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憲法特集

私の憲法論チャンネルは、石破政権の重要テーマでもある「憲法改正」に焦点を当て、その必要性を論ずる特設チャンネルです。

2026年3月16日号 週刊「世界と日本」2311号 より

 

憲法と外国人政策を考える

―欠けている国益と秩序重視の観点から―

 

国士舘大学 名誉教授 百地 章 氏

《ももち あきら》

昭和21年静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。法学博士。専門は憲法学。日本大学・国士舘大学名誉教授。元比較憲法学会理事長。「美しい日本の憲法をつくる国民の会(代表、櫻井よしこ)」幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)『憲法における天皇と国家』など。

 

 先の衆議院総選挙において歴史的な勝利を収めた高市内閣が、発足以来目標としてきた諸政策に本格的に着手し出した。その一つが外国人政策である。

 令和7年6月末現在、わが国に在留する外国人は約396万人である。平成16年の約2倍と在留外国人が急増する中で、一部外国人によるものだが、わが国の法やルールを逸脱する行為や制度の不適正利用など、国民が不安や不公平を感じるケースも少なくない。

 そこで国民の不安や不公平感に真正面から向き合い、適切に対処すべく、高市内閣は1月23日、関係閣僚会議で総合的な外国人政策を取りまとめた。その基本方針は、従来の「共生」中心から「秩序ある共生社会の実現」への方向転換である。

 具体的には「永住者の在り方の検討」(永住許可要件の明確化、在留資格に関する取消事由の追加、審査の厳格化)「帰化の厳格化の検討」(在留を10年以上に、日本社会への融和も条件に)「生活保護制度の運用の適正化」(マイナンバーによる情報連携、対象者の見直し)「土地取得等のルール、国土の適切な利用及び管理」(安全保障の観点から、外国人の土地取得の規制)など、急を要する重要な項目が列挙されている。

 

「日本国への忠誠」求めない安易な国籍付与

 

 かつて中国から日本に帰化した評論家の石平氏(現、参議院議員)は、日本国籍の取得が簡単であたかもクレジット・カードに加入したかのような感じであった、と述べている。

 氏によれば、法務局へ帰化申請に行ったとき訊かれたのは在日年数、収入、犯罪歴の有無の3つだけで、「どうして日本人になりたいのか」「皇室や伝統文化をどう思うか」などといった質問は一切なかったという。だから「日本国に対する忠誠宣誓」や「日本を守る決意があるのか」などといった質問は、もちろん出なかった。

 これは国際標準からみて極めて異常である。というのは「国籍」の概念の中には「国家への忠誠心」が含まれており、米国の国籍法では、「国民とは、国家に対して永久忠誠義務を負うものを意味する」と定義づけられているほどだからである。だから、米国籍の取得を希望する者に対しては、米国の歴史や大統領の名前など一定の知識が要求されるほか、いざという時には国を守る覚悟があるか訊かれる。

 また、わが国では「永住許可」を取得するためには10年以上、日本に住んでいることが条件だが、「帰化」は5年で足りる。これも本末転倒であろう。それ故、高市内閣が目指す日本国籍の取得条件の厳格化は喫緊の課題である。

 

永住外国人の人権について

 

 次に、在留資格をめぐる問題だが、外国人という場合には観光などで一時的に入国する者、外交、経営、留学、技能実習など様々な資格を持って在留する者、さらに在留の期限も活動制限もない永住外国人が含まれる。。

 観光客だけでなく、配偶者や子に在留資格が与えられる永住者も年々増加の一途をたどっており、現在、その数は93万人に達する。その背景には、平成10年、法務省の入管局が突然、永住者の申請資格を在留20年から10年に短縮してしまったことがあった。短縮の理由は「規制緩和と事務の簡素化」という、国益を無視した信じ難いものであった。

 このまま行けば、永住者は増え続けるだけであろう。それ故、事実上の移民国家とならないよう、今後、永住者の申請資格をはじめ、法と国益重視の立場からの徹底的な見直しが必要である。

 

 それと共に問題となるのが、「永住外国人の人権」である。わが国では、外国人に対しても「共生」を優先し、日本人並みの人権を保障すべきだと主張する人々もいる。

 しかし、日本国憲法で定められた権利や自由は、すべてが外国人に保障されるわけではない。中には日本国民にしか保障されない人権もあるからだ。このことは最高裁判決や憲法学者の通説であるが、なぜこのような区別がなされるのであろうか。

 理論的にいえば、「国家(権力)からの自由」を指す人権、例えば思想・良心の自由、信教の自由、表現の自由などは、外国人にも保障される。しかし、「国家の構成員」つまり国民であることを条件に初めて認められる権利、例えば参政権、生存権、教育を受ける権利などは、外国人には保障されない。

 この区別が理解できない人々が、外国人に対しても日本国民並みの参政権、生存権、教育権など保障すべきだなどと主張してきた。

 このうち、外国人の参政権についていえば、平成10年代から20年代にかけて、地方参政権(選挙権)に限定すれば永住外国人に付与することも可能とする憲法学説が有力となり、危うく採用されそうになった。

 

 これに対して筆者は以下のように反対し、外国人への地方選挙権付与を阻止したことがある。すなわち国家とは政治的な運命共同体であって、わが国の運命に責任を持たない外国人を政治に参加させることはできないこと(納税の有無は参政権と無関係である)、地方公共団体も国家の構成要素であり、国政への参加と地方政治への参加を分離することはできない。それ故、たとえ地方選挙権であれ、外国人に付与するのは憲法違反である(詳しくは拙著『外国人参政権Q&A―地方参政権付与も憲法違反』明成社)。

 もし外国人参政権が実現していたら、今頃、大変なことになっていただろう。

 

生活保護の見直しを

 

 外国人政策が「共生」中心の考えから、「秩序」を共生社会の土台とする方向に変更されたことから、生活保護についても見直しが検討されることになった。

 憲法25条の生存権などの「社会権」は、第一次的に「各人の所属する国」によって保障されるべき権利である。それ故、わが国に在留する外国人には保障されないとするのが、従来、憲法学説上の通説とされてきた。昭和25年に制定された生活保護法も、「生活に困窮するすべての国民」つまり日本国民のみを対象とした。

 とはいうものの、人道的な見地から、生活に困窮する外国人のうち、サンフランシスコ講和条約の発効によって日本国籍を失った在日朝鮮人および在日台湾人(特別永住者)に対しては、昭和29年の厚生省社会局長通知に基づいて、生活保護がなされてきた。

 ただし、これは特別永住者に「法律上の権利」を保障したものではなく、国の判断に基づく「行政措置」にすぎないから、不服申し立てを行うことはできない。また、この行政措置はあくまで「当分の間」という条件付きで、しかも「局長通知」に基づいてなされたものである。にもかかわらず、その後、70年もの間、再検討も行われず続けられていることは問題であろう。

 

 不法在留者に対する生活保護については、最高裁が次のように判示している。「生活保護法が不法残留者を保護の対象とするものでないことは、その規定及び趣旨に照らして明らか」であり、不法残留者を保護の対象に含めるかどうかは立法府の広い裁量権にゆだねられているから、憲法25条に違反しない」。

 令和5年現在、生活保護の受給者は約202万人、世帯主が外国人の受給者は約7万人である。外国人の生活保護を巡っては、先年(平成22年)、生活保護を求めて中国人が大量に入国し、話題となったことがあった。中国人48人が生活保護を申請し、一旦は32人が認められたが、市は入国管理局に問題ありとして再審査を要求、生活保護を目的に入国した者26人の生活保護が打ち切られ、残る6人も自主的に生活保護を辞退したことがあった。

 入国管理及び難民認定法では、生活能力のない者の上陸を拒否することになっており、このような事件を目の当たりにすると、やはり入国審査に問題があったと言わざるをえない。

 場合によっては国籍を超えた人道的配慮が望ましいとはいえ、それはあくまで法に則りわが国の財政事情が許す限りのことであって、永住者の生活保護についても厳格な審査が求められる。

 


2025年11月17日号 週刊「世界と日本」2305号 より

 

夫婦別姓阻止のチャンス到来

 

国士舘大学 名誉教授 百地 章 氏

《ももち あきら》

昭和21年静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。法学博士。専門は憲法学。日本大学・国士舘大学名誉教授。元比較憲法学会理事長。「美しい日本の憲法をつくる国民の会(代表、櫻井よしこ)」幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)『憲法における天皇と国家』など。

 

 平成8年、法務省が夫婦別姓制度を提唱して以来、マスメディアはしきりにその採用を煽ってきたが、さして大きな話題にはならなかった。

 ところが昨年6月、日本経団連が「選択的夫婦別姓制の実現を」と題する提言を行い、この問題がにわかにクローズアップされることになった。経団連は平成29年、加盟企業に対して「通称使用の拡大」を通知し、すでに約8割の大企業で旧姓の通称使用が認められている。別姓制の提言はこれと矛盾するものである。

 

子供には「親子別姓」を強制

 

 提言の際、経団連は記者会見を行っているが、その折、「子供への影響についてはどう考えるのか」との質問があった。ところが、担当者は「子供の問題は大変重要だが、考えていない」と極めて無責任な発言を行っている。

 実は、夫婦別姓制の最大の問題点の1つが子供への影響である。なぜなら、「夫婦別姓制」は、必ず「親子別姓」をもたらすからである。つまり選択的とはいうものの、姓を選べるのは夫婦だけで、子供には選択の自由などない。必ず「親子別姓」(父又は母との別姓)が強制される。このように「親子別姓」を「強制」される「子供達への配慮」に全く欠けていることが、この制度の最大の問題点だ。

 内閣府の調査(令和3年)によれば、69・0%の国民が、「夫婦別姓は子供にとって好ましくない影響があると思う」と答えている。具体的には、「親と名字・姓が異なることを指摘されて嫌な思いをする」「名字・姓が親との関係で違和感や不安感を覚える」などである。

 さらに問題となるのは、子供の「姓の決め方」である。立憲民主党案は従来の「子供の出生時に決める方法」から「婚姻の際に夫婦で決める方法」に変ったが、これは憲法違反の疑いがある。なぜなら憲法24条は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する」(第1項)と定めており、子供の姓を決めなければ婚姻届が出せないのでは、これと矛盾するからである。

 

伝統的な「家族制度」を揺るがす

 

 夫婦別姓制の第2の問題点は、明治維新後、近代的な家族制度として全ての国民に適用された「夫婦親子同姓制度」を否定するだけでなく、わが国の伝統的な家族制度そのものを根底から揺るがしかねないことである。

 この点、別姓派は夫婦同姓制が明治31年(1898年)に作られたものであり、130年の歴史しかない、と批判する。しかし近年の研究によれば、すでに江戸時代の初期から、庶民も非公式ながら姓(名字)を名乗っており、江戸末期から明治初年頃になると夫婦同姓を名乗る例が見られるようである。

 また、夫婦別姓制は、日本人がこれまで特に大切にしてきた伝統的な家族制度(祖先を敬い、親を大切にする。そして家族が互いに助け合い子孫の繁栄を祈るといった、祖先以来の生命の連続性を重視する家族制度)を崩壊させる恐れがある。というのは、夫婦別姓が続けば家名や家系の一系性は失われ、祖先さえ分からなくなってしまうからだ。

 このように「姓」は「個人の問題」であると同時に「公的な家族制度の問題」でもある。それ故、現在の夫婦同姓制度を根底から揺るがす「夫婦別姓制度」の採用の是非については慎重な議論が必要であり、先ずは「国民の多数の意見」に耳を傾ける必要があろう。

 令和3年の内閣府調査をはじめ、最近の各種世論調査(令和6年7月のTBS、令和7年1月の産経・FNN、2月の読売、6月のNHK調査等)では、①同姓支持、②同姓維持の上、旧姓を通称として使用、③別姓支持、の3択制で意見を尋ねているが、それによれば②の同姓維持・通称使用がいずれも5割近くを占め、それに①を加えた同姓支持は7割前後に達する。他方、別姓支持は3割前後にとどまる。

 

世界に誇る「戸籍制度」を解体

 

 さらに、「戸籍」は「家族の一体性」を目に見える形で表すものであり、同一戸籍の中に別姓の者が混在することになれば、「家族の一体性」は失われる。

 すなわち、同じ戸籍の中で、親子、夫婦が別々の姓を名乗ることになれば、戸籍の「同一戸籍同一氏(姓)の原則」は崩壊し、家族全体に共通する「家族の姓(ファミリーネーム)」も無くなる。

 その結果「ファミリー・ネーム」(家族名)を持つ家と持たない家が誕生することになるから、国民全体に共通する制度としての「家族の姓」は成り立たなくなる。

 そうなれば、従来の姓は単なる「個人の名前」の一部にすぎなくなり、「同一戸籍同一氏(姓)」の戸籍制度は崩壊する。代わって登場するのは「家族」単位ではなく、「個人」単位の登録制(個人籍)であろう。

 夫婦別姓推進派の中心にいるのは、「家族の解体」を公言してきた福島瑞穂議員や「戸籍から個人籍へ」と主張する二宮周平立命館大学名誉教授などであることを忘れてはならない。

 この点、「戸籍制度」はわが国が世界に誇る制度であり(大森政輔・元内閣法制局長官)、出生、死亡、結婚、離婚、血族、姻族等を網羅するもので、公証力に優れている。だから、近親婚の防止や遺産相続の際などに大変役に立つ。しかし「個人籍」では「出生」「婚姻」「死亡」等、個別に作成されるから、煩雑であるだけでなく公証力も低下することになる。

 

別姓を阻止し旧姓の通称使用法を

 

 先の国会では、立憲民主党と国民民主党が「選択的夫婦別姓法案」すなわち「強制的親子別姓法案」を提出し、継続審議となった。これに対して、自民党内では男系派議員の尽力により夫婦別姓反対派が7~8割まで増加したにもかかわらず、党としての対応は決まらなかった。

 しかし旧姓使用法案を最初に提案したのは高市早苗首相であり、いよいよチャンス到来である。しかも、連立与党の日本維新の会も夫婦別姓制に反対であり、すでに旧姓使用法案を国会に提出している。それ故、他の保守政党にも呼びかければ、国会の過半数は間違いなく確保できるだろうから、念願の別姓阻止も夢ではないと思われる。

 


2025年7月14日号 週刊「世界と日本」2296号 より

 

改憲原案作りは超党派議員の手で

 

国士舘大学 名誉教授 百地 章 氏

《ももち あきら》

昭和21年、静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。法学博士。専門は憲法学。日本大学名誉教授。比較憲法学会元理事長、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(代表・櫻井よしこ)幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)、『憲法における天皇と国家』(成文堂)『憲法の常識 常識の憲法』(文春新書)など。

 

 昨年10月の衆議院総選挙で自民党が惨敗、その結果、安倍晋三政権が残した貴重な遺産「3分の2の改憲勢力」は失われ、衆議院憲法審査会の会長ポストまで立憲民主党に明け渡すことになった。

 

堂々巡りの憲法審査会

 

 憲法審査会の運営方針は、枝野幸男会長のもと与党筆頭幹事の船田元氏と野党筆頭幹事の武正公一氏の話し合いで決まる。ところが、行司役のはずの枝野会長まで立憲寄りの発言に終始するため、一向に改憲発議に向けて動き出す気配は見られない。審査会での議論も堂々巡りをするばかりだ。

 そのような中、5月15日の衆院幹事懇談会において、船田幹事から憲法改正原案を作成する条文起草委員会設置の提案がなされた。しかし、武正幹事はこれに応じず、結局、起草委員会は設置できなかった。

 自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、それに有志の会の5会派間では、「緊急事態における議員任期の延長」についておおむね一致しているほか、「自衛隊の憲法明記」についてもゆるやかな合意が成立しつつある。

 それ故、憲法審査会の中に原案起草委員会が設置されれば、改憲に向けた大きな前進が期待できるはずだが、それさえ叶わないというのが国会の現状だ。

 この現状を打破して改憲論議を進め、憲法改正原案を国会に提出するためにはどうすれば良いのか。

 

自衛隊の憲法明記を急げ

 

 自衛隊については、かねてより自民党と日本維新の会が「第9条の2」に「自衛のための実力組織として自衛隊を保持する」旨、明記する案を主張している。これに対して、公明党は内閣総理大臣の権限を定めた第72条に「自衛隊を明記」し、内閣によるシビリアンコントロールを強調するよう、提案してきた。他方、国民民主党は、玉木代表が9条2項改正論者であり、自衛隊の憲法明記については消極的であった。

 このような中で開催された6月5日の衆議院憲法審査会において、国民民主党の浅野哲議員は次のように述べている。「わたしたち国民民主党は、平和主義を堅持した上で、自衛隊の存在を憲法上正当化する規定を設け、その行使範囲も明文化することで、憲法と現実とのねじれを正面から解決すべきと考えています。」これは画期的な発言であり、「自衛隊の憲法明記」案がさらに現実味を帯びてきたといえよう。

 今年3月の滋賀県議会において、共産党の県議が「自衛隊の訓練」を「人殺しの訓練」と批判した。共産党からはこれまでも「自衛隊」について「人殺しの部隊」とか「人殺しの予算」といった発言が繰り返されてきた。このような暴言は勿論誰であろうと許せないが、特に公党たる共産党の県議や国会議員による公の場での発言とあっては、絶対に放置するわけにはいかない。

 自衛隊員は、台湾有事に備えて、日本国と国民を守るため連日猛烈な訓練を続けており、今必要なのは国民の精神的な支援である。さらに必要なのは、自衛隊の名誉の回復である。

 自衛隊員の劣悪な待遇改善は勿論不可欠である。しかし、それ以前にまず必要なのは、このような自衛隊員に対する誹謗中傷がなされないように、自衛隊の保持を憲法に明記し、違憲の疑いを晴らすことである。そして自衛隊員に名誉を与えることである。それがなされなかったら、自衛隊が、今後、優秀な人材を集め続けていくのは難しくなるのではなかろうか。一昨年(令和5年)は、2万人の隊員募集に対して、1万人しか集まらなかったと聞く。これは大変な事態であり、自衛隊の憲法明記はまさには喫緊の課題といえよう。

 

超党派議員で原案づくりを

 

 次に、憲法改正案の原案を作成し国会に提出する方法だが、憲法審査会のもとに条文起草委員会を設置することが難しい中、いかにすべきか。そのためには憲法審査会と別に、衆議員議員100名ないし参議院議員50名以上の賛成によって憲法改正原案を国会に提出する方法、いわゆる「議員立法方式」がある。

 憲法改正原案を国会に提出する権限は、第一義的には国会議員にある。つまり国会法によれば、衆議院では100人以上、参議院では50人以上の議員の賛成があれば、憲法改正原案を国会に発議することができる(国会法68条の2)。

 もちろん憲法審査会にも提出権は認められているが、それはあくまで国会議員の提出権に準ずるものだ。なぜなら国会法第6章の2は「日本国憲法の改正の発議」となっているが、その冒頭第68条の2には「議員が日本国憲法の改正原案を発議〔国会に提出〕するには、…衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する」と明記されているからだ。

 

 これに対して、憲法審査会による憲法改正原案の提出権については、ずっと後の第11章の2「憲法審査会」の中で、憲法審査会も「憲法改正原案…を提出することができる」(第102条の7)と規定されているだけである。また、「提出できる」という表現からしても、議員による提出権が優先されていることは間違いない。

 さらに総務省発行の「国民投票の流れ」を解説した資料(フローチャート)でも、「憲法改正原案の発議権者」として載っているのは、国会議員だけだ。

 それ故、従来、憲法改正原案を提出できるのは憲法審査会だけであり、そのためには審査会のもとに「起草委員会」を設置しなければならないと考えてきたのは、単なる思い込みにすぎず、明らかに国会法を読み誤るものであった。

 であれば、起草委員会の設置にいつまでもこだわる必要はない。例えば、自民党の憲法改正実現本部が音頭を取って公明、維新、国民の各党、それに有志の会に呼び掛け、超党派議員による改正原案づくりを着々と進めればよい。

 然して、速やかに改憲原案を作成し、次の衆議院選挙において3分の2の改憲勢力を確保するのを待って「国会による改憲発議」を行えば、憲法改正も夢ではなかろう。

 そのためにも、来る参議院選挙では改憲勢力の維持は不可欠である。

 


2024年12月2・16日号 週刊「世界と日本」2282・2283号 より

 

改憲の発議に備え着実に草案づくりを

 

国士舘大学客員教授 百地 章 氏

《ももち あきら》

昭和21年、静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。法学博士。専門は憲法学。日本大学名誉教授。比較憲法学会元理事長、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(代表・櫻井よしこ)幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)、『憲法における天皇と国家』(成文堂)『憲法の常識 常識の憲法』(文春新書)など。

 

 岸田文雄首相の突然の退陣と石破茂政権の誕生、さらに衆議院総選挙における自民党の惨敗と、夏から秋にかけて最悪の事態が続いた。その結果、衆議院の改憲勢力は3分の2を割り、憲法審査会会長のポストまで立憲に明け渡すことになった。

 

「冬の時代」の到来?

 まさに「冬の時代」の到来である。しかし、改憲運動の歴史を振り返れば、かつては改憲を口にしただけで大臣の首が飛んだ「厳冬の時代」もあれば、民主党政権の誕生によって改憲が大きく遠退いた時もあった。また平成28年、安倍晋三総理のもと衆参両院において3分の2の改憲勢力が初めて実現するまでも「冬の時代」だったが、先人達は改憲を目指して懸命の努力を続けてきた。それ故、嘆いている暇などない。

 自民党の敗因は政治とカネの問題であって、改憲ではない。憲法改正は総選挙の争点とならなかったし、改憲反対の共産党が比例代表では大幅に票を減らし、立憲民主党も比例では微増しかしていない。

 改憲案についていえば、すでに自民党だけでなく、公明党、日本維新の会、国民民主党の間では緊急事態条項のうち、議員任期の延長について合意が成立している。

 また、戦後かつてない厳しい国際情勢を背景に、国民の意識も大きく変わってきており、国民の過半数が改憲に賛成するようになった。例えば、本年5月の世論調査では、憲法改正に読売で63%、朝日でも53%が賛成し、自衛隊の憲法明記も、読売で56%、朝日でも51%が賛成している。

 このように考えれば、憲法改正のための条件は次第に整いつつあるといって良い。それ故、今こそ国会による改憲発議に備え、各党が小異を捨てて大同につき着実に改憲案づくりを進める時である。

 

岸田政権下の改憲論議とその進展

 顧みれば、昨年秋の臨時国会で改憲発議が期待された岸田文雄政権下でも、憲法論議は遅々として進まなかった。そこで11月頃から、同憂の士と共に岸田首相を始め、衆参憲法審査会長、与党筆頭幹事、与野党の代表や幹部らに対して、憲法改正の促進を求める陳情活動を繰り返してきた。その際に持参したのが、後述の筆者が作成した自民、公明、維新、国民の改憲案の「取りまとめ案(私案)」であった。

  当初は衆議院の憲法審査会に期待したが、結局、起草委員会の設置さえ出来なかった。そこで方針を改め、自民党の憲法改正実現本部で改憲案作りを行うよう、古屋圭司本部長や加藤勝信事務総長に対し説得を続けることになった。

 それが効を奏したのか、6月に入るや実現本部では岸田首相の指示のもと、通常国会中の改正原案の提出に向け、本格的な改憲論議が始まることになった。さらに8月7日には改めて首相から①「緊急時における国会の機能維持」についての条文化、②「自衛隊明記」と「緊急政令」についての「論点整理」を行うよう指示があった。大変遅まきながら、首相がここまで踏み込んで指示をしたことは画期的であった。

 その後、実現本部では精力的に検討を行い、最終案をまとめた。そして9月2日、岸田首相を迎え憲法改正実現本部の全体会議が開かれ、「自衛隊明記」と「緊急事態条項」の論点整理が承認されることになった。

 このうち、「自衛隊の明記」についていえば「『9条の2』に規定することを共通認識とし、文言については引き続き議論する。文民統制の規定は首相や内閣の権限に関する内閣の章(第5章)に置くことも排除しない」と含みを持たされている。

 岸田首相の突然の退陣声明によって中断してしまったが、総裁選の候補者たちは全員、憲法改正を公約に掲げ、岸田路線の踏襲を表明しており、最早、後戻りは許されない。

 

「自衛隊の明記」で合意形成を

 「自衛隊の憲法明記」については、自民党と日本維新の会が条文案を作成している。また、公明党もシビリアンコントロールの視点から第5章「内閣」への明記を主張し、国民民主党も玉木一郎代表が妥協案として憲法明記もあり得ると発言している。それ故、憲法に自衛隊を明記することについては4党間ですでにほぼ合意が成立していると見てよい。

 問題は憲法のどこに条文を置くのか、具体的には9条の後なのか、それとも第5章「内閣」の中なのかということである。自民党は第9条の後に「9条の2」という条文を置く案を主張しているが、それでは「内閣」の章に設置しようとする公明や国民の合意は得られまい。

 そこで筆者が考えた「取りまとめ案」は、「9条の2」と「72条の2」という二つの条文をおく案であった。すなわち、「第9条の2(自衛隊の保持)」は「前条〔9条〕の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、自衛隊を保持する」

 「第72の2(自衛隊の最高指揮監督権)」は「内閣総理大臣は、法律の定めるところにより設置する自衛隊の最高の指揮監督権を有する」というものである。

 これは平成24年の自民党案と同じ発想によるもので、この案には自衛隊の幹部OBの方々から多数の賛同を戴いている。またこのような案であれば、4党の合意を得る余地はあろう。

 

石破首相の覚悟と実践に期待

 石破首相は岸田路線の踏襲を明言し、来年の立党70年に向け改憲の取組みをと発言している。

 楽観はできないが、これまで防衛問題に関心をもち、自衛隊員の待遇改善を唱えてきた首相のことである。すでにそのための会議も設置しており、これだけは期待したい。わが国を取り囲む脅威に備え、自衛隊員が全身全霊をかけて職務を遂行できるようにするためには、隊員の待遇の改善はまさに急務である。

 それと共に真っ先に取り組むべき課題は自衛隊の憲法明記と違憲論の解消である。それによって自衛隊は名誉を回復し、自衛隊員は一層誇りと自信を持つようになろう。また、自衛隊の法的安定性と社会的地位も高まると思われる。

 


2024年1月15日号 週刊「世界と日本」第2261号 より

 

現実味を帯びてきた「自衛隊の憲法明記」

 

国士舘大学客員教授 百地 章 氏

《ももち あきら》

昭和21年、静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。京都大学博士(法学)。専門は憲法学。日本大学名誉教授。比較憲法学会元理事長、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(共同代表・田久保忠衛、櫻井よしこ)幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)など。

 

 昨年10月の臨時国会冒頭で、岸田首相は「憲法改正は先送りのできない重要な課題であり、国会の発議に向け条文案の具体化など積極的な議論が行われることを期待する」と述べた。にもかかわらず一向に進まなかった改憲論議が、12月の会期末を迎えにわかに動き出した。衆参の憲法審査会で、改憲草案の取りまとめや作業グループの設置を求める声が相次いだ。

 テーマはこれまで緊急事態条項が先行していたが、自衛隊の憲法明記についても実現の可能性が出てきた。岸田首相も自衛隊の憲法明記にはつとに強い関心を示しており、今後、一気に条文案の取りまとめが進む可能性もある。

 

「反撃能力」にかける岸田首相の思いは?

 

 国連の常任理事国ロシアによるウクライナ侵略と核による恫喝、台湾の武力統一を諦めず、その時期を虎視(こし)眈々(たんたん)と窺っている同じく常任理事国の中国、さらに北朝鮮による核開発や弾道ミサイルの発射と、先の大戦後構築された国際連合を中心とする国際秩序は大きく揺らぎ初め、戦後最大の危機を迎えている。

 そのような中で、「平和を愛する諸国民〔後の国際連合〕」にわが国の「安全」のみならず「生存」まで委ね(前文)、第9条で一切の戦力の保持を禁止した日本国憲法も、当然、根底からその妥当性が問われなければなるまい。国民の多くが現実的な憲法改正案としての「自衛隊の憲法明記」を支持しているのも当然であろう。

 岸田首相は、総理就任以前から反撃能力の必要性に言及しており、外務大臣であった平成29年7月、一時、防衛大臣を兼務したこともある。その防衛相時代に、岸田氏は土日返上で東京・市ヶ谷の防衛省に通いつめて防衛問題に取り組んだという。そしてテーマの一つが反撃能力であった(産経新聞、令和4年12月18日)

 だからであろう、昨年11月10日、自衛隊の憲法明記を求める学生大会が国会の議員会館で開かれた折、岸田首相は学生たちにエールを送っただけでなく、学生たちの報告に最後まで熱心に耳を傾けていた。

 

自衛隊明記の意義と効果

 

 自衛隊明記の目的は、第1に、「自衛隊の保持」を憲法に明記することによって、自衛隊違憲論を解消すること、第2は、自衛隊を「法律上の存在」から「憲法上の存在」に「格上げ」し、その「法的安定性」を高めること、そして第3が主権者国民による憲法改正のための国民投票によって自衛隊を憲法に明記し、自衛隊の「民主的正当性」を高めることにある。

 他方、期待される自衛隊明記の「効果」の第1は、これによって「自衛隊の名誉」が回復されることである。またこの改正は、わが国を取り巻く厳しい国際情勢の下で、或いは災害派遣時の厳しい条件の中で、四六時中、365日、過酷な任務を黙々として遂行している自衛隊員の社会的地位を高め、その劣悪な待遇の改善や向上を図るきっかけになろう。それによって自衛官の士気と誇りも一層高まると思われる。

 第2に、主権者国民が自らの意思で憲法を改正し「自衛隊の保持」を憲法に明記することは、「自分の国は自分で守る」との日本国民の意思と決意の表明であり、これによって「対外的・心理的抑止力」は間違いなく高まる。

 一昨年12月、岸田内閣は防衛3文書の改定を行い、「反撃能力」と防衛費のGDP比2%への引き上げを表明したが、これだけで米国のウォールストリート・ジャーナルは「『眠れる巨人』日本が目覚める」と題する注目すべき社説を載せた(19日)。これをみれば、自衛隊明記の為の憲法改正が、中国、北朝鮮、ロシア、韓国による軍事的脅威や領土的野望に対する大きな牽制力になるであろうことは間違いない。

 3番目の「効果」としては、自衛隊を憲法に明記するための国民投票運動が全国で展開されることによって、国民の防衛意識は高まり、国力も増強されよう。

 

速やかに4党で条文案の作成を

 

 自由民主党と日本維新の会は自衛隊明記の改正案(たたき台素案、原案)を作成し、公明党と国民民主も自衛隊の憲法明記には賛成している。従って敢えていえば、後はその書きぶりや条文の置き場所などをめぐる議論を残すだけであり、その気になれば原案の作成はさほど難しくないはずだ。考えようによっては、たった1条で纏められる自衛隊の明記の方が、複数の条文にわたる緊急事態条項より容易であろう。

 12月7日の衆議院憲法審査会では、中谷元与党筆頭幹事も「自衛隊の憲法明記という点では、ほぼ合意が形成されており、条文化を見据えた場合、残る論点は記述の仕方といったテクニカルな点だけといっても過言ではない」と発言している。これは注目すべきだろう。

 自民と日本維新の案は「9条」の後に「9条の2」を置き、自衛隊の保持を明記するものだ。

 これに対して、公明党は内閣総理大臣の権限を定めた「第72条」に首相の自衛隊最高指揮監督権を、国民民主党も妥協策として「第5章 内閣」の中に自衛隊の保持を明記する案を提示するようになった。

 となれば、4党の合意を取り纏めるためには、思い切って「第72条の2」に「内閣総理大臣の自衛隊最高指揮監督権」を定め、そこに自衛隊の目的を明記した自民党案を盛り込むのが最も現実的かつ妥当ではなかろうか。ちなみに、自衛隊明記案を提唱した安倍元総理の発言の中には、「9条の2」といった言及は見当たらない。

 この点、明治憲法は第11条で「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」と定め、米国憲法も第2条2節で「大統領は、合衆国の陸海軍…の最高司令官である」と規定している。その意味では、第72条の2に「内閣総理大臣は自衛隊の最高指揮監督権者である」旨定める方が、第9条の影を引きずる9条の2案よりも相応しい気もする。

 岸田首相は12月6日の自民党憲法改正実現本部において、「党派を超え改憲案の取りまとめを」と指示しており、本年1月下旬からの通常国会で一気に自衛隊明記案の取りまとめが進むことを心から期待したい。

 

 


2023年10月16日号 週刊「世界と日本」第2255号 より

 

LGBT理解増進法成立
-過激な条例是正する明確な指針を-

 

国士舘大学客員教授 百地 章 氏

《ももち あきら》

昭和21年、静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。京都大学博士(法学)。専門は憲法学。比較憲法学会名誉理事(元理事長)、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(共同代表・三好達、田久保忠衛、櫻井よしこ)幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)など。

 

 自民党内の保守派議員の間に深刻な亀裂をもたらし、岩盤保守層といわれる国民の自民党離れを惹き起こしてしまったLGBT理解増進法(以下、理解増進法)が、6月に制定されてから3カ月になる。この法律が今後もたらすと思われる危険性を危惧する読者も少なくなかろう。

 確かに、危険が皆無となったわけではない。しかし結論を先にいえば、当初国会に提出されるはずだった「差別禁止法」は、その後の自民党内における2度の大修正によって「骨抜き」となり、推進派の立憲民主党や共産党が反対したほどであった。つまり最悪の事態は回避できた。それどころか大きく改善されており、この法律を武器にすれば、今後、全国の過激なLGBT条例を是正していくことも可能だ。

 また、理解増進法はあくまで「理念法」にとどまり、自治体、事業主、学校等に具体的な施策を命ずるものではない。それ故、法律の内容を正しく理解し、賢明に対処していく必要がある。

 

2度にわたる画期的な修正

 

 自民党は令和3年4月、ジェンダーフリーとは全く異なる「理解増進法案要綱」を発表した。ところが稲田朋美議員主導のもとに、同年5月に作成された法案は「性自認を理由とする差別は許されない」とする実質的な「差別禁止法案」となった。

 今春、同党の特命委員会に提出された法案は、かつて自民党の総務会で了承見送りとなったこの稲田案であった。

 この「差別禁止法案」を本来の「理解増進法案」に押し戻したのが古屋圭司議員や新藤義孝議員らである。「性自認」は「性同一性」という語に、「差別してはならない」が「不当な差別はあってはならないとの認識の下に」に変更され(本年5月12日、第1回修正)、これにより推進派による「差別」糾弾活動を阻止することが可能になった。

 この修正について、推進派の朝日新聞は「LGBT法案 自民骨抜き」の大見出しのもと、第2面の半分近くを割いて批判を展開し(5月13日)、毎日新聞も「保守派配慮で先祖返り」と批判している(同日)。

 5月15日には民間の保守陣営から自民党などに4点の修正の要望がなされ、これに応えて26日には日本維新の会と国民民主党から、以下のような画期的な修正案が発表された。㈰「性同一性」を「ジェンダーアイデンティティ」に変え、㈪  教育は「保護者の理解と協力」が必要とする、㈫「民間団体への支援」を削除、㈬「全ての国民が安心して生活できるよう留意すべである」との文言を加える、など計5点修正したものである。

 第2回目の修正は6月9日、自民・公明両党が維新・国民両党の修正案を「丸呑み」し、さらに  ㈰「保護者の理解と協力」が「家庭及び地域住民等の協力」に変更され、㈪「政府は必要な指針を策定する」の文言が挿入された。その結果、最悪の事態は回避され、政府が必要なガイドラインを提示することさえ可能になった。この最終案に対して、朝日新聞は「LGBT法案変質」と憤慨している(6月16日)。

 

理解増進法は「女性スペース」の侵害認めず

 

 この理解増進法の制定に当たって、最も心配されたのが「女性スペースの保護」という問題であった。

 近年、女装した男性が女湯に入浴しようとしたり、女性用トイレに侵入したりする事件が相次いでいる。その大きな原因の1つに、全国各地で制定されている過激なLGBT差別禁止条例や、これを無責任に喧伝(けんでん)し煽ってきた多数マスメディアの影響が考えられる。

 大阪府や埼玉県などの条例を見ると、「性自認」の語が用いられ、「性自認者」に対する差別の禁止がうたわれている。しかも「性自認とは、自己の性別についての認識をいう」と簡単に定義されているだけだ。これでは、男性でも自分が女だと言い張れば女性になれると錯覚する者が出てきてもおかしくなかろう。このような過激な条例が「自称女性」の犯罪を誘発してきた。

 もちろん、現在でも「自称女性」の女湯入浴などは刑法の「建造物侵入罪」に当る犯罪であり、公衆浴場法の「衛生等管理要領」でも「男女混浴」が禁止されている。また、厚労省も6月23日、公衆浴場における男女の取り扱いについて改めて通知を出した。それによれば、施設側は「身体的な特徴」をもって男女を区別し、自称女性の女湯利用を禁止するよう指示している。それ故、施設からの通報があれば、警察官は躊躇することなく逮捕権を行使すべきだ。

 理解増進法の成立後、自民党の有志議員らが集まり「略称・女性を守る議連」(共同代表、橋本聖子、山谷えり子、片山さつき議員)が設立された。これは懸念されるトランスジェンダー女性からトイレや更衣室など「女性専用スペース」を守るために結成されたものである。理解増進法では「マイノリティ」だけでなく「マジョリティの権利」も保障され(第3条)、しかも「全ての国民が安心して生活できるよう留意」すべきとされており(12条)、これを武器に「女性スペース」を守っていくことは可能だ。

 

過激な条例の改正の指針示せ

 

 次の課題は全国各地の過激なLGBT条例にブレーキを掛け、危険なジェンダーフリーの性教育などを阻止することである。

 もちろん、今回制定された理解増進法は理念法にとどまり、直接、各県条例の改正を命ずるものではない。しかし、憲法94条は地方自治体が「法律の範囲内」で「条例」を定めることができると定めており、理解増進法の規定に反する条例が各地に存在すること自体、憲法の趣旨に反する。

 また、例えば条例に基づき「家庭等の協力」なしに行われているジェンダーフリー教育なども、理解増進法の趣旨に反する。それ故、当該自治体は条例を改正して、違憲性の除去に努めるべきだ。

 他方、政府は本来の「理解増進」の理念に立脚した明確な指針(ガイドライン)を速やかに作成し、これに基き全国の過激な条例是正のため、積極的な指導を行うべきだ。

 


2023年8月7日号 週刊「世界と日本」第2250号 より

 

憲法改正をやり遂げる覚悟を国家と国民に問う

 

政治ジャーナリスト 細川 珠生 氏

《ほそかわ たまお》

1968年生まれ。聖心女子大学英文科卒。三井住友建設(株)社外取締役。内閣府男女共同参画会議民間議員。(公財)国家基本問題研究所理事。熊本藩主・細川忠興と明智光秀の娘・玉夫妻の直系卑属。1995年より「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本)に出演。2021年3月番組終了まで、放送通算1337回、延べ768人のゲストが出演。同年4月よりPodcast放送で世界に配信中。著書に『明智光秀10の謎』(本郷和人共著)ほか多数。聖心女子大学大学院博士課程前期人間科学専攻在学中。

 

 第211回通常国会は、6月21日に延長もなく規定の150日の会期を終えた。令和に入ってから、憲法審査会の開催頻度が上がり、ほぼ1週間に一度は、国会で憲法についての議論行われるようになった。当たり前のこととはいえ、やっとここまで辿り着いたという思いは拭えない。今となっては考えられないことだが、かつては閣僚になると、「法令遵守義務」を理由に、法の最上位にある憲法について、議論する必要性を国会で述べることすら難しかったことを考えると、憲法の議論が自由にできるようになったことは、日本の政治の中でも一つの進歩ではある。しかし、改正実現への道のりは一体、あとどれくらい続くのだろうか。本稿では、憲法改正が行われてこなかったことによる、国民への不利益と国家の責任について述べたい。

 

期を熟した審査会での議論

 

 日本国憲法の改正の議論については、そのスタートは1955(昭和30)年、保守合同を経て自由民主党が発足した時まで遡る。しかし、当時は、第二次世界大戦後の占領政策が終わり、独立国として、自らの手で自国の憲法を制定するという必要性への機運の高まりの中で行われてきたものであり、今日の議論は、あまりに長い時の経過により、新たな必要性が加味され、その必要性はより高まっているのである。裏返していうならば、改正を実現できないのであれば、為政者たる政治家の責任はより大きくなる。併せて、憲法改正は、最後は国民の投票によるものであるという点を考えれば、国民が憲法について、いかなる考えを持ち、行動しているのか、政治家以上に責任があると言っても過言ではないだろう。

 その前提に立ち、昨今の憲法改正議論から、日本のあり方を考えてみたい。

 先頃閉会した第211回通常国会の終盤、6月15日の衆議院の第15回憲法審査会では、緊急事態に関する論点整理が行われ、各党の委員から発言が行われた。同審査会の幹事である自民党の新藤義孝委員は、参議院の緊急集会と議員の任期延長を主な内容とする緊急事態での対処についての議論は、2022年の第208回通常国会以降、211回通常国会の終盤まで計28回、延べ241人の委員による意見表明がおこなわれたと発言。新藤氏は、緊急事態の体制を憲法で定めるべき意義は、緊急事態であれ、正当な民主的基盤を持った内閣が必要である、という考えに立つ。現行憲法による、参議院の緊急集会という位置づけは、衆議院の解散や任期満了により、選挙という、衆議院議員の空白期間ができた時に、もし有事になった場合の国会の脆弱性を指摘する。立憲主義に立ち、民主的基盤を持った内閣でなければ、真っ当な緊急事態対応が不可能であるということである。そのため、衆議院議員の身分を失った期間であっても、それが解散によるものであれば、一時的な身分の復活、任期満了によるものであれば、任期延長により、衆議院議員が正当に存在させるための憲法の規定が必要ということになる。任期延長については、これまでの審査会での論点整理の中で、自民・公明・維新・国民・有志の会の各党会派が賛成しており、いわば成立の目処が立つほどに、賛同が集まっているという審査会の状況もあるようだ。新藤氏は、今後の審査会での役割として、例えば幹事会において一定の方向性を出すという方法もあるのではと指摘している。

 そもそも憲法審査会は、2007年に国会の衆参両院に設置され、その前身である憲法調査会も2000年に設置。自由民主党の発足当時ではなく、近年の諸課題、国際情勢の変化を踏まえた憲法論議が始まってからも、およそ四半世紀。9条に示されているように、防衛力というより自衛力としての戦力保持が、必要以上に拡大解釈され、自衛にも不安を残す現状を抱える我が国は、一体、世界からどのようにみられているのだろうか。

 

危機管理の責任を全うする国家と国民の役割

 

 コロナウイルスによる世界パンデミックは、それまでの「普通」、つまり常識や価値観の転換を、短時間に迫られるような出来事であったと感じることは、何も日本人だけではない。世界が、大きな変革にしっかりと「ついていく」ことに躍起になっていたのが、この3年間であった。たとえば、教育面での変化も著しい。先日、米国の大学では、多様性を重視した選抜枠、いわゆる「アファーマティブアクション(高等教育制度における積極的差別是正措置)」が最高裁で違憲とされたが、本来の米国は多様性の中での切磋琢磨により、一人一人の、いわば「磨き」を掛けることで、国際的な競争力を強化してきたとも言える。しかし、コロナウイルスという未知のウイルスとの戦いにより、あるいは産業構造の変化の中で、米国内の分断は進み、大学選抜の一つをとっても、何が正解かわからない中でも、試行錯誤を繰り返し、「世界一」を目指す歩みを止めない逞(たくま)しさを持って生き抜いてきた。最高裁の判決後も、それを無視するということではもちろんないが、大学がその歩みを止めることは、考えにくい。ジェンダーの多様性然り、人種や民族の多様性然り、排除や包摂の違いに苦しみながらも、しっかりと「前」をむき、妥当な社会整備が進むことに、努力を絶やさないのが、米国の強さでもあると。それが、時代を進め、文明を進め、民族の進化をもたらすものとなるからである。

 翻(ひるがえ)って日本は、コロナパンデミックの下で「鎖国」政策を長く続けたことで、世界の動きに、無意識に順応する力を削いでしまったと言っても良いだろう。憲法審査会での新藤委員の指摘を踏まえれば、1年半で28回、延べ241人という大人数の意見陳述があったにもかかわらず、具体的な改正への「一歩」が踏み出せていないことへの苛立ちと、危機感を国民の一人として感じずにはいられない。民主制の下、国民を守るために必要な制度整備は、国家の最重要な役割であり、責任である。それを先送りしているとも思われても仕方ない国会の様相を、国民が放置していて良いのだろうか。国民は主権者として、国会がその責務を果たし、国家としての役割を全うすることに責任があると自覚することが、憲法改正への一歩に繋がるということに自覚を持つべきである。

 

 


2023年1月16日号 週刊「世界と日本」第2237号 より

岸田首相よ、今こそ悲願の憲法改正を
現実味を帯びてきた緊急事態事項

 

国士舘大学客員教授 百地 章 氏

《ももち あきら》

昭和21年、静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。京都大学博士(法学)。専門は憲法学。比較憲法学会名誉理事(元理事長)、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(共同代表・三好達、田久保忠衛、櫻井よしこ)幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)など。

 

 昭和27年の講和独立から今年で71年、悲願とされた憲法改正がようやく現実味を帯びてきた。今こそ岸田文雄首相は、非業の死を遂げた安倍晋三元首相の遺志を継ぎ憲法改正に邁進すべきだ。憲法改正こそ岸田首相が総裁選、衆参両院選さらに安倍元総理の国葬儀において内外に誓った最大の公約の一つだからである。

 幸い昨年の通常国会以来、憲法審査会は順調に改憲に向けた審議を重ねてきており、憲法改正には今や国民世論の強力な後押しもある。

 衆議院の憲法審査会は昨年2月10日の第1回審査会以来、緊急時における「リモート国会」の是非について議論を重ねてきた。これは感染症の蔓延などによって国会議員が出席できなくなり、憲法56条1項に定める「定足数」が充たせない場合に備えるためである。審査会は米国議会の例に倣い「出席」の中に例外的にオンラインによる出席も含めることができる、との新しい憲法解釈をまとめた。

 大規模自然災害などで選挙ができなくなった時の「国会議員の任期の延長」についても衆議院憲法審査会では審議が進められ、すでに自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の4党および「有志の会」による賛成の合意が得られている。

 つまり数字の上では、憲法改正の国会発議に必要な3分の2の多数が形成されたことになる。

 地方議員の任期については公職選挙法で定められており、緊急事態の発生によって万一選挙が実施できない時は、法律の改正によって対応可能である。

 しかし国会議員の任期は憲法によって衆議院議員が4年、参議院議員が6年と定められている。そのため任期満了直前あるいは衆議院解散後、感染症がまん延したり大規模自然災害が発生して選挙が実施できなくなった時は今の憲法では対処できず、憲法に「議員の任期延長」を盛り込んで置くしかない。

 ただし国会議員の任期延長は、議員に対して特権を与えるものではない。あくまで緊急事態でも国会の立法機能を維持させ、国民生活を守るためである。

 つまり緊急時においても、国会が速やかに被災者を救済するための法律を作ることができるようにするためである。

 平成7年1月に発生した阪神淡路大震災の際は、発生から2カ月の間に14本の法律が制定されたが、その中には被災者のための租税免除や減額、復興のための基本方針の作成、被災自治体への特別な財政援助、さらに地方議員や首長らの選挙の延期など、様々なものがあった。

 また平成23年3月の東日本大震災の時も、地震発生直後に地震防災対策のための特別措置法改正や地方議員・自治体首長の選挙の延期のための法律が制定され、発生後2カ月間で震災対策のための法律が11本制定されている。

 ということは、あの時もし国会が集会できなかったら被災者の速やかな救済もできず、復興の方針も立てられなかったことになる。とすればさらに大規模な震災、例えば首都直下型の大地震が発生し、国会が集会できないときに法律を作るためにはどうすれば良いのか。その答えが内閣による「緊急政令」つまり、緊急時において国会が集会できない時、国会に代わって一時的に立法を行い、後日、国会の了承を求める制度である。

 政府の中央防災会議は、マグニチュード7クラスの首都直下型地震が発生する確率を今後30年以内に70%と予測しているが、大正12年9月に関東大震災が発生した際、首都東京は壊滅状態に陥っている。東京市内の44%が火災のため炎上し、死者・行方不明者は約10万5千人に達した。そのため帝国議会を召集することはできなかった。

 そこで発足したばかりの山本権兵衛内閣は次々と緊急勅令(緊急政令)を発し、これによって被災者救済のため食糧の調達や物資の買占め防止、物価高騰の取締り、債務の支払い猶予、被災者の租税免除などがなされた。地震発生の9月1日から1カ月で12本の緊急政令を発し、12月11日に臨時議会が召集されるまでの3カ月間は緊急政令で対応するしかなかった。

 このように考えると、議員の任期延長だけでなく、そもそも国会が集会できないような真の緊急事態に備えて憲法に緊急政令を定めておくことは不可欠である。ちなみに、今年は関東大震災から丁度100年に当たる。

 確かに、明治憲法8条の緊急勅令は濫用されたこともある。その大きな原因の一つは条文の不備にあった。同条には「天皇は公共の安全を保持し又はその災厄を避くる為緊急の必要に由り帝国議会閉会の場合に於いて法律に代わるべき勅令を発す」とあり、緊急勅令は「帝国議会の閉会」時に限られていた。

 しかしその他の条件は「公共の安全を保持し又はその災厄を避くるため」「緊急の必要」があれば可能といった極めて曖昧なものであったため、議会での審議を避けて会期終了直後に勅令が発布されることもあった。

 それゆえ憲法に「緊急政令」を定める際は、対象を「地震その他の大規模自然災害」や「強毒性感染症の発生・まん延」等の緊急事態に限定し、目的を「国民の生命、安全、財産を守るため」、さらに条件を「国会が集会できない時」つまり臨時国会も召集できないときに限るなど、政令制定の条件を厳しく限定する必要がある。そうすれば濫用も防止できよう。

 ちなみに占領下の昭和20年9月、宮沢俊義東大教授は議会の召集が不可能な場合に限定し運用の濫用を慎めば、緊急政令に「存続の価値あり」としていたし、わが国政府も当初、内閣の緊急政令を主張していた。

 しかしGHQの反対により、現行憲法には盛り込まれなかった。

 以上の点を踏まえて、憲法審査会では速やかに憲法に「緊急政令」を定めるための議論を深めて欲しい。

 そして岸田首相には、わが国を緊急事態にもまともに対処できない脆弱な国家から普通の国並みの強靭な国家とするため、毅然として憲法改正につきリーダーシップを発揮して欲しいと切望している。

 


2022年9月5日号 週刊「世界と日本」第2228号 より

今こそ憲法改正を推し進めよ

 

駒澤大学名誉教授 西 修 氏

《にし おさむ》

1940年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。同大学院政治学研究科修士課程、博士課程修了。政治学博士、法学博士。主な著書に『憲法改正の論点』(文春新書)、『憲法の正論』『(産経新聞出版)、『証言でつづる日本国憲法の成立経緯』(海竜社)、『“ざんねんな”日本国憲法』(ビジネス社)など多数。

 

 7月10日におこなわれた参議院通常選挙の結果、自民党、公明党、日本維新の会および国民民主党の改憲派4党が、国会両院で憲法改正に必要な3分の2以上の議席を獲得した。岸田文雄首相(自民党総裁)は、この結果を受け、「早い機会に発議に向けて改正原案をまとめたい」と語った。有言実行を期待する。

 

 そのためには、憲法審査会を動かさなければならない。なぜならば、憲法改正国民投票を実施するための「憲法改正原案」を作成するのが、憲法審査会だからである。

 両院で憲法審査会が始動したのは、2011(平成23)年10月のことだ。それから11年を経て、どんな成果があったのか。ほぼナッシング。2011年から2022(令和3)年までに消費された経費は、衆議院憲法審査会で約17億2500万円、参議院憲法審査会は約12億7100万円、合計で実に約30億円にのぼる。時間と費用の壮大な無駄遣いがなされてきたといわなければならない。いつまでこの状態を続けるのか。国民の辛抱は、限界にきている。

 憲法審査会が動いてこなかった最大の理由は、立憲民主党が消極的だからである。進行を止めようとさえしてきた。立憲民主党は、立憲主義と民主主義とを合体させたものであろう。その根底には、国民主権主義がある。国民主権を具体化したのが、憲法改正国民投票だ。憲法改正のための国民投票を推し進めることこそが、立憲民主主義に合致する。さすがに立憲民主党も、阻止一辺倒では世論の支持が得られなくなったことを認識し、今年の通常国会(1月〜6月)では、衆議院で定例日に毎回のように出席した。この機会を逃すべきではない。

 抽象論を止め、具体論を展開すべきだ。これまでの憲法審査会は「一般討議」の名のもとに、交わりのない「一般討論会」がおこなわれてきたにすぎない。いまや議論を収斂(しゅうれん)すべき時期だ。そろそろ決をとってもよい。各党は、自らの改正案を憲法審査会に提出し、すり合わせをおこない、国民に提起する「憲法改正原案」の作成に注力すべきだ。

 現在、明文の憲法改正案を提示しているのは、自民党と日本維新の会である。自民党は、2018(平成30)年3月26日、①自衛隊の明記、②国家緊急事態対応、③参議院の合区解消・地方公共団体、④教育の充実の4項目について、改正案を作成している。

 日本維新の会は、2016(平成28)年3月24日、①教育の無償化、②統治機構改革(地域主権関係)、③憲法裁判所の設置に関する原案を示している。今年5月18日、第9条について、さらに6月8日、国家緊急事態条項に関して、それぞれ具体的案文を公けにした。これら二つは、参議院通常選挙を意識して発表されたものである。その結果、同会は野党のなかで唯一、議席を大幅に増やした。

 公明党は、第9条1項と2項を堅持するとしつつ、山口那津男代表は、実力組織たる自衛隊への文民統制の導入について、加憲に含みをもたせている。また、大災害などの国家緊急事態における国会議員の任期延長につき、論議を進めるとしている。

 国民民主党は、自衛権の行使の範囲、自衛隊の統制などとともに自衛隊の保持を認める議論を進めるという立場をとっている。また、緊急時における行政府の権限を統制するための緊急事態条項の創設を提唱している。

 こうしてみると、自衛隊の明記と国家緊急事態対応については、4党が知恵を集めれば、原案作成は可能であろう。その方向へ向けて歩を進めてほしい。

 立憲民主党は、参院選の公約では、①内閣による衆議院解散権の制約、②臨時国会召集の期限明記、③各議院の国政調査権の強化、③政府の情報公開義務、④地方自治の充実について議論を深めることを掲載している。原案を作成してほしい。そのタイム・リミットがきている。

 最近の世論調査では「国会で憲法改正の議論を進めてほしい」という前向きな意見が、「進めてほしくない」という消極的な意見を凌駕(りょうが)している。具体的な設問形式は違うものの、前者に属するものを「賛成」、後者に属するものを「反対」に分けると、以下の結果になる。

 読売(7月13日)「賛成58% 反対37%」、毎日(7月18日)「賛成53% 反対30%」、NHK(7月19日)「賛成45%、反対13%」、朝日(7月19日)「賛成53%、反対29%」、産経・FNN合同(7月25日)「賛成69・3% 反対21・3%」、日経(8月1日)「賛成73%、反対19%」。

 ここで注目されるのは、日経は賛成が反対の4倍近くを占め、NHK、産経・FNN合同は3倍を超えている。社論として憲法改正反対を唱えている朝日では、「賛成」が「反対」の2倍近くにおよんでいる。

 なお、自衛隊明記に関し、今年の5月2日と3日に発表された各社の世論調査をみると、読売(賛成58%、反対37%)、朝日(賛成55%、反対34%)、毎日(賛成58%、反対26%)、共同通信(賛成67%、反対30%)と、自衛隊明記の賛成が反対を大きく上回っている。

 また、国家緊急事態対応条項の導入について、4月と5月に実施された世論調査の賛否は、以下のとおり。

 読売(賛成55%、反対42%)、朝日(賛成59%、反対34%)、FNN・産経(72%、反対20%)、日経(賛成49%、反対37%)、共同通信(賛成69%、反対30%)。ここにおいても、「賛成」が「反対」をはるかに引き離している。

 国会が、このような国民の多数の声を無視することは許されない。憲法改正の判断をくだすのは、国民であって、国会ではない。

 世界各国の憲法をみると、平和、国防、国家緊急事態対応条項の3点セットを導入することは、憲法常識である(拙著『“ざんねんな”日本国憲法』ビジネス社)。憲法改正の1丁目1番地と2番地は、自衛隊明記と国家緊急事態対応条項の新設である。一刻も早く、これらの憲法改正原案の国民への提出がなされなければならない。

 


2022年8月1日号 週刊「世界と日本」第2226号 より

婚姻制度の意義説いた大阪地裁判決

性的指向には意義あり

 

麗澤大学教授 八木 秀次 氏

 判決は、婚姻は男女が子供を産み育てる制度であるとし、その趣旨から同性カップルの関係を婚姻と認められないとしながら、今日、全国各地の自治体で導入されている「同性パートナーシップ制」(同性カップルの関係を男女の婚姻に「相当する関係」と扱う制度)という「婚姻類似の制度」が広がりつつあるので、不利益は救済・緩和できるとした。

 そして今後の国民の判断次第では将来的には同性婚を認めないのは憲法に違反する可能性もあると示唆した。

《やぎ ひでつぐ》

1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒、同大学院政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。高崎経済大学教授などを経て現職。憲法学専攻。家族法制や皇室法制にも詳しい。政府の教育再生実行会議、法制審議会民法(相続関係)部会などの各委員を務めた。第二回正論新風賞受賞。現在、山本七平賞選考委員など。

 

 詳しく見てみよう。

 判決は、札幌地裁判決のように婚姻を単なる当事者の共同生活とするのではなく、「異性間の婚姻は、男女が子を産み育てる関係を社会が保護するという合理的な目的により歴史的、伝統的に完全に社会に定着した制度である」と、婚姻制度の目的が子供を産み育てることにあると強調した。この点は大いに評価すべきだ。

 婚姻とは「子供を産み育てるための制度」とするのが民法学の通説だが、札幌地裁の裁判では被告の国側の主張が弱かった。しかし、大阪地裁では国側もその趣旨を強調し、判決の本文では「本件諸規定(民法と戸籍法の規定)が異性間の婚姻のみを対象としているのは、婚姻を、単なる婚姻した二当事者の関係としてではなく、男女が生涯続く安定した関係の下で、子を産み育てながら家族として共同生活を送り次世代に継承していく関係と捉え、このような男女が共同生活を営み子を養育するという関係に、社会の自然かつ基礎的な集団単位としての識別、公示の機能を持たせ、法的保護を与えようとする趣旨によるものと考えられる」と、婚姻制度の有する世代間継承の面にも言及した。

 この点を捉えて、民法学に不案内な「識者」が、結婚とは当事者の共同生活をいうのであって子供を産み育てることを目的とするものでない。子供を産まない、産めない人たちを見下している差別的な判決だと批判しているが、見当違いも甚だしい。

 初めから子供を儲けない、あるいは儲けられない夫婦もいる。しかし、大半の夫婦は婚姻関係の中で子供を儲けて育てる。その関係を法的に保護するのが婚姻制度の趣旨だ。また、制度というのは抽象的・包括的なもので、大半の子供を儲ける夫婦を前提として婚姻制度を構築し、その中に子供を儲けない夫婦も包摂するという構造になっている。が、制度としてはあくまで婚姻は子供を産み育てるものということなのだ。

 判決の一番の問題は同性愛という性的指向についての理解にある。「異性愛者は婚姻できるのに同性愛者は婚姻ができず、婚姻の効果を享受できないという差異が生じ」ているとし、「これは、性的指向という本人の意思や努力によっては変えることができない事柄によって、婚姻という個人の尊厳に関わる制度を実質的に利用できるか否かについての区別取扱いするものである」とする。裁判所としての「認定事実」にも以下のことが述べられている。

「性的指向が決定される原因、又は同性愛となる原因は解明されておらず、遺伝的要因、生育環境等複数の要因が組み合わさって作用している可能性が指摘されている。しかし、精神衛生(メンタルヘルス)に関わる大部分の専門家団体は、ほとんどの場合、性的指向は、人生の初期か出生前に決定され、選択するものではないとしており、心理学における主たる見解も、性的指向は、意思で選ぶものでも、意思により変えられるものでもないとしている。精神医学においても、同性愛者の中には性行動を変える者がいるものの、それは性的指向を変化させたわけではなく行動を変えたにすぎず、自己の意思や精神医学的な療法によっても性的指向が変わることはないとされている」

 こう述べた後、世界保健機関や日本精神神経学会の同様の見解が紹介されるが、ここからは、本人の意思によって選択できない同性愛という性的指向によって婚姻できないのは「かわいそう」だ。子供が生まれない点については男女の婚姻と異なるが、いずれ国民の多数が賛成すれば、婚姻の中に包摂してもよいとの結論に導かれる。

 しかし、これらの性的指向についての見解は科学的に正しいのか。今日、専門の科学研究者から異論が挙がっている。

 ニュージーランドの生化学者で同性愛の科学研究の第一人者ニール・ホワイトヘッド博士は世界中の1万点以上の研究論文を再検討した著書『私の遺伝子が私にそれをさせた!—同性愛と科学的証拠—』(最新版2020年、未邦訳)で多くの研究結果を紹介し、「同性愛の指向は先天的で固定されたものではなく、性的指向は自然に大きな変化を遂げることができる」と結論づけ、上記の一連の見解は1990年代までの誤ったものだという。

 2010年代以降の最新の科学研究は、同性愛の性的指向は後天的であり、幼少期の虐待や性的虐待、両親の不和、劣悪な家庭環境、思春期後の性的経験、生まれつきの性別と異なる外見などが原因とする。心の問題であり、精神医学や宗教による「修復治療」で異性愛に戻るケースが極めて多い。

「同性愛者が異性愛者に向かうという文献は豊富にあり、多くの場合、治療支援によっても達成されるが、ほとんどの場合は、治療の支援によらないでも変化は起きる」「元ゲイは実際のゲイよりも多い」と博士は述べている。

 ここからは同性カップルを安易に男女の婚姻と同じように社会的に公認してはならないとの結論に至る。法的判断は科学的見地に立って慎重になされなければならない。

 


2022年1月17日号 週刊「世界と日本」第2213号 より

新しい日本国憲法の制定に向けて

-第一歩は緊急事態条項から-

 

国士舘大学特任教授 百地 章 氏

《ももち あきら》

昭和21年、静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。京都大学博士(法学)。専門は憲法学。比較憲法学会名誉理事(元理事長)、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(共同代表・三好達、田久保忠衛、櫻井よしこ)幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)など。

 昨年の衆院選を機に、憲法改正をめぐる政治状況は大きく変わってきた。

 党是である憲法改正を掲げて戦った自民党は、直前までの惨敗の予想を覆して健闘し、憲法改正に積極的な日本維新の会が大躍進を遂げた。その結果、国民民主党を加えれば、衆議院では改憲に前向きな勢力が4分の3にまで達した。他方、改憲論議さえ頑なに拒んできた立憲民主党は大きく後退しており、にわかに改憲が視野に入ってきた。

 国会が発議する憲法改正案の原案を作成するのが憲法審査会であるが、選挙結果を受けてようやく正常に機能しそうだ。

 ただ、憲法改正に前向きといっても、各党の主張する改憲案はさまざまであり、そのような中で漫然と改憲論議をしていても簡単には纏まるまい。それ故、次の課題は改憲のテーマをどのようにして絞り込んで行くかということになる。

 この点、最もふさわしいテーマを選び出すための基準としては、以下のようなことが考えられよう。第1に国家の根幹に関わる事柄であること、第2に改正が緊急性を要すること、第3は国会の3分の2以上、国民の過半数の賛成が得られそうなことである。

 このように考えた場合、例えば9条2項を改正して自衛のための軍隊を保持することは、国家の根幹に関わり緊急性を要するが、残念ながら公明党が反対しており、国会で3分の2の多数の支持を得ることさえ、現実には困難であろう。

 そうなれば、現在、改憲のテーマとして最も相応しいのは緊急事態条項ではなかろうか。これなら自民党の憲法改正素案の1つであり、日本維新の会も「日本維新八朔2021」の中で「緊急事態条項」の創設を優先的に目指すとしている。

 また、国民民主党も政策5本柱の1つとして「国民と国土を『危機から守る』」をあげ、公明党も衆議院の公約として「緊急事態における国会の機能の維持」を掲げており、緊急事態条項であれば自民、公明、維新、国民が協力できるのではないかと思われる。

 次に問題となるのが、緊急事態条項の具体的な内容である。

 平成23年の東日本大震災や今回の武漢発新型コロナ感染症のパンデミックを想起するならば、対象は大規模自然災害と感染症のパンデミックに絞り込むのが現実的であろう。

 本来、緊急事態といえば真っ先に戦争や内乱、大規模テロがあげられるが、それをやりだしたら猛反対が起き、収拾がつかなくなる恐れがあるからである。

 次に、緊急事態の具体的な課題として考えられるのが、「より多くの国民の命を守るための一時的な私権の制限」、「平時から緊急時への法制度の切り替え」、「国民生活を守るための国会の機能維持」といった事柄であろう。

 このうち、「緊急時の一時的な私権制限」については、東日本大震災の折にも食糧、水、石油等の買占め制限やガレキの除去が課題となったが、私権の壁に阻まれ、災害対策基本法だけでは思うように対処できなかった。

 また、今回の新型コロナ禍でも、外出や営業の禁止の是非が問題となったが、中々進みそうにない。各種世論調査では「強制的な外出制限」に賛成する国民も多いが、「外出の禁止」となれば自民、公明、維新、国民の間でも簡単に合意はできないだろう。

 次に、「平時から緊急時への法制度の切り替え」だが、これは普段(平時)は信号に従い、いざ火事などの緊急事態が発生した時は、緊急車両が信号を無視して走行できるようになっている道路交通法の発想をヒントにしたものである。

 このような緊急時の規定を関係法律の中に盛り込んでおき、憲法上、内閣が緊急事態宣言を発することができるようにしておけば、法制度のスムーズな切り替えは可能となろう。

 たとえば、感染症のパンデミックが発生し、仮設の野戦病院を建設しようとする際も、医療法、建築基準法、消防法などに緊急時の規定がすべて盛り込まれていれば、容易に対応できたのではないかと思われる。

 しかし、あらゆる法律に緊急時の規定を盛り込むのは簡単ではなかろう。

 そこで考えられるのが、「国民生活を守るための緊急時における国会の機能維持」である。

 具体的には、たとえば、国会で感染症のクラスターが発生し、憲法56条に規定された3分の1の「定足数」が充たせなくなった際や、首都直下型大地震、南海トラフ巨大地震等の大規模自然災害が発生し国会の集会そのものが不可能となった場合などの特例が考えれる。

 また、大規模自然災害の発生によって国会議員の選挙ができなくなった場合の任期の特例なども考えられよう。地方議員と異なり、国会議員の任期は憲法に明記されているため、その特例は憲法で定めるしかないからである。

 このような内容であれば、立憲民主党でも簡単には拒み切れないであろう。

 そこでまず喫緊の課題として、国会で感染症のクラスターが発生した際の「オンライン出席」の是非から議論を開始したらどうだろうか。

 実は、昨年4月の衆議院憲法審査会でも自民党や日本維新の会がこの問題を取り上げており、公明党も衆院選の公約で、大災害などの国家的危機が発生した際の「オンラインによる国会審議、採決に参加できる制度の創設を検討します」と述べている。

 オンライン国会の是非については憲法学者の間でも意見が分かれており、憲法上認められた議院の自律権の問題として考えればよいとする説と、憲法改正が必要とする説が対立している。

 とすれば、仮に議院自律権に含まれるとしても、議院規則等への明文化は必要なはずだし、憲法改正が必要となれば、定足数の特例をどのように憲法に明記すべきか、議論を煮詰めていく必要がある。

 憲法施行後、70年以上もの間、一度も実現できなかった憲法改正である。新憲法の制定といっても、残念ながら先ず第一歩から踏み出すしかない。

 しかし、このような緊急事態条項であれば、国会の3分の2以上と国民の過半数の賛成は可能なはずである。それ故、今年こそ、国会は本気で憲法改正に取り組み、改憲勢力に4分の3もの議席を与えた主権者国民の思いに誠実に応えて欲しい。

 


2020年11月2日号 週刊「世界と日本」第2184号 より

緊急事態条項から改憲を

新政権に望む

 

国士舘大学特任教授 百地 章 氏

 7年8カ月に及んだ第2次安倍晋三内閣の実績評価は70%以上と驚異的であったが、それを受けて菅義偉内閣がスタートした。新内閣もマスコミ各社で60%から70%というかつてない高い支持率を誇っている。菅首相は「安倍路線の継承」を明言し、憲法改正についても「自民党結党以来の党是であり、当然、行って行くべきだ」と繰り返した。そしてこの発言どおり自民党の憲法改正推進本部の役員を一新し、党三役や各派閥の会長を顧問につけて本格的な取り組みを始めた。

《ももち あきら》

昭和21年、静岡県生まれ。昭和46年、京都大学大学院修了。京都大学博士(法学)。専門は憲法学。比較憲法学会名誉理事(元理事長)、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(共同代表・三好達、田久保忠衛、櫻井よしこ)幹事長。産経新聞「正論大賞」受賞。著書に『日本国憲法 八つの欠陥』(扶桑社新書)など。

 菅首相(自民党総裁)には、高い支持率を背景に速やかに憲法審査会を始動させて懸案の国民投票法を改正し、実質的な改憲論議に着手できるよう、指導力を発揮して欲しい。

 自民党が掲げる憲法改正「たたき台素案」のうち、最も緊急性を要するのは「緊急事態条項」であろう。

 中国・武漢発の新型コロナウイルスは世界的なパンデミックをもたらし、10月8日現在、世界全体で感染者数は3600万人、死者も100万人を超えた。

 感染症の蔓延を阻止するため欧米諸国がとった措置は、極めて厳しいものであった。これらの国々では感染症を単なる公衆衛生の問題ではなく「国家安全保障の問題」と位置付け、迅速かつ強力な対策を講じてきた。なぜなら、感染拡大で政府機能や経済・社会活動が麻痺する事態になれば、国家の存続さえ脅かしかねないからである。

 それ故、これらの国々では、憲法で国民の人権を手厚く保障する一方で、いざ国家的な緊急事態に遭遇するや、速やかに危機を乗り越え、より多くの国民の命や安全を守るために、一時的に厳しい人権制限を行っている。

 フランスでは憲法上、大統領に強大な緊急措置権が与えられているが(第16条)、今回、政府は「非常事態法」に基づいて「外出の禁止」や「店舗の一時閉鎖」を命じ、違反者には約9万円から約46万円の罰金が科せられた。

 またイタリアでも、憲法の緊急事態条項に基づき「緊急命令」が発せられた。そして「都市間の移動の禁止」「商業活動の禁止」「外出の禁止」などが命ぜられ、違反者には最高約37万円の罰金が科せられている。

 これに対して、わが国で取られた緊急措置は改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくものであるが、欧米各国と比べて非常に緩やかであった。外出の自粛や休業の「要請」が行われただけで、欧米各国のように罰則付きで「外出」を「禁止」したり「店舗の閉鎖」を命じたりすることはできなかった。

 確かに「国民性」の違いもあり、果たしてわが国でも欧米各国と同様に、直ちに「強制力」を伴う「外出の禁止」や「商店の閉鎖」を行う必要があるかどうかは疑問である。わが国では「外出の自粛要請」だけで、大多数の国民は外出を自粛しているからだ。

 しかし万一、今回の新型コロナウイルスよりはるかに毒性も感染力も強い感染症が全国に蔓延した場合、それだけで良いのか。場合によっては、強制的に外出を「禁止」したり、商業施設の営業を「禁止」したりしなければならない場合もあろう。

 ただ、それだけなら法律(特措法)を改正すれば可能かもしれない。

 しかし、憲法が保障する「居住・移転、職業選択の自由」(第22条)や「財産権の不可侵」(第29条)との兼ね合いから、憲法違反の疑いを回避するためにも、憲法に特別の根拠規定を設ける必要があると思われる。

 世界の先進国ではすべて憲法上「緊急権」が認められており、緊急事態条項のない国などほとんど存在しない。それゆえ、今こそわが国でも憲法に緊急事態条項を定め、国家的な危機に対処できるようにする必要がある。

 その際、より多くの国民の賛同を得るためには、緊急事態の対象を限定すべきであろう。具体的には、「大規模自然災害」と「悪性感染症のパンデミック」の2つに絞ったらどうか。

 この点、先の東日本大震災や今回の新型コロナウイルスの影響もあろうか、各種世論調査では憲法を改正して緊急事態条項を設けることに賛成する国民が多い。例えば、共同通信(4月29日)では51%(反対は47%)、毎日(5月3日)で45%(反対14%)、産経・FNN(5月12日)で65.6%(反対25.5%)が賛成している。

 緊急事態条項の具体的な内容としては、先に述べた点に加え、第1に法律を制定したくても国会が集会できない時のために、「定足数の例外」を定めて置くことである。

 「憲法には事態条項など不要であり、法律で対応すればよい」と主張する人たちは、もし首都直下型大地震や南海トラフ巨大地震が起こったり、毒性の強い感染症が全国に蔓延したりして、国会議員が国会に出席できない場合には、どうするつもりだろうか。

 定足数は憲法で総議員の3分の1と定められているから、憲法に特例を定めておくほかない。

 第2に国会が集会できない時に、一時的に国会に代わって内閣が緊急政令を制定し、危機を乗り切った後で速やかに国会の承認を求める「緊急命令(政令)」を採用することである。

 この緊急政令制度は、イタリアの他にオーストリア、スペイン、台湾憲法でも採用されており、自民党の改憲案「たたき台素案」にもある。

 第3に国会議員の任期の特例である。例えば衆議院の解散中や衆参両院議員の任期満了前に大規模地震や感染症のパンデミックが発生して、総選挙や通常選挙を実施することができない場合、どうすれば良いか。

 国会議員の場合には、法律で特例を定めることが可能な地方議員と異なり予め憲法に特例を定めておくしかない。

 このような緊急事態条項であれば、フランス大統領の「独裁的権力の行使」などとは無縁だから、国民の支持も得られやすいのではなかろうか。

 菅首相には、安倍政権の残した国会の3分の2の改憲勢力を力に、是非とも改憲に着手して欲しいと思う。

 


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