクライナ国民の受け入れを始めている。いくつかあるポーランド〜ウクライナ間の国境のうち、メインとなったのはポーランド東部の町、プシェミシルだ。東にウクライナ、南にスロヴァキアと国境を接するポーランド南東部ポトカルパチェ県に属する、人口約7万人の都市で、南ポーランドではクラクフに次ぐ歴史を誇る古都だ。ウクライナとの国境線までわずか10キロと近く、ポーランドの中では最もウクライナ国境に近い都市とも言える。

     

     筆者はロシア軍の侵攻開始直後の3月、2回に渡ってプシェミシルの町を取材で訪れている。実際に見た避難者の状況と、各国の支援体制はどうだったのか。

    列車_避難民
    列車_避難民

      ウクライナはロシアの鉄道規格を採用している関係で、一部の列車を除いてポーランドを含むEU諸国への乗り入れができないため、両方の線路が乗り入れるこのプシェミシルで必ず乗り換えなければならない。平時では1日4往復の列車が、ウクライナから国境を越えてこのプシェミシルへ乗り入れてくるが、それ以外にいくつかの臨時列車が運転され、さらには町から13キロ離れた国境線から徒歩で越境してくる人もいたため、多い時で町の人口を上回る1日8万人の避難者がこのプシェミシルを訪れており、静かだった町は侵攻開始後から様相が一変した。

     

     この大量の避難者を運ぶため、ポーランド鉄道はプシェミシルを発着する列車を増結し、臨時列車も運行した。しかし客車が不足してしまうため、チェコなど近隣の国が客車を貸し出し、避難者の輸送に対応させた。なおウクライナからの避難者に対し、ポーランド鉄道は列車への無料乗車を認め、すぐに他国もそれに続いた。現在では20カ国以上が、ウクライナからの避難者に無料での乗車を認めている。そのため避難者はポーランドのみならず、そこからさらに先の周辺諸国へ避難をする人たちも多い。

     鉄道は避難者を輸送するだけではなく、水や食料、生活必需品など、各国で集められた避難者への支援物資の輸送も行い、またある時は各国政府が用意した武器など、軍事物資の輸送にも使われた。大量の物資を迅速かつ安全・確実に運ぶため、有事における鉄道というインフラの果たす役割は非常に大きい。

     

     今、日本ではJRが運営維持困難ということで、ローカル線のみならず幹線ですら廃線の危機にあると言われている。独立採算が前提の日本では、利用者が少なく赤字なら鉄路の廃止も止む無し、という論調が一般的だ。しかし一方で、鉄道は世界的には道路と並ぶ重要なインフラの一つと位置付けられ、その多くは国やそれに準じる機関が維持管理を行っている。ほんの1年前、ロシアがウクライナへ攻め込んで戦争が起きると誰が予想できたのか…と考えたとき、隣国との間で領土問題を抱える我が国としても決して他人事ではない。JRの一部の幹線は、いずれ国が維持する方向で検討する必要があるのではないか、と思わずにはいられなかった。

     

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