特別企画
内外ニュースでは「特別企画チャンネル」において、週刊・月刊「世界と日本」の執筆者、東京・各地懇談会の講演、専門家のインタビュー記事等の情報を掲載して参ります。
2025年5月19日号 週刊「世界と日本」2293号 より
「地方創生2.0」成功の鍵は何か
(株)日本総合研究所
調査部主席研究員
藻谷 浩介 氏

《もたに こうすけ》
1964年山口県周南市(現徳山市)生まれ。地域エコノミスト。88年東京大学法学部卒業、94年米国コロンビア大学経営大学院卒業(経営学修士)。平成合併前の全3,200市町村、海外140カ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。地域振興、人口成熟問題、観光振興などに関し研究・著作・講演を行う。著書に『デフレの正体、里山資本主義』、近著に、『誰も言わない日本の「実力」』
地方創生以外に、「東京消滅」を止める手段はない
日本が直面している最大の問題は「少子化」だ。
日本の0~4歳の人口(居住外国人含む)は、半世紀前の1975年をピークに6割も減っている。そのため日本の20代は20年後には今の7割となり(というのも今の10歳未満は今の20代の7割しかいない)、50代は50年後には今の半分となる(というのも今の10歳未満は今の50代の半分しかいない)。
労働力不足が進むのはもちろんだが、供給面はAI(人工知能)やロボットの活用で何とかなるかもしれない。しかしAIやロボットは、供給はしても需要はしないので、需要数量の減少による「規模の利益の剥落」が、あらゆる分野で起きることは避けられない。少子化を放置するほど、日本の経済規模は縮小が不可避になっていく。
このような現実を直視しないどころか、「若者の減少は地方の問題で、東京は活力を維持できる」と思っている者たちもいる。しかし東京都の合計特殊出生率は1・0前後だ。一世代で人口が半減する水準なので、よほどの数の若者が流れ込み続けない限り、自前の子どもの少なさを補えない。仮に地方が消滅するなら、東京も消滅する。
空想を語っているのではない。2019年と24年の住民票(居住外国人を含む)を比較すると、東京都在住の15~44歳は3%減だった。そうなれば頼みは、都の昨今の手厚い少子化対策で、自前の子どもが増えることだが、同期間に都内の0~4歳は16%減である。しかも元凶は住宅環境なので、改善は見込みがたい。
土地が狭く地価も高い都内で、一般的な子育て世代が購入できる、あるいは借りられる価格の家では、そもそも多くの子どもを育てるスペースは確保できない。しかも都内には、中華圏からの富裕層の流入が続いており、空き家率が9%(11軒に1軒が空き家)もあるにもかかわらず、家賃も住宅購入価格も上昇を続けるばかりだ。こんな東京に若者が集まり続ければ、「少子化」はさらに加速する。
地方創生の障害は「思い込み」
さて、そのように語ると、頭が昭和のままの人たちほど、「地方には仕事がない」と言う。だが完全失業率(15歳以上人口に占める求職中の人の比率、2020年国勢調査)は、1700市町村のほぼすべてで3%以下であり、過疎地では0%台も当たり前だ。四半世紀続いた少子化に、75歳を超えた団塊世代の最終退職が重なり、国内に人手不足ではない場所など存在しない。
「地方の仕事には魅力がない」という人もいるが、東京都の就業者一人当たりの課税対象所得額(2023年)が500万円弱しかないことを知っているのだろうか。都内の居住費の高水準に比して余りに低いが、それは漫然と地方を捨てて都内に流れ込み、都内の小売サービス業を支える非正規労働の若者の多くが、最低賃金で働いているからである。同じ最低賃金労働者でも、住居費が安く近所の助け合いがある地方在住であったなら、もう少し暮らしやすいし、子どもも持てたかもしれないのに。
他方で消費面についていえば、昭和世代の頭の中に残る格差は、ネット通販が東京でも過疎地でも同じく普及したことで消滅している。地方都市ともなれば、ホームセンターや生鮮直売所がどこにでもある分、日常の消費環境は東京都心より豊かだ。
それでも、「子どもの教育環境を考えると、地方に住むのはありえない」という意見は強い。大地震などの天災の危険にもかかわらず首都機能や企業中枢の分散が進まないのも、この教育神話が最大の原因だ。
だが、世界の富裕層に、「教育環境がいいので、子弟は東京の学校に通わせる」と考える者は、ただの一人もいないだろう。世界に通じる人材が、日本の偏差値教育で育たないことは、世界の誰でも知っている。共通テストで英語が満点でも、実際には会話できない。議論となると、英語どころか日本語でもできずに原稿を読み始める。それが東京の「いい教育」を受けた者の実態だ。
大谷翔平は、余計なお受験競争のない地方で、自分で工夫することで育ったが、プロスポーツ選手やオリンピックのメダリストに、お受験の一般化した東京の山の手の出身者は極端に少ないという。
地方創生は、東京が地方に勝るとの、江戸時代の幕臣が持っていたような思い込みを改めることから始まる。東京で生まれ、いずれは東京で働こうと考える子どもでも、小中高のいずれかの時期に山村留学や離島留学などで地方で暮らしてみて、視野を多角化した方がいい。
地方創生の予算は都道府県に与えよ
ここで改めて注意を喚起したい。地方の若者の「上京を止める」のではなく、東京生まれの東京育ち、東京しか知らない「東京田舎者」になってしまっている若者を、少しでも地方に分散させることこそが、地方創生の要諦だ。分散といっても片道切符を与えるのではなく、地方と都会を数年ごとに行ったり来たりすることや、二地域居住を当たり前にすることこそが肝心となる。
しかしながら、国が予算をいくら増やしても、東京本社の「地方創生コンサル」が儲かるのでは意味がない。地方の隅々に、地元の事情を熟知しつつ奮闘する、志ある若者はいる。彼らにお金を回さなくてはならない。
ポイントは「使い方は地方に任せる」。現場を知らない霞が関の官僚の浅知恵で、使う方向を縛れば縛るほど、効果は出なくなる。竹下内閣の「ふるさと創生1億円」政策当時、石破氏は竹下登氏に「無駄遣いでは」と尋ねたそうだが、「それは違うんだわね。これによってその地域の知恵と力がわかるんだわね」と言われたそうだ。
その頃に比べても、今の自治体ははるかに真面目で賢い。地方創生の予算は人口や面積その他に応じた形で都道府県に配り、かつ単年度ではなく5年間などの機関を保証して、地方自治体が自らの意思と主導で使えるようにしていただきたい。
これが地方創生2・0が成功するための、最も効果的な早道である。
2025年5月19日号 週刊「世界と日本」2293号 より

《キュウ タイゲン》
1956年生まれ。1995年2月日本東京大学大学院医学系研究科修士。2022年8月国立台湾大学医学部名誉教授。2024年5月衛生福利部長に就任。
健康権は基本的人権であり、普遍的価値観でもある。健康の向上は、人々の福祉増進に関わるのみならず、世界各国の生存と発展にも影響をもたらす。昨年の第77回「世界保健機関」(WHO)年次総会は「世界保健総会 (WHA)2025―2028年度 第14次総合事業計画」(GPW14)を承認し、その中には「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジのためのプライマリ・ヘルス・ケアとエッセンシャル・ヘルス・システムの能力向上」の戦略目標が含まれ、各国に関連テーマへの行動を呼びかけた。
台湾は1995年に「全民健康保険」制度を創設し、それまで職業ごとに異なっていた保険制度を統合し、現在は保険カバー率が99・9%を超える「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を実践している。この30年間、台湾の人々に公平で、利用しやすく、かつ効率的な医療保障を提供しており、台湾社会の安定と人々の健康安全における重要な柱かつ保障となり、さらにはユニバーサル・ヘルス・カバレッジの模範となっている。同制度はグローバル・データベース・ウェブサイト「Numbeo」(ナンベオ)のヘルスケア指数ランキングで7年連続首位をキープしている。
台湾の健康保険の財務運営は、賦課制度、自給自足モデルを採用しており、保険料改革および財源の補充(たばこ健康福祉金等)を通じて、人口高齢化および医療コスト上昇といった財務的課題に効果的に対処し、制度の安定性と持続可能性を維持してきた。
台湾の国民の健康を持続的に向上させるため、台湾の頼清徳総統は2024年に「健康台湾」の政策ビジョンを提唱し、国民が健康になることで、国がより一層強くなり、世界も台湾を受け入れるようになることを期待した。これは、人を中心とし、家庭を核心とし、コミュニティーを基礎とする理念を有し、積極的に健康促進と予防保健のサービスを拡大している。例えば、「かかりつけ医プロジェクト」および「全ての人とコミュニティーのケア・プロジェクト」を通じて、慢性疾患患者に包括的ケアを提供している。また、遠隔医療を通じて過疎地域の医療サービスのアクセス性を向上させ、長期ケアと緩和ケアの一体化サービスを推進し、住み慣れた地域での居住を実現し、全方位的に、全ての人、全ての年齢層に尊厳あるヘルスケアを確保し、健康権の平等を真に実現する。
また、WHOは2021年に「デジタルヘルス2020―2025に関する世界戦略」を発表し、人を中心とするデジタル・ヘルス・プランを迅速に発展・運用していくことを提起した。そのプランを通じて、感染症の予防、測定と対処を行い、関連するインフラの構築とヘルスデータの応用で健康と福祉を促進する。台湾は引き続き、情報通信の優位性を運用し、健康保険クラウドシステムによる電子カルテ情報共有の効率化、FHIR(高速ヘルスケア相互運用性リソース)に準じた国際医療データ交換の推進、AI(人工知能)技術を活用したスマート医療の発展の推進などを含む、高コストパフォーマンスおよび効率的な保険システムとサービスを構築していく。バーチャル健康保険カードと「マイ・ヘルス・バンク」アプリにより、リアルタイム健康情報の管理を実現し、人々が健康に有益な選択をするよう促進していく。
2008年より、台湾は「医療技術評価」(HTA)を導入し、実証に基づき政策を策定している。それにより、新薬を迅速に健康保険に適用させることを促進できた。2023年にも初めて遺伝子と細胞の治療薬品が適用され、精密医療の先駆けとなり、患者の治療の選択肢が改善された。さらに、革新技術の運用により医療環境の改善をサポートし、スマート医療ケアを発展させ、全体の医療サービスの質と量を向上させ、人々により良いヘルスケアの質を提供していく。
台湾は政治的な課題に直面しながらも、常にグローバル保健実務に積極的に参画しており、グローバル保健システムを支持することに力を入れている。新型コロナウイルスの流行時、台湾は防疫物資、技術、経験を分かち合う際に極めて重要な役割を発揮し、世界各国から信頼される協力パートナーとなった。また、台湾の健康保険の経験は世界に貴重な鑑となるものである。台湾は引き続き全民健康保険、財務管理、デジタルヘルスなどの分野における成功の経験を各国と分かち合い、より多くの国々がWHOの掲げるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの目標を実現するのを協力していく。
目まぐるしく変化するこの時代に、健康はボーダレスな課題であり、グローバルな協力がさまざまな危機に対処していく重要な鍵となっている。ところが、中国は国連総会「第2758号決議」(アルバニア決議)とWHO総会「WHA25・1号決議」の2つの決議をことあるごとに曲解し、台湾を世界の最重要な保健協力システムであるWHOに参加できないようにしている。ここで注目すべきことは、この2つの決議は「台湾」あるいは「台湾が中国の一部である」とは言及されておらず、中華人民共和国にWHOにおける台湾の代表権を与えるものではないということだ。
国連の包容性と普遍性の核心的価値を実践するため、台湾はWHO及び関連各方面に対し、台湾の長期にわたるグローバル保健システムへの貢献を注視し、WHOがよりオープンな姿勢と柔軟性を持ち、専門的かつ包容性の原則を堅持し、台湾がWHO年次総会および「WHOパンデミック協定」の協議を含むWHOが主催する会議、活動、メカニズムに参加できるよう、WHOが自主的かつ実務的に台湾を招待するよう願っている。台湾は国際社会と引き続き手を携えてボーダレスな健康の未来を共に創出し、WHO憲章にある「健康権は基本的人権である」、並びに国連「持続可能な開発目標」(SDGs)にある「誰も取り残さない」のビジョンを共に実現していくことを心より望んでいる。
2025年5月5日号 週刊「世界と日本」2292号 より

《かつらぎ なみ》
東京都生まれ。東京大学農学部卒業。ジャーナリスト。防人と歩む会会長。皇統を守る会会長。予備役ブルーリボンの会幹事長。日本文化チャンネル桜、レギュラー出演中。産経新聞『直球&曲球』連載中。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社新書)、『日本の要衝・与那国を守る』(明成社)。
宮内庁は3月28日、4月から筑波大学に進学される悠仁親王殿下が、当面は東京・元赤坂の秋篠宮邸から車で通い、その後は様子を見て大学近くのつくば市内に民間の集合住宅を1部屋借りて使用していくと発表した。身の回りの世話をする職員は市内に常駐しないという。悠仁親王殿下のご成長を嬉しく思う一方、中学校時代には学校の机の上にナイフが置かれる事件等もあったことから、安全面での不安は拭えない。
そうした物理的な警護の問題もさることながら、同時に気にかかるのは、秋篠宮家、中でも悠仁親王殿下に対するバッシングのひどさだ。悠仁親王殿下への誹謗中傷は、SNSを中心に常軌を逸するといっても過言ではない。筑波大学生命環境学群生物学類へのご進学が決定する前には、「東大進学に反対するオンライン署名」が1万2000筆も集まるなど「いじめ」としか思えないようなことまで現実に起きた。
3月3日には、悠仁親王殿下がご成年をお迎えになっての記者会見が行われた。成人年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、昨年9月6日のお誕生日をもって成年を迎えられていたが、当時は進学の準備があったため、同時期の会見となった。「緊張しています」と仰りながらも、約30分、まったくメモを見ることもなく、記者ひとりひとりと目を合わせるように視線を動かしながら「成年皇族としての自覚を持ち、皇室の一員としての役割をしっかり果たしていきたい」等と述べられた会見のご様子は、とても18歳とは思えないほど頼もしいもので、さんざん秋篠宮家をたたき続けてきた女性週刊誌も称賛の声を送らざるを得ないほどであった。この会見をもって、SNSでのバッシングも吹き飛んだ…といいたいところであったが、残念ながら、そうはならなかった。中には悠仁親王殿下が「好きな女優やアイドル、音楽」といったプライベートな質問に対して具体的な回答を避けたことに対し、言うに事欠いて「秋篠宮家の言論統制」などと評する向きもあるから、その執拗さには呆れるばかりだ。
皇族が名誉棄損で自ら訴えることはできず、事実上、言葉の暴力によるサンドバック状態に陥っているといっていい。これを放置してよいのだろうか。
かつては日本にも皇族の名誉や尊厳を守るための不敬罪が存在したが、戦後の刑法改正により廃止されて今に至る。「不敬罪」を求めた吉田茂首相に対し、マッカーサーは「天皇には、一般国民に与えられる法律上の保護と全く同じ保護のみが与えられる」と不敬罪廃止を命じた。つまり、皇室への不敬な言動が野放しにされる元凶を作ったのは、GHQなのだ。
ここで読者のみなさんに思い起こしていただきたいことがある。皇統の危機が叫ばれて久しい。その原因となったのが、旧11宮家の臣籍降下であることをご存じだろうか。
現在、悠仁親王殿下と同世代の男性皇族が存在しないことから、悠仁親王殿下が将来ご結婚され、男子が誕生すればよいが、お子様が生まれない、もしくは女子ばかりであったとしたら、万世一系の皇統が潰える。いや、その前に、こんなことは決してあってほしくはないが、悠仁親王殿下の身に万が一のことが起きれば、同様の事態に陥る。
万世一系とは、「父親の父親の父親…」と父方のみをたどれば初代神武天皇に繋がる一系の血統が続いてきたということだ。126代となる今上天皇までお一方の例外もなく受け継がれてきたこの「たったひとつの決まりごと」こそ、天皇の正統性の根拠だ。
では、なぜその「万世一系の皇統」が脅かされるような事態に陥ったのか。昭和21年5月21日、GHQにより「皇族の財産上その他の特権廃止に関する総司令部覚書」が発令され、当時14あった宮家への歳費支出は昭和21年5月分をもって打ち切ると通告された。また課税の免除もなくなる等、皇室は経済面で苦境に立たされることになった。この苦境を乗り切るためには、皇室の規模を小さくするよりほかなく、昭和天皇の弟宮である三直宮家(秩父宮家、高松宮家、三笠宮家)を除く11宮家が皇籍離脱することになったのだ。そして、昭和22年10月13日、あたかも自主的に臣籍降下したかのような体をとりつつ、実際は11宮家がやむなく皇籍を離脱したというのが真相であった。
この臣籍降下さえなければ、現在の皇位継承問題は生起していない。なぜなら、旧11宮家には悠仁親王殿下と同世代の男系男子が何人も存在するからだ。宮家とはそもそも皇位の安定継承のために設けられているもので、直系の後継ぎが存在しなかった場合に、傍系、つまり宮家から皇位を継承するためにこそ存在している。皇室の藩屏であったはずの宮家をばっさりと臣籍降下させたところに、GHQの「皇統を先細りさせ、ゆくゆく断絶させる」という深謀遠慮が透けて見える。
不敬罪の廃止によって、日本人の精神的中心である皇室への尊崇の念を褪せさせ、旧11宮家の臣籍降下によって皇統そのものの断絶に向けて時限爆弾をしかける。いずれも日本の弱体化という目的において通底している。
皇室を守ることは、すなわち日本を守ることだ。他国の圧力によって変えられたルールは、日本人自らの手であるべき姿を取り戻していくべきであろう。バッシングを野放しにすれば、天皇を中心とする皇室と国民が君民一体となって紡いできた国柄が激しく損なわれ、皇位継承問題を解決しなければ皇統が断絶しかねない。いずれにしても「日本が日本でなくなる」と言っても過言ではない事態を阻止すべく、政府と国会は危機感を持ってこの問題に対処するべきだ。また、私達国民も「時代の歯車を自ら回す」気概を持って、政府や国会が動かざるを得ない世論を作っていかなければならない。