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2020年の世界経済は波乱が続きます。それでも日本は景気拡大持続へ。それぞれの専門分野で、深く丁寧に将来を見通します。

2021年4月19日号 週刊「世界と日本」第2195号 より

価値重視の社会へ転換を

 

(株)大久保アソシエイツ 代表取締役社長 大久保 和孝 氏

《おおくぼ・かずたか》

1973年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒。(株)大久保アソシエイツ代表取締役社長。公認会計士・公認不正検査士。前EY新日本有限責任監査法人 経営専務理事・ERM本部長。慶應義塾大学大学院 特任教授。商工組合中央金庫取締役など上場企業を含む多数の企業・団体等の取締役・監査役に就任。長野県他2市のコンプライアンス担当参与、厚生労働省、文部科学省、国土交通省等の各種委員会委員に就任。著書に『コンプライアンスリスクに対するリテラシーの高い組織をつくる〜激動の時代を生き抜くための唯一の不祥事予防法〜』(第一法規)。

 猛威を振るうCovid19(新型コロナウイルス感染症)は、生活を一変させた。人間と感染症の闘いの歴史を紐解くことで、Covid19との向き合い方が見えてくる。人類は気候変動とウイルスとの闘いの繰り返し。今回のパンデミック(感染症の世界的大流行)は、必然の現象とも言える。この20年だけでも、SARS、MERS、SADS、Covid19が、10年、5年、2年の短い間隔で発現。近い将来に次の新種ウイルスが発現する可能性が指摘されており、ウイルスとの戦いが続く覚悟が必要だ。

 

 人類は、気候変動や新興感染症の世界的流行により文明史的転換を繰り返してきた。西暦535年巨大隕石の衝突や火山噴火が地球を襲い異常気象をもたらし、その後に記録に残る最初のペストの流行が起き、古代ローマ帝国の衰退に繋がる。貞観年間(859年から877年)には、隕石落下、富士山大噴火等の天変地異に見舞われると同時にインフルエンザが大流行し、疫病退散を祈って京都・祇園祭が始まった。飢饉に見舞われた農民たちが逃げ出したことで、律令制が崩壊していったと思われる。14世紀半ばから19世紀半ばにかけて続いた小氷河期には、ヨーロッパを中心にペストが蔓延した。寒冷化による穀物の収穫の減少により餌を求めに都市部にネズミが流入し、ノミを媒介して蔓延したと言われている。ネズミの繁殖の遠因は、森林伐採が進み住処を追われたキツネやオオカミが頭数を減らしたことにあり、過度の農地開発が原因とも言われている。また、貿易のグローバル化もペストの蔓延をもたらした一因となった。気候変動の影響は日本にも及び1782年から1788年、天明の大飢饉に苦しんだ農民の行動は、幕末の尊王攘夷運動に繋がっていく。

 近年は、世界的な気候変動に加えてグローバル資本主義が限界まで到達する中で、SARS、MERS、そしてCovid19の感染爆発、パンデミックが生じた。人類への感染だけではない。アジアを中心に家畜の伝染病である豚熱(豚コレラ)が蔓延し、日本でも26年ぶりに発生。サバクトビバッタの異常発生は、東アフリカから南アジアにかけて甚大な被害をもたらしている。

 もはや、ワクチンや治療薬ができたとしてもコロナ前の社会に戻せないだろう。新たな感染症の脅威にさらされた時代を生き抜くためには、社会構造を抜本的に見直す必要がある。グローバル資本主義のもとで進行してきた、格差問題、社会の分断、地球環境破壊への反転が始まったとも言える。

 これまで利点とされてきた、集中・管理・効率重視が、むしろ弱点となって現れてきている。これからは効率優先の「集中・管理」型から、価値重視の「分散・自立」型社会へ、さらにはそれに伴い経済構造までをも変えざるを得ないのではないか。「今だけ、金だけ、自分だけ」といった風潮や、大量生産・大量消費・大量廃棄といった効率優先のライフサイクルが、地球環境を破壊し、気候変動をもたらし、パンデミックを引き起こす要因の1つだといっても過言ではない。

 奇しくも、緊急事態宣言下の「不要不急」という言葉が、「本当に必要なもの」と「そうではないもの」を浮かび上がらせた。人々は贅沢で華やかな生活よりも、生き抜くことに努力をはらい、人との関係の在り方や本当に必要なものは何か〜大きすぎず最適なサイズ、質の良いもの、決して華美である必要はない〜を見直す契機となった。

 私たちは、これまでの反省に立ち、むしろ、コロナショックを契機と捉え、効率優先の社会から、価値重視の社会に転換していく必要があるのではないか。

 具体的には、天変地異への対応も含めた「生命の安全」を第1に考えられる社会システムへと再構築する必要がある。食品や製品の安全だけでなく、地球環境を守るための規制を進め、その規制を乗り越えるための技術革新を促すことが必要だ。株主至上主義を前提とした自由競争から生命が互いに切磋琢磨しあう競争へと転換することができるか。

 パンデミックはサプライチェーンの分断ももたらした。これまで企業の競争力の源泉とされたものが、むしろリスク要因になり始めている。拝金主義的なグローバリズムでもなく、トランプ政権のような行き過ぎた保護主義でもなく、二項対立の議論を乗り越えた、「開かれた互恵主義」が必要になる。特定の国が覇権を握り、富と権力を集中管理する時代から、多くの国々が覇権を争うのではなく、共生を軸に富と権力の分散・自立させる社会の構築だ。例えば国際連帯税を導入し、気候変動、貧困、そして感染症のような地球規模の問題に積極的に取り組むことなどが期待される。

 国内の都市部と地方の関係にも影響する。都市部を中心としたCovid19の蔓延は、人口密集都市部の限界を表面化させた。病床稼働率を高めた効率優先の病院経営は感染症対策ではむしろ弱点となり、医療崩壊に直結しかねない状況をもたらし、資金や人が集まる都市部は、感染リスクが高い地域とみなされ、中心部への移動を回避する人々の動きも出ている。更にオンラインワークは、中央と地方の在り方の変容を加速させる。国がダメになれば地方も連鎖するのではなく、現場を重視(地域)する分散・自立・価値重視の社会システムを再構築し、大きな環境変化のうねりに適応していく必要性がある。

 明治以降の人口分布が逆転する地域主権国家を目指し、大都市への集中・管理から地域の分散・自立へとシフトさせるためには、エネルギー、農業(自給自足)、教育、医療の4分野が自律的な機能のカギを握る。これらを支えるのが、デジタルの活用。

 データ社会におけるプラットフォーマーに対して独占禁止法ではなく、他のインフラ事業と同様の公益規制が必要。同時に、ブロックチェーンを非中央集権的なテクノロジーとして活用すれば、様々なデータを地域の活性化・再生のカギとして活用することを可能にする。同時に農業を国家の基本としていくことも重要。

 私たちは、目先の報道に流されることなく、今の社会を見つめ直しパンデミックとともに変容する社会構造にしなやかに適応する必要がある。持続的な社会を構築するためにも、企業経営の在り方、人との付き合い方、家族の在り方も見つめ直し、時代に合わせていく不断の努力が求められている。

 


2021年1月18日号 週刊「世界と日本」第2189号 より

菅政権 今年の展望

最大焦点は次期衆院選

 

評論家 ノンフィクション作家 塩田 潮 氏

《しおた・うしお》

1946年高知県生まれ。慶大法卒。雑誌編集者、月刊『文藝春秋』記者などを経て独立。『霞が関が震えた日』で講談社ノンフィクション賞受賞。『大いなる影法師』、『田中角栄失脚』、『安倍晋三の憲法戦争』、『日本国憲法をつくった男』、『密談の戦後史』、『東京は燃えたか』、『内閣総理大臣の沖縄問題』など著書多数。

 新政権の発足から4カ月が過ぎた。安倍晋三前首相の突然の退陣表明で急浮上した菅義偉首相は、自民党内の一部の「スタートダッシュ解散・総選挙」の声には耳を貸さず、2020年末まで、新型コロナウイルス感染の再拡大の中で「慣らし運転」に精出した。新年の幕開けは首相にとって政権運営と権力闘争の本格始動を告げる開演ベルとなる。21年の政治の最大の焦点は、言うまでもなく次期衆院選である。

 

 菅首相は就任時、過去の歴代首相と違って4つの束縛を背負う非運の出発となった。党総裁は前首相の残任期の1年だけ、次期衆院選も1年以内、1年延期後の東京五輪の開催は不透明、コロナ収束も霧の中だ。

 1人だけ似たケースの首相がいた。08~09年に政権を担った麻生太郎元首相(現副総理・財務相)である。前任総裁の残任期1年、衆議院議員の任期満了まで1年、加えて大型経済危機といわれたリーマンショックの襲来時の登場だった。

 麻生首相は就任直後の衆議院解散を唱えたが、リーマンショック対策優先に切り換え、事実上の任期満了総選挙を選択した。民主党に完敗し、自民党の野党転落、在任1年の短命政権に終わった。

 当時、党選挙対策副委員長だった菅氏は麻生首相の早期解散論に反対を唱えたといわれた。12年後、首相として同じ場面に遭遇したが、早期解散説には見向きもしなかった。

 次期衆院選は21年の通常国会、予算審議、五輪などの日程から見て、「国会召集後の21年1月解散・2月総選挙」「21年度予算成立後の4月総選挙」「五輪後の8~9月解散・9~10月総選挙」のどれかであるのは疑いない。1月解散説も消えていないが、20年11月後半からは「五輪後」という見方が強くなった。

 その後、12月7日に二階俊博幹事長が記者会見で、コロナ対応の第3次補正予算の21年1月中の成立を前提に「通常国会は1月18日召集の方針」と明言した。菅首相と調整済みのはずで、予算審議優先方針なら、1月解散説は消滅する。

 元来、菅首相は早期解散慎重論者だ。官房長官時代から「コロナ対応最優先・年内解散なし」が持論だった。

 事実上の任期満了選挙でも、コロナと五輪という特別な事情の下では「追い込まれ総選挙」にはならないと読んでいるふしがある。五輪を成功に導き、その成果を武器に、コロナ収束後の衆院選で勝負、と想定している可能性が高い。

 「五輪開催・9月解散・衆院選後に総裁選設定」が首相の政権戦略なら、五輪成功、衆院選勝利、総裁再選を果たして21年9月から「長期本格政権」に、というシナリオと見て間違いない。

 とはいえ、行く手は険しい。五輪も衆院選もコロナ次第だが、先行きは見えない。

 菅首相の21年前半の使命は、コロナ対応と危機管理で失点を最小限にとどめ、同時にコロナで大きく傷んだ経済の立て直しに取り組んで成果を示すことだ。だが、コロナ対策と経済政策の両立は簡単ではない。首相の持ち味の「仕事力」が看板倒れとなれば、「長期本格」の前に「長期低迷」に見舞われ、シナリオは総崩れの危険性がある。

 20年11~12月、内閣支持率の急落が続き、早くも「低迷」の気配が見え始めた。日本学術会議や桜を見る会の問題で安全第一の不明確答弁や逃げの説明が目立ち、一方で官房長官時代以来の「人事権を駆使する強権政治」という批判も渦巻く。

 それ以上に大きいのは、菅政治の全体像が不明という国民の不満と不安である。菅首相の真骨頂は構造改革、規制改革、地方活性化や分権改革などの独自のミクロ経済政策への挑戦だが、目指す政治の方向性、立国の基本路線、国の将来像や達成目標が見えないという冷評は多い。

 菅流改革路線は、多彩な改革プランを随所に仕掛け、結果的に社会の構造や体質の転換を図って経済成長を実現するという道だが、カギは民意の動向だろう。民意が菅流改革を強く支持すれば、菅首相は長期本格政権を手にして改革路線を邁進することができる。

 問題は、ミクロ政策の改革路線は国民が実効を実感するのに時間がかかるという壁だ。克服には、改革プランの具体的な内容のアピールだけでなく、首相自ら菅構想のグランドデザインを打ち出す必要がある。その覚悟がなければ、民意の支持は獲得できない。

 菅首相も自覚があると思われる。就任直後の20年10月の臨時国会での所信表明演説は具体的な個別政策の列挙に終始したが、21年の通常国会冒頭での施政方針演説で菅政治の全体像や目指す国の形と姿などを明示するため、懸命に準備中という段階ではないか。

 21年の政治のポイントは菅首相が「長期本格政権」を手にするかどうかだ。現状ではコロナ情勢、五輪問題、次期衆院選、次期総裁選の4点が軸となる。

 首相は4つの束縛の克服と政権継続をもくろむ。片や「1強」打破を目指す野党側は次期衆院選の勝利を狙う。その意味で、21年は前回の衆院選の17年以来、4年ぶりの「政治決戦の年」と映る。

 といっても、与党が過半数を79議席も上回っている現状では一発逆転の政権交代実現は不可能に近い。他方、衆議院と違って、参議院では、与党の合計議席は過半数を19、超えているだけだ。もし過半数割れとなれば、政治の風景は一変する。

 そう考えると、実際の「政治決戦の年」は次期参院選が行われる22年で、21年はむしろその前哨戦の年と位置づけることができる。

 もしかすると、菅首相も内心、政権の正念場は22年と意識しているかもしれない。21年に4つの壁の克服に成功すれば、次の総裁任期は24年9月までとなる。その前に訪れる22年の参院選で、国民は菅政治に対する本格的な判定を行う。

 菅首相は向こう1年半で改革路線の実効を目に見える形で示すことができなければ、「決戦の22年」の参院選で国民から首相失格と見放される展開もありうる。そうなれば退場は時間の問題となる。

 21年は菅流政治の真贋と菅首相の裸の実力が問われる試金石の1年となりそうだ。

 


2021年1月4日号 週刊「世界と日本」第2188号 より

日本経済の展開予想

 

法政大学大学院政策創造研究科教授 真壁 昭夫 氏

《まかべ・あきお》

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社へ出向。帰国後、内閣府経済動向分析チームメンバー、みずほ総研主席研究員などを経て現職。著書は『ディープインパクト不況』、『資産運用 見るだけノート』など多数。

 

 2020年のわが国経済は、新型コロナウイルスの感染拡大によって大きく落ち込んだ。4~6月期の実質GDP成長率は、前期比年率換算ベースで28.8%減と戦後最大の落ち込みとなった。7~9月期の成長率は同21.4%増加(1次速報ベース)したものの、直近のピーク(2019年7~9月期)時の実質GDPの規模を6%程度下回っている。

 2020年7~9月期までのデータを見ると、成長期待の高い有力プラットフォーマーを持つ米中の経済でさえコロナショック以前の経済規模を回復することはできなかった。それに加えて、中国経済は成長の限界を迎えつつある。その一因として、政府系企業の社債がデフォルトし、債務問題は深刻化している。

 その状況下、有力ITプラットフォーマー不在のわが国経済の回復は一筋縄ではいかない。もし感染の第3波によって国内経済が下押しされ、それと同じタイミングでわが国の株価調整が進むのであれば、景気回復が追加的に遅れる展開もあるだろう。

 

コロナショックで加速する世界経済のデジタル化

 

 2020年2月中旬から3月の半ばにかけて、新型コロナウイルスの感染拡大が世界の金融市場と実体経済を大きく混乱させた(コロナショック)。3月半ばに米FRB(連邦準備理事会)が各国中央銀行にドル資金を供給したことが支えとなって世界の株価は反発し、その後4月半ば頃に米国を中心に世界経済は底を打った。

 コロナショックを境に明確になったことは、経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が、それまで以上のスピードで進み始めたことだ。つまり、コロナショックは世界経済の環境変化のスピードを加速させた。

 特に、IT先端企業の存在が経済の回復に大きな力を発揮することが明確になった。感染が拡大する状況下、米アマゾンや中国のアリババといった大手ITプラットフォーマーは、ネットショッピングなどの需要を取り込んで業績拡大を実現した。また、世界各国で都市封鎖が行われ、感染を避けるために人々が自宅にこもり、ビジネスの場がオフィスからテレワークへと急速にシフトした。その結果、高機能サーバーや、パソコンやタブレットPC、動画視聴、5G通信機器、データ保存や分析を行う高性能の半導体、ビデオ会議システムなどIT先端企業の有無が各国の経済成長を左右することが明確になった。社会インフラが発展途上にあるアジア新興国では、急速に経済のデジタル化が進んでいる。

 プラットフォーマーを中心とするIT先端企業の重要性は、株価の推移から確認できる。世界的な低金利環境が顕在化する中、米国ではGAFAMを筆頭に経済のデジタル化をけん引する企業の成長期待が大きく高まり、米国のナスダック総合指数は大きく上昇した。

 

有力ITプラットフォーマー不在のわが国経済

 

 それとは対照的に、3月中旬から10月下旬まで、わが国の株価の戻りは鈍かった。その背景には、わが国の経済が人の移動に依存してきたことがある。

 2012年12月から2018年10月までのわが国の景気回復局面において、経済の成長を支えた主な産業は、機械、自動車、観光(飲食、宿泊、鉄道や航空)などだ。いずれも、人の移動が欠かせない。例えば、自動車産業では、部品を国内外のサプライヤーから調達し、工場で完成品を生産し、販売する。自動車の販売は店舗がメインだ。そのため、中国で感染が拡大し国内外で人の移動が制限された結果、一時、わが国の自動車産業は需給の両面で大幅な落ち込みに直面した。百貨店業界でも、中国を中心とするインバウンド需要の蒸発と内需の落ち込みによって業況が悪化した。わが国に米中のような大手ITプラットフォーマーが見当たらないことは、動線が絞られる中で経済の安定と成長を目指すことを難しくする。

 同じことがユーロ圏経済にも当てはまる。過去、ユーロ圏経済は米国、中国およびアジア新興国地域の景気回復に支えられて持ち直した。具体的には、海外の自動車や機械需要を取り込んでドイツ経済が持ち直し、それが南欧への観光需要などを高めた。2020年10月以降の感染再拡大によって移動制限が強化された結果、非製造業を中心にユーロ圏の景況感は急速に悪化し、景気の二番底懸念が高まった。感染再拡大がユーロ圏経済に与えた影響からも、有力なITプラットフォーマーが経済運営に大きな影響を与えることが確認できる。

 

緩慢な回復が予想されるわが国経済

 

 GDPで見た場合に、わが国経済が直近のピーク水準を回復するには数年単位の時間を要するだろう。

 今後の展開はいつ、どのような効果のあるワクチンが開発されるかに左右される。ワクチンが早いタイミングで世界全体に供給されれば、わが国経済には追風だ。ただ、現時点でワクチン開発には不透明な部分があり、先行きは楽観できない。

 また、世界的なパンデミックの発生は、潜在成長率を低下させる。その上、コロナショックはデジタル化を加速化させ、人々の生き方を変えた。ワクチンが開発されたとしても、わが国の一部産業では需要が元の水準に戻らない可能性がある。例えば、テレワークの浸透によって、ビジネススーツの需要は元には戻らないかもしれない。接触への忌避感やオンラインでの就業や教育の利便性に気付き、鉄道を利用する人が減る可能性もある。

 米中対立の先鋭化も軽視できない。人権問題に関して米民主党は共和党以上に対中強硬だ。国際協調の旗の下、米国が世界各国を巻き込んで新疆ウイグル自治区などでの人権問題に関係している中国企業との取引禁止に着手すれば、貿易取引が減少し世界経済は下押し圧力にさらされるだろう。

 株価調整リスクも高まっている。2020年11月、米国での政権移行手続きの進行による先行きへの安心感の高まりと、FRBの追加金融緩和期待に支えられ、外国人投資家が日経平均先物の空売りポジション(持ち高)を解消し、わが国の株価は大きく上昇した。実体経済に比べ、株価は高すぎる。感染第3波によって国内経済の停滞懸念が高まる中で株価が調整すれば、わが国経済はかなり厳しい状況を迎える恐れがある。主要国の中でもわが国の景気回復は緩慢にならざるを得ないだろう。

 


2020年11月16日号 週刊「世界と日本」第2185号 より

サンマ高騰のからくりと流通

 

北海学園大学経済学部教授 濱田 武士 氏

《はまだ・たけし》

1969年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院修了、東京海洋大学准教授を経て、2016年より北海学園大学経済学部教授。著書に『魚と日本人 食と職の経済学』(岩波書店、水産ジャーナリストの会大賞、辻静雄食文化財団 第8回辻静雄食文化賞)、共著『漁業と国境』(みすず書房)等。

 

 秋の味覚であるサンマが鮮魚売場の一角にならぶ季節が過ぎようとしている。しかし、サンマの品薄感が夏からずっと続いている。そのため、価格は今なお高騰している。例えば、あるスーパーでは10月を過ぎているのにサンマ1尾が250円であった。しかも決してそのサイズは大きくない。サイズが大きく、少し安いものもあるが、それは越年在庫物といって生鮮物ではなく解凍物である。それは昨年ものか、それより前のものかはわからないが、それでも1尾100円以上していた。

 

 漁獲量が安定している年ならば、10月になると生鮮物でも3尾~5尾で100円というのも珍しくなかった。まだ漁期は残されているが、今年の漁獲量は過去最低の昨年を下回りそうなペースなのである。

 サンマに限らず不漁というのは長い歴史で見れば、必ずあるイベントのようなものである。特に広く海を泳ぎ回る回遊魚の多くは、周期的に資源量そのものが増えたり、減ったりする傾向がある。そして豊漁と不漁の魚種がチェンジする。サンマに変わって増えるのはマイワシである。実際近年好漁が続いている。今年も好調だ。

 サンマについては、図に見られるように、1958年には57万トンという記録的な好漁だったが、1969年には6.3万トンまで落ち込み、またその4年後の1973年には40万トンに達した。その後も増減を繰り返してきた。しかし、昨年、今年と大不漁が連続していることで越年在庫も品薄となって価格が暴騰している。価格が暴騰するのは買う側にとっては歓迎できない。漁業者にとってはウエルカムなのだが、獲れなさすぎると出漁を控える漁業者が出てくる。もちろん稼ぎはなく、別の魚を獲るか、次の漁期を待つしかない。これまでの経験則からすれば、数年先には資源量が回復してくると思う。ただし、これまでと違い資源が増えても、漁獲量が増えないという懸念がある。

 サンマの主漁場は、三陸沖、北海道沖あるいは千島列島(ロシア)沖にあたる北太平洋である。春から夏にかけて北太平洋公海域から千島列島沖を通過して北海道沖に、夏から冬にかけて三陸沖、常磐沖に漁場が移動する。

 しかし、この10年ぐらい日本列島に漁場が近づかなくなっている。日本の200海里水域の外側で北東から回遊してきたサンマの群れが南下してしまう。北海道と三陸沖にサンマが嫌う大きな暖水塊が停滞しているからとされている。そのうえ、日本の200海里水域の外側には韓国漁船、台湾漁船に加えて中国漁船が集まっている。これらの漁船は規模が大きく、長期間さまよってサンマを漁獲している。

 日本漁船は漁獲後凍結せず生鮮のままサンマを持ち帰るため漁場の滞在日数が数日になるが、外国漁船は漁獲後すぐに凍結するので漁場で獲り続けることができるのである。日本からすれば、北太平洋公海で外国漁船に先獲りされているという感覚に陥る。とはいえ資源量が落ち込んで漁獲量が伸びないのは外国漁船も同じである。彼らも不漁で喘いでいる。ただ大きな魚群を発見できれば一攫千金となるので外国漁船も簡単には諦められない。

 日本のサンママーケットは、鮮魚流通が核である。漁獲後から水氷で鮮度保持して食卓まで届けるというものである。鮮魚流通の需給がサンマの価格を主導する。鮮魚の需要を満たす以上の供給があれば、冷凍に回り、漁期終了(11月末頃)から次の漁期までの需要を満たす越年在庫物や加工原料になる。漁獲量が十分にあれば輸出にも回る。輸出先はロシア、タイ、ベトナム、中国などであり、主に缶詰原料になる。ただし、東日本大震災後はロシアなどが禁輸措置を講じたため海外市場を失った。そのときに漁場に出没し始めたのが中国漁船であった。中国漁船はその後劇的に増えて漁場を占拠するようになった。サンマ消費は中国国内でもあるが、多くが缶詰となってロシアに向けられた。台湾も缶詰原料として中国やロシアに向けてサンマを輸出していたが、そのビジネスモデルが模倣されたとも言える。日本は、漁場も、市場も取られたような格好になったが、むしろ近年の不漁下では国産原料が不足していることから台湾などからの輸入にも頼らざるを得なくなっている。

 国産魚の主力は鮮魚であり、日本漁船のみが鮮魚マーケットを支配できているが、その鮮魚の供給が全く足りず、冷凍解凍品が主になっている現状からすると、サンママーケットが冷凍解凍品で事足りるという状況になりかねない。しかも輸入物で。このままではサンマ流通の経路が細ってしまう。そうなると、今後漁獲が回復しても、流通経路が隘路(あいろ)になって流通量が増えないという事態も考えうる。実際、末端流通ではサンマが減った分、それ以外の魚で鮮魚売場を埋めようという努力が見受けられる。

 残念ながら現況からするとサンマ漁船は減り、やがて寡占状態が強まることになる。寡占状態になれば価格が上向きになるのだが、そうなれば国産の供給量が不足し輸入に頼らざるを得なくなる。輸入先は今台湾が多いが、やがて中国も増える可能性がある。まるで漁業が縮小してきた縮図そのものである。

 それで良いのだろうか。新たな政策の枠組みが求められる。

 


2020年10月19日号 週刊「世界と日本」第2183号 より

コロナ禍 製造業の景況

 

政策研究大学院大学 名誉教授 橋本 久義 氏

《はしもと・ひさよし》

昭和20年福井県生まれ。同44年東京大学工学部卒、通産省入省。同53年~56年、JETRO調査員として西独に駐在。その後通産省機械情報局鋳鍛造品課長、中小企業技術課長、立地指導課長などを歴任。平成6年埼玉大学教授、同9年政策研究大学院大学教授、同23年から現職。著書に『中小企業が滅びれば日本経済も滅びる』、『町工場こそ日本の宝』(共著)など多数。

 

 日銀短観によれば、現在の景況は、リーマンショック後に次ぐ厳しさだという。今のような巣ごもり経済状況が続けば、数カ月後行き詰まる企業が続出するだろう。「病気は治りましたが、みんな飢死にしました」では本末転倒だろう。飲食・観光関係企業に関しては連日報道されているとおりで、ようやくGo To トラベルやGo To イート等の緩和措置が実行されて一息ついてはいるが、まだまだコロナ前の状況とはほど遠い。一方ものづくり産業は、飲食・観光に比べればはるかにマシだが、コロナ禍で大きな影響を受けているのは同じだ。ここで報道されることが少ない製造業の景況について概観したい。

 

 中小企業の集積していることで有名な東京都大田区のY社長は「大田区の会社は試作の注文が多いので、不況の時に注文が増えたりもするのですが、今回は研究開発部門自体がリモート勤務等で新製品開発の動きが止まっていて、どうにもなりません」と嘆いていた。統計数値ではないが、直感的に言えば、6割操業程度に活動レベルが下がっている。精密バネK社長は「今は耐えるしかありません。仕事が少ない機会に雇用調整金を使って、従業員に新しい技能取得に頑張ってもらっています」と話す。

 業種的に見ると、直接的に大きな影響を受けているのが、自動車産業だ。

 1月の春節頃から海外、特にコロナ発生源となった中国工場の部品が届かず、生産が滞る事態になった。その後1カ月ほどの間で少しずつ回復してきたのだが、コロナ禍が世界に広がっていくに従って、タイ、フィリピン、インドネシア、ベトナム、メキシコ等々、中国以外からの部品供給もおかしくなり、一方で部品を購入してくれる側の自動車工場が操業自粛要請、あるいは部品欠品で操業停止する等で受注減に苦しんでいる。

 「基本的にJIT(ジャストインタイム)でやっていますから、部品の欠品は生産に致命的です。しかし従業員を遊ばせておくわけにもいかないので、海外から供給を受けていた部品を、10数年ぶりに自社生産に切り替えました。長く海外に任せていたために、製作図面が見あたらず、中国に電話したが、誰も出勤していなくて・・・」とはT社長。

 「受注は7割くらいです。銀行に脅かされ、組合とも協力して採算分岐点を下げる努力をして、8割操業なら利益が出る体制にしました。そこで勇んでメイン銀行に、社長報酬50%減等々経営改善策を列挙した経営計画書を持って融資のお願いに行きましたが、『社長報酬ゼロくらいの意気込みでなければ・・・』と突き返されました」と肩を落とすのは鋳物企業R社の会長だ。繰り返し言っておられたのが、「いつまでかが分かれば、対処策も作れるのだが」ということだ。

 例外的に忙しいのが、半導体製造装置関連業界で、リモート勤務、WEB会議の浸透で、パソコン関連産業がブームだ。加えて米国トランプ大統領の「中国企業に米技術を使わせない」宣言もあって、中国からの需要が盛り上がり空前の忙しさだという。

 またパソコン以外の巣ごもり関連商品、テレビ、ゲーム機等が時ならぬブームで、家具もよく売れているらしい。自宅に滞在する時間の長くなった旦那様が、今まで気づかなかった「不便」を改善しようと思うためだろう。

 景気の先行きを不安視する向きが多いが、それほど悲観することはないだろう。まず第1は米国の景気だが、トランプ大統領流中国締め出しで国内生産は活性化し、コロナ禍の中でも活況が続く。

 ところで余談だが、トランプ大統領は再選される。バイデン候補が選んだカマラ・ハリス副大統領候補はウルトラ左翼で、警察縮小論者。難民受入論者だ。アメリカ市民はBLM(ブラック・ライブズ・マター)に表立っては反対できないが、暴動・略奪の頻発には不満を抱いているし、難民出身者も、(表だっては言えないが)難民受入には反対だ。隠れトランプ支持者の反乱が必ず起こる。

 一方中国は米国から閉め出され、香港・ウイグルで世界から非難され、コロナ禍で悩まされ、習近平は長老達に虐められ・・・で数え役万状態だが、14億人の市場を持ち、資源もある。技術力もある。米国の圧力を受けながらも、独自技術(と言っても米国技術を基礎にしたものだが・・・)を成功させるだろう。既に開発されているものを後追いするのは、それほど難しい技術ではない。工作機械業界に聞くと、引き合いは急増しているという。いずれにせよ、中国はゴムの胃袋・鉄の肺。満身創痍でも立ち上がる力がある。

 しかし、早く追いつくためには何としても日本の設備が必要になる。

 つまり、米中の需要が支えるので、日本の景気はリーマンの時のような長期低迷にはならない。

 しかし米国は本気で中国を世界経済から閉め出そうとしている。トランプ大統領はもちろんだが、バイデン氏が仮に勝利しても、米国議会は反中国で固まっており、その流れは変わらないだろう。「HUAWEIをはじめ、いくつかの中国企業と取引している企業は米国市場から閉め出す」ということになると、日本企業も大変だ。現在中国に工場や提携先を持っている企業は何らかの対策が迫られるだろう。

 しかしこれは大きな決断をするチャンスだろう。工作機械を手がけるS社はコロナ禍で中国部品が滞ってトラブルになったので、思い切って国内企業に変更したところ「やってみたら輸入品よりコストが下がりました」と喜んでいた。一時期中国生産にはかなりのメリットがあったが、賃金格差も縮まってきた。

 日本も海外生産を考え直すチャンスだろう。トランプ大統領も言っている。「自分の国で作ろうじゃないか!」日本の人件費が多少高い点は否めないが、働く人々の誠実さ、勤勉さ、知識欲、愛社精神等々はそれを補って余りある。

 更に日本には、働き盛りの年寄りが山ほどいる。彼らは働きたくてウズウズしている(私もその1人だが・・・)。そのエネルギーを活用している例が、静岡県磐田市にあるコーケン工業(油圧機器部品製造)だ。現会長村松久範さんが、社長の時代、工場の近隣に「元気なおじいちゃん、おばあちゃん大募集」という広告を入れたところ応募者殺到。現在300名ほどの従業員のうち、100名以上が60歳以上という。

 いずれにせよ、現在の為替レート、エネルギーコストであれば、国内でも十分やっていけるはずだ。コロナショックを天啓として国内回帰を考えてみたらどうだろうか。

 


2020年9月21日号 週刊「世界と日本」第2181号 より

2020年後半:世界経済と日本

求められる構造改革の推進

 

法政大学大学院 政策創造研究科教授 真壁 昭夫 氏

《まかべ・あきお》

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社へ出向。帰国後、内閣府経済動向分析チームメンバー、みずほ総研主席研究員などを経て現職。著書は『ディープインパクト不況』、『資産運用  見るだけノート』など多数。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、足元の世界経済はかなり厳しい状況になっている。これまで世界経済を支えてきた米国をはじめ、中国、わが国、欧州各国で個人消費の落ち込みが鮮明だ。また、米中の対立が鮮明化していることも、世界経済にとってマイナス要因だ。各国が本格的な景気回復を実現することは容易ではない。

 

 今後の展開を考えると、とりあえず世界経済のV字回復は期待できないだろう。世界的に新型コロナウイルスの2次的な感染拡大は深刻だ。また、米中対立の解決への道筋は全く見えない。当面、世界経済の回復ペースは緩慢にならざるを得ないだろう。

 今後、高い成長が期待できる有力なIT先端企業が見当たらないわが国経済が、コロナショック以前の水準に回復するには数年単位の時間がかかる可能性がある。

 先行きへの懸念が高まる中、わが国に求められることは独自のノウハウを高め、世界から必要とされる新しい技術を生み出すことだ。それを実現するため、政府が積極的な構造改革を進めることが重要だ。

 

世界的に深刻な個人消費の落ち込み

 新型コロナウイルスの感染が拡大した結果、近年の世界経済を支えた米国を中心に、主要国の個人消費が大きく落ち込んだ。4~6月期、米国の実質GDP成長率は前期比年率で32.9%減だった。最も大きな要因は個人消費が減少したことだ。感染対策のために都市封鎖などによって人の動線が絞られ、人々が不要不急の消費を控えた影響は大きい。

 各国政府は金融・財政政策を総動員して景気を下支えしているが、そうした対応には限界がある。

 たとえば、米国では7月末で失業給付の特例措置(週370ドル(平均)に600ドルを上乗せ)が失効した。失効が近づくにつれ、米国の小売売上高の増勢は鈍化した。民主党と共和党の対立だけでなく、共和党内で給付規模をめぐって意見が対立した影響は軽視できない。経済再開に欠かせないワクチン開発に関しても、副作用の有無など不確実な点がある。

 また、同期間、中国の実質GDP成長率は前年同期比3.2%増だった。共産党政権が金融・財政政策を強化して公共事業を積み増し、電気自動車(EV)の販売補助金を延長したことなどがプラス成長を支えた。ただし、それは持続可能とは言いづらい。2018年以降、公共事業の積み増しにも拘らず中国の成長率は鈍化した。中国経済は成長の限界を迎えつつある。その裏返しとして、中国の債務残高は増加し鉄鋼などを中心に過剰生産能力も蓄積されている。7月の中国の小売売上高が前年同月比1.1%減だったことは、先行き不安から消費者が節約志向を強めていることを示唆する。米中の2大経済大国の個人消費が低調に推移する可能性を踏まえると、世界経済の回復は一筋縄ではいかないだろう。

 

ここへ来て一段と先鋭化する米中の対立

 それに加えて、世界経済は米中対立の激化にも直面している。今起きていることは、世界の政治、経済、安全保障のリーダーである米国と中国の覇権国争いだ。経済面にフォーカスすれば、米国の“自由資本主義体制”と共産党政権の指揮に基づく経済運営を重視する中国の“国家資本主義体制”の勢力争いがし烈化している。

 米共和党の保守派は、オバマ前政権が中国との協力を重視したことがその台頭を招いたと批判してきた。保守派にとって、制裁関税の賦課をはじめトランプ大統領の対中強硬姿勢は重要だ。トランプ政権はIT先端分野での制裁強化だけでなく、中国の人権問題、南シナ海の領有権主張、新型コロナウイルス感染の事実隠蔽などを強く批判している。

 特に、IT先端分野で米国は中国の通信機器大手ファーウェイへの半導体供給網を事実上遮断した。また米国政府は、同社をはじめIT先端企業5社やテンセントのウィーチャットなどのSNSアプリとの取引を禁止した。さらに、米国は台湾とのFTA交渉を目指すなど、より多くの国を自由資本主義陣営に取り込もうとしている。

 その一方で、中国は補助金政策をはじめ国家資本主義体制を強化することで米国に対抗している。半導体製造能力を確立できていないという弱みを克服するために、中国政府は法人税の減免などを通して半導体受託製造企業の競争力強化に取り組んでいる。それが意味することは、各国にとって先端技術を確保する重要性が高まっていることだ。

 経済成長の限界に加えて新型コロナウイルスが発生した結果、習近平国家主席の権力基盤は不安定化している。求心力を維持するために同氏は米国に譲歩できないだろう。

 他方、大統領選挙に向けて、トランプ氏は対中政策で世論の支持を獲得したい。当面、米中の対立は先鋭化するだろう。

 

わが国にとって重要性高まる技術開発力

 世界各国と比較した場合、わが国経済の回復にはより多くの時間がかかるだろう。コロナショックの発生によって、わが国がIT後進国であることがはっきりした。それは特別定額給付金の対応をめぐる自治体の混乱から確認できる。わが国には米中の大手ITプラットフォーマーに匹敵する成長産業も見当たらない。

 わが国は、米中対立の先鋭化にも対応しなければならない。わが国は安全保障面では米国との関係を強固にし、中国の人権問題などに対して明確に反対の立場を示す必要がある。それは、中国の圧力に直面するアジア新興国や、域内の連携強化を目指すEU各国との関係強化に不可欠だ。アジアや欧州各国との連携強化は、わが国が多国間の経済連携を目指すために欠かせない。

 そのために重要なことは、技術先進国としての地位の確立だ。現状、半導体の材料や製造装置、セラミックコンデンサ、画像処理センサーなどの分野でわが国の競争力は高い。そうした自国の強みを磨くことによって、わが国は米中から必要とされる最新の技術や素材を生み出さなければならない。それができれば、わが国は米国との安全保障を強化しつつ、民間レベルで世界最大の消費市場である中国経済へのアクセスを維持・強化できるだろう。

 このように考えると、わが国は構造改革を推進し、民間の新しい取り組みを引き出す必要がある。わが国の金融政策は限界を迎え、財政出動の余地も限られている。先端分野の技術力向上に向けた構造改革の推進は、わが国経済の今後に無視できない影響を与えるだろう。

 


2020年6月8日号 週刊「世界と日本」第2174号 より

コロナ禍の課題を考える
「移動の時代」の問題が表出か

 

日本大学 危機管理学部教授 先崎 彰容 氏

《せんざき・あきなか》

1975年東京都生まれ。専門は近代日本思想史・日本倫理思想史。立教高等学校を経て、東京大学文学部倫理学科卒業。東北大学大学院博士課程修了後、フランス社会科学高等研究院に留学。著書に『未完の西郷隆盛』、『維新と敗戦』、『バッシング論』など。

 

 

  令和の日本は、年号に込めた思いとは逆に、混乱から始まったと言ってよい。新型コロナウイルスという目に見えない敵が突如出現し、防衛体制も整わないまま戦闘状態に世界全体が突入した。戦い始めて3カ月、筆者の通勤ルートである東京・三軒茶屋も、夜8時にはひっそりとして、電気が落ちている店が多い。街から人影が消え、闇が復活している。

 東日本大震災以来の静寂が東京を染めている。ただ、大震災が実際に建物や車を呑み込み、東北を泥水で覆いつくしたのに対し、今回は、表面上は何も壊れていない。

 いるべきはずの人間がいない東京は「ゴーストタウン」さながらであり、不気味さすら感じさせる。戦後はじめて、私たちは「緊急事態」の只中にいる。

 5月中旬、緊急事態宣言の解除も検討され始めた今、コロナウイルスが私たちに突きつけた課題を冷静に考えてみたい。つまり文明論的な観点から考察したいのである。

 一説によれば、中国で発生したウイルスがヨーロッパに飛び火した背景には、中伊関係があるという。中国の「一帯一路構想」に参加するイタリアには多くの中華系労働者が出稼ぎに来ており、彼らが春節の時期に一斉に移動し帰国したことが、ウイルスを伝導する役目を果たしてしまったというわけである。

 この例からも分かるように、今、世界はグローバル化の極北にある。

 グローバル化とは国際化と訳すよりも、「移動の時代」と考える方が事態を正確にとらえている。

 今回の騒動が起きる以前、筆者の興味を掻き立てた本に『権力の終焉』(日経BP社)があった。著者のモイセス・ナイムはベネズエラ開発相や世界銀行の理事を務めた人物であり、著作が一躍脚光を浴びたのは、フェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグが高く評価したことによる。

 ナイムは現代社会の構造変化を、3つの革命、すなわちMore(豊かさ)革命、Mobility(移動)革命、Mentality(意識)革命にあるとする。日本やアメリカでは、格差社会や二極化という言葉がしばしば使われる。

 それは中間層の解体を意味するのだろう。だが世界全体を見渡してみると、この30年は、これまで最貧困層にいた人びとが圧倒的に「食える」ようになった時代であった。まさに豊かさの革命が起きたのである。結果、人びとはさらなる豊かさを求めて、激しく移動するようになった。

 ヒスパニック系のアメリカへの移民、あるいは中国国内での都市部への移住、さらには世界全体を激しく移動するビジネスマンを思い出すこともできるだろう。観光客が近年、激増した背景には世界全体で豊かになった大量の人びとの出現がある。

 豊かさと移動の革命が、3つ目の意識革命を促す。急成長した新しい中間層は、移動して新しい情報に接することで、自分の人生に期待感を膨らませるようになる。自分たちよりもより多くの自由と快楽、富める者たちを目撃する。結果、本来、新たな豊かさに満足すべき彼らは、天井知らずの欲望に心をかき乱されることになった。

 「もっと豊かに!」という意識が、数年前には考えられなかったはずの現状にすら、不平不満を生み出してしまうのだ。これをナイムは意識革命と呼んでいるわけである。

 以上の3つの革命が、何を私たちにもたらしたのか。さらにそれは、新型コロナウイルスに苦しむ世界と、私たち日本人に何を示唆するのだろうか。それは次のようなことだ。

 大量に不平不満を抱えた人びとの出現と、彼らの激しい移動は、権力の弱体化をもたらす。なぜなら政治や企業のトップの座にある者が、きわめて簡単に引きずり降ろされるリスクを背負ってしまったからである。

 マスコミや世論の監視に権力は常にさらされている。小さな失策でも糾弾され、権力の座に長期的にいることは困難となる。しかし引きずり降ろしに加担した人たちは、自分で代案を出し権力を操るだけの力量を持ち合わせていない。こうして、小さな権力に分散し何も決断・決定できない状況を、ナイムは「無秩序化した世界」と名づけ、現代社会の特徴として暴き出したのである。

 これは決して抽象的な議論ではない。実際、私たちの周囲でも、強大な権力をもつ新聞社が、たった1人で100万人以上のフォロアーをもつツイッター使用者に頭を垂れ、御意見番として登用したりしている。つまり情報発信の中心軸は解体し、複数の小さなツイッター発信者にその座を明け渡しているのだ。

 こうした身近な出来事からも分かるように、2000年代の世界情勢は、グローバル化一辺倒であった。ヒト・モノ・カネが激しく移動し、豊かさを生み出し、人びとは不平不満をぶつけあっている。

 権力は分散し、物事を前に推し進めるだけの決断力を衰弱させてきたのである。

 さて、そこで今回の新型コロナウイルスをめぐる騒動を思い出してみよう。すると、ナイムの『権力の終焉』は、他ならぬわが日本国において最も妥当する時代診察に思えてくるのである。

 日本では中国はもとより、欧米各国の完全な都市封鎖を行うことはせず、緊急事態宣言に伴う自治体の対応も、全ては要請、すなわちお願いに終始した。金銭的補償をめぐる議論を除けば、国家秩序の安定は国民一人ひとりの自助努力に委ねられているのであって、国家権力による強制は何ひとつ行われていない。

 これは戦後、日本の民主主義が基本的に権力による私権の制限に極めて慎重だったことも遠因している。そこにナイムの指摘する権力の解体も加わり、現政権は強制をイメージさせる政策を打つことができないということだ。

 もちろん、権力の暴走をチェックすることは大事なことである。しかし例えば、マイナンバー制度の普及を怠った結果、10万円のネット支給申請に四苦八苦している現状を思う時、私権の制限こそ逆に個人に自由を与える場合もあるのだということに思いを致すべきではないのか。

 今回のコロナ禍は、戦後日本を覆う常識やイメージを問い直すきっかけになるはずだ。

 文明論的な考察とは、このような意味だったのである。

 


2020年5月25日号 週刊「世界と日本」第2173号 より

危機下の首相
求められる指導力
何を政治的遺産に

 

評論家 ノンフィクション作家 塩田 潮 氏

《しおた・うしお》

1946年高知県生まれ。慶大法卒。雑誌編集者、月刊『文藝春秋』記者などを経て独立。『霞が関が震えた日』で講談社ノンフィクション賞受賞。『大いなる影法師』、『田中角栄失脚』、『安倍晋三の憲法戦争』、『日本国憲法をつくった男』、『密談の戦後史』、『東京は燃えたか』、『内閣総理大臣の沖縄問題』など著書多数。

 

  新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府は4月7日、連休末の5月6日を期限に、東京など7都府県を対象にして緊急事態宣言を発し、4月16日に対象地域を全国に広げたが、期限切れを前に、5月4日、31日までの延長を決定した。

 報道によれば、安倍晋三首相は緊急事態宣言の全国拡大から10日が過ぎた4月26日の衆議院静岡4区補欠選挙の後、危機対策について、「こうなれば、とことんやるしかない」と漏らしたという。

 一方、憲法記念日の5月3日、自民党総裁として保守派団体のオンライン会合にメッセージを送り、「緊急事態を憲法にどう位置づけるか、極めて重く大切な課題」と訴えた。

 3期目の総裁任期は来年9月までだ。残り1年半余という時期にコロナ危機に遭遇したが、持論の改憲への意欲を隠さず、憲法と緊急事態の関係を説いた。

 危機襲来前の今年の年初、首相が描いていたシナリオは、できれば在任中の改憲挑戦、無理なら独自の政治的遺産(レガシー)を築いて勇退という選択肢だったと思われる。

 改憲へのこだわりは強いが、現実には3期目での実現は不可能な情勢で、挑戦するなら4選を考慮するしかない。衆議院議員の任期満了は来年10月で、次期衆院選勝利が総裁4選の必須条件となる。

 だが、首相は昨年の12月27日収録のテレビ番組で、4選について自ら「本当に考えていない」と明言した。真意かどうか、疑う声もあったが、発言どおりなら、改憲以外の別のレガシーの目標を設定し、達成の度合いを見届けて、3期目の任期切れか、あるいは任期中の退陣も想定していると見られた。

 その場合、改憲以外にレガシーとなる目標として、一つは夏期東京五輪の成功、もう一つは「全世代型の社会保障への転換」をうたう社会保障改革が視野にあったはずだ。

 ところが、計画は大きく狂った。年初は、4月の習近平・中国国家主席の来日をこなして「米中橋渡し」の役割を果たし、東京五輪とその効果で経済上昇を演出した後、社会保障改革を仕上げて、その勢いで今年後半か来年2月頃までに衆院選を、という筋書きだったに違いない。

 なのに、3月5日に習来日の見送り、24日に1年程度の五輪延期が決まる。政権運営構想の白紙撤回、練り直しを余儀なくされた。

 コロナ発生国の中国トップの来日は宙に浮いた形となった。1年延期の東京五輪も、各国で感染が収束しなければ首相在任中の開催が吹っ飛ぶ。社会保障改革は重要課題だが、コロナでわきに追いやられそうな空気だ。史上最長首相だが、「振り向けば政治的遺産ゼロ」という結果に終わる心配も出てきた。

 安倍首相は冒頭で触れたように、「とことんやる」と口にしたが、地球規模の感染蔓延と経済大失速という歴史的危機に直面した以上、政治指導者として覚悟を決めるしかない。

 国家的危機に直面した政権担当者は、自身の政権欲やレガシー作りなど政治的野心はいっさい放棄し、国民と国家を救うために全エネルギーを注ぎ込むと決意する。それが「危機の首相」の条件である。あえてレガシーを意識するなら、唯一のテーマは「コロナ危機克服」だろう。

 首相は五輪延期確定のとき、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして、完全な形で東京五輪を」と語った。実現の要件は、第1に感染の世界的収束、第2に日本を含む世界の経済のV字回復、第3に国際的な再発防止体制と世界の新秩序の構築である。延期後の五輪開催国の首相として、この3点の実現のために国際的な指導力を発揮しなければならない。

 コロナ危機は、一方で日本の政治・行政の構造と体制、組織やリーダーの態勢と姿勢などにどんな問題点や病弊が隠されていたか、思いがけずその裸の姿を映し出した。危機襲来後の約4カ月、未体験による制度の不備、対応の遅れ、後手の対策などが目立ったが、それだけでない。

 コロナ危機を通して、首相官邸主導体制の功罪、政治リーダーの資質と力量の欠如、旧態依然たる縦割り行政の弊害、国と地方の関係の見直しと地方分権による地域間競争の必要性、ITなどの先端技術の活用、国際的な連携といった点が大きな課題、と多くの国民が認識した。危機から得た教訓を生かす取り組みが急務だろう。

 危機襲来前には予想もしなかった展開となり、安倍首相は今後の政権運営をどう展望しているのか。

 4月5日、インタビューで菅義偉官房長官に尋ねると、「総理は自ら4選という気はないと思う。ただ専権事項の衆議院解散は別です」と述べ、「来夏の五輪後の総選挙の可能性は」という問いに、「いや、そこまでにはコロナは終結させられると思う」と答えた。

 コロナ収束、年内か来年の年初までの衆院選、計画どおりの五輪開催、4選なしの来年9月退陣というスケジュールを前提に、「コロナ危機克服」をレガシーにして花道へというのが安倍シナリオなのか。だとしても、不安材料は多い。真っ先に懸念されるのは、政権の主導体制のほころびと脆弱さである。

 4月16日に打ち出した緊急経済対策の国民への給付金問題では、自民党の二階俊博幹事長、公明党の山口那津男代表の突き上げで、決定直前での所得減少世帯向け30万円給付案の撤回、全国民一律1人10万円給付案への変更という迷走劇が露見した。非常事態では政権一体と挙党態勢は必須要件なのに、政府と与党の足並みがそろわず、政権末期症状ではと批判を浴びた。

 他方、内閣の現状を危惧する声もある。現在の陣容は昨年9月の改造人事で起用された「滞貨一掃大臣」が顔を並べる弱体内閣のままだ。次の改造は9月頃の予定だが、「お友達優先」を排し、与党の総力を結集した適材適所の挙党人事の前倒し実施を考慮すべきではないか。

 その上で、過去4カ月の教訓を生かして、上記の3点で成果を形にしなければ、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」は手にすることができない。

 「長期1強政権」とはいえ、このまま惰性と弥縫(びほう)策の対応が続けば、コロナ危機収束の前に、安倍政権終息のカウントダウンが始まるかもしれない。

 


2020年4月20日号 週刊「世界と日本」第2171号 より

新型肺炎感染拡大
今後の日本経済の展開は

 

法政大学大学院 政策創造研究科教授 真壁 昭夫 氏

《まかべ・あきお》

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社へ出向。帰国後、内閣府経済動向分析チームメンバー、みずほ総研主席研究員などを経て現職。著書は『ディープインパクト不況』、『資産運用 見るだけノート』など多数。

 

 

  新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大によって、世界各国の経済活動が大きく混乱している。重要なポイントは、肺炎の感染がどのように収束するか予測をつけにくいことだ。特に、来年7月に東京オリンピックを控えるわが国経済にとって、感染の影響がどのように落ち着き、WHOなどがその状況をどう評価するかは重大だ。

 

 また、世界全体で需要と供給の両方が停滞し始めていることや中国・米国の経済状況は、わが国にとって軽視できないリスクだ。

 そうした世界経済の不確定要素に新型肺炎という新たな懸念材料が加わり、わが国経済の先行き不透明感は一段と高まったと考えられる。

 

海外要因に依存する日本経済

 

 近年の日本経済は海外の要因に支えられて緩やかに持ち直してきた。その1つが、グローバル化だ。わが国では少子化、高齢化に加え、人口の減少が3つ同時に進んでいる。企業が成長を目指すために、相対的な成長期待の高い新興国などに進出することは避けて通れない。

 また、わが国はアジア、EU各国などと経済連携協定(EPA)を締結し、グローバル化への対応を強化した。それは、わが国が海外の需要を取り込むために重要な取り組みだった。

 それに加え、為替相場において円がドルなどに対して減価(円安が進行)してきたことも重要だ。2011年10月末、ドル/円の為替レートは75円32銭まで下落した(ドル安・円高)。

 その後、為替市場では米国経済の緩やかな回復期待から円で資金を調達して金利水準が相対的に高い米ドルを買う「円キャリートレード」が増えた。米国の景気が緩やかに回復するにつれ、円安が進行した。

 2013年4月には日本銀行が「異次元の金融緩和」を発動し、ドル高・円安の流れが勢いづいた。15年6月には、一時125円台までドル高・円安が進んだ。円安は企業業績をかさ上げし、株価は上昇した。資産効果が高まるとともに景況感は上向き、賃上げも行われた。

 また、わが国にとって海外からの観光客が増加したことも大きい。安倍政権は、観光の振興を成長戦略の1つに定め、2020年に4000万人、2030年に6000万人の訪日外国人旅行者の実現を目指した。そのために、政府はLCC(格安航空会社)の就航便数を増やすなどの施策でインバウンド需要を喚起した。それは、わが国の地方振興などに大きな影響を与えた。

 このように、わが国の経済はグローバル化が進む中で海外の需要を取り込み、緩やかに持ち直してきた。

 

新型肺炎とグローバル化の「逆回転」

 

 新型肺炎の発生によって、世界経済を支えてきたグローバル化が「逆回転」し始めたように見える。中国、湖北省武漢市を中心に新型肺炎の感染が世界各国に拡大し、各国が海外からの渡航制限などを実施した。世界全体で生産が停滞し始めると同時に、国境をまたいだ「動線」も崩れ、需要が落ち込み始めている。

 1980年代以降、旧社会主義国家では市場経済の導入が徐々に進んだ。その後、冷戦の終結を挟んで世界各国の相互依存度が強まった。具体的には、先進国企業が需要の開拓や安価な労働コストを目指して、中国をはじめとする新興国に直接投資を行った。中国は改革開放を進めて世界の工場としての基盤を整備し、外資を受け入れて技術を吸収した。

 それによって先進国企業は製造などにかかるコストを抑え、より効率的な収益獲得が可能となった。この体制を強化するために各国の企業は中国を中心とするサプライチェーンの整備に注力した。それが、米国をはじめとする主要国の個人消費などの拡大を支えた。同時に、中国経済の成長は加速し、新興国のインフラ整備なども進んだ。

 グローバル化の進展とともにヒト・モノ・カネが国境をまたいでより活発に移動し、人の動線が整備されることで需要と供給のマッチングがサポートされてきた。世界経済全体の底上げが進むとともに各国の相互依存度も高まった。

 一転して、新型肺炎は、グローバル化が支えた需要の創出と、供給体制を下押ししている。供給面では、世界の工場としての地位を確立してきた中国で新型肺炎が発生し、世界のサプライチェーンが寸断された。その上、防疫のために世界的に人の移動が制限され、消費活動にも支障が出始めた。

 

先行き不透明感が高まる日本経済

 

 このように新型肺炎は、需要と供給という世界経済の実体面に多くの負の影響をもたらしている。先行き懸念から世界的に株価が不安定に推移し「負の資産効果」が景況感を悪化させる可能性も高まっている。

 海外の需要を取り込んできたわが国にとって、新型肺炎は経済の下方リスクを高める要因だ。

 今後の展開を考えた際に重要なのは、新型肺炎の収束にどの程度の時間がかかるかだ。ウイルスの感染力がどう変化するかは専門家の間でも複数の見解がある。早期に感染が収束する可能性はある。その場合、世界経済はそれなりの落ち着きを取り戻すだろう。

 ただ、回復のペースはこれまで以上に緩慢となるだろう。その要因として、中国経済の減速は鮮明化している。世界経済を支えてきた米国経済に関しても、2018年4~6月期を境に景気は減速している。産油国がシェアの獲得を重視し原油価格が下落し始めたことは、米国の景気後退リスクを高めている。

 もし、新型肺炎の影響が長引けば、世界経済には一段の下押し圧力がかかると想定される。感染を防ぐために、世界各国はどうにかして自国を守らなければならない。

 グローバル化とともに整備されてきたサプライチェーンの寸断は深刻化し、需要の後退も鮮明となる恐れがある。

 金融市場への影響も軽視できない。3月中旬の時点で考えると、リーマンショック時と異なり、世界の金融決済システムには大きな混乱は生じていないとみられる。ただ、需要と供給の停滞から企業の業績および財務内容が悪化し始めると、デフォルトリスクが上昇し、国によっては金融システムに無視できない影響が及ぶ可能性がある。

 さらに、新型肺炎の影響が長引けば、東京オリンピックの開催にも影響があるだろう。

 新型肺炎は、わが国の景気に無視できない影響を与える要因と考えられる。

 


2020年1月6日号 週刊「世界と日本」第2164号 より

安倍政権 今年の展望
真贋が問われる正念場の年

 

評論家 ノンフィクション作家 塩田 潮 氏

《しおた・うしお》

1946年高知県生まれ。慶大法卒。雑誌編集者、月刊『文藝春秋』記者などを経て独立。『霞が関が震えた日』で講談社ノンフィクション賞受賞。『大いなる影法師』、『田中角栄失脚』、『安倍晋三の憲法戦争』、『日本国憲法をつくった男』、『密談の戦後史』、『東京は燃えたか』、『内閣総理大臣の沖縄問題』など著書多数。

 通算在職日数で史上1位に躍り出た安倍晋三首相は2020年、2度目の政権でついに8年目を迎える。

 衆参選挙6連勝という実績が長期政権の最大の要因だが、20年は首相が解散権を行使しなければ、本来は衆参選挙も統一地方選も自民党総裁選もない「無選挙の年」だ。自民党総裁3期目の任期満了を残り1年9カ月で迎える20年、何を目標に、どんな姿勢と方針で政権運営に臨むのか。

 安倍首相は1993年7月の衆院選で初当選した。国会議員歴は26年余だが、内外の歴史を振り返ると、国会入りの4年前の89年から現在までの30年間は、世界史に特筆される激変の時代だった。

 89年12月3日、米大統領とソ連共産党書記長の両首脳が会談し、「東西冷戦の終結」を表明した。日本では29日、日経平均株価が史上最高値の3万8915円を記録し、バブル経済が頂点に達した。

 世界政治は「ポスト冷戦」の新時代に突入した。他方、日本はバブル後の長期経済低迷で「失われた20年」となる。長期一党支配を誇った自民党は、この30年で計2回、野党転落を体験した。

 激動と混迷の30年のうち、安倍首相は実に4分の1以上、1人で政権を担ってきたが、「ポスト冷戦」の国際政治をリードする外交、「ポスト・バブル」の低迷経済の打破や、人口減社会での国力衰退阻止といった重要テーマで、長期政権保持者にふさわしい結果を出してきたといえるかどうか。

 20年は、大激動時代を担った政治指導者として、歴史的役割を果たしたかどうか、真贋が明らかになる正念場の年だ。

 長期政権を築いた過去の首相の多くは、歴史に名前を刻む政治的遺産(レガシー)を残している。最長政権だが、安倍首相の足跡を見ると、歴史的実績と呼べるほどの大きな仕事は見当たらない。

 アベノミクスによる株価上昇、失業率低下などの実績は否定しないが、7年超の「異次元の金融緩和」にもかかわらず、2%の物価上昇目標は未達成である。「地球儀を俯瞰する安倍外交」、集団的自衛権の行使容認なども手懸けたが、当面の外交対応の域を出ているとはいえず、「歴史的実績」には程遠い。

 内心、レガシーづくりに懸命のはずの安倍首相は、挑戦目標として宿願の憲法改正実現を今も意識しているのは疑いない。19年7月の参院選で、改憲勢力の参議院での議席数が改憲案発議要件割れとなったが、12月9日の臨時国会閉会後の記者会見でも、「必ずや私の手で成し遂げたい」と明言した。

 他方、改憲以外には安倍首相からレガシーに値する目標の提示はない。繰り返し「政権の使命は『新たな国づくり』」と口にしているが、具体的な将来像やデザインは明らかではない。「新たな国」も、9日の記者会見によれば、「新たな国づくりを進め、その先に改憲がある」という位置づけで、改憲によって「新しい日本」を、というシナリオを描いているのは間違いない。

 であれば、選択肢は以下の3つの道が考えられる。第1は3期目の総裁任期満了をゴールと見定め、任期内の改憲実現に全力投球する。第2は4期目での改憲も視野に入れ、自民党則の再改定と総裁4選を目指す。第3は国会と民意の動向から見て、在任中の改憲実現は困難、と自ら判断し、任期満了前の退陣を決意する。

 冒頭で、「無選挙の年」と述べたが、衆議院議員の任期満了は21年10月で、任期の半分以上が経過した20年はいつ解散が行われても不思議はない「総選挙ゾーン」の時期に当たっている。むしろ20年は「衆院選の年」という見方が圧倒的だ。

 次期衆院選は、安倍首相が上記の3つの道のどれを選択するかによって大きく変わる。

 第1の道を選べば、首相は解散・総選挙を改憲実現の最大の武器として使う戦術を考えるに違いない。

 20年の通常国会か臨時国会で改憲案の発議を行い、20年後半か21年初めの国民投票を想定した上で、衆参で発議要件を確保するために、野党改憲派の抱き込みに解散権を活用する。あるいは改憲案の成立を図るために、国民投票と次期衆院選の同日選を仕掛ける。

 安倍首相が第2の道を考慮するなら、4選には次期衆院選圧勝が必須条件となるので、野党の選挙共闘態勢が固まる前の早期抜き打ち解散を目指すのではないか。最速で20年1~2月の総選挙も考えられる。

 第3の道だと、次期衆院選の前に首相退陣となる確率が高い。20年8月の東京五輪閉幕直後か、佐藤栄作元首相の7年8カ月の連続在任記録を塗り替える8月24日以後の辞意表明を予想する向きもある。そうなれば、次期衆院選は後継首相の判断次第となりそうだ。

 安倍首相はしばしば「悪夢の民主党政権」と口にする。民主党政権を倒して首相に返り咲いたときの自身の政治的役割について、政権交代実現用の「緊急首相」だった、という自覚があるようだ。その後、ずっと政権を担い続けているが、辛口に評すると、「緊急首相がそのまま7年」という印象が消えない。

 「1強」という磐石の政治的基盤と、「首相官邸主導体制」という強力な武器を長期間、手にしながら、それを「新たな国づくり」に活用する積極的姿勢が見えないため、本気度を疑う国民は多い。

 極言すれば、最長政権は、野党の弱体化による「政権交代可能な政党政治」の消滅と、与党内の代替可能な後継候補の欠如という政治状況がもたらした幸運が大きく影響している。ほかに有力な選択肢がない国民の消極的支持が最長政権を生み出した面がある。

 競争原理が機能しない名ばかりの政党政治は、長く「1強多弱」に甘んじる罪深い野党と、活力消滅の自民党の両方に原因がある。権力の空白に乗じて長期政権を築いた安倍首相も、改憲不能が明確になり、挑戦目標の不在を国民に見抜かれると、一気に失速する危険性もある。

 「桜を見る会」の疑惑追及をかわして逃げ延びたとしても、そろそろ散り際では、と国民が見限れば、花の命は長くはない。勝負時は意外に早く、山場は20年1~2月にも訪れる可能性がある。

 


2019年12月2日号 週刊「世界と日本」第2162号 より

人口減少下での日本経済は?

 

元国税庁長官 ベトナム簿記普及推進協議会理事長 大武 健一郎 氏

 

 未来が不透明な時代にあって、確実に予測できるのは統計による人口予測だ。

 「令和」の時代は、人口予測から見ると有史以来初めて人口減少の時代に入る。その時の日本経済は、どうなるのだろうか。

 その問題に入る前に、戦後の日本の人口動態と日本経済を振り返ってみよう。

 太平洋戦争後のベビーブームと言われた出生数が毎年250万人にも達した時代が終わった昭和25(1950)年の日本の人口は8300万人であった。昭和から平成になった1989年には1億2300万人となり、この39年間だけで4000万人も増えた。毎年100万人も増加したのだ。

 この間の1人当たり国民所得は64倍に急増した。そもそも国内総生産(GDP)は「人口×1人当たりGDP」で決まるのだから、この間の日本は人口も1人当たりGDPも急増した「奇跡の高度成長」の時代であった。

 しかし、昭和50(1975)年には女性が一生に産む子供の数(特殊出生率)が子供を産んだ両親と同数の子供が生まれる目途の2を戦後初めて下回り、1.98となった。そして出生率は傾向的に下がり続けた。その結果、令和の時代が始まった2019年は1億2600万人となり、平成が始まった年に比べて300万人増加した程度で、平成の時代は人口はほぼ横バイの時代だった。ただし、年齢構成は若い人が減り、高齢者が増加するという高齢化が顕著に進行した。

 昭和から今日まで日本人の平均寿命は男女とも60歳台から80歳台へ約20年も伸びた。したがって、平成の時代は大きく減少した出生数を補う形で高齢者数が急増したのだ。働き盛りの人口が減ったため、平成の時代の1人当たり国民所得は1.2倍になっただけで、停滞と言える時代であった。

 では、令和の時代はどうなるだろうか。

 先の平成天皇が退位された85歳と同じ年に今上天皇がなられる令和27(2045)年には、日本の人口は1億600万人と予測されているので、この間に2000万人も減少することになる。そのため、人口減少分だけでも日本のGDPは減少する。

 しかも政府が予測している2045年には働き盛りの20歳から64歳の人口が5300万人になるので、総人口が1億600万人の内、働き盛りの人口は総人口の半分になり、1人の働き盛りの方が1人の扶養される方々を支える状況になる。

 したがって、1人当たりGDPは余程の生産性向上がない限り増加することは難しいと思われる。令和の時代は何よりも日本人の生産性を向上させることが必要となる。

 そのため、まず人材教育に取り組むことが重要だ。政府予算は現在、人口動態にあわせて高齢者向け社会保障にばかり配分されているが、これからは若い人々の人材育成に配分を移していかねばならない。そして人口知能(AI)等を積極的に活用していくことも求められる。

 しかし、AIは人間の頭脳の約1万倍もの電力を必要とする。例えば、羽生永世王将の頭脳は20ワットだが、将棋のAIは20万ワットの電力を必要とする。AI化を進めるには多量の電力を必要とするのだが、日本は地震大国であるため、原発の活用には制約があるし、原油も輸入するしかないので、日本は自然エネルギーの積極的活用しかないのだが、それにも今の技術力では制約がある。したがって、AI化の促進も決して容易なことではない。

 そこで、海外のプロフェッショナル人材を活用することが重要になってくる。しかし、今回の入国管理法の改正に見られるように、日本人の成り手が少ない「3K」と言われるような職場にだけ外国人労働者の就労ビザを認めるという状況だ。本来は今こそラグビーワールドカップの選手のように、あらゆる職種で高度プロフェッショナル人材を受け入れることこそ必要だと思われる。

 しかし、今は各国とも高度プロフェッショナル人材の取り合いをしている状況下で、むしろ日本人の高度プロフェッショナル人材が海外流失していくことが懸念される。

 人事院では上級公務員になる方々に初任者研修を毎年実施し、その際その方々に「大学の同期生で、優秀な方々はどこに採用されたか」というアンケートを行っている。これに対し、本年初めて「外資系コンサルタント会社に採用された」という回答がトップになった。すでに優秀な日本人の海外流失が始まっているともいえる状況になっているようだ。

 しかも、日本人の人口減は政府予測よりもっと早く進んでいくことも考えられる。人間の脳は発達しすぎ、脳が大きくなると母体を傷つける恐れがあるため、未熟児の状態で生まれる。したがって、「七歳までは神の内」と言われるように7歳までは未熟児の状態で死亡する恐れも大きい。結果、家族の介護が必要になる。

 人間は社会的動物であり、京都大学の山極総長の言われるように社会的な保育が求められる。

 しかし、今や日本では小家族化が進み、子供は夫婦2人で育てねばならない。昔のように5人も子供を産み育てることは難しい。しかも、前述のように人間の寿命が延びて出産期は動物としての出産適齢期よりずっと遅くなるため、母体の卵子の数が少なくなる等出産できない夫婦も増え、ますます出生率は減少して政府予測の水準にさえ届かない事態もありうる。最近の20年間の特殊出生率は1.5さえ上回ったことはない。

 したがって、日本は政策を大きく転換して、高度プロフェッショナル人材の海外流出をくい止め、海外の高度プロフェッショナル人材を日本に呼び込み、日本の経済成長に貢献してもらえるように処遇改善に努める必要がある。会社経営に当たっては、売上高に占める利益率の向上や保有資産当たりの利益率の向上に努めて、高度プロフェッショナル人材を採用できるように労働分配を増加させる必要がある。

 もし、優秀な人材を日本で採用できなくなると日本企業も優秀な人材を得られる国へと移転していくことになる。すでに韓国等ではそうした事態が起こっているように思う。

 令和の時代は「ヒト、モノ、カネ」の内、最も重要なものは「ヒト」である。「ヒト」を育て重視する政策に日本が転換できれば、1人当たりGDPが上昇し、人口減少下でも日本経済に明るさが見えてくると思われる。

 

 


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