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2020年の世界経済は波乱が続きます。それでも日本は景気拡大持続へ。それぞれの専門分野で、深く丁寧に将来を見通します。

2020年6月8日号 週刊「世界と日本」第2174号 より

コロナ禍の課題を考える
「移動の時代」の問題が表出か

 

日本大学 危機管理学部教授 先崎 彰容 氏

《せんざき・あきなか》

1975年東京都生まれ。専門は近代日本思想史・日本倫理思想史。立教高等学校を経て、東京大学文学部倫理学科卒業。東北大学大学院博士課程修了後、フランス社会科学高等研究院に留学。著書に『未完の西郷隆盛』、『維新と敗戦』、『バッシング論』など。

 

 

  令和の日本は、年号に込めた思いとは逆に、混乱から始まったと言ってよい。新型コロナウイルスという目に見えない敵が突如出現し、防衛体制も整わないまま戦闘状態に世界全体が突入した。戦い始めて3カ月、筆者の通勤ルートである東京・三軒茶屋も、夜8時にはひっそりとして、電気が落ちている店が多い。街から人影が消え、闇が復活している。

 東日本大震災以来の静寂が東京を染めている。ただ、大震災が実際に建物や車を呑み込み、東北を泥水で覆いつくしたのに対し、今回は、表面上は何も壊れていない。

 いるべきはずの人間がいない東京は「ゴーストタウン」さながらであり、不気味さすら感じさせる。戦後はじめて、私たちは「緊急事態」の只中にいる。

 5月中旬、緊急事態宣言の解除も検討され始めた今、コロナウイルスが私たちに突きつけた課題を冷静に考えてみたい。つまり文明論的な観点から考察したいのである。

 一説によれば、中国で発生したウイルスがヨーロッパに飛び火した背景には、中伊関係があるという。中国の「一帯一路構想」に参加するイタリアには多くの中華系労働者が出稼ぎに来ており、彼らが春節の時期に一斉に移動し帰国したことが、ウイルスを伝導する役目を果たしてしまったというわけである。

 この例からも分かるように、今、世界はグローバル化の極北にある。

 グローバル化とは国際化と訳すよりも、「移動の時代」と考える方が事態を正確にとらえている。

 今回の騒動が起きる以前、筆者の興味を掻き立てた本に『権力の終焉』(日経BP社)があった。著者のモイセス・ナイムはベネズエラ開発相や世界銀行の理事を務めた人物であり、著作が一躍脚光を浴びたのは、フェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグが高く評価したことによる。

 ナイムは現代社会の構造変化を、3つの革命、すなわちMore(豊かさ)革命、Mobility(移動)革命、Mentality(意識)革命にあるとする。日本やアメリカでは、格差社会や二極化という言葉がしばしば使われる。

 それは中間層の解体を意味するのだろう。だが世界全体を見渡してみると、この30年は、これまで最貧困層にいた人びとが圧倒的に「食える」ようになった時代であった。まさに豊かさの革命が起きたのである。結果、人びとはさらなる豊かさを求めて、激しく移動するようになった。

 ヒスパニック系のアメリカへの移民、あるいは中国国内での都市部への移住、さらには世界全体を激しく移動するビジネスマンを思い出すこともできるだろう。観光客が近年、激増した背景には世界全体で豊かになった大量の人びとの出現がある。

 豊かさと移動の革命が、3つ目の意識革命を促す。急成長した新しい中間層は、移動して新しい情報に接することで、自分の人生に期待感を膨らませるようになる。自分たちよりもより多くの自由と快楽、富める者たちを目撃する。結果、本来、新たな豊かさに満足すべき彼らは、天井知らずの欲望に心をかき乱されることになった。

 「もっと豊かに!」という意識が、数年前には考えられなかったはずの現状にすら、不平不満を生み出してしまうのだ。これをナイムは意識革命と呼んでいるわけである。

 以上の3つの革命が、何を私たちにもたらしたのか。さらにそれは、新型コロナウイルスに苦しむ世界と、私たち日本人に何を示唆するのだろうか。それは次のようなことだ。

 大量に不平不満を抱えた人びとの出現と、彼らの激しい移動は、権力の弱体化をもたらす。なぜなら政治や企業のトップの座にある者が、きわめて簡単に引きずり降ろされるリスクを背負ってしまったからである。

 マスコミや世論の監視に権力は常にさらされている。小さな失策でも糾弾され、権力の座に長期的にいることは困難となる。しかし引きずり降ろしに加担した人たちは、自分で代案を出し権力を操るだけの力量を持ち合わせていない。こうして、小さな権力に分散し何も決断・決定できない状況を、ナイムは「無秩序化した世界」と名づけ、現代社会の特徴として暴き出したのである。

 これは決して抽象的な議論ではない。実際、私たちの周囲でも、強大な権力をもつ新聞社が、たった1人で100万人以上のフォロアーをもつツイッター使用者に頭を垂れ、御意見番として登用したりしている。つまり情報発信の中心軸は解体し、複数の小さなツイッター発信者にその座を明け渡しているのだ。

 こうした身近な出来事からも分かるように、2000年代の世界情勢は、グローバル化一辺倒であった。ヒト・モノ・カネが激しく移動し、豊かさを生み出し、人びとは不平不満をぶつけあっている。

 権力は分散し、物事を前に推し進めるだけの決断力を衰弱させてきたのである。

 さて、そこで今回の新型コロナウイルスをめぐる騒動を思い出してみよう。すると、ナイムの『権力の終焉』は、他ならぬわが日本国において最も妥当する時代診察に思えてくるのである。

 日本では中国はもとより、欧米各国の完全な都市封鎖を行うことはせず、緊急事態宣言に伴う自治体の対応も、全ては要請、すなわちお願いに終始した。金銭的補償をめぐる議論を除けば、国家秩序の安定は国民一人ひとりの自助努力に委ねられているのであって、国家権力による強制は何ひとつ行われていない。

 これは戦後、日本の民主主義が基本的に権力による私権の制限に極めて慎重だったことも遠因している。そこにナイムの指摘する権力の解体も加わり、現政権は強制をイメージさせる政策を打つことができないということだ。

 もちろん、権力の暴走をチェックすることは大事なことである。しかし例えば、マイナンバー制度の普及を怠った結果、10万円のネット支給申請に四苦八苦している現状を思う時、私権の制限こそ逆に個人に自由を与える場合もあるのだということに思いを致すべきではないのか。

 今回のコロナ禍は、戦後日本を覆う常識やイメージを問い直すきっかけになるはずだ。

 文明論的な考察とは、このような意味だったのである。

 


2020年5月25日号 週刊「世界と日本」第2173号 より

危機下の首相
求められる指導力
何を政治的遺産に

 

評論家 ノンフィクション作家 塩田 潮 氏

《しおた・うしお》

1946年高知県生まれ。慶大法卒。雑誌編集者、月刊『文藝春秋』記者などを経て独立。『霞が関が震えた日』で講談社ノンフィクション賞受賞。『大いなる影法師』、『田中角栄失脚』、『安倍晋三の憲法戦争』、『日本国憲法をつくった男』、『密談の戦後史』、『東京は燃えたか』、『内閣総理大臣の沖縄問題』など著書多数。

 

  新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府は4月7日、連休末の5月6日を期限に、東京など7都府県を対象にして緊急事態宣言を発し、4月16日に対象地域を全国に広げたが、期限切れを前に、5月4日、31日までの延長を決定した。

 報道によれば、安倍晋三首相は緊急事態宣言の全国拡大から10日が過ぎた4月26日の衆議院静岡4区補欠選挙の後、危機対策について、「こうなれば、とことんやるしかない」と漏らしたという。

 一方、憲法記念日の5月3日、自民党総裁として保守派団体のオンライン会合にメッセージを送り、「緊急事態を憲法にどう位置づけるか、極めて重く大切な課題」と訴えた。

 3期目の総裁任期は来年9月までだ。残り1年半余という時期にコロナ危機に遭遇したが、持論の改憲への意欲を隠さず、憲法と緊急事態の関係を説いた。

 危機襲来前の今年の年初、首相が描いていたシナリオは、できれば在任中の改憲挑戦、無理なら独自の政治的遺産(レガシー)を築いて勇退という選択肢だったと思われる。

 改憲へのこだわりは強いが、現実には3期目での実現は不可能な情勢で、挑戦するなら4選を考慮するしかない。衆議院議員の任期満了は来年10月で、次期衆院選勝利が総裁4選の必須条件となる。

 だが、首相は昨年の12月27日収録のテレビ番組で、4選について自ら「本当に考えていない」と明言した。真意かどうか、疑う声もあったが、発言どおりなら、改憲以外の別のレガシーの目標を設定し、達成の度合いを見届けて、3期目の任期切れか、あるいは任期中の退陣も想定していると見られた。

 その場合、改憲以外にレガシーとなる目標として、一つは夏期東京五輪の成功、もう一つは「全世代型の社会保障への転換」をうたう社会保障改革が視野にあったはずだ。

 ところが、計画は大きく狂った。年初は、4月の習近平・中国国家主席の来日をこなして「米中橋渡し」の役割を果たし、東京五輪とその効果で経済上昇を演出した後、社会保障改革を仕上げて、その勢いで今年後半か来年2月頃までに衆院選を、という筋書きだったに違いない。

 なのに、3月5日に習来日の見送り、24日に1年程度の五輪延期が決まる。政権運営構想の白紙撤回、練り直しを余儀なくされた。

 コロナ発生国の中国トップの来日は宙に浮いた形となった。1年延期の東京五輪も、各国で感染が収束しなければ首相在任中の開催が吹っ飛ぶ。社会保障改革は重要課題だが、コロナでわきに追いやられそうな空気だ。史上最長首相だが、「振り向けば政治的遺産ゼロ」という結果に終わる心配も出てきた。

 安倍首相は冒頭で触れたように、「とことんやる」と口にしたが、地球規模の感染蔓延と経済大失速という歴史的危機に直面した以上、政治指導者として覚悟を決めるしかない。

 国家的危機に直面した政権担当者は、自身の政権欲やレガシー作りなど政治的野心はいっさい放棄し、国民と国家を救うために全エネルギーを注ぎ込むと決意する。それが「危機の首相」の条件である。あえてレガシーを意識するなら、唯一のテーマは「コロナ危機克服」だろう。

 首相は五輪延期確定のとき、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして、完全な形で東京五輪を」と語った。実現の要件は、第1に感染の世界的収束、第2に日本を含む世界の経済のV字回復、第3に国際的な再発防止体制と世界の新秩序の構築である。延期後の五輪開催国の首相として、この3点の実現のために国際的な指導力を発揮しなければならない。

 コロナ危機は、一方で日本の政治・行政の構造と体制、組織やリーダーの態勢と姿勢などにどんな問題点や病弊が隠されていたか、思いがけずその裸の姿を映し出した。危機襲来後の約4カ月、未体験による制度の不備、対応の遅れ、後手の対策などが目立ったが、それだけでない。

 コロナ危機を通して、首相官邸主導体制の功罪、政治リーダーの資質と力量の欠如、旧態依然たる縦割り行政の弊害、国と地方の関係の見直しと地方分権による地域間競争の必要性、ITなどの先端技術の活用、国際的な連携といった点が大きな課題、と多くの国民が認識した。危機から得た教訓を生かす取り組みが急務だろう。

 危機襲来前には予想もしなかった展開となり、安倍首相は今後の政権運営をどう展望しているのか。

 4月5日、インタビューで菅義偉官房長官に尋ねると、「総理は自ら4選という気はないと思う。ただ専権事項の衆議院解散は別です」と述べ、「来夏の五輪後の総選挙の可能性は」という問いに、「いや、そこまでにはコロナは終結させられると思う」と答えた。

 コロナ収束、年内か来年の年初までの衆院選、計画どおりの五輪開催、4選なしの来年9月退陣というスケジュールを前提に、「コロナ危機克服」をレガシーにして花道へというのが安倍シナリオなのか。だとしても、不安材料は多い。真っ先に懸念されるのは、政権の主導体制のほころびと脆弱さである。

 4月16日に打ち出した緊急経済対策の国民への給付金問題では、自民党の二階俊博幹事長、公明党の山口那津男代表の突き上げで、決定直前での所得減少世帯向け30万円給付案の撤回、全国民一律1人10万円給付案への変更という迷走劇が露見した。非常事態では政権一体と挙党態勢は必須要件なのに、政府と与党の足並みがそろわず、政権末期症状ではと批判を浴びた。

 他方、内閣の現状を危惧する声もある。現在の陣容は昨年9月の改造人事で起用された「滞貨一掃大臣」が顔を並べる弱体内閣のままだ。次の改造は9月頃の予定だが、「お友達優先」を排し、与党の総力を結集した適材適所の挙党人事の前倒し実施を考慮すべきではないか。

 その上で、過去4カ月の教訓を生かして、上記の3点で成果を形にしなければ、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」は手にすることができない。

 「長期1強政権」とはいえ、このまま惰性と弥縫(びほう)策の対応が続けば、コロナ危機収束の前に、安倍政権終息のカウントダウンが始まるかもしれない。

 


2020年4月20日号 週刊「世界と日本」第2171号 より

新型肺炎感染拡大
今後の日本経済の展開は

 

法政大学大学院 政策創造研究科教授 真壁 昭夫 氏

《まかべ・あきお》

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社へ出向。帰国後、内閣府経済動向分析チームメンバー、みずほ総研主席研究員などを経て現職。著書は『ディープインパクト不況』、『資産運用 見るだけノート』など多数。

 

 

  新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大によって、世界各国の経済活動が大きく混乱している。重要なポイントは、肺炎の感染がどのように収束するか予測をつけにくいことだ。特に、来年7月に東京オリンピックを控えるわが国経済にとって、感染の影響がどのように落ち着き、WHOなどがその状況をどう評価するかは重大だ。

 

 また、世界全体で需要と供給の両方が停滞し始めていることや中国・米国の経済状況は、わが国にとって軽視できないリスクだ。

 そうした世界経済の不確定要素に新型肺炎という新たな懸念材料が加わり、わが国経済の先行き不透明感は一段と高まったと考えられる。

 

海外要因に依存する日本経済

 

 近年の日本経済は海外の要因に支えられて緩やかに持ち直してきた。その1つが、グローバル化だ。わが国では少子化、高齢化に加え、人口の減少が3つ同時に進んでいる。企業が成長を目指すために、相対的な成長期待の高い新興国などに進出することは避けて通れない。

 また、わが国はアジア、EU各国などと経済連携協定(EPA)を締結し、グローバル化への対応を強化した。それは、わが国が海外の需要を取り込むために重要な取り組みだった。

 それに加え、為替相場において円がドルなどに対して減価(円安が進行)してきたことも重要だ。2011年10月末、ドル/円の為替レートは75円32銭まで下落した(ドル安・円高)。

 その後、為替市場では米国経済の緩やかな回復期待から円で資金を調達して金利水準が相対的に高い米ドルを買う「円キャリートレード」が増えた。米国の景気が緩やかに回復するにつれ、円安が進行した。

 2013年4月には日本銀行が「異次元の金融緩和」を発動し、ドル高・円安の流れが勢いづいた。15年6月には、一時125円台までドル高・円安が進んだ。円安は企業業績をかさ上げし、株価は上昇した。資産効果が高まるとともに景況感は上向き、賃上げも行われた。

 また、わが国にとって海外からの観光客が増加したことも大きい。安倍政権は、観光の振興を成長戦略の1つに定め、2020年に4000万人、2030年に6000万人の訪日外国人旅行者の実現を目指した。そのために、政府はLCC(格安航空会社)の就航便数を増やすなどの施策でインバウンド需要を喚起した。それは、わが国の地方振興などに大きな影響を与えた。

 このように、わが国の経済はグローバル化が進む中で海外の需要を取り込み、緩やかに持ち直してきた。

 

新型肺炎とグローバル化の「逆回転」

 

 新型肺炎の発生によって、世界経済を支えてきたグローバル化が「逆回転」し始めたように見える。中国、湖北省武漢市を中心に新型肺炎の感染が世界各国に拡大し、各国が海外からの渡航制限などを実施した。世界全体で生産が停滞し始めると同時に、国境をまたいだ「動線」も崩れ、需要が落ち込み始めている。

 1980年代以降、旧社会主義国家では市場経済の導入が徐々に進んだ。その後、冷戦の終結を挟んで世界各国の相互依存度が強まった。具体的には、先進国企業が需要の開拓や安価な労働コストを目指して、中国をはじめとする新興国に直接投資を行った。中国は改革開放を進めて世界の工場としての基盤を整備し、外資を受け入れて技術を吸収した。

 それによって先進国企業は製造などにかかるコストを抑え、より効率的な収益獲得が可能となった。この体制を強化するために各国の企業は中国を中心とするサプライチェーンの整備に注力した。それが、米国をはじめとする主要国の個人消費などの拡大を支えた。同時に、中国経済の成長は加速し、新興国のインフラ整備なども進んだ。

 グローバル化の進展とともにヒト・モノ・カネが国境をまたいでより活発に移動し、人の動線が整備されることで需要と供給のマッチングがサポートされてきた。世界経済全体の底上げが進むとともに各国の相互依存度も高まった。

 一転して、新型肺炎は、グローバル化が支えた需要の創出と、供給体制を下押ししている。供給面では、世界の工場としての地位を確立してきた中国で新型肺炎が発生し、世界のサプライチェーンが寸断された。その上、防疫のために世界的に人の移動が制限され、消費活動にも支障が出始めた。

 

先行き不透明感が高まる日本経済

 

 このように新型肺炎は、需要と供給という世界経済の実体面に多くの負の影響をもたらしている。先行き懸念から世界的に株価が不安定に推移し「負の資産効果」が景況感を悪化させる可能性も高まっている。

 海外の需要を取り込んできたわが国にとって、新型肺炎は経済の下方リスクを高める要因だ。

 今後の展開を考えた際に重要なのは、新型肺炎の収束にどの程度の時間がかかるかだ。ウイルスの感染力がどう変化するかは専門家の間でも複数の見解がある。早期に感染が収束する可能性はある。その場合、世界経済はそれなりの落ち着きを取り戻すだろう。

 ただ、回復のペースはこれまで以上に緩慢となるだろう。その要因として、中国経済の減速は鮮明化している。世界経済を支えてきた米国経済に関しても、2018年4~6月期を境に景気は減速している。産油国がシェアの獲得を重視し原油価格が下落し始めたことは、米国の景気後退リスクを高めている。

 もし、新型肺炎の影響が長引けば、世界経済には一段の下押し圧力がかかると想定される。感染を防ぐために、世界各国はどうにかして自国を守らなければならない。

 グローバル化とともに整備されてきたサプライチェーンの寸断は深刻化し、需要の後退も鮮明となる恐れがある。

 金融市場への影響も軽視できない。3月中旬の時点で考えると、リーマンショック時と異なり、世界の金融決済システムには大きな混乱は生じていないとみられる。ただ、需要と供給の停滞から企業の業績および財務内容が悪化し始めると、デフォルトリスクが上昇し、国によっては金融システムに無視できない影響が及ぶ可能性がある。

 さらに、新型肺炎の影響が長引けば、東京オリンピックの開催にも影響があるだろう。

 新型肺炎は、わが国の景気に無視できない影響を与える要因と考えられる。

 


2020年1月6日号 週刊「世界と日本」第2164号 より

安倍政権 今年の展望
真贋が問われる正念場の年

 

評論家 ノンフィクション作家 塩田 潮 氏

《しおた・うしお》

1946年高知県生まれ。慶大法卒。雑誌編集者、月刊『文藝春秋』記者などを経て独立。『霞が関が震えた日』で講談社ノンフィクション賞受賞。『大いなる影法師』、『田中角栄失脚』、『安倍晋三の憲法戦争』、『日本国憲法をつくった男』、『密談の戦後史』、『東京は燃えたか』、『内閣総理大臣の沖縄問題』など著書多数。

 通算在職日数で史上1位に躍り出た安倍晋三首相は2020年、2度目の政権でついに8年目を迎える。

 衆参選挙6連勝という実績が長期政権の最大の要因だが、20年は首相が解散権を行使しなければ、本来は衆参選挙も統一地方選も自民党総裁選もない「無選挙の年」だ。自民党総裁3期目の任期満了を残り1年9カ月で迎える20年、何を目標に、どんな姿勢と方針で政権運営に臨むのか。

 安倍首相は1993年7月の衆院選で初当選した。国会議員歴は26年余だが、内外の歴史を振り返ると、国会入りの4年前の89年から現在までの30年間は、世界史に特筆される激変の時代だった。

 89年12月3日、米大統領とソ連共産党書記長の両首脳が会談し、「東西冷戦の終結」を表明した。日本では29日、日経平均株価が史上最高値の3万8915円を記録し、バブル経済が頂点に達した。

 世界政治は「ポスト冷戦」の新時代に突入した。他方、日本はバブル後の長期経済低迷で「失われた20年」となる。長期一党支配を誇った自民党は、この30年で計2回、野党転落を体験した。

 激動と混迷の30年のうち、安倍首相は実に4分の1以上、1人で政権を担ってきたが、「ポスト冷戦」の国際政治をリードする外交、「ポスト・バブル」の低迷経済の打破や、人口減社会での国力衰退阻止といった重要テーマで、長期政権保持者にふさわしい結果を出してきたといえるかどうか。

 20年は、大激動時代を担った政治指導者として、歴史的役割を果たしたかどうか、真贋が明らかになる正念場の年だ。

 長期政権を築いた過去の首相の多くは、歴史に名前を刻む政治的遺産(レガシー)を残している。最長政権だが、安倍首相の足跡を見ると、歴史的実績と呼べるほどの大きな仕事は見当たらない。

 アベノミクスによる株価上昇、失業率低下などの実績は否定しないが、7年超の「異次元の金融緩和」にもかかわらず、2%の物価上昇目標は未達成である。「地球儀を俯瞰する安倍外交」、集団的自衛権の行使容認なども手懸けたが、当面の外交対応の域を出ているとはいえず、「歴史的実績」には程遠い。

 内心、レガシーづくりに懸命のはずの安倍首相は、挑戦目標として宿願の憲法改正実現を今も意識しているのは疑いない。19年7月の参院選で、改憲勢力の参議院での議席数が改憲案発議要件割れとなったが、12月9日の臨時国会閉会後の記者会見でも、「必ずや私の手で成し遂げたい」と明言した。

 他方、改憲以外には安倍首相からレガシーに値する目標の提示はない。繰り返し「政権の使命は『新たな国づくり』」と口にしているが、具体的な将来像やデザインは明らかではない。「新たな国」も、9日の記者会見によれば、「新たな国づくりを進め、その先に改憲がある」という位置づけで、改憲によって「新しい日本」を、というシナリオを描いているのは間違いない。

 であれば、選択肢は以下の3つの道が考えられる。第1は3期目の総裁任期満了をゴールと見定め、任期内の改憲実現に全力投球する。第2は4期目での改憲も視野に入れ、自民党則の再改定と総裁4選を目指す。第3は国会と民意の動向から見て、在任中の改憲実現は困難、と自ら判断し、任期満了前の退陣を決意する。

 冒頭で、「無選挙の年」と述べたが、衆議院議員の任期満了は21年10月で、任期の半分以上が経過した20年はいつ解散が行われても不思議はない「総選挙ゾーン」の時期に当たっている。むしろ20年は「衆院選の年」という見方が圧倒的だ。

 次期衆院選は、安倍首相が上記の3つの道のどれを選択するかによって大きく変わる。

 第1の道を選べば、首相は解散・総選挙を改憲実現の最大の武器として使う戦術を考えるに違いない。

 20年の通常国会か臨時国会で改憲案の発議を行い、20年後半か21年初めの国民投票を想定した上で、衆参で発議要件を確保するために、野党改憲派の抱き込みに解散権を活用する。あるいは改憲案の成立を図るために、国民投票と次期衆院選の同日選を仕掛ける。

 安倍首相が第2の道を考慮するなら、4選には次期衆院選圧勝が必須条件となるので、野党の選挙共闘態勢が固まる前の早期抜き打ち解散を目指すのではないか。最速で20年1~2月の総選挙も考えられる。

 第3の道だと、次期衆院選の前に首相退陣となる確率が高い。20年8月の東京五輪閉幕直後か、佐藤栄作元首相の7年8カ月の連続在任記録を塗り替える8月24日以後の辞意表明を予想する向きもある。そうなれば、次期衆院選は後継首相の判断次第となりそうだ。

 安倍首相はしばしば「悪夢の民主党政権」と口にする。民主党政権を倒して首相に返り咲いたときの自身の政治的役割について、政権交代実現用の「緊急首相」だった、という自覚があるようだ。その後、ずっと政権を担い続けているが、辛口に評すると、「緊急首相がそのまま7年」という印象が消えない。

 「1強」という磐石の政治的基盤と、「首相官邸主導体制」という強力な武器を長期間、手にしながら、それを「新たな国づくり」に活用する積極的姿勢が見えないため、本気度を疑う国民は多い。

 極言すれば、最長政権は、野党の弱体化による「政権交代可能な政党政治」の消滅と、与党内の代替可能な後継候補の欠如という政治状況がもたらした幸運が大きく影響している。ほかに有力な選択肢がない国民の消極的支持が最長政権を生み出した面がある。

 競争原理が機能しない名ばかりの政党政治は、長く「1強多弱」に甘んじる罪深い野党と、活力消滅の自民党の両方に原因がある。権力の空白に乗じて長期政権を築いた安倍首相も、改憲不能が明確になり、挑戦目標の不在を国民に見抜かれると、一気に失速する危険性もある。

 「桜を見る会」の疑惑追及をかわして逃げ延びたとしても、そろそろ散り際では、と国民が見限れば、花の命は長くはない。勝負時は意外に早く、山場は20年1~2月にも訪れる可能性がある。

 


2019年12月2日号 週刊「世界と日本」第2162号 より

人口減少下での日本経済は?

 

元国税庁長官 ベトナム簿記普及推進協議会理事長 大武 健一郎 氏

 

 未来が不透明な時代にあって、確実に予測できるのは統計による人口予測だ。

 「令和」の時代は、人口予測から見ると有史以来初めて人口減少の時代に入る。その時の日本経済は、どうなるのだろうか。

 その問題に入る前に、戦後の日本の人口動態と日本経済を振り返ってみよう。

 太平洋戦争後のベビーブームと言われた出生数が毎年250万人にも達した時代が終わった昭和25(1950)年の日本の人口は8300万人であった。昭和から平成になった1989年には1億2300万人となり、この39年間だけで4000万人も増えた。毎年100万人も増加したのだ。

 この間の1人当たり国民所得は64倍に急増した。そもそも国内総生産(GDP)は「人口×1人当たりGDP」で決まるのだから、この間の日本は人口も1人当たりGDPも急増した「奇跡の高度成長」の時代であった。

 しかし、昭和50(1975)年には女性が一生に産む子供の数(特殊出生率)が子供を産んだ両親と同数の子供が生まれる目途の2を戦後初めて下回り、1.98となった。そして出生率は傾向的に下がり続けた。その結果、令和の時代が始まった2019年は1億2600万人となり、平成が始まった年に比べて300万人増加した程度で、平成の時代は人口はほぼ横バイの時代だった。ただし、年齢構成は若い人が減り、高齢者が増加するという高齢化が顕著に進行した。

 昭和から今日まで日本人の平均寿命は男女とも60歳台から80歳台へ約20年も伸びた。したがって、平成の時代は大きく減少した出生数を補う形で高齢者数が急増したのだ。働き盛りの人口が減ったため、平成の時代の1人当たり国民所得は1.2倍になっただけで、停滞と言える時代であった。

 では、令和の時代はどうなるだろうか。

 先の平成天皇が退位された85歳と同じ年に今上天皇がなられる令和27(2045)年には、日本の人口は1億600万人と予測されているので、この間に2000万人も減少することになる。そのため、人口減少分だけでも日本のGDPは減少する。

 しかも政府が予測している2045年には働き盛りの20歳から64歳の人口が5300万人になるので、総人口が1億600万人の内、働き盛りの人口は総人口の半分になり、1人の働き盛りの方が1人の扶養される方々を支える状況になる。

 したがって、1人当たりGDPは余程の生産性向上がない限り増加することは難しいと思われる。令和の時代は何よりも日本人の生産性を向上させることが必要となる。

 そのため、まず人材教育に取り組むことが重要だ。政府予算は現在、人口動態にあわせて高齢者向け社会保障にばかり配分されているが、これからは若い人々の人材育成に配分を移していかねばならない。そして人口知能(AI)等を積極的に活用していくことも求められる。

 しかし、AIは人間の頭脳の約1万倍もの電力を必要とする。例えば、羽生永世王将の頭脳は20ワットだが、将棋のAIは20万ワットの電力を必要とする。AI化を進めるには多量の電力を必要とするのだが、日本は地震大国であるため、原発の活用には制約があるし、原油も輸入するしかないので、日本は自然エネルギーの積極的活用しかないのだが、それにも今の技術力では制約がある。したがって、AI化の促進も決して容易なことではない。

 そこで、海外のプロフェッショナル人材を活用することが重要になってくる。しかし、今回の入国管理法の改正に見られるように、日本人の成り手が少ない「3K」と言われるような職場にだけ外国人労働者の就労ビザを認めるという状況だ。本来は今こそラグビーワールドカップの選手のように、あらゆる職種で高度プロフェッショナル人材を受け入れることこそ必要だと思われる。

 しかし、今は各国とも高度プロフェッショナル人材の取り合いをしている状況下で、むしろ日本人の高度プロフェッショナル人材が海外流失していくことが懸念される。

 人事院では上級公務員になる方々に初任者研修を毎年実施し、その際その方々に「大学の同期生で、優秀な方々はどこに採用されたか」というアンケートを行っている。これに対し、本年初めて「外資系コンサルタント会社に採用された」という回答がトップになった。すでに優秀な日本人の海外流失が始まっているともいえる状況になっているようだ。

 しかも、日本人の人口減は政府予測よりもっと早く進んでいくことも考えられる。人間の脳は発達しすぎ、脳が大きくなると母体を傷つける恐れがあるため、未熟児の状態で生まれる。したがって、「七歳までは神の内」と言われるように7歳までは未熟児の状態で死亡する恐れも大きい。結果、家族の介護が必要になる。

 人間は社会的動物であり、京都大学の山極総長の言われるように社会的な保育が求められる。

 しかし、今や日本では小家族化が進み、子供は夫婦2人で育てねばならない。昔のように5人も子供を産み育てることは難しい。しかも、前述のように人間の寿命が延びて出産期は動物としての出産適齢期よりずっと遅くなるため、母体の卵子の数が少なくなる等出産できない夫婦も増え、ますます出生率は減少して政府予測の水準にさえ届かない事態もありうる。最近の20年間の特殊出生率は1.5さえ上回ったことはない。

 したがって、日本は政策を大きく転換して、高度プロフェッショナル人材の海外流出をくい止め、海外の高度プロフェッショナル人材を日本に呼び込み、日本の経済成長に貢献してもらえるように処遇改善に努める必要がある。会社経営に当たっては、売上高に占める利益率の向上や保有資産当たりの利益率の向上に努めて、高度プロフェッショナル人材を採用できるように労働分配を増加させる必要がある。

 もし、優秀な人材を日本で採用できなくなると日本企業も優秀な人材を得られる国へと移転していくことになる。すでに韓国等ではそうした事態が起こっているように思う。

 令和の時代は「ヒト、モノ、カネ」の内、最も重要なものは「ヒト」である。「ヒト」を育て重視する政策に日本が転換できれば、1人当たりGDPが上昇し、人口減少下でも日本経済に明るさが見えてくると思われる。

 

 


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