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    Coffee Break<週刊「世界と日本」2241号より>

    読書による自己錬磨を

    -「偉大な指導者」に共通すること-

     

     

     

     

     

     

    拓殖大学

    政経学部教授

    丹羽 文生 

     《にわ ふみお》 1979年、石川県生まれ。東海大学大学院政治学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(安全保障)。2022年から現職。拓殖大学海外事情研究所附属台湾研究センター長、大学院地方政治行政研究科教授。岐阜女子大学特別客員教授も務める。著書に『評伝 大野伴睦—自民党を作った大衆政治家』(並木書房)等多数。

     第37代アメリカ大統領のニクソンが著した『指導者とは』(文藝春秋)は不朽の名作として今でも多くの人々に読み継がれている。原書は1982年10月に出版され、日本では1986年6月にジャーナリストの徳岡孝夫の翻訳によって刊行、2013年12月に文庫化された。

     チャーチル、ドゴール、マッカーサー、吉田茂、アデナウアー、フルシチョフ、周恩来というニクソンが「直接に会った20世紀の世界の巨星たち」を通じて「指導者の資格」とは何たるかを論じたもので、珠玉の名句、鮮烈な警句が鏤(ちりば)められている。

     栄光と挫折を繰り返してきたリーダーだけに、底知れぬ深さと重さ、そして冷たさが感じられる。

     中でも特に印象的なのが、「政治家になりたいがどんな勉強をすればいいかと若者に聞かれるたびに、私は政治学はやらずに歴史、哲学、文学を十分に読み、それにより自己の精神を柔軟にし視野の地平線を広げよと勧める。政治についての具体的なことは、いずれ体験によって学べばいい、だが読書の習慣、思考の訓練、厳しい分析の技術、価値観、哲学の基礎などは、政治家たらんとする者が若いときから吸収し、その後も吸収し続ける以外、どうにもならないのである」との指摘である。

     ニクソンは続けて「私が知遇を得た偉大な指導者にほぼ共通している事実は、彼らが偉大な読書家だったことである。読書は精神を広くし鍛えるだけでなく、頭を鍛え、その働きを促す」と語る。

     ニクソンも、どんなに多忙であっても、必ず毎日、書物と向き合う時間を設けたという。

     洋の東西を問わず、確かに昔の政治家には読書家が多かった。

     「万巻の書を読むに非ざるよりは寧(いづく)んぞ千秋の人とたるを得ん」とは、松下村塾を主宰した吉田松陰の言葉だが、読書によって自らを鍛えることは、国民の模範たるべき政治家には必須であろう。

     『指導者とは』にも登場する「戦後を作った政治家」こと元首相の吉田は、幼少の頃、「耕余義塾(こうよぎじゅく」において、東洋古典の中核を成す9つの経典「四書五経」を学んだ。

     耕余義塾は『言志四録』で有名な佐藤一斎に師事した小笠原東陽が開いた私塾である。最年少の満10歳で入学した吉田は、ここで5年間を過ごし、リーダーとしての技量を磨いた。

     経済学のイロハを、読書を通じて吸収し、経済評論家の高橋亀吉と並ぶ日本を代表するエコノミストとなったのは、同じく元首相の石橋湛山である。

     早稲田大学文学部卒業後、宗教研究科に一年間、特待研究生として学んだ石橋は、その後、経済専門雑誌『東洋経済新報』を刊行する東洋経済新報社に入社する。しかし、これまで哲学や宗教学を学んできた石橋にとって経済分野は門外漢の領域だった。

     そこで石橋は、自宅と会社を往復する通勤電車の中で、経済学の書物を読むことから始めた。

     まず天野為之の『経済学要綱』を、続いてセリグマンの『経済学原論』やトインビーの『十八世紀英国産業革命史論』を全て原書で読み漁り、さらに会社の仲間を集めて読書会を開き、海外の経済専門雑誌にも目を通しながら実体経済の動向を追い続けた。

     こうした努力が実を結び、石橋は主幹、専務、社長にまで上り詰め、やがて日本経済の牽引役たる大蔵大臣を経て、権力の頂点に立った。

     香川県観音寺市にある大平正芳記念館一階の「大平文庫」には、元首相の大平正芳の蔵書1万5000冊が収録されている。「哲人宰相」と評された大平も読書家として有名で、時間があると自宅の書斎で貪るように読書を楽しんだ。

     大平は「歴史の風雪に耐えて、しかも依然強い光彩と生命力を放つ少数の書籍を、自分の実生活の伴侶として、よく読みよく消化し、よく実践するという生き方をとらない限り、われわれの精神の渇きは癒すべくもないのではなかろうか」と述べ、「みずからの実生活に不動の自信と光明をもたらす、珠玉のような冊数の書が欲しいものである。一日書庫に入り、玉書を得て寝食を忘れ、かつ読みかつ写すほどの値うちのある本が欲しいものである。読書の効用は文章の彫琢錬磨(ちょうたくれんま)にあるのではなく、みずからの生活実践の光明を見出すものであるからである」と自らの読書観を披瀝(ひれき)している。

     敬虔(けいけん)なクリスチャンでもあった大平は『聖書』を愛読し、スピーチでも好んで、その一節を引用した。「アーウー宰相」と揶揄されたが、一言一言に味わい深さがあり、しかも言い回しには相当の注意を払うため、失言は一切なかった。

     そのバックボーンには、読書によって蓄積された知的資本が存在していたのである。

     読書家と言えば、元衆議院議長の前尾繁三郎を挙げないわけにはいかない。小さい頃から学校の行き帰りは勿論、授業中も机の下に文庫本を隠し、夜は薄暗いランプを灯しながら読み耽っていたため、強度近眼になったほどの読書好きであった。

     前尾は赤坂にマンション一室を借りて、そこを書庫にした。蔵書数は約4万冊にも及んだという。議長退任後は「図書議員連盟」を設立し、各種図書館の充実と読書活動の推進に取り組んだ。

     「権力の座にいる人には、本を読む時間がない。しかし、本を読まない人は、権力の座に適さない」とは、1980年代初めにイギリス労働党の党首を務めたフットの言葉である。傾聴に値する金言である。

     近頃の政治家は読書をする暇がないほど忙しい。朝から晩まで永田町界隈を駆けずり回り、土日祝日は選挙区に帰って票田を耕す。大臣クラスとなれば、そのスケジュールは殺人的である。

     だが、時間がないというのは自らに対する言い訳であり、工夫次第で、いくらでも時間はできる。

     忙中に閑を見出し、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界から一歩引いて、誰にも会わずに書物と向き合い内省する時間が必要なのではないだろうか。

     

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