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2025年4月21日号 週刊「世界と日本」2291号 より

米トランプ政権下での

 

米ロ急接近の戦略的背景と日本の選択

 

笹川平和財団上席研究員

 

畔蒜 泰助

あびる たいすけ

1969年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、モスクワ国立国際関係大学修士課程修了。東京財団研究員、国際協力銀行モスクワ事務所上席駐在員を経て現職。専門はユーラシア地政学、ロシア外交安全保障政策、日露関係。著書に『「今のロシア」がわかる本』、『原発とレアアース』。監訳本に『プーチンの世界』がある。

 米トランプ政権発足直後から米ロ両国が急接近し始めている。2025年2月11日、ロシア政府による米国人人質の解放を受けて、翌2月12日、米トランプ政権発足後、初めての米ロ首脳電話会談が行われた。これに続き2月18日にはサウジアラビアの首都リアドで米国側からはマルコ・ルビオ国務長官、マイケル・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官、スティーブン・ウィトコフ中東特使が、ロシア側からはセルゲイ・ラブロフ外相とユーリ・ウシャコフ外交問題担当大統領補佐官が参加する米ロ高官協議が開催されている。

 

 2024年11月の米大統領選に勝利したドナルド・トランプは、その選挙キャンペーン中からウクライナ戦争を早期に停戦させる意向を表明していた。そして2025年1月20日、米トランプ政権が正式に発足する前後から、ウクライナがNATO加盟すべきでないというロシアの立場に理解を示すなど、ウクライナや欧州諸国の頭越しに米国は従来の対ロシア政策の一大転換を図っているのだ。

 ここで2025年2月12日に行われた米ロ首脳電話会談後、ロシア大統領府が発表した文書を確認したい。

 「両首脳はウクライナ和平の可能性について話し合った。ドナルド・トランプは出来るだけ早く停戦し、危機を平和的に解決することに賛成した。一方、ウラジーミル・プーチンは紛争の根本原因を取り除く必要があると指摘し、平和的な交渉を通じてのみ持続可能な和平に達することができるという点で、ドナルド・トランプ大統領と同意した。また、中東和平、イランの核開発計画、ロシアとアメリカの二国間経済関係の問題も会話の中で取り上げられた。」

 また、2月18日の米ロ高官協議後に米国側が発表した文書によると、米ロ両国は以下の点で合意している。

 ・在外公館機能の正常化・ウクライナ停戦・和平を巡るワーキング・グループのメンバー選定・立ち上げ・ウクライナ紛争終結の成功によって生まれるであろう、地政学的な相互利益と歴史的な経済・投資機会に関する将来の協力のための土台作り

 ここで注目すべきは、米ロが一連の交渉において①ウクライナ停戦・和平、②相互利益のある地政学的問題での協力、③経済・投資分野での協力という三つの柱を同時並行的に行っているという点である。

 但し、①についてはやはり2月12日の米ロ首脳電話会談でのロシア側の発表文書から判断して、米国が「出来るだけ早い停戦」を志向しているのに対して、ロシアは停戦の前に「紛争の根本原因を取り除く必要がある」と主張しているなど、米ロ両国にはその時間軸も含めて明確な違いがある。

 

 2025年3月18日の二度目の米ロ首脳電話会談において、エネルギー関連施設への30日間の攻撃停止に合意する一方、アメリカがウクライナとの間で合意した30日間の停戦には応じないなど、米ロ両国の立場の違いは既に鮮明に現れている。ウクライナや欧州諸国は、戦況で有利に立つロシアが意図的に停戦を先延ばしにしているとの批判を積極的に仕掛けている。米国でもトランプ大統領自身、停戦交渉のスピード感に不満を抱いていることから、ロシア産石油・ガスの取引に追加制裁の可能性を示唆している。

 それにもかかわらず、一連の米ロ急接近のトレンドは、今後、紆余曲折はあるものの反転はないと見ている。米トランプ政権は自らの戦略的必要性から従来の対ロシア政策の一大転換を余儀なくされているからだ。これを理解する上で参考になるのが、ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官がまだ下院議員時代の米大統領選挙直前に英エコノミスト誌に寄稿した共著記事の中の次の一節である。

 「次期大統領は、ウクライナと中東の紛争を速やかに終結させるために緊急に行動し、最終的に戦略的に注意をすべきこと、即ち中国共産党のより大きな脅威に対抗することに集中させるべきである」と述べている。

 つまり、米トランプ政権はもはや世界のあらゆる場所に軍事的に関与する余裕はなく、一日も早く欧州(ウクライナ)と中東での紛争を終結させて、米国にとって唯一の戦略的競争相手である中国の潜在的な脅威に備える必要があるとの戦略観が根底にあるのである。

 

 ところで、前述の通り、米ロは①ウクライナ停戦・和平、②相互利益のある地政学的問題での協力、③経済・投資分野での協力という三つの柱を同時並行的に交渉していると指摘した。ここにおける②は前述した2月12日の米ロ首脳電話会談でのロシア側の発表文書から判断して中東和平問題やイラン核開発問題といった中東地域での米ロ協力であろう。

 前述したウォルツの「ウクライナと中東の紛争の速やかな終結」との指摘とピタリと符合する。米トランプ政権はロシアが直接の当事者であるウクライナでの停戦は勿論、中東地域、特にイラン核開発問題の解決においてロシアとの協力を必要としているのである。

 なお、ロシアは米ロ接近と引き換えに中国との戦略的関係を犠牲にすることは出来ないし、そのつもりもない。それでも米国がロシアと協力してウクライナと中東での紛争を終結さられれば、その戦略資源を中国が大きな影響力を有するインド太平洋地域に集中させることが出来る。ロシアもまた対ロシア制裁の部分緩和を受けて米国やその同盟国との経済・投資協力が復活すれば、ウクライナ戦争の勃発以降、中国への経済的依存度を著しく高めている状況を改善でき、あからさまに露中関係を悪化させることなしに、中国とのバランス・オブ・パワーを回復できる。

 とすれば、米トランプ政権が対中国戦略の一環としてロシアとの急接近を図る中で、我が国もまた、安倍政権時代の対ロシア積極関与政策を復活させるのか?それとも異端のトランプ政権の対ロシア政策の一大転換は成功しないと見て「今日のウクライナは明日の東アジア」との岸田政権が掲げたスローガンの下、引き続き欧州諸国と連携してウクライナ支援と対ロシア経済制裁という従来の対ロシア政策を継続するのか?早晩、どちらかの決断を迫られることになろう。

 


2025年4月21日号 週刊「世界と日本」2291号 より

権力未掌握の石破首相

 

夏の参院選前の攻防戦の行方

 

評論家 

ノンフィクション作家

 

塩田 潮

《しおた うしお》

1946年高知県生まれ。慶大法卒。雑誌編集者、月刊『文藝春秋』記者などを経て独立。『霞が関が震えた日』で講談社ノンフィクション賞受賞。『大いなる影法師』、『昭和の教祖 安岡正篤』、『日本国憲法をつくった男 宰相幣原喜重郎』、『憲法政戦』、『密談の戦後史』、『内閣総理大臣の沖縄問題』、『危機の権力』、『解剖 日本維新の会』、『大阪政治攻防50年』。近著に『安全保障の戦後政治史』など著書多数。

 3月31日に2025年度予算が成立し、翌4月1日、石破茂内閣が半年を超えた。

 戦後80年、実質的な少数与党政権は、1955年の自民党結党の前の吉田茂内閣(第5次・約1年7カ月)と鳩山一郎内閣(約11カ月)、それと30年前の94年の羽田孜内閣(約2カ月)、現在の石破内閣の計4例だ。

 少数与党政権で半年超の在任は70年ぶりである。石破首相は半年の政権担当を振り返って、誤算続きと受け止めているのか、計算どおりと見ているのか。

 

 24年10月の「いきなり解散」による総選挙は、選挙後の11月に取材した森山裕自民党幹事長によれば、首相、幹事長とも、「負け戦覚悟での衆院選」という作戦だったと映る。

 選挙後、国民民主党との政策協議方式での「自公国」3党体制、25年度予算に関する日本維新の会との協調路線の「自公維」3党体制と、綱渡りの与野党連携を繰り返し、24年度末にたどり着いた。

 自民党内の反対勢力の石破降ろしの動きも何とか不発に押さえ込んだ。少数政権は野党の協力が不可避だが、反石破側には、現状では石破首相以上に野党の支持を得られる代替候補が見当たらないという弱点がある。

 負け戦覚悟の首相側の深謀遠慮も効果的だった。超早期の衆院選だと、痛手は反石破勢力のほうが大きいと読み、首相自身は逆に新型自民党への転換の主役にと目論んだふしがあった。結果的に狙いどおりとなった。

 結局、石破首相はこの半年、おおむね計算どおりと受け止め、この先、安全運転第一の政権運営で、最短でも7月の次期参院選までは政権継続、と踏んでいるのではないか。

 そこまでで、政権をめぐる攻防戦は「①4月の衆議院解散と5月の衆院選、②連立組み替え、③石破降ろし成就による自民党総裁選、④会期末前の石破内閣不信任決議案の提出と可決による解散、⑤衆参同日選」の5つの場面が焦点となる。

 この点について、首相は予算成立後の4月1日の記者会見で、③を除いて、「現在考えているものでは全くございません」と否定した。今後、何が飛び出すのか、予測不能の面はあるが、参院選まで「特別の仕掛けなし」で政権継続可能と判断したのだろう。③も、前述の党内事情を前提に、起こりそうにないと見たに違いない。

 

 野党各党も「次の一手」で決定打を欠く。

 立憲民主党には「内閣不信任案の提出・政権交代」というカードがあるが、参院選は相手が石破首相のほうが有利という計算から、不信任案可決による衆議院解散と衆参同日選は避けたいというのが本音で、及び腰だ。

 維新も動きが鈍い。4月13日に開幕した大阪・関西万博が終わる10月までは、中央政界での政争への参戦は見合わせという空気だ。自民党との関係では、2月の取材で、共同代表の前原誠司氏、参議院議員会長の浅田均氏とも、「連立はない。それをやればわが党は消えてなくなる」と明言した。万博後は不明だが、現在はこれが基本路線である。

 もう一つ、高人気の国民民主は、次の参院選での連続勝利が最重要目標で、参院選前の政変は視野にないと見る。独自路線で、与党とも他の野党とも距離を置く方針のようだ。

 石破首相は国会会期中、政権強化の対野党工作などを自ら仕掛けたりせず、アメリカの関税政策よる経済悪化への対策、懸案の企業・団体献金問題、新しいテーマの「能動的サイバー防御」の関係法案、選択的夫婦別姓案など、重要課題に対処する構えである。

 重大な失敗がなければ、政権は参院選まで持ちこたえる可能性が高い。石破交代も含めた政変は、参院選の結果次第という展開となりそうだ。

 

 隠れた問題点は、安全運転第一の石破首相が賞味期限とならないかどうか。期限切れを招かないポイントとして、首相が自己認識すべき点が2つある。

 第1は「実質的最高権力」の掌握だ。

 表向きの形式的最高権力の保持者は、いうまでもなく首相だが、実質的に政権を左右する決定的な最高権力を時の首相が手にしているとは限らない。

 「1強」だった第2期の安倍晋三首相はほぼ全期間、形式と実質の両面で最高権力を確保していたが、岸田文雄前首相は在任中、一度も実質的最高権力を手にできなかったのでは、と見た人が多かった。少数与党政権の石破首相も、もちろん現在、未掌握だ。

 少数政党並存政治では、実質的最高権力は漂流状態となる場合が多い。その争奪についても、「1党支配」や「2大政党政治」「1強」とは本質的に異なる方程式が生まれる。

 

 実質的最高権力の掌握も、新型リーダーとしての資質や発想、才腕が必要だが、その武器となるのが第2のポイントの「民意との結託」である。

 一言で民意といっても、価値観が多様化した現代の日本社会では民意の把握、吸収、実現は簡単ではない。

 注目の的は国民民主だ。衆院選で「手取りを増やす」「対決よりも解決」を叫び、特に39歳以下の若者層の強大な支持を獲得した。

 経済の分野も含め、ミクロ政策での強力なアピールが推進力となっている感が強いが、玉木雄一郎代表はその点について、25年2月末の取材で、「わが党以上にマクロ経済政策を重視している党はない」と強調した。その姿勢は的を射ている。

 少数政党が並存する「緩やかな多党政治」では、国民民主に限らず、各党とも、「民意との結託」はマクロ政策を含めた「大きな政治」が決め手となる。

 個別の具体的な政策を取り上げる「小さな政治」も重要だが、政治・経済・社会などの将来像と達成のシナリオ、世界の中での日本の役割と使命など、立国の基本路線を軸とする「大きな政治」が民意の動向を左右する。

 「大きな政治」で各党が民意の争奪戦を演じる流れになれば、政治大変動と政党大再編が現実となる。むしろ大変革後の新しい政党政治に期待したいが、もしかすると25年7月の参院選の直後、開演のベルが鳴り始めるかもしれない。


2025年4月21日号 週刊「世界と日本」2291号 より

パナマ運河返還を巡る米パ紛争

 

歴史に翻弄されたノリエガ将軍

 

ジャーナリスト

 

千野 境子

《ちの けいこ》

横浜市生まれ。1967年に早稲田大学卒業、産経新聞に入社。マニラ特派員、ニューヨーク支局長。外信部長、論説委員、シンガポール支局長などを経て2005年から08年まで論説委員長・特別記者。現在はフリーランスジャーナリスト。97年度ボーン上田記念国際記者賞を受賞。著書は『戦後国際秩序の終わり』(連合出版)ほか多数。近著に『江戸のジャーナリスト 葛飾北斎』(国土社)。

ウクライナ停戦、関税賦課、グリーンランド買収、ガザ再開発、カナダ併合、不法移民追放…次々と「標的」を定めて我が道を突っ走るトランプ大統領。具体的な成果は未だの感もあるが、パナマ運河ディールには米軍のパナマ侵攻と独裁的指導者ノリエガ将軍の失墜が思い出される。米国はパナマ運河奪還に再び武力行使するのだろうか。

 

 トランプ氏は大統領就任前から今まで、通航料金への不満に始まって運河を取り戻すためには軍事力行使も排除せずとの強硬発言を続けて来た。相手の反発など歯牙にもかけない。

 しかし政権も100日を前にディール外交の正体もかなり見えてきた。最初に暴言や妄言で耳目を集めてディールが始まる。本音や本意は後回しだ。

 パナマ運河も本音は運河支配、即ち管理権の獲得であり、それを嚆矢に中南米から中国の影響力を排除する。最終目標は締め出しと考えられる。

 相手側から総スカンのグリーンランドやカナダと異なり、パナマ運河は3月初め、運河の太平洋側バルボア港と大西洋側クリストバル港の2港を運営する香港系複合企業CKハチソン社が、米投資会社へ株式の大半の売却で合意した。実現すれば米国には大きな得点だが、ここへ来て中国がCKハチソンと関係のある企業と協力しないよう国有企業に指示するなど売却阻止に圧力をかけ、着地点はまだ不透明だ(本稿執筆時点)。これもディールの一環だろう。

 

 また2月にはヒスパニック系のルビオ国務長官が初外遊先として中米5カ国を歴訪した。パナマを含む4カ国は近年、外交関係を台湾から中国に乗り換えた国々で、狙いが中国の影響力排除にあるのは明らかだ。歴訪はそのための第1歩だった。

 パナマのムリーノ大統領はルビオ長官訪問後、すぐに中国の「一帯一路」構想参加へ今後見合わせることや、不法移民の受け入れに前向きの対応を表明した。パナマ側の譲歩と言えるが、米国は感謝や見返りを与えるどころか、運河支配へ攻勢をさらに強める構えを見せており、譲歩は対トランプ・ディールで裏目に出た形だ。

 なぜムリーノ氏は「パナマ・ファースト」を掲げ「アメリカ・ファースト」に対抗しなかったのか。トランプ氏は第1期政権でもパナマに運河返還要求をしており、当時のバレーラ大統領の「静かな外交」を見習ったのかもしれない。あるいは今回、関税戦争に突入しかねないカナダ式対応を避けたのだろうか。

 

 パナマ運河を巡る一連の動きを眺めながら改めて思い出すのは、最高実力者として独裁的権力を揮ったノリエガ将軍(1934~2017)のことである。同将軍の去就を巡って米パ関係が対立・緊張を深めていた1989年11月、私はパナマシティーの国防軍司令部でインタビューにこぎつけた。小柄ながら糊の効いた軍服姿はサマになっていた。「パナマと将軍の将来について」という最後の質問への答えは、思えば暗示的だった。

 「国はその持てる労働能力と地理的条件に左右される。ちょうど日本が敗戦の廃墟の中から見事に蘇ったように、パナマもたとえ政府は変わろうが、その位置は変わらず国家は永遠である。私個人の今後については神のみぞ知るということにして頂く」

 翌12月、米軍はパナマに侵攻。将軍配下の国防軍の名実共に解体を目指し、国防軍司令部は爆撃で瓦礫と化した。ノリエガ氏はと言えば、逮捕され米国で長い収監生活の後、母国で生涯を終えた。

 

 パナマ運河は、ノリエガ氏がまさに言うように地理的条件によって世界のハブとして国家の存立基盤となり、しかしそれゆえに対米関係に翻弄される歴史を歩んだ。もともとは1869年にスエズ運河を建設したフランス人外交官レセップスらの建設が挫折し、1903年に米国が当時コロンビアから独立したばかりのパナマと条約を結んで建設を再開、難工事や伝染病流行の末に1914年に完成した。

 この工事で米国人3万人が犠牲になったとのトランプ発言は1桁多くフェイクだが、米国の功績が大きいのは確かだ。条約も米国が運河の管理・支配権を永久に持つとした。

 しかしパナマにすれば、運河地帯はパナマの土地であり条約により主権が及ばないのは不当だ。建設当初からのこうした不満は時代と共に高まり、1959年には運河地帯に入りパナマ国旗を掲げようとした抗議運動が流血を伴う事態にまで発展した。

 

 米パの長い確執が終わるのは、1999年12月31日を以って運河のパナマ側への返還を謳った新パナマ条約に、カーター大統領とトリホス将軍が1977年に署名調印したことだった。

 「私は天国に入りたいとは思わない。私が望むことはただ(パナマ)運河地帯に入ることだ」とは、トリホス氏の墓碑銘だ。パナマ人の悲願を象徴する文言であり、パナマ民族主義の父として国民から仰がれてきた。トリホス氏の後ろ盾で成り上がったノリエガ氏とは大違いである。

 それほど大切な運河なのに、パナマがトランプ政権の要求に抵抗せずに譲歩するのは何故か。ノリエガ氏と米軍侵攻の悪夢がパナマの人々の深層心理に残っていると見るのは思い過ぎだろうか。

 当時、国民の大半は独裁者の失脚に歓喜し街頭に繰り出したが、圧倒的な力による追放と破壊、混乱は米国への複雑な思いを抱かせ、二度と経験したくないトラウマともなった。

 

 一方米国では新パナマ条約の批准が難航し、以後共和党や保守派を中心にカーター氏への恨みも返還要求も脈々と続いてきた。ただトランプ氏以前の大統領は声を上げなかっただけである。

 米パの話に終始してきたが、パナマ運河はスエズ運河と並ぶ今尚世界の二大物流の要衝であり、年間通航隻数は1万3003隻、利用国(重量ベース)は①米国②中国③日本④チリ⑤韓国(いずれも2022年会計年度)で、日本・アジア諸国には南北米貿易に不可欠のルートだ。中国の存在感は数字からも歴然である。

 米パの攻防は続く。パナマは対中経済依存の脱却も迫られるだろう。米国は力を以ってすれば運河地帯の支配は容易い。だが米国がそれで失うものはずっと大きいはずだ。

 


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