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刻々と変化する国際情勢を各国の政治・経済など様々な視点から考察する。

2018年6月18日号 週刊「世界と日本」第2127号 より

台湾を取り巻く国際環境

 

台北駐日経済文化代表処代表 謝長廷 氏

 日本の隣国である台湾を取り巻く国際環境の変化は、日本にとっても他人事ではない。台湾はすでに自由、民主主義、法治、人権といった普遍的価値観を重視する民主国家であり、日本とも価値観を共有している。台湾の人々は、このような民主的な社会の現状を維持したいと願っている。しかし、近年、台湾をめぐる情勢の変化が次々と起こっている。

《しゃちょうてい》
1946年台北市生まれ。国立台湾大学卒業。大学在学中に弁護士試験をトップの成績で合格。司法官試験も合格。74年日本・京都大学法学修士後、同大学博士課程修了。台北市議会議員、立法委員(国会議員)、高雄市長を歴任。民主進歩党主席、行政院長(首相)、07年第12代総統選挙民主進歩党候補者、16年6月より現職。

中国の一方的な航空路運用

 今年1月4日、中国は台湾との事前協議なく、一方的に台湾海峡の中間線に極めて近い北上航空路の運用を開始した。台湾と中国当局は2015年に協議を経て同北上航空路を暫時運用しないことに合意していたにもかかわらず、一方的な航路運用開始は、合意に反する上、台湾海峡中間線という緩衝地帯に緊張が高まる恐れがある。
 4月中旬には、蔡英文総統が外遊に出かけたタイミングで、中国空軍の爆撃機が台湾周辺空域を飛行した。さらに、その後も軍機飛行による挑発が続いている。台湾は軍事的緊張の高まりを望んでおらず、両岸間の前提条件なしの対話再開を呼びかけている。
 にもかかわらず、中国は5月にドミニカ共和国と西アフリカのブルキナファソに多額の援助を与え、その引き換えに台湾と断交させた。

利益誘導といやがらせ「シャープパワー」とは

 前述の有形の威嚇を含む「ハードパワー」、文化などによる「ソフトパワー」に加え、近年は「シャープパワー」というキーワードが注目されている。「シャープパワー」とは、利益誘導といやがらせをセットに相手国に影響力を与えるやり方のことだ。中国は「シャープパワー」を駆使して各国の民間企業にも影響を与えようとしている。
 一例を挙げると、最近では航空会社などの国際企業が、地図や国別欄などで「台湾」を国扱いしていたとして中国側から訂正を求められる事件があった。これらの企業の一部は、中国での事業を継続するために当局の意向に従って「訂正」に応じ、謝罪した。シャープパワーで脅かされた企業の多くは、事実を曲げてでも中国当局を怒らせないよう気を使うようになる。
 米国国務省がこの件に関して声明を発表し、「中国共産党の政治的立場の強制」を、「全体主義のばかげた措置だ」と一蹴し、強く抗議した。

優遇の衣をまとった31項目対台湾措置

 一方で、中国はこのほど台湾に対する31項目の措置を発表した。これらは台湾企業の投資、土地・税率、銀行の営業、教育研究、文化映像産業、公益・医療などに関するもので、中国側から言わせれば「優遇措置」であるが、実際には実利で台湾の資金、人材、技術を吸収し、台湾内部を分断し、中国の影響力を高めることが目的といえる。
 台湾は、この31項目の措置に対応するために、学術研究環境の改善、起業の後押し、従業員の報酬アップ、医療従事者の就労環境改善、業務上の秘密保持強化、産業高度化、株式市場の活性化、映像産業の発展強化など8つの具体策を講じ、台湾自身の実力を強化していく。
 両岸の交流と協力は、対等かつ互恵の原則に基づくべきであり、中国は台湾から進出する企業および個人に対して、投資の権益、生命・財産の安全、人身の自由を保障すべきである。

CPTPPと台湾旅行法

 最近、米国と中国の貿易摩擦の懸念が国際社会で高まっている。台湾も日本も、米中双方と経済関係が密接であり、米中対立の影響から逃れられないが、台日が互いに協力し合うことで、影響を少しでも抑えることは可能だ。
 とりわけ、日本主導で3月8日にチリで調印されたCPTPP(包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ協定)は、米中以外の環太平洋諸国との多国間経済連携であり、米中対立の衝撃を和らげる役割を果たすことが期待され、台湾も参加を望んでいる。
 台日経済関係は、サプライチェーンの補完関係が確立されており、台湾のCPTPP参加または日本との経済連携強化は、日本にも必ずメリットをもたらすと確信している。
 また、台米間の政府高官を含む相互訪問交流を奨励する米国の法律「台湾旅行法」が、3月16日にトランプ大統領が署名して成立した。これは台米関係の大きな進展である。同法成立後に訪台したアレックス・ウォン国務次官補代理は、「米国の台湾への支持は変わらず、台湾の人々との関係を強化し、台湾が民主主義制度を守れるように支えたい」と強調した。
 蔡英文総統が「自由と民主主義は台湾の生存の道であり、平等と互恵こそが両岸の健全な発展のカギである」と強調しているように、台湾は中国大陸とは法律や社会制度が異なる。
 「国境なき記者団」が発表した2018年度の世界報道自由度ランキングによると、180カ国の中で台湾はアジアで最も高い42位だったのに対し、中国はワースト5の176位だった。「自由と民主主義」は、台湾が極めて重視する核心的価値観である。

WHO参加は世界の「共生」のため

 両岸社会に違いがあるとはいえ、敵対する必要はない。互いに尊重し、平和的に「共生」する関係であるべきだ。しかし、中国はWHO(世界保健機関)の年次総会への台湾の参加にも反対し、WHOおよび加盟各国に対し台湾の参加を支持しないよう圧力をかけた。
 健康に国境はなく、台湾は「すべての人の健康」を目的とするWHO関連活動に参加する権利があり、台湾の民選政府だけが台湾2300万人を代表する資格を有する。台湾との「共生」を拒み、排除しようとする中国の威圧的なやり方は、台湾の人々および国際社会の共感は得られない。
 台湾のWHO参加に関し、日本政府をはじめ各界の支持に深く感謝の意を表したい。
 台湾は先進的な医療技術を有しており、世界各国に派遣された医療チームが現地に貢献している。台湾がWHOに支障なく参加できれば、国際社会との連携は一層スムーズになり、より多くの貢献ができる。
 台湾と日本は、自然災害等が発生した際にお互いに助け合う「共生」の関係がすでに形成されている。それは形式や政治を超越した「善の循環」により、温かい関心を寄せ合う「運命共同体」の意識まで高められたもので、世界平和の模範といえる。今後は、政府間でも両国の発展と世界平和のために、できる限り高いレベルまで堂々と交流できるようになることを願っている。


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