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    Coffee Break<週刊「世界と日本」2238号より>

    「スタートアップ立国への期待と課題」

    ―カネの面の支援だけでなく人の面の改革が必要―

     

     

     

     

     

     

    東洋大学

    情報連携学部教授

    益田 安良 

     《ますだ やすよし》 東洋大学情報連携学部教授、博士(経済学)。1958年生まれ。81年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。88年、富士総合研究所に転出し、ロンドン事務所長、主席研究員等歴任。2002年、東洋大学経済学部兼大学院経済学研究科教授に就任。16年〜18年、国立国会図書館専門調査員。18年から現職。専門は金融、国際経済。

     スタートアップ(新興企業)の興隆は、永年の日本の悲願である。岸田文雄政権は、スタートアップ促進を「新しい資本主義」実現の柱に据え、骨太方針にて重点課題に定め、昨年11月には、2027年までにスタートアップ投資額(現在8千億円)を10兆円に拡大、ユニコーン100社創出、スタートアップ10万社創出等を謳った「スタートアップ育成5カ年計画」を定めた。そのために、補助金、税制、公的金融機関、信用保証制度を総動員して起業・スタートアップ育成を促そうとしている。しかし、どうもカネ、すなわちスタートアップの資金調達の補強に傾斜しすぎではないか。カネがついてもヒト、モノが備わらねば起業は増えない。本稿では、改めてスタートアップ促進のための根本課題を考える。

    スタートアップ興隆により産業調整が必要

     

     日本の起業は低調である。開業率は英国、フランス、米国では10%前後なのに対し、日本は4〜5%に低迷している。オランダの調査会社の調査によると、2021年のベンチャー投資額は、米国の3761億ドルに対し、日本はそのわずか1%の35億ドルに留まる。ベンチャーエンタープライズセンターの調べによれば、2021年のベンチャー・キャピタル(VC)投資額は、米国の37兆円に対し、日本は3418億円と1割弱に留まる。

     こうしたスタートアップの貧弱さが、日本のイノベーションと産業構造の変革を阻害している。日本経済の成長力は他の先進国・新興国に比べて弱く、これがデフレ体質をもたらしている。その原因は多様だが、筆者は産業構造の陳腐化に最大の原因があると考える。供給(産業構造)が潜在需要にかみ合わないため、実現された需要、すなわちGDPが伸びない。大企業は多角化や海外展開あるいはM&A(買収・合併)によりデジタル化やソフト化等に伴う激しい需要変化に対応できるが、20世紀の需要構造から脱却できない中小企業の供給構造は陳腐化しがちである。そして日本では、そうした中小企業の硬直的供給構造は、過大な公的支援によって温存されている。

     日本経済が力強い成長力を取り戻すには、産業構造を潜在需要にマッチさせねばならない。すなわち産業調整が不可欠である。産業調整を進めるには、既存企業の事業転換も重要だが、同時に起業、スタートアップが爆発的に増える事も重要である。技術力の高いスタートアップが輩出すれば、これは社会全体のイノベーションを促進し、生産性向上に資する事が期待できる。

     

    スタートアップ輩出のための三要素

     

     経済活動の三要素は、人、物(商品・サービス)、カネ(資本)であり、これはスタートアップでも同様である。ただしスタートアップにおける「物」とは、商品・サービスより、それを産み出す技術・アイデア・ビジネスモデルである。画期的な技術等がなければ、起業は増えてもユニコーンに発展する事はない。しかし、イノベーションを促進するためには、教育から総合的に地道に取り組まねばならず、政策で即座に成果を得る事は期待できない。

     そもそも日本のスタートアップが貧弱な要因として、既存の大企業があらゆる産業分野に根を張り、ニッチ分野や新分野にも商品・サービスを機敏に提供し、スタートアップが楔(くさび)を打ち込む余地が乏しい事がある。スタートアップ支援のためとはいえ、そうした既存大企業の研究開発・イノベーション努力を挫くのは本末転倒である。故に、これまでのスタートアップ支援策は、もっぱらスタートアップの資金調達をサポートする「カネ」の面に集中してきた。これまでも起業やベンチャー投資に対する優遇税制、富裕層のスタートアップ向け投資の促進税制(エンジェル税制)、官製ファンドや政府系金融機関による資金支援、株式公開(IPO)や民間銀行のスタートアップ向け融資を促進するための制度整備を積み上げてきており、岸田政権ではそれらの施策をバージョンアップしている。これらはいずれもスタートアップ支援のための必要条件であり、適切な策である。

     スタートアップが活用しうる潜在的な資金は家計や銀行に既に潤沢に存在するが、それがスタートアップに届かないのは、スタートアップの件数自体が貧弱であり、投資機会を見つけられない事にある。首相がいくら「貯蓄から投資へ」と叫んでも、投資先が見つからなければカネは回らない。

     これまで重点的に整備されてきた、カネの面でのスタートアップ支援については、既にやれる事はやっており、追加余地は乏しい。スタートアップ興隆を果たすには、残された難題である「人」の面にメスを入れねばならない。

     

    終身雇用・大卒一括採用を崩さねば起業は増えない

     

     スタートアップが増えないのは、そもそも起業希望者が少ない事が主因である。日本の起業希望者は、2007年の101万人から2017年には73万人にへと3割も減っている。日本政策金融公庫の調査(2021年、対象18〜69歳)によれば、「10年以内に起業予定」は15%に留まり「起業予定は無い」が49%に上る。

     GEM(米英の大学の調査、2021年)によれば、「起業が望ましいキャリア選択と考える人の割合(18〜64歳中)」は、米国75%、英国70%、フランス67%、韓国58%、ドイツ50%に対し、日本はわずか25%である。逆に、「起業無関心者の比率」は、米国では30%以下、欧州主要国で30〜40%なのに対し、日本は70%以上に上る。他方で日本の「起業関心者が起業活動を行う比率」は19%と、米国の20%と同等で英国・ドイツ・フランスの10〜15%より高い。すなわち、日本で起業が少ないのは、起業希望者が起業を実現できないからではなく、そもそも起業希望者が少ない事に原因がある。

     日本で起業希望者が少ないのは、労働市場の硬直性と若者の大企業志向に根差すと考えられる。転職が容易でなく、転職後の給与が下がる傾向があるため、優秀な人材が大企業に留まりスピンアウトしない。また、大企業では未だに終身(長期)雇用が一般的であり、大卒一括採用の慣行があるため、学生は「とりあえず大企業に就職し、できるだけ長く大企業に勤める」事が最善の選択になる

     スタートアップ興隆を図るには、硬直的な労働市場を流動化し、優秀な人材が企業間を自由に循環できるようにしなければならない。そのためには、より容易に解雇できる環境を整える事も重要である。人の面の課題は重いが、ここにメスを入れなければスタートアップ興隆は画餅に終わる。

     

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