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2024年7月8日号 週刊「世界と日本」第2273号 より

混迷・分断の世界情勢

 

「潔癖症の時代」を生きる

 

日本大学 危機管理学部教授

先﨑 彰容

《せんざき あきなか》

1975年東京都生まれ。専門は近代日本思想史・日本倫理思想史。東京大学文学部倫理学科卒業。東北大学大学院博士課程修了後、フランス社会科学高等研究院に留学。著書に『未完の西郷隆盛』、『維新と敗戦』、『バッシング論』、『国家の尊厳』など。

 

 いつの時代もそうなのかもしれないが、最近、特に「怒り分断」が私たちを取り巻いている気がする。

 露ウ戦争と中東激変は、欧米と反欧米の対立軸を鮮明化している。六月十一日、ロシア西部の都市ニジニ・ノブゴロドでBRICS外相会議が開催された。BRICSとはロシア、ブラジル、インド、中国、南アフリカによって二〇〇六年に設立された経済圏であり、その後、エジプト、イランなど中東諸国も参加を表明し、規模を拡大している。そのわずか一週間前、バイデン大統領とゼレンスキ—大統領の姿はパリにあった。第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦八〇周年記念式典に参加し、対ロシア連帯を確認したのである。G7の一員であるわが日本にとって、自由と民主主義に基づく豊かな資本主義社会は、自明の正義に思える。だが世界が直面しているのは、その正義が「自明」でもなんでもないという事実なのだ。

 

 とりわけ筆者が注目したいのは、BRICSに、ロシアや中国などに加え、中東諸国が加わっていることである。中東は複雑だ。イランが反米的価値観の国であることは自明としても、エジプトなど近代化を一定程度受け入れた国の方に注目したい。近代化した中東をみて、私たちは「こちら側」に来たと思いがちである。だが実際は、国内に大きな貧富の格差を生み出した結果、経済的ゆたかさの恩恵にあずかれない多くの国民にとって、自国の欧米化は違和感しかもたらさない。違和感とは、実際の金銭的不如意よりも、むしろ自分が蔑ろにされているという感覚である。すなわち「尊厳」が傷つけられているのだ。社会の片隅で貧しく暮らす人たちからみれば、近代化=欧米化とは、一部の者たちが浴びるほど喰い、夜更けまで遊び、男女が堕落した関係に溺れる社会にみえる。つまり欧米化は人間の堕落とおなじである。こうした気分を抱えて、都会でその日暮らしをし、孤立した個人に「宗教的なもの」が魅惑的に思えるのは当然である。かつて、この国の人びとはもっと誠実であり、品行方正であり、隣人を気遣った。男女には慎みがあり、宗教的にも敬虔であった。にもかかわらず、アメリカがこの地を席巻して以降、堕落の一途をたどっているのではないか—表面上、欧米化した国内に反欧米の空気が漲りつつある。中東国民は、それぞれが置かれた立場によって、「怒りと分断」を深めているのだ。

 

 より身近な事例に眼を転じてみよう。日本国内でも、LGBT法案可決の是非にはじまり、選択的夫婦別姓をめぐる左右の対立、補欠選挙における異常な選挙妨害など、「怒りと分断」は先鋭化している。一つひとつの事柄に、筆者なりの意見も立場もあるが、ここで指摘しておきたいのは「思想的経緯」である。言いかえれば、眼の前の事象は、ここ数十年の歴史を俯瞰しない限り、よく理解できないということだ。どうして現在のような状況が生まれているのか、一九六〇年代にまで遡ってみてみよう。

 「一九六八年」が、世界的規模で若者たちの反乱が起きた年であることは有名である。第二次世界大戦が終わり、東西冷戦の最中ではあったが、資本主義はそれなりの成熟段階を迎えていた。従来の左翼運動に代わり、「新左翼」と呼ばれる思想が登場したのが、この時期である。では何が新しかったのか。従来の左翼は、共産主義に典型的なように、階級闘争を中心としていた。ブルジョアとプロレタリアートとは、要するに経済的強者と弱者のことであり、弱者による政権奪取こそが革命の大義だった。労働組合運動は、社会的保護と富の再分配を要求したし、共産主義陣営こそユートピアに他ならなかった。それは資本主義の止揚や国家の革命による解体を目指す「大きな物語」を描くことに特徴があった。

 

 一方の新左翼の新しさは、政治の主題を、より個別の問題へと絞っていった点にある。「大きな物語」に代わり、新左翼が訴えたのは個人の「尊厳」の尊重だった。黒人差別、フェミニズムなどの女性の権利要求、性的少数者の権利擁護などがそれである。特徴は、彼らが不当だと主張するものが、生得的な特徴だという点にある。肌の色や女性であることは後天的ではないし、性自認も同じである。男性には決してわからない、あるいは当時者以外には理解しがたい特徴を、シモーヌ・ド・ボーヴォワールは「生きられた経験」と名づけ、左翼運動の支柱に据えた。私たちの社会には、夥しい数の不正が存在する。それを一つずつ論い、糾弾し、虐げられてきた側の権利を貫徹することが目指される。共産主義の「大きな物語」が資本主義や国家など、政治経済システム全体の革命を主張する運動だったのにたいし、新左翼は、資本主義の勝利を前提したうえで、個別細分化した反権力闘争を行うことになったのだ。

 その最たる一例を挙げよう。あるフェミニストによれば、女性に対する男性の性行為は、「レイプと性交は区別できない」のだという。性行為それ自体が、男性中心主義なのであって、批判されるべきなのである。

 

 この主張にこそ、現代社会を読み解くヒントがあると思う。すなわち、現代社会は、絶対的正義の貫徹を目指すあまりに、微細な差別や差異を許さない「不寛容な社会」になっている。少しでも「尊厳」を傷つけられると、瞬間的に「怒り」が沸騰し、糾弾運動がはじまる。正義は純粋化し、社会はグレーゾーンをなくし、誰もが言葉を発しにくくなる。生きにくい社会を生み出しているのだ。

 例えば衛生を求めて、三回手を洗うとき、人は正常であろう。だが百回洗えば、それは潔癖症という病になる。そして現代社会は、完全に「潔癖症の時代」になっているのではないか。余りに行き過ぎた正義感が、「怒りと分断」を社会に蔓延させているのだ。三回程度の手洗いが無難だという基準は、結局、「常識」という名の秩序にしか根拠がない。この「何となく正しい」という感覚、グレーゾーンこそ、今、最も失われている感覚なのである。

 


2024年7月8日号 週刊「世界と日本」第2273号 より

名目GDPがドイツに抜かれた!

 

ドイツの実態は?

 

作家 (独ライプツィヒ 在住)

川口 マーン 惠美 氏

《かわぐち まーん えみ》

85年シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。最新刊は『優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音』(ワニブックス)など著書多数。

 

 脱産業に向かってまっしぐらのドイツ。産業が逃げ出す一番の原因は電気代だ。電気は高いだけではなく、供給が不安定。最近、ドイツ商工会議所が無作為に抽出した1000社を対象に実施したアンケートでは、そのうち28%の企業が、昨年1年間に3分以上の停電を経験したと答えた。3分未満の停電は42%。つまり、7割が停電に見舞われている。

 家庭の冷蔵庫が3分止まってもどうってことはないが、高度な技術を駆使している製造業では、数秒の停電は致命的だ。いや、停電どころか、周波数が揺れるだけで大問題。印刷や紡織ではたちまち不良品が生じるし、作業途中で止まってしまったロボットは、通電したからといって勝手に息を吹き返すわけではなく、一から複雑な調整が必要になる。

 

 先のアンケートによれば、停電による経済的な被害は、1万ユーロ未満が32%、1万から10万ユーロが15%、それどころか2%の企業では、10万ユーロ以上だったという。ところが、ドイツで送電を担当している連邦ネットワーク庁は、3分未満の停電は把握していないとか。電気事情の劣悪さを隠すためであるとしか思えない。そういえばドイツ鉄道の統計でも、6分未満の遅延は“定刻”とカウントすると決めている。

 いずれにせよ、極めて質の高い電力を要求する産業界にしてみれば、これではおちおち生産もできない。そこで起こっているのが、沈みかけた船からの脱出。直近だけでも、テュッセン=クルップ(鉄鋼大手)、BASF(世界一の化学コンツェルン)、メルセデス、ポルシェ、ミーレ(家電大手)、ケルヒャー(世界一の清掃機器大手)など、これまでドイツを牽引してきた優良企業が、製造過程の一部を海外に移転させ始めた。

 それどころか、若くて優秀な人間の流出までが急増している(この10年で63・5万人)。それにしても、なぜ、政府はここまで放っておいたのか? 皆が持つ疑問である。

 現ショルツ政権(社民党)は緑の党と自民党との3党連立だ。21年12月に成立して以来、功績はほとんど何一つ無い政権だが、それでも、産業衰退の全責任を彼らに押し付けるわけにもいかない。脱原発を前倒しにし、脱石炭を打ち出し、国民が気づかないうちにドイツを弱体化させ、しかも左旋回させたのは、何を隠そう、16年も続いたメルケル政権だった。

 ゆえに、産業界が“アフター・メルケル”のショルツ首相にかけた望みには、並々ならぬものがあった。特に、何年も前から脱原発による悪影響を警告していた彼らは、ショルツ氏が直ちに現実政治に舵を切り換えることを期待した。

 

 ところが蓋を開けてみたら、氏は忠実なメルケルの僕で、メルケル氏が水面下で行っていた産業弱体化政策を堂々と実行に移し始め、挙句の果てに、エネルギー危機の真っ最中に、緑の党の思惑通り、全ての原発を止めた。これにより、ついに産業界の堪忍袋のは切れ、投資家は匙を投げた。要するに、ドイツ経済にとっての決定的な不幸は、実は、現ドイツ政府であったといえる。

 中でも1番の問題人物は、元童話作家で、経済音痴のハーベック経済相(緑の党)。温室効果ガスを減らせば地球の温度が下がり、かつ、経済が上向くと確信している氏だが、実際のところ経済は急降下中。昨年11月、OECDはドイツの24年の経済成長を0・6%と予測したが、2月にそれが0・3%に、さらに5月には0・2%に下がった。まだ下がるかもしれない。3月6日のドイツの公的研究機関のifo経済研究所によれば、ドイツ経済は「麻痺した状態」で、他の欧州の主要国と違い、当面、伸びは期待できないという。

 

 一方、昨年、減少したのがCO2の排出。喜んだハーベック氏は記者会見で、「これこそが我々の政治の成果だ」と威張ったが、実は、その第一の原因は、エネルギー多消費産業が生産を縮小したり、国外に出たり、あるいは倒産してしまったことだった。不況になればCO2は減る。喜んでいる場合ではない。

 ところが、この経済音痴の経済大臣は、T Vのトークショーで「倒産の波」について質問されると、「いくつかの業種が生産を止めることはありうるが、倒産ではない」と真剣な面持ちで答えた。また、今年の2月、政府が過去の2年続きのマイナス成長を報告した後の国会答弁では、経済状態が悪いのではなく「数字が悪いだけだ」と言って失笑を買った。そうする間に緑の党の支持率は、前回の選挙時の半分にまで下がってしまった。

 ドイツ連邦統計庁の発表では、4月の破産の申し立て件数は、前年同月比で28・5%も増加(3月は12・3%)。昨年6月より10カ月連続で2桁の伸びだ。しかもドイツ政府は現在、深刻な金欠に見舞われている。税収が少ないわけではない。出費が多過ぎるのだ。そのため自民党のリントナー財相が各大臣に、それぞれ節税案を提出するよう求めたが、大臣の多くは聞く耳を持たなかった。

 経済相は再エネへの莫大な投資をやめようとせず、内相は難民援助を止める気はない。また、23年1月からお金のない人なら誰でももらえるいわゆるベーシックインカムを導入した労働相は、24年1月、その額をさらに引き上げたし、開発相は途上国に対する援助の増額を求め(22年は290億ユーロだった)、外相はさらに多くの武器をウクライナに送りたい。

 

 ドイツでは財政規律が基本法(憲法に相当)により厳しく定められており、新規借入がしにくい。そこで、これら財務の穴を塞ぐため、すでに猛烈な増税、あるいは補助金のカットなどが始まっている。その昔、絶対主義のイギリスやフランスでは、支配者が窓税や暖炉税といったとんでもない税金を徴収したが、O ECD諸国でドイツよりも税負担の大きい国は、今やベルギーのみ。新規に導入された炭素税、プラスチック税は、氷山の一角に過ぎない。

 そんな折り、ドイツが名目GDPで日本を抜いたというニュースが駆け巡った。

 しかし、これはドイツが日本を抜いたのではなく、日本が勝手に落っこちたのだ。そのうちインドあたりが、日本を抜き、さらにドイツを抜くだろう。共に経済成長の高みを極めたドイツと日本は、奈落も共にする? 何だか悲しい話になってしまった…。

 


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