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刻々と変化する国際情勢を各国の政治・経済など様々な視点から考察する。

2020年9月7日号 週刊「世界と日本」第2180号 より

3カ月に迫った 米大統領選挙
確率は4割 トランプ再選

 

(公財)笹川平和財団上席研究員 渡部 恒雄 氏

《わたなべ・つねお》

1963年生まれ。東北大学歯学部を卒業。歯科医師を経てニュースクール大学(米国ニューヨーク市)で政治学修士。戦略国際問題研究所で上級研究員を務めた。2005年に帰国、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、現職。戦略国際問題研究所非常勤研究員を兼任。近著に『大国の暴走』(共著、講談社)がある。

 

 11月3日の大統領選挙投票日まで3カ月となった。今回の選挙の特徴を一言でいえば「コロナ選挙」である。まず新型コロナ感染拡大が、経済成長の実績を訴えて再選を確定させようという現職のトランプ大統領の目論見を狂わせた。一方、コロナによりチャンスが転がり込んだバイデン前副大統領陣営だが、感染拡大防止のため大規模な集会は開催できず、スター性のあるカマラ・ハリス上院議員を副大統領に指名しながら、全国大会はウェブ上で行わなくてはならない。

 

 さらに投票所での「密」を避けて感染拡大を防ぐために、各州がそれぞれに、郵送による事前の不在者投票を拡大できるようにルールを大きく変えていることで、開票の混乱が予想されている。これに輪をかけているのが、郵送による投票は外国勢力の干渉を招きかねないという根拠のない理由で、トランプ政権が制約しようとしていることだ。民主党側の反発と相まって、選挙結果が接戦の場合は、勝者の確定まで、数日、数週間、あるいは数カ月、そして2000年のような裁判にもつれこむ泥仕合が懸念されている。

 異例の状況下、執筆時点(8月17日)では挑戦者のバイデン前副大統領が優位にある。5月の本紙への寄稿で、筆者は、全米の世論調査の平均はトランプ対バイデンで、43.2%対47.7%とバイデン有利だが、「賭け屋」の予想では50.5%対41.8%と現職優位であり、選挙までに経済に一定の回復があれば現職のトランプ優位で、大恐慌レベルの経済危機となれば挑戦者バイデンが優位、その間の場合は予想不可能な接戦と予想した。

 現在、米国の失業率は10%を超え、深刻な経済危機下にあるため、現職のトランプが苦しみ、挑戦者のバイデンが優位に立っている。全米の世論調査の平均では、トランプ対バイデンは42.8%対49.8%と、5月とそう変わってはいないが、「賭け屋」の予想では、トランプ対バイデンは、41.6%対56.6%と、バイデン優位に逆転した。プロ(賭け屋)の予想が、トランプ優位から、バイデン優位に変わったのである。

 賭け屋の予想がバイデン優位に変わった日付は6月1日である。この日、トランプ大統領は、5月25日に黒人のフロイド氏が白人警官に首を圧迫されて殺害されたことへの抗議が全米に広がる中で、ホワイトハウスの前のデモ参加者に対して、警察や州兵に命じてペッパーガスやゴム弾などの強硬措置で排除し、近くの教会の前で聖書を掲げるという選挙パフォーマンスを行った。国民をまとめるどころか、選挙目的で分断を煽る大統領の姿勢は、マティス前国防長官をはじめ、保守派からも批判が相次いだ。

 この事件が有権者に示したことは、トランプ大統領にとっては、黒人の人権や、新型コロナ感染よりも、自身の大統領選挙での再選が優先するという自己中心的な姿勢だった。その頃から現在まで一貫しているのは、コロナ感染による死者が増加したとしても、11月の再選のために最重要な経済再開を進めることである。その間、コロナ感染は、民主党の支持基盤のニューヨーク州のような都市部だけでなく、選挙のカギを握る接戦州の1つであるフロリダ州を始め、全米に拡大した。執筆時点で、コロナ感染による死者数は17万人を超え、多くの有権者がトランプのコロナ対策に不満を持つようになった。しかも感染拡大は景気回復にも大きな障害となっている。

 おそらく、現時点で投票が行われればトランプの敗北は間違いない。しかし実際の投票は3カ月後である。プロ(賭け屋)はトランプ勝利の可能性を41.6%、つまりトランプにも4割の勝機があるとみている。それは、依然として有権者の4割前後といわれるコアなトランプ支持層の気持ちが変わっていないからだ。彼は、コロナと経済停滞の責任は、トランプ大統領にではなく、ウイルスの封じ込めに失敗して世界に感染を広めた中国にあると考えている。しかも、いち早く経済を再開した中国は、香港の民主化運動を弾圧し、中印国境、南シナ海、尖閣諸島などで、周辺国への軍事的な圧力を高めて、米国に挑戦している。トランプ政権は対中強硬姿勢をエスカレートさせ、一定の支持を得ている。

 そもそも、保守とリベラルに真っ二つに割れた米国において、保守系の有権者が民主党候補に投票するためのハードルは極めて高い。5月から8月にかけてバイデン優位の流れを作り出したのは、無党派層が経済とコロナ対策に不満を持ち、バイデン支持に傾いたからだ。したがって、トランプ陣営が残り3カ月の間で流れを変えることは不可能ではないし、いくつかの逆転カードが予想される。

 1つには、トランプ大統領より3歳年上で、その認知能力を疑われているバイデン氏が、10月に予定されているテレビディベートで失態を冒す可能性だ。バイデン氏が質問に対して沈黙するなど、少しでも認知能力を疑われる動きをすれば、徹底的なネガティブキャンペーンで逆転チャンスが出てくる。そのためにも、州によっては9月から始まる郵送による不在者投票を、今から制限することは意味がある。投票が早まるほどバイデンが有利になるからだ。

 もう1つのカードはワクチンの早期認可だ。副作用を考慮して認可に慎重なFDA(米食品医薬品局)に圧力をかけて、10月中にワクチンを認可できれば、米国内の雰囲気が大きく変わるかもしれない。その後に副作用に苦しむ人が出ても気にしない、というトランプ氏の自己中心性は強みとなる。現在、強引な経済再開により、感染者は増えているが、経済は少しずつ上向きになっている。コロナと経済に「打ち勝った」というメッセージを効果的に発信できれば、コアなトランプ支持者に加えて、無党派層を取り込み逆転できるかもしれない。今後、3カ月、あらゆる事態が想定される。しかしそれらの仕掛けが不発に終われば、バイデン候補が勝利するだろう。

 


2020年9月7日号 週刊「世界と日本」第2180号 より

香港殺す「国家安全法」
手負いの龍と化するか 中国

 

評論家 宮崎 正弘 氏

《みやざき・まさひろ》

昭和21年金沢生まれ。早稲田大学中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。57年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評がある。中国ウォッチャーとしても健筆を振るう。著書多数。

 「香港は死んだ」と産経新聞が1面トップ(7月1日)で報じた。中国共産党が全人代常任委で急遽可決した「香港国家安全法」が同日から施行され香港では自由が奪われた。議会選挙は民主派候補の立候補を認めず、ついでにコロナを理由に1年延期という暴挙にでた。

 

 「死んだ」のではない。香港は「殺されたのだ」と民主派は強く非難した。

 香港の少数派である親中派にとっては香港国家安全法により、社会秩序が回復すると安堵し、投資家はむしろ安定すれば株価は上昇すると読んだ。しかし市場とは情報の透明性、表現の自由が確保されなければ国際取引は成立しにくくなる。いずれ香港の国際金融都市としての機能は失われるだろう。

 だが、現実を見ると香港株は下落しなかった。

 5年前の上海株暴落直後に当局は「株を売るな」と命令し、ついで「悪質な空売りは犯罪として罰する」と証券会社の一部を営業停止とし、裏から資金手当てして証券会社に株を買わせた。この強権発動で「売り」が消え、暴落を防いだ。同じ手段を香港でも駆使した。

 ウォール街から中国企業の上場が排斥される一方、アリババなどが香港で重複上場を行って香港株式市場に潤滑油の役割を果たした。その上でSMIC(中芯国際集成電路)の上海株式市場への上場が続き、投資家は買いに走った。

 8月5日、香港の裁判所は2019年の香港騒乱のデモを始動した黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、周庭(アグネス・チョウ)らに禁錮刑を言い渡す前提となる罪状認否を行った。香港大乱での逮捕者は9200名、起訴された者がおよそ2000名。すでに服役している民主活動家も多い。

 また前立法委員の羅冠聡(ネイサン・ロー)ら海外に渡った6名を指名手配とした。羅は事実上ロンドンに亡命しており、今後は海外での言論活動を展開する。

 香港の自由民主派の活動は抑え込まれ、その上コロナ禍によって3人以上の集会が禁止されている。このタイミングをはかって8月11日には黎智英(ジミー・ライ)ら民主活動家10名を逮捕する(翌日釈放)。

 欧米はこの事態にいかに対応したか。

 トランプ大統領は7月14日に「香港自治法」に署名した。これまでの香港への特別待遇を撤廃し、金融報復を示唆した。

 英国は香港市民350万人へBNO(英国国籍パスポート)の滞在期間を半年から5年間に延長し、97年返還から半世紀、「一国両制度」を認めた約束の反故を非難し、ついでにファーウェイの5G展開を中止した。

 かくして中国を敵視する西側の包囲網にはフランス、豪、カナダ、NZ、インドが加わる。

 ならば最後の勝負を決める「原爆」に匹敵するリーサルウェポンは何か?

 トランプ政権の究極の標的は「香港ドルの米ドルペッグ制」にある。

 中国4大銀行との取引停止、ドル交換停止を香港自治法では謳っている。

 すでに香港民主人権法により、中国人の在米資産凍結がいつでも可能。加えて国防権限法などにより、中国が保有する米国債の凍結も可能だから中国の富裕層は在米資産の移管を急いでいる。

 中国が売ろうにも売れないのは保有する米国債権だ。1兆1000億ドルの米国債を担保にして中国は国際金融活動を展開できたのだ。

 しかし中国がこれまでに購入した米国企業や不動産などはあらかた売却し、留学生の多くも引き揚げ、共産党幹部は隠し口座の移し替えに躍起である。

 これまでの一連のトランプの措置は、ピンポイント空爆でしかなく、序幕戦の段階だった。

 中国は最悪のシナリオを用意している。孫子の兵法の国ゆえに、自分ならこうするから相手もこうするに違いないという発想が基底にあるからだ。

 米国が考慮しているシナリオのなかで核弾頭に匹敵するのは「人民元とドルとの交換停止」、つまり中国を国際通貨交換システムから排除し、経済を麻痺させ、中国を敗北させることにある。

 任志剛の警告がある。彼は1993年から2009年まで香港通貨当局(HKMC)のトップだった。1997~8年のアジア通貨危機と、2008年のサブプライム危機に遭遇し、香港ドルを守った「功績」がある。現在も林鄭行政長官の財政アドバイザーだ。

 この任志剛が、「次の異様な金融危機が視野に入った」と発言した。任によれば1997~8年の「アジア通貨危機」は強欲資本主義の投機筋が仕掛けてきた「グローバル金融の危機」であり、HKMCは1180億HKドルを投入して投機筋に対応した。

 「2008年、リーマンショックによる金融危機は『国際金融文化』の危機だった」。任志剛は次の金融危機が視野に入った理由をこう述べる。

 「米国のゼロ金利が向こう2年続くとすれば、ドル安に傾くのは当然であり、一方でドルペッグ制のHKドルは、ドル預託の安定通貨であるために買われる。4月以来、29回HKMCは香港ドル高を防ぐために介入し、1093億ドルを投入した。中国のユニコーンの香港市場への上場が重なり、香港の株式市場に夥しい資金が投下されたためだ」(サウスチャイナモーニングポスト、2020年7月27日)。

 その膂力(りょりょく)もドル交換停止となれば尽き果てるだろう。

 米中対決は「自由」vs「専制」という価値観の戦争である。

 米国の制裁措置によって中国は手負いの龍となり、ますます凶暴化するだろう。

 


2020年8月24日号 週刊「世界と日本」第2179号 より

米中対立は「体制間競争」へ

 

防衛大学校教授 神谷 万丈 氏

《かみや・またけ》

1961年京都市生まれ。東大教養学部卒。コロンビア大学大学院(フルブライト奨学生)を経て、92年防衛大学校助手。2004年より現職。この間、ニュージーランド戦略研究所特別招聘研究員等を歴任。専門は国際政治学、安全保障論、日米同盟論。現在、日本国際フォーラム理事・上席研究員、日本国際問題研究所客員研究員、国際安全保障学会理事。主な著作に『新訂第5版安全保障学入門』『新段階の日米同盟のグランド・デザイン』『日本の大戦略』など。

 

  2年前、『産経新聞』の「正論」欄に「中国との体制間競争を勝ち抜け」と題した小論を寄せ、次のように論じたことがある。冷戦期は米ソ両陣営が体制の優劣を競い合った時代だったが、冷戦後、米国をはじめとするリベラルデモクラシー諸国は、中国に対してはそうした考え方をとらず、中国の発展を助けることでその体制をより自由な方向に動かそうとしてきた(「関与政策」)。

 だがその期待は裏切られた。中国は豊かさを手にするにつれて共産党独裁と言論・思想統制を強化する方向に動いたし、対外的にも、尖閣諸島周辺や南シナ海で顕著なように、国際的なルールを尊重せず力によって現状を変えようとする姿勢を強めている。今やわれわれは、自由な諸国と中国との体制間競争が始まっているのだという認識を持ち、リベラル国際秩序を守るために対中競争に勝ち抜かなければならない。

 しかし賛同は多くはなかった。関与政策が期待はずれだったとしても、中国との対立を深めれば経済面での密接な結びつきが損なわれ、米国やリベラルデモクラシー諸国にとって打撃となる。中国にとっても、米国などとの相互依存は経済成長に不可欠だ。したがって、リベラルデモクラシー諸国と中国との対立には自らブレーキがかかり、体制間競争には至らないはずだ。2年前にはそうした見方が主流だったのだ。

 だがこの5月20日に発表した議会への報告書「中国に対する米国の戦略的アプローチ」で、米国政府は、米中関係をイデオロギーを異にする体制間の戦略的競争関係と明確に位置付けた。これにより、1979年の国交正常化以降最悪といわれていた米中対立は、さらに次元の異なる領域に入った感がある。

 同報告書は、関与政策の失敗を強調しつつ、中国共産党が「自由で開かれたルールを基盤とする[国際]秩序を悪用し、国際システムを自らに有利なように作り変えようとしている」、「中国共産党の利益とイデオロギーに合致するように国際秩序を変えようとしている」と警鐘を鳴らした。

 こうした中国の挑戦に対応するために、米国は「競争的アプローチ」を採らざるを得ないと報告書はいう。「関与」に代わる米国の新たな行動指針とされるのが「原則に沿った現実主義」だ。主権、自由、開放性、法の支配、互恵主義という「原則」にのっとって、米国は「米中が戦略的競争関係にあることを認識しつつ、中国共産党の直接的挑戦に対応し、国益を適切に守る」という。中国との協調は排除されていないが、中国だけではなく米国も国益を増進できるような「建設的」で「選択的」かつ「結果志向」の協調でなければならないことが強調されている。

 注目されるのは、報告書が、米国の国民や国土や生活様式を脅かしている中国の行動が、中国共産党の「悪い(malign)」性質に起因しているとの見方を隠していないことだ。中国が国内で人権や自由を抑圧したり、外交・安全保障面で国際的なルールを無視して、力づくで国益を増進しようとする根本的理由は、中国共産党のイデオロギーと独裁的体質に求められるという見方だ。

 この立場からは、中国がその体質を根本的に変化させ、「悪い」行動をとらなくならない限り中国との妥協はあり得ないことになる。報告書は、「米国は、われわれの二つのシステム間の長期的な戦略的競争を認識している」とし、「原則に沿った現実主義」に基づいて、米国の利益を守り国際的影響力を増大させると述べる。同盟国やパートナー国などとの連携を強化して中国の挑戦に打ち勝つ決意も表明されている。まさに、これまでとは次元の違う厳しい対中対決が打ち出されているのだ。

 その後6月から7月にかけて、オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官、レイ連邦捜査局(FBI)長官、バー司法長官、ポンペオ国務長官という4人の高官が行った一連の演説の中でも、今や米中が体制間競争を闘っており、中国共産党の「悪い」性質を変える必要があるのだとする見方が強調され、同盟国やパートナー国とともにこの競争に勝利する米国の決意が繰り返された。

 いずれも内容は激烈だ。オブライエン補佐官は、「習近平は自分をスターリンの後継者だとみている」と述べた。レイ長官は、中国共産党は自らが米国を経済的・技術的に追い越すための闘いの中にあるとみており、そのためにスパイ活動などの違法行為を行っていると非難した。バー長官は、中国共産党が中国人の巨大な力と生産性と知恵を利用して「ルールを基盤とする国際システムを転覆し、世界を独裁制にとって安全なものにしようとしている」と主張した。

 そして締めくくりとなる7月23日の演説で、ポンペオ国務長官は、「中国共産党の体制はマルクス・レーニン主義の体制」であり、「習総書記は破綻した全体主義イデオロギーの熱狂的信者」であるとして、自由を愛好する国々は中国に変化を促さなければならないと強調した。「自由世界はこの新たな専制国家[中国]に勝利しなければならない」というのが長官のメッセージだった。そのためには「志を共にする国々が結集し新たな民主主義国の同盟を作る時かもしれない」とも長官は訴えた。

 米国市民の対中意識も悪化している。今年3月のピュー・リサーチセンターの世論調査では、中国に対して「好意的ではない」回答者が66%に達した。中国を脅威とみる割合は約9割で、62%は中国を「重大な脅威」とみているとの結果も出た。

 また、中国に厳しいのはトランプ現政権に限った現象ではない。最近の米シンクタンクのウェブセミナーをみても、対中強硬姿勢は超党派の路線となっており、バイデン政権になっても対中融和への回帰が起こるとは考えにくい。

 中国がイデオロギー体質を変えるとは思われない以上、米中の体制間競争は長期的な闘いとなろう。日本には、米国の同盟国として、この競争に対する当事者意識が求められよう。

 


2020年8月3日号 週刊「世界と日本」第2178号 より

コロナ危機 なぜ独裁はなくならないのか

 

ジャーナリスト 千野 境子 氏

《ちの・けいこ》

横浜市生まれ。1967年に早稲田大学卒業、産経新聞に入社。マニラ特派員、ニューヨーク支局長。外信部長、論説委員、シンガポール支局長などを経て2005年から08年まで論説委員長・特別記者。現在の肩書は客員論説委員、フリーランスジャーナリスト。97年度ボーン上田記念国際記者賞を受賞。著書は『戦後国際秩序の終わり』(連合出版)ほか多数。

 新型コロナウイルスは世界の矛盾や問題を次々に炙り出している。独裁の復活と跋扈(ばっこ)もそのひとつだ。かつて私は中東の独裁者が相次ぎ失脚した「アラブの春」に触発されて『なぜ独裁はなくならないのか』(国土社刊)を著わしたが、今回のパンデミック(世界的大流行)でも独裁は息を吹き返し、新たな信奉者を生んでいる。アフターコロナの世界は歴史の終わりならぬ、民主主義の終わりが懸念される。 

 

 一般に戦争や大恐慌、天災など国家の非常事態には、強い政府と指導者が求められる。独裁者とその予備軍もそこにつけ込む。コロナ危機も例外ではなかった。

 中でもいち早く便乗したのが、ハンガリーのオルバン首相だった。3月末に首相権限を無期限で大幅に拡大する法案を通し、コロナ以降の統治まで可能にした。加盟する欧州連合(EU)からの批判など柳に風で、親に似ぬ鬼っ子は独裁を着々と固めている。

 カンボジアのフン・セン首相も抜け目なかった。コロナ対策を大義名分に4月、非常事態法を成立させ、国王にのみ与えられていた非常事態宣言の権限を手中にした。3カ月の期限は延長可能なため、ハンガリー同様に事実上の無期限だ。

 早や首相の座に27年余り。近年は野党を解体し、一党支配による半永久政権を目論む。感染収束の前から中国に応援労働者の派遣を表明するなど親中ぶりもエスカレート、独裁政権同士「類は友を呼ぶ」典型だ。

 平時は国際社会の目を多少とも意識し、自制心を働かす独裁者たちも、世界中が自分のことで精一杯の非常時ともなると、ブレーキの壊れた車のように暴走、本性を現す。

 筆頭はやはり中国をおいていない。習近平国家主席から戦狼報道官に至るまで、パンデミックへの罪の意識などカケラもなく、一党独裁の優位性の宣伝に奔走、内では国民監視システムの強化を正当化し、外では感染拡大に歯止めのかからない欧米をしり目にマスク外交で恩を売っている。

 さらに香港の一国二制度を反古(ほご)にする国家安全維持法の導入、中国公船による尖閣諸島周辺への連続航行86日(7月8日現在)や領海侵入など、法と民主主義を無視し、今ややりたい放題の感がある。

 中国がコロナ禍のダメージを多大に受けながら習近平政権がかくも強気なのは、国威発揚に加えて、コロナ危機をいち早く制御したとの自信が大きい。そこから一党独裁による権威主義体制優位の主張も導き出される。

 確かに自由や民主主義を掲げる英仏はじめ欧米諸国が軒並み感染拡大を余儀なくされる中、コロナ対策に奏功した独裁国家は中国以外にもある。

 中でもベトナムは7月8日現在、累計感染者がわずか369人、死者数0は世界を驚かせた。カンボジアも同141人、同0だが、統計への信頼度が低いのが玉にきずだ。中国の8万3572人(同4634人)も世界の現況に照らせば成功の部類に入るだろう。

 しかし以上を以て独裁の優位性を説くのは早計だ。独裁的なドゥテルテ大統領のフィリピンは強権発動も効果なく、感染者4万7873人、死者1309人で今も1日1000人超単位で増加中だ(数字はNNAニュースによる)。

 感染がアメリカに次ぐブラジルのボルソナーロ大統領も、感染死者の発表を中止して経済を優先、議会が決めた公共の場でのマスク着用義務を自ら破るなど独裁的言動に終始し、遂に本人も感染した。

 改憲により長期独裁に道を開いたプーチン大統領のロシアも、感染封じ込めに失敗している。そもそもプーチン大統領にコロナと戦う意志があるのか疑わしくさえある。

 これではコロナ制圧に独裁が優位などと到底言えない。独裁の形も感染拡大の要因もさまざま、独裁には成功も失敗もあるという至極当然の帰結になる。

 むしろ問題は、コロナはいずれ収束するとしても、危機に乗じて増殖した独裁は、そう簡単には退場しないことだ。独裁は蜜の味だから権力者はなかなか手放したがらないし、独裁の復活と跋扈はコロナ以前からの世界的潮流でもあるからだ。

 その要因として、ここでは(1)5年前に欧州を混乱に陥らせた難民危機(2)反移民を標榜するポピュリズムの台頭とポピュリスト政党の躍進(3)「アメリカ・ファースト」と国境の壁建設を公約に掲げたトランプ米大統領の登場の少なくとも3つを指摘したい。

 中長期的な大きな流れとしては(1)だが、短期的には(3)の影響が大きい。コロナ禍で「外敵」難民への人々の警戒心は高まり、強権的統治に人気が集まる。人々が独裁を求めるのだ。一時しのぎにはなるかもしれない。しかし破綻国家や貧困問題に手が打たれない限り、難民とは生存への証である以上、難民危機は再燃する。

 そしてトランプ現象。ドゥテルテ氏、ボルソナーロ氏、あるいはポーランドのドゥダ大統領などトランプ流を真似、ミニ・トランプと呼ばれるのを喜ぶ信奉者もいる。

 しかもどうやらトランプ氏自身が独裁願望を有し、独裁との親和性も結構ありそうに見える。北朝鮮の金正恩労働党委員長や習近平国家主席を「いい奴だ」と持ち上げながら、同じG7のメルケル独首相を毛嫌いし(彼女もトランプ氏を嫌いだからお互いさまだが)、マクロン仏大統領との相性も良くなさそうで、「陣営を間違えてはいませんか」と言いたくなる。

 お得意の偽悪的表現と割り引いても、トランプ氏の言動は共産主義に対抗し、戦後国際秩序を主導してきたアメリカへの敬意を減じ、結果的にアメリカの国益を損なっているのではないか。アメリカにも国際社会にも好ましい事態とは言えない。

 米大統領選の投票が近づいている。独裁の跋扈に一矢を報いるためにも、次期大統領にはポピュリズムに走らず、米国益も国際益も包摂する強靭な指導力を期待したい。

 習近平政権には英国の歴史家アクトン卿の名言「絶対的権力は絶対に腐敗する」をあげたい。独裁は意のままに権力を謳歌し拡大もできるが、ヒトラーに代表されるように、その終着駅は崩壊である。

 巨大になり過ぎて滅亡した恐竜にも似ている。大は中国から小は北朝鮮まで、危惧すべき国は多い。

 


2020年7月20日号 週刊「世界と日本」第2177号 より

習「隠蔽」と「新たな戦時体制」

 

ノンフィクション作家 河添 恵子 氏

《かわそえ・けいこ》

1986年より中国(北京・大連)の大学へ留学。2010年の『中国人の世界乗っ取り計画』(産経新聞出版)は、Amazon〈中国〉〈社会学概論〉の2部門で半年以上、1位を記録するベストセラー。その他の著書として、『トランプが中国の夢を終わらせる』、『米中新冷戦の正体』(共著)(ワニブックス)、Amazon〈中国の地理・地域研究〉1位など。最新刊は7月発売の『習近平が隠蔽したコロナの正体―それは生物兵器だった!?』(WAC BUNKO)。

 コロナ禍による未曽有の非日常から、日本は徐々に回復しつつある。だが、「ソーシャルディスタンス」「テレワーク」、そして「子供の感染が増えている」「コロナの第2波が来る」などにより落ち着かない日々が続いている。

 

「見えない戦争」の正体

 トランプ政権が発足し、米中新冷戦が熾烈さを増すなか、5G元年の今年上半期が、世界の大転換期になるだろうと予測していた私は、この数年、「見えない戦争(Stealth War)」に注視していた。

 これまで世界を〝赤く〟染めてきた中共のスパイ、産業スパイ、そして看板こそ「民間企業」だが、その実、軍系の企業(軍企)を徹底的に警戒し、対峙する姿勢を米国のみならず、米英を核とする情報・諜報機関のファイブアイズ(米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)が示していたためだ。そのため、「サイバー空間が主戦場になる」と考えていた。

 ところが、1月20日、世界が劇的に動き出した。習近平国家主席が「新型コロナウイルスの感染蔓延の断固阻止」や「社会安定の維持」を求める「重要指示」を出したのだ。患者の早期隔離が防疫に最も有効な手立てであることは常識だが、最初の患者が確認されて40日以上を経ていた。

 数日間、武漢ウイルスに関する情報収集に明け暮れた段階で、私の頭は完全に切り替わった。「見えない戦争」は、新型コロナウイルスによって火蓋が切られたのだと。

 武漢市の医療現場からの叫びに似た声に触れ、「1人の感染で家族全滅」との悲惨かつ異常な事実もわかり、旧正月(春節)のシーズンで、中国から人の往来が激増する日本は大変なことになると焦った。

 米政府や軍に対して、生物化学兵器・毒素兵器に関する相談役を、多年にわたり行ってきたコロラド州立大学名誉教授のアンソニー・トゥー(杜祖健)博士と、私は2月初旬からメールでやり取りを始めた。

 すでに世界の識者は、「武漢のウイルス研究所などから人工のコロナウイルス(もしくは生物兵器)が漏れた?」との仮説をたてていた。同時に、人工ウイルスの起源と犯人捜しがヒートアップしていた。

 私はその頃、大枠で3つの仮説をたてた。

(1)1979年にソ連で起きた事件―スヴェルドロフスクの生物兵器研究所から炭疽菌が漏れた事件と同様、人工的なコロナウイルスが武漢のウイルス研究所から空気のように周辺地域に漏れた。

(2)人工的に操作された、コロナウイルスに侵された実験動物(コウモリ?)が転売され、市場で食べたり、触ったりしたことからヒトにうつっていった。

(3)ウイルス研究所の研究員が、実験室で人工的に操作していたコロナウイルスの扱いをミスって、患者0(ゼロ)号になった。

 すなわち、中国当局が流す「武漢の海鮮市場でコウモリを食べた人が感染し、ヒトからヒトへうつっていった」という〝物語〟を疑い、習政権が隠蔽してきたことからも、「天然のコロナウイルスではありえない(天災ではなく人災)」と結論づけ、専門家のトゥー博士とのやり取りからも「生物兵器の類ではないか?」と推測した。

 3月に来日したトゥー博士が、まず驚いたのは、「日本が、新型コロナウイルスが天然なのか人工なのか議論していない」ことだった。

 また、中国が公式に発表する感染者と死者数は、実態と大きく乖離しているのではないかという疑念。

 何より、習政権による「隠蔽工作」によって(私はだから「習隠蔽」政権と呼んでいる)、各国の防疫対策が後手にまわり、パンデミックに陥り、現在進行形で地球上に多くの感染者と死者を出し、経済活動、日常生活が自粛に追い込まれていること・・・。

 普段は、眉をしかめて責任論や人権、人命について声高に叫ぶテレビの論客という名の“電波芸者〟が、この基本的な事実すら触れようとはしない。

 ジャーナリズムは死に、政治、国会もまともに機能していない・・・。日本の中枢が、中国共産党の手足に成り下がっていることを、コロナ禍であらためて痛感した。

 

世界はコロナの研究をしていた

 4カ月ほど武漢ウイルスの正体を取材し、書いてきた中で、モヤモヤしていることは幾つもある。その1つは、「武漢で発生した新型コロナウイルス」と日本に入ってきた武漢ウイルスの〝毒性レベル〟は異なるのではないか? という疑問である。

 英国の情報機関とのやり取りがある知人に尋ねたところ、「H5N1元の人工ウイルス、H5N6元の人工ウイルス、ハンタウイルス元人工ウイルス、H5N1人工ウイルス変異型・・・と6~8種類が確認されている」との話だった。

 とすれば世界(中国に限らず)は「人工ウイルス(生物兵器!?)を研究していた=作っていた?」。そして、何らかの目的でいつか使うつもりがあったと推測しても不自然ではない。さらには、「ウイルスの悪意ある漏れ」すなわち、誰かが意図的に撒いたりする可能性もゼロではない。

 もちろん、こういった内容を公にすれば、多くから〝陰謀論〟の一言で片づけられることを知っている。ただ、前出のトゥー博士は、「もし、武漢の研究所でウイルスを作っていたとしたら、やはり攻撃用でしょう。流行っていないものを研究する必要はありますか?」と淡々と語っていた。

 生命に対して真摯かつ純粋な学者・研究者は、「どうやったら1人でも多くの命が助かるのか? 無駄死を避けられるのか?」などと考え日々、研究に邁進しているのだろう。

 だが、その逆で、「いかにピンポイントで暗殺できるか?」「いかに大量に絶滅させられるか」について熱心に研究する類、研究開発を指示する支配者(国家)が存在してもおかしくはない。

 それと、たとえ核兵器が地球上に存在しない時代が来たとして、〝恐怖の兵器〟が地球上から全てなくなることを意味するのか? 残念ながら、それはあり得ない。

 マスメディアは「ウイルスとの『共生』が必要」などと美しい表現を使うが、我々は「見えない兵器!?を恐れて対峙する」という「新たな戦時体制」に突入したと言うべきではないか。

 


2020年6月22日号 週刊「世界と日本」第2175号 より

中国の現在

新冷戦へ突入なのか

 

拓殖大学教授 富坂 聰 氏

《とみさか・さとし》

1964年愛知県生まれ。単身台湾に渡った後、北京語言学院を経て北京大学中文系に進む。『週刊ポスト』『週刊文春』記者を経てフリージャーナリストとして独立。『龍の伝人たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞受賞。近著に『「米中対立」のはざまで沈む日本の国難』。国家基本問題研究所企画委員。

 原稿を書いている現在、東京で新たに34人が新型コロナウイルスに感染したというニュースが大きく報じられ、ちまたでは「感染拡大の第2波か」と騒ぎになっている。思い出されるのは、都市の封鎖が解除されて間もなく6人の感染者が見つかった中国・武漢だ。同じ時期、ソウルでも第2波が疑われる事例が確認された。感染再拡大への対応では、中韓に大きな差が生じたことは周知の事実だ。

 

 中国は自由主義世界にはなじまない抑止力を発揮し、最終的に自ら「平常化の目安」とした全国人民代表大会をやり終え、感染がコントロールされていることを内外にアピールした。つまり現状を見る限り、ありとあらゆる問題を指摘されながらも、気が付いてみれば結果を出したことになる。これも繰り返されてきた“中国問題”のデジャヴだ。

 本原稿のテーマは「中国の現在」だが、実に多くのことを考えさせられる。日本には中国の「現在」がほとんど伝わってないのだ。

 武漢の封鎖解除と前後して安倍政権は緊急事態宣言を発した。感染対応では個々の自治体の評価が分かれ、大阪の吉村知事が名を上げた。しかし、称賛されたその「大阪モデル」に目新しさはない。どれもこれも1月末から2月の上旬にかけて中国が採った対策ばかりなのだ。武漢経験を学んでいれば、事前に問題の芽を摘むこともできたはずだ。

 だが日本人は中国からは学びたくない。それどころか「でたらめを繰り返す中国」が「感染をコントロールできるはずはない」と信じている。だから日本のメディアに「隠ぺい」や「改ざん」を報じるニュースがあふれても、淡々と現実を報じた記事は見当たらない。結果、武漢で何が起きたのか、詳細を知る日本人は皆無だ。武漢を反面教師にするにも元となるデータ自体が存在しないことに、誰も疑問を感じないのだろうか。

 封鎖直後の武漢は、全国から派遣された6000人の医療スタッフをどうやって迎え、彼らの住居や通勤の足を提供したのか。到着からわずか50時間で診療を始められた理由は何か。なぜ武漢市は人々の生活物資の不足を、ごく短期間で解決できたのか。なぜ火神山病院の建設を10日間と期限をつけて建設に着手したのか。マスクや消毒剤、防護服はなぜ不足しなかったのか。習近平がこれを兵站(へいたん)戦と呼んだ理由は何なのか。そして党中央はいったい何に最も怒っていたのか・・・。

 中国専門家でも、こうした疑問を的確に答えることは難しいはずだ。

 同じことは、現在進行形の米中関係にも当てはまる。不可思議な解説も目白押しで、なかでも中国がコロナ後の覇権を狙い強気な外交を展開しているとの見立てには驚かされた。

 中国のランボーとも呼ばれ、大ヒットした映画「戦狼(ウルフ・オブ・ウォー)」から名付けた「戦狼外交」との表現までが日本のメディアにあふれたことには開いた口が塞がらなかった。「なんとなく、それらしくまとまった話」と事実は明らかに区別されなければならない。

 第一、中国が自らアメリカとの関係をこじらせるメリットはない。コロナのダメージからいち早く回復したい中国には、対米・対欧州との貿易が不可欠だ。

 それを放棄してアメリカに挑発し続ければ、習政権に対する国内の突き上げは凄まじいものとなるだろう。

 国も潤わなければ、政権にも追い風が吹かないのなら、政治家が行動する理由はない。

 そもそも1月の貿易交渉で一定の成果を得た米中関係が本格的にぎくしゃくし始めたのは、3月中旬からのことで、比較的新しい。

 確かにそれ以前にも、1月30日にロス米商務長官が「新型コロナウイルスの感染拡大はアメリカ経済にとって有利だ。製造業の国内回帰のきっかけとなる」と発言して中国側が反発したこともあった。

 激しい舌戦という意味では、その幕開けを2月末から3月にかけてのトランプ大統領や閣僚らから「中国ウイルス」、「武漢ウイルス」との発言が相次いだ頃とすることもできる。中国外交部の趙立堅報道局副局長が「ウイルスは米軍が武漢に持ち込んだかも」とツイッターで発信し、アメリカが抗議するという場面もあった。

 だが3月27日のトランプ大統領と習近平国家主席との電話会談では、大統領は「習主席はとてもよくやっている」と称賛。「彼らは早い時期に(感染拡大を)経験しており、我々はその情報を手にしつつある」とリップサービスしていたのである。

 関係が本格的に激化するのは、トランプ氏が新型肺炎への対応の拙さを指摘され、次の大統領選挙に不利に働くと考え始めた頃からだ。同じ時期、米政治専門紙「ポリティコ」は、共和党の選挙参謀の一人のメモをすっぱ抜く。そこには選挙に勝つため、感染拡大の責任が中国にあることを強調し、同時に民主党が中国と近いというイメージを付けることが大切だと指摘されていたことを暴露した。

 中国も4月中旬からは反論を飛び越し、相手への攻撃を公然と始める。3月中旬には楊潔チ国務委員が、ポンペオ国務長官との電話会談中に「アメリカの政治屋」という言葉を使い、その兆候を見せていた。

 政治屋とは自らの利益(自分が選挙で当選したいなど)のために中国との関係を利用する政治家のことだ。

 4月下旬になると、この「政治屋」を具体的に個人名で攻撃を始める。ターゲットはポンペオ国務長官である。事ここに至り、すでに中国は引くつもりがないことを宣言したと言えるだろう。

 通常であれば、ここで「トランプ政権との関係を断念した」と言うべきところだが、そうではない。アメリカからの対中圧力には、貿易不均衡の数字の是正を目指すグループと、ファーウェイへの制裁に代表されるワシントンの風。そしてポンペオ国務長官を筆頭とする共産党政権への根本的不信感を持つグループと、国民感情の悪化を利用して政治的ポジションを上げようとする勢力というように、少なくとも4種の強い逆風と向き合わざるを得なくなっているのである。これは単なる「長期戦」という言葉では表現できるものではない。

 新冷戦は、双方が失う利益が大きすぎるが、それでも水面下では本格的に対立する時代へと突入したとみて間違いないはずだ。

 


2020年6月8日号 週刊「世界と日本」第2174号 より

トランプ再選は?

最大の鍵 経済危機対処

 

(公財)笹川平和財団上席研究員 渡部 恒雄 氏

《わたなべ・つねお》

1963年生まれ。東北大学歯学部を卒業。歯科医師を経てニュースクール大学(米国ニューヨーク市)で政治学修士。戦略国際問題研究所で上級研究員を務めた。2005年に帰国、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、現職。戦略国際問題研究所非常勤研究員を兼任。近著に『大国の暴走』(共著、講談社)がある。

 

 2020年11月大統領選挙は、執筆時点ですでに全米で9万人以上の死者を数えている新型コロナウイルス感染と、1930年代の大恐慌以来といわれる経済危機の影響を受けることは間違いない。2016年の選挙で下馬評を覆し、ドナルド・トランプ候補が選出された背景には、保守とリベラルに分かれ、2つに分断されたアメリカがあった。しかし新型コロナ感染は、米国が団結するきっかけとはならず、むしろ分断を進めている。これはトランプ再選の可能性にどう影響するのだろうか?

 

 トランプ候補は、4年前、全米の総得票数ではヒラリー・クリントン候補よりも286万票も少なかったにもかかわらず、州ごとの選挙人の合計で勝敗が決まる特殊な制度の恩恵により勝利を収めた。

 選挙のスローガン「アメリカ・ファースト」と「アメリカを再び偉大な国に」は、共和党主流のエリート・富裕層に向けられたものではなく、中西部の激戦区(ウィスコンシン・ミシガン・オハイオ・ペンシルバニア)の「ラストベルト」(錆びついた工場地帯)に住む白人の労働者層をターゲットにしたものだった。その結果4州全てで勝利を収め僅差で勝利した。

 ラストベルトに住む白人労働者層は、経済のグローバル化や同性婚などのリベラルな社会風潮に反発を抱いていた。前回の選挙では、トランプ候補が女性や性的マイノリティへの数々の差別発言を行ったが敗因とはならずに、むしろクリントン候補が、トランプ支持者を「嘆かわしい人々」と呼んだことで反発を受け、ラストベルトでの支持を失った。

 前回も今回も、保守とリベラルに分断したアメリカにおいて、勝負は、11州前後の接戦州で勝てるかどうかだ。民主党側もそれを理解しているからこそ、ペンシルバニアの中流家庭出身で、放言癖はあるが、エリート臭がないジョー・バイデン前副大統領を候補に選んだ。

 選挙の最大の争点は、新型コロナ感染により、4月には失業率が14.7%に達した経済危機への対処だ。米大統領選挙では現職候補が有利だが、直近で現職が敗れた選挙は、1980年のカーター(レーガンに敗北)、1992年のブッシュ(父)(クリントンに敗北)。いずれも要因は景気後退だ。経済が回復しない場合、現職のトランプ大統領には厳しい選挙となる。

 しかしトランプの再選が絶望的なわけでもない。有権者の40%前後と考えられるトランプ大統領の岩盤支持層は、新型コロナ感染と経済危機後も、まったく揺らいではいない。

 反トランプのCNNニュースは、トランプのコロナ対策の失敗を日々報道し、その視聴者は、7%しか政権のコロナ対策を支持しない。かたやトランプ支持のFOXニュースは、政権に好意的な報道を行い、視聴者の63%が政権のコロナ対策を支持している。

 しかも、新型コロナによる死亡者は、都市部に住む黒人やヒスパニックなどのマイノリティなどの民主党支持者が圧倒的に多い。この層は収入が少なく十分な医療保険を持っていないことや、医療や物流などを現場で支える職に就いているため、死亡率が高いといわれている。

 都市部に住む共和党支持の高所得者層は、危険な都市部から離れて過ごすだけの経済力がある。中西部や南部の地方に住む白人層、および富裕層の共和党支持者にとって、新型コロナ感染による悲劇はまだまだ他人事なのだろう。

 とはいえ、経済危機は否定できない現実であり、トランプ政権は一刻も早い経済再開を望んでいる。そして不況下での選挙となった際には、保守派の岩盤支持を動員するような争点を設定して選挙を戦うはずだ。

 これには前例がある。2004年、ブッシュ(子)大統領は、イラク戦争の難航と経済の悪化、ハリケーン災害対応の遅れなどを批判され、再選に赤信号が灯っていた。折しもマサチューセッツ州で同性婚が合法化された時期で、ブッシュ陣営は、対抗候補で同州を地盤にする民主党のジョン・ケリー上院議員に対して、同性婚の合法化等を争点にして、経済よりも保守的価値観を重視するキリスト教福音派の動員を図り、再選を勝ち取った。同時に、ケリー候補のベトナム戦争での輝かしい軍歴を疑う退役軍人グループを組織し、徹底的なネガティブキャンペーンにも成功した。

 キリスト教福音派からは、トランプ続投に大きな期待がある。トランプ政権になり、保守派の最高裁判事が2人、任命されているからだ。トランプ政権があと4年続けば、高齢で健康問題を抱えているリベラル派のギンズバーグ判事の後任に保守派を任命できる可能性が高まる。そうなれば、最高裁での保守派の数の優位により、憲法上、人工妊娠中絶が容認された1973年の最高裁判決を覆す希望が出てくる。

 ただし人工妊娠中絶禁止を声高にすることは、女性票を敵に回す両刃の剣である。そこで、かつての部下からセクハラで訴えられたバイデン候補へのネガティブキャンペーンが効果的となる。これによりバイデン支持の女性票を分断できる。しかも彼は、コロナ感染下の移動の制約により、米国民に幅広く訴える機会が閉ざされている。それに比べ、毎日テレビ放送に登場する現職は有利である。

 バイデン候補に対しては中国と絡めたネガティブキャンペーンも行われるだろう。息子のハンター・バイデン氏は、ウクライナのエネルギー会社から高給を得ていたことで疑惑をもたれたが、中国企業ともビジネスをしており、バイデン親子を「中国の傀儡」というネガティブキャンペーンはすでに始まっている。

 トランプ大統領にとっては、新型コロナで中国を強く批判することは、政権の対応の遅れへの批判の目を逸らせることにもなり、一石二鳥だ。実際、共和党支持者だけでなく、民主党支持者も含め、アメリカ人の6割以上が、アメリカを襲った新型コロナの責任は中国にあると考えている。

 最新の全米の世論調査では、トランプ対バイデンは、43.2%対47.7%とバイデン有利だが、「掛け屋」の予想では、トランプ対バイデンは、50.5%対41.8%と現職優位だ。

 選挙までに経済に一定の回復があれば現職のトランプが優位で、大恐慌レベルの経済危機となれば挑戦者バイデンが優位。その中間の場合は、予想不可能なレベルの接戦となるのではないか。

 


2020年5月25日号 週刊「世界と日本」第2173号 より

外交交渉秘話

常任理事国承認と在韓米軍撤収

戦後日本から消失 国の芯

 

外交評論家 加瀬 英明 氏

《かせ・ひであき》

1936年、東京生まれ。慶応、エール、コロンビアの各大学で学ぶ。『ブリタニカ国際大百科事典』初代編集長、日本ペンクラブ理事、松下政経塾相談役などを歴任。著書は『グローバリズムを越えて自立する日本』『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』ほか多数。

 

 

 福田赳夫内閣が昭和51(1976)年12月に発足した前月に、アメリカの大統領選挙で民主党のジミー・カーター前ジョージア州知事が当選していた。私は40歳だったが、首相特別顧問の肩書を貰って、対米交渉に当たった。本紙から、外交交渉の裏話を書くように求められたから、差し支えない範囲内で披露しよう。

 

 福田首相にとって、はじめての日米首脳会談が春に行われることになったが、“目玉”がなかった。園田直官房長官を通じて献策を求められたので、カーター大統領に日本が国連安保理事会の常任理事国となることを支持すると言わせることができると、メモを提出した。

 私はカーター政権の国家安全保障会議(NSC)特別補佐官となったブレジンスキ・コロンビア大学教授、新大統領が師として仰ぐハンフリー元副大統領と親しかった。12月に訪米したときに、カーター大統領当選者の郷里の村であり、政権準備事務所が置かれたジョージア州プレインズで半日を過ごした。

 前もってハンフリー上院議員(になっていた)から電話を入れてもらったので、カーター氏の母親のリリアン夫人、溺愛していた美しい妹のルース(キリスト教の神霊治療師(フェイスヒーラー)だった)、ホワイトハウスの官房長となったハミルトン・ジョーダン氏などが歓迎してくれた。

 私はブレジンスキ教授、ハンフリー上院議員に、来たるべき日米首脳会談でアメリカ側から日本が国連安保理常任理事国となる資格があると表明すれば、日米の絆が強まると話して賛同を得ていた。

 もっとも安保理事会常任理事国である中国、ソ連が反対しようから、実現しないのを承知していたし、アメリカとして口先で言えばすむことだった。

 私は東京から電話で確認していたので、総理一行が到着する前日にワシントンに入って、ホワイトハウス、国防省、議会などをまわって、翌日、ホワイトハウスの脇にある迎賓館のブレアハウスで、総理、鳩山威一郎外相と合流して、首尾がよかったことを報告した。

 もう1つ、私は福田首相から密命を授けられていた。

 当時、日米間の最大の懸案が核燃料再処理問題だった。

 私は核燃料についてまったく無知だったので、出発前に東海村の原子力研究所で講義を受けた。私は核武装論者だったが、研究所幹部から夕食の席上で「国民が核武装を決意したら、2年以内に核爆弾を完成させます」と言われて、大いに励まされた。

 私はワシントンへ出発する前日、国会院内で短時間、福田総理と打ち合わせた。カーター大統領は選挙戦中に、在韓米軍の撤退を公約の柱の1つとして掲げていた。朴正煕大統領は清廉だったが、韓国の政府、軍などの腐敗があまりにもひどかったので、アメリカの世論が“韓国切り捨て”を望んでいた。

 この時に、福田総理から「何とか在韓米軍の撤収を止められないか」と、懇請された。しかし、日本政府からそのように要請したら、アメリカから責任分担することを求められようから、できなかった。

 私はカーター政権を囲む人々に、あくまでも「私見」だと強調したうえで、「もし在韓米軍が撤収したら、日本は核武装することを強いられる」と警告した。

 政府の役職にある者が言えることではなかった。

 私はワシントンへ向かう前に、「役割分担でいきましょう」と外務省に話したが、なぜか外交が専管事項だと思い込んでいたから、敵視された。外務省がいう「二元外交」という言葉は、日本語にしか存在しないのではないか。

 ほどなく、カーター政権は在韓米軍撤収の公約を取り下げた。私は韓国の金鍾泌(キムジョンピル)首相(当時)と親しかったが、韓国の諜報機関から情報を得たのか、後に在韓米軍の撤収を思いとどめさせたことに感謝して、流暢な日本語で、「そのうちに勲章をあげましょう」と言われたが、固辞した。もし「親韓派」という烙印を押されたら、私は活動できなくなった。

 第1回福田・カーター首脳会談から20年経って、国防省、国務省で1974年から日本を担当したロナルド・モース氏が来日して、麗澤大学教授となった。私は教授と対談して、(『21世紀日本は沈む太陽になるのか』、廣済堂出版)を出版した。

 この時に、モース教授が「20年前にもし日本がアメリカの合意なく核燃料再処理を強行したら、在日米軍が出動して東海村を占領する計画があった」と打ち明けたので、慄然とした。

 その後、私は福田、大平内閣で園田外相の顧問、中曽根内閣で首相特別顧問として、対米折衝を手伝った。

 中曽根内閣では、谷川和穂防衛庁長官の顧問をして、谷川・ワインバーガー防衛技術交換協定の交渉を手伝った。ワシントンの防衛駐在官事務所は、ニクソン大統領が失脚したことで有名になった、ウォーターゲート・ビルにあった。

 防衛駐在官は戦前の駐在武官と違って、大使の指揮下にあった。交渉の機微を大使館に知られると妨害されるので、移動には駐在官の自分の車を利用し、東京との連絡は大使館の公電を使わなかった。

 日本の外交官は能吏であるものの、ごく僅かな例外を除いて、任地国の人々と親しい関係を結ぶ能力がない。宮仕えに汲々としているから、相手の地位、役職と付き合うことがあっても志(こころざし)や、夢を欠いているために、心を通わせることができない。

 戦後の日本から国家として、志や、理想が失われたからだろう。

 外務省だけではない。国の芯が失われてしまったために、日本人が小粒になったのだ。

 


2020年5月11日号 週刊「世界と日本」第2172号 より

際立った コロナ防疫対応と対策

門戸を開け WHO台湾参加

 

台北駐日経済文化代表処代表 謝長廷 氏

《しゃちょうてい》

1946年台北市生まれ。国立台湾大学卒業。大学在学中に弁護士試験をトップの成績で合格。司法官試験も合格。74年日本・京都大学法学修士後、同大学博士課程修了。台北市議会議員、立法委員(国会議員)、高雄市長を歴任。民主進歩党主席、行政院長(首相)、2007年第12代総統選挙民主進歩党候補者、16年6月より現職。

 台湾は今年1月11日に総統選挙が実施され、現職の民主進歩党の蔡英文総統が817万票(得票率57%)の高得票で再選された。これは中国の習近平・国家主席が主張する「一国二制度」による統一について明確に拒否した蔡総統の姿勢が台湾の人々の支持を得たことを意味する。蔡総統は、再選された際の演説で、両岸関係の平和と安定を維持していくことを重ねて表明し、「平和、対等、民主、対話」により両岸対話の重要性を強調した。

 

台湾における防疫の取り組み

 

 中国で1月に湖北省武漢で新型コロナウイルスによる肺炎が蔓延したため、当面の間、防疫が最優先課題となった。新型肺炎がパンデミックとなり、世界各国で猛威をふるうなか、感染の流入を最小限に食い止めている台湾が、いま世界で改めて注目されている。

 台湾は昨年12月に中国武漢でSARS(重症急性呼吸器症候群)と似た肺炎が発生しているとの非公式情報をつかみ、専門家を派遣して状況を把握した後、この問題の特別グループを設置した。

 症例が増えてきたタイミングで中央感染症指揮センターを開設し、衛生福利部(厚生労働省に相当)を中心に、各省庁の力を合わせ、経済部(経済産業省に相当)は生活支援と医療物資の確保を、外交部(外務省に相当)は国際感染状況を把握し、水際対策も担当部署が厳格に実施した。

 また、台湾は健康保険のカバー率が極めて高く、健康保険カードを用いてマスクが全国民に行き渡るようにし、必要な防疫物資は国営企業も生産に加わった。

 さらにビッグデータを用いて感染が確認された患者の濃厚接触者を効果的に探し出した。

 そして、最も重要なことは感染情報の可視化であり、今回、陳時中・衛生福利部長が中央感染症指揮センター指揮官を務め、記者会見を毎日開いて感染状況を丁寧に説明し、的確な情報公開でパニックを防いでいる。それにより、大多数の国民は政府を信頼して政府の防疫方針に進んで協力してくれている。

 

日本との緊密な協力

 

 今年2月、船内で新型肺炎の感染が拡大したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に停泊した際、台湾人乗客の入院、下船、チャーター機による帰国などに際しての、日本側の多大な協力に改めて感謝を申し上げたい。

 また、台日間の良好な協力の下、3月末にペルーで足止めされていた日本人旅行客らに台湾のチャーター機に乗ってもらい、ペルー出国を手助けすることができた。さらに4月1日には、インドで足止めされていた台湾人12人を日本の飛行機で東京まで乗せていただいた。まさに「困ったときの友こそ真の友」であることを実感した。

 

台湾の防疫面での国際協力と貢献

 

 台湾の外交部と米国在台協会(AIT)台北事務所は今年3月18日、「台米防疫パートナーシップ共同声明」を発表し、新型コロナウイルスの迅速な検査に向けた研究開発、ワクチンの研究・生産、医療用物資の提供などに合意した。これは台米間のみならず全世界の人々の健康のために台米が緊密に連携して新型肺炎に立ち向かう決意を表明したものである。

 台湾はマスク増産体制の強化により、すでに国内必要量以上の生産能力を達成した。そこで蔡英文総統は4月1日、米国や欧州、並びに台湾と国交のある国々の医療関係者にマスク1千万枚を贈ることを表明した。4月16日、日本にもマスク200万枚を寄贈した。

 また、4月1日には台湾とチェコが新型肺炎の検査キット開発協力に関する共同声明を発表し、台湾は積極的に国際医療協力を推進している。さらに、台湾とオーストラリアは、マスクの原材料である不織布3㌧を台湾からオーストラリアへ、消毒液用エタノール100万リットルをオーストラリアから台湾へ必要な防疫物資を優遇価格で提供する相互協力を行う。

 

WHOは台湾の参加を認めよ

 

 国際感染症の防疫は、初動の遅れが感染を拡大させてしまうことから、早期にウイルスの特徴を把握し、対策を実行に移さなければならない。

 ところが、WHOが1月末に緊急会合を開いた際に、台湾は呼ばれなかった。台湾と共通の理念を持つ日本や欧米諸国などの強い働きかけにより、2月のWHO緊急会合には台湾も専門家が個人の立場でオンライン出席することができたが、実質的な意見交換や情報共有は限られ、十分ではなかった。

 もし台湾がWHOの正式加盟国であれば、もっと早くWHOを通して専門的な警戒を呼びかけることができたのではないかと悔やまれる。

 台湾は2009年から16年までWHO年次総会にオブザーバーとして参加していたが、17年よりWHO年次総会にも出席できない状態が続いている。台湾は2009年から19年までの10年間で、WHOに参加申請した187回の技術的会合のうち、出席できたのは57回のみであり、約7割の会合に出席が叶わなかった。今こそWHOは世界のあらゆる人々の健康のために、台湾の十分な参加と貢献に門戸を開いてほしい。

 

CPTPPに台湾も参加を

 

 今回の新型肺炎を国際貿易の面から見た場合、中国に依存するサプライチェーンの脆弱さが明らかになった。

 また、米中貿易対立が続く中、日本主導のCPTPP(包括的・先進的な環太平洋パートナーシップ協定)の役割は重要である。

 2019年における台湾のCPTPP加盟11カ国との貿易総額は約1543億米ドルであり、そのうち台日間の貿易が約44%を占め、金額は673億米ドルに達している。これは日本とCPTPP加盟国のどの国との二カ国間貿易額よりも大きい。

 台日間の貿易は、日本が電子・情報通信、工作機械、石油化学、化学繊維などの産業において川上産業の重要部品と技術を台湾に提供している。また、台湾は受託生産や加工のほか半導体などを日本に供給するなど、相互補完関係が形成されている。

 

 これらの基礎を踏まえ、台湾がCPTPPに参加することができれば、台日間のサプライチェーンがより一層強化され、台日双方のみならずアジア太平洋地域にさらなる経済的利益がもたらされることになる。

 


2020年4月6日号 週刊「世界と日本」第2170号 より

テロとの戦い

「小を殺し大を生かす」戦い

テロの本質 恐怖の付与

 

東京国際大学教授 防衛大学校名誉教授 村井 友秀 氏

《むらい・ともひで》

1949年奈良県生まれ。東京大学大学院国際関係論修了。米国ワシントン大学国際問題研究所研究員、防衛大学校国際関係学科教授を経て現職。専門は東アジア安全保障、軍事史。著書は『事例研究 日本と日本軍の失敗のメカニズム(共著)』など多数。

 

テロの定義

 国連は現代世界の脅威として、戦争、内戦、テロ、大量破壊兵器の拡散、国際犯罪、環境破壊を挙げている。現在の日本において内戦の可能性は低いが、その他の脅威は存在する。

 日本では、ゲリラ、テロ、サボタージュが混同して使用されている。サボタージュは破壊活動という意味であり、平和時でも戦時でも、また軍人でも民間人でも破壊活動を行えばサボタージュである。戦争で特殊部隊が敵領域内の橋を爆破することもサボタージュであり、平和時に反政府運動家が政府の建物に放火することもサボタージュである。

 ゲリラというスペイン語は本来、小さな戦争という意味である。ゲリラは組織的、継続的な戦争の戦闘員であり、正規軍の兵士と同様に捕虜になった場合は、ジュネーブ条約による捕虜資格を有する。

 すなわち、敵に拘束されても犯罪者として罪を問われず、非人間的な扱いを受けない権利がある。

 他方、テロの語源はフランス革命の恐怖政治である。すなわち、テロの本質は恐怖を与えることである。テロの定義は、非合法な暴力を行使することによって一般大衆に恐怖を与え、政治目的を達成しようとする行為である。テロリズムの本質は、物理的被害ではなく暴力による心理的効果である。

 戦争法を守って戦闘するゲリラは合法的な戦闘員として扱われるが、非合法な暴力を行使するテロリストは戦闘員ではなく犯罪者である。したがって、拘束された場合は捕虜資格を有せず、当事国の刑法で裁かれる。

 従来、テロとの戦いは犯罪者との戦いと見なされ、警察が対応すべきだと考えられてきた。すなわち、テロとの戦いは、戦争法で使用が認められた全ての兵器が無限界的に使える戦争ではなく、警察の実力行使がテロリストの暴力を超えない範囲で許される警察比例原則の世界であった。

 ただし、兵士に不必要な苦痛を与える兵器として戦争法で禁止されているガス兵器やダムダム弾が、デモ鎮圧用の催涙ガスあるいは狙撃用銃弾として警察は使用できるといった逆説もある。

 

新しいテロとの戦い

 現在のテロはロケットや高性能爆薬など強力な兵器を使用するようになり、警察では対応できない場面も多くなった。テロの暴力レベルが上がった状況の中で、米国はイラクやアフガニスタンにおいて、反米武装勢力を戦闘員でもあり犯罪者でもある「非合法戦闘員」として扱った。

 戦場では反米武装勢力を戦闘員と見なして無限界的に武力を使用し、拘束した後は犯罪者として戦争捕虜の権利を認めなかった。

 テロは従来その政治性が注目され、賛否両論が併存する行為であった。植民地を独立させた英雄の中には、多くのテロリストが存在した。しかし、1960年代から70年代にかけて植民地独立運動が一段落すると、80年代にはテロの標的になっていた先進国を中心にテロを非難する国際世論が高まり、先進国首脳会議や国連でテロに反対する決議や宣言が可決された。

 なお、世界には8000の民族と200の国家が存在するが、これから8000の国家が生まれる可能性はなく、民族独立型のテロが無くなる可能性はない。また、世界から不平等や差別が無くなることはなく、テロの原因が無くなることはない。

 米国はテロの標的になることが多く、1983年にはベイルートで米海兵隊司令部が一人のテロリストによって爆破され、241人の海兵隊員が死亡した。この事件以降、米国は「直接的・間接的に国家が関与するテロは戦争と見なし、テロに関与する国には軍事力を含めた対応をする」ことになった。

 また、シュルツ国務長官は自衛権の解釈を拡大して、「テロリストに攻撃された国家は、他に手段がない場合、将来の攻撃を予防し、テロリストを捕え自国民を救出するために武力を行使することは許される」と主張し、ワインバーガー国防長官は「テロを実行した国家、あるいは個人に、恐怖の破壊と恐るべき代償の支払いを強要することがテロに対する究極の抑止法である」と述べている。

 現在は、これが世界の常識である。

 

日本の対テロ戦略

 テロとの戦いでは想定外の事態が必ず発生する。想定外の事態は誰も予想できず、あらかじめ法律を作って対応策を準備することは不可能である。想定外の事態に対応するためには臨機応変の行動が必要になる。

 臨機応変の対応を保証するには、「必要性の法理」に拠る外ない。「必要性の法理」とは、「明文による禁止規定がない限り、措置行動が可能」とする考え方で、判例法や慣習法を基本的法源としている。

 現在、世界各国が武力行使する際の部隊行動規則(ROE)は、禁止されていない限り実行できる(Negative List)であり、想定外の事態にも現場が対応できるようになっている。

 なお、現場の暴走を抑える歯止めは日本の民主主義である。日本は首相に罵詈雑言を浴びせても行方不明にならない国であり、民主主義のレベルは高い。

 武力行使が正義であると政府が判断すれば(Just Cause)、政府は合法的手続きによって現場に権限を与え(Right Authority)、現場はテロリストと住民を慎重に区別し(discrimination)、付随的損害を極小化して武力行使することになる(Proportionality)。

 テロを無くすためにはテロの原因になる貧困や差別を無くす内科的措置は不可欠であるが、負傷し出血している人間には内科的措置では間に合わず、緊急の外科手術が必要になる。ただし、外科手術には合併症が伴うが、その措置によって生じる善の合計が悪の合計を上回ればよいのである。

 テロとの戦いは「小を殺して大を生かす」戦いである。しかし、日本はこれまで「一人の命は地球より重い」とし、小を生かして大を殺してきた。国家すなわち国民全体の安全のためには個人の私権が制限されるのは止むを得ない。

 国民に勇気と自己犠牲の覚悟が無ければテロとは戦えない。正義を守るためには平和が守れないこともある。

 


2020年2月17日号 週刊「世界と日本」第2167号 より

今年の米国展望
民主・共和両党の政治状況

 

拓殖大学海外事情研究所長 教授 川上 高司 氏

《かわかみ・たかし》

1955年、熊本県生まれ。阪大博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、(財)世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授等を経て現職。著書は『「無極化」時代の日米同盟』『アメリカ世界を読む―歴史を作ったオバマ』『米軍の前方展開と日米同盟』『米国の対日政策』『国際秩序の解体と統合』 ほか多数。

 今年は、年明け早々のトランプ大統領の指示によるイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官の殺害から始まった。そのタイミングはトランプ大統領の弾劾裁判が始まる直前の出来事であり、トランプ氏にとっては大統領選挙で対抗馬から弱腰と言われないためにも、また目前に迫った弾劾裁判から国民の目を外に向ける絶好のチャンスであったのかもしれない。

 

 折しもアメリカ国内では民主党の大統領候補を決めるスーパーチューズデーの前であったこともあり、政権奪回を目指す民主党からは非難が続出した。

 米国議会へ事前通達がなかったのはもちろんのこと、ソレイマニ司令官殺害の根拠をめぐり、トランプ政権が主張する「差し迫った脅威」に懐疑的な見方や、今後のイラン領内の攻撃をトランプ大統領が示唆していることなどへ、批判の声が多数上がった。

 ペロシ下院議長は「今回の措置は議会の承認なしに行われ、イランから報復の懸念がある」と政権の対応を批判した。有力候補のバイデン前副大統領は「トランプ大統領はダイナマイトを一触即発の危険な地域に放り投げた」とトランプ大統領を非難した。

 そしてペロシ氏は、米下院で1月9日に、大統領による対イラン軍事行動を制限する「イラン戦争権限決議案」を賛成多数で可決。上院でも共和党議員を造反させ、可決する見通しである。

 しかしながら同法案には、法的拘束力はない。民主党はイラン政策をめぐり、トランプ大統領の独断でイランの戦争に突入する危険性を世論にアピールし、大統領選挙を有利に進めようとしているとも考えられる。

 米大統領選の予備選挙は、2月3日のアイオワ州党員集会で始まり、ニューハンプシャー州(2/11)、ネバダ州党員集会(2/22)、サウスカロライナ州予備選(2/29)と行われ、3月3日のカリフォルニア州など予備選が集中するスーパーチュズデーで候補者が大体決定される。そして7月の民主党全国大会で民主党候補が正式に決まり、大統領選挙は本格的にスタートする。それからトランプ大統領の民主党候補との一騎打ちが始まり、11月の投開票日まで3カ月以上闘うのである。

 共和党はトランプ大統領が候補となるのは間違いないが、一方の民主党の候補者指名争いは1年以上続いてきた。当初は、28人も候補者がいた。テレビ討論会を7回も開き、ふるいに掛けられてきたが、現在も未だ12名の候補が乱立している。

 1月22日のCNNによると、バーニー・サンダース上院議員(27%)、ジョー・バイデン前副大統領(24%)、エリザベス・ウォーレン上院議員(14%)、ピート・ブッディジェージ元サウスベンド市長(11%)が争っている。

 その大統領選挙の真っ只中、一番注目を浴びるトランプ大統領の弾劾裁判が1月22日に上院で始まった。民主党が弾劾裁判を、大統領選挙で勝利をするための手段の一つとしていどんでいる。

 弾劾裁判は、民主党が多数をしめる下院で昨年9月に弾劾調査が開始され、トランプ氏が政敵に打撃を与えるためにウクライナ政府に調査を依頼したことは「権力の乱用」であり、弾劾調査への協力を拒否したことも「議会の妨害」だとして、12月に弾劾訴追した。

 大統領が弾劾裁判にかけられるのは1868年のジョンソン大統領、1999年のクリントン大統領に続いてトランプ大統領で史上3人目で、議会上院を舞台に秋の大統領選挙もにらんだ与野党の激しい攻防が繰り広げられることになる。

 民主党はボルトン前大統領補佐官や、マルバニー首席補佐官代行ら、大統領の元側近や現職の幹部を証人に呼び、トランプ大統領に不利な証言を引き出したい考えであるが、証人喚問には上院で過半数の賛成が必要であるので難しい。

 下院の弾劾裁判においてトランプ大統領が有罪とされる場合には、出席議員の3分の2以上が賛成しなければならないが、上院では与党・共和党が100議席のうち53議席を占め、大きな造反の動きは出ていないため、大統領が罷免される可能性は低いと見られている。

 このためトランプ大統領は、野党・民主党が党利党略で不正行為をねつ造したと主張して無罪を勝ち取り、11月の大統領選挙に向けて民主党に打撃を与える戦法に出るであろう。さらに共和党のトランプ政権は、バイデン元副大統領の息子を弾劾裁判に召喚する可能性もある。

 バイデン氏はウクライナ疑惑を巡って共和党から息子の不正があったと追及されていて、裁判でこうした主張が繰り返されれば打撃を受ける恐れもあり、裁判では大統領選挙をにらんだ政治的な駆け引きが激しくなっている。まさに泥仕合である。

 さらに、上院での弾劾裁判は大統領選挙中に並行して開催されているため、民主党の大統領候補の上院議員のサンダース、ウォーレン、それにクロブシャーは審理への出席のため裁判の審議が行われている日中の選挙運動はできなくなる。このように弾劾裁判は民主党の大統領選挙に向けた候補者選びにも影響を与える可能性もある。

 これを理解している共和党は一転して急ピッチで裁判を進め、トランプ大統領に不利な証拠が表面化することを極力抑えようとしている。さらに、2月4日にはトランプ氏による一般教書演説が予定されており、ここで高らかに「無罪」を強調すると考えられる。

 また、トランプ大統領の支持率は、イランの革命防衛隊のソレイマニ司令官の殺害後も上昇している。支持率上昇の理由として共和党支持者を中心に、オバマ前政権時の対イラン融和政策への不満が蓄積していたこともあるが、経済的好調に負うところが大きい。

 トランプ大統領は、大統領選挙を勝ち取るためには、何が何でも経済を好調に保っておかねばならない。2020年1月現在、米経済は史上最長の好景気が続いている。その景気の拡大を継続させるために、一番の懸念材料である中国との貿易戦争を一時和解した。

 このように、アメリカの大統領選挙は現職の大統領が有利に事を進めることができる。現在進行形で政策を展開できるからである。

 しかしながら、今回の大統領選挙は、外交政策や国内問題が即、大統領選挙の論点となっているところに大きな特徴がある。

 


2020年2月17日号 週刊「世界と日本」第2167号 より

米中関係 避けられるか 新冷戦構造
人権問題は中国の孤立化招く

 

(公財)笹川平和財団 上席研究員 小原 凡司 氏

《おはら・ぼんじ》

1985年防衛大学校卒。98年筑波大学大学院(地域研究)修了(修士)。2003~06年、駐中国防衛駐在官。09年第21航空隊司令。11年IHS Jane,s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャー。13年東京財団を経て、17年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』、『軍事大国・中国の正体』、『何が戦争を止めるのか』、『曲がり角に立つ中国』(共著)等多数。

 中国の高官や外交部が、習近平主席国賓訪日を成功させるべく積極的に活動している。現在の中国は日中関係改善に積極的であり、習主席国賓訪日は、その流れの中にある象徴的なイベントなのだろう。しかし、日中関係の改善は日中間だけの問題ではない。各国は、自らにとって有利な国際・地域情勢を創出するために外交活動を行っており、中国も同様である。日中関係を改善することは、中国に有利な国際情勢の創出に資することでもあるのだ。

 

 問題は、中国が求める国際情勢が、国際社会から米国が孤立した状態を意味することである。中国は、「米中新冷戦」という二国間対立構造を避け、米国対国際社会という構図を描きたいのだ。この考え方は、2019年7月に発表された国防白書『新時代的中国国防』の国際情勢認識の中にも見ることができる。

 中国は、深刻な対立を回避するために米国に譲歩する一方で、「米中新冷戦」を強く否定してきた。それは、米国と衝突しても勝利できない、と中国が考えているからに他ならない。特に中国が恐れているのは、米国が軍事的手段を用いて中国の発展を妨害することだ。そして、その懸念が中国内に高まりつつある。

 2017年11月に、米国のシンクタンクが、中国がパブリック・ディプロマシー(広報外交)で用いているのはソフトパワーではなくシャープパワーであると批判してから、中国の対米世論工作が排除されてきた。それと同時に、米国は中国との「競争」を強調する。

 2017年末にホワイトハウスが発表した「国家安全保障戦略」に見られるように、米国は大国間競争が復活したとの世界観を示した。

 米国は、中国に対して追加関税等による経済的圧力をかけ始めたが、そこには情報漏洩等の安全保障に関する理由も付けられた。さらに米国は、戦闘機、戦車、携帯型地対空ミサイルなどの武器を台湾に売却する決定をし、台湾防衛に積極的な姿勢を見せている。

 中国では習近平主席が、米国との貿易戦争は長期にわたるとして、「長征」を引き合いに出して国内に忍耐を呼び掛けたが、それだけで済まなくなる可能性も出てきた。

 米中間で戦われているのは単なる貿易戦争ではない。米国は、中国と政治戦を戦っているのだ。米国国防総省の定義によれば、政治戦とは「国の目的を達成するための政治的手段の攻撃的使用」を指す。「政治的手段」には、戦争に至らない軍事力の使用も含まれている。

 さらに、2019年11月にポンペオ米国務長官が、「競合するイデオロギーと価値観が米国と世界に及ぼす影響力に言及する」として、中国共産党は、闘争と世界支配を狙うマルクス・レーニン主義の党であると強調した。イデオロギーと価値観が対立するのだとすれば、中国共産党の統治が終わらない限り、米中の対立も終わらないことになる。このような状況が中国の危機感を高め、何としても米中二国間対立という状況を避けなければならなくなった。経済や安全保障を始めとする全ての領域で、中国はまだ米国に対抗できないと考えるからだ。

 中国共産党の指導者たちの間では、こうした認識に対するコンセンサスがとれたように見える。2019年の中国国防白書が、ロシアだけを名指しして軍事協力を明言したのに続き、欧州との軍事関係を発展させるとしたのも、欧州と米国の間の距離をさらに拡大しようとする意図を示すものだと言える。

 しかし中国にとって、米国孤立の試みの中で重要な課題は日米同盟であろう。日本が米国と歩調を合わせれば、中国の試みは失敗しかねない。しかも、日米同盟は強固だ。「日本は、いつまで米国と一緒にいるのか考えた方が良い」と聞くこともあるが、自信に満ちた言い方の裏側には中国の不安も垣間見える。

 中国の働きかけに日本も応えるかのようだ。2019年12月23日、北京で行われた日中首脳会談において、安倍首相は「日中新時代にふさわしい関係」の構築を習主席に呼びかけた。習主席は「日中関係を新しい段階に押し上げていきたい」と応えている。

 それでも、日中間には関係改善を阻む問題がある。東シナ海や北朝鮮の非核化といった安全保障問題だけではない。中国が協力の姿勢を見せられないのは人権問題だ。安倍首相は、香港情勢に憂慮を示し、新疆ウイグル自治区における少数民族に対する人権侵害問題について中国に改善を求めたが、習主席はこれを突っぱねた。中国は、共産党の統治を脅かすと自らが認識する、あらゆる活動を許容できないのだ。

 しかし、人権問題は、国際社会で中国を孤立させる危険を孕んでいる。中国は、1989年6月4日の天安門事件の後に、国際社会が中国を孤立させたことを忘れていない。

 それでも中国は、共産党による統治を守るために手段を選ぶ余裕はないだろう。そのため中国は、人権問題を理由に国際社会から孤立しないよう、自らの支持者を集めている。中国以外にも、人権の保護よりも社会の安定を優先する国は多い。その多くは権威主義的国家であり、現在の統治者は、自らによる統治の継続を最重要と考える。

 人権問題で中国を非難すれば、火の粉は自らにも降りかかる。これらの国々は、そもそも人権問題を取り上げたくないのだ。さらに、その多くは開発途上国であり、中国の「一帯一路」によって大きな経済的恩恵を受けている。中国は、こうした国々に経済的影響力も行使しつつ、国際社会において自らを支持するよう求めている。

 しかし、人権問題は中国に新たなディレンマを生んでいる。「天安門事件の二の舞にはならない」と豪語する中国であるが、実際のところ、自らが孤立しないようにするのが精いっぱいだ。

 中国が人権問題に取り組まなければ、日本や欧洲は中国との距離を広げるだろう。人権問題は、中国が国際社会を二分化し、避けたいはずの米中新冷戦構造を自らの手で固めるよう促す問題であり、日中関係改善を阻む問題でもあるのだ。

 


2020年2月3日号 週刊「世界と日本」第2166号 より

大統領選 トランプは優位なのか

 

(公財)笹川平和財団上席研究員 渡部 恒雄 氏

《わたなべ・つねお》

1963年生まれ。東北大学歯学部を卒業。歯科医師を経てニュースクール大学(米国ニューヨーク市)で政治学修士。戦略国際問題研究所で上級研究員を務めた。2005年に帰国、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、現職。戦略国際問題研究所非常勤研究員を兼任。近著に『大国の暴走』(共著、講談社)がある。

 2020年11月の大統領選挙において、現職のトランプ大統領が再選を果たすのか、それとも民主党候補が勝利をするのかは、日本にも世界にも大きな問題だ。2016年の大統領選挙の開票日まで、トランプ候補が勝つか、クリントン候補が勝つのか、予断を許さなかったように、今回の大統領選挙の結果も予断を許さない。

 

 その背景には、米国の建国以来の独特の大統領選挙の仕組みと、リベラルと保守の2つに極端に割れた米国の政治状況がある。

 2016年の選挙の全米総得票数では、クリントン候補がトランプ候補よりも286万票も多く獲得したにも関わらず、トランプ候補が勝利した。米大統領選挙は、総得票数ではなく、各州に人口比に応じて割り当てられた選挙人の数を合計して勝敗を決める「選挙人団制度」だからだ。

 この制度は18世紀後半のアメリカ建国時の通信・交通事情が反映しているのだが、現代になっても伝統を変えるのは容易ではない。

 しかも現在の米国政治は、共和党支持の保守派と民主党支持のリベラル派の両極分化が進み、中西部や南部の保守州では共和党候補が、西海岸、北東部、シカゴなどのリベラル州では民主党候補が常に勝利する。

 勝利のカギを握るのは、スイングステートといわれる12前後の州の帰趨であり、16年の大統領選挙では、中西部の激戦州4州(ウィスコンシン、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア)とフロリダ州のすべてを制したトランプ候補が勝利した。

 2020年の大統領選挙もこの構造は変わらないため、中西部の激戦州のわずかな票の動きで勝敗が決まる。

 現時点で、民主党には圧倒的な魅力を持つ候補は登場しておらず、経済が好調な現職大統領は有利であるため、トランプ大統領が優位にあるという見方は多い。

 しかし構造的に考えると、トランプ大統領の優位性は、それほど大きなものではなく、容易に逆転され得る。

 民主党候補は、中西部やフロリダなどでの僅かな票をひっくり返せば、勝利の芽は十分にある。16年の大統領選挙で、前評判と全米世論調査では優位にあったクリントン候補が、本番ではトランプ候補に敗北をして世界を驚かせたことを思い出してほしい。

 トランプ大統領は、有権者の40%前後のコアな支持層の固い投票によって支えられており、これが強みではあるが、無党派や民主党支持者を増やすような政策と選挙運動は行っておらず、せっかくの好調な経済にもかかわらず、支持基盤は拡大されていない。

 ウェブサイト「リアルクリアポリティクス」による12月12日~1月9日の主要世論調査の平均では、最新の支持率は44.8%で不支持率は52.9%である。

 この数字は、トランプ大統領のウクライナ疑惑について下院による弾劾訴追がほぼ確定し、トランプ氏が明確な証拠なしにイランの革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害して、イランとの戦争のリスクを高めたことなどの、多くのトラブルを経ても変化がない。

 おそらく米国経済が大きな変調をきたさない限り、コアなトランプ支持層は変わらない。一方で、不支持率も一貫して高く、50%前後の不支持層がトランプ支持に変心することもあり得ない。

 おそらくトランプ氏はこの事実を自覚し、保護主義、移民への不寛容、減税などの政策によって、コアな支持層の動員を高める戦術を取っている。そのため、米国の分極化は益々高まり、トランプ大統領への拒否感を抱く米国人の数も増加している。

 したがって大統領選挙の帰趨は、民主党候補が、トランプ大統領に拒否感を持つ反トランプ層を実際の投票に動員できるかどうかにかかっている。民主党は幅広い層にアピールできる候補者を擁立できるかがカギだ。

 しかし、幅広い反トランプ層を動員するための民主党の候補者選びは容易ではない。それは反トランプ層の中でも、経済のグローバル化や金持ち優遇税制による貧富の差の拡大に不満を持つ左派と、金融業界やビジネスに近く、現状容認の中道派との乖離が大きいからだ。

 現時点での民主党候補のトップランナーは、オバマ政権の副大統領を務めた中道派のジョセフ・バイデン候補だが、2番手には民主社会主義者を標榜するバーニー・サンダース上院議員、そして3番手にはやはり左派のエリザベス・ウォーレン上院議員がつけ、その後を中道派の若手ピート・プティジェッジ元サウスベンド市長と富豪のマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長が追いかけている。

 トランプ大統領は、自らの再選を、米国の国家運営よりも優先している特異な大統領である。これは民主党にとっては、チャレンジであると同時にチャンスでもある。例えば、トランプ大統領は今年から上院で弾劾裁判にかけられるが、それはトランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に、ウクライナの企業と契約を結んでいたバイデン候補の息子、ハンター・バイデン氏と父親のバイデン候補の汚職疑惑について、調査をするように軍事援助とひきかえに圧力をかけたという疑いがあるからだ。

 バイデン候補の支持率は、息子の疑惑により一時悪化したが現在は回復している。激戦州の1つ、ペンシルバニア州出身で、トランプ大統領のように労働者クラスの庶民に気さくに話をできる中道派のバイデン候補への期待は高い。トランプ大統領が弾劾のリスクを取ってまで、バイデン氏を狙い撃ちしたということは、それだけトランプ氏の再選に脅威になっていると認識したからでもある。

 トランプ大統領の支持率は弾劾訴追にはまったく影響を受けなかったが、バイデン候補もウクライナでの息子の疑惑を跳ね返して、民主党候補レースでは先頭を走っている。

 英エコノミスト紙は、昨年12月、しぶとく生き残る姿に着目し、「バイデンは時代遅れで失言癖があるかもしれないが、トランプに打ち勝つ候補としては適材」と評した。

 2月から民主党予備選が開始されるが、バイデン候補、あるいはしぶとい中道派候補が対抗馬になれば、本選ではトランプ大統領と互角の闘いを演じることができるはずだ。その結果は2016年同様に予断を許さないものになるだろう。

 


2020年1月20日号 週刊「世界と日本」第2165号 より

中国の狙い 「緩やかな脱米」
達成できるか「二つの百年」の目標

 

拓殖大学教授 富坂 聰 氏

《とみさか・さとし》

1964年愛知県生まれ。単身台湾に渡った後、北京語言学院を経て北京大学中文系に進む。『週刊ポスト』『週刊文春』記者を経てフリージャーナリストとして独立。『龍の伝人たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞受賞。近著に『「米中対立」のはざまで沈む日本の国難』。国家基本問題研究所企画委員。

 

 2020年の中国は、向き合わなければならない2つの大きなテーマがある。1つは外交で、もう1つは内政である。そう書けば月並みな響きだが、いずれも中国にとって重要過ぎるテーマだ。国の経営を担う習近平指導部にとってはなおさら、その真価が問われかねない政治マターと言っても過言ではない。

 

 2020年、習近平国家主席の頭を悩ます重要テーマは、おそらく以下の2つだ。

 今年も内外の強い逆風が指導部に向けて吹くだろうが、その第一の問題は言うまでもなくアメリカだ。

 トランプ大統領が再選に向けて動きを加速させる過程で、外交政策の最大の争点が対中関係になることは火を見るよりも明らかだ。

 なかでも大統領選挙の終盤では、候補者は総じて中国に厳しい言動に走り、票の獲得に走るのが常だ。受けて立つトランプ大統領も当然のこと、中国に厳しい姿勢で臨まざるを得なくなる。

 つまり中国は、各候補者が放つ中国への厳しい批判に応じなければならなくなるのに加え、そうした空気に後押しされたトランプ政権が放つ対中政策にも対応しなければならなくなるのだ。

 また大統領選挙の行方次第では、新たな大統領の誕生という巨大な変数とも向き合わなくてはならなくなる。中国は外交におけるストレスが高まることを覚悟しているはずだ。

 2019年11月23日、中国の王毅外相は20カ国・地域(G20)外相会合に出席するため訪問した名古屋で、アメリカを「世界の最大の不安定要因」と批判したが、これこそ現指導部の本音なのだろう。

 この最大の変数に対応するため、中国が採った政策が“緩やかな脱米”である。2018年春、米商務省はアメリカの企業が中国の通信関連メーカー・中興通訊(ZTE)への部品の供給を停止させた。そのことで同社は経営危機に追い込まれた。

 この問題に加えて年末からは華為科技(HUAWEI)をターゲットにしたアメリカ企業からの部品供給停止の動きも加速した。

 こうした単なる貿易摩擦の範囲では語れないアメリカの一連の攻勢を受けて、中国は最悪の状況を想定した備えを真剣に考えるようになる。それこそが“緩やかな脱米”である。将来、米中にデカップリングが起きることに備えて、部品の調達先から貿易相手の内容を再構築していく動きがみられるようになっていく。

 中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」が将来の対米貿易額の減少を補う目的を帯びていくのも、このころからである。

 中国の外交攻勢は露骨なほどで、前半にはヨーロッパに、そして後半にはロシアに向けて外交エネルギーが向けられた。ともに中国共産党序列1位、2位、3位の習近平国家主席、李克強総理、栗戦書全国人民代表大会常務委員長が連続で訪問したのだ。こうした対米外交の調整は、中国にとって内政を切り盛りする上でも実に頭の痛い問題となっている。

 例えば、中国経済にとって長年の頭痛の種である債務問題の処理は、アメリカが対中貿易で発した制裁関税のために道半ばで先送りを余儀なくされたのは典型例だ。なかでも中国が2020年に力を結集して取り組みたい内政のテーマには強い逆風になっている。

 それこそがもう1つの重要テーマだ。中国共産党が、結党100周年と中華人民共和国建国100周年に向けた大きな目標を定めていることはよく知られている。いわゆる「二つの百年」の目標だ。

 この「二つの百年」のうち、最初の目標となる「小康社会の実現」の期限は、まさしく2020年のうちにクリアしなければならないのである。具体的には2010年からの所得倍増と貧困の撲滅である。

 10年で所得倍増は毎年6%の伸びが確保できれば達成は容易であるし、数字の問題であれば様々な達成の仕方がある。

 だが、やはり問題は国内の貧困撲滅だ。もちろんどこまでを貧困と呼ぶのか、数字上の達成なのかなど、あいまいな点は多いが、政権が一方的に「撲滅」を宣言しても、国民が納得できるのか否かが重要で、反応は明確になろう。

 2019年10月1日の新中国成立70周年(中国建国70周年)の記念イベントに際して、「(小康社会)の実現までの距離が日に日に近づいている」(建国70周年記念イベント記者会見『新華ネット』9月27日)との見通しは述べられたが、国民の感覚とのズレはいまだ存在している。

 貧困脱却の取り組みで、いま政権が最も頼りにしているのがアリババなどネット商取引のガリバーである。

 とくにアリババは「農村タオバオ」、「タオバオ村」などを駆使して、遠隔地で貧困の象徴であった農村の活性化に力を入れている。これは政治の要請を受けた動きではなく、2014年に同社がニューヨークで上場して以来の重要戦略である。

 実際、貧困層を消費者に変える取り組みは世界的にも大きな注目を浴びている。というのも貧困層は消費意欲が概して旺盛だとされているからだ。

 すでにアリババの2つの組織は、一定の成果をあげ始めているとされる。つまり共産党の指導には、アリババという民間のツールが不可欠である現実が、ここにはっきりと表れてきているのだ。その意味で中国の2020年には、民間企業と政治の距離が再調整される1年になるとも考えられるのだ。

 


《わたなべ・つねお》

1963年生まれ。東北大学歯学部を卒業。歯科医師を経てニュースクール大学(米国ニューヨーク市)で政治学修士。戦略国際問題研究所で研究員を務めた。2005年に帰国、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、現職。戦略国際問題研究所非常勤研究員を兼任。近著に『大国の暴走』(共著、講談社)がある。

 

2020年1月20日号 週刊「世界と日本」第2165号 より

 

今年のアメリカ情勢
予備選 大統領選
結果次第で節目の年に

 

(公財)笹川平和財団 上席研究員 渡部 恒雄 氏

 

 今年のアメリカは大統領選挙の年であり、その結果は米国と世界に大きな影響を与えることになる。

 現職のトランプ大統領は、共和党と民主党の二つに分極した構造と、アメリカの白人保守層の不満をうまく吸収して2016年の選挙で勝利した。

 その政策と姿勢は、既存のリベラルと国際協調路線を否定し、「アメリカ・ファースト」による変化の期待を作り出し、40%前後の低位安定のコアな支持で政権を運営してきた。

 一方で、50%以上の不支持率も継続しており、民主党支持層と一部の無党派層からの拒否感の強さは、過去最高だ。この拒否感は、政策だけではなく、大統領選挙中に関係を持ったとされる元アダルト映画女優に口止め料を払うなど(この件でトランプ氏の元顧問弁護士は有罪となり服役中)の道徳問題もあるため根は深い。

 そして、内向きの外交政策と同盟国に対しても関税措置をとる保護主義は、第二次世界大戦後のアメリカの基本政策を大きく変えるポテンシャルを持っており、トランプ継続か民主党新大統領かは、今後の世界にも大きな影響を与える。

 大統領選挙の結果には二つの不確定要素が影響する。民主党候補の質と今年の景気だ。

 対抗する民主党候補に誰が、どのように選ばれるかにより、選挙の帰趨がかなり見えてくる。2016年の大統領選挙のトランプ勝利は僅差だった。トランプ氏は、ライバルのヒラリー・クリントン候補に、全米の得票数では286万票もの差をつけられたのだが、各州の選挙人数の合計では多数をとり当選した。いわば薄氷の勝利である。

 しかも就任後、トランプ氏は自らの支持層を固めるための反移民、減税、規制緩和、保護主義などの極端な政策を進めており、民主党支持層と無党派層からの支持が増える見込みはない。したがって民主党が、自陣営から幅広い支援を得て、無党派層も取り込めるような魅力的候補を選ぶことができれば、大統領選挙での勝機がある。

 もう一つは、11月の大統領選挙直前の経済状況である。世界の景気は減速気味だが、米国の経済は好調である。昨年11月の民間部門雇用者数は25万4000人増加という予想を上回る好調さを示した。

 過去の大統領選挙では、経済が好調なときの現職はほぼ再選を果たしている。直近でも再選されなかった大統領は選挙時に経済不振を経験した大統領だけである。(例、1980年のカーター、1992年のブッシュ父)

 民主党の大統領候補を選ぶ予備選は、2月4日にアイオワ州の党員集会から開始されるが、3月3日の予備選が集中するスーパーチューズデーでは大勢が見えてくるはずである。特に今年は、民主党支持者が多い全米最大の選挙人数を持つカリフォルニア州の予備選が3月3日に繰り上がったことで早い展開が予想されている。

 執筆時点(昨年12月前半)で、先頭を走るバイデン元副大統領は、トランプ大統領のウクライナ疑惑の影響で支持が伸び悩んでいる。少なくとも、息子が専門家でもないのに、ウクライナのエネルギー企業から高給をもらっていた事実は、イメージダウンとなった。

 二番手と三番手のエリザベス・ウォーレン上院議員とバーニー・サンダース上院議員は、その左派的な姿勢が経済に悪影響があるのではと党内中道派から警戒されている。

 四番手のピート・プティジェッジ元インディアナ州サウスベンド市長は、30代の若さと新鮮な発言、中道の政策により人気急上昇中だが、それにより他候補からの集中攻撃を受けており、生き残れるかはわからない。

 遅れて参加したマイケル・ブルーンバーグ元ニューヨーク市長は、圧倒的な自己資金力が期待されているが、左派からの支持が課題だ。

 現時点でいえることは、トランプ大統領が再選される可能性は十分にあるが、同時に民主党の挑戦者が勝利するチャンスも相当にあるということである。ただし好調な経済が続けばトランプ大統領には追い風となる。

 今年1月から「ウクライナ疑惑」による弾劾裁判が議会上院で始まるはずだが、これまでのところ、トランプ大統領の支持率はまったく影響を受けていない。これはコアな支持層の固さを示唆している。

 一方で、民主党支持者と一部の無党派にとっては、トランプ大統領のウクライナ疑惑は、民主党候補に投票する十分な動機付けとなる。

 しかし、あくまでもそれは、自らが米国の将来を託すに値する魅力的な民主候補がいればこそである。

 トランプ大統領の外交は、国内のコアな有権者向けの政策の延長といっていいだろう。

 米国が貿易赤字を抱える国には、中国だけでなく、日本、韓国、欧州のような同盟国にも容赦はない。中国には関税を課して、米国への農産物の輸出や、国内の構造改革を迫る一方で、同盟国の日韓や欧州のNATO加盟国には、駐留経費増や国防費増を迫っている。

 中東では、指導者との個人的関係が深いイスラエル、サウジとの関係を重視し、イランとの緊張が続くだろう。アフガニスタンからの米軍撤退も果たそうとするだろう。

 トランプ外交は個人的な人間関係が国益に優先する。トランプ氏が個人的に友人と認める人物、プーチン・ロシア大統領、エルドアン・トルコ大統領、安倍首相などにはあまり強くは出ない。

 今年の米国外交の注目点は、中国との貿易協議の合意の可否と米中対立がどこまで激化するのかという点だ。

 すでに米中の新冷戦ともいうべき、長期的な戦いは始まっているが、両首脳とも自国経済に大きな存在は与えたくないため妥協の余地はある。また選挙前の実績として、トランプ氏が北朝鮮に対して、実体はなくとも国内に実績として誇れるような「非核化」合意を行うリスクが懸念される。

 昨年、韓国に駐留費用5倍を要求したトランプ氏が、日本に対して4倍の費用負担を要求するのかどうかも気になる点だ。2月の民主党予備選にはじまり、11月の大統領選挙に終わる本年は、その結果が今後の米国と世界の将来に影響する節目の年になるといえるだろう。

 


《わたなべ・としお》

1939年6月甲府市生まれ。慶応義塾大学、同大学院修了。経済学博士。筑波大学教授、東京工業大学教授、拓殖大学総長を経て現職。オイスカ会長。外務大臣表彰。正論大賞。著書は『成長のアジア 停滞のアジア』(吉野作造賞)、『開発経済学』(大平正芳記念賞)、『西太平洋の時代』(アジア太平洋賞大賞)、『神経症の時代』(開高健賞正賞)、『決定版・脱亜論』『放哉と山頭火 死を生きる』など多数。

2020年1月20日号 週刊「世界と日本」第2165号 より

 

「親日台湾」の背景とその淵源
足跡遺した児玉・後藤・磯・八田

 

拓殖大学学事顧問 前総長 渡辺 利夫 氏

 

 韓国の反日、これは率直にいって如何(いかん)ともしがたい。日本の朝鮮統治は明治43年(1910)の韓国併合に始まり、第2次大戦での日本の敗戦にいたるまでの36年間に及んだ。しかし、たかだか36年の統治によってそれまで500年以上にわたって築かれた王朝国家(李朝)の伝統を覆すことは、実に容易ならざることであった。

 

 中華のエッセンスは清朝中国にではなく、「我に在り」と考える李朝は自らを「中華より中華的なる存在」であり、中華をより「純化」したものが李朝だ、そう認識していた。その認識に立って、日本などは海を隔てた海洋に浮かぶ、道徳も正義もない「蛮夷」の住まう島だとみなしていたのであろう。

 あろうことか、この日本によって朝鮮が侵略され、その統治下に入ったのである。李朝の支配階層「両班」にとって、日本による統治は、心底、受け入れがたいものであった。

 日本は朝鮮に「身分制度の廃止」「私有財産制の確立」「契約自由原則の導入」に懸命に努めたものの、これが両班に受け入れられることはなかった。

 日本は朝鮮を36年間にわたり統治し、これをその後、朝鮮にお返しするつもりだったわけではない。朝鮮を大日本帝国の一部に組み込み、日本の一地方として永久にこれを併合しようと考えたのである。

 『反日種族主義』の編著で名高い李栄薫(イヨンフン)先生の用語法にしたがえば、日本は朝鮮を「永久併合」したのである。それゆえ日本は朝鮮の文明化に本気になって取り組んだ。当時、論陣を張った福沢諭吉の朝鮮論を読み返してみれば、そのことが手に取るようによくわかる。

 台湾のことに入っていこうとしているのだが、台湾とは何かを理解するための絶好の「反射鏡」が朝鮮なのだと私が考えているために、少々重すぎる導入となってしまった。

 日本の統治下に入った台湾は、朝鮮と同じく日本の「永久併合」の対象であった。とはいえ、日本領有以前の台湾は「化外の地」であり、そこに住まう人間は「化外の民」であった。天子の徳の及ぶことのない未開の「蕃地」が台湾であった。

 台湾には李朝のような歴史と伝統をもった王朝があったのではない。対岸の福建省や広東省の各地から移住してきた、習俗や言語を異にする「群族」の住まう複合社会であり、諸群族が相互に権力と土地を求めて「分類械闘」を繰り返す殺伐たる社会であった。「分類」とは原籍を異にするもの、「械闘」とは闘争、格闘のことである。

 加えて、アヘン吸引常習者が蔓延、コレラ、ペストなどの熱帯病のはびこる「難治の島」が台湾であった。日本が台湾の地に足を踏み入れた時、これに住民が反撥し激しく抵抗したことは当然であった。台湾統治の初期、この反日武装勢力を制圧することは並大抵のことではなかった。統治初期の日本の指導者の苦心惨憺は、率直のところ朝鮮の比ではなかった。

 台湾は歴史も文化も伝統もない「異質社会」であった。皮肉なことだが、それがゆえに統治初期の諸困難を克服すれば、日本による台湾の近代化、文明化への道を遮(さえぎ)るのは何もなかったのである。文化も歴史も伝統もなかったからである。

 第4代台湾総督の児玉源太郎、総督府民政長官の後藤新平が赴任して以来、台湾は児玉・後藤のデザイン通りに近代化、文明化を一挙に進めることができたのである。そして、台湾には、朝鮮とはまったく対照的に、法治の社会規範・秩序が時間をかけつつも、全島にわたり広く深く浸透していった。

 日本の台湾放棄後、蒋介石軍の占領により、台湾は恐怖政治の30数年間の忍耐を余儀なくされた。台湾の法治社会は完全に崩れ去ったかにみえた。

 しかし、蒋介石時代に台湾経済は大いなる発展を遂げ、中産層が分厚く形成され、これが主力となって李登輝氏による民主化の時代への帳(とばり)を開いた。

 この新しい時代にいたり、日本統治時代に根を張った社会規範・秩序が鮮やかにも蘇り、この観念が台湾人アイデンティティ(「台湾認同」)形成のベースとなったのである。韓国が反日である一方、台湾が親日であることの史的な淵源がここにある。

 本紙編集部から執筆を依頼されたテーマは「台湾に足跡を遺した日本人」である。紙幅が残り少なくなってしまったが、日本の台湾統治時代に、この島の文明化、近代化、社会規範・秩序の確立のために満身の力をもってエネルギーのすべてを吐き出した日本人は少なくない。その努力が結実したのが台湾であり、この容易ならざる努力があって今日の台湾があり、台湾の親日がある。

 この時代を生きた二人の人物について言及して、小稿を閉じることにしたい。

 一人は、台湾総督府技師の磯永吉である。粒粒辛苦の20年を経て、当時の世界で第1級の「蓬莱米(ほうらいまい)」と呼ばれる画期的な改良品種の創出に成功し、台湾はもとより、あの時代の日本の米不足の解消に絶大な貢献をなした人物である。

 この蓬莱米は、その後、多様なルートを通じて、現代アジアの「グリーンリボリューション」(緑の革命)へとつながっていったことを省みれば、磯の努力は世界史的な意味をもっていたということができる。

 八田與一。この名前を見聞きした日本人は少なくなかろう。ほとんどが急峻な山地からなる台湾島で、大規模な灌漑、貯水施設を建設し、その治山治水事業を成功に導いた人物が八田與一である。

 その成功がなければ、米を初めとする台湾の安定的な食料供給は不可能であった。この事実に直面した台湾総督府技師の八田與一は、嘉義の近くに広がる広大な、しかし荒涼たる嘉南平原の灌漑計画を作成、ここをアジア有数の米作地帯にしようと、総督府の全面的な協力を得て、後の米国のフーバーダムが建設されるまでは世界最大の規模を誇ったダムの構築に成功した。

 実に10年に及ぶ精根尽き果てるほどの努力の結実であった。このダムは現在もなお機能している。ここを訪れるたびに私は、八田與一の生死を賭した行動に思いを馳せ、熱くなる心を抑えることができない。

 


《り・そうてつ》

専門は東アジアの近代史・メディア史。中国生まれ。北京中央民族大学卒業後、新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院にて新聞学博士(Ph.D.)取得。98年より現職。同年、日本国籍取得。テレビのニュース番組や討論番組に出演、情報を精力的に発信。著書に『日中韓メディアの衝突』『北朝鮮がつくった韓国大統領―文在寅政権実録』『「反日・親北」の韓国 はや制裁対象!(共著)』など多数。

2020年1月20日号 週刊「世界と日本」第2165号 より

 

今年の朝鮮半島は
南・北 激動の渦に

 

龍谷大学教授 李 相哲 氏

 

 2020年は、金正恩委員長にとって19年以上に残酷な年になりそうだ。19年1月1日、金正恩は自分の執務室のソファーに座り、「北朝鮮の住民にむかって希望の夢を抱いて新しい年を迎えました」と挨拶した。世界に向けて余裕すら演出したが、金正恩が見ていた夢は幻想として終わったのではないか。

 

金正恩は無謀な「新しい道」へ

 米朝会談を通して苦しい経済状況を改善しようとした金正恩の試みは19年2月のハノイ会談の決裂で失敗した。

 その間、金正恩は、アメリカの態度変化を引き出すため、「主動的」な措置をいくつかとった。

 第1回目の米朝会談を1カ月後に控えていた18年の5月、金正恩は、人質にとっていたアメリカ人3人を解放、6回の核実験を実施したプンゲリ(北朝鮮の北東部の咸鏡北道吉州郡豊渓里)の核実験場を「破壊」した。

 シンガポール会談後には朝鮮戦争中に犠牲となった米軍の遺骨を返還、衛星発射や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射基地として使ってきた東倉里の施設を解体すると約束したが、アメリカは、北朝鮮のこのような「主動的な措置」を評価しなかった。制裁を緩めるどころか、北朝鮮の貨物船を拿捕(19年5月、米国が北朝鮮の石炭運搬船ワイズ・アーネスト号を拿捕した事件)するなど制裁を強めた。

 金正恩が野心的に推し進めてきた2021年までの国家戦略「経済5カ年計画」もアメリカと国際社会の制裁で完全に頓挫している。16年5月、北朝鮮は22年ぶりに「国家経済発展5カ年戦略」を採択し、毎年「新年の辞」で言及したが、ハノイ会談決裂後は「5カ年計画」は言わなくなり、ごっそりと取り下げたのはその証拠だ。

 2016年の着工、18年10月に完工を目指してきた金正恩肝いりの国策事業の元山海岸「ガルマ観光地区」の建設は、いまだ完成の見通しすら不透明だ。金正恩はガルマ観光地区建設現場を4回以上も訪れ、20年の太陽節(4月15日の金日成の誕生日)までに完成しろと拍車をかけているが、完成の見込みはない。

 

朝鮮半島は大激変へ

 アメリカがいまなお北朝鮮に対する制裁を緩めようとしない理由は、北朝鮮が非核化に向けて、本当に意味のある、実質的な行動をとっていないとみているからだ。核実験場もすぐに復元できる程度に「破壊」し、解体を約束した東倉里のミサイル発射施設は、最近普通に稼働していることが確認された。

 金正恩は年末までにデッドラインを設定してアメリカに態度変化を迫り、さもなければ「新しい道を歩む」と威嚇しつつも、ドナルド・トランプ大統領との個人的な「信頼関係」をテコに制裁緩和を狙っているが、トランプ大統領がそれに応じる気配はない。

 今年、金正恩はこれまで宣言してきたとおり「新しい道」を歩まざるを得ないだろう。

 経済立て直しはほぼ絶望的な金正恩にできること、新しい道とは、「主体武器をどんどんつくる」(19年12月24日付「労働新聞」社説)ことだろう。つまり、核武力を増強しながら、核保有国として、それを前提に国際社会と付き合っていく算段だ。

 今年、再選を狙って選挙運動に突入するトランプ大統領は、北朝鮮の核武装を阻止するのか、野放しにするのか決断を下さなければならない。核武装の阻止に動いた場合、今年、朝鮮半島は大激変の渦に巻き込まれるはずだ。

 

 

韓国の政局はさらに混乱へ

 気になるのは、今年、文在寅韓国大統領がどのような対北朝鮮を打ち出すかだ。政権出帆早々に「金正恩政権の崩壊を望まない」(17年7月のベルリン宣言)と公言した文氏は、今年4月に予定されている4年に1度の国政総選挙(国会議員全員を選挙しなおす)で国民の審判を受けなければならない。さらに「朝鮮半島に春がやってきた」(19年5月7日、ドイツの新聞)と鼻高々に宣言したが、その真価が問われることになる。

 その間、文氏はハノイの米朝首脳会談で劇的な妥結があるものと判断、北朝鮮に対する大規模経済支援プランまで用意し、朝鮮半島に春をもたらした実績をもって選挙に臨むつもりだったが、金正恩の挑発で壊れかけている。

 北朝鮮がしびれをきらせてICBM発射実験を再会すれば、トランプ大統領は選挙への介入とみなし、北朝鮮に厳しい態度をとることは間違いない。

 場合によっては北朝鮮に対する石油の禁輸、海上封鎖のような准軍事行動に出ることも予想される。

 それでも文氏はいまなお、北朝鮮との和解を模索している。19年暮れの日中韓首脳会談で「鉄道共同体、エネルギー共同体、経済共同体、平和安保体制」づくりを呼びかけ(19年12月24日、日中韓経済サミットにて)、そこに北朝鮮を抱き込み、北朝鮮の孤立を防ごうとしたが、このような構想にアメリカは否定的だ。北朝鮮が挑発を続け、朝鮮半島に緊張が走れば、その間の文政権の政策は失敗との判定が下されるのではないか。

 韓国の国内状況はさらに危機的だ。経済危機がささやかれるなか、文大統領を巻き込んでの3大疑惑が持ち上がり、検察の捜査の手は大統領府、大統領周辺に及んでいる。これからの争点は、大統領がどれだけこれらの事件に関与したかだ。

 4月の総選挙で野党が国会議員の過半数を勝ち取れば、国会は「国政調査」権限を発動して「文大統領の疑惑」を追及するだろう。それでも不十分となれば、「特別検察」を任命し、大統領とその周辺を捜査、起訴することも考えられる。

 文氏は、在任中に訴追されることはない特権をもってはいるものの、捜査が進み、疑惑が事実と判明すれば、弾劾の動きが表面化するのも確実だ。そうなれば、20年の韓国政局は昨年以上に混沌とし、場合によっては政権が倒れることも考えられる。

 2020年は、残念ながら、悪い意味で朝鮮半島が注目される年になるのではないか。

 


《わたなべ・ひろたか》

1954年生まれ。東京外語大仏語科卒。同修士課程、慶大博士課程、パリ第一大学国際関係史博士課程修了。在仏日本大使館公使。東京外大国際関係研究所所長を経て、2019年4月より帝京大教授。著書に『ミッテラン時代のフランス』『フランス現代史』『ヨーロッパ国際関係史』『シャルル・ドゴール』など。

 

2020年1月6日号 週刊「世界と日本」第2164号 より

 

冷戦終結30年後の欧州
問われる「戦略的自立」構想実現

 

帝京大学法学部教授 東京外国語大学名誉教授 渡邊 啓貴 氏

 

 冷戦が終結してからの30年、単独主義と多国間主義を繰り返しながら、米国の相対的影響力の低下と中露の台頭の中で世界は多極化傾向を深めていることは確かだ。こうした中でヨーロッパは「戦略的自立」を求めているが、実際にはその求心力は弱まっている。

 

 欧州統合の終焉や崩壊は現実的な議論ではないが、統合のプロセスは前人未到の挑戦であるだけに、アップ・アンド・ダウンの繰り返しだ。その意味では、現在は「停滞局面」にあるのは確かだ。

 第1に、ブレクジット(英国のEU離脱)の期限はこの1月末だ。12月の英国総選挙ではブレクジット支持派の与党保守党が1987年以来の圧倒的な勝利を収めた。「合意ある離脱」の可能性が高くなっているが、2016年の国民投票直後とは違って世情の混乱は小さくなっている。

 筆者は楽観論の立場である。ブレクジットはEUにとって決して喜ばしい事態ではないが、かといってEU統合が終焉するという事態にはならない。国民投票から3年半がたち、心理的・実際的な準備が進んでいるとみている。

 やや時期尚早だが、ブレクジットは3年半前の英国の「完全離脱」のイメージから「部分的離脱」、つまり、実質的にどこがこれまでと違うのか、という議論になりつつあるのではないか。

 例えば1966年にフランスがNATO(北大西洋条約機構)の軍事機構から離脱したときに、当初の大混乱の予想とは異なって、実際には大きな変化はなかった。ドゴール仏大統領は2年ぐらい時間をかけて部分的に軍隊を引き揚げていったから、期限が来たときには全て準備ができていた。その時と似たようなことになるのではないか。

 筆者自身は、現状を悪化させることは合理的な選択としては正しくないので英国民も時間とともに離脱を思いとどまるだろうと当初は思った。しかしその後も「離脱撤回」の決定にはなりそうにない。それほど大英帝国の歴史へのノスタルジー、あるいは母国への自負心は大きい。ブレクジットは英国にとって大きな賭けだ。

 第2に、英国の離脱を推し進める人たちを含む欧州のポピュリズムだ。「反エリート」と「真の人民(庶民)」という感情、そして街頭行動などの直接行動をポピュリズムの特徴とすれば、その勢いは依然として強い。グローバル化よる社会格差が縮まらないかぎり、「不満分子」は増えるからだ。それは外国人を含む社会的弱者をスケープゴートにする。

 ただし、ポピュリズムは一様ではない。西欧資本主義先進諸国と民主化・市場経済化の発展途上にある中・東欧諸国においてはその在り方は異なる。「経済的な南北格差」と同時に、「民主化の東西格差」は依然として現存する。

 したがって、西欧諸国でのポピュリズムの頭打ち傾向と中・東欧諸国での排外主義の隆盛とは区別して考えたほうがよい。

 それは2019年欧州議会選挙の結果に明白だった。14年の時に西欧諸国で飛躍的に増大した排外主義的ポピュリズムは頭打ちになった。ルペン率いる欧州最大のポピュリスト・フランスの国民連合(旧国民戦線)は引き続いて単独では仏国内では第一党だが、議席は減らした。他方で中・東欧諸国のポピュリズム的な動きは「ナショナリズム」や「主権主義」といったほうがいい。

 第3に、英国の離脱とともに、EU内の求心力の低下だ。17年総選挙でメルケル政府に陰りが見え始めてから、独仏関係にはひびが入り始めた。それは17年9月のマクロン・イニシアティブ(EU財政政策・共通防衛政策の進化)や最近の「NATO脳死」発言に対する各国の反応にも明らかだ。フランスの突出はドイツの内外事情に呼応したもので、マクロン大統領自身フランスの独断専行が通るとは思ってはいないが、リーダーシップの綱引きは強く意識されている。

 トランプ大統領の「アメリカ第一主義」への牽制と欧州の「戦略的自立」そのこと自体には独仏は合意しているが、独仏間の齟齬はその方法論をめぐるものだ。

 また欧州のこうした内部での綱引きは国際情勢の大きな動きに呼応している。19年夏以後、プーチン露大統領を別荘に招き、ロシアを主要首脳国会議に復帰させようというマクロン大統領の親露政策はほかの欧州諸国との軋轢を招いている。

 ドイツはマクロンのパフォーマンスに反発してはいるが、ロシアとの経済的関係が最も強い国だ。緊縮財政とユーロ基準の見直しをめぐる加盟国間の論争も熱を帯びるだろう。その中心はドイツだ。外交・経済統合のいずれの点においても、「ドイツ問題」はあらためてEUの大きな課題として立ち現れている。

 さらにプーチン・ロシア外交の不可測性とともに、ユーラシアの現実は中国の広範な「一帯一路」構想に大きな影響を受ける。

 さすがの西欧諸国も対中楽観論から慎重論に転じ始めたのが2013年ごろ、「一帯一路」構想が明らかになってきてからだった。そしてその中国とロシアが経済的軍事的に接近している。

 マクロンの対露接近は中露接近に対する「楔」だ。このことはEUの共通認識でもあるので、問題は政策の統合にある。

 そうした中で、アングロサクソン・日豪印との安全保障関係に力を入れようとする英国のスタンスは注目に値する。

 冷戦が終結して30年、国際情勢はかつての第一次世界大戦か、それ以前の欧州列強のグレート・ゲームの時代に回帰したかのようだ。90年代半ばに仏シラク大統領は「多極化」の世界観を提唱したが、今それはより現実味を帯びている。

 わが国ではこうした発想の議論がほとんど見られないが、この世界政治の構図に対抗する動きは日米印の連携だけではない。

 中露の綱引きと欧中露の間の勢力均衡的な「影響圏」をめぐる角逐と、その一方で米国の中東からの影響力後退。この中でアジアと日本の立ち位置が問われている。

 EUはこうした多極化の時代に、相対的ではあるが自らの秩序構想を実現するために「戦略的自立」(2016年グローバル戦略)を提唱する。多極化の一翼をどのようにして担っていくのか。その問いに世界は直面している。

 日本外交が「価値観外交」を標榜して世界の「平和」と「繁栄」に踏み込むとしたら、多極世界の中で自らの見識をどこまで主張することができるのか。それが日本外交の大きな試金石となる。

 


《たけさだ・ひでし》

1949年兵庫県生まれ。専門は朝鮮半島論。慶應義塾大学大学院修了。韓国延世大学韓国語学堂卒業。1975年から防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。その後2年間、韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書は『東アジア動乱』(角川学芸出版)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)など多数。

 

2019年12月16日号 週刊「世界と日本」第2163号 より

 

協定延長 しかし対立は続く
文政権の対日政策に変化なし

 

拓殖大学大学院 客員教授 武貞 秀士 氏

 

11月22日、韓国が日本との間の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を延長する決定を下した。ひとまずは、この地域の安定にとって重要な仕組みが維持されることになった。韓国の金有根(キムユグン)国家安保室第1次長は、「我が政府は、いつでもGSOMIAの効力を終了させることができるという前提条件の下で、2019年8月23日の終了通報の効力を停止させることにし、日本政府はこれに対する理解を示した」と述べた。

 

GSOMIA条件付き協定延長

 

 韓国大統領府高官は、日本が半導体材料3品目の輸出管理を強化した措置をめぐり、「対話が正常に進んでいる間は、WTO(世界貿易機関)への提訴手続きを停止する」と述べた。「GSOMIAの延長は日本の輸出管理政策の変更が条件になる」という主張に沿う説明である。

 しかし、日本の経済産業省は同日の発表で「韓国側が貿易管理体制の改善に向けた意欲を示していることから政策対話を行う」と述べ、日韓間で論争が起きる事態となった。

 細かなやりとりは別として、この問題は韓国が「条件付きで保護協定を延長する」と宣言したことで、日本の輸出管理政策という日本の国内問題や、元徴用工への補償問題というやっかいな日韓間の争点と絡みあう展開になってきた。

 

日本と韓国が対立するのはなぜか

 

 日韓が対立するのは、第1に、韓国が国際地位の上昇で自信を持ったことがある。「日本に追いつき、追い越すチャンスが到来した」と見たのは李明博政権(2008~2013年)時代だった。この時期、韓国の国際地位は急速に上昇した。

 1996年に経済協力開発機構(OECD)に加盟したあと、20年間で経済規模は2倍になり、輸出額は6倍になった。サムスン電子、現代自動車は世界のブランドになった。中国経済が急成長し中韓貿易は急伸した。島根県竹島に上陸した李大統領は「日本が反発しても国際的影響力は大きくない」と言って日本側の反発をかった。

 第2に、韓国の国内政治的背景がある。文在寅氏は大学生であった朴正煕政権時代、投獄された経験がある。

 日本の技術、資金を活用して高度経済成長をなしとげた朴正煕大統領に対する韓国民の尊敬の念は格別で、朴正煕氏の長女である朴槿恵氏は大統領選挙で文在寅氏に勝利した。

 今年11月、ソウル中心部の光化門で文在寅政権退陣を叫ぶ集会を見たが、「朴正煕革命を引き継ごう」という文言が目立った。朴正煕氏の業績を肯定するか否かの歴史論争が韓国内で進行中だ。文在寅氏にとり韓国社会の「朴正煕=親日派」を一掃することは、革新政権が今後、安定した政権を維持するために必要なのである。文大統領は「日本」を否定し続ける宿命を背負っている。

 第3に、朝鮮半島には独特の歴史観がある。「儒教文化は中国大陸で興り、朝鮮半島で発展した。日本に伝わったのはその一部にすぎない」という歴史観だ。「儒教の師匠は朝鮮半島なのに、生徒の日本が1910年から35年間統治した」との思いが、反日の背景にある。

 2019年夏、「日本に勝つ」ことに邁進してきた文在寅政権は正念場を迎えた。日本が輸出管理上、韓国を「ホワイト国」(当時)から外す措置をとったことで、8月2日の閣議で文大統領は「二度と日本に負けない。勝利の歴史を作る」と激しい言葉を使った。

 8月14日には韓国国防部が国防中期計画(2020~2024)を発表し、年間4兆3千億円の国防予算を使い、自衛隊が取得する軽空母と垂直離着陸機の導入を検討する内容を盛り込んだ。日本を意識した内容である。

 8月15日の「光復節」(解放記念日)演説で文大統領は、「解放から100年の節目の2045年に南北統一を。統一したら日本に優る力量が生まれる」と語った。

 しかし、日本と距離をおこうとする文在寅政権に対して、北朝鮮はなぜか冷たい。一度はGSOMIAの破棄を決めた文在寅政権との対話を拒否し、金剛山観光の事業から韓国を除外する発言をし、南北首脳会談には応じていない。

 北朝鮮は、文政権が融和政策一辺倒であるので圧力を加えても対話路線を放棄しないと見ているのである。韓国が北朝鮮に対する制裁を独自に解除し、開城工業団地の操業再開を決断すべきと考え、実行しない文政権に不満なのである。

 10月15日、平壌でのワールドカップサッカー2次予選の南北対決が観客、取材陣、中継なしの試合になったのは不満の表れだった。

 

不安定な東アジア

 

 ビーガン国務副長官と崔善姫・第一外務次官の米朝協議の行方に注目が集まるが、トランプ政権も米朝合意を急がない。2020年の大統領選挙を考えると外交リスクは避けたいからである。北朝鮮は米国に対する核抑止力を確保するために核開発をしてきたので、核を放棄することはない。

 11月、北朝鮮は米朝首脳会談開催を最優先にして米国との調整を続けたが、新しい核放棄案を提案していない。米朝関係が膠着状態であっても北朝鮮の核開発が進展するだけで、北朝鮮は損をすることはないとの判断だろう。米朝関係は破綻しないけれども合意がないまま続くことに双方の利益がある。

 9月、筆者は北朝鮮を観光で訪問したが、経済制裁下でも百貨店には商品が揃い、タクシー、トロリーバス、原付自転車の数は増え、中国とロシアからの観光客が増えていた。

 経済状況から、北朝鮮が核合意を急ぐようには見えない。日朝対話に北朝鮮が消極的であるのは、米朝間で制裁緩和が決まれば、日本が日朝関係改善に乗り出すと見ているからである。

 韓国はGSOMIAを維持する決定を下したが、日韓間で懸案をめぐる議論が白熱する時代がやってきた。米韓、日韓間のノイズを北朝鮮、中国、ロシアは歓迎しているだろう。

 東アジアは大変な時代に突入した。

 


《かわそえ・けいこ》

1986年より中国(北京・大連)の大学へ留学。2010年の『中国人の世界乗っ取り計画』(産経新聞出版)は、Amazon〈中国〉〈社会学概論〉の2部門で半年以上、1位を記録するベストセラー。その他の著書として、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『中国・中国人の品性』(ワック・共著)(Amazon〈中国〉部門1位)など。

 

2019年12月2日号 週刊「世界と日本」第2162号 より

 

大転換期に突入した世界
貿易戦争は「貿易」戦争ではない

 

ノンフィクション作家 河添 恵子 氏

 

 米国に、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権が発足して以来、米中関係は大きな転換期にある。マスメディアは、「米中貿易戦争」との表現で矮小化したがるが、関税交渉の話は入口に過ぎない。米中は冷戦時代に突入し、さらに言及すれば1世紀に一度の世界の大転換、地殻変動が起きていると考えられる。

 

「G2時代」は数年で死語に

  振り返ってみるとオバマ政権(2009年1月~17年1月)の2期目に、中国に習近平政権(2013年3月~)が発足し、「米中G2時代」という表現がメディアを通じて世界に流布された。

 だが、この3年ほどの間、「米中G2」を推進する、唱える声は、反トランプ勢力である民主党からも「消えている」。すなわち“死語”になったのだ。

 それどころか、「偉大なる中華民族の復興」を掲げ“ビッグブラザー”(イギリスのジョージ・オーウェルが描いた小説『1984年』で描かれたような、地球市民を監視する独裁者)を目指す習近平政権への警戒モードを最大限に上げている。

 10月24日、ウッドロウ・ウィルソン国際学術センター(ワシントンD.C.)主催で行われたマイク・ペンス副大統領の演説には、このような内容が含まれる。

 「トランプ大統領が何度も述べているように、わが国は過去25年間に中国を再建しました。まさにその通りで、その時代は終わりました。歴史が示すように、3年も経たないうちに、トランプ大統領はその物語を永遠に変えてしまいました。米国とその指導者たちはもはや、経済的関与だけで、共産主義中国の権威主義国家が、私有財産、法の支配、国際通商規則を尊重する自由で開かれた社会に変わることを期待しないでしょう」

 

米国は何と戦ってきたのか

 戦後の長い年月、米国は何と戦っていたのか。共産主義を掲げるソビエト社会主義共和国連邦を敵とし、核開発で牽制し合いながら、共産主義思想と戦ってきた。

 そして1989年11月、ドイツを東西に分断していた東西冷戦の象徴だった「ベルリンの壁」が崩壊し、ソ連の衛星国(旧東欧やバルト三国など)が次々と民主化を果たした。ソ連も、1991年12月に崩壊し、ロシア共和国他に解体された。

 この時点で、西側社会すなわち資本主義社会は「共産主義に勝利」したことになった。しかし、実はまだ巨大な共産主義国家が、地球上に存在し続けた。言うまでもなく、中国共産党が統治する中華人民共和国である。

 米国は、信仰の自由を含む「自由と民主(主義)」「法の下の平等」「人権」という価値観を持つ。そして、この価値観を共有しようとしない大国が、中国共産党による独裁体制で、「世界同時革命」すら夢見る習近平政権ということになる。

 中国政府による、新疆のウイグル人など100万人以上が強制収容所に入れられている実態、チベット民族への残虐行為、寺院や教会の破壊などが、英字メディアに続々と報じられている。

 すかさず、欧州議会も「動いた」。9月19日に、「未来の欧州のために、過去の欧州の価値を想起する決議案」を採択したのだ。その中には、「20世紀にナチスと共産主義政権が人類史上見られない規模での大量殺人、大量虐殺、強制送還を行い、人々の生命と自由を奪った。ナチスによるホロコーストという恐るべき犯罪を想起し、ナチス、共産主義者、その他の全体主義政権による侵略行為、人道に対する罪、大量の人権侵害を最大級の強い言葉で非難する」との一文が盛り込まれた。

 さらには、中華人民共和国建国70周年の記念行事を目前に控えた9月末、米国と英連邦王国、欧州、香港と台湾などの世界45都市で、「反全体主義(Anti Totalitarianism Rallies)」を掲げるデモ行進が行われたのだ。

 

香港デモは戦争の「可視化」

 「今、活動しなければ明日はない」

 2019年6月9日、香港で大規模デモが起き、プラカードにはこのような決意めいた文字が踊った。主催者発表によると参加者103万人(警察発表24万人)。香港の主権が英国から中国に返還された1997年7月1日以来、最大規模のデモとなった。

 実のところ、天安門事件から30年を迎える6月、香港においてデモが起きることを、私は事前に知っていた。このデモは長期化すること、そして世界の「自由と民主」「法の下の平等」「人権」陣営VS.「全体主義」中国共産党との代理戦争になることも予測していた。

 5G(次世代高速通信システム)時代が到来する前に、次々とさまざまな手を打たなければ、米国の覇権が危機的状態に陥りかねない中で「起きた」、いや、「起こした」20世紀型の“アナログ戦争”とも考えている。すなわち、戦争の「可視化」である。

 中国当局は「(香港デモの)背後に米当局者がいる」と非難し、関与を止めるよう再三要求してきた。

 米中央情報局(CIA)、そして香港を22年前の6月末まで統治していた英国の情報機関(通称MI6)が主軸となり、香港住民の民主化リーダーらを後方支援し、住民を扇動しているのだろう。1984年12月に締結した英中共同声明の内容、「50年不変」を反故にされた英国も、リベンジに燃えているはずだ。

 香港デモは、加えて反共産党系の華僑華人、反習近平一派(江沢民一派など)、黒社会、ディープステート(国際金融資本家)など、利権に絡む内外のさまざまな勢力も複雑怪奇に連動していると考えられる。

 香港を主戦場とする、この“ハイブリッド戦争”のゴールは、共産党政権を崩壊させることである。事実、欧州の“変心”を含め、習近平政権への包囲網は日に日に強まっている。

 世界が大転換期に突入した今、日本は新元号「令和」を迎えた。「日中友好」「世界の工場」「13億人の市場」といった、中国共産党による耳当たりの良いスローガン、工作に騙されてきた「平成」時代から、脱却できるのだろうか?

 


《ちの・けいこ》

横浜市生まれ。1967年に早稲田大学卒業、産経新聞に入社。マニラ特派員、ニューヨーク支局長。外信部長、論説委員、シンガポール支局長などを経て2005年から08年まで論説委員長・特別記者。現在は客員論説委員として産経新聞などに執筆している。97年度ボーン上田記念国際記者賞を受賞。著書は『戦後国際秩序の終わり』(連合出版)ほか多数。

 

2019年11月18日号 週刊「世界と日本」第2161号 より

 

「トランプ現象」を再考する
トランプ後の問題 青写真の欠落

 

ジャーナリスト 千野 境子 氏

 

 「トランプ現象再考」について、私なりの解釈では2つの視点がある。1つは文字通りトランプ現象の再考、もう1つはトランプ大統領の再考である。2つは「鶏と卵」と同じで、社会がすでにトランプ現象化していたからトランプ大統領が出現したとも言えるのだ。そして今、来年の米大統領選挙に向けてレースは始まり、トランプ現象は再考の時を迎えている。

 

 トランプ現象についてその前に要約すれば、アメリカ・ファーストに象徴される自国第一主義、ポピュリズム、反エスタブリッシュメント、反グローバリズムなどが主な特徴ということになろう。

 「永遠の同盟はない。あるのは永遠の国益のみである」という英国政治家の言葉の通り、国家はもともと自国第一主義ではあるが、まともな国は公言などしない。ところが超大国アメリカで、これを選挙スローガンに大統領選に勝利したから世界に激震が走った。振り返れば、オバマ前大統領の「アメリカは世界の警察犬ではない」発言は前段で、素地はあったのである。

 ポピュリズムは英国でも乱舞した。トランプ大統領の登場と同じ2016年6月の国民投票によるブレグジット(英国のEU離脱)だ。混迷は今も続き、キャメロン、メイ両首相に続く3人目のジョンソン首相はズバリ、ミニ・トランプと言われる。

 反エスタブリッシュメントはポピュリズムと一卵性双生児もしくはコインの裏表のような関係にある。エリートや既成政治家が嫌い。トランプ大統領のコアな支持層である白人・高卒・労働者がそれをよく体現している。さらにグローバリゼーションも格差を拡大させた元凶と評判が悪い。

 もちろんトランプ現象には熱い支持者がいる一方、強固な反対者も少なくない。社会の分断や対立の激しさもトランプ現象の特徴である。

 この間、トランプ現象は何を目指し、世界へいかに対処してきたのだろうか。ゴールはまだ分からない。ただ1つ明らかなのは既存の体制や秩序への挑戦である。そしてその先頭に立っている指導者がトランプ大統領だ。

 大統領の事実上の初仕事として、2017年1月23日の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定離脱のための大統領令に署名した後は、地球温暖化パリ協定、国連教育科学文化機関(ユネスコ)、イランとの核合意と立て続けに協定や国際機関からの脱退を表明した。

 その後も米ロ中距離核戦力(INF)全廃条約離脱、北大西洋条約機構(NATO)や同盟国へ応分の負担要求など、異議申し立てが続く。

 最初、私はこれらをオバマ前大統領の業績潰しくらいに考えていたが、根はもっと深い。オバマ嫌い以上に、トランプ大統領はブレトンウッズ体制や自由貿易体制、そして国連などによる国際協調という戦後国際秩序が気に入らないのである。

 それらを作ったのは他ならぬアメリカだが、トランプ大統領にすればその結果、アメリカは不利益を被り、損をしている。したがって、壊れたところで痛痒はないし、むしろそんなものは壊してしまった方がよいと考えているのではないだろうか。

 かくて世界は地殻変動を起こし、各地で混乱が顕在化し、国際情勢は一段と不安定化し危うくなった。代表的なのが中東だ。イスラム国(IS)がようやく崩壊したと思ったら、米軍のシリア撤退発表を待っていたようにIS退治の立役者クルド人勢力をトルコが攻撃、シリアとトルコはつかの間の停戦に合意した。

 脈絡なきトランプ外交を見て、ロシアのプーチン大統領は虎視眈々と中東への影響力の浸透を狙っている。反米イランと親米サウジアラビアの対立も底なしだ。トランプ大統領の足元を見た北朝鮮は、ミサイルの発射実験を繰り返している。

 と散々なトランプ現象にも評価すべき点はある。中でも米中貿易戦争は中国の野放図な経済発展や軍事大国化に警鐘を鳴らし、中国再考の機運を世界的に作り出した。欧州連合(EU)は対中政策見直し文書を作成したし、これまで対中融和路線の仏独も同様だ。しかも貿易問題が一件落着しても覇権競争は長期戦の可能性が高い。「一帯一路」は正念場である。

 またNATOも日米同盟も過去、アメリカへの依存症が否めないから、経費負担増の要求はあながち無理難題とは言えない。

 トランプ現象の反面教師的な役割も無視できない。TPPは日本や残る国々の努力と結束により2018年末には発効したし、パリ協定もカリフォルニア州など15州とプエルトリコ(自治領)がUS Climate Allianceを結成するなど、州は独自の道を歩き始めた。トランプ現象は皮肉にも各国で地方やNPO、NGOなど民の活性化を促している。

 トランプ現象の継続はトランプ大統領の再選に負うところが大きい。民主党の候補乱立で再選の可能性は高いと言われてきた。しかしここへ来て、ウクライナ疑惑がトランプ大統領の足元を脅かしている。弾劾の動きはかつてないほど勢いを見せ、与党共和党内には動揺が広がっていると伝えられる。とは言え弾劾された大統領は皆無で、ハードルが高いことは間違いない。

 ウォーターゲート事件のニクソンのように「辞任」はトランプの辞書にあるだろうか。予測不可能といわれるトランプ大統領だけに、何が起きてもおかしくない。今はそうした想像力とその時への備えが必要だ。ただし、たとえトランプ大統領が表舞台から消えたとしても、それはトランプ現象の終わりを意味しない。

 自国第一主義もポピュリズムも、反エスタブリッシュメントも反グローバリズムも世界を見渡せば、失速したとまでは言えない。既成政治家をはじめとして既得権層に対する有権者の失望や怒りは深く、トランプ現象の大本の問題は未解決のままだからだ。トランプ現象には人々を惹きつける磁場が依然としてある。

 ただトランプ現象の最大の問題は、破壊の後の青写真、つまり長期的なビジョンがないことだ。先進国の中でトランプ現象からもっとも遠いところにいると思われる日本こそ、トランプ現象からの出口をそろそろ示すべきではないだろうか。

 


《しゃちょうてい》

1946年台北市生まれ。国立台湾大学卒業。大学在学中に弁護士試験をトップの成績で合格。司法官試験も合格。74年日本・京都大学法学修士後、同大学博士課程修了。台北市議会議員、立法委員(国会議員)、高雄市長を歴任。民主進歩党主席、行政院長(首相)、07年第12代総統選挙民主進歩党候補者、16年6月より現職。

 

2019年11月4日号 週刊「世界と日本」第2160号 より

 

国の総意“一国二制度”での統一反対
台湾人の誇り 民主国家「台湾」

 

台北駐日経済文化代表処代表 謝長廷 氏

 

今年9月、太平洋の島嶼国であるソロモン諸島とキリバスが中華民国(台湾)と相次いで断交した。これにより、台湾と正式に国交がある国はわずか15カ国となった。この数字を見ただけでも、台湾を取り巻く国際環境が、かつてないほどの厳しい状況にあることがわかる。今年1月、中華人民共和国(中国)の習近平・国家主席は、台湾に対して「一国二制度」での統一を受け入れるよう求めた。

 

  これに対し、台湾の蔡英文総統は「断じて受け入れない」と突っぱねたが、中国は台湾に対する圧力を強めた。台湾の外交関係の切り崩しもその一環だといえる。しかし、力で台湾に迫るやり方は逆効果となるだろう。中国が主張する「一国二制度」による統一に反対することは、もはや台湾人の総意だからだ。

 「一国二制度」下にある香港では今年、「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模な抗議デモが起きた。このデモをきっかけに、激しい抗議運動が半年近くにわたり続いている。

 その根底にあるのは、このままでは香港の自由が失われるのではないかという危機感と中国当局に対する不信感だ。そして、普通選挙でトップを選出できない民主主義制度の不足が、膠着状態の解決をより一層困難にしている。

 一方、台湾は1987年の戒厳令解除以来、人々の努力により、自由、民主主義、人権を重視する民主国家を作り上げてきた。今の香港の現状を見て、台湾では「今日の香港は、明日の台湾」という危機感が強まっている。

 大多数の台湾人は今ある自由と民主主義が後退する「一国二制度」を望んでいない。

 台湾と正式な国交のある国は少ないとはいえ、台湾は世界各国と緊密な実務関係があり、台湾人がノービザまたはランディングビザのみで行ける国・地域は140以上もある。

 これは、台湾が実際には世界各国から高く信頼されていることを意味している。また、台湾の国民健康保険のカバー率は99.8%、平均寿命は81歳に達している。そして言論の自由は保障され、国のトップである総統は国民による直接選挙で選ばれている。

 台湾は小さな国であっても、国民一人一人が幸せに生きられる民主国家であり、それは多くの台湾人にとっての誇りとなっている。

 台湾の歴史を振り返ると、1949年に中華民国政府が台湾に移り、中国大陸に中華人民共和国が成立して以来、台湾は1秒たりとも中華人民共和国に統治されたことはない。

 これまで金門島の八二三砲撃戦や、1996年の台湾海峡ミサイル危機など、中国側からの武力威嚇に対しても冷静に対処し、中華民国は台湾に70年以上存在している。

 台湾が「一国二制度」を受け入れることは「中華民国」が消滅し、「中華人民共和国」に併合されることを意味する。

 だからこそ、「一国二制度」に反対し、国家主権を守ることが、台湾における大多数の民意であり、与野党のコンセンサスになっている。蔡総統は10月10日の国慶節演説で、自由と民主主義の旗の下、国家主権を守っていく決意を改めて表明した。

 最近、米国と中国の貿易等をめぐる対立が深刻化しているが、これは単に経済面だけを見るべきではなく、中国の覇権的拡張主義をめぐる安全保障面からも注視すべきである。

 中国がソロモン諸島とキリバスを取り込み、台湾と断交させたことも、中国の太平洋への勢力拡大の動きと重なるものであり、安全保障上も大きなインパクトがある。

 つまり、中国は経済的には豊かになったが、民主化しないまま軍事的にも強大化し、外国に対する影響力も増していることが対立の根本的要因であり、この価値観の対立は短期間で解決するものではない。

 台湾は自由、民主主義、人権、法治などの価値観を共有する国々との関係を強化していくことを望んでいる。

 米国とは「台湾関係法」があり、台湾への武器売却等、米国は台湾の防衛を支え、台湾海峡の現状維持、アジア太平洋の平和と安定の後ろ盾となっている。

 昨年は、米国で「台湾旅行法」が成立し、台米間の政府高官の相互交流も促進されるようになった。

 また、台米間の「グローバル協力訓練枠組(GCTF)」に基づき、今年3月に台湾で開催された汚職防止に関するワークショップに日本が初参加した。

 その後も女性経済エンパワーメント、サイバーセキュリティー、太平洋先住民文化の保存・振興などのGCTFワークショップに日本も続けて参加するなど、台日米3カ国協力の動きが進んでいる。

 米中対立が深刻化する中で、台日関係の強化は極めて重要である。

 特に台湾は日本が主導する「先進的かつ包括的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」への参加を望んでおり、台日間の経済・貿易は相互補完関係にあることから、台日双方に利益をもたらすことを確信している。

 また、CPTPPへの台湾の参加は、台日が連携して東南アジア市場などを開拓することにも役立つ。

 台湾は米国、日本をはじめ、世界各国と良好な協力関係を築いていくことを願っており、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」にも積極的に貢献していく所存である。

 しかし、台湾は政治的理由で国連に加盟できないばかりか、「世界保健機関(WHO)」、「国際民間航空機関(ICAO)」、「国際刑事警察機構(インターポール)」、「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」など世界各国の緊密な協力が求められる重要国際機関の会議や活動にも正式に参加することができない。

 台湾は長年の努力により、医療、航空安全、刑事捜査、環境保護などの面でいずれも高水準にあるが、国際会議に出席できないことで情報共有が同時取得できなければ、緊密な国際協力に支障をきたすことになりかねない。

 台湾が国際社会に存在しているのは客観的事実であり、国際社会はこの点について、公平・公正に評価すべきである。日本政府および各界の台湾の国際機関参加に対するご支持に感謝申し上げるとともに、今後も緊密な協力を期待している。

 


《みやざき・まさひろ》

昭和21年金沢生まれ。早稲田大学中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。57年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評がある。中国ウォッチャーとしても健筆を振るう。著書多数。

2019年11月4日号 週刊「世界と日本」第2160号 より

 

退路断たれたか 中国経済
暗号通貨利用は“吉”とでるか

 

評論家 宮崎 正弘 氏

 

いよいよ中国経済は断末魔、悲壮な悲鳴が聞こえないか。株安、人民元安、不動産市場の崩壊が近く、そのうえ国有企業(ゾンビ企業ともいう)の社債デフォルトが続き、年内に償還を迎える中国企業のドル建て社債は320億ドル。こうなると時限爆弾がカチカチ鳴りだした。

 

  ここに加わるのが習近平の目玉だったBRI(一帯一路)の世界各地での挫折。外貨の枯渇が主因であり、「借金の罠」と騒がれて国際的非難が重なり、鳴り物入りだったAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、機能不全に陥っている。

 進むも地獄、退くも地獄。目の前には借金の山がある。これをいかに返済するか、それともデノミ強行か、新札発行、あるいは徳政令にするか、深刻な岐路に立っている。

 そこで起死回生を目論む手段が、「デジタル人民元」の発行である。

 貝殻、コインから紙幣へと進んできた世界の通貨戦争、その第四幕の主役はデジタル通貨である。

 日本でも仮想通貨市場は花盛りで、「ビットコイン」「イーサリアム」「リップル」「NEM」など8種類が取引されている。投資家の国籍の特定は難しい。

 現代世界は「通貨戦争4・0」に突入した。

 戦後の世界経済はドル基軸体制となり、そのうえドルは1971年まで金と兌換できたため絶大な信用が生まれた。通貨の信任とは誰が信用を保障するのか、その支払い能力、信用度との代替価値で決まる。

 「七つの海」を支配した英国のポンドは凋落し、ユーロ、日本円がIMFの「SDR」(特別引出権)の通貨バスケットに加わり、中国の台頭、経済力の躍進があり、2016年10月からは中国の人民元もSDRに加わってハードカレンシー(国際決済通貨)となった。

 けれども2019年の世界はドル基軸が揺るがない。この現代世界の通貨事情を「通貨戦争3・5」とみておこう。

 ブレトンウッズ体制(第2次世界大戦後、米国を中心につくられた国際通貨体制)は壊れた、と言う人がいるが、ドル基軸体制は当面揺らぎそうにない。

 もしドル基軸体制がひび割れし、激しい動揺が始まるとすれば、その主因となるのはビットコインに代表される暗号通貨の本格登場と普及である。日本では「仮想通貨」と呼ばれているが、世界の常識では「暗号通貨」(クリプトカレンシー)だ。

 ビットコインに大規模に群がったのは、投機好きの中国人だった。

 「中国人投資家がビットコイン市場に雪崩を打って参加している」(ロイター、2019年8月14日)。資産を合法的かつ秘密裡に海外へ移動できるからだ。

 9月になって中国の人民銀行(中央銀行)の易綱総裁が「デジタル人民元」に初めて言及した。

 フェイスブックが準備するデジタル通貨(暗号通貨)「リブラ」を詳細に研究した結果、中国は2019年11月から試験的に「デジタル人民元」の発行を開始するという。周小川(中国人民銀行前総裁)、易綱氏らの発言をまとめると、ドルに代わる国際通貨の地位を人民元が狙うという通貨覇権の意思が強く出ている。

 だいそれた野心に満ちて覇気満々という鼻息の荒さを感じたが、実力とはかなりの乖離がある。

 中国中央銀行は人民元を過大評価している。

 ともかくフェイスブックが計画するリブラが、中国のバンカーに対して強烈な刺激となった。北京の金融当局を衝き動かした。

 仮想通貨の代表格である「ビットコイン」は5月以来、相場が1万ドルから1万2000ドル台に跳ね上がった。この活況を見て金価格も急騰を続け、5月ごろは1200ドル台だったが、人民元安となった8月6日に1オンス=1340ドル、8月17日には1513ドルに急騰した。

 日本でも、田中貴金属などゴールドショップには朝から長い列ができた。筆者も田中貴金属に取材に行ったが、2時間から3時間待ちだった。日本にでさえ、金の売買が庶民の間には静かに流行していた。なぜなら金こそは永遠の通貨となりうるからである。

 反面、独裁体制の中国共産党にとって政府の管理も統制も行き届かない暗号通貨が普及することは、危険極まりないという認識がある。

 このため中国人投資家が狙った取引所は日本をはじめ外国の取引所である。それも昨今は地中海に浮かぶマルタだ。

 しかしフェイスブックの仮想通貨リブラに対して、欧米主要国の中央銀行ならびに財務省が強く反対している。

 ジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授。ノーベル経済学者)は、「リブラは透明性が高いというが、それで暗号通貨というのは基本的矛盾」と指摘した。

 ビットコインはまさに「一国一通貨」という原則を飛び越えた異次元の通貨として、2009年から国際間で通用し始めた。その急速な普及と発展は1996年から開始されたインターネット社会の劇的な進化と平行した。

 米大統領選挙をツイッターが激変させ、政治資金がクラウドファンディングとなったように、あるいは香港の民主化運動がSNSのフル活用で実現したように、こうしたネット社会のありよう、推移をじっと観察し研究を続けてきたのが、想定外の中国、その中央銀行だったのである。

 西側先進国で、リブラに前向きなのは英国の中央銀行だけである。ほかの欧米諸国の中央銀行は反対もしくは慎重である。

 中国は、はたして暗号通貨を利用して、何をしようと企んでいるのだろう?

 


《きむら・ひろし》

1936年生まれ。京都大法学部卒、米コロンビア大博士号取得。北海道大学スラブ研究センター教授、国際日本文化研究センター教授などを経て現職。ロシア政治専攻。2016年第32回正論大賞受賞。『プーチンとロシア人』『プーチン 外交的考察』『対ロ交渉学 歴史・比較・展望』など著書多数。

2019年10月14日号 週刊「世界と日本」第2159号 より

 

プーチンは何を考えているのか
生き残りを謀るプーチン

 

北海道大学名誉教授 木村 汎 氏

 

ロシア経済の“三重苦”

 ロシアは、2014年7月以来、経済の“三重苦”に見舞われている。原油価格の暴落、ルーブルの下落、先進7カ国(G7)による制裁の3つである。

 物質的困窮から国民の眼を逸らすために、これまでプーチン政権は「勝利を導く小さな戦争」を活用してきた。軍事力を背景にしての対ウクライナやシリアへの干渉行為である。

 だがその方法よってロシアの対外的出資は嵩(かさ)み、人々の経済的負担はさらに増大した。国民がこのことに気付くようになったために、プーチン大統領はもはやナショナリズムや愛国心の高揚を期待しえなくなった。

 結果として、プーチン大統領の人気は陰(かげ)りはじめた。かつてクリミア併合時には84%、シリア空爆開始時には89.9%にまで急上昇した同大統領の支持率は、現在、64%にまで落ちている。プーチン政権の御膝元のモスクワでは、2019年夏、「プーチンなしのロシア!」のスローガンを叫ぶ反政府デモが繰り広げられた。そして、9月8日のモスクワ市議会選挙では、政権与党「統一ロシア」は議席数を38から25へと激減させた。

 要するに、非常に緩慢なスピードではあれ、ロシアにも新しい波が徐々に訪れつつあるのだ。一例を挙げるだけにとどめるにしても、「プーチン世代」の誕生である。2000年5月に発足したプーチン政権は、既に20年近くも存続している。

 その間に生まれ育ちつつあるロシアの若者たちは、同政権に皮肉な結果をもたらす。彼らは、同政権が空前のオイル・ブームによって可能になった物質的水準の向上を当然のことと見なす。

 それにプラスして、彼らは今や、政治的権利の保障や拡大を要求する。今年の夏に反対勢力グループのデモに参加した者の多くは、そのような世代に属する人々だった。

 

今やサバイバルが至上目的

 このような新しい状況に直面して、では、プーチンはいったい何を考えているのか?

 彼は、新しい政策を講じて事態に対応しようとしているのか?

 答えは、ノーである。一般論として、政治家に学習能力を期待するのは、魚に木登りを欲するようなもの。というのも、大抵の政治家は、現場で得られる体験によって、己の戦術を転換(「単純学習」)することはあっても、基本的な哲学や戦略を変更する(「複合学習」)ことは稀だからである。

 さらにいうと、現在プーチンの頭を占めているのは、いったいどうすれば彼自身が残りの任期を無事にやり過ごし、サバイブ(生き残り)しうるか―この一点に集中している。

 因みにのべるならば、プーチンは英語でいう「サバイバー」でなく、「サバイバリスト」なのである。「サバイバー」が単に生き残る人間を意味するのに対して、「サバイバリスト」とは何が何でも生き残ろうと欲する強い意志を有し、そのためには全力を傾ける者を指す。

 プーチンは現第4期政権で、自身のサバイバルだけを第一義とみなす。そのために、彼の現政策は万事、守旧的な性格なものとなり、斬新性が全く感じられない。結果として、今日のプーチノクラシーは18年間に及んだブレジネフ政権末期の「停滞(ザストイ)」と極めて似かよった様相を呈し、社会全体に閉塞感が漂っている。1、2、実例をしめそう。

 経済“三重苦”から脱出する一方法として、プーチン政権はロシア国民に対する年金受給年齢の開始時期を延長することを思いついた。

 ところが、元来プーチン支持層であるはずの年金生活者本人たちばかりでなく、ロシアの一般市民までもが同提案に反発をしめし、街頭に繰り出し反対デモの手段に訴えた。吃驚したプーチン大統領は、直ちに原案に部分的修正を加え妥協に応じる失態をしめした。

 日本との平和条約交渉でも、同大統領は同様の臆病な態度に終始している。安倍晋三政権は日本側として到底許されない位、ロシア側に一方的に有利な譲歩提案を行っている。

 にもかかわらず、プーチン大統領は受け入れようとしない。北方領土のうち一島であれ日本に引き渡せば、ロシアの軍部や国民の反発を買う。このことに極度なまでに臆病になって、彼は対日ディール(取引)を躊躇しているのだ。

 

独裁には降りる道がない

 さらに大胆な予想をおこなうならば、プーチンは次のような希望すら心中に秘めているのだろう。任期満了の2024年後においてすら、事実上ロシア政治のナンバー・ワンの地位に止まろうとの虫の良い考えである。ひとつには、そうしなければ、自身および二人の娘の身の安全が保てない。どうやらこう惧れているようなのだ。

 プーチンはこれまでの強権的な統治によって無数の政敵や人間の恨みをこしらえてしまった。ごく一例を挙げるに止めるにしても、チェチェン共和国の過激派テロリストたち、財産を没収した挙げ句の果てに海外へ追放したオリガルヒ(新興寡占財閥)、軍事介入したジョージア(旧グルジア)やウクライナの民族主義者たち。

 いったん大統領ポストを降り無冠の身の上になったプーチンは仮に地球上のどこに赴こうとも、彼らはプーチンをしつこく追跡し積年の恨みを晴らそうと試みるに違いない。

 このような懸念から、2024年の任期終了直前になるとプーチンは次のいずれかのサバイバル法を選ぶことになろう。

 1は、己の操り人形になる人物を傀儡大統領ポストに就ける、すなわち、第2次「タンデム(双頭)政権」を開始する(「鄧小平方式」)。2は、ロシア憲法を改正して、プーチン自身が永世大統領に就任する(「習近平方式」)。

 わが国における独裁研究の第一人者、故猪木正道教授が屡々引用された『プルターク英雄伝』での次の言葉は、プーチノクラシーにも当てはまるようである「独裁は美しい場所であるがいったん登ってしまうと降りる道がない」。

 


《り・そうてつ》

専門は東アジアの近代史・メディア史。中国生まれ。北京中央民族大学卒業後、新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院にて新聞学博士(Ph.D.)取得。98年より現職。同年、日本国籍取得。テレビのニュース番組や討論番組に出演、情報を精力的に発信。著書に『日中韓メディアの衝突』『北朝鮮がつくった韓国大統領―文在寅政権実録』『「反日・親北」の韓国 はや制裁対象!(共著)』など多数。

2019年10月1日号 週刊「世界と日本」第2158号 より

 

文政権 保守勢力壊滅作業の行方
チョ氏法相起用は「吉」とでるか

 

龍谷大学教授 李 相哲 氏

 

 文在寅韓国大統領が残り半分の任期を乗り切るため大幅な改閣を決断し、7人の閣僚候補者を指名したのは8月9日。目玉人事は文在寅政権発足以来推し進めてきた「積弊清算(長年積もりに積もった弊害を一掃する)」の先頭にたって大勢の前政権の高官を逮捕、起訴する作業を指揮してきた元ソウル大法科大学院教授で、文在寅政権発足とともに民情首席秘書官を務めた、チョグク氏の法相起用だった。

 ソウル大教授時代から「公平と公正・正義」を盾にして保守系の腐敗、不正を容赦なく批判してきたチョ氏は進歩・左派のシンボル的な存在でもあった。ところが法相に指名され、それまでの経歴や言動を検証しようとしたところ、表向きのイメージとは裏腹に家族や親族が不正に塗れていて、それにチョ氏本人が関与したのではないかという疑惑が次から次へと持ち上がった。

 「不動産投機、税金のがれ、論文盗用、息子の兵役逃れ、偽装転入」は、文氏が大統領選挙公約で公職者になってはならない「人事登用の5大原則」だったが、この5つの不正行為すべてにチョ氏は該当する可能性がある。

 文氏はチョ氏に法相任命状を渡した後発表した談話で「本人に違法は確認できなかった」と述べたが、すでに妻の違法行為を隠蔽するため証拠隠滅を図ったとの証言が出ているうえ、民情首席秘書官時代に「私募投資ファンド」に関与した疑い、娘と息子に実態のない「インターン証明書」を勤め先のソウル大名義で発行する過程に関与した疑いなど証拠隠滅の疑い、職権乱用、業務妨害の疑いも持たれている。

 それに、妻は私文書を偽造して娘を釜山医科専門大学院に試験なしで不正入学させた容疑で起訴され、親族は不透明な投資ファンド運営、贈与税逃れの疑いなどで追及されている。妻が勤め先の総長名義の表彰状をかってに自分の娘に渡したのが事実と判明すれば、娘の入学は取り消される可能性もある。

 チョ氏は道徳的にも法的基準からしても法相にはふさわしくないとみる国民が半数以上を占めるにもかかわらず、9月9日文氏はチョ氏を法相に任命した。

 野党は「チョ氏の任命で韓国の法治主義は死んだ」(自由韓国党)と猛反発、チョ氏を徹底的に追及する構えだ。

 それでも、文氏がチョ氏を「正義の府」であるはずの「法務部」の長に任命した理由はなんなのだろうか。

 まず、チョ氏と文政権は運命共同体。チョ氏が崩れれば文政権も崩れ落ちる可能性があるからだ。文氏はチョ氏を旗振り役にして「改革」を進めてきたが、その当為性も問われかねない。チョ氏に任命状を授与したあと文氏は任命を強行した理由をこう説明した。

 「(チョはその間)私を補佐して権力機関改革のために邁進してきて成果を見せてくれた」。文政権は発足以来、前政権およびその前の保守政権の高官を100人以上逮捕、起訴し、政府の各部署に作業部会(タスクフォース)をつくり、前政権の残余勢力を一掃する「保守勢力壊滅」作業をチョ氏と二人三脚でやったという意味だろう。

 その人物が道徳性に問題があり違法に手を染めたとして任命を撤回すれば、「左派の非」を認めることになる。そうなれば、無条件で文氏と文政権を支持してきたコアな支持層が離れてしまい、政権の基盤が揺らいでしまう。

 次に、更なる「改革」を進めるにはチョ氏が必要だったからだ。文氏は、チョ氏の任命は長年、どの政権もできなかった「検察改革」を実現するためと言ったが、文政権の「改革」は単純に検察組織をいじることに目的があるのではない。

 政治評論家のゴソングクによれば、「文政権がやろうとするのは“改革”の名目で権力機関すべてを掌握することだ」。文氏やチョ氏が目指したのは、単純に検察組織を改革することではなく、「韓国のかたち」、すなわち国のアイデンティティを変えることだ。

 これまでに明らかになった、文氏とチョ氏の発言や報道内容を総合すると、文政権が実現しようとする社会は、自由民主主義を基本秩序とするものではなく「社会主義的な要素を取り入れた」公平で平等な社会だ。この点で文氏とチョ氏は同じ方向を目指していると言える。

 チョ氏はかつて「南韓社会主義労働者同盟」の活動に加担したとして逮捕、起訴され実刑判決を受け、半年近く服役した経歴の持ち主だ。この組織は参下に武器製造部署、毒薬研究部署をおき、暴力的な手段で韓国を社会主義国家にすることを目的としていた。

 人事聴聞会で、野党議員から「候補者(チョグク)は、いまも社会主義者か」「その思想から“転向”(思想を変える)したか」と質問されたが、それに答えず「韓国社会はいまでも社会主義的な要素が必要」と主張、その考えはいまも変わらないと答えた。

 つまり、チョ氏らがいう「公正で公平」な社会というのは社会主義社会のように大財閥だけに富が集中する構造や市場経済を否定することにある。事実上、文政権は誕生以来、財閥に厳しく当たった。

 現在韓国の上位100位までの企業のなかの約6割が、文政権から何らかの調査をうけている。サムソングループに至っては実質的なオーナーであるイジェヨン副会長が逮捕、起訴され2審で有罪判決を受けた後、一旦保釈されたものの、最高裁が2審判決を差し戻し、再び収監される可能性がでてきた。

 文氏がチョ氏に拘る理由は検察改革を皮切りに、国家機構を改造し、最終的には憲法を改正して「国体」を北朝鮮に近い「民主主義」社会にすることを夢見ていたからである。

 この「夢」を実現するため、文氏はまず、来年4月に実施される総選挙と、2年先の大統領選挙に勝つ必要がある。チョ氏問題で国民が真っ二つに分かれ、左と右が対立し、国家が分裂状態になっても、なお我が道を固執するのは、もしも文大統領の次の政権が保守政権になれば、改革がストップするだけでなく、文氏やチョ氏、そしてその周辺の幹部たちの身に危険が及ぶことが、火を見るより明らかだからである。

 


《とみさか・さとし》

1964年愛知県生まれ。単身台湾に渡った後、北京語言学院を経て北京大学中文系に進む。『週刊ポスト』『週刊文春』記者を経てフリージャーナリストとして独立。『龍の伝人たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞受賞。近著に『「米中対立」のはざまで沈む日本の国難』。国家基本問題研究所企画委員。

2019年9月16日号 週刊「世界と日本」第2157号 より

 

韓国の協定破棄
米中関係にどんな影響を
中国 「脱米」に動き出すか

 

拓殖大学教授 富坂 聰 氏

 

韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄は、「中露を利する」とのメディアの論調が目立つ。だが、事はそう簡単ではない。以下で、このことを視野に入れながら、米中の今後を追ってみる。

 

 本稿締め切りの直前(8月22日)、韓国のGSOMIA破棄のニュースが日本に飛び込んできた。日本のメディアはたちまちこの話題一色に染まったが、気になったのは多くのメディアの論調に「中露を利する」との単調な視点が目立ったことだ。

 優等生的な記事で、作文なら「〇」をつけたいところだが、現実はそうではない。

 韓国のGSOMIA破棄は大国間のバランスを崩す意味も大きく、中露にとっても今後は複雑な対米外交を求められることとなり、ストレスも小さくないからだ。

 少し乱暴だが、例えば、国際競技大会で予選落ちした二つの国が、互いに「ルール違反だ」と罵りあっていた問題が、大会全体の運営を左右する潜在的な対立に火をつけかねないということだ。

 米中の今後という意味では、とりあえず安定している両国の安全保障関係に外部から強い刺激が加わることで、この地域での大国同士の関係を一から見直さなければならない変化が起きかねないのだ。

 「日米」から「韓」が引き離されるというメリットよりも、「従来とは違う関係の構築」に備えなければならないというストレスの方が勝るかもしれず、なかでも警戒するのは、アメリカが強い危機感に突き動かされ、強引なプレゼンス拡大に乗り出して中露にプレッシャーを与えることだ。そうなればアジアの緊張は一気に高まる。

 ただ現状を見る限り、そうはなっていない。世界の目は、むしろ同じ時期に火を噴いた米中の新たな報復関税合戦に向けられたからだ。

 世界を俯瞰してみれば、世界経済の行方に激震をもたらす米中の対立に比べれば、日韓の対立など、しょせん世界大会で予選落ちする二つの国の小さな諍いなのだ。

 その米中は8月23日、中国が米国の発動する制裁関税「第4弾」への報復措置として、原油や農産物など約750億ドル分(約8兆円)の米国製品に、5~10%の追加関税をかけることを公表した。

 中国の対抗策の発表に激怒したトランプ大統領は、対中関税のさらなる引き上げに加えて、米企業の中国からの事業撤退を要求し、対決姿勢を鮮明にした。

 米中対立は、第4弾となる制裁関税の発動を前に、深刻さを増したといえるだろう。

 当然、米中の行方をテーマに原稿を書いている立場からすれば、将来を悲観せざるを得ないのだが、その予測は第4弾を境に大きく変わったのか、と問われれば決してそうではない。というのも、米中の対立の方向性は、おそらくトランプ政権が中国の通信機器メーカー大手・華為技術(HUAWEI=ファーウェイ)をターゲットに攻勢を強めたところから変わっていないからだ。

 ファーウェイという企業は次世代通信技術5Gで先頭を走る企業であると同時に、ハイテク産業を育成してさらなる中国経済の浮揚を模索する習近平政権の政策を象徴する存在でもある。中国が「メイド・イン・チャイナ2025」を掲げ、それにアメリカが狙い撃ちしたことでも理解できる。

 ファーウェイとの取引停止は、個々の企業の対応によって現実にはそれほど大きな問題は起きていない。メディアでは、基幹部品の提供を得られなくなるファーウェイの苦境ばかりがクローズアップされてきたが、米企業にとってもファーウェイは大口の取引先であり、そこからの需要が消えれば、それこそ倒産の危機に瀕するのだから当然だろう。

 制裁などといっても必ずしも一方的なものとはならないことを、いみじくも証明した形である。

 だが、この制裁はファーウェイ及び中国には深刻な危機感を植え付けた。いざとなれば潰されるほどのツールを、アメリカに握られたままでは安心できないということを知らされたのだ。ここで中国は静かな“脱米”に動き出す。換言すれば、アメリカが本格的に中国排除に動いたとしても、生き残っていける態勢づくりである。

 アメリカ抜きに、といえば日本人のほとんどは「そんな非現実的な・・・」と、眉に唾する反応をするかもしれない。しかし注目すべき点は、中国に勝機があるということだ。

 理由の一つは、アメリカが国力を挙げて中国を攻撃するのではなく、政権浮揚の駆け引きとしてこれを使い、中国は国の力を結集して対抗しながら、逆に強化されてしまうという過程をたどることが予測されるからだ。

 その片鱗が垣間見られたのが、今春の習近平政権による外交攻勢とその結果である。中国は習近平を筆頭に李克強、栗戦書と党序列上位3人を続けてヨーロッパに送り込んだ。その結果として欧州におけるファーウェイ排除は完全に綻び、アメリカの呼びかけに最も応ずべきイギリスが真っ先に5G建設でファーウェイを採用したのである。

 中国はこの流れを一帯一路からアフリカにつなげ、「東から西へ」と完全に切り替えたのである。人口や今後の経済発展の中心を考えれば、アメリカ中心の仲良しクラブにこだわる必要はない、という見切りだ。

 問われるのはアフリカや発展途上国市場がファーウェイ規格で覆われたとき、日本がどうするつもりなのかという問題だ。

 同じく安全保障の視点からも、流れは複雑化が避けられない。米ロが中距離核戦力全廃条約(INF)を破棄したことで、今後は中距離ミサイルの配備を巡る攻防と国際政治の駆け引きが活発化する。

 これはアメリカが韓国にTHAADを配備したときの拡大版だと考えるとよい。中距離ミサイル配備を巡る米中露の対立はアメリカと欧州の間に亀裂をもたらし、日中間にも深刻な対立を引き起こす。

 日本のマタサキ状態が、政治と経済の両面から加速することが予測される。

 


《わたなべ・つねお》

1963年生まれ。東北大学歯学部を卒業。歯科医師を経てニュースクール大学(米国ニューヨーク市)で政治学修士。戦略国際問題研究所で上級研究員等を務めた。2005年に帰国、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、現職。戦略国際問題研究所非常勤研究員を兼任。近著に『大国の暴走』(共著、講談社)あり。

 

2019年8月1日号 週刊「世界と日本」第2154号 より

 

揺るがぬ 日米同盟の価値

 

(公財)笹川平和財団 上席研究員 渡部 恒雄 氏

 

 トランプ大統領が大阪G20サミット出席のため訪日し、「不足していたものも、失敗も何一つなかった」「このように素晴らしく、よく運営されたG20を主催した安倍首相をお祝いする」と述べて日本を去った。

 トランプの「置き土産」はこれだけではなかった。6月29日の記者会見で、日米安全保障条約について「不公平な合意だ。もし日本が攻撃されれば、私たちは日本のために戦う。米国が攻撃されても日本は戦う必要がない」と話し、その上で安倍首相に「変えないといけないと伝えた」と述べ、ただ破棄は「全く考えていない」とも話した。

 これは日米同盟の危機を予見するものなのか。答えはイエスでありノーだ。日本は、これまでも、トランプ氏のような米国人の「素朴な」疑念を念頭に、日米同盟が危機を招かないように同盟関係を進化と深化をさせてきた。その成果は着々と蓄積され、日米同盟の価値は日米の双方にとって上がっているのが現状だ。

 第一に、トランプ発言を考える際に、彼の交渉スタイルを考える必要がある。おそらく彼は、参議院選挙後の日本との通商交渉のディール(取引)を前に、厳しい「牽制球」を投げて、自分の交渉を有利にしようと考えているはずだ。

 第二に、これまでの人生で、不動産ビジネスとテレビ番組の人気キャラクターとしての経験しかなく、軍隊にも入隊していない(合法的な徴兵逃れをしたという批判もある)トランプ氏の頭の中に、同盟国の価値を適切に評価するマインドが欠けていることがある。

 第三に、トランプ氏は大統領になってからも補佐官や閣僚の言うことを素直に聞かないため、1980年代の日米貿易摩擦時代の認識のまま、その後の日本の政策や日米同盟の進化を知らないままに、あたかもタイムスリップしたように現在の発言をしている。

 1987年、ビジネスマンだったトランプ氏は、9万4801ドルを投じて、「ニューヨークタイムズ」などの米国主要紙に、時のレーガン政権に対して政策広告を掲載した。その広告は、「この数十年、日本や他の国家は、アメリカを出し抜いてきた」と始まる。そして湾岸地域からのエネルギーに頼っている日本に代わり、地域の安全を保障しているのはアメリカであり、そのコストを日本に払わせるべきだとし「米国のような偉大な国が他国から笑いものになる状況を止めるべきだ」と結んでいる。

 このトランプ氏の87年の広告は当時のアメリカ人の気持ちを代弁したものだったことは確かだ。すでにソ連との冷戦の勝利は目前で、同盟国の価値というのは下がりつつあったし、日本や西ドイツからの輸入車に押されて、米国産自動車の衰退は深刻だったからだ。

 実際には、その後、日本は米国からの度重なる市場開放要求、そしてプラザ合意という輸出には不利な、急激な円高の容認という厳しい決断を迫られた。さらに、1991年の湾岸戦争において、130億ドルの戦費も支出して相応のコストを負担しているのである。

 それにも関わらず、イラクから侵略されたクウェートからの感謝広告に、日本の名が抜け落ちた。当時の日本政府は、戦闘参加は無理だが、せめて後方支援や停戦後のペルシャ湾の掃海などの任務のために、多国籍軍に自衛隊を参加させるべく努力したが、「平和ボケ」した当時の世論と政治は、それを許さなかった。

 しかしこの経験こそが、その後の日本が、日米同盟および国際安全保障活動での自衛隊の役割を拡大するために動きだすきっかけとなった。

 筆者も含め、日米同盟に関わってきた日米の関係者は、1980年代のトランプ氏のような米国民の草の根の日米同盟への不満を十分に意識して進化のために努力してきた。

 そして2015年の平和安全法制などにより、日本の安全保障に影響を受ける事態においては、日本は集団的自衛権を行使して米軍と共同行動を取ることもできるし、戦闘任務は別にして、国連平和維持活動や有志連合による国際安全保障活動に特措法なしに参加できるようになり、参加の実績も積んできた。

 さらに重要なことは国際環境の変化だ。現在の米国の仮想敵国ナンバー1は中国であることに異論をはさむ人はいないだろう。米国本土から太平洋を隔てて、中国に対峙する前線基地ともいうべき日本列島の地理的位置と、米軍の常駐を可能にする日米安保条約の価値は、冷戦期と比べても飛躍的に高まっている。

 日本にとっても、冷戦期のソ連への対抗も重要ではあったが、尖閣諸島周辺への中国からの公船の侵入や戦闘機による領空侵犯の頻度が増え、日米同盟の価値は死活的に高まっている。

 かつての60・70年代の安保闘争の時代の日本では、日本が望まない米国の戦争に「巻き込まれる」懸念が大きかったが、今や米国からの「見捨てられ」の懸念のほうが勝る状況にある。

 トランプ大統領の支持率は30%台後半から40%前半の低さだが、共和党支持者の90%を固めており、彼の認識は侮れない。しかし米国に「見捨てられないように」トランプ氏のわがままに付き合えと言っているわけではない。

 国家は冷静な国益によって動く。トランプ氏も、国内のメディアからは、北朝鮮の金正恩委員長は「お世辞」を言うかもしれないが、実際には冷徹に国益を考えて容易に核放棄はしないと警告されている。日本が冷徹に国益を踏まえて行うべきは、トランプ大統領に代表される米国民の「覇権維持」に疲れた心理も踏まえ、日本がより積極的にインド太平洋地域の秩序維持に関わることである。

 ただし常識的に考えて、国力が下り坂にある日本が、米国に代わって、上り調子の中国とがっぷり四つに組んで対抗できるはずがない。人間でいえば壮年期にあたる日本は、大人の知恵を使う必要がある。

 国際秩序の現状維持に利益を見出すオーストラリアやインド、そして東南アジア諸国と協力して、米国を地域秩序に関与させ続け、中国が地域の共通ルールを尊重するように硬軟両面で誘導していくことだ。その意味で、日本政府の「自由で開かれたインド太平洋構想」は戦略的に有効な着想なのである。

 


《わたなべ・ひろたか》

1954年生まれ。東京外語大仏語科卒。同修士課程、慶大博士課程、パリ第一大学国際関係史博士課程修了。在仏日本大使館公使。東京外大国際関係研究所所長を経て、2019年4月より帝京大教授。著書に『ミッテラン時代のフランス』『フランス現代史』『ヨーロッパ国際関係史』『シャルル・ドゴール』など。

2019年7月15日号 週刊「世界と日本」第2153号 より

反EUポピユリズムの伸び 頭打ち
問題 メディアの大衆迎合主義

 

帝京大学法学部教授 東京外国語大学名誉教授 渡邊 啓貴 氏

5月下旬、欧州議会選挙が行われた。わが国では、この選挙の結果をポピュリズム(大衆迎合主義)台頭と欧州統合の危機と多くが報じた。しかしヨーロッパは、欧州統合派と反統合ポピュリストの二項対立の構図に変貌したわけではなかった。反EUポピュリズムの伸びは頭打ちとなったというのが現実だ。

 

 欧州議会選挙では、総数751議席を人口比で加盟各国に割り当て、議席数を比例代表選挙の投票率に応じて配分する。それぞれの国では政党名や支持母体が異なるので、欧州議会では近しい政党が集まって会派を形成する。
 会派別に見た6月の最新情報では、反EUポピュリストは全議席の約3分の1を占めたが、すでに前回2014年の選挙で欧州懐疑派の議席はそれまでの約2倍増の140議席以上になっていた。しかし今回「反EUポピュリズムの津波(大躍進)」という予測が強かったにもかかわらず、結果は179議席だった。予想は外れたのだ。
 しかも各国右派ポピュリストの不統一性も暴露したのが、今回の選挙結果だった。EU離脱の急先鋒の英国「ブレグジット党」は、排外主義ではない。
 ポーランドで大勝した政党「法と正義」も同系列だ。ポーランドの最近の世論調査では、国民の90%がポーランドがEU加盟国であることを支持するという結果が出ている。右派ポピュリストは決して一枚岩ではない。
 主に排外主義と対露関係をめぐる立場が異なるからだ。同時にだからと言って、ポピュリスト勢力が後退したとも言えないところが今回の選挙の微妙なところだ。
 他方で、これまで40年間過半数の議席を有してきた統合支持派の2大会派「欧州人民党EPP」と「社会民主」派が後退し、過半数を失った。しかし、その退潮は今回に始まったことではなかった。5年前の前回の選挙でも両会派の総議席は約60議席も減っていた。退潮に歯止めがかからなかったというのが実態だ。
 しかしそうした既成政党の後退の一方で、環境保護派とリベラル民主派の躍進が見られた。リベラル民主派にはマクロン仏大統領与党勢力が加わり、勢力を拡大した。両派は統合支持派だから、ポピュリズムへの対抗的な「均衡勢力」となった。統合派は優に過半数を制した。
 そして欧州議会勢力分布は多党分立化の様相を呈することになったというのが現状だ。ポピュリズムには警戒が必要だが、今回の選挙は決して欧州統合の後退ではなかったし、二極分化でもなかった。
 加えて、4半世紀ぶりに投票率が過半数を回復し、51%に達したことはEU加盟国有権者の関心の高まりを意味し、EU内での参加デモクラシーの機運が高揚した。デモクラシーの復権だ。とくにこれまで国民的関心が薄かったポーランドでは投票率が前回の17%から32%に上昇、ハンガリーでも13%上昇して37%だった。欧州市民としてのEUへの関心の高揚の現れと、欧州では見なしている。
 こうした中での英国のEU離脱(BREXIT)の行方はどうなるだろうか。メイ首相が痛恨の涙とともに辞任して、イギリスでは保守党党首選挙の真っ最中だ。離脱は、急先鋒のボリス・ジョンソン前外相が最有力と見込まれている。欧州議会選挙で勝利したファラージ率いる「ブレグジット党」とともに離脱派の意気軒昂ぶりもうかがえるが、他方で残留派も抱える労働党など欧州支持派や再国民投票を主張する勢力の伸長もある。事態は予断を許さない。
 欧州議会選挙はEUデモクラシーの命脈を占う一つの試金石であったが、離脱をめぐって醜悪な政治劇が演じられている英国の結末は、揺らぎを図るもう一つの試金石だ。欧州統合は今差し迫った危機ではない。むしろ今回の選挙結果は欧州のデモクラシーの復権の兆しであるともいえる。
 日本ではしばしば欧州統合は負の部分が大きく扱われる。日本ではヨーロッパを一方で極端に理想化する扱い方と、その反動からか極端に悲観的に扱う見方の両極端論に分かれる。そして悲観論こそリアリズムだという解釈となる。しかし筆者は理想主義的リアリズムこそ欧州統合の真実だと思う。
 筆者は80年代半ば以後の域内市場統合は、70年代の危機から立ち直れない、EU先進国の「国境を越えたリストラ」、つまり困難を共有する加盟国がその克服のために協力した国際的な制度的再編の試みと考えている。欧州統合は、理想の夢を追いかけた団結というよりも、苦渋の決断による団結といった方がよい。その意味では、共倒れをいかにして回避するかという痛みを伴ったリアリズムそのものだ。
 しかしそれを支えた理念は「デモクラシーによる安定と繁栄」という理想主義だ。その看板をヨーロッパは降ろすわけにはいかないのである。なぜならこの理想こそが統合の求心力だからだ。そうでなければヨーロッパは各国の国益のもとに空中分解してしまうことになる。
 ポピュリズムをデモクラシーの代償と見ることはできないだろうか。それはひとつの統合の試練であり、プロセスでもあろう。
 しかしわが国では依然として「欧州統合」は理想主義というステレオタイプでのみ語られ、ポピュリズムの騒擾(そうじょう)を欧州統合の「夢破れたり」という「統合終焉論」に引きずられた議論が蔓延する。
 アメリカでは歴史的ライバル意識からか、欧州統合に対しては悲観論が一般だ。日本では国際政治を語るときにどうしても米国の論調の影響を受けやすい。欧州問題もその例外ではない。欧州統合をめぐる議論は昨今ではもっぱら悲観論一辺倒だ。
 したがって今回も反EUポピュリズム台頭論の不安をあおる議論が主流となった。
 そこにはポピュリズムを非難しつつも、それを煽るメディアのポピュリズム(大衆迎合主義)が露呈してはいないか。恐るべきは、むしろそのような風潮にあるように思う。

 


《みやざき・まさひろ》
昭和21年金沢生まれ。早稲田大学中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。57年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評がある。中国ウォッチャーとしても健筆を振るう。著書多数。

2019年7月15日号 週刊「世界と日本」第2153号 より

米中関係 冷戦に入った
強まるか 次世代技術争奪

 

評論家 宮崎 正弘 氏

 

米中貿易戦争とは高関税の掛け合いでしかなく、お互いに産業競争力を弱める。米国は経済繁栄よりも国家安全保障を最優先させると決意した。トランプ大統領の個人プレイではなく、連邦議会が法案を制定し、大統領にこれを迅速に実行せよと迫り、メディアがこぞって支援する。ということは米国の総意なのである。

 

 貿易戦争というより現段階は米国が発動した国防権限法、並びに付随した諸法律により中国の経済、金融、そして軍事力の拡大阻止という「総合戦」に移行している。
 ペンス副大統領の演説は、まさに米中冷戦に突入した状況を意味し、スパイ防止のため中国による企業買収を阻止し、留学生のヴィザを規制し、技術流失を防衛する一方で、市場から中国のハイテク企業を排斥し、「2025 中国製造」戦略を遅らせるか、破産に導く。
 その象徴がドル基軸依存の中国の金融システムを痲痺させ、同時に商務省作成のEL(エンティティリスト)が象徴するファーウェイなどの締め出しである。
 5月24日、倒産寸前だった内蒙古省が拠点の「包商銀行」を中国は国家管理にするとして、89%の株式を取得、国有化された。
 具体的には中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)が「公的管理」し、元本の30%削減という措置をとった。このため取り付け騒ぎは起こらず、営業店舗は継続している。
 心理恐慌の拡大を懸念する中央銀行(中国人民銀行)は6月2日になって「これは単独の案件であり、金融不安は何もない」と発表した。すると投資家の不安はかえって拡がった。
 包商銀行は不動産バブル、株投機の裏金処理、インサイダー取引のATMだった。当該銀行を倒産させないで、救済したのはリーマンショックの前兆に酷似してきたと金融界が認識することを怖れたからだ。
 中国にはおよそ4000の銀行、地方銀行、信用組合があるが、このうち420の金融機関がリスクを抱えている。
 ついでファーウェイの経営危機である。
 2014年頃から米国は連邦政府職員、軍人のファーウェイのスマホ使用を禁じ、トランプ政権になってからファーウェイの全面禁止が検討され、まずは地上局から排除された。
 2018年12月1日、CFOの孟晩舟がカナダで拘束された。同日、サンフランシスコで「中国物理学の神童」と言われた張首晟教授が自殺した。
 2019年に入ると米国はファーウェイを「スパイ機関」と認定し、米国内の部品メーカーに至るまでファーウェイ部品を使わないよう通達が及んだ。5月、トランプは「非常事態」を宣言し、国防権限法によりファーウェイの米国市場からの駆逐を決め、同盟国に呼びかけた。英・豪・加に続いて日本も追随し、携帯電話各社はファーウェイ新機種の予約受付を中止、もしくは延期するに至った。
 市場でファーウェイのスマホの値崩れが起こり、中古スマホは大暴落、OSのグレードアップをしたら使えなくなったなどの苦情が殺到した。いよいよ正念場である。
 同社のスマホは、世界で2億台を突破している。中国市場で優に5割のシェア。しかしOSはグーグルのアンドロイドだ。マイクロソフトと同様に、OSそのものは公開されているが、数々のアプリは、アンドロイドが基礎になる。
 ところが米中貿易戦争の勃発、トランプ政権のファーウェイ排除によって、スマホ販売は激しく落ち込み、それもOS「アンドロイド」が使えなくなるとどうなるのか、と消費者は顔面を引きつらせた。げんにフェイスブック、インスタグラムなどはファーウェイのスマホへのアプリ事前搭載をやめた。
 フラッシュメモリーの大手「ウェスタン・デジタル」もファーウェイとの「戦略的関係」をやめると発表し、フォックスコンは生産ラインの一部を停止した。
 インテルがZTE(中興通訊)への半導体供給をやめたように、米国が同社への供給を中断すれば、次に何が起きるかは眼に見えている。
 ファーウェイの部品供給チェーンは、国内生産が25社、米国が33社、日本が11社、そして台湾が10社。他にドイツ、韓国、香港のメーカーがファーウェイに部品を供給してきた。まさに国際的サプライチェーンである。
 深圳が中国ハイテクの本丸である。香港に隣接し、港湾も空港も複数あって、グローバルアクセスの要衝だ。1975年頃だったか筆者は初めて周辺を取材した経験がある。貧しい漁村で当時の人口は僅か3万人、屋台が商店街で、冷蔵庫はなく、ビールも西瓜も冷えておらず、肉は天日の下で売っていた。
 深圳の人口は、いまや1300万人。ハイテクパーク、科技大道、加えて付近には衛星都市の中山、仏山、東莞、厚街などを抱える。ZTEも、テンセントも、本社はここである。ファーウェイ本社は深圳西海岸の悦海地区にあって本社従業員が8万人。このうち3000人がRD(研究開発)に携わっている。
 ファーウェイは記者会見して「『独自OS』(鴻蒙)のスマホを8月か9月には販売開始できる」と胸を張った。しかし発売はさらに数カ月遅れると追加の発表があった。
 かくしてトランプは中国の次世代技術覇権を握らせないと固い決意の下、さらに強硬な策に出るだろう。米中関係は冷戦に入ったと見るべきである。

 


《わたなべ・つねお》
1963年生まれ。東北大学歯学部を卒業。歯科医師を経てニュースクール大学(米国ニューヨーク市)で政治学修士。戦略国際問題研究所で研究員を務めた。2005年に帰国、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、現職。戦略国際問題研究所非常勤研究員を兼任。近著に『大国の暴走』(共著、講談社)あり。

2019年6月17日号 週刊「世界と日本」第2151号 より

成果はあったのか トランプ訪日
両者望んだ 日米関係強化

 

(公財)笹川平和財団 上席研究員 渡部 恒雄 氏

 

 今回のトランプ訪日の意味は、米国と日本では大きく異なる。日本にとっては目に見える外交成果といったものはなかったが、来月の大阪G20や夏以降の日米貿易協議、そして現在進行中の米中貿易戦争および米イランの軍事緊張に対して、日本主導の重要な外交布石を着実に打った。

 

かじ取りに成功した安倍外交

 今回の訪日は、世界で唯一といっても過言ではない安倍首相とトランプ大統領という首脳同士の緊密な関係を中国、イラン、北朝鮮を含む世界各国に認識させることで、日本の存在感を世界にアピールしたことになる。
 かたや、米国からすれば、日本の「おもてなし」攻撃に晒されたトランプ大統領の「観光ボケ」が批判され、訪日中に見せた対北朝鮮、対イラン姿勢での国家安全保障担当大統領補佐官との不協和音が批判される「パッとしない」外遊と報道されている。
 ただし冷静に見れば、日米の同盟関係を再確認したことは、中国に圧力をかけている米国の立場を強くするし、直近にイランを訪問する安倍首相との会談は、イランとの緊張感緩和に役立つ意味のあるものだったはずだ。

 

トランプ訪日にシニカルな米国リベラルメディア

 しかし米国側、特にトランプ大統領に批判的なリベラルメディアは、どうしても見方がシニカルになっている。例えば、5月28日付のワシントンポスト紙の「Trump basked in spotlight in Japan, even as his focus seemed elsewhere」(トランプは日本でのスポットライトでいい気持ちになった。彼の関心は拡散してはいたが・・・)という記事が米国からのシニカルな見方を代表している。
 この記事では日米首脳会談後の両首脳の共同記者会見で、トランプ大統領は北朝鮮の金正恩との交渉に熱心な姿勢を見せたのに対して、北朝鮮の短距離弾道ミサイルの発射について、これを国連決議違反とするボルトン国家安全保障担当補佐官および同盟国の安倍首相との明確な立場の違いを示したということを批判している。
 また、トランプ大統領は安倍首相との共同記者会見の席で、イランへの体制変革(レジームチェンジ)は考えていないと発言した。
 これは日本の首相の公式訪問としては40年ぶりになるロウハニ大統領との首脳会談を、トランプ大統領と前向きに話し合った安倍首相のラインと一致はしている。しかしイランの体制変革が持論のボルトン補佐官とは明確に異なる。
 ワシントンポストだけでなく、CNNなどのリベラル系の報道機関は、この政権内の矛盾をトランプ大統領帰国後も継続して批判的に取り上げている。
 5月28日付のニューヨークタイムズ紙は、「Trump Under-cuts John Bol-ton on North Korea and Iran」(トランプは北朝鮮とイランでボルトンの立場を弱めている)という記事で、ボルトンがオフレコではトランプ大統領への不満を述べていることや、トランプ大統領が、ベネズエラのマドゥロ大統領排除のために米軍派遣も視野にいれているとされるボルトンの強硬策にも不満を持っていることなどを示し、両者の不協和音をクローズアップしている。
 また、前述のワシントンポストの記事は、北朝鮮が、来年の大統領選挙に出馬表明をしているトランプ大統領の対抗馬の一つである民主党のバイデン前副大統領を「低いIQのバカ」と呼んでいることに安倍首相との共同記者会見の席で「同意する」と発言したことを問題視している。
 それは、「国内の政治対立は水際まで」という暗黙のルールを破ったことと、自国の元副大統領よりも米国と対立する独裁者の肩を持ったことを批判している。
 ただし、ワシントンポストは同記事で、トランプ大統領が北朝鮮の拉致被害者の家族と同席したことも、写真入りで報じており、これと、宇宙分野での日本との協力強化を表明したことは、トランプ大統領の実質的な成果を残す試みとして肯定的に報じている。

 

日本から見るトランプ訪日の成果

 しかし日本の立場から見れば、トランプ大統領と安倍首相の北朝鮮などへの立場の違いなどにもかかわらず、トランプ訪日は大きな成果であった。
 ワシントンポストの記事の中で、テンプル大学日本校のジェフ・キングストン教授は「北朝鮮と中国に日米の強力な関係を見せたことで安倍首相は満足しているだろう」とコメントしている。ここは重要な点だ。さらに「日本政府にしてみれば、トランプ大統領を注意深く観察し、どのようにすれば彼に対して影響を与えることができるかを理解して、彼らの最大のゴールである日米関係強化を達成することだった」とも分析している。これらは正確な分析だと思う。
 付け加えれば、リベラル系メディアのトランプ批判記事の中に、日本政府や安倍首相に対する否定的な評価はほとんどなく、批判自体はトランプ大統領に向けられていることも、特筆すべきことだ。
 かつて、安倍首相は、米国のリベラル系のメディアからは、日本のナショナリストで「歴史修正主義者」だ、というレッテルを貼られ、恰好の批判の対象であったことを考えると、反トランプ感情の強さが、むしろ安倍首相への評価を一変させたことがわかる。
 その背景には、米国抜きのTPPを主導し、日EU経済協力協定を早期合意させるなど、今や安倍首相こそが、世界と地域のリベラルな国際秩序維持という責任から逃れようとしている「アメリカ・ファースト」のトランプ大統領を、ポジティブな方向に誘導している、と評価されているからだろう。
 一方で、保守系のウォールストリートジャーナルは、5月29日のマイク・バードの連載コラムで、「安倍対トランプ、真夏の対決に備えよ」を掲載した。トランプ大統領と安倍首相は、米国産牛肉の食事を共に楽しんだが、そのお祭り気分も、今夏には消化不良に変わるとして、「TPP11」が昨年末に米国抜きで発効して、米国産牛肉に引き続き38.5%の関税が課される一方で、新協定によってオーストラリア、カナダ、ニュージーランド産牛肉の関税は26.6%に下がり、16年で段階的に9%まで引き下げられることで、過去10年で日本は米国産牛肉の最大の輸出先となり、現在は全体の4分の1程度を占めている現状に大きな変化がもたらされることを指摘している。
 このコラムは、農業が思い通りにならないとすれば、米国の自動車輸入関税引き上げが俎上に乗り、農業を巡る通商交渉が夏には重要な話になるということを示唆するものだ。
 これは、トランプ大統領が安倍首相とゴルフを楽しんだ後のツイッターで、参議院選挙後の8月には大きな数字が期待できるという発信とも符合するものだ。
 日米通商協議は、夏の参議院選挙以降の今秋に佳境を迎える可能性は高い。米中貿易戦争の結果、米国の農家は、対中輸出農産品に報復関税を課せられ、苦しいことは間違いないからだ。だからこそ、今回、安倍首相がトランプ大統領をもてなし、良好なコミュニケーションチャンネルを維持したことは、日米通商協議に備えるためにも重要といえる。
 今後の日本外交に楽な道はないが、安倍首相はそれなりに難しいかじ取りに成功していることを示したのが、今回のトランプ訪日といえる。「おもてなし」も重要な外交術の一つなのだ。

 


2019年5月6日・20日号 週刊「世界と日本」第2148・2149合併号 より

トランプ治世 「3年目」考
注視すべき米国の内政動向

 

同志社大学法学部教授 村田 晃嗣 氏

 

 ドナルド・トランプ大統領の治世も3年目に入った。来年11月3日には、大統領選挙を迎える。トランプ氏の言動は奇抜でスキャンダルに満ちており、そのため、アメリカの国際的イメージを大きく害し、国内の分断も深まった。だが、この2年間の彼の政策と政権運営は当初予想されたほど支離滅裂ではなく、それなりの成果を上げた面もある。しかも、トランプ氏はアメリカの混乱の原因ではなく、混乱に起因する現象である。

 

 高卒の白人男性中年層の平均寿命が下り、その死因の上位を自殺や薬物中毒が占めている。チャイナ・ホワイトと呼ばれる中国産の医療用麻薬の違法使用が全米で広がっている。こうした社会層の不安や怒りが、トランプ大統領を支えているのである。
 2019年に入ってからも、トランプ大統領は外交と内政で2つの危機を乗り越えた。
 まず外交面で、2月に北朝鮮の金正恩・国務委員長と2度目の首脳会談に臨んだが、北朝鮮の核放棄について安易に妥協せず、物別れに終わった。北東アジアの安全保障について、アメリカ合衆国大統領が決して融通無碍ではないことを示したのである。
 次に内政では、ロシアゲート事件の捜査をめぐって、ロバート・ムラー特別検察官がウィリアム・バー司法長官に対して最終報告書を提出し、トランプ陣営とロシア政府との共謀や大統領の司法妨害について決定的な証拠はないとの判断を示した。もちろん、嫌疑が晴れたわけではないが、トランプ大統領にとっては最悪の事態は回避され、野党・民主党は肩透かしを食った格好である。だが2019年には、トランプ大統領は2つの難題に直面しなければならない。まず、アメリカの景気後退である。2018年のアメリカの経済成長率は2.86%だったが、国際通貨基金(IMF)の予測によると、19年は2.33、さらに20年は1.87、21年には1.77に鈍化するという。
 しかも、これに後述のように米中経済対立が加わる。好景気の時には許された大統領の言動が、不景気では思わぬ反発を招くかもしれない。次いで、連邦議会下院で多数を制した民主党の攻勢である。下院の反対のため、トランプ大統領の固執するメキシコとの国境沿いの壁建設予算も計上されなかった。史上最長の連邦政府閉鎖の末に、大統領は下院に屈したのである。
 実に、アメリカ国内政治の最大の特徴は、大統領ではなく連邦議会の強さなのである(合衆国憲法第一条は議会に関する規定であり、大統領に関するそれは第二条である)。
 トランプ氏はムラー報告書での難は逃れたものの、同報告書は議会に提出され、民主党はその内容を追及しようとしている。情報委員会などで大統領周辺の証人喚問や偽証罪告発を重ねようとするであろう。おそらくトランプ大統領は、より内向きになる。よほどの成算がなければ、3度目の米朝首脳会談にもより慎重になるであろう。だが、米中対立は続くし、より本格化するだろう。これは外交問題であると同時に内政問題であり、トランプ大統領やその側近たちを超えた、欧米エリート層の広範なコンセンサスを基礎としているからである。
 貿易問題は入り口にすぎない。すでに中国の対米投資、とりわけ、先端技術部門や安全保障関係への投資が問題になっているうえ、一部の中国人留学生による産業スパイも問題視されている。アメリカには100万人の外国人留学生がおり、その約3分の1が中国人である。こうした人的交流にも規制がかかるかもしれない。
 さらに、アメリカは金融分野でも中国との対決を辞さないかもしれない。他方、習近平国家主席にとって、補助金に支えられた国有企業の体質改革は、米中関係だけでなく内政上も難問であろう。
 こうした米中対立では、当然、アメリカも相当な深手を負う。それでもアメリカは戦い続けるだろう。今戦わなければ、10年後には中国を阻止できなくなるかもしれないからである。中国の急速な軍拡や「中国製造2025」に見られるようなハイテク分野での躍進とパラダイム・チェンジへの危惧感が、そこにはある。
 2030年代には、中国の国内総生産(GDP)がアメリカを抜く。つまり、中国は世界一の経済大国になる。
 だが、その頃までには、急速な少子高齢化や貧富の格差の拡大、環境破壊、天然資源の枯渇が、中国を襲う。50年代になれば、中国には世界秩序を大きく揺るがすほどの力はなくなるかもしれない。20年ほどの間、強くて脆い中国の暴走や内爆発を阻止することが、アメリカの長期戦略であり、そのためにアメリカと日本、オーストラリア、インドの「戦略的ダイヤモンド」の協力強化が期待されている。
 さらに、米ロ関係も厳しい。中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱決定などを受けて、ある世論調査によると、アメリカ人が敵国に一番に挙げるのはロシアである。ここでも、ロシアゲート事件という内政が絡みつく。だが、ロシアのGDPは今や中国の8分の1で、韓国と同規模にすぎない。ロシアは反米感情を大国としてのアイデンティティーにしているが、現実にはアメリカと渡り合うほどの力を失って久しいのである。しかし、中ロが結びつくことは、できれば避けたい。INF全廃条約にしても、真の問題はそこに中国の核戦力が含まれていないことなのである。
 日本としては、まず、2020年の大統領選挙に向けたアメリカの内政動向を注視しなければならない。またこの間、朝鮮半島情勢についても、日米の連携を強化しなければならない。米中関係の悪化によって、日中関係には改善の兆しがある。
 この二国間関係を実務的に改善しながら、アメリカ主導の「戦略的ダイヤモンド」にどのように関与するのかが、日本外交の難題であり、宿題である。また、米中経済摩擦が日米に飛び火しないようにするためにも、アメリカの内政への配慮と分析が欠かせない。
 北方領土問題には閉塞感が満ちてきたが、より大局的に、日本が米ロ関係改善への一助となりうることを、モスクワに説き続けなければならない。トランプ時代のアメリカと「令和」の日本の関係安定には、内政への研ぎ澄まされた配慮とダイナミックで戦略的な視点が欠かせないのである。

 


《り・そうてつ》
専門は東アジアの近代史・メディア史。中国生まれ。北京中央民族大学卒業後、新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院にて新聞学博士(Ph.D.)取得。98年より現職。同年、日本国籍取得。テレビのニュース番組や討論番組に出演、情報を精力的に発信。著書は『金正日秘録 金正恩政権はなぜ崩壊しないのか』『日中韓メディアの衝突』『北朝鮮がつくった韓国大統領―文在寅政権実録』など多数。

2019年4月1日号 週刊「世界と日本」第2146号 より

米朝会談
決裂は核危機再来の前兆

 

龍谷大学教授 李 相哲 氏

 

金正恩の非核化 意志に疑問

 2月末にハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が決裂した原因は、北朝鮮が非核化をするつもりはないことをアメリカが確認できたからだ。
 ドナルド・トランプ米大統領は2月28日、記者会見で、北朝鮮は核施設の一部を廃棄する代わりに「経済制裁の全面解除を求めた。現時点で合意文書に署名するのは適切でないと思った」「我々はそれ以上のことを求めた」と説明した。会談終了後に出てきた様々な証言を総合すると、トランプ大統領が語った「それ以上のこと」とは、北朝鮮が隠し通そうとしたウラン濃縮施設だった。
 北朝鮮の核能力は、(1)20~68発の核弾頭(2)約1000基あるとされる長距離、中距離、短距離ミサイル(3)核物質やミサイルの生産施設に大別できる。
 2回目の米朝会談で北朝鮮が廃棄すると約束したのは、寧辺(ヨンビョン)の核団地にある約390の施設のなかの一部だった。寧辺の核団地は、北朝鮮核開発・生産能力の5割を占めるという(韓国の情報当局)。
 すなわちハノイで金正恩氏がアメリカに廃棄を約束したのは、前記(3)の中の一部にすぎない。それに呆れたトランプ大統領が席を立ってホテルに戻ったところ、金正恩は慌てて外務次官の崔善姫にメモを握らせ、米側に伝えたとされるが、その内容は寧辺施設の一部ではなく全部を廃棄する用意があると表明したとされる。それもアメリカ側は拒否したとされる。
 アメリカは、条件が合わなかったからではなく、北朝鮮がいまだに不誠実な態度で交渉に臨んでいることを確認したから席を立ったのだろう。

 

米国の要求はCVIDにプラスアルファ

 

 会談決裂後の夜中に北朝鮮外相の李容浩(リ・ヨンホ)は記者会見を開き、「我々は寧辺の施設を全部廃棄するかわりに、国連が我々に課した11の制裁措置のなかの2016年から17年までの間の、民生と人民経済にかかわる部分を解除してほしい」と要求したのに、アメリカは応じなかったと不満を露わにした。
 北朝鮮は、あたかもトランプ大統領が事実を歪曲して、「北朝鮮が制裁の全部を解除しろと要求した」と言ったが、本当は「制裁の一部」しか要求していなかったという意味だった。しかし、事実を歪曲したのは北朝鮮だったのである。
 国連は2017年12月までに、北朝鮮に対する計11の制裁決議案を採択しているが、16年11月、17年6、8、9、12月に採択した決議案が、厳しい内容を盛り込んでいる。
 それまでの制裁決議案は中国、ロシアの反対と妨害にあい、厳しい内容を盛り込むことができず、北朝鮮経済に実質的な打撃を与えるものではなかった。
 米朝関係をウォッチしてきた専門家の中には、トランプ大統領が2回目の会談を打ち切った背景を、国内政治状況(「コーエン証言」など)が影響したとの見方を示すこともあるが、米国は当初より適当な妥協はしないつもりでいた。
 会談開催直前の2月22日、CIA(米国中央情報局)傘下のコリアミッションセンターの元責任者、アンドリュー・キムはスタンフォード大学でおこなった非公開講演で、米国が北朝鮮にどのような要求を突き付けていたかを明らかにした。それによると、アメリカが北朝鮮に求めた非核化の要求は広範囲でかつ完全なものであった。
 トランプ大統領は、北朝鮮が取るべき措置として、(1)非核化のための出発点として北朝鮮は核・ミサイル実験の持続的に中断をすること(2)核リストの申告は、核武器、ミサイル、核物質、生物化学兵器を含むこと(3)すべての核施設に対する米国専門家の査察と検証が許されること(4)廃棄すべきは、核施設のみならず、核武器・ミサイル、核物質、生物化学兵器を網羅(5)2003年、北朝鮮が脱退したNPT(核拡散防止条約)への再加入、IAEA(国際原子力機構)の査察を許すことを要求した。
 アンドリュー・キムの証言を基にすれば、この要求は、2018年7月の段階で、平壌を訪れたマイク・ポンペイオ米国務長官によって北朝鮮に伝わっていたものだ。その要求に対し、北朝鮮は「アメリカの強盗的な心理の表われだ」(18年7月7日付「朝鮮中央通信」)と非難した。
 つまり、アメリカは北朝鮮に対するCVID「完全かつ検証可能で後戻りできない非核化」に加え、生物化学兵器までを放棄させるという目標は捨てていない。トランプ大統領がハノイ会談で金正恩に「広範囲な非核化」を持ちかけたのは、国内の政治状況に影響されたからではなく、アメリカ政府の一貫した立場であったことがわかる。

 

金正恩に残った道は2つ

 

 2度目の首脳会談が終わったあとジョン・ボルトン米国家安全保障補佐官が3月5日、米国のメディアの取材で明らかにした、トランプ大統領が金正恩氏に渡したとされる「広範囲な非核化」の要求を盛り込んだ文書は、おおむねアンドリュー・キムが明らかにした内容と一致するものではないだろうか。
 北朝鮮が譲歩できる上限線は寧辺の核施設の廃棄であり、しかもアメリカが先に制裁を解除すること、という意味だ。この要求をアメリカがのむことはまずないだろう。ところが、金正恩はなぜ、このような無理な要求をアメリカに出したのだろうか。
 まず、根拠のない自信過剰に陥っていたのではないか。これまで文在寅韓国大統領や習近平中国国家主席は、金正恩を必要以上に礼遇した。若い金正恩は、核保有寸前の自分の立場をトランプも尊重せざるを得ないと考えたのではないか。
 さらにそのほかに、焦りがあったからだ。北朝鮮の経済は2年連続マイナス成長を記録、昨年末までに外貨備蓄が底をついたという証言もある。
 ハノイ会談で金正恩は、「急がない」を連発するトランプ大統領に対し、「我々は1分たりとも貴重だ」と焦りを隠せなかった。
 どうしても制裁を解除しなければならないという切羽詰まった気持ちが表に出たのだ。北朝鮮の内部事情を知り尽くすアメリカは、焦らず、これからも制裁を強化していく構えだ。
 金正恩が取り得る選択は、2つしかない。アメリカの要求を無条件に受け入れるか、核能力を強化し、核技術を輸出するなどして難局を打破しようとするかだ。金正恩が後者を選択すれば、間違いなく、新たな核危機は再来するだろう。

 


《こくぶん・りょうせい》
1953年東京生まれ。81年慶應義塾大学院修了後、同大学法学部専任講師、助教授、教授、東アジア研究所長、法学部長。2012年4月より現職。ハーバード大、ミシガン大、復旦大、北京大、台湾大の客員研究員を歴任。専門は中国政治・外交、東アジア国際関係。元日本国際政治学会理事長。著書に『中国政治からみた日中関係』など。

2019年2月18日号 週刊「世界と日本」第2143号 より

米中摩擦 その歴史的本質を探る
厳しさを増す、米国の対中「脅威認識」

 

防衛大学校長 国分 良成 氏

 

 米中関係は、ジョン・ヘイ国務長官による1899年の門戸開放宣言に始まったと言われる。今から120年前のことである。西部開拓を通じて西海岸に到達した米国は太平洋国家として登場した。しかし、当時この地域はすでに多くの西欧列強が進出し、後発の米国が中国大陸に入り込む余地はなかった。それが門戸開放と機会均等の訴えとなった。
 中国大陸に対する米国の関心はやがて日本と衝突し、太平洋戦争となった。日本の敗退後、国民党と共産党の内戦が勃発し、米国は国民党を支援したが共産党が勝利した。米国は中華人民共和国ではなく、台湾に逃れた国民党の中華民国を正統政府と認めた。その直後の1950年6月に朝鮮戦争が勃発した。
 米国はこれに介入したが、中国の参戦によって米中は直接戦火を交えた。また、50年代にも台湾海峡で何度か米中間の危機が発生した。このように、戦後のアジアにおける冷戦は米中冷戦であった。
 米中冷戦の終結は、71~72年の米中接近とニクソン訪中であった。米中を接近させたのはソ連という巨大な敵対パワーの存在であった。その後、米中は79年に国交正常化、80年代には、米ソ新冷戦の中で米国は中国との連携を強めた。
 この良好な関係が崩れかけたのは、89年の天安門事件であった。米国は経済制裁を科し、高官の接触を禁止したが、実際には事件直後から米中間では秘密裏の接触が行われていた。
 そして92年に鄧小平が社会主義市場経済のもとで大胆な市場化を進めると、米中間の溝は一挙に溶解した。クリントン政権は発足当初、中国の人権問題を糾弾したが、成長路線が本格化すると江沢民との間で戦略的パートナーシップ(伙伴)関係を結んだ。
 米国はこれ以降、「エンゲージメント(関与)政策」を掲げ、中国を国際社会に引き入れることを目標とした。つまり、この段階で米国は中国を発展途上国として認識し、中国も鄧小平のもとで米国に対して低姿勢を貫く「韜光養晦(とうこうようかい)」に徹していた。
 21世紀に入り、ブッシュ政権は台頭する中国に対決姿勢を示したが、9.11以後は対テロ戦における中国の協力が必要となり、融和姿勢に変わった。この時代の対中姿勢の基本は「責任あるステークホルダー(利害関係者)」であり、経済的に巨大化し、国際社会の重要な一員となった中国に責任ある行動をとるよう促すものであった。
 つまり、この段階で米国は中国を台頭するパワーとして認知したが、脅威認識はまだ低かった。
 オバマ政権は当初から中国批判を避け、経済を重視して共存姿勢を示した。しかし、2008年の北京オリンピック、10年の上海万博を経てGDPで世界第2位になると、中国は居丈高に自己主張を強めた。米国の対中警戒心が増幅されたのは言うまでもない。
 2016年、米大統領選でトランプ氏が勝利した。トランプ大統領個人は、現在にいたるまで中国の政治・安全保障問題に多くを語らず、もっぱら通商問題に集中している。今月末には米国の対中経済制裁発動の猶予が終わるが、世界的な株価の暴落を見るにつけ、共倒れを避けるべく落としどころを見いだしたいのがホンネであろう。
 しかし、米国の対中認識は民主党も含めて厳しさを増している。その象徴が言うまでもなくペンス副大統領の昨年10月の演説である。対中不信は通商だけでなく、一帯一路、政治、軍事、サイバーなど、すべての分野に及んでおり、最終的には中国の現体制そのものを問題にしているようにも見える。ペンス演説は最後の部分で中国の改革・開放の継続に期待を示しており、冷戦の一歩手前で踏み止まっている。
 中国はこれにどう対応するのであろうか。習近平主席は毛沢東とも鄧小平とも異なる。彼の父・習仲勲は文化大革命で毛沢東に敵視され、鄧小平とも天安門事件などに関して意見を異にした。習仲勲は共産党の中で毛沢東の極左でもなければ、鄧小平の右でもなく、強いて言えば文革の最大の犠牲者・劉少奇の正統的マルクス主義観に近かった。
 それ故であろうか、近年、息子の習近平が最も口にする理念は「マルクス主義」である。今後、習政権は米国の圧力回避のために一時的に対米融和を図るであろうが、党と国家の存続こそが最大の核心的利益である習政権にとって、米国の要求を簡単に受け入れることはできない。
 最後に、以上のような米中関係の歴史的考察から何が読み解けるのか。
 (1)歴史的に見れば、米中関係は対立局面から協調局面への復元力が強かった。それは、特に米中接近や天安門事件、あるいは9.11の場合などに顕著であった。
 中国側は一貫して米国を重視する一方で、米国の対中外交は、民主・自由の理念重視と経済・ビジネス重視の間を揺れる傾向があった。ただ、中国が経済発展するとともに、米国も経済・ビジネスを重視して対立から協調局面に変わることが多かった。
 (2)しかし、今後は不透明である。歴史が示すように、米国の対中認識は時の経過とともに徐々に警戒心を増してきた。90年代の「エンゲージメント」は発展途上国の中国をどう国際社会に引き入れるかであり、21世紀初頭の「責任あるステークホルダー」は台頭する中国に責任ある行動を促すものであり、両者ともに中国を「我々の側」にとらえていた。
 しかし最近のペンス副大統領の演説は、中国を既存の国際秩序に挑戦する「修正主義者」としてとらえており、脅威認識が前面に出ている。
 もちろん、ここから単純に米中冷戦に進むわけではない。米ソ冷戦の本質がイデオロギーというよりパワーやヘゲモニー(覇権)であったように、今日の米中間の亀裂は中国という異質なパワーに対する米国の脅威認識から広がっている。それだけに米中関係には以前ほどの復元力はなく、徐々に悪化する可能性が高い。
 (3)中国国内の状況に注目する必要がある。鄧小平の改革・開放路線をそのまま進めれば、共産党一党独裁の維持は難しくなる。習近平は時計の針を戻し、マルクス主義を唱えるが、それは時代錯誤である。マルクス主義で失敗したからこそ、改革・開放があった。しかも、中国社会と個人の意識は改革・開放によって多様化・多元化している。そうした中で、社会と遊離した政治的強権に何の意味があるのか。
 また、中国の経済成長は限界にきており、選挙のない中国で権力の正当性をどう担保するのか。民生を無視して軍事と重工業に偏りすぎたソ連が辿った運命を、中国は避けることができるのであろうか。外部から中国を変えることは難しい。問題の根源は内側にある。

 


《やまざき・しんじ》
昭和46年東京外大卒。時事通信社に入り、南米特派員、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長を経て、外信部長、解説委員兼時事総合研究所主任研究員を歴任。現在は山形大学客員教授、早稲田大学大学院客員教授、時事通信社客員研究員、(社)ラテン・アメリカ協会理事。

2019年2月4日号 週刊「世界と日本」第2142号 より

中南米は今、2つのポピュリズム政権
ブラジル新大統領 左派路線から決別、親米へ
メキシコ大統領 「3度目の正直」で当選も・・・

 

 

山形大学客員教授 山﨑 眞二 氏

 

 2019年の「中南米情勢」の行方を占う上で、左右2つの「ポピュリズム(大衆迎合主義)政権」が注目される。ブラジルの右派ボルソナロ政権と、メキシコの左派ロペス・オブラドール政権だ。両政権成立の背景と特徴、課題などを探ってみた。

 

ブラジル新大統領

 「国民が一つになり、家族を大切にし、ユダヤ・キリスト教的伝統を尊重しよう」―新年1月1日、ブラジル首都ブラジリアの連邦議会での就任式でボルソナロ大統領は、こう高らかに宣言、長年の左派路線からの決別と保守回帰を表明、同時に市場開放の推進を約束した。
 ボルソナロ氏は多くのメディアが伝えているように、これまでのブラジルの政治家とは異なるタイプ。元軍人だが、政治の素人ではない。7期28年にわたり下院議員を務めている。ずっと少数政党に属し、政治エリートではない点が特徴の1つ。徹底した左翼嫌いで、過去の軍事政権を礼賛し、治安改善のための武力行使を主張。
 これが“極右”政治家とも評されるゆえんだ。女性などへの差別的発言や「ブラジル第一」「ブラジルを再び偉大な国に」といった発言から、“ブラジルのトランプ”とも呼ばれるのは周知の通りだ。
 昨年10月の大統領選で当初、泡まつ候補扱いされたものの、第1回投票でトップに立ち、決選投票で左派の労働党候補を大きく引き離して当選したボルソナロ氏の勝因は明確だ。汚職まん延や治安悪化、経済不振を招いた旧来の政治への国民の絶望的不信感をバックに「改革者ボルソナロ対エリート既得権益層」という構図を描き、有権者の心をつかんだ。
 ブラジルでは2003年以来、長期にわたり労働党の左派政権が続いた。労働党政権は当時の資源ブームを背景に貧困層に手厚い社会政策を推進した。しかし、その後、資源価格急落により経済は失速、時を同じくして労働党幹部が絡む過去最大級の政界汚職疑惑が広まる。
 2014年のサッカー・ワールドカップ(W杯)や、16年リオデジャネイロ五輪の前後には、大規模な反政府デモが展開される事態に。この間、治安も急速に悪化した。労働党政権の社会政策で、あまり恩恵を受けなかった中間層の不満が増大。この中間層がボルソナロ氏を支持し、同氏勝利の大きな要因の1つになった。
 もう1つ、ボルソナロ当選の重要要因はキリスト教福音派の強い支持を受けたことだ。ブラジルではカトリック教徒が多数派だが、実はプロテスタントが人口の約2割に当たる4000万人もいる。ボルソナロ氏は、近年信者数が急増しているキリスト教福音派との親密な関係を築いてきた。この点でも、米国最大の宗教勢力といわれる福音派を重要な支持基盤とするトランプ大統領と共通する。
 ボルソナロ大統領は内政面では経済改革、汚職撲滅および治安回復を最優先課題とし、野心的な年金制度改革も目指す。しかし、大統領の与党は上下両院で少数派。議会とどのように折り合いをつけるかが大きなカギになる。
 対外面では親米路線が展開されるのは間違いない。一方、反米左派のキューバ、ベネズエラとの関係が冷却化するのは確実。また、ブラジルと中国の関係にも変化が起きる可能性もあり、ブラジル外交の大転換が予想される。

 

メキシコ大統領

 

 ボルソナロ政権発足1カ月前の昨年12月1日、メキシコでオブラドール大統領の就任式が行われた。新大統領は就任演説で汚職撲滅と治安回復に全力で取り組むと表明した。
 オブラドール氏は、以前から有力政治家として内外で名を知られていた人物。この点がブラジルのボルソナロ大統領とは異なる。オブラドール氏はかつてメキシコ市の市長を務め、その政治的手腕は高く評価された。2006年と12年の大統領選に出馬するも、いずれも次点に終わり、涙を飲んだ。昨年の大統領選で当選したのはまさに「三度目の正直」。
 大統領選勝利の背景には、右派系の2大政党による長年の特権エリート政治に対する、国民の強い不満と失望感がある。政府と麻薬カルテルとの間で06年から続く「麻薬戦争」の激化によって治安情勢が極度に悪化。国民の7割近くが日々の生活で身の危険を感じているとの世論調査結果もある。政治家や官僚の収賄、マネーロンダリング(資金洗浄)に関するスキャンダルも後を絶たない。
 一貫して不正や汚職追放を政治スローガンとし、過去の政権の治安対策を批判してきたオブラドール氏が、国民の半数以上から支持を集めたのは当然かもしれない。
 加えてメキシコ経済が近年、低成長が続く中、貧困や経済格差拡大の問題が深刻化。オブラドール氏が汚職を減らし、高級官僚の給与を削減してその分を社会政策の強化に充てると主張したことも、当選をもたらした重要な勝因だろう。
 同氏の政党「国民再生運動」(MORENA)も上下両院で大幅に躍進、第1党に。MORENAと連携する他の政党を合わせると、両院で過半数の議席を確保したのは大統領にとっては追い風となる。
 オブラドール大統領はポピュリスト的性格が強いものの、従来の中南米の左翼政治家とは違う点も多い。例えば、新自由主義的政策には明確に反対しているが、民間資本や外資も有効に活用すべきとも主張。大統領は確かにポピュリズムの流れに乗って登場した政治家ではあるが、旧来の社会主義を遂行しようとするガチガチ左翼ではないようだ。
 オブラドール大統領の“懸念材料”として多くのメキシコ専門家が一様に指摘する点がある。それは既に工事が始まっていた首都の新空港の建設中止を、簡易な「国民投票」で決定したことだ。大統領は選挙期間中から空港建設事業が汚職の温床で、コストが高すぎるなどと批判していた。
 しかし、国民投票といっても、有権者の1%程度の住民へのアンケート調査。「法的根拠のない住民調査で建設反対が多数を占めたとして中止を決定したのは横暴」(在メキシコ日本企業幹部)との批判が強い。国家の重要な政策をポピュリズム的手法で覆すことが今後も行われるとすれば、新政権の前途には暗雲が立ち込めることになろう。
 いずれにせよ、中南米の2大国、メキシコそしてブラジルで発足した新政権の行方は、今後の同地域の政治的潮流にも重要な影響を及ぼすことになりそうだ。

 


《とみさか・さとし》 1964年愛知県生まれ。単身台湾に渡った後、北京語言学院を経て北京大学中文系に進む。『週刊ポスト』『週刊文春』記者を経てフリージャーナリストとして独立。『龍の伝人たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞受賞。近著に『トランプvs習近平そして激変を勝ち抜く日本』。国家基本問題研究所企画委員。

2019年1月21日号 週刊「世界と日本」第2141号 より

米中貿易戦争
ひとまず「休戦」か
米国内 「対中強硬」に一定支持が

 

拓殖大学教授 富坂 聰 氏

 

 12月1日夜、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスで、トランプ大統領と習近平国家主席の夕食会を兼ねた会談が行われ、世界が注目した米中貿易戦争は、ひとまず「休戦」となった。

 

 米側の発表では、2019年1月に予定されていた追加関税率の引き上げを90日間凍結し、米中が新たな通商協議を始めることで合意したという。「凍結」である以上、協議の内容次第では90日後に追加関税の引き上げに踏み切る可能性も残し、中国サイドが「宿題」を背負った形となった。
 中国側の説明には90日間という文言は見当たらないが、〈改革を深化させ、開放を拡大する〉ことで〈米国が関心を寄せる一連の経済貿易問題が解決される〉との表現で、アメリカの要求に応えていく姿勢を示した。
 アメリカによる徹底した“中国潰し”を期待していた論者には、極めて残念な結果―といっても何度も繰り返されてきたことではあるが―となったが、かといって米中が対立構造を完全に払拭(ふっしょく)でき「蜜月」へと向かう素地ができたかといえば、決してそうではない。
 ただ90日間の宿題という意味では、米中が合意にたどり着く可能性を示したと言えるだろう。
 中国はそもそも、アメリカと対立して政権が最も望む経済発展が実現できるとは考えていない。トランプ政権が対中貿易での不公正さに言及し始めた当初から、大幅な譲歩案を用意していたと考えられている。一方のアメリカも、中国による報復関税により、長期的には自国経済が痛むことは避け難いとの判断が働いていたはずだ。
 つまり、何らかの障害が間にあったものの、米中が折り合いをつける前提はあったと考えられるのだ。
 では、なぜ米中の対立はこれほど複雑にこじれ、激しい応酬を繰り広げるまでになってしまったのだろうか。
 1つには習近平政権が、見せかけだけで中身のない提案を続けたことがあるが、なんといっても対立の性格を大きく変えてしまったのは、ZTE(中興通訊股份有限公司)の問題だ。
 米側の再三にわたる警告にもかかわらず、イランに対し制裁を無視したハイテク部品を提供し続けたことで、同社が制裁の対象となり、最終的には倒産寸前まで追い詰められてしまった問題だ。
 中国の通信の未来を担い「5G時代の旗手」と位置付けられてきたZTEが、米国から基幹部品の提供を絶たれるだけで、たちまち干上がってしまうという弱さを世界にさらしてしまったのだ。
 ウィークポイントを知られてしまった中国は、貿易交渉にとどまらず対米外交において、大いに劣勢に置かれることになるのだが、ここで米政権内に「対中強硬派」が台頭するという変化が生じた。
 その典型的な動きが、中国がムニューシン財務長官との間でこぎつけた合意をひっくり返されたことだ。貿易戦争の緒戦で、同長官との共同声明(5月19日)で「(制裁は)保留」との言質を引き出した合意だ。
 これ以降のトランプ政権の対中攻勢は一気にボルテージを上げていく。
 ボルトン大統領補佐官(安全保障担当)、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、ロス商務長官、ナバロ大統領補佐官などの発する声が高まり、中国が防戦一方の様相を呈していくのである。
 この時期の中国は、アメリカが強く求めていた金融緩和に関する具体的な措置を次々と打ち出し、上海では輸入拡大のための、「第1回中国国際輸入博覧会(CIIE2018)」を開催し、米国側の出席を呼びかけるなど妥協的な姿勢に終始した。
 だが、そんな中国の態度を一変させたのは、トランプ政権の周囲から中国を「安全保障上」の懸念としてとらえる声が高まると同時に、台湾問題で中国を刺激する言動が目立ち始めたことだった。
 いうまでもないことだが、台湾問題は、もし少しでも妥協すれば中国共産党が政権党としての資格を失う敏感な問題である。
 つまり、この問題に踏み込まれた瞬間から習近平政権は、合理的な判断を捨てても応じるしかなくなるのだ。これはトランプ氏が大統領選挙に勝利した直後に、台湾問題で従来のアメリカの対中政策を無視するような発言をして、中国が極度に警戒した当初への逆戻りといえよう。
 言いかえれば「経済がボロボロになろうと最後まで戦いに付き合う」ということになってしまったのである。
 米中対立の絡まった糸は、ここに極まったということだ。
 だが、先に触れたように本音のところで中国には米国と対立する意思はない。それでも台湾問題という絶対に譲ることのできない問題に踏み込んだ状況で、妥協策を示すこともできないのである。
 では、なぜ米中は、最終的にアルゼンチンで「一時休戦」へと至ることができたのだろうか。
 謎を解くカギは、実はペンス副大統領がハドソン研究所で行った講演にある。
 この演説は、メディアによっては中国への「宣戦布告だ」とまで表現されていただけに意外に思う読者もあるだろう。
 しかし見逃せないのは、中国を全否定するかのような講演のなかで「一つの中国政策を尊重し続ける」との一言を紛れこませている点だ。
 これが11月1日のトランプ・習近平電話会談へとつながったのである。
 ただ冒頭にも触れたように米中間に構造としてのライバル関係が定着したことは、ペンス演説の中で明確に「メイド・イン・チャイナ2025」政策を批判していることでも明らかだ。
 それはつまり、米国内に「対中強硬」を唱えることで得られる一定の支持が存在することを意味し、今後もことあるごとに中国バッシングは続くことを示しているのだ。

 


《こんどう・せいいち》 1972年外務省入省。広報文化交流部長を経て、2006年からユネスコ日本政府代表部特命全権大使。08年よりデンマーク大使。10年より13年まで文化庁長官を務め、三保松原を含めた富士山の世界文化遺産の登録を実現。現在、近藤文化・外交研究所代表、東京都交響楽団理事長、東京藝術大学客員教授などに就任。

2019年1月21日号 週刊「世界と日本」第2141号 より

日韓の「文化・人的交流」支援に向けて

 

元文化庁長官 近藤 誠一 氏

 

 国際社会は、このところ急速に不透明さを増している。戦後の秩序に揺らぎが見え、各国は「国のありかた」、「国際関係の処し方」の基準を見失い、“将来の不透明さ”に戸惑っている。こうした中で明治開国150年を終え、御代の交替を迎えるいま、日本はどのようなかじ取りによって21世紀を生き抜くべきだろうか。それは、志を同じくする諸国、とりわけ近隣諸国との間に長期的利益を基礎にした協力関係を構築し、官民をあげてそれを維持するという、基本に戻ることである。

 

 典型的なケースが日韓関係である。1965年の日韓正常化以来、両国関係はある時は国際政治のうねりに翻弄(ほんろう)され、ある時は歴史や領土問題という、主権国家にとって中心的な問題の処理に、多くの時間と政治資本を費やしてきた。同一文化圏にありながら、思わぬ国民性の違いに戸惑うこともしばしばあった。
 日韓関係の特徴のひとつは、「歴史」の問題がその時々の政治や社会情勢によって、現れては消え、また頭をもたげることだ。こうした問題の繰り返しは、両国国民に「またか」という印象を与え、それが国民感情に長期的にマイナスに働くことは明らかである。
 何とかしなければ、両国が協力から得られるはずの潜在的利益を損なってしまう。こうした危機感から、これまで日韓関係改善の試みは数多くなされてきた。その中でも「歴史的和解」として高く評価されているのが1998年に小渕首相と金大中大統領との間で交わされた「日韓パートナーシップ宣言」である。
 しかしその後も両国関係の不安定さに目立った変化はみられなかった。そこでこのパートナーシップ宣言20周年を迎えた2018年夏、両国政府はそれぞれ改めて日韓関係の基礎である文化、人的交流に焦点を絞って、有識者の提言を求めることにした。日本側の有識者が10月3日に河野外務大臣に提出した提言には、いくつかの重要な指針が含まれている。
 この提言で指摘されたことは、以下の5つに要約される。
 第1は、日韓関係の過去の進展を素直に受け止めるべきだということである。両国交流は、実は一般に考えられている以上に大きな進展を遂げてきた。この20年間に貿易は約2倍、国民交流は約3倍に伸びた。我々はこのことにもっと自信を持つべきだという点である。
 第2は、政府は国民交流については環境整備に徹するべきだということである。政府が歴史や領土といった主権にかかわる問題の適切な解決に努力をするのは当然だ。しかし国民交流は民間のイニシアチブに任せ、交流促進の妨げになっている障害の除去や、留学制度の拡充など、交流を促進する環境づくりに徹することが望ましい。
 第3は、民間交流の推進である。その最大の目的は、相互訪問により、「顔の見える」友人関係を構築するということである。
 訪問の目的は単なる物見遊山ではない。日韓両国民が、個人として多くの信頼できる友人をつくることである。それにより、仮に新たな政治問題が起こった際にも、まずその友人の顔を目に浮かべることで、報道や過激な発言に惑わされることなく、冷静に受け止めることができる、成熟した関係になる。
 日韓両国には、残念ながら日韓関係の改善を快く思わぬ一部の勢力があり、国民や企業は彼らの反応を忖度(そんたく)して、前向きな発言や行動を差し控えるという現象がみられる。しかし相手国に多くの親しい友人がいれば、何か起きたときもこれらの勢力に無用に影響されずに、勇気をもって前向きの発言や行動をすることができる。
 韓国人で日本の渡航歴がある人は、経験がない人に比べ、日本によい印象を抱く回答が3倍あったという。「言論NPO」が2018年6月に発表した世論調査は、相互訪問の意義を明確に実証したものと言えよう。
 第4は、上記の第2の措置とも関連するが、政府は政治的問題が発生、再燃したときには、時として主権国家として毅然たる態度をとるべきだが、同時に国民に対しては、民間交流は継続すべきであるという明確なメッセージを出すべきであるという点だ。
 これは今回の提言で初めて明言されたものである。日韓両国民には、政府に問題が起こると、それに配慮して本来の交流を手控える傾向があることに注目した、極めて重要な提言といえるであろう。
 厳しい政府間のやりとりの中でも、関係者の多くは民間交流は影響を受けずに粛々と継続すべきと考えている。しかし黙っていたのでは、国民は「忖度」によって交流や文化行事を差し控え、それが伝搬して関係が冷えてしまう。
 政府からの積極的発言によってそれを防ごうというのが、この提言の中核を成す発想である。
 この提言が外務大臣に提出された後、有識者のコアメンバーは訪韓し、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官や、長官の下に設置されたタスクフォースと意見交換をした。
 その際にさまざまな有意義な討議がなされたが、先方が異口同音に評価したのが、最後の2点、すなわち「顔の見える」友人関係の構築の必要性と、政府が市民交流は続けてほしいというメッセージを出すべきという点であった。
 後者は、政府にとってもかなり勇気のいることかもしれない。しかし提言直後、自衛隊旗の掲揚問題が起きた際の記者会見において、河野外務大臣が日本政府の立場を述べた上でこの提言に触れ、民間の交流は続けてほしいと発言された。大きなニュースにはならなかったが、これは我々にとって誠に嬉しい発言であった。
 今後とも、日韓関係には政治や経済の問題が起こるであろう。問題が複雑であるほど、その処理は感情的になりやすい。
 それをできるだけ冷静に処理するには、国民の間の信頼関係が最も重要である。国民相互の信頼、顔の見える友人関係は、いまの問題の処理の環境をつくるとともに、将来における問題発生防止や、適切な処理に必ずや貢献すると思われる。

 


2018年12月17日号 週刊「世界と日本」第2139号 より

TPP11 18年12月30日に発効へ

日本は「グローバル社会」主導する役割を

 

 

中央大学経済学部教授 谷口 洋志 氏

 

 「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」、いわゆる「TPP11協定」は、2018年12月30日に発効する。TPP11に参加するのは、北米のカナダとメキシコ、中南米のチリとペルー、大洋州のオーストラリアとニュージーランド、アジアの日本、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ・ダルサラームの計11カ国である。

 

TPP11の発効

 TPP11の前のTPP(環太平洋パートナーシップ)交渉は、15年10月5日に完了し、16年2月4日に米国を含む12カ国が署名していた。しかし、17年1月に米国トランプ政権が、TPP交渉・協定からの離脱を表明したことから、米国抜きで交渉が進められた。11カ国は、17年11月に大筋合意、18年1月23日に交渉終了、同年3月8日に署名した。
 TPP11は、少なくとも6カ国が国内法上の手続き完了を、寄託国のニュージーランドに通報した日の60日後に発効する。18年6月のメキシコを皮切りに、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダと続き、10月31日に6カ国目のオーストラリアが手続き完了を通報したことから、60日目の12月30日に発効することとなった。なお、11月15日にはベトナムの手続きも完了して計7カ国となっている。

 

TPP11の効果

 

 世界銀行の17年データによると、TPP11参加国の規模は、人口が5億人強(世界の6.7%)、GDP(国内総生産)が10.6兆ドル(同13%)で、人口は日本の4倍、GDPは同2.2倍弱である。米国が参加していれば、人口は8.3億人(世界の11%)、GDPは30兆ドル(同37%)となっていた。
 日本は現時点では相対的に大規模とはいえ、総人口が減少し、先例のない少子高齢化が進行しており、市場の長期的縮小が避けられない。それに対し、TPP11参加国には先進国・新興国・途上国が混ざっており、全体の人口やGDPも拡大が見込まれ、しかも大量の中産階級を発生させる余地が大きい。その意味で有望な市場であり、巨大な販路を獲得する一方、より安価で良質な財・サービスを入手できることが期待される。
 17年12月21日に公表された内閣官房TPP等政府対策本部の試算では、TPP11への参加によって実質GDPが約1.5%(16年度GDP換算で約8兆円)押し上げられ、労働供給も約0.7%、約46万人が増加するとされている。
 こうした経済拡張効果が生じるのは、関税・非関税障壁のコスト低下によって、
 (1)貿易や投資が増大して企業間・産業間連携が強化されて生産性が向上する。
 (2)生産性の上昇が実質賃金を上昇させて労働供給を増加させる。
 (3)実質所得の増大が貯蓄・投資を増加させ、資本蓄積を高め、生産力を拡大させる。
 ・・・からである。供給面の拡大が需要の拡大を伴って経済規模を押し上げるという訳だ。

 

TPP11の問題点と課題

 

 TPP11は、参加国の地域統合や協力を促進し、財・サービスの貿易や投資の機会を増大させることで地域の所得水準を向上させ、人々に経済的機会を創出することが目的である。
 参加国が多ければ多いほど、全体の規模が大きければ大きいほど、こうした経済的メリットは大きいと考えられる。しかし、それは集計的なメリットであり、こうした貿易・投資促進効果によって利益を得る部門もあれば不利益を被る部門もある。
 日本では、不利益を被る部門の典型が農業部門である。ただでさえ低い食料自給率がさらに低下して食料安全保障を脅威にさらすとか、地域の農業・畜産業に打撃を与えて地域農業の衰退を招くといった問題が提起されてきた。農業をはじめとする不利益部門に対しては、互恵的で透明かつ公平なルールに従って一定の保護をすることが避けられない。
 ところで、TPP11は、関税の完全撤廃を目指す「自由貿易協定(FTA)」を超えて、サービス、知的財産、労働、医療、環境などの規則・慣行や制度の調和をもめざす「経済連携協定(EPA)」である。
 したがって、(関税の特恵待遇が受けられる)原産地規則、食の安全性基準、自動車の排ガス規制、金融商品・サービスや金融機関に対する規制、医療機器・医薬品の認証、独占禁止法の解釈・適用など、さまざまな領域での合意と透明性・公平性に基づく運用が求められる。
 さらにTPP11協定は、地域統合の一環でもあるから、域内では、モノ・サービスだけでなく、カネ・ヒト・情報の国境を越えた自由な移動が将来的な課題となる。TPP11は、EU(欧州連合)のように、共通の農業政策、通貨、中央銀行システム、環境政策、労働政策、移民政策などの導入まで進むのか。

 

日本の役割

 米国が参加した当初のTPPは中国排除の枠組みと言われたが、米中不参加のTPP11ではそうした要素が薄れ、インパクトも弱い。とはいえ、TPP11の経験を通じて共通のルール化・制度化を図ることで、アジア太平洋地域での将来の広大なEPAの土台となりうる。
 また、米国優位の枠組み作りが不可能となったことで、日本の存在感が強まり、発言権が増したのである。
 日本はTPP11に参加する前に、すでにTPP11参加国のうちカナダとニュージーランドを除く8カ国との間で2国間EPAを締結し、すでに発効済みである。その意味では、TPP11は、既存の2国間EPAを多国間EPAに拡大したものである。こうした多国間主義は、2国間主義にこだわるトランプ政権とは一線を画すものである。
 アジア太平洋地域にはTPP11以外にも、アセアン・大洋州諸国や日中韓印が参加するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)や日中韓FTAなどの動きがある。ここで注目されるのは、中国が主導権を握るかどうかである。しかし、中国は成熟した市場経済国とはいえず、発言権は増しても主導権をとることは難しい。
 このように、米中がリーダーシップを発揮できない状況では、TPP11での透明かつ公平な多国間主義をベースに、日本がグローバル社会を主導していく役割は非常に大きいのである。

 

 


2018年12月3日号 週刊「世界と日本」第2138号 より

米国中間選挙

「分割政府」厳しい政権運営へ

日米関係は課題山積、したたかな外交を

 

同志社大学法学部教授 村田 晃嗣 氏

 11月6日の米国中間選挙は、世界的な注目を集めた。多くの専門家が前回の大統領選挙で予想を外したため、今回は慎重な発言が多かったが、上院での共和党の多数維持と、下院での民主党の逆転勝利は、大方の予想通りであった。いわゆる分割政府、日本風に言えば、「ねじれ国会」の出現である。大統領1期目の中間選挙が、こうした結果になることは、ごく普通のパターンといえる。

 

 下院で民主党が多数を制したため、トランプ大統領は今後、より慎重な議会対策を求められる。下院では、現職の再選率がきわめて高い。今回は共和党現職の引退が多かったことも、民主党には有利に働いた。だが、それは共和党がよりトランプに忠実な党に変容したという意味でもある。
 また、当初期待されていたような民主党の圧勝ではなかったから、ブルー・ウェイブが起こったとは言えまい。青は民主党を示す色である。だが、多くの女性や性的マイノリティーの候補が登場し、かなりの当選者を出したことから、ピンク・ウェイブやレインボー・ウェイブは起こったのである。ピンクは女性を、虹色は性的マイノリティーを、それぞれ象徴する。
 ロシアゲート事件などのスキャンダルについて、民主党主導の下院は公聴会を開き、証人喚問を続け、偽証罪の告発も辞さないであろう。もちろん、下院の過半数で大統領弾劾を発議することもできる。しかし、上院で3分の2以上の賛成がなければ弾劾は成立しないから、結果を伴わない弾劾発議は共和党やトランプ支持者の怒りを惹起するだけで、かえって民主党の無力を示すことになるから、彼らにとって現実的な選択肢ではない。
 また、これまでは大統領と上下両院の多数がすべて共和党であったから、民主党に失政の責任転嫁をすることはできなかったが、トランプ大統領は今後、下院民主党の反対や抵抗に自らの失敗の責任すら転嫁するであろう。
 上院では、共和党が議席を伸ばした。これに注目すれば、共和党の善戦と呼ぶこともできる。カバノー最高裁判事の承認人事をめぐって、民主党が強く反対したため、共和党の結束を強め、この善戦につながったと見る向きもある。カバノー人事によって、9人の最高裁判事はすでに保守派が5人、リベラル派が4人と、保守優位になっている。
 しかも、リベラル派には85歳のギンズバーグら高齢の者が含まれている。早くも、ギンズバーグの転倒事故が注目されたが、彼らが引退したり死亡したりすれば、トランプ大統領は若手の保守派を後任に指名し、共和党多数の上院がそれを承認する。トランプ政権の間に、保守絶対優位の最高裁を確立することこそが、共和党保守派の悲願である。その意味でも、上院での多数死守は重要であった。
 さらに、日本のメディアはそれほど報じていないが、州知事選挙も重要である。今回は33州で知事選挙が行われた。全米50州の多くは、共和党が優勢の赤い州(赤は共和党の色)と民主党が優位の青い州に分かれる。
 だが、どちらとも言い切れない州が12ある。これらをスウィング・ステート(揺れ動く州)と呼ぶ。中でも大統領選挙人の割り当ての多いのが、フロリダ(割り当て数29人)とペンシルバニア(同20人)、オハイオ(同18人)、ミシガン(16人)である。16年の大統領選挙では、この4州ですべてトランプが勝利した。
 今回の中間選挙では、フロリダでは票の再集計が行われているが共和党が優勢で、オハイオでも共和党が勝利した。だが、ペンシルバニアでもミシガンでも、民主党の現職が再選された。改選前は共和党の州知事が圧倒的に多かったが、今回の選挙によって、州知事の数は、共和党と民主党でほぼ互角になった。
 アメリカでは10年に1度国勢調査が行われ、その結果を受けて選挙区の区割りを変更する。次の国勢調査は2020年に実施され、区割り変更は22年の選挙から適用される。この区割り変更を決めるに当たって、州知事と州議会が大きな役割を果たす。民主党の知事が増えれば、それだけ民主党に有利な区割りが行われる可能性が高まるのである。
 だが、その区割り変更も、20年の大統領選挙には関係しない。トランプが再選される可能性は十分にある。とりわけ、民主党が有力な大統領候補を見い出せるかどうかが、鍵になろう。
 さて、今後内政が混乱すれば、ますますトランプ大統領が一貫性のある外交を遂行できなくなるかもしれない。貿易問題でより強硬な姿勢をとったり、逆に朝鮮半島問題で中身のないままに妥協してしまうかもしれない。
 日本としては、前者では日本の自動車メーカーがアメリカで170万人もの雇用を創出している事実を粘り強く説かなければならない。後者については、日朝間には、核やミサイルという安全保障上の問題以外に、拉致問題が横たわっている。
 トランプ大統領は拉致問題に理解を示しているが、彼の態度は豹変するかもしれない。むしろ、トランプの支持層には、宗教色が濃く、家族の価値や絆を重視する人たちが多い。日本としては、こうしたトランプ支持層にも、拉致問題への理解と関心を深めてもらう働きかけが必要であろう。
 さらに、米中関係である。アメリカの厳しい対中姿勢は、選挙のための一過性の現象ではない。単に雇用や貿易問題だけではなく、両国の間に産業技術力とグローバルな覇権をめぐって深刻な対立があることは、アメリカでは超党派のコンセンサスになっている。
 米中の間にあって、日本はこの対立と無縁ではいられない。日米同盟を維持・強化しながら、日中間で不測の衝突を避ける努力を重ねる二重外交が必要である。また、同盟国としての日本の価値を維持するために、人口が急速に減少する中で生産性の向上を図らねばならない。
 日本にとって、これは今までにないむずかしい課題である。アメリカ政治に対する理解と分析の精度を高めながら、したたかな外交を展開する―中間選挙後の日米関係は課題山積なのである。

 


《かみや・またけ》 1961年京都市生まれ。東大教養学部卒。コロンビア大学大学院(フルブライト奨学生)を経て、92年防衛大学校助手。2004年より現職。この間、ニュージーランド戦略研究所特別招聘研究員等を歴任。専門は国際政治学、安全保障論、日米同盟論。現在、日本国際フォーラム理事・上席研究員、日本国際問題研究所客員研究員、国際安全保障学会理事。主な著作に『新訂第5版安全保障学入門』『新段階の日米同盟のグランド・デザイン』『日本の大戦略』など。

2018年8月1日号 週刊「世界と日本」第2130号 より

 

半島情勢

トランプの楽観を懸念

 

 

防衛大学校教授 神谷 万丈 氏

 

 初の米朝首脳会談からひと月になる。あの会談は、トランプ米大統領が主張するような「大成功」だったのだろうか。私は、そうは思わない。

 

 今回の会談が何も成果を生まなかった、というつもりはない。金正恩という独裁者が、自らが「朝鮮半島の完全な非核化」にコミットすることが明記された「共同宣言」に署名し、『労働新聞』で30枚以上のカラー写真とともに大々的に報じて、人民に知らしめたことは無意味とはいえない。
 ミサイルエンジン実験施設の破壊の約束も悪くはない。北朝鮮は最近、ミサイルの性能向上のためのエンジン開発に励んでいたからだ。会談により米朝間の緊張が緩み、戦争の恐れが当面遠のいたことも間違いなかろう。
 だが、今回の会談には問題点が多過ぎる。会談の焦点は、米国が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」と「直ちに(早期一括)の非核化」を、北がどこまで受け容れるかにあるとされていた。
 ところが、共同声明には“CVID”という語が入らず、「検証可能」と「不可逆的」が消えてしまった。また、北がコミットするのは「北朝鮮の完全な非核化」ではなく、「朝鮮半島の完全な非核化」だということになってしまった。
 米国の求めていた早期一括の非核化も、声明には盛り込まれなかった。会談翌日の朝鮮中央放送は、両首脳が北の望む「段階別・同時行動原則」の遵守が重要だとの認識をともにしたと報じた。それが本当ならば、北にとっての大勝利だ。
 ポンペオ米国務長官はすぐに報道を否定したが、北の外交部は、同長官が非核化交渉を進めるために7月6~7日に訪朝した後の談話でも、米側が「CVIDだ、申告だ、検証だと言って一方的な非核化要求を持ち出した」のは「強盗的」で「遺憾きわまりない」とし、「段階的、同時行動の原則で解ける問題から、一つずつ解決していくこと」を主張してみせた。
 また、共同声明では、非核化に向けた北の具体的行動は何も約束されていない。トランプ大統領は、北が核実験場を破壊したことやミサイルエンジン実験施設の破壊を約束したことを褒めちぎったが、これらは、意味がある動きではあっても、核やミサイルを減らす行動ではない。
 にもかかわらず彼は、会談後の記者会見で、北に見返りを与えるかのように米韓軍事演習の中止を突如言明してしまった。しかも彼は、同演習を「戦争ゲーム」と呼び、「とてつもなく金がかかる」ので「好きではない」し、「非常に挑発的だ」と述べた。
 今後の北の動向次第では、米韓軍事協力がこれまで以上に重要になることさえ考えられるにもかかわらず、米国の大統領が、「戦争ゲーム」とか「挑発的」といった、北が演習を非難するために用いてきた言葉を口にし、あまつさえ「金がかかる」ことを理由に演習を好まないと公言したことには愕然(がくぜん)とさせられた。
 大統領はまた、「完全な非核化までは技術的に長い時間が必要だが、そのプロセスを始めることができれば、非核化の作業はほとんど終わったのも同然だ」と、北の今後の出方について著しく楽観的な見方を示した。その甘さにも驚かされた。
 私は、南北首脳会談や米朝首脳会談が行われる見通しとなった3月以来、日米韓などの対北政策に関して「4つのべからず」を唱えてきた。その概要は本紙6月4日号への寄稿(「北の動きをどう理解すべきか」)で述べた通りである。
 (1)北の変化を過大評価すべからず(2)北の過去の行動を忘れるべからず(3)核・ミサイル問題の「解決」を急ぐべからず(4)抑止と圧力を緩めるべからず、ということだ。この「4つのべからず」から今回の米朝会談を振り返ると、トランプ大統領の言動には懸念される点がいくつも指摘できる。
 まず、(1)について。トランプは、北が昨年1年間だけでも何をしたのかを忘れてしまったようだ。新型中距離弾道弾や米国東海岸にも到達可能とされる大陸間弾道弾(ICBM)を繰り返し発射し、9月の核実験の際には水爆実験の成功を主張。11月末のICBM「火星15」の発射後には、金正恩が「国家核武力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現されたと矜持高く宣布」した。それからまだわずか半年余りなのだ。われわれは、北が本当に変化しつつある可能性があることには注意を払うべきだが、過大評価は禁物だ。
 (2)について、私は、北朝鮮は、「右にカーブを切る際には、あらかじめ左に大きくカーブを切っておき、その後右に戻ることで小さな動きを大きく見せようとする」ごまかし戦術を得意としてきたことを指摘してきた。
 最近の金正恩の「微笑外交」は、このパターン(自ら緊張を高めておき、それを緩めてみせる)で説明がつくし、核実験場やミサイルエンジン試験施設の破壊は、もうこれ以上左には行かないという証ではあっても、右に戻る行動ではない。だが、トランプはそのことに気づいていない。
 (3)、(4)について私は、北の核やミサイルは、自殺覚悟でなければ使えない兵器であり、北は自殺をするような国ではないと考えてよいと論じてきた。われわれは、抑止さえしっかりとしておけば、北の核やミサイルを耐え忍ぶことができるのだという自信と覚悟に基づいて、こちらから北に対話を求め過ぎないようにし、北が核とミサイルの放棄に向けた具体的行動をとるまでは圧力も制裁も緩めないことが肝心だというのが、私の主張だった。
 だが、トランプは対話に前のめりになり過ぎ、その結果、国際社会による北への圧力に、既にほころびが見え始めているのではないか。
 トランプは、金正恩は非核化に「非常に真剣」で、彼とは「大変気が合う」と言う。彼は、北の独裁者がすっかり改心して「いいやつ」に変わったと信じているようだ。そうであれば結構だが、問題は、そうでない可能性が一顧だにされていないようにみえることだ。
 先にみた、最近のポンペオ訪朝後の北の態度は、金正恩の真剣さへの疑念を強めるものだった。米国大統領の過度の楽観がもたらしかねないものを懸念せざるを得ない。
(7月8日記)

 

 

 


2018年7月2日号 週刊「世界と日本」第2128号 より

 

米朝首脳会談

「非核化」通じた米朝接近を評価
金正恩氏 核を捨てても体制存続を模索

 

 

大阪大学大学院 法学研究科教授 坂元 一哉 氏

 

 6月12日、史上初となる米朝首脳会談がシンガポールで開催され、両国の首脳は、朝鮮半島の「完全な非核化」と、米国による北朝鮮の「安全保証」をうたう共同声明にサインした。北朝鮮の核放棄にめどをつけるとともに、東アジア国際政治の構図に、重大な変化をもたらすプロセスを生み出す会談になったと思われる。それも、昨年来心配されていた軍事力行使をともなうプロセスではなく、平和裏に進むことが期待できるプロセスである。

 

 会談については、共同声明に非核化の進め方が具体的に書かれてないとか、「完全な非核化」という文言が、米国や日本がずっと求めてきた「完全かつ検証可能で後戻りできない非核化」という文言から後退している、といった理由から、北朝鮮に逃げ道を与える大失敗だった、との批判もある。
 だが、この会談における米朝の力関係から考えれば、共同声明が北朝鮮を厳しく追い詰めるものになっていないのは、トランプ大統領が実質的に非核化の圧力を弱めたからというより、北朝鮮の若い独裁者、金正恩・朝鮮労働党委員長の面子をつぶさず、彼が非核化の決断を国内向けに説明しやすくするために配慮したから、と理解するのが妥当だろう。
 金委員長はこの会談に臨む前に、核放棄の決断をしていたはずである。トランプ大統領は、従来の米国大統領のように中国頼みではなく、米国主導で北朝鮮に圧力をかけ、本気で非核化を実現しようとしている。
 もし北朝鮮が非核化を拒否し続ければ、大統領は国際社会を巻き込んだ経済制裁をさらに強化してくる。北朝鮮の最大の貿易相手国である中国も、大統領の圧力を受けてその制裁に参加しており、このままでは北朝鮮の生き残りは経済的に難しくなる。
 仮にその間、自分が核開発を進めても、それが米国の安全を脅かすものになれば大統領は、今度は、核・ミサイル施設への限定的な軍事攻撃に踏み切り、それによって北朝鮮の強制的な非核化をはかろうとするだろう。
 もし北朝鮮がそれに反撃し、韓国や日本を攻撃すれば、大統領は国連での演説でも口にしたように、全面的攻撃で北朝鮮そのものを破壊する。
 金委員長はそうなる可能性を恐れ、自分が追い詰められていることを見極め、核を捨てても北朝鮮が生き残れる道を真剣に探しはじめた。これに対して大統領は「完全な非核化」を実行すれば、経済制裁の撤回だけでなく、米国からの「安全保証」が得られ、そのうえ日本や韓国などの経済協力によって経済発展が進むという道を提案し、委員長はそれを受け入れた。それがこの会談における取引(ディール)の骨子だろう。
 むろんわれわれは、北朝鮮がしたたかな外交を展開する国であることを知っている。合意された取引に反して、何とか核を持ち続けようとするのでは、と疑うのは意味のないことではない。
 だが今回の場合、そのしたたかさは、トランプ大統領に約束した「完全な非核化」を、ぐずぐずいって実行しない、といったあまりにも大きな危険をおかすことではなく、むしろ迅速に実行して世界を驚かせ、非核化の代価である「安全保証」や経済発展に関して、なるべく多くのものを得るために発揮される。そう期待すべきだろう。
 共同声明のなかで注意が必要だと思うのは、米国が北朝鮮に「安全保証(security guarantees)」を与える、という文言である。米国が北朝鮮の体制の安全を保証したといわれることが少なくないが、それは誤解をまねく言い方だろう。米国が北朝鮮のような体制はもちろん、そもそも他国の体制の存続を「保証」することなどできるはずがない。
 かといってこの言葉が単に、米国は北朝鮮を武力攻撃しない、安全保障上の脅威にならない、というだけの意味なら、北朝鮮としても安心して非核化することはできないだろう。北朝鮮にとって安全保障上の脅威は、米国に限らないだろうからである。われわれは北朝鮮が、中ロという2つの核大国に国境を接している事実を忘れるべきではない。
 そう考えると、この「安全保証」は、北朝鮮が核を放棄すれば、放棄後の北朝鮮の安全保障全般に米国が関与する、との文言になりうると見るべきだろう。そして、もしそうだとしたら、それは東アジアの国際政治に重大な意味を持つ。
 いま経済的、軍事的に台頭し、東アジアに覇権を求めるかのように行動する中国の隣国、北朝鮮に米国の大きな影響力が及ぶことになるからである。そうなれば中国は、たぶんに形骸化しているとはいえ、同盟関係にある唯一の国を失うことになりかねない。中国の東アジアにおける影響力は低下し、米国とその同盟国は、南シナ海問題も含めて中国の覇権的行動を抑制しやすくなるだろう。
 この会談の評価は、朝鮮半島の非核化だけでなく、その非核化を通じた米朝接近も含めてなされるべきである。
 この会談でトランプ大統領は、安倍晋三首相との約束を守り、拉致問題を議題にとりあげた。そのこともあって、秋までにも日朝の首脳会談が開催される見込みだが、会談の結果は2つの意味で安倍首相の交渉を後押しするだろう。
 まずこの会談で非核化にめどがたったので、日本が交渉のカードとして使う経済援助が、核開発の資金として使われる心配がなくなった。次にこの会談のおかげで、金委員長を次のように説得することも可能になった。
 あなたは非核化して米国からの「安全保証」に頼る、という安全保障政策をとられるようだが、米国は民主主義の国です。その政策が長期的に成功するには、あなたの国がまっとうな国になる努力をしている、と米国人の目に見えることが絶対に必要です。そうでないと、せっかくの非核化の大英断が台無しになってしまいます。
 まっとうな国になる努力はまず、米国の親密な同盟国であり、東アジアにおける米国のプレゼンスを支えている日本との間で、北朝鮮がかかえる、重大な人道問題の解決から始めてください、と。

 

 

 


《しゃちょうてい》
1946年台北市生まれ。国立台湾大学卒業。大学在学中に弁護士試験をトップの成績で合格。司法官試験も合格。74年日本・京都大学法学修士後、同大学博士課程修了。台北市議会議員、立法委員(国会議員)、高雄市長を歴任。民主進歩党主席、行政院長(首相)、07年第12代総統選挙民主進歩党候補者、16年6月より現職。

2018年6月18日号 週刊「世界と日本」第2127号 より

 

台湾を取り巻く国際環境

 

 

台北駐日経済文化代表処代表 謝長廷 氏

 

日本の隣国である台湾を取り巻く国際環境の変化は、日本にとっても他人事ではない。台湾はすでに自由、民主主義、法治、人権といった普遍的価値観を重視する民主国家であり、日本とも価値観を共有している。台湾の人々は、このような民主的な社会の現状を維持したいと願っている。しかし、近年、台湾をめぐる情勢の変化が次々と起こっている。

 

中国の一方的な航空路運用

 今年1月4日、中国は台湾との事前協議なく、一方的に台湾海峡の中間線に極めて近い北上航空路の運用を開始した。台湾と中国当局は2015年に協議を経て同北上航空路を暫時運用しないことに合意していたにもかかわらず、一方的な航路運用開始は、合意に反する上、台湾海峡中間線という緩衝地帯に緊張が高まる恐れがある。
 4月中旬には、蔡英文総統が外遊に出かけたタイミングで、中国空軍の爆撃機が台湾周辺空域を飛行した。さらに、その後も軍機飛行による挑発が続いている。台湾は軍事的緊張の高まりを望んでおらず、両岸間の前提条件なしの対話再開を呼びかけている。
 にもかかわらず、中国は5月にドミニカ共和国と西アフリカのブルキナファソに多額の援助を与え、その引き換えに台湾と断交させた。

 

利益誘導といやがらせ「シャープパワー」とは

 

 前述の有形の威嚇を含む「ハードパワー」、文化などによる「ソフトパワー」に加え、近年は「シャープパワー」というキーワードが注目されている。「シャープパワー」とは、利益誘導といやがらせをセットに相手国に影響力を与えるやり方のことだ。中国は「シャープパワー」を駆使して各国の民間企業にも影響を与えようとしている。
 一例を挙げると、最近では航空会社などの国際企業が、地図や国別欄などで「台湾」を国扱いしていたとして中国側から訂正を求められる事件があった。これらの企業の一部は、中国での事業を継続するために当局の意向に従って「訂正」に応じ、謝罪した。シャープパワーで脅かされた企業の多くは、事実を曲げてでも中国当局を怒らせないよう気を使うようになる。
 米国国務省がこの件に関して声明を発表し、「中国共産党の政治的立場の強制」を、「全体主義のばかげた措置だ」と一蹴し、強く抗議した。

 

優遇の衣をまとった31項目対台湾措置

 一方で、中国はこのほど台湾に対する31項目の措置を発表した。これらは台湾企業の投資、土地・税率、銀行の営業、教育研究、文化映像産業、公益・医療などに関するもので、中国側から言わせれば「優遇措置」であるが、実際には実利で台湾の資金、人材、技術を吸収し、台湾内部を分断し、中国の影響力を高めることが目的といえる。
 台湾は、この31項目の措置に対応するために、学術研究環境の改善、起業の後押し、従業員の報酬アップ、医療従事者の就労環境改善、業務上の秘密保持強化、産業高度化、株式市場の活性化、映像産業の発展強化など8つの具体策を講じ、台湾自身の実力を強化していく。
 両岸の交流と協力は、対等かつ互恵の原則に基づくべきであり、中国は台湾から進出する企業および個人に対して、投資の権益、生命・財産の安全、人身の自由を保障すべきである。

 

CPTPPと台湾旅行法

 

 最近、米国と中国の貿易摩擦の懸念が国際社会で高まっている。台湾も日本も、米中双方と経済関係が密接であり、米中対立の影響から逃れられないが、台日が互いに協力し合うことで、影響を少しでも抑えることは可能だ。
 とりわけ、日本主導で3月8日にチリで調印されたCPTPP(包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ協定)は、米中以外の環太平洋諸国との多国間経済連携であり、米中対立の衝撃を和らげる役割を果たすことが期待され、台湾も参加を望んでいる。
 台日経済関係は、サプライチェーンの補完関係が確立されており、台湾のCPTPP参加または日本との経済連携強化は、日本にも必ずメリットをもたらすと確信している。
 また、台米間の政府高官を含む相互訪問交流を奨励する米国の法律「台湾旅行法」が、3月16日にトランプ大統領が署名して成立した。これは台米関係の大きな進展である。同法成立後に訪台したアレックス・ウォン国務次官補代理は、「米国の台湾への支持は変わらず、台湾の人々との関係を強化し、台湾が民主主義制度を守れるように支えたい」と強調した。
 蔡英文総統が「自由と民主主義は台湾の生存の道であり、平等と互恵こそが両岸の健全な発展のカギである」と強調しているように、台湾は中国大陸とは法律や社会制度が異なる。
 「国境なき記者団」が発表した2018年度の世界報道自由度ランキングによると、180カ国の中で台湾はアジアで最も高い42位だったのに対し、中国はワースト5の176位だった。「自由と民主主義」は、台湾が極めて重視する核心的価値観である。

 

WHO参加は世界の「共生」のため

 

 両岸社会に違いがあるとはいえ、敵対する必要はない。互いに尊重し、平和的に「共生」する関係であるべきだ。しかし、中国はWHO(世界保健機関)の年次総会への台湾の参加にも反対し、WHOおよび加盟各国に対し台湾の参加を支持しないよう圧力をかけた。
 健康に国境はなく、台湾は「すべての人の健康」を目的とするWHO関連活動に参加する権利があり、台湾の民選政府だけが台湾2300万人を代表する資格を有する。台湾との「共生」を拒み、排除しようとする中国の威圧的なやり方は、台湾の人々および国際社会の共感は得られない。
 台湾のWHO参加に関し、日本政府をはじめ各界の支持に深く感謝の意を表したい。
 台湾は先進的な医療技術を有しており、世界各国に派遣された医療チームが現地に貢献している。台湾がWHOに支障なく参加できれば、国際社会との連携は一層スムーズになり、より多くの貢献ができる。
 台湾と日本は、自然災害等が発生した際にお互いに助け合う「共生」の関係がすでに形成されている。それは形式や政治を超越した「善の循環」により、温かい関心を寄せ合う「運命共同体」の意識まで高められたもので、世界平和の模範といえる。今後は、政府間でも両国の発展と世界平和のために、できる限り高いレベルまで堂々と交流できるようになることを願っている。

 


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