マスメディア批判
ハンガリー総選挙結果
親露中強権政治の終焉
米露政権の悪しき選挙介入
民主化とEU回帰は進むか
4月12日、ハンガリーで総選挙が行われ、「新興野党の中道右派『ティサ(尊重と自由)』がオルバン首相率いる与党に圧勝した」(日経4/14社説)。ハンガリー議会は1院制、定数199で、「新興保守系野党「ティサ」141議席、オルバン首相率いる中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」52議席、極右政党「我らの祖国」6議席」となった(毎日4/19)。
オルバン与党の敗北は総選挙前から予想されていたが、選挙結果は「予想以上の大差でオルバン氏も敗北を速やかに認めざるを得なかった」(東京4/20社説)。
「今回の政権交代は、オルバン政権の腐敗や縁故主義で深刻化した経済の停滞が主因だった」(日経社説)とされる。それに加え、今回の選挙結果では、オルバン政権の強権政治、中露寄り、自国第一、反移民、ロシア制裁やウクライナ融資への反対の姿勢が否定されたと考えられる。
これに関連して、米露によるあからさまな介入があったことも無視できない。「今回の選挙では、オルバン氏を支持するロシアがSNSなどを通じて偽情報を拡散し、世論工作を仕掛けたと指摘される。米国のトランプ大統領もオルバン氏の勝利を願うメッセージを送り、選挙中にバンス副大統領をハンガリーに派遣した。内政干渉のそしりは免れない」(読売4/16社説)。日経社説が主張するように、「他国の選挙への直接干渉は国際ルールに反する主権侵害になる恐れがあり、厳に慎むべきである」。ここで注目されるのは、今回の総選挙によってオルバン政権を支援した米露の立場も否定されたと考えられることだ。
今回の結果について全国紙の社説は、「権威主義を退けた」(日経社説)、「欧州極右伸長の流れ変わるか」(読売社説)、「EUの結束につながるか」(毎日4/17社説)、「露中傾斜見直しが必要だ」(産経4/19主張)、「民主主義再生への一歩」(東京4/20社説)、「民主の退潮 防ぐ契機に」(朝日4/21社説)といったように、いずれも総選挙結果を肯定的に受け入れていることで共通している。興味深いのは、各紙の見出しが示すように、権威主義の退潮と民主主義の復権、欧州の結束強化、親露・親中路線の修正といったぐあいに、各紙の主要関心事が微妙に異なっていることだ。
各紙は、総選挙結果を評価する一方で、新政権の課題も指摘している。例えば、「EU内で最悪レベルとなった公職者の汚職の除去やメディアの独立性の確保など」(日経)、「統治体制の立て直しや、EUとの関係修復」(読売)、「EUとの関係改善」(毎日)、「過度な露中傾斜を見直すこと」(産経)、「ハンガリーの民主化とEU回帰」(東京)、「法の支配と国際協調への回帰」(朝日)など。
このように、各紙の論調に共通点が多いことは良いのだが、政権交代の主因とされた「深刻化した経済の停滞」(日経)への対策については、「投資誘致の見直し」(産経)以外に言及がなかったのは残念だ。(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2315号
世界の激動と中国報道
敵の過ち静観する中国
海上民兵の脅威警戒を 産経
大国の責任自覚し行動 毎日
米国・イスラエルとイランの衝突が連日世界を揺るがし、中国はニュースの表舞台から消えた形だ。例年なら大々的な3月の全国人民代表大会(全人代)報道も低調だった。
しかし本来メディアは、こういう時こそ中国の動静に目を光らせ、ニュースを掘り起こし報じるべきだ。
その意味で産経新聞4月11日付主張(社説)が、中国漁船団(海上民兵)の海に「長城」を築くが如き行動に警鐘を鳴らしたのは、時宜にも叶い良かった。
船舶自動識別装置(AIS)情報などから、昨年12月から3月までに3度、約1千から2千隻、約300から450㌔の長さに及ぶ漁船が、東シナ海で隊列を組み航行していたことが判明した。
海上民兵の軍事演習と思われ、漁船は名ばかり。《中国の民兵組織は陸海にかかわらず、共産党中央軍事委員会の傘下にある》事実を忘れてはいけない。
産経は尖閣諸島接続水域への中国船の航行も毎日報じている。領海侵入も記録され、10行足らずの短信でも継続は力なりだ。
ネット版「日本語で読むアラブニュース」でラッセル元米国務次官補は中国を「話ではなく行動を見よ」と述べている。同感だ。南シナ海を平和の海にと言いながら、領有権を争う南沙諸島の要塞化を一方的に進めたのは一例に過ぎない。
毎日新聞4月5日付社説も、核弾頭の増加に見る急速な軍拡や、自由貿易体制の擁護を主張しながら、貿易制限を常套手段にする具体例を挙げ、《大国の責任を自覚し、世界の安定に向けて行動すべきだ。言行不一致を続けることは許されない》と述べている。
ニュースで主役の機会が減ったのは、自ら鳴りを潜めている側面も否めない。
日経新聞4月7日付《「敵の過ち」静観する中国》は、イラン攻撃について中国の外交官や研究者、現職及び元政府関係者などに取材、見方や分析を紹介しており、興味深い。
中国指導部の静観は、ナポレオンの格言「敵が過ちを犯している時は、決して邪魔をするな」を踏まえているのだという。《ほぼ例外なく、この戦争は米国の重大な過ちだとの認識で一致》し、《中国では広く、対イラン戦争が米国の衰退を加速させると見られている》からだ。
しかし記事は《中国の楽観の裏には不安がにじむ》とも書く。中国の専門家は、米軍が人工知能(AI)を用いて軍事作戦を統合することに強い衝撃を受け、他方、戦争の長期化による輸出主導型中国経済への打撃も不安材料となっている。
つまり記事は米国の衰退を結論づけていない。高齢化が進みイデオロギーにも制約される中国に対して、持ち前の自己変革力を発揮し米国が優位に立つ可能性も指摘する。
なかなか読ませる論考だが、惜しむらくは日経ではなく、英誌エコノミストの転載である。日経に限らず、昨今の国際報道で物足りなく感じられるのは、深い分析で唸らせるような読み応えある自前の記事が少ないことである。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2314号
周回遅れの日本の備え
全国民参加型の訓練を
高市政権とシェルター整備
朝日新聞の本音と抑止力
政府(高市早苗政権)は3月31日、外国からの武力攻撃を想定した避難施設(シェルター)の確保に向けた基本方針を閣議決定した。遅きに失した感はあるが、それでも歴代政権の姿勢と比較すれば、大きな前進であり期待したい。
朝日新聞(4月1日)も、政府のこの動きを社説で取り上げ、評価しているかのような書き方になっているが、実は否定的な姿勢が透けて見えると感じるのは私だけだろうか。
以下、私が朝日に対して疑問を感じている部分だ。少々長くなるが…。
「外国からの武力攻撃を想定した避難施設(シェルター)の確保に向け、政府が基本方針を閣議決定した。万一への備えは大切だが、どんな事態を想定し、どう使うのか。運用を含め、住民の安全を守る実効性が問われる。戦争を起こさない外交努力が前提であることも忘れてはならない」と書いているが、後半部分の「戦争を起こさない外交努力が前提であることも忘れてはならない」を読む限り、日本が戦争を起こすとでも朝日は考えているのか…。
「時を同じくして、敵基地攻撃にも使える長射程ミサイルの配備が始まった。基地周辺の住民からは、有事の際に標的になるのではないかとの不安が聞かれる。政府は抑止力の強化につながると強調するが、抑止が破綻した時のリスクは語らない。シェルターで本当に安全が確保されるのか。住民の懸念に応える取り組みが必要だ」の部分などは明らかに現在進められている日本の防衛力(抑止力)整備に対する批判でしかない。特に「時を同じくして、敵基地攻撃にも使える長射程ミサイルの配備が始まった」の部分は、熊本市の陸上自衛隊健軍駐屯地に配備された長射程ミサイルのことだが、明らかに朝日の姿勢は中国を利する書きぶりだ。
相変わらず、朝日は日本が「普通の国」になるのがお嫌いらしい…。
いつも朝日と論調が比較される産経新聞(4月2日)も、社説でこの動きを取り上げている。産経は施設の整備に加えて、「避難訓練の実施も求めたい。緊急時に近くのシェルターとそこへの経路が直ちに分かるアプリを導入すべきである」と述べているが、国民保護訓練に関しては隣国・台湾のように年1回、国民全員が参加する防空訓練の実施についても言及してほしかった。
他の全国紙では、基本方針が閣議決定された後に社説では取り上げていないが、毎日新聞は基本方針の内容が判明すると、記者の署名入りの記事(3月24日)で読者に分かりやすく解説していた。
静岡新聞(3月23日)が「地下シェルター 万一想定し施設拡充を」というタイトルの社説で読者に国民保護政策(シェルター政策)の重要性を論じていた。地方において、地方紙の影響力はいまだにあり、静岡新聞が社説で取り上げた意義は大きい。
最後に今年がシェルター元年になることを期待している。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2313号
イ攻撃とトランプ誤算
ホルムズ海峡が「人質」
MAGA対MIGA戦争か
米迷走、連携で止めよと朝日
《「傀儡政権樹立による早期解決」というトランプ氏の楽観的な目算は消え、戦闘の長期化がより一層現実味を帯びてきた》(朝日新聞3月10日)。他の新聞各紙テレビも開戦からほどなく、米国のイラン攻撃の苦戦と長期戦の予測に転じた。
赫々たる戦果を携え北京に乗り込む筈のトランプ大統領は4月の訪中を延期。イスラエルと共に始めたイラン攻撃は誤算が誤算を呼ぶ事態にある。
第1の誤算は軍事力で米イに劣るイランが非対称戦争に出たことだろう。革命防衛隊によれば、標的となったテック企業はアマゾン、グーグル、エヌビディア、IBMなど7社29拠点に上る。
14日付日本経済新聞は《データセンターは軍事基地に比べて強固な防禦システムを持たない。こうした民間企業の「ソフトターゲット」は正規軍に対してゲリラ的に戦うような非対称戦において攻撃の標的になり得るという新たなリスクが表面化した》と書いた。
拠点は湾岸のアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレンにイスラエルと広域に及ぶ。昨年の12日戦争(イラン核施設などへの攻撃)の際のカタール米軍基地への限定反撃とは大違いだ。
読売新聞11日付は、金融や観光で繁栄を謳歌してきた湾岸諸国に広がる動揺をルポ。米第5艦隊(司令部バーレーン)や米軍基地など対米依存に不安を掻き立て離米を促すのもイランの戦略だろう。
最高指導者ハメネイ師の後継は子息モジタバ師が選ばれ、全国紙社説は揃って反米強硬路線の撤回や懸念を表明した。同感だが読者は単なる「べき論」に終わらぬ分析や洞察が読みたい。同師に関する情報も各紙似たり寄ったりで、革命政権へのアクセスの難しさを再認識させた。
父母、妻らを一挙に失った同師以外の選択肢は、「苦難に耐え、殉教により正義を実現する」イスラム教シーア派を信奉するイランではなかったと言える。
イランは原油輸送の要衝ホルムズ海峡の封鎖に着手、米国が同国心臓部、原油積出港カーグ島を爆撃しても怯まない。世界を巻き込む作戦で、トランプ氏は日中韓仏英を名指しし、支援に護衛艦の派遣を求めた。
しかし湾岸、イラク戦争と異なり同盟国に相談なしに攻撃を始めたのも響き、名乗り出る国はゼロ。業を煮やしたトランプ氏は発言を撤回した。発言の二転三転は今や日常茶飯だ。17日の全国紙社説では唯一産経新聞が《首相は海自派遣の決断を》としたが…。
日本記者クラブの会見で斎藤貢元駐イラン大使は、MAGAに対してMIGA(イランを再び偉大に)と称した。この戦争の本質が良く分かる形容だ。イラン革命政権の大国意識と地域覇権の野望は破滅と背中合わせ。一方の米国もイスラエルに引きずられ、巨費を失い成果も得られぬ公算が大である。
《米の迷走、連携で止めよ》(朝日社説18日)は国連へ働きかけを説くが、むしろここは日本を含むG7が出番を覚悟する時ではないか。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2312号
減税めぐる世論対学者
税制を理解しない世論
慢性的減税策が日本の現実
格差理解に不可欠な再分配
世論はいつから減税ばかり要求するようになったのか。平成元年度の消費税導入と3回の税率引き上げを除くと、毎年度の税制改正で減税(平年度ベース)が始まったのは平成元年度からで令和7年度までの37年間に減税27回、増税10回で圧倒的に減税が多い。その結果、消費税増収の一方、累積23兆円規模の税収削減構造が出来上がった。緊縮財政の歴史とはほど遠い。
にもかかわらず、財務省は増税しか眼中にないとして、ネット民を中心に財務省批判、増税批判が繰り返される。世論は、多数の減税措置で誰が利益を得たかの知識も関心もなく、税制や財政の仕組みすら理解せずに増税批判を展開する。こうした世論に経済学者や財政学者の多くは批判的で、メディアも総じて批判的だ。
代表的マクロ経済学者の吉川洋氏は、日経の経済学者アンケート結果を引用し、「88%が物価高対策としての減税の効果を疑問視していた。私も減税には反対の立場だ。・・・世論や政治の世界とは大変なギャップがある」(日経2/14)と述べ、インフレによる財政の改善も「まやかし」だと批判的だ。代表的財政学者の土居丈朗氏も東京財団のコラム(25年5月20日)で、「小学5年生でもわかる。『消費税減税』しても家計は救われない!」と厳しく批判した。ネット愚民や左翼・右翼学者は御用学者の主張として受け入れないだろうが、これが財政の理論と制度に精通した学者の一般的見解だ。
メディアも総じてこうした見解に近い。日経は、「先の衆院選では、チームみらいを除く全政党が消費税の減税を公約に掲げた。社会保険料の引き下げを主張する政党も多い。だが社会保障の厳しい現状を直視せず、聞こえの良い『負担減』を叫ぶだけではあまりにも無責任だ」(2/17社説)とし、「物価上昇の影響を除く実質GDPを力強く増やすには、財政による需要刺激よりも、民間の賃上げや投資をいかに伸ばすかという視点を忘れてはならない」(2/16社説)と警告する。
読売も、「首相は物価高対策として、2年限定で食料品の消費税をゼロとする公約にこだわっているが、年間5兆円にも上る減収分をどう手当てするのかは定まっていない。・・・目先の物価高をしのぐために、将来世代に負担を押しつけることが国民のためになるのか、首相は熟考すべき」(2/19社説)と主張した。
他紙の中では「安定した税収が見込めて公助の基盤の位置づけにある消費税を重視し、一時的でもより重点的に支援するやり方に知恵を絞るべきだ」とする朝日の主張(2/11社説)が注目される。
世論は、低所得者ほど負担率が高いという消費税の逆進性を批判するが、租税による負担配分は税制(租税構造)全体で考えるべき問題で、同時に社会保障・補助金による給付も併せて考えるべきだ。正統派の財政学者は、最初に受け取る当初所得よりも、税制と社会保障による再分配後の再分配所得をみて格差や公正性を評価しているのだ。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2311号
国際機関66の脱退宣言
ガザ抜きで平和評議会
換骨(かんこつ)奪胎(だったい)し国連改革加速を
終身議長目指すトランプ氏
ベネズエラ攻撃やグリーンランド獲得、イラン反政府デモなど大ニュースの陰に隠れてしまった感があるものの、66の国際機関から脱退する米大統領覚書への署名も、勝るとも劣らず衝撃的だ。
各紙は《多国間協調壊す米国の横暴だ》(読売1月10日)《中国の影響力増大を招く》(産経同月同日)《協調主義の力を弱らせる》(毎日同14日)など社説で挙って批判している。
しかし今後、影響や打撃が世界規模に及ぶことを考えれば、1回の社説では不十分で衝撃度も伝わらない。
脱退・切り捨ての対象となった66のうち国連機関は31に上る。トランプ政権の最終的な標的が国連本体と推量することも可能だ。
ところが肝心の国連が心許ない。難局に率先して指導力を発揮すべきグテレス事務総長は顔が見えないし、日経1月26日付によれば加盟国は《標的恐れ、安保理で遠回しの批判》に終始し、国連にはトランプ恐怖症が漂っているという。
確かにトランプ氏の大統領覚書は荒っぽいが、「(機関は)業務範囲が重複しており、不必要で無駄が多く、ずさんに運営されている」とのルビオ国務長官の指摘は一理ある。
国連にこんな冗句がある。「国連職員は何人ですか」と問われた事務総長が聞き返して曰く。「働いている職員がですか?」昨年、創設80年という折角の好機を生かせなかった国連は、この際大統領覚書を換骨奪胎し国連改革を断行するのも一案だ。またメディアが全対象機関の無駄の有無、要不要を徹底的に調査報道するのも一考である。
ダボス会議で1月22日に設立署名式典が行われ、米国主導で発足した「平和評議会」も、一見全然別件のようで、実は国連軽視という点で両者は通底しているように思う。
同評議会はもともとパレスチナ自治区ガザの和平計画に盛り込まれ、暫定統治に重要な役割を果たすものとして、昨年11月に《米国は国連安保理決議を採択させるなど「お墨付き」も得た》(日経1月23日)。
ところが蓋を開ければ評議会の憲章にガザ委任統治の文言はなく、ガザ以外の紛争にも手を広げるものと判明。言わば公約違反で英仏など欧州主要国は式典を欠席、同評議会への参加を見合わせた。一方ロシアの盟友ベラルーシや親トランプ派のハンガリーやアルゼンチン首脳らガザと縁が薄く、権威主義体制の国が目立った。
さらに驚くのは憲章が、トランプ氏が評議会の「終身議長」も可能と解釈出来、参加国が永続的な加盟資格を得るには10億㌦の支払いが必要とのことで《トランプ氏が大統領退任後も自由に使える資金をつくるための枠組みとの見方もある》(産経24日)とは、何をか言わんや。
ただトランプ氏の発言は今やアドバルーンのようで、揚げて様子を見ては降ろす流儀も、特に2期目は顕著だ。平和評議会が真にガザ和平計画に供するものなのか、マスメディアには継続する粘り強いウォッチが要る。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2310号
権力への監視機関か
報道のバランス感覚
果たして中道勢力なのか
新党への各紙の姿勢は?
総選挙が迫る中(本稿は1月19日時点で執筆)、立憲民主党と公明党が衆議院議員だけで新党「中道改革連合」を結成することになった。高市早苗首相の通常国会冒頭での解散の動きに対しては一部メディアを除いて批判的な報道に終始している。一方、野合としか見えない新党の動きに対しては、(期待値からか?)批判が少ないのは何故か…。ところで、新党は「中道勢力の結集」ということを殊更に強調しているが、立憲民主党には左派色の強い自治労や日教組出身の議員も入っており、「中道勢力の結集」と本当に言えるのか。
新聞各紙の社説を読むと、産経新聞以外の全国紙は新党へは批判よりも期待値の方があるような感じだ。いまだに権力と対峙することがマスコミの役目だと勘違いしている新聞のいい加減さが新党への期待値社説の論調にも表れている。
朝日新聞(1月16日)は高市政権と新党についての比較で「右派色の強い高市政権に対抗するビジョンと政策を明示し、幅広い国民の支持を取り付けられれば、日本の政治の形を変える転換点にもなりうる動きだ」、毎日新聞(1月17日)は「高市内閣は発足以来、右傾化を鮮明にしている」、東京新聞(1月16日)は「右傾化が著しい高市早苗政権との対立軸が明確になれば、有権者の政権選択に資する動きとして歓迎したい」と書いている。3紙が言っている「右派色」や「右傾化」という表現だが、各種世論調査を見る限り、国民は高市政権を右傾化しているとは見ていない結果が出ている。相変わらず反高市政権に固執した姿勢では読者がついてこなくなるのではないか。ますます新聞離れが進む原因を新聞自らが作っていると言われても仕方があるまい。
読売新聞(1月16日)は「新党には危うさもある。増税に頼らずに様々な給付を行う、といった政策を掲げていて政権を担えるのか。防衛力強化の具体策に触れていないのも、物足りない。衆院選では、より現実的で責任ある公約を掲げ、政権担当能力を示す必要がある」と断じて、微妙に3紙とは違うスタンスを打ち出している。唯一、産経新聞(1月16日)だけが、タイトル「立民と公明が新党 左派リベラルの互助会か」を付けて、真正面から新党を批判しているのは面白い。
テレビの情報番組に登場するコメンテーターも、一部の人を除けば、衆議院を解散する高市首相には手厳しい発言が目立つ。1月18日のTBS情報番組「サンデーモーニング」も衆議院の解散と新党結成についてのコーナーがあったが、コメンテーターの全員が同じスタンス(反高市、新党に期待する)だった。この番組は従来からバランス(認識の違い)を保って出演者を決めていないので、どうしても一方だけを支持する意見のオンパレードになってしまう。如何なものかと思う。
最終的に選挙結果がどうなるかは分からない。投票日の開票速報を見るのを楽しみにしながら、これからの動きに注視したい。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2309号
意外?経営者は前向き
高市批判の前提に誤りも
精彩欠いた正月の経済報道
AI関連記事目立つが…
2026年の日本経済について新聞各紙はどのような展望を描くのだろうか。正月の各紙を読み比べてみたところ、生成AI(人工知能)に関連した記事が目立った。
朝日の元旦1面トップは、昨年から掲載中の連載「AIの時代」の第5回「あなたは人間ですか AIではない証明、虹彩を見極める目玉」。毎日も継続中の連載「AI新世紀」を掲載していた。読売は「新春景気アンケート」で4割以上の経営者が「生成AIの影響で今後10年で従業員が減ると答えた」との記事を掲載、「設備投資やAI活用などで、民間投資を後押しするよう政府に求める声も多かった」としている。
最もAI色が強かったのが日経だ。同じく元旦の1面トップは、新連載「α?20億人の未来」で、AIを使いこなすα世代の様子を伝えていた。脇トップは「NTTデータ、AIがシステム開発」とのニュース。この二つの記事で1面のほとんどを占めていた。
2026年は日本経済全体にとってAIが大きなテーマになることは間違いないだろう。各紙の紙面は、こうした経済の潮流を反映したものと言える。
だが日経を除くと、AI関連以外の経済記事は精彩を欠いていたと言わざるを得ない。年末年始は経済活動が休みとなるため経済ニュースも少ないのは事実だが、逆に言えばその分、今年の経済見通しについて多くのエコノミストの見解も含め多角的に分析したり、高市政権の経済政策について掘り下げた論評や政策提言を行うことは可能なはずだ。しかしそのような記事は一部を除いてほとんど見当たらなかった。
その中で数少なかった経済記事の一つが、前述の読売の「新春・景気アンケート」だ。景気の現状を「緩やかに改善している」と答えた経営トップが41人のうち30人に上り、今後半年程度の見通しでは「緩やかに改善する」との回答が34人とさらに多くなっていた。メディアでは、経済の先行きについて悲観的論調が根強いが、多くの経営者はもう少し前向きなことを、このアンケート結果は示している。
また、高市首相の経済政策をめぐっては、年末の記事だが、産経の「令和8年度予算案の実相は緊縮型」が目を引いた。多くのメディアは来年度予算案を「責任なき積極財政」と批判しているが、同記事は「歳出総額のうち国債費と地方交付税などを除く一般歳出は減少しており、税収の方が13・5兆円も上回る」と指摘し、「これでは財政緊縮だ」と断じている。
市場では財政拡張への懸念から長期金利が上昇し、メディア報道は〝高市批判大合唱〟の様相を呈している。だが同記事はそうした高市批判の前提自体が間違っていることを明らかにしたといえるのである。このような報道の問題点を、本紙前々号(2306号)のこの欄で指摘したばかりだが、2026年にはそれが少しでも是正されることを期待したいものだ。
(岡田 晃)週刊「世界と日本」第2308号
沖縄と日米同盟
県内移設と日米合意
普天間基地の固定化招く
反対のための反対の論調
11月28日から沖縄県名護市辺野古東岸の大浦湾で埋め立て土砂の投入が始まった。
この件を社説で扱っているのは全国紙では産経新聞(12月12日)と朝日新聞(12月14日)。ブロック紙では北海道新聞(12月6日)、地方紙では信濃毎日新聞(12月4日)だけだ。当然、沖縄タイムズ(11月29日)、琉球新報(11月29日)も扱っている。
以上の6紙のなかで、埋め立て投入に賛成しているのは産経だけで、他はすべて軟弱地盤の埋め立て工事に疑問を投げかけ反対の論調となっている。
朝日に関しては、産経が2日前に書いた内容に対抗して書いたかのような内容だ。沖縄から最も遠い北海道新聞がこの件を扱っているのは非常に興味深い。
では、各紙社説を見ていきたい。
信濃毎日は「普天間飛行場で先日実施された常駐機でない米軍機の夜間を含む離着陸訓練を実施した。(中略)日米が結んだ騒音防止協定などに違反する訓練だ。常駐機の夜間飛行も繰り返されている。米軍の身勝手を見て見ぬふりしている政府の言い分に、説得力はない。」と断じているが、ここで言っている「説得力がない」の意味が読者には理解しづらい。もう少し具体的な説明が必要ではないか。
北海道は「来春には日米の普天間飛行場返還合意から30年となる。政府は沖縄の苦難の歴史に改めて向き合い、真摯に対応する時だ。」と書いているが、そもそも工事が遅れた責任の一端は当時の民主党政権(鳩山由紀夫政権)がつくったのではないか。民主党政権についても触れるべきだろう。
沖縄タイムズは「そもそもの問題は、基地の負担軽減を目的にした政策であるはずなのに、県内移設を前提にしていることだ。普天間飛行場の一日も早い返還を実現する近道は、県内移設の前提そのものを見直すことだ。」とあるが、普天間基地返還は辺野古沖に移転することで日米合意したことを忘れたのか。逆に普天間基地の危険性を残したまま固定化に繋がることを逆説的に期待しているのかと思えてくる。
琉球新報は「高市政権下で加速する軍備増強と沖縄の軍事要塞化にあらがうため『新基地ノー』の民意をいま一度糾合しなければならない。その中心を担うべき『オール沖縄勢力』の存在意義が強く問われている。」とあるが、アジビラに書かれた文書と見間違えてしまう表現だ。県内の首長選挙で「オール沖縄勢力」が応援する候補者がことごとく落選している現実を琉球新報は受け止め切れていないのか…。
朝日は「沖縄が安全保障上、重要な地であるというのなら、偏った基地負担を減らす道を米国と粘り強く交渉して探り、首相が先頭に立って関係修復に乗り出すことこそ、先決ではないか。」と問題提起しているが、ここで言っている「関係修復」の意味が分からない…。
結局、産経以外の他紙に共通するのは、反米の姿勢であることを改めて再確認させてくれた社説比較となった。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2307号
外国人政策関係閣僚会議
人口減対策に戦略本部
肝心の共生が見えぬと朝日
総量規制も検討せよと産経
「台湾有事」からクマ出没まで、内外情勢が危機満載の中、高市早苗首相が政権の重要課題の1つと力を入れる外国人政策で新設された「外国人の受け入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」が、11月4日初会合を開いた。
会議の名称に、奇しくもこの政策の問題点と全国紙社説のスタンスが集約されていて興味深い。産経と読売は秩序派、朝日と毎日は共生派、日経はヌエ的と言ったところか。
毎日5日付朝刊は1面トップ、2面「焦点」、社会面と大々的な扱い。就任早々の立ち上げは《「保守層」へアピールする狙い》があり、しかも所信表明演説への代表質問が始まる4日にぶつけたのは《官邸主導の「攻め」の姿勢がにじむ》と、こちらも政権へ攻めの姿勢が十分だ。
朝日14日付社説は《「外国人との秩序ある共生社会」をうたうが、取り組みの軸として示されたのはもっぱら規制や制度の厳格化だ。肝心の共生への姿は見えてこない》と断じ《規制に偏らない議論を》と呼び掛けた。
ただ《違法な行為に対してはしかるべき対応が必要だ。だが、それは日本人か外国人かに関係ない。ルールや法律、公共の場でのマナーなどを守らない人が「一部にいる」のはいずれも同じだろう》との意見は一見もっともらしいが、論理のすり替えだ。ではどう対処するかという視点を欠き責任回避である。
対して産経6日付主張(社説)は関係閣僚会議とその議論を全般的に評価。その上で日本維新の会が連立合意で求めた「総量規制」に首相の指示が具体的でなかったのを《極めて重要な点であり、政府与党は量的規制の検討を始めるべきだ》とさらに踏み込んだ。
首相が「不法滞在者ゼロプラン」の強力な推進を指示した点も評価した。筆者はゼロプランと聞くと、中国の「コロナウイルスゼロプラン」の大失敗を連想してしまう。事故ゼロや犯罪ゼロと同様、現実との乖離が否めない。目指すべきは軽減やリスク・コントロールではないか。
産経は司令塔の役割が期待される小野田紀美外国人共生担当相のインタビューも19日に掲載している。
今後、会議の焦点の1つである外国人による不動産取得の規制について小野田担当相は《実態が把握できていないのが一番の問題であり、早急に把握できる仕組みを作る。来年1月を目途に方向性を示す》と答えている。
他にも、在留資格の厳格運用や日本国籍取得の厳格化、在留外国人への日本語教育の充実など総合的対応策が、有識者会議の議論も経て、1月を目途にまとめられる予定だ。
18日には人口減少問題に対応する「人口戦略本部」も設置された。外国人問題と人口減少問題はコインの裏表、連携が必要だ。
今や予測を上回る急速な人口減少に歴代政権は他人事感が拭えなかった。メディアも秩序か共生かでなく、秩序も共生もと対処した方が前進する。問題の本質はオール・オア・ナッシングではない。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2306号
高市首相所信表明演説
強い経済目指す新政権
不透明さ残る積極財政の財源
メディアは具体的政策提言を
10月21日の国会における首相指名選挙で高市早苗氏が第104代首相に選出された。そして、10月24日の第219回国会で高市総理の所信表明演説が行われた。同日から26日には早速、全国紙が社説で所信表明演説について論評した。
所信表明演説では、「今の暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済を作る」ために「『経済あっての財政』の考え方を基本」とし、「『強い経済』を構築するため、『責任ある積極財政』の考え方の下、戦略的に財政出動を行う」ことが表明された(首相官邸ウェブサイトより)。演説では、「強い経済」という表現が5回登場したほか、「力強い」という表現も使われた。このように、「強い経済」の実現が新政権の経済政策を理解するためのキーワードだ。
社説見出しでは、読売10/25と産経10/26も「強い経済」に触れる一方、「責任」に言及した全国紙もあった(日経オンライン10/24、朝日10/25、産経10/26)。この場合の責任とは、「財政出動や減税は安定した財源の確保が大前提だ」(日経)、「安定財源を確保する具体策には触れていない」(朝日)、「国債に頼らぬ財源確保は欠かせない」(産経)のように、財源確保をめぐる責任の取り方だ。「責任」を見出しに用いなかった読売、毎日、東京の10/25社説も財源問題に触れており、例えば読売は「債務の肥大化を放置することが『積極財政』では困る」と財政健全化を意識した論評を行った。
強い経済や積極財政については各紙が消極的な姿勢を示す中で、日経が「『強い経済』をめざして成長戦略を推進する姿勢は支持したい」と明言したことが注目される。実際、「我が国の課題を解決することに資する先端技術を開花させることで、日本経済の強い成長の実現を目指す」という所信表明演説で示された方向性に異論を持つ人は少ないであろう。
メディアの消極的な姿勢の背景には、アベノミクスとの関係があるのだろう。産経10/26主張が指摘するように、「積極財政を持論とする高市氏の経済政策はアベノミクスを継承するものだ」。毎日10/25社説も、「首相は積極的な財政出動で国民の所得を増やすシナリオを描いている。かねて金融緩和の継続を支持しており、アベノミクスをほうふつとさせる」と書いた。アベノミクス支持派の高市首相は、来日した米国トランプ大統領との会談では故安倍首相の名前を持ち出して親密な関係構築を図った。
ただし、アベノミクス期と現在とでは経済環境が大きく異なる。「デフレが深刻だった安倍晋三政権時と異なり今はインフレ期だ。かつて顕著だった需要不足はほぼ解消し、財政でむやみに需要を刺激するとインフレ圧力を強めかねない」(産経)。そうであれば、「冷静に見極めて政策を講じるべき」(産経)、「新たなアプローチが必要」(毎日)というだけでは不十分だ。批判的論評に終始するメディアを含めて、どのような経済政策をとるべきかにまで踏み込むべきであろう。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2305号
信頼低下は米国並みに?
政策本位の政治報道を
自民党総裁選の予想外れ
過剰な〝高市たたき〟の報道
10月21日、高市早苗氏が首相に選出され、高市新内閣が発足した。本欄の原稿締め切り日の関係で、高市新内閣へのメディアの反応は後の機会に譲るが、この間、新聞・テレビ各社の自民党総裁選の予想が外れたのに始まって、カメラマンの「支持率下げてやる」発言、公明党の連立離脱の経緯など、ことさらに高市氏をたたくような報道が目立った。これは、一方に偏り過ぎという問題と同時に、そのような報道ぶりが既存メディアの信頼を一段と失墜させているという点で重大である。
まず総裁選について。ほとんどのメディアは直前まで「小泉進次郎氏優勢」と予想していた。例えば、朝日は総裁選終盤の9月30日付の記事で「議員票は小泉氏がトップ、高市氏は3位」「全国世論調査では自民党支持層の41%が小泉氏でトップ、高市氏は24%」と伝えていた。だが第1回投票の党員・党友票で高市氏が圧倒的な大差で1位となった。これがすべてを決することになったのだ。
最後の数日で高市氏が追い上げたとしても、ここまで予想と結果が乖離した原因は、メディアの情勢取材が議員の支持動向を中心としたもので党員・党友の取材が不十分だった、あるいはメディアの中の〝高市嫌い〟の傾向が高市支持の勢いを過小評価することにつながった―などが考えられる。だがこのような報道をしていては、読者や視聴者からの信頼をますます失うばかりである。
筆者はこれまで本欄で、米国の既存メディアの信頼度低下を何度か紹介してきた。米ギャラップ社が先日発表した最新調査では、「マスメディアを信用している」との回答が28%となり、過去最低だった昨年をさらに3ポイント下回った。そうした信頼低下は、米国の新聞・テレビの多くが民主党寄りと認識されていることが一因で、特に共和党支持者がマスメディアを信用している割合はわずか8%だ(昨年は12%)。
共和党支持者の間では、メディアへの不信から世論調査に回答しないケースが増えているという。このことから、昨年の大統領選前の世論調査でトランプ氏の支持率が実態より低く出ていたとみられるのだ。「接戦」との予想が大きく外れたのは、それが原因といえる。
同じように、総裁選でも「高市支持」の本音を言わなかった党員・党友が少なくなかったことが一因となって、メディアの予想が外れた可能性がある。メディアの報道姿勢が信頼を低下させ、そのことが選挙の予想を外す一因となって、ますます信頼低下を招いているとすれば、深刻だ。
今やネットには、新聞やテレビなど既存メディアを「オールド・メディア」とか「マスゴミ」などと揶揄する言葉があふれている。こうした現状に対し既存メディア自身の危機感は足りないように見える。メディアが信頼を取り戻すには、政治的に偏った報道を見直し、政策本位の報道姿勢に改めることが欠かせない。
(岡田 晃)週刊「世界と日本」第2304号
自民党総裁選挙
内容乏しい外国人政策
原因は運用厳格化求めぬ世論?
実態把握踏まえた外国人政策を
自民党総裁選が9月22日に告示(10月4日開票)されてから、候補者5人による論戦が盛んに報道されている。そのうちの1つが外国人政策だ。「7月の参院選でも争点となり、自民党は『違法外国人ゼロ』を公約に掲げた。その公約をベースに総裁候補はいずれも外国人規制を訴える」(日経電子版9/30)。こうした動きを受けて、全国紙は9月27日から30日にかけて社説で外国人政策を取り上げた。
しかし、各候補者の主張する政策や論点は貧弱で、外国人政策の確立が期待できるのか疑問だ。例えば、「総裁選の候補者たちは外国人に関する政府の司令塔機能の強化を一様に掲げている」(日経9/30)が、司令塔が機能するためには、それを動かすための原理・原則や戦略が欠かせない。しかも、実態、現実・事実、日本全体および地域のニーズ、つまり証拠の積み重ねも不可欠だ。
ところが、各候補者は、「奈良公園のシカを蹴り上げている外国人がいた」とか(朝日・毎日9/29社説)、「ルールを守れない外国人に対しては厳しい措置が必要だ」(日経9/30)という程度の認識で外国人規制を考えているようだ。これは、コンクリート詰め殺人や無差別殺人など、シカを蹴り上げる行為以上に残酷な行為を行った犯罪者を取り上げて「日本人は残酷だ」と主張するのとほとんど変わらない馬鹿げた主張であるし、「ルールを守れない日本人に対しては厳しい措置」は不要なのかと問いたい。「外国人労働者や訪日観光客の増加に伴い犯罪や迷惑行為、社会保障制度の不適正利用などが目立つようになっている」(産経9/27主張)としても、自転車の信号無視・右側走行・スマホ見ながら運転などの違反行為や、優先席に率先して座ろうとする若年・中年の不適正利用者はほぼ日本人だ。
問題は、外国人・日本人の区別よりも、なぜ日本では違法行為や迷惑行為が禁止されずに放置ないし容認されてきたのかだ。原因として考えられるのは、治安当局への資源・人材投入不足と、治安当局による運用厳格化を認めない世論やメディアの姿勢である。
一方、外国人政策が排外主義に陥ることは望ましくない(読売9/26、産経9/27、毎日9/29、日経9/30の各社説)としても、なぜ排外主義的な動きが生じるかの議論や分析は不十分なままだ。
例えば、外国資本による土地・住宅取得で価格や家賃が高騰したり、政府が「人手不足への対応などとして外国人の働き手の受け入れを増やし、地域の消費を増やしたいと外国人観光客の誘致に力を入れてきた」(朝日9/29社説)ことで外国人や外国人観光客が増加し、雇用環境や生活環境が激変したことで排外主義支持に傾いた可能性がある。そうであれば「人口減少が深刻化するなか、今後の経済成長や社会の活力維持に外国人との共生は欠かせない」との認識のもと、「外国人政策は実態把握し冷静な議論を」(日経9/29社説)することが今必要ではないか。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2303号
イスラエル、ドーハ空爆
協議のハマス幹部殺害
ガザ停戦破壊の暴挙と毎日
トランプ手玉のネタニヤフ
イスラム組織ハマス幹部の殺害を狙ったイスラエル軍によるカタール首都ドーハへの空爆を、全国紙はこぞって9月11日付社説で非難した。
ただし産経だけはDNA鑑定の不正と緊急避妊薬の市販問題と別テーマだった。
かつて新聞界には「新聞は皆同じではありません」とのキャッチコピーがあった。社説も同様。同じである必要はない。とは言えカタール攻撃以上に重要で緊急のテーマが他にあっただろうか。厳しい言い方になるが、産経の選択は判断ミスと言わざるを得ない。
イスラエルは1昨年10月のハマス奇襲攻撃への報復開始以来、イランやシリア、レバノンなどにミサイル攻撃を行い、主権侵害は初めてではない。
しかしカタール爆撃の深刻度や影響の大きさがその比でないことは、ルビオ米国務長官が即現地入りしたことなどからも明らかだ。
同国は中東最大の米軍基地を擁し、イスラエルの後ろ盾米国の「同盟国」も同然。また仲介外交にも頭角を表し、ハマス・イスラエル衝突では最初から仲介を担って来た。
爆撃はトランプ大統領による停戦案の協議に集まったハマス幹部の殺害を狙ったものとされ、もはや停戦協議ぶち壊しの確信犯である。毎日が11日社説で《ガザ停戦を破壊する暴挙》と言い、特集で《イスラエルの際立つ暴走》に焦点を当てたのももっともだ。
また朝日《国際法無視が目に余る》と読売《戦火広げるイスラエルの無法》の両社説は、自衛以外の他国への武力行使を禁じる国際法の度重なる無視を取り上げ、中東全域に戦火を広げるネタニヤフ首相を《国際秩序を揺るがす元凶》(朝日)と指弾している。
ネタニヤフ氏のそこまでの強気の源は何か。《トランプ氏が極端なイスラエル支持の政策を続けていることが、ネタニヤフ氏を増長させているのは否めない》と読売社説は言う。否めないどころか、イスラエル支持の代償の大きさに、もっと思いを致すべきだろう。ここに米イ間の問題点が凝縮されている。
トランプ氏がカタール攻撃を知ったのは直前で、もはや止めようもなく不満を露わにしたと各紙は一斉に報じている。しかし不満など織り込み済みだろう。先手必勝とばかりに攻撃するネタニヤフ氏に足元を見透かされているのである。
ウクライナ停戦交渉ではロシアのプーチン大統領が、中東でもネタニヤフ氏の方がトランプ氏より何枚も上手で、したたかだ。
世界の今後を左右する二つの戦争で、トランプ氏の戦略なき場当たり外交が失点を重ねていることを、マスメディアは直言する時が来ている。国防総省を戦争省と呼ばせる最近の大統領令も、場当たり政治そのものだ。
「戦争省は今では時代錯誤的で、好戦的な響きさえある。戦争を抑止し、平和を追求するわが軍の目標に照らして、国防総省の名がふさわしい」とのブッシュ(父)大統領の言葉は、遥かに歴史を踏まえている。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2302号
アフリカ開発会議
アフリカの重要性確認
関係強化に逆行する実績
建設的な関係強化を図れ
8月20~22日、横浜市で「第9回アフリカ開発会議」(TICAD9)が開催され、最終日の22日に「日本とアフリカ相互の利益目指」す「横浜宣言」を採択して終えた。開催中に石破首相はマラソン会談に臨み、アフリカの首脳や国連のグテレス事務総長など「計34人と個別に議論した」。「会議で石破首相は、インド洋とアフリカの一体的な経済発展を目指す『インド洋・アフリカ経済圏イニシアチブ』を提唱した」。また、「締結された協力文書は、…前回会議の3倍を超す300件以上」となった(以上、読売オンライン8/22の複数配信による)。
全国紙オンライン版社説は、8月16日から25日までの間に対アフリカ関係について論評した。
アフリカの重要性はこれまで以上に高まっている。「アフリカ大陸は、銅やコバルトなどの鉱物資源が豊富だ。経済安全保障の観点からも、重要な資源の供給網として各国との結びつきを強めておく意義は大きい」(読売8/21)。また、「アフリカの人口はインドや中国を上回る約15億。…経済成長は堅調で、今年も世界平均を上回る見通しだ。若年労働力や巨大市場への期待から『最後のフロンティア』とも呼ばれる(朝日8/19)。「アフリカは国連加盟国の4分の1に当たる50カ国以上を擁し、グローバルサウス(新興・途上国)の一角を占める。国連外交や多国間協調で貴重な協力相手にも見込める」(日経8/22)。
アフリカの重要性に関心を持つのは日本だけではない。特に「中国とロシアは巨額インフラ投資や軍事力で影響力を及ぼし、一部の国にみられる強権体制を支えている」ことから、「日本や米欧は、中露の動きに対抗し、アフリカ諸国の民主主義や経済発展の実現に協力していく必要がある」(産経8/18)。
ところが、「欧米で自国第一を掲げる勢力が台頭し、アフリカへの支援は縮小の方向」にあり、「米政権による相互関税に、アフリカ各国は苦しんでいる」(読売8/21)。「だからこそ日本の役割が重要だ」(産経8/18)。
しかし、これまでの実績はこれに逆行する。「日本は『援助から投資へ』とうたってきたが、アフリカへの直接投資残高が13年末のピークを下回ったまま」(日経8/22)で、「23年末で約80億ドル(約1兆2千億円)と、英米仏に続く中国の5分の1の規模にとどまる」(東京8/25)。対アフリカ貿易も、24年の輸出額は中国の5%、輸入額は8%で、対世界輸出入額に占める対アフリカ輸出入額の比率も、中国の5%に対し、日本は1%程度だ。しかも、アフリカからの輸入額の3分の2を南アフリカが占める(ジェトロと中国海関局の資料)など偏りがある。
こうした現実を前にすると、日本の対アフリカ関係強化には工夫が必要だ。その意味で、全国紙が「共栄目指し中露に対抗を」(産経8/18)、「成長するアフリカの課題解決をともに」(日経8/22)といった建設的な提案をしたことは高く評価される。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2300・2301号
中国リスクと対中姿勢
日中関係と岩屋外相
産経はスパイ防止法を主張
日経の主張は曖昧過ぎる
2023年3月に中国北京市で拘束されスパイ罪で起訴されたアステラス製薬の60代の日本人男性社員に、同市の第2中級人民法院は懲役3年6カ月の実刑判決を言い渡した。公判は日本メディアに公開されず、具体的な起訴内容は公表されていない。判決公判を傍聴した金杉憲治駐中国大使は「有罪判決が出され、極めて遺憾だ」「早期釈放を求め、男性の支援を行っていく」などと語った。
「国家安全」を最優先する習近平政権は14年に反スパイ法を施行し、これまでに少なくとも17人の日本人を拘束した。いまも5人が解放されておらず、うち4人は実刑判決が確定して服役中だ。今年5月にも、上海の裁判所が50代の日本人男性に「スパイ活動」を理由に懲役12年の判決を下している。まさに異常な状態と言えるだろう。
新聞各紙(全国紙)も一斉にこの判決(日中関係への影響)を報じた。当然、社説でも取り上げている。
産経新聞は「岩屋毅外相は7月10日、中国の王毅外相と会談し『戦略的互恵関係』の推進を改めて確認した。日本人が解放されない現状で互恵関係推進を謳うのは、常軌を逸している。国民のために真剣に働くべきだ」と断じているが、歴代の外相のなかでも特に岩屋氏の対中姿勢は弱腰(媚中的態度が続いている)であり、外相としての資質に踏み込んで断じてほしかった。
読売新聞も「中国は、王毅外相が7月、岩屋外相とのマレーシアでの会談で『両国関係は改善と発展の流れにあり、この状況を大切にすべきだ』と発言するなど、日本との関係改善に意欲を示している」とだけ触れ、産経と同様に岩屋外相の対中姿勢にまでは言及していない。
朝日新聞は「最近の中国側は姿勢を軟化させている。福島第一原発の処理水放出を受けた日本産水産物の禁輸を緩和し、牛海綿状脳症(BSE)の影響で01年から続いた日本産牛肉の禁輸も解除に向け手続きが進む。米国との対立を背景に、中国は日本を含む周辺国との関係改善を図っている」と論じているが、最近の中国軍機の自衛隊機に対する異常接近行為から考えれば、中国側の姿勢が軟化しているとは到底思えない。認識が甘くないか。
日経新聞は「日本政府は引き続き、中国側に日本人の安全を守るよう強く求めていくべきだ」と述べているが、反スパイ法による不当逮捕(拘束)の異常性を問題視しているのか、日本人が中国国内で殺傷事件などの犯罪に遭わないための治安対策の強化を求めているのか。ここで言う「安全を守る」という意味がよくわからない…。
最後に、産経が「スパイ防止法を持つ欧米諸国は、逮捕した中国人スパイと中国に逮捕・拘束された自国民を交換して救出してきた。日本もスパイ防止法を急ぎたい」と提言している。評価したい。先の参議院選挙でもスパイ防止法の必要性を訴えた政党があった。中国に対抗するには日本もスパイ防止法が必要だろう。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2299号
ピンチをチャンスに変えた
「80年間」の教訓を生かせ
やや画一的な「戦後80年」報道
もっと多角的に未来志向で
毎年夏になると、新聞やテレビでは「戦争」をテーマとする報道が増えるが、特に今年は戦後80年の節目の年とあって、例年以上に「戦争」関連の特集が多くなっている。
朝日は6月から連載『私に何ができるか 戦後80年』をスタート、7月6日からは『戦後80年 つむぐ被爆者3564人アンケート』と題する連載(中国新聞、長崎新聞との3社共同企画)を掲載している。毎日は『証言・被爆80年』『「戦争をしない」を続けるために』『デモクラシーズ』など、読売も『あの時あなたは 80年前の日記・手紙から』『検証 戦争責任』など、多彩な連載やコラムを掲載している。
3紙は一般記事でも「戦後80年」を数多く扱っている。3紙以外の各紙やテレビも含め「戦後80年」という言葉を見聞きしない日はないほどだ。
各紙・各局によって若干の違いもあるが、総じて見ると、戦争体験者が年々少なくなっていることから戦争体験の継承を強く意識したもの、最近の国際情勢の緊迫化と重ね合わせて戦争を繰り返してはならないと訴える内容―などがほぼ共通しており、今年の特徴の一つとなっている。
「戦後80年」を多く取り上げることは、メディアとして当然だ。それを大前提としつつも、その内容がやや画一的ないし一面的な印象なのが気になる。それは、「80年前」に関するものが大半で、「80年間」についての検証・考察が極めて少ないことだ。現在と今後の日本を考えるうえで、「80年前」だけでなく「80年間」から学ぶべき点は多いはずだ。
周知のように、戦争で多くの人が犠牲となり、ほとんどの都市が焼け野原となった。経済は壊滅的な打撃を受け、戦後は食糧難とハイパーインフレに苦しめられた。だが当時の人たちはそうした時期を懸命に生き抜き、わずか10年で日本を復興させたのである。
昭和31年の『経済白書』は「もはや戦後ではない」と宣言して話題となった。実際その頃には、実質国民所得、鉱工業生産、個人消費支出など主な経済指標の水準が戦前・戦中のピークを上回るようになっていた。同白書で当時の経済企画庁長官が「終戦直後のあの焼土のうえに立って、生産規模や国民生活がわずか10年にしてここまで回復すると予想したものは恐らく一人もあるまい」と記しているが、まさに驚異的な復興ぶりだった。
この勢いのまま昭和30年代から40年代まで日本は高度経済成長を成し遂げた。
こうした戦後復興と高度経済成長を可能にした背景として3つの要素を挙げることができる。
第1は、米国による食糧援助や経済支援の効果だ。第二次世界大戦終結後に米ソ冷戦が激化する中で、米国が日本の経済再建と経済成長を全面的に支援した。これが日本にとって大きな力になったことは間違いない。
その後の世界は冷戦終結を経て、今再び冷戦時代のような様相を見せ始めている。これは日本にとってリスクではあるが、その一方で日本の地政学的重要性が高まっている側面にも目を向ける必要がある。西側企業の脱中国あるいはチャイナプラスワン戦略の受け皿の一つとして日本が重視されているのだ。
折しも日本はいま世界中から注目を集めている。2024年の訪日外国人による消費額は8兆円余りに達した。ちなみに、日本の品目別輸出額の第1位は自動車で18兆円、第2位が半導体等電子部品の6兆円だ。これと比較すると、インバウンド消費額は「第2位の輸出産業」に躍り出ているのである。
かつての冷戦時代と現在では、内容は異なるが、国際情勢の変化が日本にとって“追い風”の要素もあるという点では共通している。だが、こうした視点からの報道はほとんど見当たらない。
第2は、日本企業の技術力だ。例えば、昭和21年に創業したソニー(当時は東京通信工業)は日本で初めてテープレコーダー、続いてトランジスタラジオを開発し、普及させた。
昭和30年頃、創業者の一人である盛田昭夫(後の同社社長・会長、敬称略)がトランジスタラジオ売り込みのため渡米した際、ある会社から「10万台買いたい。ただしSONYブランドでは誰もわからないので、当社の商標を付ける」とのオファーを受けたが、10万台もの大量受注は魅力だったが、盛田はこれを断った。世界進出という目標と自社技術への自信があったからで、「SONYブランドを世界中で有名にしてみせる」とこだわったのだ。そしてそれが実現したことは、今日の我々がよく知っているとおりだ。
ソニーと同じように、日本企業の製品はその高い技術力と品質から「Made in Japan」と世界中で称賛される存在となったのだった。
高度成長時代のことについて、メディアでは「過去の栄光を懐かしんでも意味がない」「今の低成長時代に参考にならない」といった受け止め方が支配的だ。しかし高度成長時代には、今後の日本経済復活への教訓が満載なのだ。それは、「夢よもう一度」などという次元ではない。
第3は、当時の日本人が敗戦と戦後の過酷な環境から立ち上がって挑戦し続け、戦後の経済発展の原動力となったことだ。そこには、新しい日本を再建するという志と情熱があった。そのエネルギーが、いわばピンチをチャンスに変えたのだ。
今のような状況は、まさにピンチをチャンスに変えることを必要としている。しかしバブル崩壊以来、日本人はそうしたエネルギーを十分に発揮できず、物事を過度に悲観的にみるクセがついてしまった。メディアはそのような多くの人を元気づける役割を持っているにもかかわらず、逆にますます悲観バイアスのかかった報道に終始しているのが実態だ。
このように、「戦後80年」にはもっと分析・検証すべきテーマは多いはずだ。今後の日本が元気を取り戻し、経済復活を実現するためには何が必要か―そうした未来志向で多角的な「戦後80年」報道を望みたい。
(岡田 晃)週刊「世界と日本」第2298号
最高裁の生活保護判決
産経と毎日の問題提起
違法判断は改定の手順
不可欠な物価指数の理解
6月27日、最高裁は、「国が2013年から15年に生活保護費を大幅に引き下げたのは違法と認め、減額決定を取り消した」(朝日6/28)。「同種の訴訟は全国29地裁に起こされ、今回の判決はその統一判断となる」(読売社説6/28)。
最高裁の生活保護判決に対し、全国紙は6月27日から7月1日にかけて社説でこれを論評した。その論調は、国と厚生労働省の責任を問い、「公正で透明な生活保護制度」(日経社説6/27)を求めるものだ。さらに朝日と東京は謝罪と救済を求め(6/28社説)、「政府は減額分を追加支給する検討に入った」(産経主張7/1)。
今回の争点は、厚生労働省が「食費や光熱費など日常生活に充てる『生活扶助費』の基準額」について、「リーマン・ショックの影響を踏まえた『デフレ調整』と、一般低所得世帯とのバランスを加味した『ゆがみ調整』に基づいて算定」し、「段階的に最大10%下げ、総額約670億円を削減した」ことだ。「最高裁判決は『ゆがみ調整』を適法とする一方、『デフレ調整』については、・・・物価下落率だけでは消費実態は把握できないと判断した。専門家の意見を聞かずに決定した経緯も問題視した」(日経社説6/27)。ここでは、産経と毎日が提起した重要な論点に注目したい。
産経(7/1主張)は、「最高裁が違法と判断したのはあくまで減額の手順や過程に関してであって、生活保護費の引き下げそのものについてではない」とし、「『生活扶助費』の基準額について、従来は一般国民の消費動向などを踏まえて改定してきたが、初めて物価変動率だけを改定の指標にした」ことを問題視した。基準額引き下げではなく、改定の手順や過程が違法と判断されたという産経の指摘は、今後の類似の判決にも関わる極めて重要な知見だ。
毎日(6/28社説)は、「デフレ調整」では「購入機会の少ないテレビやパソコンなどの下落率が反映された」ことを取り上げた。
では、適切な消費者物価とは何か。日銀が重視してきた消費者物価は生鮮食品を除く総合指数だが、生活者からすれば生鮮食品を含む総合指数が重要だ。
厚労省が今回の算定に用いたのは、08~11年の物価変化率だが、この間に総合指数は連続して下落した。この間のデフレを牽引したのは、55%下落の教養娯楽財(テレビ、パソコン等)、38%下落の家事用耐久財(レンジ、洗濯機、冷蔵庫等)、98%下落の公立高校授業料だ。どれも生活保護世帯との関わりが小さいことは明白だ。
問題はこれにとどまらない。統計では、00年から24年の間にノートパソコンは99%下落したが、実際の購入価格がこれほど下がることはない。要は、この間に大幅な品質向上があったとして99%下落と計算されたのだ。パソコンを含む大幅下落品の多くは情報通信技術による大幅な品質向上によって計算上は大幅な価格下落があったとされたものだ。こうしたデフレの本質を理解する者は少ない。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2297号
ランブイエから50年
米の独断と欧の不作為
G7は漂流から解体危機か
G6+1とトランプのG7軽視
カナダ・カナナスキスでの主要国首脳会議(G7サミット)に先立ち、産経新聞は6月16日朝刊1面で《G7漂流の危機》と報じた。実際は漂流どころか解体の危機さえ感じさせた顛末だった。
どうもカナダはG7との相性が宜しくない。前回2018年のシャルルボワではトランプ大統領とメルケル独首相(当時)が睨み合い、安倍晋三首相(同)らが見守るレアな光景が世界に拡散した。
今回も「主役」はトランプ氏だ。出席は16日のみ、中東情勢を理由に帰国した。恒例の首脳宣言も議長国カナダが意見の不一致を予期し早々に断念、ウクライナ支援の共同声明もなし。ロシア非難の内容を薄めたい米国に、ウクライナに公平でないと発出を見送った(朝日新聞19日)。
確かにイスラエル・イラン情勢は緊迫の一途だった。しかし危機の時こそ結束し打開を図って来たのがG7である以上、米国任せで良いのか。またウクライナ支援はG7の根幹であり、これでは何の為のG7か、だ。
また先制攻撃の自衛権を支持する声明はイスラエル寄り過ぎ、グローバルサウスのG7への信頼を損ないかねず、禍根を残すものだ。トランプ氏の独断専行と残るG6の不作為の責任は大きいし、それを正面から突かないメディアも役割放棄ではないかと思う。
折りしも今年は第1回仏ランブイエから50年の節目だ。読売新聞15日社説は、かつて世界の6割を占めたG7の国内総生産(GDP)が、中国の台頭で今や4割に減少、リーマン・ショック後はG20の活動も本格化し《G7の存在感低下を指摘する声は多い》とした。
とは言えG20も国連も代替たり得ず《G7が世界の平和と安定を取り戻す役割を果たさねばならない》と主張する。
また同日の毎日新聞社説も今や《最大の試練にさらされている》としつつも《強い政治力と経済力、高い技術力を持ち、同じ価値観を土台に解決策を探る意思を有するのはG7をおいて他にない》とした。現状からの脱却が如何に至難か見本のような両社説だ。
「G6+1」の表現が散見されたのも、今次サミット報道の特徴だ。1は米国を指す。日経新聞16日は《G7「1強+6」が招く停滞》と題し、トランプ氏のG7軽視の一因を1とG6の経済力の格差拡大に見た。
G6のGDPの合計は2000年の35%から24年には18%と半減。二国間による取引外交を優先するトランプ氏には《G7はもはや数ある多国間枠組みの一つにすぎない》というわけだ。
その意味では日本の歴代首相が十年一日の如く「アジアで唯一の参加国」と特別扱いを語るのも、引き時だろう。そもそもG6のGDP押し下げの主因は日本なのである。
次期G7へ、危機克服の方策は?産経社説19日はG7の意義をG6はトランプ氏に理解させよと主張した。しかし現状のG6にその力のないことを証明したのがカナナスキスだった。危機の根は深い。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2296号
トランプの反知性主義
執拗なハーバード攻撃
活力の源泉より敵対者排除
本音は民主党勢力潰し
連日のように、トランプ政権が米国国内を含む世界中を混乱に陥れている。米国国内では、積年の問題を一挙に解決してくれる頼もしい大統領としてふるまう一方、批判・抵抗勢力や気に食わない人物には名指しで公然と批判し、執拗に貶め、窮地に陥れる。あらゆる手段を使って大統領権限を拡張し、自らの敵を圧殺しようとする姿勢は、民主主義体制にも権威主義がはびこることを証明した。民主主義の下で民主主義を圧殺するトランプ政権は、マッカーシー旋風(赤狩り)の再来であり、米国国外では米国への信頼と敬意を急速に失わせている。
トランプとその取り巻きは、批判の矛先を大学に向け始めた。世界最高峰の大学の一つであるハーバード大学に対する執拗なまでの攻撃である。
米国の国土安全保障省ノーム長官は、「ハーバード大学が外国人学生ビザ保持者に関する情報提供の要請を拒否したこと」を根に持ち、同大学が「『暴力や反ユダヤ主義を助長し、中国共産党と連携している』と非難し、学生ビザ取得に必要な『学生・交流訪問者プログラム』の認定を取り消す」と発表した(ロイター5/23)。トランプ自身も、「留学生の名前と(出身)国名を教えろ」と要求し(毎日5/25)、外国人留学生が多いために入学希望の「アメリカ人が入学できない」と批判し(TBSテレビ5/26)、米連邦政府が「ハーバード大と締結する調査や研究、研修など全ての契約を打ち切る」と迫った(共同5/27)。この措置は、他大学への警告でもあるとして大学関係者を恫喝、5月27日には「米国留学希望者が学生ビザ(査証)を取得する際に必要な面接の新規予約を一時停止する指示」(時事5/28)を出し、世界中の米国留学希望者を震撼させた。
トランプはなぜハーバード大学を攻撃するのか。日経5/28はその理由として、同大関係者のリベラル志向(民主党支持)、反エリート主義(非大卒白人は共和党支持)、反中国(中国人留学生が最多)、反ユダヤ主義取り締まりへの消極的態度の4つを挙げる。
例えば、クリントン政権で財務長官を務めた著名経済学者のサマーズ氏は、トランプ政権の相互関税を「危険で有害な経済政策」と批判した(読売4/4)が、彼は有名な民主党支持者で、今世紀初頭にはハーバード大学長を務めた。24年6月には、16人のノーベル経済学賞受賞者が、トランプが再選されると「米国の経済的地位が低下し、国内経済が不安定化する」と警告していた(日経24年6/27)。16人中の8人はユダヤ系で、ハーバード大教授経験者が5人いた。トランプ政権の本音は、こうした民主党の影響力が強い大学潰しなのであろう。
トランプは、ハーバードの留学生には「米国と友好的ではない国も含まれている」(毎日5/25)」と投稿したが、もし非友好国出身者を排除しようとするならば、キューバやベネズエラの出身者が多い米国大リーグ(MLB)も攻撃対象にすべきだろう。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2294・2295号
トランプ関税第2幕へ
米中貿易戦争視界不良
対中国圧力の無意味さと朝日
米中主戦場は東南アと読売
トランプ関税を巡る攻防は米中が睨み合う第2幕に突入した。
発動後僅か10数時間でトランプ政権が中国以外の国々には90日間の猶予を与えたからだが、肝心のトランプ氏の腰が定まらない。対中145%の高関税を「大幅に下げる」との発言は譲歩か取引か。貿易戦争の行方は一段と混沌である。
朝日社説4月15日は《対中国圧力の無意味さ》を説く。米国の信頼が失墜した国際情勢は外交の好機だし、内政的にも理不尽な仕打ちに習近平政権の求心力は高まると見る。
一方で中国は米国に対等な協議も求めており、対話解決が朝日の立場だ。《米国抜きの世界経済も、中国抜きの世界経済も考えられない以上、共存を図るしかないはずだ》とは誠にその通り。それが通るなら現在の混乱も苦労もないのだが。
読売社説4月20日(オンライン)は《東南アジア 米中せめぎ合いの主舞台に》の見出しの下、習近平国家主席のベトナム、マレーシア、カンボジア3カ国の歴訪に着目。特にベトナムは《中国との経済協力の推進が不可欠との判断に傾いたのではないか》と見るが、そこまで積極的意味があるのか疑問だ。読売も書くように、ベトナムは米国との良好な関係の維持に腐心し、共産党同士は関係良好でも対中不信は根強い。この基本にブレはなく、その限りでの中越協力ではないだろうか。
産経社説4月20日も習氏歴訪を取り上げ、《いずれの国も習氏を歓迎してみせた》が、《外遊には対米不満に付け込んで各国と連帯を強化し、米国に対抗する狙いがある》と警戒を呼び掛けた。
これまたその通りで、3カ国を含め東南アジア諸国は皆、中国の思惑は先刻承知だ。問題はそこをどう克服するかなのである。
習氏歴訪の翌19日、海上自衛隊の掃海母艦と掃海艦がカンボジアのリアム海軍基地を初寄港し、歓迎された。同港は工事を支援した中国の軍事拠点化が懸念されるだけに、寄港の意義は小さくない。
石破首相は習氏の後塵を拝した形ながら、4月下旬、ベトナムとフィリピンを訪問。産経主張(社説)が《中国に取り込まれないように働きかけを強めるべき》と注文をつけたのは妥当だった。欲を言えば、習氏より首相の歴訪をもっと掘り下げて貰いたかった。
歴代首相は東南ア重視を言うものの、当の東南ア諸国から見れば、近年は中国の存在感が圧倒的で、日本は影が薄くなるばかりだからだ。石破首相にはその反省とともに、米中対立を縫い、打って出るような積極性が求められている。
日経社説4月18日(デジタル版、紙媒体は19日)が、70年前のこの日、インドネシア・バンドンで開かれたアジア・アフリカ(AA)会議を取り上げたのも、《今こそグローバルサウスの国々と連携を》との社説の狙いと重なるからだろう。
時宜を得た社説だが、会議をややバラ色に描き過ぎ。限界や問題点にも言及してこそ、グローバルサウスの問題性も見えて来る。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2293号
コメ不足の影響ジワリ
農政に欠ける広い視野
外敵から国を守る「防衛力」
内から国を守る「農業の力」
「給食のパン食を週2回から3回に増やし、その分、米飯食を減らす」「養豚用のエサに当ててきたコメを確保できず、従来のように高級ブランド豚の味とイメージを維持できない」「日本酒などの伝統的酒造りが去年、ユネスコの無形文化遺産に登録されたのに、肝心の酒米の確保が一層難しくなり、心配です」……。
そんな趣旨の記事が各紙紙面に散見される。「風が吹けば桶屋がもうかる」式の笑い話では済まされない切実さが潜む。切実さとは危うさであり、つまりは日本の食糧事情の怖いほど薄っぺらな様子であるが、それを国民はコメ騒動を通じ嫌でも自覚させられた。
ただその際、昨夏スーパーなどのコメ売り場から突然コメが消えてしまった事態を、農水省などは十分には捉え切れず、あるいは捉えたくなかったようだ。「だれかが投機用に売り渋っている。新米が出回る時期になれば必ず戻ってくる」と、隠匿された形だが、どこかにコメは必ず存在していると、大ように構えていた。
しかしいつまでたってもコメは棚に戻らず、ついには(官邸に促される形で)伝家の宝刀たる備蓄米まで放出するに至った(3月10~12日、26~28日、以下7月まで毎月)。それでもなお劇的な効果を上げてはいない。農水自身の調査でも、全国スーパーのコメ価格の平均は4月6日までの1週間で5キロ当たり4214円。14週連続の値上がりだ。
朝日「コメ高騰『売り惜しみ説』撤回」(4/1)によると、農水省はコメ不足の原因を「業者が投機用に売り渋っている」から、混乱する市場を目にした消費者や流通業者らが心配して「在庫を少しずつ増やしたこと」へと変更したというが、両者のメンタリティは180度異なる。短期間で基軸が逆転するような分析は果たしてまともなのかどうか。
「収束せぬ『コメ騒動』 底流には何が/上」(毎日4/15夕)は、岡山でコメ専業の農業法人を夫婦で経営する本山紘司氏(45)の現場の意見を紹介する。本山さんは元農水省の職員であり、かつ若いころからの信念が「日本を守る条件は二つ。外敵から守る『防衛力』、中から国を守る『農業』」。コメの力を確信するからこそ、農水省を辞めてまで自らもコメ作りに励むのだが、その彼の言葉からは、自負とともに強いラメント(慨嘆)の響きも同時に聞き取れるように思うのはどうしてだろう。
投機用に一部の業者がコメを密かに備蓄した―。後に訂正したとはいえ嘘八百の原因を政府自らが主張したことは、裏を返せば「国民の主食であるコメの所在をつかむ手段が政府になくなっていること」にほかならない。加えて昨夏のコメ騒動の折、南海トラフ地震発生への警戒が、流通現場での異例の争奪を引き起こす一因になったともいわれた。
それに対しても「一つのきっかけで大混乱が起きるような環境に『主食』をさらすことが政策として妥当なのか」と問いかける。
(本郷 一望)週刊「世界と日本」第2292号
米国の自動車高率関税
日系メーカーの打開策
相互補完的存在の南米市場
経済安全保障にも寄与
関税男(タリフマン)を自称する米国大統領トランプの関税政策が世界経済と米国経済の悪化をもたらすとして世界中からも米国国内からも反発を浴びている。同時に、トランプの懐刀かつ金庫として投票をお金で買う一方、多数の公務員を無能とののしって首切りをする極右イーロン・マスクにも批判が集まり、自らが所有する自動車製造販売会社テスラや短文投稿サービスのXに対して不買・退出運動が起きている。
友好国にも敵対国にも高率関税を振り回し、無理難題を要求するトランプに対して、カナダやEUのように正論で立ち向かうことなく、自国だけは関税対象から外してほしいと懇願しながら無視されて赤っ恥の日本。物価上昇率2%以上が3年続いても、いまだデフレ脱却を言い続ける政府。非常識は米国だけでなく日本でも蔓延しているようだ。
米国が導入する高率関税の中で、日本にとって最も気になるのは、日本の輸出の2割(部品を含む)を占める自動車産業への影響であろう。「日本車メーカー6社が3日発表した2024年の米新車販売台数は前年比6%増の588万2438台」(日経1/4)で、これは国内新車販売台数457万台余り(NHK WEB4/1)と比べて3割弱、130万台多い。ここから日系メーカーが米国市場を重視するのは当然としても、トランプ関税は米国一辺倒には大きなリスクが伴うことを露呈した。
問題は、米国市場や中国市場に匹敵する海外市場がどこにあるかである。23年の自動車販売台数では、3000万台の中国、1600万台の米国、500万台のインド、480万台の日本、320万台のドイツと続く(国際自動車工業連合会の販売統計)。
この中で拡大が期待されるのは高成長と自動車販売急増のインドである。ただし、有望市場はインドに限定されない。経済規模や人口規模の割に販売台数が相対的に少ない国・地域がその候補だ。
例えば、2億人・2兆ドル超のブラジル、5億人・1兆ドルの南アジア(インドを除く)、6億人・4兆ドルの東南アジアが注目される市場だ。中でもブラジルはグローバルサウスの代表国で、6カ国で構成される「南米南部共同市場(メルコスル)の一員だ。
ブラジルのルラ大統領が3月下旬に来日して「メルコスル(南米南部共同市場)と日本との経済連携協定(EPA)締結の必要性を訴えた」(日経電子版3/27社説)。同社説は、「ブラジルは農業大国であり資源大国でもある。大豆やトウモロコシ、鉄鉱石の主な供給国で、再生可能エネルギーも豊富だ。工業製品を輸出する日本と相互補完的な関係にある。ビジネスに加え経済安全保障でも大切な国だ」とEPA締結の意義を説いた。それゆえに「経団連などがかねて経済連携協定締結を求めていた」(朝日3/26)ことはよく理解できる。23年の自動車販売台数も230万台で世界第6位だ。自動車産業の活路は開かれている。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2291号
全国人民代表大会開催
李活動報告は予想通り
米中激突に備えて足場固め
6月に米中誕生日サミット?
暴言妄言オンパレードのトランプ旋風を前に、メディア恒例春の中国全国人民代表大会(全人代=国会)報道も、今年は主役の座を滑り落ちた格好だ。
中国自身が長引く不況に、往時の高度成長時代の勢いや輝きを失った点も大きい。
しかし李強首相が北京の人民大会堂で政府活動報告を行った初日の3月5日、ワシントンではトランプ大統領が連邦議会上下合同会議で施政方針を演説していた。偶然とはいえ、最大のライバルを自他ともに認める米中の演説での「衝突」なら大いに歓迎出来る。
ただトランプ演説が歴代で最長の施政方針だったのに対して、李報告は僅か1時間、5%前後のGDP成長率目標や内需拡大、成長率を上回る軍事強化など中身も予想通り。来る米中激突に備え、粛々と足場を固める姿勢が滲み出た。
日経12日朝刊は全人代が承認した予算案で、科学技術予算が前年比10%増、2019年以来の伸びとなったことに注目。総額約8兆円は人員拡充やハイテク分野の基礎研究の加速、新興企業ディープシークで世界を驚愕させたAIやロボット、新素材などが対象で、《トランプ米政権との対立が長引くと見据え、民間も巻き込みハイテク向上を急ぐ》ためと見た。
一方内需拡大重視について、読売社説は《米国との貿易摩擦が激化すれば、中国経済を牽引してきた外需が深刻な打撃を受けるのは避けられない》(7日)からだとしている。
朝日もトランプ関税に言及しつつ《ただ、内需低迷の元凶である不動産不況については抜本的な対策は示されないまま》(12日)と不十分さを指摘した。
最も舌鋒鋭く、全人代全般を批判したのは産経主張(社説)だ。トランプ政権を念頭に「一国主義と保護主義」に反対する国際協調路線を訴えた李報告に、台湾沖軍事演習、東・南シナ海での現状変更の試みなど具体例を挙げながら、《自国を国際秩序の守護者のように見せかける偽善的な外交姿勢に惑わされてはならない。…美辞麗句を並べても習政権の危うい本質は変わらない》(6日)と国際社会に警戒を呼び掛けた。
特に中国のウクライナ戦争におけるロシア支援は言行矛盾、国際協調路線にもとること夥しい。ウクライナにすれば、2019年からロシアに代わる最大の貿易相手国となり戦略的パートナーでもあった中国の掌返しに正体見たりだろう。
ところで2287号(2月17日)の本欄で、トランプ氏と習近平国家主席を似た者同士の対立と書いたが、誕生日が共に6月とは知らなかった。
トランプ氏は14日、習氏は15日で、全人代閉幕前日の10日、米紙は米中が「誕生日サミット」を協議中と報じ、各紙テレビは一斉に転電した。
しかしトランプ大統領就任式招待を断った習氏は、渡米せずトランプ氏を呼びつけたいはずだ。トランプ氏は応じるだろうか。東アジアが明日のウクライナにならぬよう、日本開催を提案してはどうか。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2290号
教育無償化を最優先
政治優先、課題後回し
全国紙と専門家は批判的
教育現場の問題点認識欠如
2月25日、「自民・公明と日本維新の会の党首が・・・教育の無償化や社会保険料の負担軽減策について正式に合意」し、予算案が成立する見通しとなった(TBS NEWS DIG2/25)。
産経・FNN合同世論調査によると、年収制限を撤廃して私立高授業料も無償化する案には58%が賛成し、2月の維新支持率が前月比で倍増した(FNNプライムオンライン2/25)。このことから、国民の過半数は教育無償化を支持しているように見える。
しかし、はたしてそうか。YAHOO!の「みんなの意見」によれば、2月26日正午時点での結果は、私立高校の授業料無償化について「全くよくないと思う」66・6%、「あまりよくないと思う」15・7%と、8割以上が否定的だ。それだけでなく、全国紙も経済学者も教育無償化には極めて批判的だ。
読売社説2/22は、「教育効果の議論が欠けている」ことに加え、公立高校の定員割れ、私立の授業料値上げ、無償化に必要な財源などの課題を指摘する。日経社説2/15は、「教育改革や人材育成の視点を欠いている」とし、「高校全体の将来像や教育の質の向上策と一体で検討すべき課題だ」と主張する。
産経主張2/25は、「高所得者層へのばらまき色が目立つ今回の合意」への懸念を示し、「それだけの予算があれば、大学や大学院への進学支援を手厚くするなど」を先にやるべきだとする。「高校(通信制を含む)への進学率は約99%に達する」一方、「大学や大学院への進学の方が経済的理由で断念する例」が多いからだ。したがって、3党合意による高校無償化は、「大学なども含む日本の教育の向上に資するとは思えない」と批判した。
毎日社説2/22は、高所得者優遇や安定的財源確保の先送りに加え、私立と公立を同列に扱うことへの疑問、教員の長時間労働やなり手不足の深刻化、いじめや不登校に求められるきめ細かな対応など、「課題の議論が置き去りだ」と強く批判する。朝日社説2/21は、「予算成立や選挙でのPRをにらんだ打算的な決着」であり、「教員らの増員による学校環境の改善など課題が山積するなか、なぜ無償化を優先するのか」と問題提起する。
2月中旬に日経センターと日経が経済学者に行ったアンケートでは、所得制限撤廃による高校授業料支援には半数が反対(賛成4割)、私立校への支援拡大には7割が反対(賛成1割)、高校無償化の対象拡大が優先順位の高い政策かについては4割以上が反対(賛成1割台)など、高校授業料の実質的無償化には多数の経済学者が否定的だ(日本経済研究センター2/20)。
高校無償化に対する批判の背景には、「これまでの議論が対象世帯の拡大や支給額の上積みに偏り」(日経社説2/15)、教育現場での様々な課題の議論が不十分だという認識がある。そして、教育無償化は最優先課題でないことが明らかになった。これが7月の参院選にどう影響するか見ものだ。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2288・2289号
利権が絡む温暖化対策
温暖化対策の正当性
説明が足りない3紙の姿勢
様々な研究者の意見を聞け
トランプ米国大統領が温暖化対策の国際ルール「パリ協定」から再び離脱する大統領令に署名した。温暖化は地球規模の問題であり、米国がパリ協定から離脱すれば、様々な環境利権も絡み合い先が見通せない状況に入ってくるだろう。
新聞各紙もこの問題を社説で取り上げているが、朝日、毎日、日経新聞は米国の「パリ協定」離脱に批判的な論調だ。一方、産経新聞は3紙とは違うスタンスを展開している。読売、東京新聞は社説では扱っていない。
朝日(2月2日)は「世界中の科学者が協力する国連の『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』は、温暖化の人為起源を『疑う余地がない』としている。トランプ氏が科学的な事実に背を向けようとも、対策の重要性は揺るがない」と述べているが、ここで言う「世界中の科学者が協力」に関してはいささか慎重に論じるべきではないか。海外の学者の一定数の人たちが温暖化の原因が他にもあることを論文で発表しているからだ。日本ではあまり報道されないが、このことを朝日が知らないはずはないと思うが…。国連は「錦の御旗」ではないはずだ。海外の温暖化に関する論文をインターネットで検索してみたらどうか。
さらに朝日は社説の最後に「トランプ氏の1期目の離脱の際は、米国の多くの州政府や都市、企業、大学が温暖化対策の継続を宣言した」とも述べている。ここで「多く」という言葉を使用しているが、「多く」という表現ではなく、具体的な数字を示さなければ説得力がない。
毎日(1月23日)も「トランプ氏はこれまで『気候変動はでっちあげだ』と主張してきた。だが、科学的な分析で、こうした災害が温暖化と関係していることが明らかになっている」と述べている。毎日も基本的には朝日と温暖化の原因に関しては同じ認識のようだ。「各国の政治指導者は脱炭素の取り組みが後戻りすることがないよう、産業構造を転換し、経済成長と環境保全を両立する道筋を示す必要がある」とも述べているが、もう少し具体的な事例で説明しないと、朝日と同様に説得力がない。
日経(1月23日)は「多国間協力は正念場を迎える。日本は責任の重大さを自覚し、脱炭素機運の維持へ向けて欧州やアジアなどと連携を強めたい」と述べているが、果たして連携は可能なのか。連携するためにどのような取り組みが必要なのかについても言及するべきだろう。
産経(1月28日)だけが、米国の「パリ協定」離脱を契機に温暖化対策の現状の課題を「米国のパリ協定離脱は科学的議論の多様性とも関係していることを見逃すべきでない。国連機関は温暖化の主因を二酸化炭素と断定しているが、太陽活動や自然要因を重視する研究者も少なくない。こうした異論が、論文掲載や予算の面で圧迫されがちな現状は、学術研究の健全性を損なうものだ」と述べている。これこそ正論だと私は思う。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2287号
日鉄USスチール買収
禁止命令で大統領提訴
晩節汚したバイデン大統領
「中国を利するだけ」と産経
「永遠の同盟も永遠の敵もない。あるのは永遠の国益のみ」(英政治家パーマストン)とは言うが、バイデン米大統領の日本製鉄によるUSスチール買収禁止命令は、米国の国益に適うかも疑問だ。
息子への駆け込み恩赦と言い今回の決定も、晩節を汚すものではないか。《米企業と国家安保を害する経済的自虐行為》(ウォールストリート・ジャーナル3日)はまさに正論。敢えて米紙を引いた。
全国紙社説も《看過しがたい米の独善》(朝日7日)《信頼損ねる理不尽な判断》(毎日7日)《日米関係に禍根残す》(読売5日)《不当な介入だ》(日経5日)《判断は疑問だ》(産経5日)と、5紙異口同音に強い口調で決定を糾弾している。
もっとも報道ぶりは、日経が一昨年12月の買収計画の発表から約1年の買収交渉の再考や提訴した日鉄の狙い、今後のシナリオ等詳細で、他紙に差をつけた形だ。
印象に残ったのが「政治の逆風下でも野心を」(4日)のコラム。日鉄に厳しい現状を説きながらも《トランプ氏は米製造業の再生を進めると明言しており、希望が消えたわけでもない。雌伏の時こそ不透明な時代の経営を磨くいい機会と考えつつ、野心は持ち続けたい》とエールを送った。
社説も日鉄が買収を諦めないなら、もっと広い米国民の理解を得るよう《経営トップが顔の見える形で丁寧に説明して貰いたい》と注文している。
読売は政府に注文をつけた。良い視点だと思うが《今回の判断に対する具体的な説明を米政府側に求めるとともに、あらゆる打開策を探って貰いたい》は通り一遍のきらいもあり、もう一言踏み込んで欲しかった。
同紙報道によれば、USスチールの地元市長らは、地元の雇用を守り施設存続のための日鉄の取組みを支持する書簡を、バイデン氏に宛てている。
結局、大統領選と時期が重なり政争の具と化し、組織票を持つ全米鉄鋼労働組合(USW)会長の買収反対に屈したのだろう。
朝日8日は「時時刻刻」欄で、そのUSWと米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス社の会長を違法な買収妨害で訴えたことに注目。両者が連携し、「組合の強大な政治力を利用してバイデン大統領に働きかけた」との橋本英二・日鉄会長の言葉を紹介している。
日鉄に買収戦で敗れた同社は再挑戦の意向という。CEOが記者会見で「中国に過剰生産を教えた」など日本への感情的非難の剥き出しに、逆に米鉄鋼業界の衰退を感じた。
産経主張(社説)は合併が《世界の粗鋼生産の過半を占める中国企業に対抗する手段でもある》と中国に焦点を当て、《今回の判断は中国を利するだけ》と一刀両断している。
中国を念頭に半導体など幅広い分野で経済安保上の協力を進めながら、鉄鋼分野はダメでは整合性を欠くとの指摘はもっともだ。
国益と同盟、経済安全保障を如何に実現していくか。厳しい年明けとなった。メディアも性根を据えて報じたい。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2286号
自公と国民民主の距離
国民が納得する税制
無駄な支出内容を論じるべき
優等生的な論調では面白くない
与党が来年度の税制改正大綱をまとめた(本稿は12月23日時点)。
今年は衆議院の総選挙で自公が少数与党となり、野党の要求にも配慮する改正内容となった。
だが、議席を4倍に増やした国民民主党が主張する最低賃金の上昇率を根拠とした所得税の非課税額を178万円に引き上げることについて、自公は123万円を提示したことで、交渉が決裂。その結果、大綱には自公案が盛り込まれた。
新聞各紙はここに至る交渉の流れを連日掲載し、12月21日の社説でも取り上げている。
朝日新聞は「税制の改正 負担の公平 議論深めよ」というタイトルを付け、「国民民主党との協議が迷走し、あおりで懸案の先送りも相次いだ。その場しのぎでは社会課題に対処できない。公平で納得できる負担の形を示す責務を各党が思い起こすべきだ」と論じているが、ここで言っている「その場しのぎでは社会課題に対処できない」とは何を指すのかの説明がない。社説の最後に、「どれほどの負担が必要で、それをどう分かち合うか。望ましい仕組みを考え、国民の合意を得るのは議会制民主主義の根幹だ。国会で議論を尽くすよう与野党に求める」としているが、朝日が考える税制の見直しについてのイメージがよくわからない。
毎日新聞は「103万円の壁と税制大綱 責任ある政策論を国会で」というタイトルを付けているが、朝日と似たり寄ったりの論調に終始している。「国民生活に深く関わる税は国会で幅広い観点から協議すべきだ。与野党が議論を尽くし、道理にかなう一致点を見いだす。そうした『熟議』を実現する時である」としているが、「熟議」の中身まで示すべきだろう。
読売新聞は「税制改正大綱 無責任な楽観論は慎むべきだ」というタイトルを付けたうえで、「税制を改めれば、恩恵を受ける人と負担が増える人が出てくる。一人ひとりの負担能力に応じ、均衡の取れた税制を決めるのが政治の役割だ。財源を考えずに大幅な減税を唱えるだけでは、ポピュリズム(大衆迎合主義)でしかない。今回の『年収103万円の壁』を巡る議論を、公平な税負担はどうあるべきかを考える契機としたい」と論じ、さらに「税収は多少伸びているからといって、国のお金が余るようになったわけではない。無責任な楽観論は控えねばならない」としている。朝日や毎日に比べると一定の説得力がある。
産経新聞は「与党税制改正大綱 責任ある議論尽くしたか 安定的な防衛財源を確実に」というタイトルを付けている。防衛財源については朝日、読売も社説のなかで論じているが、産経だけが財源論だけでなく、中国などがどう見るかについて言及しているのは面白い視点だ。
一方、各紙は支出内容を見直すことによる財源の捻出については触れていない。なぜ触れないのかの理由が分からない。無駄な支出内容にメスを入れることは当然のことである。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2285号
プラゴミ条約合意失敗
ロシアなど規制に反対
日本存在感発揮できずと毎日
中国は流出規制せよと産経
昔は新聞、雑誌、チラシと日々たまる紙の処分に追われていたのが、昨今はプラ処分が取って替わっている。
何しろプラスチックは軽くて丈夫、清潔だし安価と便利この上ない。日常生活のあらゆる局面に浸透し、今や世界を席巻したと言っても過言ではない。
ところが自然界では永遠に分解されない特質が仇となり、プラごみ汚染は自然界から人間社会まで脅かすに至っているのは、想定外の深刻な現実だ。
その意味で約180カ国が参加し、韓国で11月末から12月初めまで開かれた、プラゴミ汚染防止を目指す初の国際条約作りの政府間交渉委員会が合意を見ず、物別れに終わったことを全国紙が一斉に即社説で取り上げたのは頷ける。
《実効性ある削減策探れ》(朝日新聞4日)《生産規制への道筋模索を》(毎日新聞5日)《削減対策で合意諦めるな》(読売新聞5日)《プラ条約の早期実現を粘り強く目指せ》(日本経済新聞4日)《政府間交渉の再開を急げ》(産経新聞4日)と主張の足並みもほぼ揃っている。
しかし一般論に終始し、右へ倣への主張ばかりで、もっと日本の問題として捉え、条約策定への責任や対策、さらにプラ製造・使用の再考にも踏み込んでしかるべきだった。
何故なら《日本は国民1人あたりの使い捨てプラスチック使用量が米国に次ぐ世界2位だ。レジ袋は有料化したものの、規制はEU各国に比べて緩い》(日経)からだ。
しかも《プラごみ排出量が世界最多の米国では来年1月にトランプ政権が発足する。1期目に温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱したように、プラごみでも消極的な姿勢をとる可能性がある》(読売5日)。そうであれば、2位の日本は米離脱後のTPP交渉の時のように、条約策定の先頭に立つ資格も責任もある。
合意が先送りされたのは、プラ製品の生産そのものの規制を求める欧州や大量のプラごみ漂着に悩まされる島嶼国と、規制条項に反対するロシアやサウジアラビアなどプラ原料の石油生産国が対立したためだった。
《日本は一律の規制ではなく、各国の事情に応じて対策を進める案を掲げた。調整役を担う目的だったが、存在感を発揮できなかった》(毎日)。会議は来年再開する。合意目指し奮起を求めたい。
《海洋プラごみの発生源はアジア諸国が多い。その中でも上位の中国は、福島第1原子力発電所からの処理水にクレームをつけた。海洋汚染が気になるなら自国のプラごみ流出抑制に即刻、着手すべきだ》(産経4日)との主張はもっともだが、プラ大国日本がやるべきことも多い。例えば自然界に安全に吸収されるようなプラスチックの開発など技術力の見せ所だろう。
このままでは2050年には海洋プラごみが全海産魚の重量を上回るとの予測や、海中で砕かれたマイクロプラスチックが海洋の生態系を脅かし人体に影響の恐れまであるという。対立している時ではない。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2284号
トランプ政権のリスク
極論振りまく政権人事
関税で政府を賄う時代錯誤
ビジネスが政治を動かす体制
トランプ氏再選がほぼ確定した11月6日から3週間の間に、全国紙社説ではトランプ次期政権が3回以上見出しに登場した。中でも日経では5回、毎日では8回登場した。G20、COP29、BRICSやロシア情勢絡みでのトランプ氏への言及を含めると、登場回数はもっと増える。
トランプ政権絡みの社説報道のテーマは、米国内の分断、米国第一の経済政策、政権人事、関税、温暖化、同盟関係、ウクライナ戦争、対中関係など多岐にわたる。その中で、「拉致の解決 トランプ氏復帰を好機に」を取り上げた産経(11/15)の視点が光る。拉致問題の解決に時間的猶予がない状況下で、「石破氏には直接会談で拉致問題への怒りを何としても共有し、トランプ氏を再び拉致問題解決への主要舞台に引き上げてほしい」とする産経の主張は、まさに国民全体が求める「最優先課題」だ。
以下では、関税問題と政権人事に絞って社説の取り扱いについて論評したい。
トランプ氏の公約では、「全ての輸入品に一律10~20%、中国に対しては一律60%の関税を課す」(読売11/13)とした。「実際に適用すれば、米国の平均関税率は2%強から18%弱」となり、「1930年代に匹敵する高い水準」となる(日経電子版11/21)。11月25日には、「麻薬流入への対抗措置として、中国製品に10%の追加関税」、「カナダとメキシコ製品にも・・・就任初日に、不法移民や麻薬の流入が止まるまで、25%の関税を課す」(時事11/26)ことを発表した。
読売(11/13)は、こうした独善的な関税策が貿易戦争を再燃させ、「世界経済に深刻な打撃」を与えることを憂慮する。日経電子版(11/21)や毎日(11/10)も、「深く憂慮する」としている。
社説では言及がないが、トランプ氏は所得税を廃止し、関税収入だけで政府支出を賄うという目標を繰り返し表明してきた(CNN英文版11/6)。こうした時代錯誤のせいか、有力な経済学者の応援がほとんどない。
次期政権人事についても全国紙は批判的だ。「赤をシンボルカラーとする米共和党が、ホワイトハウスと連邦議会の上下両院を掌握する『トリプル・レッド』の政治状況となった」(読売11/21)ことを背景に、適格性・実績・資質よりも自身への忠誠や貢献を重視したとの指摘が多く(日経電子版11/18、東京11/21、朝日11/22)、読売は「イエスマンばかり」と書いた。より正確には、米国第一主義者の集まりという意味で「忠実な腹心を重用した」(毎日11/17)。事実、トランプ氏応援団の米国第一政策研究所のロリンズ所長が農務長官に指名された(時事11/24)。
こうした側面よりもメディアにもっと論じてほしいのは、実業家マスク氏を政府効率化省トップに指名したり、財務長官や商務長官に投資家や投資銀行関係者を指名したりするなど、露骨なまでに利害関係者を多数登用する「ビジネスが政治を動かす」体制の是非である。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2282・2283号
「地方創生」から10年
空回りの日本創生選挙
思い入れも自滅の石破首相
交付金効なくバラマキと各紙
所信表明演説で地方創生に言及、衆院解散も「日本創生解散」と名付けた石破茂首相。初代地方創生担当相だけに思い入れは分かるが、選挙は大敗し空回りで終わった。
野党は「裏金、裏金、裏金」、与党はオウンゴールも同然の愚策連発で、2014年に安倍晋三内閣で始まった地方創生10年の節目もどこへ。肝心の議論は深まりも、盛り上がりもせずじまいだった。
マスメディアも熱量不足で、社説に登場したのは選挙戦も終盤になってからだ。
しかも少子化対策や地方移住を増やすための支援金とも言える地方交付金を倍増する「地方創生2・0」は《新味に欠け、看板の掛け替えに終わる懸念が拭えない。選挙での人気取りに見える》(朝日新聞24日付)や《交付金で後押しする従来の手法では、限界が見えている。大きな視点に立った総合的な対策を打ち出さなければならない》(読売新聞25日付)と、評価にはほど遠かった。
これまでの交付金総額は1兆7000億円に上る。しかし結果は地方の人口減少はますます深刻化し、東京圏への人口流入はコロナ禍を経てむしろ加速している。
毎日新聞18日付社説が《総じて成果に乏しい。初代担当相だった石破氏にも責任がある。》と名指しで指摘したのも一理ある。
そもそも石破首相はどこまで本気なのか。
故郷鳥取県は日本で一番人口が少ない。昨年の出生数も3263人と日本最少だった。人口減ランキングは15位、逆に人口増加は34位、全国住みたい町ランキングも100位内にはゼロである。
隗より始めよ。首相は思い入れよりまず実行だ。故郷がモデルケースになる程なら創生も説得力を増す。
この10年で地方の過疎化は皮肉にも一段と進んだ。マスメディアも今や問題点の指摘に留まらず、具体策を提示するなど責任ある役割が求められる段階にきている。
その意味では問題がより身近な地方紙の奮起を促したい。
中国新聞11日(デジタル)社説「衆院選・地方の再生 分散型社会へ道筋競え」は、国による強力な産業政策と地域づくり両面の重要性を指摘し、《まず働く場の分散が必要だ。税制の優遇策をさらに充実させ、企業の拠点機能の地方移転を誘導したい。創業の地が地方なら、本社機能を戻すことへの支援が考えられる》など方策を挙げている。
京都新聞17日(同)は女性が働きやすく活躍できる職場の創出を謳う。地方の人口減は若い女性の流失の多さにもあるからだ。
地方にも明るい事例がないわけではない。台湾の半導体メーカーTSMCが進出した熊本県(菊陽町)はその好例だろう。2023年の人口1000人当たりの出生率は全国平均を上回り、人口伸び率もトップという。
自公の過半数割れで政界の不透明性は一気に深まり、地方創生どころではないなどと言う勿れ。地方創生は党派を超えた全日本的な重要課題である。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2281号
トラウマと被包囲意識
ガザ紛争から中東不安
ハマス最高幹部の突然の死
イスラエルの過剰自衛心理
長い前史を別にすれば、今回のパレスチナ・ガザ紛争は去年10月7日、イスラエルへのハマス側からの越境奇襲攻撃で始まった。ちょうど1年が経つ。
イスラエルの受けた被害は、死者1100人、負傷者3500人、人質250人。対するパレスチナ側の死者は、1年が経過した時点で4万2000人。そしてこの総数の中には、当の奇襲攻撃を指揮したハマスの最高幹部ヤヒヤ・シンワル政治局長の死(10月17日、イスラエル軍発表)も含まれている。
いずれにせよ、このとんでもない死者数の差は、何を意味するのか。
戦火(爆撃)はガザから、イスラム組織ヒズボラの支配する隣国レバノンにも拡大。携帯機器の爆発や指導者ナスララ師の殺害が伝えられるに及んで、世界は、イスラエルの極端な報復意識、換言すれば過剰と思われる自衛意識を、どのように受け止めたらよいのか扱いかねてきた。
日経社説「ハマス指導者殺害から停戦を」(10/20)は、3方向から「今回の一件(シンワル最高幹部の死)をガザの停戦と人質解放につなげる契機にすべきだ」と説く。
まずイスラエルは、これまで「最大の標的として同氏の行方を追って」きて「今回の殺害を戦果と誇っている」以上、これからは「頭目を失ったハマス残党に攻撃を続ける」より「ガザに捕らわれている約100人の人質帰還に集中」するべきであること。
次いでハマスにとっても「相次いで幹部を失い、弱体化が進む。意思決定が混乱している恐れ」があり、「ガザ住民のために停戦を実現すべき」だとし、さらには国際社会も、「これ以上の人道危機や一方的な破壊を許すべきではない」と説く。まことにその通り、というしかない。
毎日「記者の目 暴走するイスラエル政権 過剰な『自衛』と対話の道」(大治朋子、10/18)は、48年のイスラエル建国時の経緯が今もユダヤ人社会の中で深いナラティブ(物語、語り)を形成し、影響を与えているという。
「神に選ばれし民」という自尊心。神が与えたもうた「約束の地」パレスチナにディアスポラ(離散)と虐殺を生き延びて戻るという悲願。われわれは他人の土地を奪う単なる占領者、植民者ではないという叫び—。
国連による決議まで得ていたのに、パレスチナ人と周辺アラブ諸国はイスラエル排除を掲げて宣戦布告にまで至ったのだ。
専門家によるとトラウマ体験に基づく被害者意識と、「常に敵に囲まれている」という被包囲意識とがイスラエルには特に顕著だそうだ。幼いころから虐待を受け続けてきた者に「暴力に過敏になったり、自らも暴力に依存したりしてしまう」例が多いがごとく、国家レベルでも、極端な報復や自衛意識には、それと同根のメカニズムが働いているといえるのかもしれない。
ただその場合、第3者はただただ事態を静観し、認めるしかないのだろうか。
(本郷 一望)週刊「世界と日本」第2280号
政権交代の可能性
立憲の最大の障害
野田氏は保守政治家なのか
党内左派勢力と現実路線
今回の立憲民主党代表選挙は、自民党総裁選挙とほぼ同じ時期に実施され、事前の予想通り、元首相の野田佳彦氏が新しい代表に選出された。
野田氏が選ばれた背景には、民主党政権で1年3カ月余り、首相を務めた経験が、「首相候補」としての安定感に繋がったのではないか。リベラル色の強い枝野氏に比べ、今の自民党に失望した保守層を取り込みやすいのではないかという思惑が働いたのではないか、というのが、一般的な見方だ。
一方、決戦投票で枝野氏が所属国会議員の5割弱の票を獲得しており、相変わらず党内左派勢力に振り回される可能性もあるだろう。
新聞各紙もさっそく社説で野田氏に様々な注文を付けている。そのなかで、産経、読売新聞は一切、自民党の「裏金事件」には触れていない。一方、朝日、毎日、東京新聞は相変わらず自民党を攻撃するうえで、一丁目一番地のテーマにするべきだとしている。ここで本紙読者からのご批判を覚悟のうえで申し上げれば、「裏金事件」という表現は正しくない。本来は「政治資金収支報告書への不記載」であり、マスコミは正しい表現で報道するべきだ。
産経は野田氏に対して、保守政治家を自任しているのかもしれないが、野田氏が語った政策は現実路線とは思えないと断じ、その理由を3点あげている。1つが抑止力を向上させた集団的自衛権の限定行使容認について、違憲との考えを示していること。2つ目は憲法改正についてのスタンス。3つ目は皇統断絶を意味する「女系天皇」に繋がりかねない危うい認識について。これらの3点について、保守政治家としての真価が問われるだろうとしている。大切な指摘である。
読売は原発政策にも言及し、安保やエネルギーなどに関する党の基本政策を、より「現実路線」に改められるかどうかが問われている。選択的夫婦別姓や同性婚の法制化にも積極的だが、家族観や社会のあり方に大きく影響を与える問題であり、慎重な検討が必要だろうと論じている。
産経、読売とは対照的に朝日、毎日は選択的夫婦別姓の導入を迫っている。さらに、毎日は野田氏が従来のリベラル層だけでなく、保守・中道層を含めて幅広い支持を得られる政党を目指す「現実路線」の政策を打ち出していることに対して、リベラル層の支持離れを招くリスクもはらむとしている。どうやら毎日は立憲民主党の従来の路線を望んでいるような気がしてならない。朝日も同様だ。これでは多くの国民の支持は得られないと思うのだが、朝日、毎日はそれでもいいのか…。
東京新聞も行き過ぎた現実路線は自民党との違いを不鮮明にして、政権交代の意義を損なうだろうとしている。
東京も朝日、毎日と同じように「現実路線」が嫌いなようだ。
朝日、毎日、東京の論調は、立憲民主党が政権を目指すうえで最大の障害になっているような気がしてならないと私は思う。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2279号
踏み込み不足のメディア
求められる政策提言力
総裁選の政策論議深まらず
新首相は〝経済復活〟の戦略を
本稿を執筆中の現在(9月24日)、自民党総裁選は終盤を迎えている。各メディアは連日、総裁選の様子を大きく報じているが、これまでの報道で気になる点がある。新総裁決定より一足先に、いくつか指摘したい。
まず今回の総裁選は立候補者が9人と過去最多となったことで注目度が高まり、それなりに政策論議が活発に行われた。個別では、茂木敏充氏の防衛増税ゼロ、小泉進次郎氏の解雇規制緩和など、注目発言が飛び出し議論を呼んだ。
テレビでは、日テレ系列の「news every.」が『ひと目で分かる政策比較』との特集を放送していた。解雇規制、防衛増税など政策テーマごとに日替わりで図式を見せながら解説し、各候補のスタンスをわかりやすく伝えていた。
だがその一方で、立候補者が9人となったこともあり、それぞれの主張や議論のテーマが分散し総花的になっている。そのためメディアの報道も、政策紹介が表面的な内容にとどまり、踏み込みが足りないのが実情だ。
そこから、二つの問題点が浮かび上がってくる。
第一は、メディアが重点を置く政策が、現在の日本にとっての重要性や国民の関心度とずれていないかということだ。
例えば朝日は8月末以降(9月24日まで)、総裁選関連の社説を6本掲載したが、そのうち政治とカネ問題や党改革関連が3本を占め、他は財政運営、選択的夫婦別姓、解雇規制見直しが各1本。メディア各社の世論調査では物価や景気など経済問題が最も関心が高いとの結果が出ているが、社説ではゼロだ。
また毎日は総裁選関連の社説は8本で、そのうち政治とカネ関連が3本で、他は解雇規制緩和、選択的夫婦別姓、原発、少子化対策、そして物価・経済政策が各1本。ただ、経済政策を社説で取り上げたのは、総裁選終盤の9月23日になってからだ。
第二の問題点は、各政策を個別に取り上げるにとどまっており、経済政策の全体的な戦略や日本の針路を問うような報道になっていないことだ。
現在の国際情勢は緊迫の度を増しているうえ、最近の中国での日本人児童殺害や中ロによる領海・領空侵犯など、外交・安保政策の強化が急務となっている。また経済面では復活の兆しが見えてきた今、デフレに逆戻りさせない政策が不可欠だ。メディアにも政策の提言が求められるのだが、残念ながらそうした報道は少ない。
もっともこれらメディアの問題点は、総裁選の現状を反映したものでもある。読売は社説で「日本の針路を大局的に論じよ」(9/13)と主張した。だが多くの候補者の発言は個別政策が中心で、日本の針路や経済戦略についてはスローガン的な次元にとどまっている(きちんと語っている候補者もいるが)。
本紙を読者諸氏が手にする頃には決まっているであろう新首相は、日本の進むべき針路と経済完全復活の戦略・展望を明確に示してほしい。
(岡田 晃)週刊「世界と日本」第2278号
テレグラムCEO逮捕
プラットフォーム規制
言論の自由か犯罪の抑止か
メディアは意見を開陳せよ
主要国では、デジタルプラットフォームと呼ばれるICT(情報通信技術)企業に対する新たな規制が導入され、今年になってその規制が強化されつつある。その背景には、プラットフォーム企業による租税回避行動、反競争行為や文化・言論・思想・世論・政治をも左右しうる巨大な影響力の存在がある。
EU(欧州連合)では、22年にデジタル市場法とデジタル・サービス法が制定され、今年3月から本格的な運用が始まった。英国では、今年5月にデジタル市場・競争・消費者法が制定された。日本では、20年5月にデジタルプラットフォーム取引透明化法が制定されたあと、今年6月にはスマートフォン・ソフトウェア競争促進法が制定された。
米国では、日欧に対応した新規制はまだ導入されていないが、反トラスト法に基づく規制が進行中で、今年の議会でも多数の類似規制案が提出された。
主要な規制対象となっているのは、グーグル(親会社アルファベット)、アップル、フェイスブック(現メタ)、アマゾン、マイクロソフトといったGAFAM(各企業の頭文字を合わせた略称)であるが、必ずしもこれらの米国企業だけが対象ではない。それを象徴する事例が8月24日に起きた。「通信アプリ『テレグラム』の創業者で最高経営責任者(CEO)のパベル・ドゥーロフ氏」をフランス警察が逮捕した(共同8/25)。「この逮捕は、・・・テレグラムのコンテンツ監視体制に対する調査の一環として行われたもので、フランス当局は、このアプリが薬物や児童の性的画像の取引き、詐欺などの犯罪に対する予防策をとらず、法執行機関の捜査に適切に協力していなかった」ためとされている(Forbes JAPAN、8/26)。
ロシア出身のドゥーロフ氏が13年に提供を開始したテレグラムは「優れた暗号技術を持ちセキュリティー性や秘匿性が高く」、「22年に始まったロシアのウクライナ侵略では双方が情報戦の主要なツール」となり(日経電子版8/26)、「日本国内でも『闇バイト』による広域強盗や特殊詐欺などで悪用されている」(読売8/26)。
CEO逮捕を受け、テレグラム側は、EUのデジタル・サービス法等を順守していると主張すると同時に、「悪用の責任をプラットフォームや所有者に求めるのは、ばかげている」と批判した(読売8/26)。米国の実業家イーロン・マスク氏や政治家ロバート・ケネディ・ジュニア氏も言論の自由を根拠に今回の逮捕を批判した(日経電子版8/26)。
しかし、言論の自由を理由に、悪質犯罪、偽情報、人権侵害の温床となっているプラットフォームを野放しにして良いのか。プラットフォーム側がこうした悪質行為の発見を容易にし、それを抑制するための手段を構築することは当然の社会的責任ではないか。残念なのは、この問題の重要性を認識して社説で論じたのは全国紙では日経1社(日経電子版8/27)だけだったことだ。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2276・2277号
人員不足と防衛教育
平和を維持するコスト
各紙、本質に踏み込み足らず
不祥事の根っこの解明不足
防衛省は7月12日、一連の不祥事を受けて陸海空自衛隊と内部部局の218人の処分を発表した。特に処分者が113人に及んだ海上自衛隊では、トップの酒井良・海上幕僚長が引責辞任した。事実上の更迭人事であることは明らかだ。
平成の時代に入って以降、自衛隊は海外での国際貢献活動や国内での災害派遣活動を通じて、国民から高い信頼と評価を受けてきた。元旦に発生した能登半島地震でも自衛隊は被災地の人々に感謝されている。そのような中での今回の事案は非常に残念である。
また、今回の事案は複合的な要素が含まれており、防衛省・自衛隊だけでは解決することができないことも、私たち国民は認識するべきだろう。
新聞各紙も社説で今回の大量処分について論評し、防衛省・自衛隊に対する厳しい姿勢を打ち出している。
読売新聞は「規律の緩みは甚だしい。事務方トップの防衛次官のほか、自衛官トップの統合幕僚長、陸海空3自衛隊の幕僚長や情報本部長が含まれている。国防を担う幹部が軒並み処分を受けるのは、前代未聞の事態だ」と断じている。産経新聞も読売と同様の姿勢で「防衛省・自衛隊には猛省を求めたい。安全保障環境が厳しい中で体制立て直しは一日の猶予もないと知るべきだ」と断じている。毎日新聞も「いくら装備を増強しても、組織が緩んでいては、国を守る責務は果たせない。まず取り組まなければならないのは、体制の抜本的な立て直しだ」としている。
各紙が特に問題視しているのが、海上自衛隊の特定秘密を扱う艦橋や戦闘指揮所(CIC)に、適性評価を受けていない隊員を入れていた問題だ。朝日新聞は安倍政権下で特定秘密保護法が成立しているにもかかわらず、「情報保全が求められる防衛の第一線で、違反が常態化していたことに驚きあきれる」と批判。日経新聞は艦艇内の特定秘密を扱う部署、資格のない隊員を配置していたことに対し、「米国との情報共有の前提で、同盟関係を揺るがしてはならない」と警鐘を鳴らしている。
一方で、この問題の根っこにあるのが、要員不足(乗組員不足)だ。自衛官の人材確保の問題を防衛省・自衛隊にだけ任せておくべきではない。少子化が進行するなかで、簡単には自衛官の応募者が増える要素がないからだ。政府全体として取り組む姿勢が求められている。日経だけが「慢性的な人員不足も国家的課題として考えるときだ」と書いている。であるならば、さらに踏み込んだ提言もほしかった。
今回の一連の不祥事は防衛省・自衛隊だけに批判が集中する格好になっている。果たしてそれでいいのか。日本社会全体に漂う空気感を解消しない限り、抜本的な立て直しに繋がらないということを各紙の社説は論じるべきではないのか。
例えば、人材確保には、学校で子供たちにしっかりとした防衛教育をする必要がある。各紙はこの視点にも触れてほしかった。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2275号
不正手当や無料飲食も
情報管理の見直し必要
処分218人 防衛省不祥事
海自38艦で特定秘密が漏洩
今回発表された「防衛省不祥事」はあれもこれもと盛り沢山で、よく整理しながら記事を読まないと、何が何だか分からなくなってしまいそう。
「特定秘密・潜水手当・不正飲食・パワハラ 防衛省218人処分 懲戒最多、海自トップ『更迭』」(毎日7/13)は、見出しの前半で数々の不祥事を畳み込むように列挙し、後半で海幕長更迭など処分内容を示す。
分かりやすいとはいえしかし、特定秘密、潜水手当、不正飲食、パワハラにかかわる数々の不祥事を、同じ一つ器に入れ、引っ掻きまわしたあげく、「これが不祥事の全貌です」といわれても、それぞれの不祥事の特質や重大さ、処分内容との対応関係すら、じつははっきりしない。扱いが同列で、不祥事の軽重は問われない。発表の仕方自体がおかしいのではないか。
そんな中で朝日社説「自衛隊大量処分 何のための特定秘密か」(7/13)は特定秘密漏洩問題に的を絞り論じていたが、他紙社説はどの問題にも等分に触れる各論列記風だった。読売「防衛省不祥事 信頼裏切る前代未聞の事態だ」(同)、毎日「不祥事相次ぐ防衛省 国民の信頼大きく損ねた」(同)、産経主張「自衛隊大量処分 戦う集団に生まれ変われ」(同)、日経「自衛隊は組織挙げて出直せ」(同)。
正直、限られたスペース内で列記風に触れられても、「防衛省の不祥事、よく続くなあ」とは思いはするが、それ以上の問題意識が芽生えることは、まずない。ひょっとするとそれが狙いかも。
2014年施行の特定秘密保護法では、特定秘密に指定された防衛・外交情報には、適性評価をクリアした人だけが接触できることになっているが、特に海自自衛艦では、無資格者が頻繁に(というか日常的に)特定秘密に指定された情報に接する事例が見られたようだ。艦橋や戦闘指揮所(CIC)のコンピューター画面に表示される、外国籍艦船・航空機・ミサイルの動きなどに関する分析画像は当然、特定秘密に属するものが多いが、艦橋やCICに出入りする人間は、適性評価をクリアした者ばかりとは限らない。
限られた人員で操艦する以上、無資格者も艦橋に立ち入らねばならぬ場合の多いことは分かるにしても、特定秘密保護法成立のいきさつは確か以下のようであった。「情報がだだ洩れでは同盟国、同志国から得られる情報も得られない。だから情報管理を厳密にする」と。しかし海自自身が情報をだだ洩れにしていたのでは、始まる話も始まらない。
結局、処分者は特定秘密漏洩にかかわるものが最も多く、218人中113人。38隻の艦船で資格のない隊員が、特定秘密情報に接していたという。
本件とは別だが、空自が開発中の長射程ミサイルの模型と見られる写真がSNS上に漏洩した事実もあるらしい(産経7/11)。世界との防衛協力が重要課題である今、改めて情報管理体制の精査と再構築が望まれる。
(本郷 一望)週刊「世界と日本」第2274号
安全保障環境の意味
平和の意味を考える
沖縄戦の真実を訴える産経
朝日・毎日の姿勢には疑問
沖縄戦の終結から79年となる。最後の激戦地となった沖縄県糸満市摩文仁の平和祈念公園では、今年も6月23日に「沖縄全戦没者追悼式」が営まれた。
毎年、新聞各紙は沖縄戦について社説で取り上げている。各紙の先の大戦に対する姿勢の違いからか、伝え方は様々だ。
朝日新聞は「沖縄慰霊の日 記憶をつなぐために」という見出しを付け、宜野湾市出身の狩俣日姫さん(26歳)の学校現場での沖縄戦を語り継ぐ活動内容を紹介。さらに、沖縄県が那覇市の首里城下にある旧日本軍の第32軍司令部壕の一般公開をめざして調査を進めていることを紹介しながら、記憶をとどめる「遺跡」も可能な限り役立てたいとしている。ここまでは何ら違和感はなかったが、最後の結論に書かれている「沖縄戦の教訓は、戦争が民間人を巻き込み、軍隊は住民を守るとは限らないということだ。『再び戦場にしない』との願いを全国民が共有しなければならない」は、現在の日本を取り巻く安全保障環境を無視するかのような認識であり、読者に誤解を与えかねない書き方になってはいないか。
毎日新聞は「きょう沖縄慰霊の日 国は対話通じ痛み共有を」という見出しを付け、「この数年で与那国島や石垣島など離島に陸上自衛隊の駐屯地が相次いで開設された。抑止力強化のためとはいえ、過重な負担を押し付けているのが実態だ」と断じている。
自衛隊の駐屯地の開設が過重な負担の押し付けになるのか。与那国島では島民から歓迎されているという事実を毎日は隠避する気なのか。毎日も朝日と同様に、現在の日本を取り巻く安全保障環境を無視した姿勢であり、沖縄戦の悲惨さと、現在の安全保障環境を同列に扱うことに疑問を感じる。
読売新聞は「沖縄慰霊の日 平和を守る具体策が欠かせない」という見出しを付け、「平和を誓うだけでは日本の安全は守れなくなっている。ウクライナで起きている現実は、十分な抑止力を持たなければ、いとも簡単に人命や領土を奪われてしまうことを証明しているではないか」としたうえで、沖縄県の玉城デニー知事の「自衛隊が基地を造ることで攻撃目標になってしまう。非常に危ない」という発言を批判している。一方で、自衛隊配備の意義を、丁寧に訴えていく必要があるとも述べている。
産経新聞は「沖縄慰霊の日 史実を歪めず追悼したい」という見出しを付け、「沖縄では毎年、慰霊の日が近づくと一部の左派勢力が日本軍将兵を貶めるようなキャンペーンを展開し、それを米軍基地などへの反対運動に結びつける傾向がみられる。しかし多くの日本軍将兵が沖縄の地で国に殉じたのは事実だ。県民も軍に協力し懸命に戦った。戦後のイデオロギーで史実を歪めるのは間違っている。それは戦没者を慰霊することにも、沖縄の平和を守ることにもつながらない」と論じている。沖縄戦の史実を正確に伝えており、まさに正論だ。評価したい。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2273号
選挙年波乱の前半終盤
極右台頭の欧州議会選
モディ首相良薬は口に苦し
マクロン危険な賭けと日経
選挙イヤーの今年、前半戦も終盤へ来て予想外、想定外のサプライズ続き。選挙は怖くも面白くもある。
大番狂わせの筆頭は6月4日開票のインド総選挙だ。第3次モディ政権は発足したものの、大勝ちするはずが、与党人民党(BJP)は大幅議席減でまさかの単独過半数割れ。モディ氏も驚愕だろう。
だが各紙の報道からその衝撃は伝わってこない。毎日新聞連載「14億の選択」はタイムリーだし、6日付「野党躍進モディ氏陰り」は経済成長の歪み、ヒンズー至上主義の問題等具体的で目配りもよいが、読後感はもの足りなさが残る。
産経新聞6日付主張(社説)は《「世界最大の民主主義国」にふさわしい外交》を期待し「国際秩序の擁護者となれ」と注文した。
確かに対ロ制裁と距離を置くモディ外交は問題を孕むだけに注文は分かる。だが今問題とすべきは、この敗北のモディ外交への影響、内向きに転じる懸念などではないか。
南アフリカ総選挙も、与党アフリカ民族会議(ANC)が初めて過半数割れした。朝日新聞5日付社説の《「マンデラ神話」にあぐらをかくことはもはや許されない。ANCは襟を正し、汚職と決別して格差是正に全力で取り組んでほしい》も、汚職体質の酷さや黒人富裕層の特権意識等ANC批判にもっと手厳しくても良かった。
また両与党の過半数割れは、民主主義が機能した証左とも言え、必ずしも悪い話ではない。良薬は口に苦し。モディ首相は3月に再選された、独裁権威主義体制のプーチン化を免れたのである。
6月6日〜9日の欧州議会選挙も予想を超えて極右や右派の欧州連合(EU)懐疑派が躍進した。そこで起きた想定外がマクロン仏大統領による解散総選挙(下院)宣言だ。
日本経済新聞11日付社説は《国民の信を問う意図は分かるが、かえって極右の国民連合(RN)の台頭を招きかねず、危険な賭け》と先を案じた形だ。
社説は米国第一主義のトランプ前大統領が、EUの右傾化を追い風にするだろうとも書いた。RNの第2代党首マリーヌ・ルペンと仲の良いトランプ氏は、祝意をツイートしたのだろうか。第1回投票は6月30日、決選投票は7月7日。賭けは吉と出るか凶か。
スナク英首相も解散先送りの岸田文雄首相とは対照的に、与党敗北と労働党へ政権交代が必至とされる中、総選挙に踏み切った。
6日のノルマンディー上陸作戦80周年の記念式典も選挙優先で途中退席したため、毎日新聞12日付によれば、BBC放送は「選挙戦最大のしくじり」と報じ、「私が間違っていた」と謝罪に追い込まれた。7月4日は大敗が避けられない?
ライシ大統領のヘリ墜落死による6月28日のイラン大統領選も想定外だ。民主選挙とは言えず、候補者6人も保守強硬派が中心で結果は明らか。3月の国会議員選挙は過去最低の投票率だった。ハメネイ体制下、根強い批判層がノーをどう表現するか興味深い。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2272号
自動車産業のDX
車のEV化とSDV化
経産省のSDV戦略案
打倒テスラは実現するか
最近の自動車業界ではEV(電気自動車)とSDV(ソフトウエア定義車両)の動向が注目されている。
IEA(国際エネルギー機関)によると、23年のEV新車販売台数は前年比35%増の1380万台で、新車全体に占める比率は前年の14%から18%へ拡大した。国・地域別では、中国が37%増の810万台、欧州が22%増の330万台、米国が40%増の139万台で、これら3つの国・地域が販売台数全体の約95%を占めた(ジェトロ・ビジネス短信4/30)。
EV化が進展する一方、最近はEV失速の動きも指摘されている(時事ドットコム4/18、日経電子版4/18、PRESIDENTオンライン5/20)。EV失速は、EV最大手の米国テスラや中国BYD(比亜迪)の販売失速や4月15日発表のテスラ従業員1割削減計画に現れている。
時事ドットコム(4/18)によると、EV失速の背景には、改良モデルの生産遅れや紅海での商船攻撃に起因する部品調達の遅れといったテスラ独自の要因に加え、世界的な需要の鈍化、中国での競争激化、高所得者層の購入一巡、HV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)の再評価などがある。
EV失速の兆候はEVの長期的な停滞ではない。米国での調査によると、「2033年までに全ての自動車購入者の約9割がEVを検討する」という見通しがある(ジェトロ・ビジネス短信5/21)。また、インドのように、四輪車の23年EV販売台数は8万台だが、二輪車・三輪車を含めた全体のEV販売台数は前年比5割増の153万台(ジェトロ・ビジネスス短信2/29)と、今後の急拡大が期待される新興市場もある。さらに、BYDが1万ドルの格安EVを来年に欧州市場に投入することも計画されている(ブルームバーグ5/22)。
日本車は、EVでは中国や欧米企業の後塵を拝しているが、ここにきて次世代車のSDVでは日本の反撃が始まった。5月20日、経済産業省は、2030年の日本車SDV販売台数を1200万台とし、世界シェアの3割を目指すという「日本の自動車産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略案」を発表した(日経電子版5/20)。
ただし、テスラやBYDがすでにSDVを販売する一方、「国内勢は出遅れており、・・・国内勢は25年以降の本格投入」の予定だという(日経電子版5/20)。とはいえ、日系主要メーカーが連携し、「生成AI(人工知能)や半導体など7分野の技術を持ち寄り、コストを抑えた開発につなげる」動きが始まっている(日経電子版5/16)。「打倒テスラ」を目指してSDV開発を進める日本のスタートアップ企業もある(NHK NEWS WEB5/20)。「自動運転車でなくても、ソフト更新だけで自動運転車にかえられる」(日経電子版5/20)可能性をもつSDVについては、今後、マスメディアによる進捗点検を期待したい。
(谷口 洋志)週刊「世界と日本」第2270・2271号
大阪・関西万博迄1年
課題は機運醸成82%
傍観者的批判に終始の朝日
コンテンツの魅力発信と日経
大阪・関西万博は4月13日であと1年、パリオリンピックは17日であと100日と夫々(それぞれ)節目を迎えた。
しかし報道は対照的だ。代表選手決定が続々と報じられ、ムードも少しずつ高まって来たパリに対して、万博の方はさっぱり。
三菱総合研究所が行ったネットでの全国関心度調査によると、昨年4月の31・59%は10月には27・4%に減少、過去6回の調査で最低となった(日経ビジネス電子版4月19日)。
大阪府・市が昨年末に行った全国調査でも、万博に行きたいと答えた人は34%、前年より7%減った(読売新聞13日付社説)。いずれも開幕の接近と反比例しているわけで、万博への関心と期待の低下は重症のようだ。
節目を報じるマスメディアも盛り上がらず、批判先行で冷めた傍観者に終始する論調が気になった。
朝日新聞14日付社説「万博まで1年『なぜ今』見えないまま」は、失礼ながら右代表のようだった。
《「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマは漠然としており、「イメージが湧かない」との声が強い。ネットを通じて海外のモノや情報が簡単に手に入る時代に、博覧会という形で、半年限りのイベントを催すことへの疑問も少なくない》
《政府や大阪府市は、開催の意義として、海外からの観光客の増加や関連インフラの整備を強調する。これでは70年当時の発想から抜け出せていないと言わざるを得ない》
開催決定前ではない。今この様なステレオタイプ的批判にどれほど意味があるのか。
対照的に産経新聞14日付主張(社説)は、膨張する費用への一層の不安払拭を経産省に求め、開催意義についてはウクライナ侵略やガザ紛争を踏まえ、来日した博覧会国際事務局事務局長の「世界が団結する機会になる、世界にとって重要な万博だ」との発言を紹介、《国挙げて準備加速したい》と主張した。
もとより政府事業はオールオアナッシングではない。反対は反対として、そこに多少とも建設的批判がないと、書き手の自己満足に過ぎなくなる。
日本経済新聞17日付社説は、建設工事の遅れや関心の低下など負の連鎖を指摘しつつ《各国とも開幕まで展示内容を明かしたくないという事情があるのは理解できる。それでも出せる範囲でコンテンツの魅力を訴え、関心を呼ぶような発信を考えるのが運営主体の役割》と、説明不足の批判に対して具体的に提案をしている。
万博の問題点は以上の報道からも明らかだ。共同通信が7日まとめた万博参加・出展企業・団体に行ったアンケート結果は、開幕まで1年となった現在の課題は、機運醸成との回答が82%に上り、出展者たちの危機感が浮き彫りされた。(京都新聞電子版7日)。
機運の醸成。政府、大阪府市、博覧協会はこの1点に集中し、出来ることは何でも今すぐやる。そうでないと大阪で55年ぶりに開催の万博は惨憺(さんたん)たる結果を免れないだろう。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2269号
アベノミクスで新導入
安全性をだれが担保?
健康増進サプリで健康障害
問題多い「機能性表示食品」
医食同源。医と食とは別物ではなく、摂取した同じ物が医薬にもなれば食べ物にもなるとする一種ホーリスティックな立場だ。ただ、山野に薬草を求めていた頃ならともかく、薬といえば化学薬剤がほとんどで副作用も無視できない時代に医食同源はまず難しい。
微熱や腹痛があろうと「この程度なら」と薬の服用をためらうのも、副作用を思えばこそであり、降圧剤の服用を躊躇(ちゆうちよ)するのも「一度始めたら一生飲まねばならぬ」と考えてしまうからだ。今の時代、医と食とは互いに離れているのが常態で、不自然に近づけばかえって「オーバードーズ」(過剰服用)などと問題視される。
小林製薬製造の「紅麹」を原料とし、同社が機能性表示食品として発売したサプリメント「紅麹コレステへルプ」によると見られる健康被害は、死者5人、入院221人、医療機関受診者1321人(4月10日現在)に及んでいる。
死者の年齢は70代3人、90代1人、年齢不詳1人。男女別では男性2人、女性3人。高齢者に影響が大きかったように見えるのは、原因物質(プベルル酸)が高齢者を端的に狙い撃ちしたか、それとも高齢者が持つ他の持病と相乗されて、それで大きな結果を招いたのか、詳細な検証が不可欠である。
この事件は、最初に現場の医師から問い合わせあってから、3月22日に小林製薬が正式発表するまで2カ月以上もたっていたことから、初めはもっぱら小林製薬の当事者意識の欠如、薬品や食品の製造会社に不可欠な「命を守る」意識の欠如を問う論調が、ほとんどだった。
東京社説「紅こうじサプリ 食の安全損なう深刻さ」(3/29)、産経主張「小林製薬の会見 安全第一の覚悟に欠ける」(3/30)、読売社説「『紅麹』サプリ 重要な情報の開示が遅すぎる」(4/2)など、みなそうである。産経主張などは、かつて脅迫状が届いた翌日、公表と製品回収を即断し、数十億円にも上る被害総額をものともしなかった某製薬会社の事例を、当てこすりのように挙げてもいる。
しかしその後、徐々に論調も落ち着き、方向も微調整される。サプリ「紅麹コレステヘルプ」が属する「機能性表示食品」とは何か。「特定保健用食品」(トクホ)とも医薬品とも異なり、安全性や機能性にかかわる科学的根拠を消費者庁に届け出るだけで、(血圧を下げるなど)効能を謳(うた)うことができる新しい食品分類。2015年にアベノミクスの一環として導入された。
冒頭の例えに戻るなら、「これは食品なのだから」と医薬アレルギーを取り除いた上で医を食並みに売り込もうとする現代版医食同源ともいえる。しかしそんな制度で国民の健康を守れるのか。以後社説に限っても、毎日「紅麹問題と機能性食品 事業者任せの制度検証を」(4/8)、読売「機能性表示食品 迅速な被害報告を義務づけよ」(4/11)と、明らかなシフトが読み取れる。
(本郷 一望)週刊「世界と日本」第2268号
戦闘機輸出の意義
日本の安全保障に貢献
現実路線の産経・読売の姿勢
偽善的平和主義の朝日・毎日
国際共同開発の防衛装備品の第三国輸出をめぐり、自民と公明両党は日英伊3カ国が共同開発する次期戦闘機に限って認めることで合意した。今回の合意を受け、政府は防衛装備移転三原則の運用指針改定を閣議決定する。新聞各紙の社説での合意に対する反応は予想された通りとなった。産経・読売と朝日・毎日とでは評価が大きく分かれている。
産経(3/17)は「輸出を実現すれば、調達単価を低減できる。安全保障上の同志国を増やすことにもつながる。力による現状変更を志向する中国などへの抑止力が高まり、日本の守りに資する」と高い評価だ。「本来は、次期戦闘機に限らず一般的な原則として輸出解禁に踏み切るべきだった。煩雑な手続きを嫌って日本との共同開発をためらう国が現れれば、日本の平和と国益が損なわれる」として、政府を後押しする姿勢を示している。読売(3/16)は「装備品の輸出を制限してきた日本は、殺傷能力のある完成品の輸出先を、原則として同盟国である米国と、国際共同開発の相手国に限ってきた。次期戦闘機について、これまでの方針を見直さなければ、日本は英伊両国に技術を提供するだけで、共同開発のメリットを得られなくなる可能性があった」としたうえで、「大事なことは、世界の平和のために日本の技術をどう生かすか、という視点に立ち、装備品の輸出の是非を判断することだ」と述べ、政府に前向きな注文を付けている。
それに対して、朝日と毎日は日本が殺傷能力を持つ次期戦闘機を他国に輸出することに強烈な批判を展開している。
朝日(3/27)は「昨年末に、米国企業のライセンスを得て日本国内で製造された地対空ミサイル『パトリオット』の米国への輸出を可能にするなど、殺傷能力のある兵器の完成品の輸出に一部道が開かれていたが、戦闘機までとなると、完全に一線を越えたといえる」と断じている。日本の輸出産業の花形である自動車だって人身事故を起こせば、戦闘機と同じく殺傷兵器ではないのか。一方で、戦闘機も使用目的は幅広いので、殺傷兵器以外として使用されることもあるはずだ。毎日(3/27)は「コスト低減や交渉力保持のために、共同開発国の主張に合わせて武器輸出の重要な原則を曲げるのでは本末転倒だ。国の安全保障政策の根幹に関わる問題を、なし崩しで判断すべきではない」というが、果たしてそうだろうか。毎日の姿勢は「国の安全保障政策の根幹」の意味を履き違えているようにしか見えない…。
朝日・毎日は政府がどのような歯止めをかけようが、難癖を付けて反対するだろう。
産経が「日本が侵略される場合、殺傷力のある防衛装備品を提供する国が現れなければ、自衛官や国民の命が一層多く失われかねない。米欧がウクライナへ火砲や弾薬など防衛装備品を提供しなければ侵略者ロシアが凱歌をあげるだろう」と述べている。
まさに正論だ。
日経6日付朝刊によれば、習指導部12年間の活動報告に見るキーワードを分析したところ、今年は「安全」が29回と過去最高の頻度だった。裏返せば、それだけ不安が一杯ということであろう。
発表は裏を読み、逆を想像し、発表されないことに注目する。全人代が強く示唆する中国報道の肝と言える。
(濱口 和久)週刊「世界と日本」第2267号
中国全国人民代表大会
会期半減、進む形骸化
党の統制強化、首相は格下
習が「弱い指導者」の理由
3月11日、7日間の日程を終え閉幕した全人代(国会に相当)のニュースは、ちょうど東日本大震災13年に米アカデミー賞の日本作品W受賞も重なり、12日の新聞各紙もテレビもトップ扱いではなく、朝日や読売では国際面のトップですらなかった。
だがより根本的な理由は、閉幕後の恒例の首相会見が今年から廃止されたことだろう。都合の悪い話は聞かれたくも書かれたくもない習近平政権には、むしろ思惑通りだったかもしれない。
李強首相の政治活動報告は、初めてにも拘らず過去30年の歴代首相で最短。中身も《不動産業をどう立て直すのか。地方債務の問題をどう解決するのか。政府活動報告から、そうした疑問への答えは読み取れなかった》(日経3月6日付朝刊)。
記者会見廃止や最短演説を《北京の外交筋は「習氏の側近である李強首相は、自分が習氏より目立つことを避けたのではないか」との見方を示す》(読売3月12日付朝刊)。
時事ドットコム3月6日も《「習氏は格下の首相による対外発信を快く思っていない」(外交筋)という指摘が以前から出ていた》と伝えた。
2週間前後あった会期も半減した。《1週間の会期を振り返ると、外国、特に西側メディアが質問する機会は従来より目に見えて減少した。共産党の「喉と舌」と位置づけられる国内メディアを通じ、指導部が知らしめたい情報を一方的に発信するプロパガンダ色が強まった…》(毎日デジタル3月11日)。
また朝日3月12日付朝刊によれば、政府活動報告など表決に掛けられた7議案の反対票は最多で44票。どの議案も3桁の反対票があった習政権発足時の2013年とは大きく様変わりした。さらに「国務院は中国共産党の指導を堅持する」ことを明文化、党の政府に対する統制を強める「国務院組織法」の改正案も可決した。
以上の報道から見えるのは、共産党指導の強化と優位性、全人代と首相職の形骸化、そして《習氏へ権力集中鮮明》(読売12日)《習氏1強体制盤石に》(日経6日)だ。
だが取材や報道の自由がない中、それらが額面通りであると検証出来るのか。習氏一強体制は本当に盤石と言えるのか。全人代の中身同様に不透明と言わざるをえない。
産経12日付《習氏が「弱い指導者」の理由》は習氏の一元的体制は完成したものの、「結局、習氏が強いのは党と国家の官僚機構の中だけ。自分の指示命令で必ずしも物事が動かない経済や社会の領域では非常に弱い所がある」との大東文化大の鈴木隆教授の見方を紹介している。
日経6日付朝刊によれば、習指導部12年間の活動報告に見るキーワードを分析したところ、今年は「安全」が29回と過去最高の頻度だった。裏返せば、それだけ不安が一杯ということであろう。
発表は裏を読み、逆を想像し、発表されないことに注目する。全人代が強く示唆する中国報道の肝と言える。
(千野 境子)週刊「世界と日本」第2266号
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