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    Coffee Break<週刊「世界と日本」2308号より>

    WBCで大谷翔平の進化をみたい

     

     

     

     

     

     

     

    尚美学園大学 名誉教授

    佐野 慎輔 

     《さの しんすけ

    尚美学園大学名誉教授、笹川スポーツ財団参与/上席特別研究員、産経新聞客員論説委員。1954年富山県生まれ。産経新聞編集局次長兼運動部長兼論説委員、取締役サンケイスポーツ代表等を歴任し、退社後尚美学園大学教授。日本アンチドーピング機構評議員、B&G財団理事、日本モーターボート競走会評議員等を務める。

     3月に開催されるWBC、野球の国・地域別対抗戦ワールドベースボールクラシック(World Baseball Classic)にロサンゼルス・ドジャース大谷翔平選手が出場する。一時期、球団側が出場に難色を示したと報じられたが、日の丸に誇りを抱く大谷選手の意志がデーブ・ロバーツ監督らの懸念を抑え込んだ。

     思えば「大谷現象」と称される大谷選手およびMLB(Major League Baseball)への関心の高まりは、前回2023年大会が起点であった。ロサンゼルス・エンゼルス時代の大谷選手やサンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有投手を中心とした日本代表「侍ジャパン」がメジャーリーガーをそろえた米国代表を決勝で破り、3大会ぶり3回目の優勝。マウンドの大谷選手が米国の4番でエンゼルスの同僚マイク・トラウト選手を空振り三振に切って取った劇的な幕切れは、試合前の円陣で仲間を鼓舞した「憧れるのをやめましょう」の言葉とともに鮮明に蘇る。日本の7試合はすべて40%超の視聴率を記録、野球など関心を示さなかった層からも「きょうの大谷(の成績は)どうだった」と声が上がるほどの社会現象が生まれた。

     その年、44本塁打で日本人選手初のMLB本塁打王、投げても2年連続2けた勝利。あの神様ベーブ・ルースを超える「二刀流」で自身2度目のアメリカン・リーグMVPに輝く。そして当時MLB史上最高額の10年7億㌦でドジャースに移籍、「大谷狂騒曲」が起きた。

     

     大谷選手の凄さは毎シーズン、さらに高みに駆け上がっていく姿にある。23年8月に痛めた右ひじに再びメスをいれるトミー・ジョン手術をうけ、24年シーズンは「投打二刀流」を封印しながら自慢の足で59盗塁を記録し、54本塁打で長いMLB史上初の「50―50」を達成。2年連続本塁打王と初の打点王でリーグをまたぐ連続MVP、念願のワールドシリーズ制覇も果たした。

     そして25年はタイトルこそ最多得点のみだったが、55本塁打102打点。6月には投手としてマウンドに復帰し、最初は短いイニングから少しずつ投球回数を延ばし8月28日のシンシナティ・レッズ戦で復帰後初勝利。実に748日ぶりの勝利だった。そして史上初の「50(55)本塁打―50(62)奪三振」でドジャースのリーグ連覇、ワールドシリーズ連覇に貢献、3年連続記者投票満票でMVPに選出されたことに、もはや誰も驚かない。日本発生の「大谷現象」は米国西海岸から全土へと広がり、唯一無二の「ユニコーン」と称される。

     

     米国からの報道によれば、2025年のMLBの観客動員数は7140万9421人で3年連続7000万人台を突破、ドジャースの観客動員は史上初の400万人台を記録し、401万2470人にのぼった。ドジャースの25年シーズンの経済波及効果は日本円で約3兆3188億円と試算され、入場料収入だけではなくグッズ販売や放送権収入、スポンサー収入や観光業への波及など広範囲にわたり、地元ロサンゼルス経済の伸長に大きく貢献した。

     もちろんドジャースが人気球団であり、多くのスター選手が在籍する。経済効果の要因は大谷選手1人に帰するわけではないが、移籍後の相次ぐ日本企業との球団スポンサー契約、日本からの観光客や入場者の増加という形で現れている。関西大学の宮本勝浩名誉教授は大谷選手が25年シーズンにもたらした経済波及効果を1302億円と試算。これはリーグ優勝した阪神の約1084億円を単独でうわまわる。

     

     さて2026年シーズン、大谷選手はどうなるか? 

     編集部からの依頼テーマにこたえるだけの力量は持ち合わせてはいない。ただ25年をうわまわる活躍は予測してもいいだろう。投打二刀流に挑み、痛めた肘が癒えるまでは足で観客を魅了。常に相手の研究分析をうわまわる肉体改造、技術改良を試み、未知の領域に踏み込む。その進化し続ける姿に、相手や相手ファンをも巻き込む人間力と野球少年そのままの笑顔がプラスされて私たちを引き付けるのだ。

     まさにWBCは大谷選手の今シーズンの新たな挑戦を垣間見る格好の機会となる。ただ、復活したての大谷投手には肉体的な不安も残る。ロバーツ監督や球団サイドが開幕前の早い時期からの登板、投球過多に懸念を示す所以である。「ショウヘイを中5日のローテーションに巻き込むイメージはない。中7、8日あける感覚で休養とビルドアップの時間を確保したい」と話す。

     投手は試合の行方を大きく左右する。とりわけ先発投手は存在が際立つ。だからこそ送り出す側は慎重にならざるを得ない。

     

     WBCにはドジャースから山本由伸投手の出場もする見通しだ。MLB2年目の25年シーズンは30試合に登板し12勝8敗、防御率2・49、ワールドシリーズでは3勝をあげて連覇に貢献、MVPに選ばれたことは記憶に新しい。とりわけ第6戦に先発して勝利し、もつれにもつれた第7戦では救援登板、連覇に導いた。体力、右肩の酷使は想像を絶する。監督や球団サイドが出場に難色を示した理由だった。この小柄なエースこそ3連覇への最大の柱なのだから。

     一方で、佐々木朗希投手はWBCでその姿を見ることは難しいだろう。MLB1年目は5月に右肩痛で戦列を離れ、9月にクローザーとして復帰したものの、先発に復帰する26年シーズンに向けて体力、制球力向上にじっくり調整したい。日本で完全試合を達成した未完の大器がその才能を開花させるためにも大事な時期である。

     26年シーズンも大谷を筆頭に山本、佐々木のいるドジャースを中心に鈴木誠也選手、今永昇太投手のシカゴ・カブスなどMLBへの関心はますます高まるに違いない。40歳のダルビッシュ投手は右肘副靭帯の再建手術をうけてシーズン全休するが、新たに巨人、ヤクルトの主砲だった岡本和真、村上宗隆両選手、西武のマウンドを死守した今井達也、高橋光成両投手がMLBに挑む。日本球界の空洞化を指摘する声に対し、福岡ソフトバンクホークス会長の王貞治さんはこう言った。「若い選手には逆に(活躍の)チャンスが訪れるということだよ」

     

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