刻々と変化する国際情勢を各国の政治・経済など様々な視点から考察する。
《にしおか つとむ》
1956年、東京都生まれ。韓国・延世大学留学、国際基督教大学卒業、筑波大学大学院地域研究科修了。在韓国日本大使館専門調査員、「現代コリア」編集長、東京基督教大学教授などを経て現職。著書に、『安倍晋三の歴史戦』(産経出版社)、『狂った隣国:金正恩・北朝鮮の真実』(ワック文庫)、『よく分かる慰安婦問題』・『自壊する北朝鮮 分裂する韓国』(草思社)等多数。
2026年4月20日号 週刊「世界と日本」第2313号 より
拉致問題の現状と金正恩の本音
北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長
麗澤大学 特任教授
西岡 力氏
まず、被害者救出戦略について書く。救出方法は大きく分けて二つだ。
第一は実力による奪還だ。平時にそれを行うことは、現行法令上困難であるだけでなく被害者に対する情報の不足と米韓軍の後方支援不在などのため軍事的にもほぼ不可能だ。有事、すなわち戦争や内乱で北朝鮮政権が倒れ、米韓軍が出動している状況下では、安保法制上の移送任務を付与して自衛隊を使う救出作戦が考えられる。
第二の方法は交渉による解放だ。これを実現するためには強い圧力をまずかけて、それをしないと政権存続が難しいと北朝鮮に思わせることが必要だ。強い圧力を背景にした交渉だ。
圧力には軍事圧迫と経済制裁の二つがある。2002年金正日政権が小泉総理を平壌に呼んで拉致を認めるという大きな譲歩を行った背景はブッシュ大統領による軍事圧迫だった。前年2001年9月の同時多発テロを受けて2002年1月、ブッシュ大統領は有名な悪の枢軸演説で、北朝鮮、イラン、イラクの大量破壊兵器(核や毒ガス)所有は核などによる米本土テロを起こしかねないとして、その阻止をテロとの戦争の目的に明言した。北朝鮮の核開発を、戦争をしてでも止めるという意味で、金正日は恐怖して極東の米国の同盟国日本に急接近した。
2017年には第1次トランプ政権が米本土を狙う核開発を急ピッチで進める金正恩政権に対して、斬首作戦すなわち米韓軍による金正恩暗殺の準備を公開的に行って核放棄を迫った。その結果、恐怖に駆られた金正恩は2018年にシンガポール、2019年にハノイでトランプと首脳会談を持った。
当時の安倍政権は集団的自衛権を行使して米軍の北朝鮮攻撃を支援すると公言しつつ、トランプに拉致被害者救出への協力を求めた。トランプは金正恩に対して核を放棄すれば北朝鮮は豊かになれると説得したが、米国は核放棄の見返りとして斬首作戦をしないことと国連制裁解除は約束するが、経済支援はしないと述べた。
2019年2月のハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で、トランプは日本が経済支援をするが、安倍は拉致問題が解決しなければ支援をしないと強硬に言い張っているから、彼に会って拉致問題を話し合えと金正恩を説得した。それに対して金正恩は日朝間に拉致問題が存在することを認め、安倍に会う準備があると答えた。
残念ながら、金正恩はハノイで全ての核開発を停止し、核製造施設を廃棄すると約束しながら、平壌の南にある隆仙(カンソン)秘密濃縮ウラン工場を廃棄リストにいれなかった。米国の情報能力を甘く見て隠しきれると誤判したのだ。米国情報機関は隆仙に関する確実な情報を取っていた。そのため、トランプは翌日の午前のセッションを終えてランチの約束をキャンセルして帰国してしまい、交渉は不成立となった。安倍訪朝も実現しなかった。
一方、安倍はトランプらに北朝鮮の弱点はイランなどと違い裏ルートでも国際的に流通する石油などがないことだから、彼らの外貨源を絶つ制裁は効果があると説得した。2017年に国連安保理事会が決議した三つの対北朝鮮制裁は石炭、鉄鉱石、繊維製品、水産物などの北朝鮮からの輸入を禁止し北朝鮮出稼ぎ労働者へのビザ発給を禁止した。その結果、北朝鮮は約20億ドルあった輸出が2億ドル程度に激減し、海外労働者からの送金も急減した。
北朝鮮は深刻な外貨不足で苦しんでいる。制裁前は1ドル約8千ウォンだったが、2026年3月現在5万ウォンを超えた。ロシアのウクライナ侵略戦争への派兵で支援を得ているがその大部分は軍事援助で外貨不足解消にはつながっていない。中国から米やトウモロコシを輸入し、人民に食べさせていたが、北朝鮮通貨価値の大幅値下げで輸入は出来なくなった。その上、習近平政権は金正恩政権への無償支援をここ10年近くしていないので、昨年から深刻な食糧難が起き、地方では餓死者が多数発生している。
金正恩政権は韓国の親北左派文在寅政権との交流に精力的に取り組んだ。文在寅政権は国連制裁の網をかいくぐって様々な支援も行った。しかし、その結果、韓国の大衆文化が北朝鮮社会に急拡散し、住民の大多数が韓国に憧れるようになった。このままでは政権が維持できなくなると判断した金正恩は、韓国は統一すべき同じ民族ではなく敵対する外国だと断言、金日成、金正日が国是として追及してきた南朝鮮解放を放棄した。韓国で左派の李在明政権が出来たが、一切交流をしないという方針は変化がない。
残るは日本だけだ。日本は2002年9月、早期国交正常化と大規模支援を約束したにもかかわらず、それを履行しなかった。その理由は拉致問題への国民の怒りと米国の反対だ。そこで、金正恩はまず、米朝首脳会談をもって核問題でトランプを合意した上で、高市総理を平壌に呼んで拉致被害者帰国というカードを切ろうと考えている。
核問題では非核化という建前は掲げつつ第1段階として前回隠した降仙の秘密ウラン濃縮施設を含む核製造施設全ての廃棄に加えて、米本土に届く大陸間弾道ミサイルの廃棄までする。トランプ側もその提案に前向きという。
実は3月末から4月初に予定されていたトランプ訪中に合わせて、米朝首脳会談を持つ準備作業が進められていた。トランプとの核での取引が成功すれば高市を呼んで日朝首脳会談を持ち、拉致問題で譲歩して日本からの支援を得るというシナリオがあった。
イラン戦争の行方が予断を許さず、トランプの関心が北朝鮮に向いていないという説もある。イラン首脳部への攻撃によって自分も殺されるかもしれないと金正恩が恐怖に駆られて水面下の対米接触を停止して、米軍が北朝鮮を攻撃する可能性があるかどうかを探ることに全精力を注いでいる。それらが4月に入り整理され、5月13日〜14日に予定されているトランプ訪中の時期の米朝首脳会談があるか、事態は流動的だ。
《ちの けいこ》
横浜市生まれ。1967年に早稲田大学卒業、産経新聞に入社。マニラ特派員、ニューヨーク支局長。外信部長、論説委員、シンガポール支局長などを経て2005年から08年まで論説委員長・特別記者。現在はフリーランスジャーナリスト。97年度ボーン上田記念国際記者賞を受賞。著書は『戦後国際秩序の終わり』(連合出版)ほか多数。近著に『奇才・勝田重太朗の生涯』(論創社)。
2026年4月20日号 週刊「世界と日本」第2313号 より
2026選挙の鍵はトランプか
地政学的な波乱を招く中南米政治地図
ジャーナリスト
千野 境子氏
年明け早々、世界を驚かせたトランプ米政権による南米ベネズエラへの軍事介入は、米国が年末に発表した「国家安全保障戦略」における西半球(北・中南米)の覇権再強化というドンロー主義(トランプ版モンロー主義)の実践だった。折しも中南米は大統領選の季節に入り、その帰趨はドンロー主義の今後に試金石ともなる。
本紙が出る頃、ペルーはちょうど大統領選(4月12日)の投票を終えたところだ。ただ30人を超す候補者乱立のため、上位2人による決選投票(6月7日)となる公算が高い。
下馬評では首都リマの前市長で「ペルーのトランプ」とも言われる右派の実業家ラファエル・ロペス・アリアガ氏と、故フジモリ大統領の長女で、4度目の挑戦の中道右派フエルサ・ポプラル(人民勢力党)党首のケイコ・フジモリ氏が有力で世論調査も上位1、2位を占め、左派は低調だった。
このため昨年のボリビア、ホンジュラス、チリ大統領選で示された左派・社会主義政権隆盛から、右派・保守政権へという中南米政治の新しい流れはペルーでも続くと見られている。
ペルーは2016年にペドロ・パブロ・クチンスキー氏が僅差でケイコ氏を下して以降、大統領が8人誕生した。つまり5年の任期を1人もまっとうせずに辞任か罷免され、何人かは獄中にいる。
しかし政治の不安定や治安の悪化にも関わらず、経済は堅調だ。対中関係拡大が大きい。対中貿易額は2019年比で7割増加、今や最大の輸出入相手国である。またペルーの輸出の9割以上は鉱物資源、中でも銅は7割以上が中国向けとなっている(JETROレポート)。ちなみに7人目の大統領は「チーファ・ゲート」と呼ばれる中国がらみの汚職疑惑で罷免された。
注目は昨年11月に中南米最大級のチャンカイ港が中国資本で完成、開港したことだ。チャンカイはインカ帝国の前に栄えた文化の遺跡で知られる。「一帯一路」の南米大陸最終地点と位置づけされ、中国は南米からの物流の拡大と時間短縮を狙っている。
トランプ氏はイラン攻撃の後はキューバの崩壊などと公言するより、対ペルー関係の再構築と強化を次期大統領と謳う方が、中国の影響力排除というドンロー主義本来の目的に叶うのに、大向こう受け狙いが過ぎる。
「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」に参加し、経済協力開発機構(OECD)に加盟交渉中のペルーは、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を強化すべき日本にも外せない国である。
次は5月31日にコロンビア大統領選挙が行われる。任期が1期限り再選なしのため、コロンビア史上初の左派政権、グスタボ・ペドロ大統領は退任する。
トランプ氏は就任早々の昨年、コロンビアにいち早く高関税を課しペドロ氏とも激しく対立、一時は軍事行動まで口にした。しかし2月、ホワイトハウスで会談したのを機に関係は好転したと伝えられる。ただトランプ氏のこと、麻薬や移民問題次第では、いつまた「次はコロンビア」などと言い出さない保証はない。
前哨戦の3月の議会選挙は左派連合、右派の民主中道党、中道左派の自由党の順で議席を増やした。一方、大統領選は各種報道によれば、20人を超す候補者が名乗りを上げており、ペルー同様に決戦投票入りが必至だ。
左派ではグスタボ・ボリバル元上院議員、かつて麻薬カルテルで世界に悪名を馳せたメデジンのダニエル・キンテロ元市長、保守・右派では有力野党候補とされた元大統領の孫、ミゲル・ウリベ上院議員が昨年選挙集会で銃撃され死亡したため、身代わりの父親と、元週刊誌編集長のジャーナリスト、ビッキー・ダビラ氏らの名前が取りざたされている。カギはやはり物価と治安対策だろう。
右派が勝利すれば左派から右派への流れは一段と確かになる。ドンロー主義にも追い風であり、中国の政治的影響力の後退も考えられる。とは言え各国で深まってしまった対中経済依存からの脱却は容易ではない。
トランプ氏は3月7日、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領以下ホンジュラス、ボリビアなど親米12カ国の首脳らを招き、フロリダで「米州の楯」サミットを開いた。麻薬犯罪組織の壊滅を目指す「軍事連合」を設立、犯罪組織への軍事作戦や資金調達を断つのが狙いとされ、米国は参加国のこれら作戦を支援する。ドンロー主義の実践と言える。
もっとも米国の軍事介入に反対のメキシコのクラウディア・シェインバウム大統領やペドロ氏、ブラジルのルーラ・ダ・シルヴァ大統領は招かれなかった。麻薬対策が主題であれば出席が不可欠な主要3カ国の不在は、対米関係を巡る中南米の分断状況とドンロー主義の限界を物語っているように思う。
そのブラジルの大統領選は10月4日。4度目の勝利を目指すルーラ氏の対抗馬はジャイル・ボルソナロ前大統領の長男で、右派のフラビオ・ボルソナロ上院議員だ。
ミレイ氏とともに「南米のトランプ」と言われた父親は、前回大統領選でルーラ氏に敗れながら政権に留まるためクーデターを画策した容疑が有罪となり禁固27年3カ月の刑に服した。その後健康状態が悪化し、現在は自宅軟禁中だ。
本人や「盟友」トランプ氏は裁判を「魔女狩り」とルーラ氏を攻撃してきた。
フラビオ氏は父の根強い人気や影響力に加えて、支持基盤を右派から保守全体に広げ勝機を掴む作戦だ。
一方のルーラ氏はコロンビアと同様にトランプ高関税を掛けられたが、その後、両者の関係は最悪を脱している。しかしブラジルも対中関係の緊密化が進み、中国は今や最大の輸出国で、グローバルサウスの盟主の立場もこれを後押ししている。ただ物価高や経済成長の鈍化、治安の悪化などから、この間の世論調査は支持率と不支持率が拮抗し、メディアでは4選への黄信号も報じられている。
ルーラ氏が左派の牙城を守るか、その勝敗が与える影響力はペルーやコロンビアの比ではない。ブラジル大統領選はドンロー主義の今後の明暗をも分かちかねないかもしれない。
《にわ ふみお》
1979年、石川県生まれ。東海大学大学院政治学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(安全保障)。2022年から現職。拓殖大学政経学部法律政治学科長、大学院地方政治行政研究科教授。岐阜女子大学特別客員教授も務める。著書に『「日中問題」という「国内問題」―戦後日本外交と中国・台湾』(一藝社)等多数。
2026年4月6日号 週刊「世界と日本」第2312号 より
高市外交の隠れた主役
―対中抑止強化の要としての台湾―
拓殖大学 政経学部教授
丹羽 文生氏
今年2月に行われた衆議院議員選挙において、高市早苗首相率いる自民党は国民からの大きな期待を受け、歴史的とも言える大勝利を収めた。新たに発足した第2次高市内閣には、物価高対策を始めとする内政課題が山積しているが、同時に緊迫化する国際環境の中での外交・安全保障の舵取りという重責も課せられている。
今、日本はもちろん、アジア・太平洋地域の平和と安全を脅かす存在として睨みを利かせているのが中国である。南シナ海では大規模な人工島建設を進め、滑走路や軍事施設を配備し、既成事実を積み上げ、国際法による制約を力ずくで押し退けようとしている。香港では「高度な自治」を約束した国際合意を自ら破り、政治的自由を奪った。チベットやウイグルでは人権問題が国際的な批判の的となるも異論に耳を貸す気配はない。
中でも看過できないのが、台湾海峡における軍事行動である。台湾の民主的な選挙結果にまで干渉し、中台統一のためには武力行使も辞さない構えを見せている。
昨年11月の台湾有事が集団的自衛権の行使を可能にする「存立危機事態」になり得るとの国会答弁、いわゆる「高市発言」以降、日中関係は悪化の一途を辿っている。従来、日本は台湾有事への直接的な言及を避ける「戦略的曖昧性」を維持してきたが、この高市発言によって日本のスタンスが変更されたと受け止められたようである。しかしながら、台湾海峡で火が噴けば、日本の平和と安全をも揺るがす危機に陥ることは誰の目から見ても明らかである。
今日、日台関係は、周縁的課題ではなく、日本外交の根幹に関わる戦略的テーマとなっている。まず日本に求められるのは、台湾の国際的な「活動空間」の拡充をバックアップすることである。
台湾は幾多の困難を乗り越え、アジアにおける成熟した民主主義社会を築き上げた。その歩みを重く受け止め、普遍的価値を共有する台湾の国際社会における実質的関与を支援することは「自国及び国民の平和と安全、繁栄を確保し、自由、民主主義、人権、法の支配といった価値や原則に基づく国際秩序を維持・強化し、平和で安定した国際環境を能動的に創出」(『外交青書2025』)するという日本外交のミッションにも合致する。具体的には、台湾のWHO(世界保健機関)を始めとする国際機関へのオブザーバーとしての参加の支援が挙げられる。
UNESCO(国連教育科学文化機関)への加盟を後押しすることも検討に値する。美しい自然景観、歴史的価値の高い文化史跡を数多く有しながら、台湾には世界遺産がない。世界遺産条約では人類全体のための世界遺産を損傷、破壊の脅威から保護し、保存するため国際社会が協力していくことを高らかに謳っている。したがって、政治的要因によって左右されてはならない。
台湾文化部文化資産局ではUNESCOの登録基準に従いながら審査をした上で、「世界遺産候補地」が18件あるとしている。パレスチナのように正式な国連加盟国ではないものの、例外的にUNESCOに加盟し、2件の世界遺産への登録が実現した例もある。これらは決して対立を煽るものではない。公共財としての国際秩序の強靱化を図る試みである。
次に安全保障面での対話促進も急務である。「台湾有事は日本有事」と喝破したのは安倍晋三元首相である。「台湾海峡、波高し」という現実を踏まえれば、日台間における情報共有を制度的に整える必要がある。それは当然のことながら、台湾のみならず、アジア・太平洋地域全体の平和と安全の維持・向上を念頭に進められなければならない。
さらに忘れてはならないのが実務関係の発展・強化である。日台関係を論ずる際、どうしても安全保障問題に偏りがちであるが、実際に日台間の揺るぎない基盤となっているのは、ビジネス・文化・学術・観光といった民間レベルにおけるソフト面での地道な交流の積み重ねに他ならない。
このところ、日本と台湾の地方自治体間における姉妹都市提携も増加傾向にある。それだけではない。台湾の阿里山森林鉄道と日本の黒部峡谷鉄道(富山県)との鉄道間、台湾の北投温泉と玉川温泉(秋田県)との温泉間といった姉妹関係締結による分野横断的な交流も広がりを見せている。
これらの交流は、政治的環境の変化に対しても強靭性、持続性があり、日台関係を下支えする土台となる。したがって、政治臭さのない実務関係の裾野を拡大させていくことこそが、日台関係を中長期的に安定させ、さらなる発展・強化へと導く礎となるのである。
台湾有事に関する高市発言以降、SNSの投稿の中には、日本は台湾を国家承認すべき、あるいは軍事同盟を結ぶべきといった勇ましい主張も散見される。しかしながら、そのような対応は、今日の国際環境、日本の外交方針に照らせば、現実的選択肢の射程外に置かれていると言わざるを得ない。
これまでも本紙において繰り返し指摘しているように、1972年9月の日中国交正常化の際に交わされた「日中共同声明」では、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」との中国側の主張に対し、日本側は「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」するとしており、「承認」したわけではない。これが日本の基本スタンスである。それ以上でも、それ以下でもない。
高市内閣においても日中国交正常化以来の既存の外交的枠組みを堅持するという基本方針に変わりはない。故に高市内閣が目指すものは、この外交的枠組みを破壊することではなく、高市発言を含めて、その解釈と運用の精緻化を通じて日台関係の深化を図らんとする営為として捉えるべきであろう。
対中関係において重要なのは、極端な対立でもなければ、安易な妥協でもない。戦略的忍耐である。日台関係の深化は、その覚悟を測る試金石になると言えるのではないだろうか。
《きむら まさと》
元産経新聞ロンドン支局長。国際政治、安全保障、欧州問題に詳しい。元米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。元慶応大学法科大学院非常勤講師(憲法)。著書に『欧州絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』
2026年3月16日号 週刊「世界と日本」第2311号 より
英政権の中国〝スーパー大使館〟
建設承認に「叩頭外交」の批判
在英国際ジャーナリスト
木村 正人氏
敷地面積2万2200平方メートル、欧州最大の中国大使館
[ロンドン発]英国のスティーブ・リード住宅・地域社会・地方政府相は1月20日、在英中国大使館の移転に伴ってロンドンのロイヤル・ミント・コート(旧造幣局跡地)で計画される欧州最大の“スーパー大使館”(敷地面積2万2200平方メートル)の建設を承認した。
スターマー英政権は昨年9月までに建設を承認するかどうか結論を出す予定だった。しかし、香港と新疆ウイグル自治区の人権問題を憂慮する活動家や地元住民の抗議活動が続き、大使館の設計を巡る国家安全保障上の懸念も浮上したため、決定が先送りされていた。
最終決定によると、計画は歴史的建造物の保護に寄与し、ロンドン塔(世界遺産)周辺の景観を改善する「模範的な計画」と評価された。抗議活動による混乱を懸念する声もあったが、警察は歩道上で約500人規模の抗議活動を安全に収容できると判断した。
隣接する通信ケーブルへの影響を懸念する声もあったが、実際に関係先からの反対はなかった。一般に開放される「公共空間」について中国側は外交上の不可侵を主張しないことに同意し、緊急時には英当局が立ち入りできることになった。
大使館移転計画が英中間の外交問題として浮上
中国は2018年、旧造幣局跡地を2億5500万ポンド(約533億円)で購入したが、地元議会が計画に反対。アンジェラ・レイナー副首相(当時)は昨年8月、大使館の建築許可を出す前に一部の図面が黒塗りされた理由を説明するか、黒塗り前の図面を提出するよう求めた。
中国の習近平国家主席は24年8月の電話会談でキア・スターマー英首相に対応を迫ったため、大使館移転計画は英中間の主要な外交問題と位置付けられた。中国側は移転計画が止まっている間、報復措置として在中英国大使館の建て替え計画を止めているとも報じられた。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のアオシェン・プスツァゼリ氏は「大使館と別棟を結ぶ地下トンネルや地下室が設計され、光ファイバーケーブルの盗聴や地下アクセスによる情報収集活動が懸念される。近くにBT(英通信大手)の通信施設や3つデータセンターがある」と指摘。
「用途不明の屋上構造を備えた7階建てのエンバシー(大使館)ハウスはSIGINT(信号諜報)収集用に設計することもできる。スーパー大使館構想は国家安全保障、外交関係、米英を中心としたスパイ同盟、英国内の政治対立を巻き込む複雑な問題」との懸念を示した。
「中国のスーパー大使館計画に媚びへつらうのは愚か」
保守党のジョンソン政権時に首相首席顧問を務めたドミニク・カミングス氏は英保安局(MI5)と秘密情報部(MI6)から「中国がスーパー大使館の地下にスパイセンターを建設しようとしている」と警告されたと主張している。
保守系英紙デーリー・メールは「大使館の地下室が『スパイの地下牢』に転用される恐れがある」と反対キャンペーンを展開した。しかし予測不能なドナルド・トランプ米大統領の復活を受け、スターマー政権は米国、欧州連合(EU)、中国との等距離外交に舵を切る。
大使館建設承認の10日後、スターマー氏は訪中し、習氏との会談を果たした。両首脳は英中の「長期的かつ安定的な包括的戦略パートナーシップ」を発展させていくことで一致した。スターマー氏の訪中は英国首相として8年ぶりだった。
低迷する英国経済を浮揚させるため、中国にすり寄るスターマー政権に対して保守層から厳しい目が向けられる。デーリー・テレグラフ紙には「スターマー氏が中国のスーパー大使館計画に媚びへつらうのは愚か。叩頭外交だ」という読者の意見が寄せられた。
米国を激怒させた保守党のキャメロン政権
英国の中国へのすり寄りは前保守党政権から始まっていた。「英中黄金時代」を高らかにうたい上げたデービッド・キャメロン首相(当時)は16年の欧州連合(EU)国民投票で残留を支持したものの、離脱派に敗れて辞任。これを機に対中強硬派が勢いを増す。
キャメロン政権は米国の忠告を無視して先進7カ国(G7)の中でいち早く中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明して流れをつくり、米国を激怒させた。人民元の国際化を後押しするとともに、中国の原発計画参入にまでゴーサインを出した。
米国の意向に逆らった政権は日本でも英国でもなぜか崩壊する。後継のテリーザ・メイ首相は調印式の数時間前というタイミングでヒンクリーポイントの原発新設計画の最終決定を遅らせた。この結果、中国広核集団(CGN)の持ち分は25・1%に抑えられた。
20年、中国は香港の民主化を抑える「香港国家安全維持法案」を可決。「港人治港(香港人が香港を治める)」「高度な自治」「1997年の返還から50年不変」を国際社会に約束した1984年の英中共同宣言が一方的に反故にされたことから英中関係は極度に悪化する。
中国との関係改善のため起訴が取り下げられたスパイ事件
しかし労働党政権になってスターマー氏は24年11月、リオデジャネイロで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議で習氏と会談、世界の安定・経済協力・クリーンエネルギーへの転換を追求するため「協力する責任」を共有していることを確認。
労働党は総選挙の政権公約で「二国間関係の『監査』を通じ、中国がもたらす課題と機会を理解して、対応する英国の能力を向上させる」と明記した。しかし香港紙「リンゴ日報」創業者の黎智英氏釈放も、中国のウイグル族弾圧を民族浄化と宣言する約束も棚上げされたままだ。
さらに英保守党下院議員が対中政策を議論していた「中国研究グループ」事務局長ら2人が中国側に英国の国益を害する情報を流していたとして公務機密法違反罪に問われた事件は本格公判入りする前に起訴が取り下げられた。
スターマー政権が「中国との前向きな関係を模索」しているからというのが起訴取り下げの理由だった。スパイ容疑に問われたうち1人は習氏の側近で中国共産党中央政治局常務委員(序列5位)の実力者、蔡奇氏と接触していたと報じられる。
スターマー政権に影響力を持つトニー・ブレア元首相は1954年以来の親中団体「48グループ・クラブ」のメンバーだ。英国ではEV(電気自動車)やバッテリー、Eコーマスの中国企業の進出が続く。背に腹は代えられないとは言うものの、節操がなさすぎるとの声も聞かれる。
《しもとまい のぶお》
1948年札幌生まれ。モスクワ留学を経て1978年法学博士(東大)、成蹊大をへて1988年法政大教授。この間、バーミンガム大、ハーバード大客員研究員、朝日新聞客員論説委員、国際政治学会理事長、日ロ賢人会議を兼ね、2019年より神奈川大学特別招聘教授。著作に『ウクライナ戦争後の世界秩序』など約50冊 。
2026年2月16日号 週刊「世界と日本」第2310号 より
ウクライナ戦争後の世界秩序はどうなるのか
法政大学 名誉教授
神奈川大学 特別招聘教授
下斗米 伸夫氏
まるでロシア文学にみる「兄弟殺し」を想起させるようなウクライナ戦争、この2月で開戦5年目となる。実はプーチン大統領もNATOのストルテンベルグ前事務局長も当初は3日で終わるとの想定だった。それは無理筋だったが、軍事介入直後からゼレンスキー大統領の要請で対ロ和平交渉がはじまった。トルコの仲介で4月初めに「中立と領土の棚上げ」方式のイスタンブール和平が事実上合意された。しかしこれに英米首脳が反対、なかでもキーウ(キエフ)に乗り込んだ英国首相ジョンソンが圧力をかけ、プーチン体制の弱体化と転換をめざし、武器供与と引き換えに合意の破棄を迫った。こうして第二次世界大戦後最大の長期戦となった。
冷戦後のNATO拡大とは米民主党の覇権主義、東欧移民票の人気取りが戦略の目的だった。しかし消耗戦となると経済制裁とデジタル戦略が得意な英米政府の想定を超え、体力勝負ではロシア側が有利だ。人口や国力、工業力の差に加え、主戦場のドンバスは事実上ロシア人地域だから、ウクライナを支えたNATO、特に軍事・金融で支援した米バイデン政権には次第に不利となった。
こうして蓋を開けるとウクライナ軍の反転攻勢は失敗、ドンバスなど領土の2割はロシア軍が占領した。この戦争はバイデン大統領の失政と批判するトランプが再登場、「24時間の停戦」を掲げ、敗戦の責任と「損切り」を狙った。こうしてトランプ2・0政権はグローバルな「アメリカの世紀の終わり」(ヨゼフ・ナイ教授)を確認した。
同時に昨年8月にはアラスカで画期的な米ロ首脳会議を開催、ウクライナ和平を画策する。その後昨年末には「国家安全保障戦略」で19世紀のモンロー宣言以来の「西半球」に絞った「ドンロー宣言」を提起した。石油利権をめぐって中南米ベネズエラへ軍事介入、また北極圏でのグリーンランド領有を目指し、さらにキューバやカナダをもトランプ権益に取り込むディールの新戦略を新年から実行に移している。
他方プーチン大統領は支持率8割を維持しているが、あおりを食ったのはゼレンスキー政権だ。4年前の「Tシャツのチャーチル」どころか、2023年反転に失敗したゼレンスキーは昨年5月大統領の任期も切れ、世論上でもライバルの駐英大使ザルジニーにも負けた。EU指導部の支持はつなぎ止めているものの、昨秋からは反腐敗機関の捜査で大統領側近の巨額な汚職が摘発され、芝居仲間の金庫番は海外逃亡、腹心のイェルマーク長官は解任、今年は親米系ブダノフ新長官がその摘発を任せられた。そうでなくとも米共和党政府は金融支援から手をひき、ウクライナは軍事予算も欠く財政赤字、ロシアのエネルギーの攻撃で厳冬なのに停電の危機が襲う。敗北の汚名を避けるため不人気な戦争を続ける。
このことは西側諸国を深刻な分裂危機に追い込んでいる。トランプ政権は仲裁者となって金融支援を断念した。代わって新スポンサーとなったEU諸国は、ロシア政府の凍結資金を担保に900億ユーロのウクライナ支援計画を昨秋に決めた。ところがその原資はベルギーの金融機関が保管するロシア資産であって、戦局で有利なロシアの提訴もあってベルギー政府がEUに抵抗した。
元来はソ連崩壊後の国境紛争が原因だから、EUでも英仏独以外は自己負担の戦争継続に否定的だ。ウクライナ和平後の秩序を「有志連合」軍が「保証」するという戦後和平案も、強力になったロシアが反対している。トランプ政権も消極的、いまや中東欧だけでなく独仏も今年になって対ロ交渉派となったため、英国政府だけが孤立している。
つまりロシアの弱体化を図ってG7が行ったウクライナ戦争は、5年目にはロシアの大国化を促した。対照的に唯一の超大国であった米国も世界でトランプ政権の権威、軍事や経済力は低下した。つまりはE・トッド教授もいう「西側の敗北」となった。NATO本体も今年になってウクライナの対ロ「勝利」戦略を下ろし、生存戦略に転換した。
それだけではない。西側の敗北は、「非西欧」、つまりはインド太平洋地域へのパワーバランスの転換となった。NATOに対抗したロシアの外相プリマコフは、ロシア、インド、そして中国からなる連携戦略を構想した。この印中ロ構想は21世紀には米国の投資会社がブラジル、その後南アフリカをも加えたBRICSという、「非西欧」諸国の緩やかな連携組織を生み出した。その核心は中ロが90年代に作った上海協力機構であった。
ウクライナ戦争の5年の間、基軸通貨である米ドルを武器として使用しだした西側の制裁措置に反発したBRICSは、オイル・マネーにわくサウジアラビアをも巻き込んで拡大した。こうしてUAE、イラン、エジプト、インドネシア、ナイジェリアが正式に参加し、世界人口の四割を擁する機構へと成長し始めている。いまや世界貿易決済でのドル支配も4割以下、人口も1割のG7は少数派となった。
こうしてこの数世紀英米が中心となった「西側」の支配、つまり基軸通貨や海空軍力、工業力、言語などソフトパワーでも圧倒した覇権の構造は、米欧間の分裂と欧州内部利害の不一致をさらけだした。他方2001年にWTOにはいった中華人民共和国は、戦争に勝利しだしたロシア連邦との戦略的同盟関係を深め、インドなどと並んで安全保障面や金融でも世界に伍する力を持った。
米国のミアシャイマー教授は世界が「米中ロの三極支配の時代」となったと指摘するが、欧州はその世界経済でのユーロや軍事力を失いはじめ、安価なロシアのエネルギー資源を利用することが難しくなった。他方中国は電気自動車や宇宙産業、IT等でも米国を凌駕する可能性すら実感される。こうして世界秩序は、第二次大戦後の冷戦やポスト冷戦とは異なる多極世界が浮上、大西洋からインド太平洋に傾斜し、中国やイラン等古い文明国からなる新BRICSがG7と対峙する新たな国際政治経済の構図が浮上してきた。
《ふなばし はるお》
1946年東京生まれ。歴史家。シリウス・インスティテュート代表取締役。著書に『日本経済の故郷を歩く』、『平安人物志』、『笑いの日本史』、『尾形光琳』(飛鳥井頼道名義)などがある。
2026年2月16日号 週刊「世界と日本」第2310号 より
孔孟の国とどう戦うか
シリウス・インスティテュート
代表取締役
舩橋 晴雄氏
江戸時代の儒学者に山崎(やまざき)闇(あん)斎(ざい)という人がいる。朱子学の原理主義者ともいうべき存在で、その学派を崎門と称し、門人六千人を数え、また会津の大守保科正之がその賓師とするなど、勢威を振るった人物である。
その闇斎がある時門人に向って、「もし今中国が孔子を大将とし、孟子を副将とし、何万騎という軍勢を率いて日本を攻めて来たら、孔孟の道を学ぶ我々はどうすべきか」と問いを投げかけた。誰も答えられる者はいない。そこで闇斎は、「我が党の士は身に甲冑を帯び手に武器を取ってこの孔孟軍と一戦し、孔孟を生け捕りにして以て国恩に報ずべきとは思わんか、これこそ孔孟の道である」と説いたのである。(原念(はらねん)斎(さい)『先哲(せんてつ)叢談(そうだん)』)
昨年、高市内閣発足後、その台湾有事に関する国会答弁をきっかけとして日中間は、その交流や通商が制限されるなど、一種の冷戦状態にある。それが直ちに現下のウクライナ戦争のような状態を招来するとは思わないが、様々な頭の体操をしておく必要はあるだろう。そもそも日中関係は、二千年に及ぶ世界最長の独立した国家間の関係であり、そのほとんどの間は平和な関係であったことをまず確認しておきたい。
しかし戦争も何回かあった。筆者はこれを日本から見て、一勝三敗一引き分けとみている。一勝はいうまでもなく日清戦争、三敗の方は唐・新羅の連合軍と戦って敗れた白(はく)村江(すきのえ)の戦い、明と李氏朝鮮の連合軍に破れた文禄・慶長の役、そして、今次の第二次世界大戦における日中戦争の敗北、一引分けは台風襲来によって敵船が一掃された元寇である。
現在日本と中国、単純に人口、版図(はんと)、経済力でみると、人口はおよそ十二倍、版図はおよそ二十六倍、経済力はおよそ五倍となる。仮にこのような国と戦うとなれば、余程の敵失(内乱など)があるか、中国に何倍かする連合軍が組成されるか、あるいはカミカゼのような僥倖(ぎょうこう)を期待する他はないだろう。
孫子十三篇の第一は、計篇である。「計」とははかりつもることで、戦争に当って最も大切なことは、事前に彼我(ひが)の戦争能力をあらゆる観点から分析し総合して勝ち目があるのかないのかを判断することだとしている。だからこそ、
「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」
「算多きは勝ち、算少なきは勝たず」
「勝兵は先ず勝ちて而(しか)る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む」
「戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」
などの名言が出てくる。
ここで思い起されるのが今次大戦の直前に組織された「総力戦研究所」の故事である。各界から若手の俊秀(しゅんしゅう)を集めあらゆる角度からの「計」がなされ、その結果勝はないと報告されたにもかかわらず、当時の政治・軍事の指導者が戦いをしないという決断をする勇気がなかったことが、惨憺(さんたん)たる結果につながった。まさに「敗兵はまず戦いて而る後に勝を求む」そのものとなった。
現在の中国は「中華民族の偉大な復興」をスローガンとして、米国を凌駕(りょうが)する超大国を実現しようとしている。そしてこのところの台湾に対する威圧的な軍事演習、フィリピンやベトナムと係争状態となっている南シナ海の領土問題、戦狼外交と称される過度に攻撃的な外交姿勢など、その覇権主義的な姿勢が露わになっている。
そのような隣国にどう向き合うか。そこで闇斎であればどういうかを考えてみる。
『今中国の行っていることは果して義にかなったことなのか。中国は孔孟という人類史上でも傑出した偉人を生んだ国である。
その教えの基本は仁(思いやり)や義(正しさ)である。仁について孔子は「人を愛すること」とし、義について孟子は「魚(うお)よりも熊(ゆう)掌(しょう)を命よりは義を取る」といっているではないか。
そして貴国ではこの孔孟の教えを全世界に広めようと、孔子学院という学校まで作って活動していると聞く』と、闇斎であったら正論を堂々と説くであろう。ここで孔子学院を例示に上げるのが大事な点だ。孔子学院で孔孟の教えというのは表向きの姿で、実際はスパイ組織の別動隊ともいわれているからである。そして、このような正論には「貴国」もたじろいでなかなか反論できないだろう。
「貴国」が怯(ひる)んだ所で、畳(たたみ)かけるように、『孔子は政治の要諦(ようたい)を「近き者説(よろこ)び遠き者来たる」といっている。近くの者が悦ぶような政治をしていれば、遠くからでも続々と人が集まってくるということだ。現在の力の政治や外交はその真逆の行き方ではないか。これについて孔孟の国としていかに考える』といえば「貴国」は二の句が継げないだろう。
そもそも「貴国」は今でも「孔孟の国」なのか議論のある所だろう。
かつての「批林批孔(ひりんひこう)」運動の印象などが強く、改革解放後は、「向銭看」(金がすべて)と揶揄されることが多いが、孔孟の教えあるいは儒教的道徳を理想とする考え方は、今でも依然として根強く中国人の心に残っていると筆者は考えている。その点を思い起こさせることが、この国の人々と向き合う時に一番大切なことである。
翻(ひるがえ)って現在の我が国に、闇斎のような「孔孟の徒」として、その価値基準に基づいて他者を批判する資格があるのかどうかが最後に問われなければならない。そのためには我が国自体が、孔孟の祖国より遥かに「仁」や「義」を重んずる国とならねばならないし、それができれば最も強力な国防の力となるに違いない。
戦うのは、戦艦やミサイル、ドローンやサイバーだけでない。言論の力もまた戦えるのだ。
《むらた こうじ》
1964年、神戸市生まれ。同志社大学法学部卒業、米国ジョージ・ワシントン大学留学を経て、神戸大学大学院博士課程修了。博士(政治学)。広島大学専任講師、助教授、同志社大学助教授を経て、教授。この間、法学部長・法学研究科長、学長を歴任。現職。専攻はアメリカ外交、安全保障研究。サントリー学芸賞、吉田茂賞などを受賞。『大統領たちの五〇年史』(新潮選書)など著書多数。
2026年2月2日号 週刊「世界と日本」第2309号 より
トランプ大統領の賭け、
高市首相の賭け
同志社大学 法学部教授
村田 晃嗣氏
新年早々に、アメリカがベネズエラを攻撃した。もちより、国際法違反である。だが、眉を吊り上げ、嘆息するばかりが対応でもあるまい。
まず、ベネズエラは人口が2600万人で800万人が海外亡命しており、世界有数の産油国でありながら、経済失政で貧困率が9割に達する。2024年の大統領選挙でニコラス・マドゥロ氏が再選されたが、不正は明かであり、アメリカを含む世界の50カ国が彼の正当性を認めていない(日本政府も、選挙の透明性と説明責任を求めている)。また、同国は二度にわたって石油を国産化してアメリカなど外国資本に甚大なダメージを与え、麻薬の密売でも悪名が高い。
アメリカが隣国を攻撃した以上、ロシアのウクライナ侵略を非難できない、中国に台湾侵攻口実を与える、との意見もある。だが、アメリカはベネズエラを併合しようとしているわけではないし、同国の子どもたちを拉致したわけでもない。ロシアの侵略とは、違法性の程度が異なる。また、アメリカがベネズエラで実施したような電撃作戦を台湾に行い成功する能力は、今の中国にはまだ備わっていない。
ドナルド・トランプ大統領によるベネズエラ侵攻は、デジャブ(既視感)である。
「強権的で腐敗した軍事独裁国から、投票による開かれた民主主義へ移行する動きが封じられたことによって生じる不安定な政治状況のために、アメリカの権益は長年にわたって危険な状況にさらされている」。
これは1989年5月のパナマに関する米国務省の政策覚書の一節である。
同年末に、ジョージ・H・ブッシュ(父)政権下のアメリカはパナマに軍事侵攻し、同国の「最高の政治指導者」(同国議会による)マヌエル・ノリエガ将軍を逮捕して、麻薬密売などの罪状によりアメリカの法廷で裁き、懲役40年の刑を科した。今回と構図は似ているが、異なる点もある。ブッシュ父政権は米州機構と協議し、アメリカの連邦議会とも協議した上で、軍事行動に踏み切った。また、ベネズエラはパナマより10倍も大きい。しかも、大統領逮捕後も、ベネズエラには内務大臣や国防大臣ら大統領派(従って、麻薬組織と繋がった)有力者たちが残っている。いくらノーベル平和賞を受賞しても、国内に権力基盤を持たない野党指導者では、およそ統治できないのである。さらに、ニューヨークの地方裁判所がマドゥロ氏を無罪にする可能性すらある。
そこで、もう一つのデジャブの可能性がある。それは、ジョージ・W・ブッシュ(子)政権によるイラク侵攻である。不十分とはいえ、アメリカは国際連合安全保障理事会決議に基づいて武力行使し、やはり、イラクのサダム・フセイン大統領を逮捕した(のちに、イラク国内の裁判で死刑)。だが、イラクの民主化は容易ではなく、駐留する米軍はテロに悩まされて、アメリカは国力を損耗していった。もとより、ベネズエラはイラクよりもはるかにアメリカ本土に近いが、民主化は容易ではなく、国内が混乱すればアメリカにとって大きな負担になりかねない。
では、正当性に乏しくリスクの高いベネズエラ侵攻に、なぜトランプ大統領は踏み切ったのか。長期的には、石油利権などを確保し、中南米から中国やロシアの影響力を排除する意図があろうし、短期的には、11月に迫った中間選挙に向けて、支持率の向上を期待してのことであろう。
中国の影響力は、ベネズエラをはじめとする中南米諸国に広がっている。グリーンランドなど北極圏にも、中国やロシアの勢力が跋扈している。しかも、中ロはしばしばエネルギーや資源を外交の武器に用いている。こうした大国間競争で優位に立つべく、西半球で足場を固める―これがトランプ大統領の基本的な発想であろう。だが、グリーンランドをめぐって北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるデンマーク、さらにヨーロッパ諸国と対立すれば、同盟の終焉に至りかねない。ヨーロッパ諸国が北極海の安全保障により積極的に関与することで、危機の「時間稼ぎ」をしてもらいたい。また、アメリカが西半球を支配するのと交換条件で、アジアを中国に、ヨーロッパをロシアに委ねるのではないかとの懸念もある。だが、アメリカの西半球政策は大国間競争を前提にしており、アジアやヨーロッパでの影響力を失っては、大きなゲームで敗れることになる。アジア太平洋の戦略的な重要性を、日本はアメリカに対して説き続けなければならない。
米国内では、中間選挙が迫っている。トランプ最大の弱点は持ち時間の少なさである。彼にはあと3年しか残されていない。しかも、国内の物価は高騰し、庶民の「アフォーダビリティー」(なんとか生活していける余裕)は確実に低下している。中間選挙では、大統領の与党が敗れるのは、アメリカ政治の定石である。3分の1改選の上院はともかく全員改選の下院では、野党の民主党が多数を奪還するかもしれない。そうすれば、トランプ大統領は予算を人質にとられ、可決はしないにしても、三度目の弾劾という屈辱を味わうかもしれない。大統領の高齢化とともに、求心力は低下していこう。とすれば、トランプ大統領の持ち時間は3年どころか、あと10カ月足らずと言えるのかもしれない。しかも、ベネズエラ侵攻が長期化して混乱すれば、大統領の支持率はさらに下落しよう。実際、アメリカ世論の相当はすでに今回の侵攻に批判的、懐疑的である。ポスト・トランプのアメリカを視野に含めて、アメリカの世論に働きかけていく努力も必要であろう。
さて、日本では高市早苗首相が衆議院の解散を表明した。自由民主党が衆議院で単独過半数を回復すれば、政権の安定度は増す。3月の日米首脳会談に向けての賭けであろう。自民党総裁としての高市氏の任期は、来年9月末までである。だが、衆議院総選挙で勝利して、日本維新の会との連立をさらに強固にできれば、総裁再選が見えてくる。そうすれば、高市政権は5年続き、ポスト・トランプのアメリカと向き合うことになる。日米関係も正念場と言えよう。
《かわぐち まーん えみ》
85年シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。共著に『原子力はいる?いらない原発大国フランスと脱原ドイツ』(ワニブックス・山口昌子)最新刊は『移民難民』ドイツからの警鐘(グッドブックス)など著書多数。
2026年1月19日号 週刊「世界と日本」第2308号 より
ドイツの「自由落下」の
巻き添えになった子供たち
作 家
川口 マーン 惠美氏
BDI(ドイツ産業連盟)の会長、P・ライビンガー氏によると、産業国ドイツは現在、「自由落下」状態だそうだ。つまり、ドイツの産業立地としての価値が、あたかも重力の法則に従うかのように、何の抵抗もなく垂直に転落中という意味。「ドイツ連邦共和国始まって以来、最大の危機」なのだ。
ここまで落ちぶれた最大の原因は、エネルギー政策と移民・難民政策の失敗であるが、それを言うと(新旧を問わず)ドイツ政府の破産宣告のようになるため、政治家も主要(公共御用)メディアも絶対に言わない。メルツ首相(キリスト教民主同盟)は、総選挙前は「原発の再稼働」や「不法難民の入国拒否」を謳って国民の支持を集めたが、2月末に選挙が終わった途端、そんなものは無かったことに。そして、その後は政権樹立のために社民党に擦り寄り、連立協定書からは「原発」の字を削除、国境もいまだに開きっぱなしだ。だから今、ドイツの電気料金はおそらく世界一高く、難民は一度入ってしまえば、違法であろうが、なかろうが、誰も出ていかない。しかも彼らには、“人間としての尊厳”を保つための衣食住が厳と保証されている。
ミュンヘンの著名な経済調査機関ifo の前長官は、「ドイツは税金を納めておらず、今まで納めたこともない人たちをあまりにも多く養いすぎている」と言っていたが、福祉国家がここまで肥大すると、当然、国庫は干上がり、地方自治体も軒並み破産状態だ。年金や医療保険も破綻は時間の問題で、気の毒なのは納税者。元々さほど裕福でもないのに高額の税金をむしり取られ、さらに、倒産、あるいは企業の国外移転といった荒波を真っ先に被る。それにより、納税者はさらに減るわけで、かつて優秀だった技術大国はやせ細る一方。そして、この失政の巻き添えになっているのが、実は子供たちなのだ。
12月の初め、ヘッセン州の教員組合が州の文科省に緊急の要請書簡を提出した。書簡には同州の小学校の約1100人の教員が署名している(教育は国ではなく州の管轄)。ドイツは連邦制なので州の権限が強く、各州には州の内閣があり、州首相がいて、大臣がいる。ヘッセン州は、欧州中央銀行というEUの金融の中枢、および世界有数のハブ空港、フランクフルトを抱える州だ。そこで今、1100人の教員がSOSを発している。
ただ、教師が直面している問題は、本来の教育とは別物だ。第一に、新入生の多くがドイツ語を理解できない。鉛筆を持つ、ハサミやノリを使う、靴紐を結ぶなどという、これまでの子供が小学生で普通に習得できたことも、いつまでもできない。また、保育園にも幼稚園にも行っていないので、規則が守れず、片付けもできない。信じ難い話だが、教師の手を借りずにお手洗いを済ますことさえできない子供がいる学校さえ、少なからずあるらしい。トイレットペーパーの使い方がわからないのだ。
ドイツや日本では想像しにくいが、世界にはトイレに紙のない国は結構ある。たとえばバルカンの国のトイレには、たいてい水の入った巨大なバケツが置いてあったし、ギリシャでは紙はあっても流せず、「使用後はゴミ箱に捨てるように」と、“無知な”旅行者に対する警告が貼ってあった。ギリシャでもこうなのだから、その他の国は言わずもがな。多様化を誇ってあらゆる国から無制限に移民・難民を入れてきたドイツでは、それが生活に及ぼしている影響も今や多様になっている。
その結果、学校で何が起こっているかは容易に想像できる。ドイツ語がわからなければ集中力は続かず、じっと座ってもいられない。おかげでドイツ人の学力は、OECDの学力テストによると、現在、平均水準に達していない。ちなみに、ドイツの国家予算に社会保障費が占める割合は41%でEUの平均を上回る。しかし、教育費は9・2%で平均以下。ここ20年、教育費を極端に削ってきたのがドイツだった。
教育というのは、国家にとって重要な要素だ。40数年前、ドイツに暮らし始めた頃、日独の教育事情は似ていると感じた。どちらも初等教育がしっかりしており、自然科学に関しては、高校までに習ったことの内容や程度もほぼ同じだった。
初等教育を受けていない人のたくさんいる国では、安い労働力は豊富に得られるが、理想的な発展は望めない。良い国家を運営する上での重要、かつ不可欠な要素は、秀才が何人いるかではなく、国民全体の学力の底辺がいかに高いかだ。高度な社会ほど複雑な分業になっており、分業の末端にいる人たちの能力が揃っていないとシステム全体にロスが多くなる。
その点、日本とドイツでは、普通の人がいわゆる「読み書きそろばん」がちゃんとできた。おそらくそのせいで、この両国では正義や平等の観念も似通っており、民主主義もおおよそ機能していた。ところが今では、人手不足もあって、ドイツ語を満足に理解できない人が郵便を配達している。
しかもドイツは何年も前から深刻な教員不足で、現在、全国の小学校で、正規の教員が3・5万人も足りない。特にヘッセン州は深刻で、小学校の授業が歯が抜けたように休講となることが日常茶飯事。教員免状のない人間まで駆り出しているが、改善できていない。
ところが、州はこの教育現場の窮状を直視せず、現場への支援どころか、予算を削るという暴挙に出たため、ついに教員の堪忍袋の緒が切れたわけだ。教員連合の副会長で、今回の抗議の主導者であるH・アッカーマン氏は、自身も小学校の教員だが、インタビューで「責任は政治にある」と言い切った。悪いのは、授業の邪魔をする子供でも、その子供を学校に送り込む親でもなく、こんなことになるまで放置した政治である。つまり、できる生徒もできない生徒も教員も、「皆、犠牲者だ」と。
ドイツ語を介さない生徒が学級に2?3人いてもそれほど支障はないが、半分を超えるとそうはいかない。ところが今や、新入生の8割が片言のドイツ語しか理解しないという学校さえあり、多くの教員は日々の問題解決に足を取られ、本来の教育には携われないまま、政治がやるべきだった「統合」や「民主主義教育」の後始末に追われている。
実は2010年、この状態を警告した人がいた。政治家でもあり、ドイツ鉄道やドイツ連邦銀行の理事も務めたティロ・ザラツィン氏が、移民の極端な増加によって教育が崩壊し、その挙句、知的水準が低下するとした警告の書を上梓し、大スキャンダルとなった。氏は差別主義者として激しく弾劾され、仕事は首になり、長年所属していた社民党からも追い出された。しかし、15年後の今、ドイツはまさに氏の言った通りになってしまった。思えば、氏は憂国の士だったわけだが、政治は何の反省も見せていない。
公立の学校が機能しないとなると、豊かな人々は私立を選ぶようになる。つまり、教育の崩壊は、最終的に階級社会をもたらす。これまで公立の学校が機能し、私立などほとんどなかったドイツだったのに、なんともったいないことか。教育システムの崩壊は、国民の重要な財産の喪失である。
移民の問題は経済を疲弊させるだけではない。ドイツではイスラムテロを恐れてクリスマス市さえ満足に開催できなくなっており、伝統や文化の喪失でもある。これら諸問題を抱えているのはドイツのみならず、フランスも英国も北欧も同様だ。なのに今になって日本の施政者が無思慮に移民を入れようとしている理由がわからない。エネルギー政策はその気になれば修正できるが、移民政策は修正できない。
今後、日本がドイツと同じく「自由落下」するとすれば、それは武力による侵略ではなく、移民の増大で起こる文化侵略と教育の崩壊によるものだ。「でも、今ならまだ防げる!」と、私は声を大にして言いたい。
《にしの じゅんや》
1973年生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程修了、2005年、韓国・延世大学大学院政治学科博士課程修了(政治学博士)。専門分野は東アジア国際政治、現代韓国朝鮮政治、日韓関係。慶應義塾大学法学部専任講師、同准教授を経て現職。共著書に『戦後アジアの形成と日本』、『朝鮮半島と東アジア』、『アメリカ太平洋軍の研究』など。
2026年1月19日号 週刊「世界と日本」第2308号 より
2026年日韓関係の課題と展望
慶應義塾大学 法学部教授
朝鮮半島研究センター長
西野 純也氏
李在明政権の発足以降も日韓関係は安定的に推移してきた。李大統領は2025年6月就任直後の記者会見において、日本とは「協力すべきことは協力し、整理すべきことは整理し、できれば懸案を混ぜないようにしたい」旨を表明したし、「国家間の関係は一貫性、政策の一貫性が特に重要」とも述べて前政権からの継続性を重視する姿勢を明らかにした。そして、最初の二国間外交の訪問先として日本を選び、2025年8月には石破首相(当時)との間で、17年ぶりとなる首脳間の共同文書「日韓共同プレスリリース」を発出した。同文書では、(1)戦略認識の共有強化、(2)未来産業分野での協力拡大及び共通課題への対応、(3)人的交流の拡大(ワーキングホリデー拡大含む)、(4)北朝鮮問題での協力、(5)日米韓協力の強化、の5項目で合意がなされた。
高市早苗政権の発足後、李大統領は即座に就任祝いのメッセージを発出して、「かつてないほど国際情勢の不確実性が高まる中、韓日関係の重要性も一段と増している」との認識を示し、シャトル外交を通じて両首脳間で頻繁に意思疎通を行いたいと表明した。一方、高市首相も就任会見で、「韓国は日本にとって重要な隣国であり、国際社会の様々な課題に対応するためにも必要なパートナー」と強調し、日米韓3カ国協力を安全保障と経済安保の両面から戦略的に進める意向を示した。25年10月の慶州での日韓首脳会談は友好的な雰囲気で行われ、高市首相は会談後の会見で、「隣国ゆえに立場の異なる諸懸案はあるが、これらを自分たちのリーダーシップで管理していく」と述べた。李大統領も慶州APEC終了後の記者会見で、「高市首相は非常に立派な政治家だ」と評価し、次回首脳会談の場所として高市首相の地元である奈良を希望するなど、良好な個人的関係の構築にも意欲を見せた。年初にも予定されるシャトル外交により、2026年も日韓関係は良好なスタートを切ることが見込まれる。
しかしながら、良好かつ安定的な日韓関係を維持するためには、次の事項に十分留意して臨む必要がある。
第1に、国内政治とのバランスである。日韓関係は外交問題であると同時に、国内政治との関係性を考慮に入れて慎重に対応せざるを得ない政治的な問題でもある。韓国では26年6月に統一地方選挙が予定されており、事実上の国政選挙として与野党の政治対立が激化することが予想される。李大統領の支持基盤である進歩勢力からは、対日姿勢が寛容すぎるとの批判的見方も出ており、韓国政治情勢の中で李政権の対日政策に変化があるか注視したい。日本の保守政権と韓国の進歩政権という組み合わせの下で持続的な協力関係を構築できるのかどうか、長期的な観点から日韓関係を考えると、今は大変重要な時期である。
第2に、日韓両国の外交戦略の違いである。高市政権が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」と、李政権が推進する「国益重視の実用外交」の間には、突き詰めれば相違が存在する。自由主義国際秩序という価値を重視する日本外交に対し、李政権の外交は実利を重視するがゆえに、特定の価値に対するコミットは相対的には強くない。よく言えば、状況に応じて柔軟性を発揮できる外交だが、うがった見方をすれば一貫性維持の担保が十分ではないということになる。日本の立場からすれば、日韓両国の発展と繁栄の基盤を提供してきたインド太平洋地域のルール・規範に基づく秩序を、韓国とも協力して維持、発展させていくことが望ましい。この観点から今後注目すべきは、韓国がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への加入申請をするかどうかである。李大統領は加入申請に前向きな姿勢を見せているが、そのためには農産物や福島産水産物の輸入問題など国内政治上の調整が欠かせない。
第3に、日米韓3カ国協力の維持・発展である。大統領選挙時の公約でも示された通り、李政権は経済安全保障に強い関心を示しており、その点からサプライチェーンの強靱化や重要鉱物調達などでの日米韓協力の進展が見込まれる。一方、軍事安保面では、すでに対北朝鮮抑止力・対処力のための協力をここ数年の間に積み上げてきた。具体的には、(1)北朝鮮ミサイル警戒データのリアルタイム共有、(2)共同演習「フリーダム・エッジ」の実施、(3)サイバー活動に対する取り組み強化を上げることができる。李政権が朝鮮半島の軍事的緊張緩和、南北対話の再開を目指す中で、定例化されつつある日米韓の共同演習や協議が引き続き行われるのかが、今後の注目点となる。
最後に留意すべきは、対中国、対北朝鮮政策の調整である。2026年の早い段階で李大統領の訪中が見込まれており、中韓関係は改善基調で推移していく可能性が高い。李政権は米韓同盟を基軸としつつも、「実用外交」の観点からバランスある外交も志向しており、対中関係の改善にも意欲的である。一方、日中関係については厳しい情勢が続くことが予想され、対中政策に関して日韓の路線が異なる場面が出てくるはずである。対北朝鮮政策についても、もし北朝鮮が米国との対話に臨むようなことがあれば、李政権は南北関係の改善を目指してより積極的な関与政策の展開を試みるであろう。そうなれば、核問題で原則的なアプローチをとる日本の政策との乖離が生じざるを得ない。
以上の課題に対処するため、日本は韓国との間で、首脳シャトル外交や当局間対話、議員外交などあらゆるチャンネルを活用してコミュニケーションを一層密にすべきである。
歴史問題については、高市首相が述べたように両指導者が自覚的に管理する一方、日韓の政策路線(特に対中国、対北朝鮮)の違いが日韓の対立へと発展しないように絶えず調整をしていくことが、2026年の日韓関係にも求められる。
《いとう とおる》
1969年広島県生まれ。中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程後期単位取得退学、博士。在インド日本国大使館専門調査員、島根大学法文学部准教授等を経て2009年より防衛大学校。2021年4月より現職。『新興大国インドの行動原理―独自リアリズム外交のゆくえ』、『インドの正体―「未来の大国」の虚と実』など著作多数。
2026年1月19日号 週刊「世界と日本」第2308号 より
2026対米不信と印米関係の危機
防衛大学校 教授
伊藤 融氏
インドと米国の関係にとって2025年は大きな転換点の年として記憶されることになるかもしれない。思い起こせば2000年3月、当時のクリントン大統領が米国大統領として22年ぶりとなる歴史的訪印を果たした。以来、四半世紀にわたって米国の歴代政権は党派を超えて、インドを最も重要な戦略的パートナーと位置づけ、外交、安全保障、経済関係を緊密化してきた。ソ連寄りの「非同盟」という冷戦期の経験が長く、米国への傾斜には抵抗感もあったインドだが、たとえばマンモーハン・シン前国民会議派政権は左翼政党の閣外協力を犠牲にしてでも、ブッシュJr.政権との間で民生用原子力協力協定を締結した。2014年からのモディ政権の下では、基地の相互利用を可能とする協定や相互運用性向上のための通信互換性保護協定、機密扱いの地図や衛星画像を共有する協定といった軍事面での協力、さらにはインド太平洋における日米豪印(クアッド)枠組みへの参画をはじめとした外交面でも米国との協調路線が鮮明になった。
しかし今、印米関係はかつてない危機を迎えている。もちろんこの25年間も両国関係に暗雲が垂れ込めたことはあった。2013年末にニューヨークで起きたインド人外交官の逮捕、2023年に浮上したインド諜報機関による米国籍者への標的殺害計画疑惑などだ。しかしこれまでは印米関係の重要性に鑑みて、双方ともが生じた摩擦のプレイダウンと解消に努めてきた。その結果、間もなくすると関係は正常化して緊密化基調に戻るというのが定番であった。
今回はどうも違うようだ。昨年5月以来、印米関係は冷え込んだままで、関係回復の意思が窺えない。両首脳は電話では数度会談したものの、対面では会談どころか、多国間会談での同席の機会すらない。モディ首相はトランプ大統領の参加した国連総会ハイレベルウィークやASEAN関連の首脳会議を欠席する一方、トランプ氏が欠席したG20首脳会議には出席するなど、会うことすら避けているようにみえる。
なぜこんなことになったのか。発端は、いわゆるトランプ関税そのものではない。4月に発表された「相互関税」にインドは他のどの国よりも冷静な反応を示し、2月のホワイトハウスでの首脳合意に基づき、2025年秋までの貿易協定締結に向けた交渉を続けた。両国関係の潮目が変わったのは、5月のインド・パキスタン(以下「印パ」)交戦だ。インド側カシミール・パハルガムで、パキスタンに根拠地をもつ過激派組織によるとみられるテロ事件が起きたのを受け、インドはパキスタンのテロ拠点を標的とした「シンドゥール作戦」を開始。パキスタン側はこれに反撃し、両軍の戦闘が激化した。ところが、4日目にトランプ大統領が突如自身のSNSで、印パが「米国の仲介で、完全かつ即時の停戦に合意」と投稿。印パも戦闘停止の事実を認めた。
停戦実現におけるトランプ大統領の役割を即座に認め、その功績を讃えたパキスタンとは対照的に、インドはトランプ氏の関与を真っ向から否定した。インド側のナラティブ(物語)は、我々の軍事攻勢を前にパキスタン側が戦闘停止を申し入れてきたにすぎない、というものだ。ところが、ノーベル平和賞受賞への野心を隠さないトランプ氏はその後も自身が印パの戦争を止めたとの主張を国内外で繰り広げた。結果、前政権期にモディ氏との間で築いたはずの親密な個人的関係は破綻してしまった。トランプ氏はモディ首相と入れ違いとなった6月のカナダG7サミットの際の電話会談でモディ氏に、ホワイトハウスに立ち寄るよう招待したものの、同様に招かれていたパキスタンのムニール陸軍参謀長と同席させられることになると察知して招待を固辞したとされる。以降、しばらくモディ氏はトランプ氏からの電話にすら応じなくなった。
モディ首相の頑なな姿勢にトランプ大統領も苛立ちを強めた。大統領選中から公言してきたロシア・ウクライナ和平が思い通りに進まないなか、ロシア産原油の購入を続けるインドを標的としたのだ。7月末に発表した新課税リストでは多くの国の関税が引き下げられだが、インドは引き下げどころか、「ペナルティ」としてさらに25%が上乗せされ、ブラジルとともに計50%という最も高い関税を課されることとなった。さらにトランプ氏はインドとロシアを「死んだ経済」と嘲笑し、側近のナヴァロ上級顧問らもインドに対する侮辱的発言を浴びせた。インド以上に多くのロシア産原油を購入してきた中国にはそのような懲罰関税が見送られたこともあり、インド国内でトランプ政権の米国に対する不信感と憤りの声が広がったのは当然である。
事ここに至って、関税・貿易交渉であれ、ロシアとの関係であれ、自他ともに認める「強いリーダー」のモディ首相としては、もはや米国への譲歩はできなくなってしまった。結局、貿易協定締結どころか、50%関税引き下げの見通しも立っていない。ロシア産原油の輸入額が減少傾向にあるのは確かだが、それはそもそもトランプ政権発足前からのもので、リスク回避のための調達多角化戦略とみるべきであろう。制裁を科されていないロシア企業との取引は継続しており、ロシアからの原油購入がゼロになるとは考えにくい。12月、4年ぶりとなる訪印を果たしたプーチン大統領をモディ首相は空港で出迎え、そのまま同じ車に乗って首相公邸で歓待してみせた。米国の圧力には屈することなく、戦略的自律性を今後も維持していく姿を国内外にアピールした格好だ。
悪化する印米関係は日本とオーストラリアを含むインド太平洋の枠組みにも暗い影を投げかけている。2025年内にインドで開催されるはずだったクアッド首脳会合は、日程に関する議論すらないまま見送られた。10~11月のアジア歴訪でトランプ大統領はクアッドに一度も言及せず、その代わりに習近平国家主席との個別会談後に米中「G2」実現の可能性に触れるなど、対中戦略的連携へのコミットには関心が薄いのではないかとの疑念がくすぶる。
たしかに12月に発表された米国の国家安全保障戦略(NSS)には、「クアッドを通じ、インドがインド太平地域の安全保障に貢献するよう促す」との文言はみられる。しかしインド国内では、いまや米国にとってインドはかつてのような本質的パートナーではなく、地域の安定を実現するための勢力均衡の「手段」としてしかみなされていない、との認識が支配的である。
バイデン政権期に進展したクアッドでの経済安全保障協力も、もはや行方が怪しくなりつつある。NSS公表直後にトランプ政権は、半導体やAIなど先端技術のサプライチェーン同盟、「パックス・シリカ」を発足させた。米国以外に、日本、韓国、シンガポール、オランダ、英国、イスラエル、アラブ首長国連邦、オーストラリアが参加するとされたものの、インドはここから除外されたのである。クアッドはかつてない危機を迎えている。
「自由で開かれたインド太平洋」という理念と、それを支える中核枠組みとしてのクアッドへの米国の関与の後退は一時的なものだろうか。日本ではトランプ氏という属人的な要素を強調し、トランプ後には再び同盟国、友好国との協調を重視した本来の「米国」が戻ってくる可能性に期待をかける向きが強いようだ。これに対し、インドの有識者の大半はより悲観的である。米国が自国第一の内向きの国となるのは不可逆的傾向であり、米国を中心とした戦後のリベラルな国際秩序も崩壊へと向かうのは不可避との認識である。
しかしインドは「秩序なき世界」、ジャングルのルールが支配する国際関係の到来をただ嘆いているわけではない。そうしたなかでも、いかにプラグマティック(実利的)に行動して、国益を最大化するかという議論が始まっている。欧州・中東諸国、日本、またグローバルサウス諸国などとの関係強化による多連携外交を推進しつつ、特定の大国への依存を避ける戦略的自律外交を模索することとなろう。
我々も頭の体操はしておいたほうがよさそうだ。
《みまき せいこ》
2003年東京大学教養学部卒、同大大学院総合文化研究科で博士号取得(学術)。早稲田大学助手、米ハーバード大学、ジョンズホプキンズ大学研究員、高崎経済大学准教授などを経て2025年より現職。著書に『戦争違法化運動の時代』(名古屋大学出版会)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版)、共著に『自壊する欧米―ガザ危機が問うダブルスタンダード』(集英社)、『アメリカの未解決問題』(集英社)等。
2026年1月5日号 週刊「世界と日本」第2307号 より
対中競争での米トランプ政権の立ち位置は
同志社大学 大学院教授
三牧 聖子氏
発足以来、高い支持率に支えられてきた高市早苗首相が外交面で難しい舵取りを迫られている。発端は国会における高市首相の答弁だった。11月7日、衆院予算委員会で日本が集団的自衛権を行使できる存立危機事態の具体例について立憲民主党の岡田克也元外相から説明を求められ、首相は、「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と答弁した。台湾問題を「核心的利益」と位置付ける中国政府の反応は激烈だった。薛剣駐大阪総領事が「汚い首は斬ってやる」とSNSに投稿した(現在は削除)。中国外務省は日本渡航の自粛を求め、尖閣諸島近海では中国の艦船が確認されている。中国軍機関紙・解放軍報は16日掲載の評論で、日本が台湾海峡に介入すれば「(日本)全土が戦場になり果てるリスクがある」と威嚇した。
高市首相は、「対話を通じてより包括的な良い関係をつくっていく」と、中国との対話にオープンな姿勢を見せているが、日本が1月前半の日程で計画していた日中韓首脳会談に、中国は参加しない旨を通告している。関係打開の糸口が見出せないまま、日中関係の悪化は長期化の様相を呈してきた。首相が答弁を撤回すれば「台湾問題は存立危機事態になり得ない」と認めることになり、将来のリスクになりうる。世論調査では「首相は発言を撤回する必要はない」との意見が多数派で、首相の支持率も7割超の高水準を維持している。首相が中国に対して歴代首相よりも踏み込んだ発言をしたことを歓迎する向きも強い。習近平国家主席は、高市首相にとって発言撤回が難しいのも織り込み済みで、日本への経済的威圧を強めているとみてよいだろう。
懸念されるのが米トランプ政権の動向だ。高市首相の発言後、グラス駐日大使などからは強力な日本支持が打ち出されたが、トランプ大統領からの明示的な支持はなかった。それどころか発言から数日後、FOXニュースに出演したトランプ大統領は、高市首相の国会答弁と中国側の反発について一連の経緯を説明された上で、中国は友人かと尋ねられ、「同盟国は中国以上に貿易で我々を利用してきた。多くの同盟国も友人とは言えない」と中国批判を避け、むしろ同盟国を批判する態度をとった。
さらにトランプ大統領は11月24日、習国家主席と電話会談を持ち、その翌日に高市首相との電話会談を行った。報道によれば、習国家主席は1時間の電話会談の半分を費やして台湾をめぐる中国の歴史的な主張を展開したという。トランプ大統領との電話会談で日中関係に関するどのようなやりとりがあったのか、高市首相の口からは明らかにされなかったが、関係者によれば、トランプ大統領は高市首相に対し、「中国が反発を強める中、事態を沈静化させていかなければならない」との認識を示したという。トランプ大統領は高市首相の発言の撤回こそ求めなかったが、発言を発端とした日中関係の悪化は望ましくないものと考えている。
そこにあるのは厳しい国内事情だ。1年後に中間選挙が迫る中、物価高は収まらず、トランプ政権の関税政策への不満は確実に高まっている。政権の経済政策への支持率も3割台に低迷し、11月初頭の地方選でも州知事選やNY市長選など重要な選挙の勝利を民主党に許した。中国への農産品の輸出が止まったことで農家、とりわけ大豆農家は大打撃を受けている。トランプ大統領としては、10月に行われた米中首脳会談でようやく勝ち取ったレアアースの輸出規制の1年延長や、米国産農作物の対中輸出の拡大といった成果を手放すわけにはいかない。習国家主席との会談後、トランプ大統領はSNSへの投稿で、中国が農作物を大量購入することへの期待を表明し、「我々と中国との関係は極めて強固だ!」とうたいあげた。
今後しばらくは、米中の緊張緩和モードは続くだろう。トランプ大統領は来年4月、習国家主席の招きで北京を訪問する予定だが、その後は習国家主席を国賓待遇で米国に招くとも表明している。多国間会議などもあわせると、2026年にトランプ大統領と習国家主席は合計4回、顔をあわせる見込みとなっている。価値よりも実利を優先するトランプ大統領は、中国を強権的な人権蹂躙国家とは必ずしも見ていない。先日の米中首脳会談後、SNSに「G2会談は非常に有意義だった」と投稿したことが示すように、米国とともに世界秩序を主導していく大国とみなしている節すらある。これまで米大統領が公に米中関係をG2と表現した例はほとんどない。政治体制や基本的な価値観を共有していない中国を、同盟国より優遇しているかのような含意を持ちうるし、米中の力関係が今や並び立っていると認めることにもなりかねないからだ。G2に言及したトランプ大統領の真意は不明だが、米中という大国が互いの勢力圏を認め合うような関係を含意している場合、日本にとっては不安要素となる。
12月初頭、2期目のトランプ政権では初となる「国家安全保障戦略(NSS)」が発表された。安保政策の中核となる文書だ。「アジア・ファースト」を掲げて対中抑止戦略を重視するコルビー国防次官らの路線よりも、対外関与一般に否定的なバンス副大統領らの路線が強く反映され、対中抑止よりも米国の本土防衛や西半球が優先された内向きの内容となった。米露への警戒感も薄まった。事実、トランプ政権の1年間で米兵が動員されたのはもっぱら、不法移民の強制送還や治安問題、ベネズエラからの麻薬流入の阻止など「国内課題」に対してであった。
日本外交が直面している難問は中国だけではない。国際秩序や「法の支配」といった原理原則の問題をいよいよ放棄し、中国やロシアとともに「力の支配」に加担しつつある米国もまた、日本の前に立ちはだかる大問題となりつつある。日米同盟は日本外交の基軸だが、それが今後も変わらず続く保証はどこにもない。2026年は日本外交の覚悟を問う試練の年になる。
《あびる たいすけ》
1969年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、モスクワ国立国際関係大学修士課程修了。東京財団研究員、国際協力銀行モスクワ事務所上席駐在員を経て現職。専門はユーラシア地政学、ロシア外交安全保障政策、日露関係。著書に『「今のロシア」がわかる本』、『原発とレアアース』。監訳本に『プーチンの世界』がある。
2026年1月5日号 週刊「世界と日本」第2307号 より
プーチン・ロシアが描く
ロ米中3カ国関係と日本への含意
笹川平和財団 上席研究員
畔蒜 泰助氏
2022年2月にウクライナでの戦争が勃発してから間もなく4年が経過しようとしている。その間、ロシアは西側諸国からのかつてない規模の経済制裁を課された。その結果、政治・経済両面においてロシアの中国への依存度は着実に高まっている。
去る12月9日、中国軍とロシア軍の爆撃機が、東シナ海から四国沖の太平洋までの上空を共同で飛行したことが確認された。防衛省によると、中ロの共同飛行が四国沖の太平洋上空まで至ったのと、中国軍の空母が太平洋に展開中に実施されたのはいずれも初めてという。高市首相の「台湾有事」を巡る国会答弁がその背景にあるのは容易に想像がつくが、このような政治的問題でロシア軍が中国軍と行動を共にするのは、現状の中ロの力関係を示唆する最新事案と言えるかもしれない。
一方で、2025年11月、米トランプ政権内で親ロシア派を形成するスティーブン・ウィトコフ大統領特使と同大統領の女婿ジャレド・クシュナーの2人が中心となり、ロシア側のカウンターパートであるキリル・ドミトリエフとも緊密に連携して、ウクライナ戦争の停戦・和平を巡る新たな「28項目の和平案」を作成していることが明らかになった。
その内容は、ウクライナの主権の確認や同国への安全の保証の供与などが明記される一方、ウクライナは憲法改正してNATO加盟を放棄すること、NATOもウクライナを加盟させないように規定を改定すること、停戦和平後もNATO軍はウクライナ領内に駐留させないこと、ウクライナ軍の規模を60万人までに制限すること、ウクライナと米国はクリミア、ルガンスク、ドネツクは事実上、ロシア領として承認し、ヘルソンとザポリージャは現在の戦闘ラインで戦闘を凍結し、その接触点を事実上の国境として相互に承認すること、ロシアへの経済制裁の解除や米ロの長期的な経済協力など、プーチン政権側の要求が最大限に取り入れられたものだった。
米国内には、トランプ政権がロシアとの関係正常化を目指すのは、中国とロシアの関係を分断する「逆キッシンジャー戦略」を狙っているからだとの見方もある。プーチン・ロシアは自らに有利な形でウクライナ停戦・和平が実現した暁には、どのようなロ米中3カ国関係を描いているのか?
ロシアがBRICS議長国に就任する直前の2023年12月27日に露外務省ウェブサイト上で公表された「ロシアの世界多数派への政策(Russia's Policy towards World Majority)」と題した政策レポートがある。執筆者は、ロシア大統領府が事実上管轄する「ヴァルダイ討論クラブ」の創設者で、最近ではロシアの核ドクトリン改定を巡る議論に主導的役割を果たしたセルゲイ・カラガーノフを含む3名である。この中に次のような部分がある。
・ロシアは中国と独自の戦略的パートナーシップを結んでいるが、これは形式的な同盟関係とは異なり、上下関係や確固とした約束を排除したものである。現代の状況において、中国とロシアは互いにとって最も重要な地政学的、地経学的、軍事戦略的資源である。中国とのさらなる接近は、両国の内的な必要性だけでなく、ロシアとアメリカの関係、そして中国とアメリカの関係の力学によっても必要である。同時に、それらに大きく左右されるべきではない。米国は、「二正面戦争」を避けるために、両方の敵を一人ずつ打ち負かすことを望んでいる。
・中国が戦略的自律を達成すれば、長期的にはロシアとの関係に対する関心を部分的に失うかもしれないという懸念がある。したがってロシアは世界の主要国との関係を多様化し、最終的には可能な限り西側諸国との関係を正常化する必要がある。だが、それはすぐには起こらないだろう。
まず、この政策レポートがトランプ政権の誕生前に発表されたという点を考慮に入れる必要があろう。米国との関係改善を優先して、中国との関係を犠牲にするべきではないとの警告はその通りであろう。ただ万一、米国がインド太平洋地域への戦略的な関与を弱め、中国が戦略的自律を達成するような状況が生まれた場合、中国はロシアへの関心を失うかもしれず、その時に備えて、可能な限り世界各国との関係を多角化し、最終的には西側諸国との関係も正常化させる必要があると指摘しているのは注目に値しよう。
では、トランプ政権下で米ロ関係の正常化が視野に入ってきている現在、どのようなロ米中3カ国関係が描けるのか?前述の政策レポートの主要執筆者であるセルゲイ・カラガーノフの部下で著名な中国専門家のヴァシリー・カーシンは2025年3月に発表した署名記事の中で概要、次のように述べている。
・ロシアが米国の仕掛けに乗って中国との戦略的パートナーシップ関係を壊すことは有り得ない。だが、ウクライナ戦争の勃発後、ロシアは欧州方面で米国の圧力の前面に立っており、中国はロシアの後ろに隠れている。この状況下ではロシアは中国との関係を悪化させられないが、中国には地域・問題次第で米国とも対話・協力の余地が生まれる。
・だが、トランプ政権下でウクライナ問題での米国との対立が解消されれば、ロ中の立場は逆転する。今度はインド太平洋地域で米国の圧力の前面に立つのは中国となる。その場合、中国はロシアとの関係を悪化させられないが、ロシアには地域・問題次第で米国とも対話・協力の余地が生まれる。
冷戦終結後、米国は世界唯一の超大国となり、世界の警察官の役割を務めてきたが、最早そのような余力はなく、世界は複数の大国からなる多極化の時代に突入している。米トランプ政権がロシアとの関係正常化に動いている理由もそこにある。
我が国もますます複雑化する国際情勢の荒波に飲み込まれない為にも、ウクライナ和平が実現したらロシアとの関係を正常化させ、過度の接近したロ中関係の修正を促すなど、長期で続く先行きが見えない中での戦略ゲームに備えるべきだ。ロシアとの関係では現在、我が国が有するサハリンでのエネルギー権益の維持がその大前提となる。
《たにぐち ともひこ》
1957年生まれ、東京大学法学部卒。現在、富士通フューチャースタディーズ・センター特別顧問、日本会議会長、筑波大学特命教授。外務省外務副報道官など経て安倍第二次政権で故首相の外交政策スピーチライターを務めた。その間の事情を記した書が『安倍総理のスピーチ』(文春新書)。著書には他に『日本人のための現代史講義』(草思社文庫)など。
2025年11月17日号 週刊「世界と日本」第2305号 より
日米関係に「プランB」はない
富士通FSC特別顧問
日本会議会長
谷口 智彦氏
日本外交が歩んで行く道は、元来狭い。この先もっと狭くなる。
好きなように針路を選ぶ贅沢など望み得ないのが日本の現実だ。
ロシア、北朝鮮、中国が直列するその脇にいる日本が、どうしてこれ以上敵を増やすことができるだろう。
中国とパキスタンの脅威に日々直面するインドにとって、ロシアを敵に回す選択肢は事実上存在しない。その点日印の事情には、相通ずるところがある。
ドナルド・トランプ米大統領を好もうが嫌おうが、関税を使って高飛車に出る米国を疎ましく思おうが思うまいが、対米同盟を緩めるわけにいかない。一層強くするほかない。
米国から離れて自主自立の道を目指すべきであるとか、あるいは少なくとも米国と距離を置くべしとする主張がある。財界要人たちにすら、実は少なくない。ありもしない選択肢がさもあるかに言いたがるこの種言説は、リアリズムの対極にある。無責任の極みだ。
安全保障の担い手として米国はもはや頼りにできない以上、抑止力を自前で備え核戦力の獲得さえ考慮に入れる「プランB」を真剣に追求すべきだとする主張も、大同小異だ。
その時、つまり日本が米国の拡大抑止(核の傘)から離脱する場合、それでも米国は日本の味方でいてくれると思っているのだとすれば大甘も大甘、何をか言わんやだ。
日本が米国離れを目指すと言うなら、先方はまず「できるものならやってみろ」と冷笑し、静観するだろう。次には日本を警戒し、敵視するようになる。
そこで先の問いに戻る。さらぬだに物騒な界隈にいる我々だ。米国まで敵にし、どう自らの安全を守るのか。
故安倍晋三氏がその第二次政権において明示的に選んだ道・海洋民主主義の国々と安全保障の契りを深くし東シナ海と南シナ海を外郭から包むようにする道は、選択肢に幅がない苦い現実を見据え、日本として意識的に選び取ったものだ。
自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を目指す路線のこと。日本が自覚して選んだ大方針である。
続いた岸田文雄政権は、同語(FOIP)の使用頻度を顕著に落とし、構想の核心にあった強い地理的限定と中国を意識した鋭角的な焦点を、ともにぼやけさせてしまった。
続いた石破茂氏の場合、大阪・関西万博に出るため訪日した各国首脳が挨拶に立ち寄るのを総理官邸で待つほぼそれだけに終始したのだから、応接あって外交なしだった。
先頃政権を発足させた高市早苗総理には、その発言が端々に滲ませるところ、FOIP路線に回帰しようとする明確な意思がある。
常在戦場の日本が竜骨を失うと、波間を漂う難破船になる。FOIP路線とは日本の航行を支える竜骨であって、取り戻せたのは、まずは慶事としたい。
習近平・中国国家主席は目下72歳。あと24年生き96歳になるまで権力の座に留まると、2049年に訪れる新中国創建百周年を自ら差配することになる。
可能かどうかは、もはや同主席が問う問いではない。できるものならなんとしてでも実現させたい要請=当為であって、1年、2年と経るほどに拘泥は強まる。いまの地位を終身制とする所要の措置はつとに実施済みだ。
阻むものは党内でこれも熾烈度を増すだろう権力闘争と、同主席における健康、またはその劣化の程度のみ。
世の中に、習氏ほど孤独な指導者もあるまい。個人として孤独なら、彼が率いる巨大化した祖国には、かつてはあったかもしれない文化で人を魅了する力とてもはやなく、信頼に値する同盟相手は一国たりともない。
夜更け、寝台に横たわって天井を見つめる習氏には、同じ問いが繰り返し襲ってくるのではあるまいか。自分はいつまで「持つ」だろう、そして台湾は、いつになったら中国のものになるのか。
今後の中国は、対外政策における拡張主義を昂進させる。外交よりも力に頼ろうとする傾向を強める。絶対権力者が日夜焦燥に苛まれているのだ。そうならないはずがない。
ゆえにこそ日本外交の選択肢はこの先なお一層狭まる。中国を抑制・抑止するには力をもってするほかなく、その力は、日米の、あるいは日米に加えフィリピンや豪州の、合力によってもたらす以外にないからだ。
中国が創建百周年をいかなる姿で迎えるか目鼻が見えてくる向後20年が、最大の勝負所である。日本は防衛力強化を果断に実行するべきで、そのことで米国をインド太平洋正面へ釘付けにし、倍旧の関与を促すことだ。
「ディフェンス・ケインジアニズム」とは読んで字の如く、防衛支出を増やすことでケインズ経済学で言う需要創出と雇用拡大をもたらす政策を言う。
沿革の古い言葉で、冷戦期に多額の軍事支出を続けた米国の政策についてそもそも用いられた解釈概念だ。
この先の20年、日本は軍事ハードウエアから防諜システム、インフラストラクチャーの抗堪性強化と多岐にわたる投資を一貫して実施し、それが同時に大きな需要創出となる道を選ぶべきだろう。
20年といえば、長い歴史に徴すなら瞬きするくらいの間だ。
けれどもここで一意専心、日本を強くし日米同盟を強化し、日米が作る勢いがフィリピン、豪州、当てにはしにくいが韓国、そして以上の行文で明示的には論じなかったが情勢の要をなす台湾の、それぞれの防衛力強化を促すうねりを作り出せるか否か。日本にとってこれが百年の計だ。
高市早苗総理は、トランプ大統領始めいつ誰と会う際にも、右の認識において不動のところを示すとよい。
自民党総裁選で高市氏が昨年と本年両年にわたって述べた投資中心の経済政策は、そう言わないだけでディフェンス・ケインジアニズムにほかならない。
同総理が早速、防衛支出をGDP比2%とする方針の前倒し、今年度内達成を打ち出したのは歓迎すべき動きとはいえ、まだ到底足りない。
向こう20年、たった20年の集中的努力があるとないとで、日本の命運は大きく変わる。
《きむら まさと》
1961年生まれ。元産経新聞ロンドン支局長。
2025年10月20日号 週刊「世界と日本」第2303号 より
現代版「日英同盟」の要諦
負の過去と現実を忘れるな
在英国際ジャーナリスト
木村 正人氏
「日英同盟」という言葉が持つ特別な響き
[ロンドン発]「日英同盟」という言葉は日露戦争に勝利して列強の仲間入りを果たした日本にとって特別な響きを持つ。しかしウクライナ戦争を現地で3カ月間取材した筆者は本当の戦争に備える段階に入ったことを実感する。陶酔感やノスタルジーに浸っていてはいけない。
英海軍の最新鋭空母「プリンス・オブ・ウェールズ」を旗艦とする英空母打撃群が8月12日~9月2日、横須賀と東京に寄港した。世界の安全保障環境が激変する中、インド太平洋の平和と安定に貢献する英国のコミットメントを改めて示してみせた。
欧州連合(EU)を離脱し「グローバル・ブリテン」を掲げた英国は2021年にも空母「クイーン・エリザベス」を旗艦とする空母打撃群を日本に派遣している。その前年「一国二制度」を返還後50年保障した英中共同宣言を中国の香港国家安全法で反故にされたことも大きい。
中谷元防衛相はプリンス・オブ・ウェールズで「ロシアの帝国主義を打ち破った日露戦争は日英同盟に基づく英国の支援があったからこそ可能だった」と講演、「現代の日本が『準同盟』と位置づける英国との関係の重要性を強調した」(朝日新聞)。「準同盟」の見出しが踊った。
死の泰緬鉄道
1902年に締結された日英同盟を当時の米紙ニューヨーク・タイムズは「清(中国)の領土・政治的一体性と米国務長官ジョン・ヘイの門戸開放を維持するための現実的な枠組み」と評価している。日本にとっては対露抑止、英海軍の後ろ盾で三国干渉の再発防止になると論じた。
英国は威海衛の要塞化や揚子江流域の特権を諦め、門戸開放に立ち返ったことが米国に歓迎された。第一次大戦後、世界の重心は米英関係に移り、日本の韓国併合・大陸進出に不信を強める米国の主導で23年「四カ国条約(米・英・日・仏)」が発効、日英同盟は幕を下ろす。
太平洋戦争が始まった41年、日本軍がマレー沖海戦で英東洋艦隊の戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈。42年、日本軍は英国の植民地シンガポールを陥落し、英首相ウィンストン・チャーチルは「英軍史上最悪の惨事であり、最大の降伏」と表現した。
13万人超の連合国軍兵士が戦争捕虜となり、うち6万人がタイとビルマ(現ミャンマー)南部を結ぶ415キロメートルの泰緬鉄道建設に駆り出された。収容所の環境は酷悪で捕虜の4分の1以上、建設に従事させられた地元住民20万人のほぼ半数が死亡する惨事を引き起こした。
英大衆紙サンに掲載された橋本龍太郎首相のお詫び
主な死因は虐待、飢餓、過労、病気だ。想像を絶する苦難に戦後、自ら命を絶った元捕虜も少なくない。英国の反日感情は根強かった。戦後50年の「村山談話」に先立ちジョン・メージャー英首相に宛てられた村山富市首相の手紙に元捕虜に対する「個人的な」お詫びの言葉が初めて添えられた。
1998年、天皇訪英を控え、トニー・ブレア英首相の助言で橋本龍太郎首相のお詫びが英大衆紙サンに掲載された。2000年日本軍に強制労働を強いられた元捕虜や遺族1万6700人に対し1人につき1万ポンド(現在の日本円で382万円)が支払われることになった。
00年代半ばにイラクで日英協力が実現。日本が人道・復興支援のため自衛隊を派遣した南部サマワの治安維持を英軍が担当し、日英は防衛協力という新たな段階に入った。筆者は07年からロンドンを拠点に取材しているが、日米英関係の難しさを痛感させられたことがある。
11年、防衛省はF―35Aを次期戦闘機に決定。F/A―18E(スーパーホーネット)と欧州のユーロファイター・タイフーンとの争いになった。海上自衛隊は英国製でも調達するのだが、航空自衛隊と米空軍の関係は緊密で欧州のタイフーンは最初から“当て馬”的な存在に過ぎなかった。
「アジアの同盟国が欧州の水準に追いつくのは当然」
これを起点に林景一駐英大使や防衛省・自衛隊の大使館員がコツコツと英国とのパイプを築き始める。13年の防衛装備品・技術移転協定と情報保護協定、17年の日英安全保障共同宣言、物品役務相互提供協定(ACSA)、22年の次期戦闘機の共同開発と大きく実を結んでいる。
次期戦闘機の日英伊グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)について、タイフーンを日本に売り込んだ英防衛大手BAEシステムズの担当者(当時)と筆者は「信じられない。ほんの10年の間に時代は大きく変わった。安全保障環境の激変に隔世の感を覚える」と驚き合った。
国防費を国内総生産(GDP)比5%に引き上げた北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟国はアジアに世界基準を示したとピート・ヘグセス米国防長官は強調する。
米国防総省も「中国の軍備増強と北朝鮮の核・ミサイル開発を考えるとアジア太平洋の同盟国が欧州の国防費水準に速やかに追いつくのは当然」という。
エルブリッジ・コルビー米国防次官は就任前の昨年1月、ロンドンの有力シンクタンク、英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)で「日本は27年度に防衛費をGDPの2%にすると言っているが、今すぐ3%にすべきだ」と持論を繰り返した。
米国が日本に防衛費をGDP比の3・5%まで引き上げるよう要求
英紙フィナンシャル・タイムズ(6月20日付)は米国が日本に防衛費をGDPの3・5%まで引き上げるよう求めたと報じたが、林芳正官房長官は即座に「そのような事実はない」と否定。台湾、韓国、オーストラリアもトランプ政権から国防強化と米国への投資を求められている。
英空軍の戦略家兼兵站担当者スチュアート・グレゴリー大佐は「日英間に形式的な条約はまだ存在しないが、実質的には同盟に近い関係と言える。英国は日本と同盟関係にあることの意味を再認識し、日本に対する防衛義務を明確にする必要がある」と指摘する。
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のフィリップ・シェトラー=ジョーンズ上級研究員は9月16日、大和日英基金のイベントで「好意的に言えば共通利益の共同体が二国間を超えて広がっている。厳しい見方をすれば自前の艦艇・航空機が足りないという現実の裏返し」と語る。
国防予算の確保は常に難題だ。任務リストは長いのに装備・訓練・即応に十分なお金がつかない。英軍はNATOのコミットメントだけでも厳しいのが現状だ。抑止や戦時の役割分担に踏み込むなら、実務上「誰が何を担うか」の設計図を日英間で検討する価値は十分あるという。
《り いつよう》
1955年生まれ
学歴:
1978年 国立台湾大学政治学科卒業
1980年 国立台湾大学政治学研究所(大学院)修士
主な経歴
1987年―1988年 民主進歩党第二期文宣部主任
1989年―1997年 台北市議会議員
1997年―1998年 台北市政府民政局局長
2000年―2002年 内政部(省)政務次長
2002年―2005年 行政院(内閣)人事行政局局長
2005年―2005年 民主進歩党秘書長
2006年―2008年 内政部長(内相)
2016年―2017年 公務員保障・育成訓練委員会主任委員
2017年―2020年 考試院副院長
2021年―2024年 総統府資政(上級顧問)
2025年10月20日号 週刊「世界と日本」第2303号 より
台湾のICAO参加にご支持を、
台日の青空を共に守ろう
台北駐日経済文化代表処代表
李 逸洋氏
日本では大型連休のたびに台湾が人気海外旅行先の上位となっている。実際に、台湾観光庁の統計によれば、2025年1~8月の日本から台湾を訪れた旅行者数はのべ90万人近くに達し、同時に台湾は日本からヨーロッパや東南アジア方面への中継地の一つでもある。両国間を結ぶ定期便は非常に多く、ビジネス、観光、貨物、人々の往来が極めて盛んであり、また台湾民航局が所管する台北飛行情報区(以下、台北FIR)は日本の福岡FIRに隣接しており、互いの飛行状況は密接な関係がある。
航空の歴史を振り返ると、飛行安全はほんのわずかな抜け穴から取り返しのつかない重大な災難に至るものであり、事故は旅客の命の安全と財産を危険にさらし、多くの家庭が悲しみのふちに沈むことになる。台湾は長きにわたり政治的要因により「国際民間航空機関」(ICAO)から排除されてきたが、台湾民航局は台北FIRを飛行するすべての航空機の飛行安全を守るため、独力でハイレベルな飛行安全の維持と完備された航空サービスの提供に取り組み、国際飛行安全管理標準と一致させるよう尽力し、台湾の航空産業が国際的に高く評価されるまでに発展させた。
それでもなお、気候変動、モバイルバッテリーなどの新技術の発展、中国の軍事演習の際の臨時危険区設定などの地政学的な干渉といったこれらの新たな飛行安全の脅威に直面しており、ICAOメカニズムに参加できないために、台湾は最新の国際規範や情報のリアルタイムでの取得ができず、専門訓練や会合にも参加できない。さらには国際パートナーと台北FIRの情報と経験を共有できない。通航頻度が極めて繁忙であるアジア太平洋地区から見て、これらは確実に地域および国際飛行安全に対するリスクを増大させ、各国の航空会社の運航コストも増加することになる。
日本にとっても、台湾がICAOに参加できないことは他人事ではなく、潜在的なリスクとなっている。もし台湾がICAOに参加できれば、より一層効率的に両国間の飛行安全リスクを低減させ、年間100万人を超える台日間を往来する日本人旅行者の大切な命や日常生活、家庭円満を守ることができる。つまり、台湾のICAO参加を支持することは、日本人を守る力を大きくすることでもある。
飛行安全に国境はなく、政治的にも無関係な世界の公衆利益であり、国際社会は台湾をICAOシステムに組み入れるべきだ。日本は法の支配と平和を重視し、かつ飛行安全の重要性をよく理解している民主主義パートナーである。我が国は日本が国際指導力を発揮して、ICAO関連メカニズム、活動、訓練などへの台湾の実務的参加を支持するよう望んでいる。これは国際社会の公平正義にかかわるのみならず、日本自身の利益にも一致する。台湾がICAOに参加することにより、初めて台湾は日本および国際航空コミュニティーと共に手を携えて飛行安全をより一層高めていく取り組みができるようになる。一人一人の旅客が「愉快に出発し、安全に帰宅する」ために、台日間の人々を結び、希望を運ぶ航空路線を共に守ろう。
《みまき せいこ》
2003年東京大学教養学部卒、同大大学院総合文化研究科で博士号取得(学術)。早稲田大学助手、米ハーバード大学、ジョンズホプキンズ大学研究員、高崎経済大学准教授などを経て2025年より現職。著書に『戦争違法化運動の時代』(名古屋大学出版会)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版)、共著に『自壊する欧米―ガザ危機が問うダブルスタンダード』(集英社)、『アメリカの未解決問題』(集英社)等。
2025年9月1・15日号 週刊「世界と日本」第2300・2301号 より
「ヤルタ2.0」の世界と日本の選択
同志社大学 大学院教授
三牧 聖子氏
2期目のドナルド・トランプ政権が発足して8カ月となる。大統領に就任してからトランプは中小国の主権を軽視したり、領土併合を示唆するような発言を繰り返してきた。太平洋と大西洋を直接結ぶ海上交通の要路で、1999年にアメリカからパナマへと管理権が移譲されたパナマ運河について、トランプは「通行料が高すぎる」等と不満を表明し、管理権の返還を求めてきた。デンマーク自治領のグリーンランドについても、その所有は「国家安全保障にとって絶対に必要」と断言し、購入に意欲を見せている。この他にも、「カナダはアメリカの51番目の州になるべきだ」と発言したり、「メキシコ湾」の呼称を「アメリカ湾」に改める大統領令に署名するなど、枚挙にいとまがない。
こうした発言から見えてくるトランプの世界観は、侵略や領土併合が国際法で禁じられていなかった19世紀のそれだ。トランプの就任演説には「明白なる運命(Manifest Destiny)」という概念が盛り込まれ、「領土の拡大」もうたわれた。「明白なる運命」とは、1845年にジャーナリストのジョン・オサリヴァンが提唱した「領土拡張は神の意志」という考えで、19世紀から20世紀転換期にアメリカの領土拡大や帝国主義的な進出を支えた考えだ。
こうしたトランプ政権を前に、世界では今後起こりうる最悪のシナリオの1つとして、「ヤルタ2・0」への懸念がささやかれている。第2次大戦中の1945年、米英ソ3首脳はクリミア半島のヤルタで会談し、米英仏ソによるドイツ分割占領や、ソ連の対日参戦の見返りとして南樺太や千島列島をソ連に割譲することなどに合意した。同様に2025年の世界には、アメリカ、ロシア、中国といった現代の大国が世界を勢力圏に分割し、互いの勢力圏を認め合い、大国中心の「平和」を維持する「ヤルタ2・0」が誕生しつつあるとの見立てだ。
そうした懸念は、8月15日に米アラスカ州アンカレジで開催されたトランプとロシアのプーチン大統領の米露首脳会談後、いよいよ強まっている。トランプとプーチンが会うのは2019年以来で、2022年にウクライナ侵略が始まって以降、初の米ロ首脳会談で停戦や和平の可能性が話し合われた意義は小さくない。問題はそこで話し合われた「平和」の内実だ。両首脳は会談後に共同記者会見に臨み、「生産的な会議だった」などと自画自賛したが、プーチンは、停戦のためには「危機の根本原因を取り除く必要がある」と従来の主張を繰り返し、占領しているウクライナの領土について一切譲歩する姿勢を見せなかった。
会談の具体的な内容は共同記者会見の場では語られなかったが、その後トランプがヨーロッパの首脳らに語ったところによると、プーチンは、ウクライナが東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)から自国軍を撤退させロシア側に明け渡すことを引き換えに、ウクライナの残り地域での現在の戦線での停戦と、ウクライナやヨーロッパ諸国を再び攻撃しないという書面の約束をすると提案したという。現状ロシアは、ルハンスク州の全域を掌握しているが、ドネツク州の25%程度は制圧に至っていない。ウクライナにはロシアに書面上の約束を何度も裏切られてきた歴史もある。1994年の「ブダペスト覚書」では、ウクライナが旧ソ連の核兵器を放棄することの見返りに、ロシアはウクライナの「独立、主権、既存の国境線」を尊重すると約束したが、ロシアは2014年にクリミア半島併合を強行し、ドンバス地方で親ロシア派武装勢力への支援を通じ、戦闘を開始した。2014年9月には「ミンスク1」と呼ばれる停戦合意が成立したが、親露派は全欧安保協力機構(OSCE)による停戦監視を無視して違反を繰り返した。ドイツとフランスが調停役を担った2015年2月の停戦合意「ミンスク2」も同様の結果に終わった。
アラスカ会談では停戦に向けた具体的な道筋はつけられなかったにもかかわらず、会談後トランプは「当面は新たな対露制裁については考えない」という態度に転じた。そもそも、トランプが米露首脳会談の開催を発表した8月8日は、「ロシアが停戦への努力を見せなければより厳しい制裁措置をとる」と、トランプ自身が設定していた制裁強化の検討の期限だった。しかし結局、対露制裁の強化は、米露首脳会談の開催決定を受けて延期され、さらに会談を経て、その可能性自体が放棄されつつある。プーチンは、ウクライナの戦争から得たいものはすべて得た上で、ウクライナの頭越しに米露関係を正常化させ、国際社会へと復帰していくつもりだろう。プーチンに対しては、ウクライナの占領地域から子供たちをロシア側に移送したことに関し、戦争犯罪の疑いで国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状も出されている。アメリカはICCに加盟はしていないものの、こうした人物と、トランプはレッドカーペットの上を並んで歩き、大統領専用車「ビースト」に同乗したのだ。ここまで厚遇する必要はあったのだろうか。プーチンからみれば、アラスカ会談は、何も失うことなく、将来の制裁強化の可能性を回避し、「自分はアメリカに堂々と訪問でき、大統領に厚遇される存在だ」と国際社会にアピールできた、極めて有益な機会であったが、ここから一体アメリカは何を得たのか。むしろ国際的な信頼など、失ったものの方が巨大ではないか。
トランプは貿易政策については中国を敵視しているが、大国として対等な交渉相手ともみなし、中国の習近平国家主席との早期会談に意欲を示している。日本はアメリカとの「価値の共有」をうたってきたが、日米の価値観の共有を大前提に、アメリカと歩調をあわせていればよかった時代は過ぎ去りつつある。日本もまた、こうした大国中心の平和に呑まれていくのか、それともこうした平和に異議を唱える国々とともに国際法に則った平和を諦めずに追求していくのか。私たちの主体的な選択が求められる局面だ。
《まつもと さほ》
神戸市生まれ。聖心女子大学卒業、慶應義塾大学大学院修士課程修了。英国ウォーリック大学大学院PhD取得。博士(国際政治史)。専門は国際政治と宗教の関係。イタリア政府給費留学生としてバチカン使徒文書(機密文書)館で調査、ローマ教皇研究を行う。名古屋市立大学大学院教授を経て現職。著書に『バチカン近現代史』、『バチカンと国際政治』、『アメリカを動かす宗教ナショナリズム』、『熱狂する「神の国」アメリカ』など。
2025年8月18日号 週刊「世界と日本」第2299号 より
コンクラーベで渦巻いた大国の駆け引き
―事実は映画より奇なり―
日本大学 国際関係学部教授
松本 佐保氏
4月21日の教皇フランシスコ死去に伴い、5月7日ローマ時間の午後にバチカンのシスティーナ礼拝堂に日本人の前田枢機卿と菊池枢機卿を含む133人の枢機卿が一人ずつ誓いを立て礼拝堂内に入り「Extra omnes」(ラテン語で部外者は外への意味)との言葉と共に、礼拝堂の扉が閉じられ鍵がかけられた。日本でも大ヒットした映画『教皇選挙』さながらだが、こちらはリアル版、著者は運よく大型連休のため大学を殆ど休校せずにバチカンでコンクラーベを調査し、その様子を現地から日本のメディアに発信し解説する幸運に恵まれた。
世界各国からメディアや信者や観光客がサンピエトロ広場に集結しごった返す熱量も目の当たりにした。多言語が飛び交い、バチカンの公用語は英語ではなくイタリア語とラテン語。インターネットが発達したとは言え教皇選挙は徹底した秘密選挙で、その間枢機卿達はスマホを取り上げられ外部との通信は一切禁止である。ただ現地にいたときに漏れ聞こえる情報や噂もあり、教皇選挙の内部情報は後日、どの様にして選ばれたか、それが国際情勢とどう関るのか、特にトランプの米国や中国の関与に焦点を絞って考察してみたい。
選挙は完全なる秘密投票で、投票総数の3分の2以上の票を得る候補者が出るまで繰り返される。新教皇が選出されると礼拝堂の煙突から白い煙が出るが、決まらなければ黒い煙が出て外部に知られる。この日は黒い煙で人々はむしろ安堵する様子で、「そんなに早く決まるわけがない」と呟き、そして翌8日午前も同様の結果だった。
そして同日午後になりなかなか煙が出ない、煙突がある屋根に出現したカモメとその可愛い雛の姿に、世界の報道関係者や信者、バチカニスタ(バチカン取材専門家)は癒され、その和んだ隙を突いたように、西日に照りつけられた煙突から煙が上がり始めた。色が識別出来なかった煙がどんどん白くなり、鐘が鳴らされると、集まった人々の歓声が上がり、バチカンの記者室にいたジャーナリストも一斉に広場へ走って煙を確認していた。また建物内で待機していた人達や日陰で休んでいた信者達も、一斉に煙突を望むサンピエトロ広場に凄い勢いで集まってきた。
中道の教皇レオ14世
予想よりも教皇選挙は早期決着であったことから、新教皇に選ばれたのは有力候補と目されていたパロリン枢機卿(イタリア人でフランシスコ前教皇の国務長官、ナンバー2)であろうというのが世界のメディアや信者たちの見立てであった。ところが1時間後に発表された名前はロバート・フランシス・プレボスト枢機卿、まったく予想外で、集まった人たちは「誰?」とざわめきが起こった。
彼が米国人枢機卿だと分かると、イタリア人の群衆からは一時的にだがブーイングが起きた。最有力候補だったパロリン国務長官、ロシアとウクライナ戦争の仲介でモスクワに特使として派遣されたズッピ枢機卿、イスラエル・パレスティナ紛争の仲介で重要視されエルサレム総大司教のピッツァバラ枢機卿など3人以上の教皇有力候補にイタリア人の名前が挙がっていたにも関らず、誰も選ばれなかったからである。
ローマ教皇は、1978年にポーランド出身の教皇ヨハネ・パウロ2世が誕生するまで、歴代の教皇職がほとんどイタリア人に独占されてきた経緯がある。ポーランド人、ドイツ人、アルゼンチン人と続いたので今回こそ、イタリア人の教皇が地位奪還と期待していたイタリア人信者は少し落胆した様子だった。しかし新教皇レオ14世は米国人で英語ネイティブだが、英語訛りのない美しいイタリア語で、フランシスコ教皇の言葉「皆さん、壁でなく橋を造りましょう」と人々にメッセージを発すると、落胆が歓喜の声に変わった。
この「壁ではなく橋」は、トランプ大統領が移民排除の壁を国境に建てた時に、前フランシスコ教皇が「キリスト教徒なら壁でなく橋を」と??りつけた名セリフで、移民問題にとどまらず壁は国内や世界における分断を意味し、橋はそうした分断を解消するという比喩である。
この「橋」だが何でも、というわけにもいかないだろう。それを証拠にフランシスコ教皇の右腕だったパロリンではなく、中道で改革派と保守派のバランスを取ることが出来るプレボスト枢機卿が選ばれた。これには米国の保守派の枢機卿が動き、また香港の民主派勢力に近い陳元枢機卿の存在があったとされる。このタイミングでトランプが教皇のコスプレ写真をSNSに投稿して話題になったが、これは教皇選挙への米国の介入の意思表示だろう。トランプに近いとされる米国人保守派のバーク枢機卿やニューヨーク大司教のドーラン枢機卿も教皇選挙に参加、トランプは前者の教皇就任を望んでいた。彼は、教皇選挙直前に非欧米勢力の保守派の纏め役とされるアフリカのギニアのサラ枢機卿と密談しているところをパパラッチされている。
バークは教皇に選ばれなかったが、中国共産党政権の香港民主派弾圧を非難してきた陳元枢機卿の影響力も借りパロリンが教皇になるのを阻止したのではという見方がある。パロリンは前教皇の命で中国との国交樹立の交渉を進め、本来バチカン側にある司教の任命権を中国に渡した疑惑が持たれている(日本の司教の任命権はバチカンにある)。中国内の推定1千万人以上のカトリック地下信者数はバチカンには魅力的である。しかしマルクスの1848年の「共産党宣言」に対抗し反共産主義を貫いてきたバチカンに対し、教皇フランシスコはイエズス会出身で解放の神学を公認し共産主義に妥協している、教皇は中国に譲歩し過ぎと保守派の枢機卿や司教は批判してきた。パロリンが教皇になれば、前教皇の遺志を継いでこの中国への妥協を推進、外交関係を樹立する可能性が高く、もしそうなれば現時点で国交がある台湾と国交破棄となる。
新教皇レオ14世は、「橋」を前教皇の理念から受け継いだものの、ジェンダーやLGBTについてはフランシス教皇より保守的であり、また服装やライフスタイルも前教皇より歴史と伝統を重んじる。中国共産党政権に対しても「橋」なのかどうか、現時点ではまだ動きはないが、今後の展開を注視していきたい。
《しゅ けんえい》
1957年、中国上海生まれ。上海国際問題研究所付属大学院修士課程修了。学習院大学にて博士号(政治学)を取得。1986年、総合研究開発機構(NIRA)客員研究員として来日、学習院大学・東京大学非常勤講師などを経て現職。
2025年8月18日号 週刊「世界と日本」第2299号 より
中国世論の読み方―ネットメディアの台頭
東横学園大学 客員教授
朱 建榮氏
日本人の多くは、中国の当局と民間の主要な論調、すなわち「世論」を読み取るなら、真っ先に『人民日報』や『環球時報』が思い浮かぶだろう。
実はおよそ10年前から中国の街角から新聞雑誌販売のスタンドは姿を消している。JR線の駅構内の「キオスク」に似たような売店やコンビニも中国の駅にあるが、それもほとんど新聞を販売していない。『人民日報』は郵便局の一部で販売されるが、その発行部数の95%以上は共産党の細胞組織や行政機関の購読に頼っている。自民党機関紙『自由民主』(旧『自由新報』)とほぼ似たような販売方法だ。一方、『人民日報』傘下の『環球時報』はタブロイド紙として1993年に創刊され、ナショナリスティックな論調が多いとの評判だが、親新聞の販売部数の激減でグループ全体の経営難を軽減するために創設された、「販売優先」の産物と聞いている。今は依然人気が高いが、読者の9割以上は新聞紙ではなく、そのネット版「環球網」を読んでいる。
中国「世論」の主要陣地はこの10年、激変している。19年11月29日付「光傳媒」サイト掲載の中国人の「情報入手」ソースに関するアンケートによると、SNSは圧倒的に中心になっている。複数回答だが、75・25%は『微信』(WeChat)から、39・02%は中国版「TIKTOK」から、26・61%は「今日頭条」サイトから、20・03%は「微博(ミニブログ)」から情報を取得しているとの回答だ。伝統的な紙媒体(新聞と雑誌)と挙げたのは僅か0・68%で、老人を中心にテレビと挙げたのも6・56%にとどまり、ほかに4・24%は食卓、会議、家族等と挙げている。
この調査結果で分かるのはまず、中国国民の圧倒的多数は新聞やテレビ情報を頼りにしていないことだ。政府系メディアへの不信と、官製報道の「つまらなさ」とともに、それにとって代わるネットメディアが急速に広まった事情もある。
その最大の背景はインターネット利用者の急増にある。中国ネット情報センター(CNNIC)は毎年2回、全国のネット利用動態を発布するが、それによると、24年末まで中国のネットユーザーは11・08億人に上り、ネット販売利用者は9・74億人、ネット行政サービス利用者は10億人超になっている、という。
社会主義中国は世論と情報を統制し、ネット利用を制限するものだと思われがちだが、なぜ日本よりもネット利用の普及率が高いのか。理由はいくつか考えられる。
最大の理由は、ネットに代表される情報技術の進歩を、新しい産業技術革命と捉え、経済発展を強力に促進する新しいエンジンにしたい、との国家戦略があるためだ。今日の中国のハイテク躍進はネット環境が整備されたことと密接な関係がある。ネット利用速度を4Gの5倍以上速める5Gの設置済み基地局数は400万を超え、全世界の8割を占めている。
確かにネットの発達は政権にとって都合の悪い情報の流入、政府批判言論の拡散といったリスクがある。ただ、その代価を払っても、ネットを通じて全世界の科学技術、経済情報を瞬時にキャッチし、経済発展の力強い追い風になるというメリットがはるかに大きいとの損得勘定もある。
意外にも、ネットメディアは「ガス抜き」の役割を果たしてくれる。西側社会では抗議デモや新聞投書、選挙の投票などで民意を示すが、中国ではそれができない。21世紀に入っての一時期、都市住民や、労働者、農民による抗議デモが多発した。しかしネット社会の発達につれて、当局はネットでの不満の発声を完全に抑えられない以上、ある程度容認してガス抜きにする方針に切り替えたようだ。
2010年以降、中央政府から各地方当局まで、相次いで「網弁」(ネット対策室)が設置された。その対策に相当の人的、技術的資源が動員され、「不都合」なものがよく削除される。他方、そこに表れる民衆の集中した意見や不満も「網情」(ネット世論)として随時に党と政府の責任者に報告され、対策を取る依拠にしている。例えば、22年末、「ゼロコロナ」政策への不満がネットで爆発し(一部の人は街頭に出て「白紙」抗議運動に参加)、そのネット世論の津波が首脳部に報告され、急な解禁という180度の政策大転換につながった。今の中国では少人数の政府批判者(弁護士、活動家など)は拘束されるが、ネット社会で反発・批判の大波が現れると、当局は抑え込むのが不可能と分かっているので、ほとんどの場合、迅速な政策修正に着手すると言われる。
このような「世論」の現れ方は日本と正反対だ。24年末、言論NPOなどが発布した最新の「日中共同世論調査」報告書の中に、「ネット世論は民意を反映しているか」という項目があり、「適切に」もしくは「ある程度」反映しているとの回答者は日本では合わせて2割しかいないのに対し、中国では8割に上っている。
背景と社会事情の相違はあるが、中国人の8割以上がネットメディアを主要な「世論」と見ている現実を踏まえて、対中認識の基本から考え直す必要があるのではないか。
日本の世論調査で国民の9割前後、中国にいいイメージを持っていないとの回答だ。自分の学生に対してアンケートを取っても、監視カメラ、大気汚染、人権抑圧、そしてまもなくバブル崩壊との答えが多い。これらの見方に導く情報源はほとんど日本のテレビや新聞であり、実際に中国に行って現場を見た人が少なく、中国「世論」の主陣地がネットメディアに移ったことを知る人はなおさら少ないだろう。
中国のネットメディアに問題も多く存在する。昨年9月、深?で日本人学校に通う子供とその中国人母親に対する殺傷事件の発生後、イギリスFT紙では、①中国のネットメディアは「国内政治」「暴力」「ポルノ」に対する規制が厳しい割には、諸外国との関係の内容の規制は相対的に緩い、②かつての戦争の影響などで日本嫌いの一部の人間の反日書き込みがネット社会で強い影響力を持つ、③ネットの「流量」(アクセス数)稼ぎという商業主義が極端な言論を助長、といった特徴が指摘された。
中国の「国情」を有する社会で発達したネットメディアは問題を抱えながらも、試行錯誤して、真実そして法治、民主を追求しており、この大勢は変わらない。日本もこのような中国の変化を理解し、より客観的な中国認識を形成するとともに、中国のネットメディアを積極的に活用し、ありのままの日本がもっと理解されるようにも努力しなければならない。
《り そうてつ》
専門は東アジアの近代史・メディア史。中国生まれ。北京中央民族大学卒業後、新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院にて新聞学博士(Ph.D.)取得。98年より現職。同年、日本国籍取得。
2025年8月18日号 週刊「世界と日本」第2299号 より
日本は李政権の本質を見極めよ
協力か対立かの岐路に立つ日韓関係
龍谷大学 教授
李 相哲氏
韓国では刑事被告人の李在明(イ・ジェミョン)氏が大統領に、大統領だった尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏は拘束された状態で裁判を受ける身となった。激変の韓国はどこへ向かうのか。日韓関係はどうなるのか。
怪物独裁政権の誕生
韓国の立法府は「ともに民主党」(以下「民主党」)を中心とする左派勢力が議席の多数を占めていることについては、周知の通りだ。
国会では、大統領に就任した李氏が、それまで受けていた裁判を受けなくても良いという趣旨の刑事訴訟法改定案を、大法院(最高裁判所)が有罪趣旨で判断を下した「公職選挙法」違反について大統領退任後も罪に問われない「公職選挙法改定案」を、李氏の12の容疑を捜査してきた「検察庁廃止法」などを議決する構えだ。つまり、いまの韓国の国会は完全に李氏の私的機関に変質したと言っても過言ではない。
司法部門はどうだろう。国会で審議中の「李在明免罪法」を含め、李氏がやろうとしている政策について法解釈をし、正当性を与えることのできる法務部法制処長、大統領府の民情秘書室(司法部門を指揮、統括し、政府の高位職の人事を検証する)首席秘書官などに刑事被告人李在明の弁護士をあて、憲法裁判所には民主党寄りの裁判官で固めた。
原則なき「実用外交」は通用しない
このように三権すべてを一手に握った李氏は、対外政策をどうするつもりか。李氏の「実用外交」は善意の解釈をすれば国益のためなら、どんな国とでも仲良くするというものだ。常識的な姿勢と言って良かろう。
しかし、見落としてはならないのは、李外交は軸足をどこに置いているかだ。トランプ2期政権は日本や韓国など自由陣営の同盟国が自由や民主主義の価値を犠牲にして中国やロシアと経済関係を維持、または強化することは許さないつもりだ。言い換えれば、中国と米国との間で旗印を明確にすることが求められている。中国やロシア、北朝鮮といったレッドチームか、アメリカや日本欧米中心の自由陣営かを選び、その枠組みのなかでの外交を求められているのではないか。アメリカと同盟関係にあり、アメリカの核の傘の保護をうける韓国や日本が、経済利益を優先して「実用外交」を展開するのは難しい。
韓国の左派政権はこれまで、そのような枠組みから離脱し、「国益」や「民族」優先の対外政策を推し進めてきた前歴がある。李政権がこれからどのような姿勢で対米、対日関係を構築しようとするのかについては、以下3点に注目すれば分かるのではないか。
まず、北朝鮮問題をどうしようとしているのか。韓国政府がどのような性向をもつ政権かは、北朝鮮問題にどう対処しているかをみれば良くわかる。金正日(キム・ジョンイル)政権に各種名目で30億ドル以上の経済支援をおこない政権基盤を強化することに手を貸した。金大中(キム・デジュン)政権はもとよりその後に誕生した左派政権は「南北対話一つだけ成功させれば、他はメチャグチャになっても構わない」(2002年5月28日、廬武鉉(ノ・ムヒョン)という姿勢で北朝鮮を支援し、擁護した。文在寅(ムン・ジェイン)にいたっては、5年間の任期中に、金正恩(キム・ジョンウン)に奉仕し、金正恩の機嫌取りに終始し、金正恩弁護の外交に終始したため、「金正恩の首席スポークスマン」(米ブルムバーグ通信)と言われるほど、北朝鮮に夢中だった政権だ。
北朝鮮に前のめりの李政権
李氏もその点では過去の左派政権と脈絡は同じくしているのではないか。大統領就任後真っ先に行政命令として出したのが、南北軍事境界線沿いで韓国軍が行っていた対北朝鮮拡声器放送の中断だ。拡声器放送は北朝鮮が政権の命運と関係あるとしてありとあらゆる手段を使って妨害し、韓国に中断を迫ったものだが、李政権はその要求にまず答えたことになる。
そして、「太陽政策」の立案に関わり、所謂、北朝鮮の立場で物事を考えるべきという「内在的接近法」を唱えてきた学者を国家情報院院長にすえ、廬武鉉時代に南北問題を統括する立場にいた人間を統一部長官に抜擢した。つまり、李政権も過去の3つの民主党政権と同じく、北朝鮮に前のめりしているのが分かる。
つぎに、日米韓協力への態度だ。李氏はこれまで日米韓協力関係には否定的な立場をとった。「韓国の安保は韓米協力で充分だ。なんで日本を引きずり込むのか」、「日米韓が合同軍事訓練をすれば、日本の自衛隊を軍隊として認めることでもあり、そうなれば、自衛隊の軍靴が朝鮮半島を踏みにじる日がくるだろう」と、自著やインタビューで語っていた。かつて、文在寅政権は外相を中国に送り「日米韓協力関係を軍事同盟にしない」と約束したことがある。それは、北朝鮮に忖度していたからだ。今のところ李氏が日米韓関係をどうするつもりかははっきり見せていないが、文在寅時代がそうだったように、対米対日より北朝鮮優先の姿勢はすでに明確に表われている。
3番目に、李氏の「歴史認識」を見極める必要がある。大統領になった後、李氏は「(日韓は)まるで家の前の庭を一緒に使う隣人のように、切っても切れない関係」(25年6月18日)と発言したが、本当にこれまでの日本認識を改めたかは不明だ。李氏はかつて「日本は敵性国家」、「駐韓米軍は占領軍」と発言したことがある。李氏の過去を振り返り、彼の政治家としての足跡をたどっていくと、その場しのぎの嘘をついてしまい2度も裁判(選挙期間中に嘘を流布)にかけられた過去がある。そして、必要ならば態度を豹変、平気で前言を撤回することでも有名だ。
日韓の間に横たわる元徴用工問題、慰安婦問題、佐渡金山問題などは今のところ封印しているが、一つはっきり言えることは、実用外交を標榜する李政権は、状況次第では「三権分立」(裁判所が日本企業に支払い命令が出た場合など)、「国民の議論」が必要だとして蒸し返すことは充分考えられる。
尹政権が「中国やロシア、北朝鮮を敵視し、日本寄りの奇怪な外交をしたとして」糾弾している李政権が、対日外交だけは尹政権の路線を踏襲することはないのではないか。状況次第では、尹氏の対日外交、約束を全面的に見直す可能性もある。
日本は、慎重に李政権の出方を見極めながら対立を恐れず協力も視野におきながら慎重に付き合って行く必要があるだろう。
《まえしま かずひろ》
1965年静岡県生まれ。アメリカ学会前会長。グローバルガバナンス学会副会長。専門は現代アメリカ政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。近著に『混迷のアメリカを読みとく10の論点』(共著、慶応義塾大学出版会、2024)など。
2025年8月4日号 週刊「世界と日本」第2298号 より
トランプ政権と大学
なぜ「国力の源泉」をいじめるのか
上智大学 総合グローバル学部
総合グローバル学科教授
前嶋 和弘氏
トランプ政権は5月末、アメリカに留学を希望する人たちのビザ取得に必要な面接の新規受け付けを一時停止した。6月半ばに、面接は再開されたが、その際の条件として応募者に対して、SNSの公開と書き込んだ内容の精査が義務付けられている。
「反米的」と考えらえる留学希望者を洗い出すための措置である。「反米的」の定義はあいまいで、多様性の重視や気候変動対策など長年続いたアメリカの政策を取りやめていくトランプ政権への批判も含まれているとみられている。ガザへの激しい攻撃を続けるイスラエルに対する批判的な考え方をする希望者も洗い出そうという狙いもある。
「表現の自由」や人権を極めて重視してきたはずのアメリカがまるで、独裁国家のように変貌している。大学や大学院への入学者だけではなく、日本の大学に在籍しながら、1年間だけ短期交換留学を希望する学生も対象となるため、影響は甚大だ。
アメリカの大学教育は世界にとって羨望の的だった。第二次大戦後のアメリカの科学技術の飛躍的発展は連邦機関からの莫大な助成金が起爆剤となった。その中で生まれた科学技術の開発と発展には、インターネット、AIなど枚挙にいとまない。軍事技術も含まれる。世界に冠たるアメリカの科学技術を支えたのは、大学だった。
自然科学だけでなく、アメリカの場合には、社会科学、人文学の研究も世界を主導してきた。
大学の締め付けは、これまでアメリカが世界に誇ってきた「大学教育というソフトパワー(アメリカという国家への魅力)」だけなく、「ハードパワー(経済力、軍事力)」を源泉でもあった大学をいじめ、潰してしまう行為だ。
なぜ、トランプ政権は前代未聞の「大学潰し」を急ぐのか。それに分かりやすい理由がある、トランプ政権を支持する人々にとっては「大学は敵」(バンス副大統領)だからだ。
トランプ政権の支持層の中で、最も数が多いのはキリスト教の福音派だ。福音派とは聖書(旧約聖書、新約聖書)を一字一句信じる人々であり、アメリカの国民のなんと20%から25%もおり、トランプが昨年の選挙で勝ち抜いた南部や中西部を中心に偏在している。昨年の選挙の投票率は6割程度であると推定されるが、出口調査からは8割以上の人々がトランプに票を投じていることが分かっている。
福音派にとっては、聖書には「男」「女」という性別しかない。同性婚やLGBTなどの性的少数派への多様性配慮は許しがたい神への冒涜である。命は神が授けるものであるため、女性の権利としての中絶は禁忌だ。さらに、気候は神がつかさどるので、気候変動政策そのものも不遜なものとなる。
さらに、「神はエルサレムの地をユダヤ人に与えた」と旧約聖書にあるため、熱狂的なイスラエル支持だ。アメリカの中のユダヤ系は人口の2%程度であり、日本の中で誤解があるが、パレスチナ問題ではむしろ2国家共存を志向し、昨年の選挙では圧倒的に民主党のハリスに投票している。ユダヤ系の親イスラエルのロビー団体はあるが、福音派の親イスラエル団体の参加者の数の方が圧倒的に大きい。イスラエルの過度な攻撃を非難し集会に参加する大学生は「反ユダヤ主義(Antisemitism)」者となる。その中に、ユダヤ人学生も少なからずいるのは、皮肉なのか滑稽なのか、何とも形容しにくい。
とくに一部の名門研究大学がトランプ政権の大学潰しのやり玉となっている。名門大学は目立つために格好の見せしめであるほか、そもそも科学技術研究で進んでいるため、連邦政府からの助成が大きく、叩きやすい。アメリカ全体では大学の収入の中での連邦政府からの助成は10%から13%程度といわれているが、名門大学の場合、優秀で助成金を勝ち取れるため、資金が収入の半分を占めていることも珍しくない。
例えば、免疫学や移植、老化、神経科学、精神衛生といった医学で有名なジョンズ・ホプキンス大学は、年間40億ドルの連邦政府資金を受け取っており、大学の収入の40%近くを占めていた。しかし、同大学は4月初めには、2200人の一時解雇を発表しており、いまも再雇用のめどが立っていない。
各大学にとって留学生の場合、各大学の多様性を高める効果があるのはいうまでもないが、留学生は入学後、正規の学費を払うケースが多い。それを原資に、各大学はアメリカ国内の優秀な学生に対して奨学金として学費を無料にしたり、一部生活費も提供することも一般的だ。浮いた資金で優秀なアメリカの学生を獲得し、大学のレベルを上げ、さらに優秀で正規の学費を払う留学生も増えるという好循環を生んできた。優秀な大学ほど、留学生が多く、ハーバード大学の場合、全体の3割が留学生である。
トランプ政権は留学生の数を抑えさせ、この好循環にメスを入れようとしている。ビザを出す出さないはトランプ政権が決めることができる。特に中国からの留学生の場合には、「共産党との関係」といって断ることができる。もちろん、スパイ的な人物の入国は制限すべきだが、「安全保障の理由」はいかようにも理由をつけることができる。
補助金などの打ち切りをトランプ政権に宣言されている大学の一部は政権側にすり寄るための方策に走り出している。イスラエルのガザ攻撃に反対するデモの拠点になっていたとして およそ4億ドルの助成金が取り消されたコロンビア大学は生き残りのために、学生の監視などを徹底する案を表明している。
いずれにしろ、これでアメリカに集まっていた優秀な人材が世界に流出することは必至だ。科学研究誌『ネイチャー』によると、アメリカ国内にいる研究者の7割以上が「アメリカを離れることを検討している」という衝撃の記事を掲載している。トランプ政権の大学たたきで、アメリカの研究開発力が落ち、経済的な損失となるはずだ。一方で、トランプ政権は支持層を守るために、「それもやむなし」とみているはずだ。福音派が作った大学などへの助成は明らかに増えている。
トランプ政権の大学潰しは、反知性主義に他ならない。第二次大戦後のアメリカの発展を生んだ教育を捨てるような政策はあまりにも愚かだ。











