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刻々と変化する国際情勢を各国の政治・経済など様々な視点から考察する。

《かせ・ひであき》 

1936年、東京生まれ。慶応、エール、コロンビアの各大学で学ぶ。『ブリタニカ国際大百科事典』初代編集長、日本ペンクラブ理事、松下政経塾相談役などを歴任。著書は『グローバリズムを越えて自立する日本』『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』ほか多数。

2022年1月17日号 週刊「世界と日本」第2213号 より

 

外交交渉秘話

 

歴史の近視的視野は大きな災禍を招く

 

外交評論家  加瀬 英明 氏

 

国家観は歴史を学び

 先を見る能力の獲得

 

 私が『日本週報』という雑誌に連載して、稿料を稼ぎはじめたのが、高校3年生の17歳の時だった。

 26歳で月刊『文藝春秋』に評論家という肩書をもらって、書くようになった。

 

 私は田中角栄内閣が昭和47(1972)年に日中国交正常化を強行した時に、中国は秦(紀元前221年〜206年)の始皇帝の時代から悪しき帝国であり、毛沢東王朝もその延長だから、米国が中国を承認してから後を追うべきだと反対した。

 田中首相が北京を訪れて、毛沢東主席に拝跪するようにして会見したのが、日中関係を今日まで歪めてきた。

 角さんは外交について無知蒙昧だったが、それでも私の会に来てくれた。魅力ある人だった。

 私が28歳の時に日韓国交正常化の前年に訪韓して、田中氏の県紙『新潟日報』に韓国について10回連載したことから、目をかけてくれた。

 日中国交回復が行われた時の中国は中ソ戦争に怯えて、日本を必要として日本に縋(すが)りつこうとしていた。

 私は米国きっての戦略家として名高いエドワード・ルトワック氏を同志として、昵懇にしてきた。

 私がルトワック氏と親交を結ぶようになったはるか前から私を知っていたというので、驚いたことがあった。

 若き国防省員としてはじめて訪日した時に、マンスフィールド大使(在任1977〜88年)から、「金丸信と加瀬英明に会ってはならない」と戒められたという。2人が台湾ロビーということだった。

 大使はしばしば私の会合に出席して、愛嬌を振りまいたが、中国についてまったく浅薄な知識しかなかったために、中国にすっかり魅せられていた。

 米国はクリッパー帆船の時代から、中国を貿易とキリスト教化がはかれる、“巨大市場”として見果てぬ夢をみていた。

 金丸氏は台湾の蔣介石政権の支援者だったが、私は台湾の独立派を応援していた。

 大使は炭鉱夫から身を立てて、上院議員として高い評価をえていたが、多くの米国人と同じように、中国が市場を開放して豊かになれば、民主化すると無邪気に信じていた。

 私は戦略家といわれるヘンリー・キッシンジャー氏や、マイケル・ピルスベリー氏などと接触をもったが、長期的な戦略観を欠いていたから、とうてい戦略家と呼べない。(もっとも、ピルスベリー氏は中国観が誤まっていたことを認めて転向した。)2人とも中国の歴史について、驚くほど無知だった。

 せいぜい20〜30年先きだけ見て、先見性がなく、当面を凌ぐために対処するのは、戦術であって戦略に価しない。

 私がフォード大統領と親しかったので、国務長官だったキッシンジャー氏と食卓を越して、あるいはパネリストとして同席して意見を交わしていた。

 キッシンジャー氏は、ニクソン大統領の国務長官として極秘裏に北京入りして、1972年のニクソン訪中を演出して、世界を驚倒させた。米ソ冷戦が絶頂に達していたので、中国と結ぶことによって、ソ連を抑えようとした。

 今日の中国という怪物は、日米が育てたものだ。

 今日、中国の脅威に戦(おのの)いているが、自業自得だ。

 ヒトラーが1939年にポーランドに侵攻すると、英仏にポーランドを救う能力がなかったのに、英国はポーランドを救うために、ドイツに宣戦布告した。ポーランドが独立を回復したのは、その50年も後に“ベルリンの壁”が倒壊して、ソ連が崩壊したことによった。

 そのために第2次大戦が勃発した。チャーチルは20世紀の愚昧な指導者として記憶されるべきだ。戦略眼がなかったために、大戦によって大英帝国を失った。まったく無益な世界戦争だった。

 人類にとって戦争ほど、恐ろしい災禍はない。

 人間は最強の肉食獣として、地上の食物連鎖の頂点に立っているだけではなく、途方もない浪費癖にとりつかれているために、戦闘と略奪を生業としてきたが、同じ人間を天敵としている唯一つの生物だ。

 歴史に「もし」を設けてはならないというが、もし第2次大戦が起らなかったとすれば、20世紀の2人の巨悪だったヒトラーとスターリンが戦って、ナチス・ドイツとソ連が滅し合うのを、傍観できたはずだ。

 ルーズベルト大統領は英国を救うために、日本を罠にかけて戦争を強いたが、大戦が起らなかったとすれば、日本がアジアの安定勢力として役割を果して、中国大陸が共産化することも、朝鮮戦争も起らず、台湾島民が蔣政権のもとで塗炭の苦痛を味わうこともなかった。

 歴史は近視的な視野しか持たなかったために、大きな災禍を招いた例にこと欠かない。

 ルーズベルト政権が対日戦争を企んでいたあいだ、昭和6(1931)年の満州事変から、日本が追い詰められて昭和16(1941)年に真珠湾を攻撃するまでの10年間に、日本では11人も首相が交替した。平均して1人1年も在職していない。

 これでは時間を超えた和によって自縛されて、先を見ることも、国家戦略もあったものではなかった。

 日本はいまでも変わっていないが、人事があっても政治がないことを心しなければならない。

 国家観は歴史をよく学び、先を見る能力を獲得することによって、確立することができる。

 


《おはら ぼんじ》

1985年防衛大学校卒。98年筑波大学大学院(地域研究)修了(修士)。2003〜06年、駐中国防衛駐在官。09年第21航空隊司令。11年IHS  Jane,s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャー。13年東京財団を経て、17年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』、『軍事大国・中国の正体』、『何が戦争を止めるのか』、『曲がり角に立つ中国』(共著)等多数。

2022年1月17日号 週刊「世界と日本」第2213号 より

 

2022年

日米中はこれからどうなる?

 

(公財)笹川平和財団 上席研究員 小原 凡司 氏

 

 2022年も米中両国は鍔(つば)迫り合いを繰り広げるだろう。軍事を含む複数の領域における米中間の緊張の高まりはすでに大きな流れになっており、簡単に変えることはできないからだ。大国間ゲームの主要なプレイヤーになれない日本は、その中で難しい選択を迫られてきた。

 

 2021年12月9日から2日間、バイデン大統領の呼びかけによって民主主義サミットが開催され、およそ110の国や地域の首脳などがオンラインで参加した。しかし、米国の同盟国のタイや米国がパートナーと呼ぶシンガポール、さらにEUのメンバーであるハンガリーなどは招待されなかった。これら招待されなかった国々は、バイデン大統領によって引かれた民主主義と非民主主義を区分する線によって、明確に米国の仲間から外されたのだ。

 米国から「味方ではない」とされた国々は中国との距離を縮める可能性もある。民主主義サミットは、民主主義の世界的衰退に危機感を有するバイデン大統領が民主主義の刷新と強化を謳って開催したもので、その意図は広く理解されている。しかし、米国は民主主義サミットの参加国を指定することによって、味方を増やすよりも、新たな敵を作ったかもしれない。

 一方の中国は、この機会を捉えて味方を増やすことよりも、米国に対抗することに熱心であるように見える。12月4日に『中国的民主(中国の民主)』白書を発表した翌日、中国外交部が『美国民主情況(米国の民主の情況)』を発表して米国の民主主義を酷評した。さらに、同月9日には国営新華社が『真相!新華社の挿絵が米国の民主主義サミットの本質を暴く』という記事で、映画『ハリー・ポッター』のシーンを模倣した風刺画を多数掲載して米国の民主主義をあざけった。同日、中国中央電視台(CCTV)の国際ニュース放送チャンネルであるCGTNが「米国の民主主義・リアリティ・チェック」を放映し、米国内の暴動や人種差別に関する米国テレビ局のニュース報道を都合よく切り取った映像を利用して米国の民主主義を貶めようとした。

 政治体制の優位をめぐって競争する米国と中国は、軍事的にも緊張を高めている。中国は、建国以来、米ソの軍事力行使を恐れ、軍備増強を続けてきた。建国当初は経済力が十分でなかったため、中国は核兵器の開発に国内資源を投入した。それでも、核弾頭数や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射機数において劣勢であると考える中国は対米核抑止が破綻するのを恐れ、経済発展に伴って、戦略核による抑止が破綻しても米国の対中軍事力行使を抑止できるようA2/AD(Anti-Access, Area-Denial・接近阻止・領域拒否)能力を構築してきた。

 現在の中国は、戦略核のレベルで米国と対等になりつつあるとの自信を持ち始めた。中国は内モンゴル自治区や甘粛省などに300基とも言われるICBMサイロを建設しており、民間の衛星でもその姿を確認できる。位置を暴露しているということは、攻撃される前にICBMを発射するという意味だ。敵のミサイル発射の兆候を検知した段階で自らのICBMを発射するLOW(Launch on Warning)という、米国やロシアと同様の戦略である。これまで中国は、ICBM等を山中に格納したり、TEL(Transporter, Erector, Launcher)に搭載して機動したりして、敵の核攻撃の第一撃を生き延びて報復攻撃を行うという戦略をとっていたが、本来の願望どおり米国と対等の核戦略を取り始めたのだ。

 中国の軍備増強に危機感を募らせる米国は、同盟国との軍事協力を進め、中国の武力行使を抑止しようとしている。米インド太平洋軍が進めるPDI(Pacific Deterrence Initiative・太平洋抑止イニシアティブ)は日本等の同盟国と協力して中国のA2/ADを一時的に無力化し、米国の対中軍事力行使を保証して、中国の武力行使を抑止しようとするものである。また、オーストラリアの攻撃型原潜取得プロジェクトを含む、オーストラリア、英国、米国の軍事協力枠組みであるAUKUSの設立も発表された。

 中国メディアはAUKUSを「軍拡のパンドラの箱を開けた」と批判したが、一方で、カナダとニュージーランドは反中姿勢が強くないのでAUKUSに加わらなかったと報じた。しかし、10月上旬、フィリピン東方海域において、日本、米国、英国、ニュージーランド、カナダ、オランダが参加した6カ国海軍合同演習が実施され、その後、米国とカナダの戦闘艦艇が台湾海峡を通過した。米国は、AUKUSは一つの段階に過ぎないという政治的メッセージを中国に送ったのだ。

 米国が軍事協力の枠組みを拡大すれば、中国はロシアとの軍事協力を強化する。10月18日から23日にかけて、中国海軍とロシア海軍のそれぞれ5隻、計10隻の艦艇が津軽海峡を抜けて日本を周回するように航行した。中国はこれを「戦略合同巡航」と呼称した。米国の別の軍事協力枠組みである日米同盟の深化を牽制したと考えられる。米中対立は、それぞれの同盟国や友好国を巻き込んで拡大しているのだ。

 2021年は、米国と中国が、新冷戦を否定する発言を繰り返す一方で、実質的には部分的デカップリングを助長するような行動をとってきたとも言える。経済的デカップリングも進む可能性がある。11月17日発表された米中経済安全保障調査委員会の議会年次報告書は、「政治的な摩擦が続き、差別的な扱いを受ける懸念があるにもかかわらず、多くの米国企業は中国市場にこだわり続けている」と懸念を示した。こうした認識は米国の対中経済政策に影響を及ぼすと考えられるからだ。

 米中両国は戦争をしたい訳ではない。11月16日に行われた米中首脳オンライン会談においてバイデン大統領は、競争が紛争に発展しないためのガードレールが必要だと述べている。中国は、ますます日中関係を米中関係の従属変数として捉える傾向を強めている。米中対立あるいは競争が国際社会の主要な問題となる中で、日本はいかにその主体性を維持できるかが大きな課題になる。

 


《たにぐち ともひこ》

1957年生まれ。1981年東京大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。安倍晋三第2期政権を通じ、初め内閣審議官、現任先に就いた2014年4月以降は同総理退任まで内閣官房参与。2005〜08年外務省外務副報道官。それ以前は主に雑誌日経ビジネス誌で記者、ロンドン特派員など。主な著書に「通貨燃ゆ」(日経ビジネス人文庫)、「日本人のための現代史講義」(草思社文庫)、「誰も書かなかった安倍晋三」(飛鳥新社)など多数。

2022年1月4日号 週刊「世界と日本」第2212号 より

 

2022年の日本の外交戦略を考える

 

慶應義塾大学大学院教授
前内閣官房参与 谷口 智彦 氏

 令和4(2022)年の外交課題は中国に始まり、中国に終始するだろう。旧年中すでに、日本政府は北京冬季五輪への関わり方に苦慮した。新年は「台湾有事は、すなわち日本有事」(安倍晋三元首相)だという現実に直面することとなるのか。

 

 9月29日は、田中角栄が周恩来と北京で「日中共同声明」を出し、国交回復がなって50年の節目に当たる。これをどう迎えるか。祝賀ムードを内外に宣伝するのか否か。

 北京の目的を読むことは容易だ。習近平主席を国賓として日本に迎えさせる一事。天皇陛下との談笑光景や、同陛下主催晩餐会で杯をあげる様子を世界中に流すことである。

 日米同盟にくさびを打ち込んでその力を削ぎ、日本の立場を民主主義陣営において弱めることができるなら、それこそは中国の長期的国益にかなう。国賓としての訪日を、日本は許すのか。この1点に、新年の外交は鼎(かなえ)の軽重を問われる。

 こういう場合の外交当局には、別段日本に限らないが強い組織の慣性が働いて、祝おうとする動因が生じる。時運に居合わせた外交官、とりわけ政治的野心に富む外務大臣には、何事か能動的に仕掛けたくなる気持ちが内心に強く湧く。「千載一遇なのだから」というわけで、功名心と使命感とがないまぜとなった、じっとしていられなくする何かだ。

 「桜の咲く頃」の習訪日を、日本は可能性として1度受け入れた。そして外交における日本の信条は常に約束を守ることだ、云々と言い出すと、断れない口実に不足はない。

 そこをどれだけこらえられるか。

 コロナウイルスの新型を生み野放しにして、人類的災厄を生じさせておきながら、そのことを誰にも口にさせない。民族浄化というべき対応をウイグル族、チベット族にして改めない。1国2制度の約束を自ら反故にし、香港の民主主義を扼殺する。そして台湾武力奪取に備えを進め、日本に、インドに、領土的挑発をやめない。それこそが、いまや世界中が知ることとなった中国である。

 習訪日を想定した時期は、もはや一時代前のことだ。あの時はあの時、今は今と恬(てん)としていられるくらい心臓に毛が生えていればいいが、日本の外交当局者、最終的に岸田文雄総理の場合、果たしてどうか。

 自ら信ずるところを明瞭に発信してこそ、道が開け、友邦との関係が固まる。潜在的な敵国も、むしろ一目置くようになる。それが、外交における黄金律だ。黙っている者は、仲間に猜疑の目で見られる。弱さを見て取る敵方に、一層挑発される。

 「聞く力」は「情報収集力」であって、外交にはもちろん必要である。がそれですら、弁じるべきを言い淀む者には備わらない。立場が曖昧な相手に機密を耳打ちする者がいたとしたら胸に一物あってのこと。発信を欠くと、受信もできない。

 日本は、明治以来の近代史上最も長く続いた安倍晋三政権の期間を通じ、右の定理を証明してみせた。

 「自由、民主主義、人権の尊重と、法の支配」。いつもこの四点を旗印にして高く掲げた外交は、長年の同盟相手米国はもとより、豪州とインドを強く引きつけた。EU(欧州連合)とは、最も進んだ経済連携協定だけでなく、それを支える文書として「日欧戦略的パートナーシップ協定」の締結に至った。理念における結合を高らかに謳った政治文書として、日本外交史に稀な達成だ。

 この間中国は一切反発を見せず、安倍総理が憲法改正に強い意欲を示そうが、護衛艦の一部を事実上の空母に改める計画を打ち出そうが、一貫して沈黙を続けた。付け込むべき弱さを日本に見出さなかったからだ。ここに、汲むべき教訓がある。

 日中関係の安定は、なるほど大切だ。しかし自分の力を不断に強める努力を抜きに、平衡は達成できない。思えば当たり前であって、北京は何事であれ前年比7に近い比率で伸ばし、経済力、軍事力とも10年ごとに倍加させる勢いなのだから、当方によほどの構えがない限り、平衡など望むも愚かなのである。

 といって日本一国では到底間に合わない以上、仲間と組むしかない。仲間を求め、絆を作りたいならば、自分の旗を鮮明にする以外ない。

 それが、安倍政権の選んだロジックであり、現に選択した道だった。

 いま「安倍政権の」と述べたけれども、長い在任期間を通じて政治的資本をしばしば傷つけながら、安倍総理は日本にとって当然であり、それ以外ないという意味で無二でもある進路に、なんとかかとか、日本を置いたという意味においてである。総理が入れ替わり、政権の名前が変わったらご破算になる、してよい類の方針では、もとよりない。

 外交における発想の基軸はここにある。立ち返るべき原点だ。もしも日本が企業だったとしたら、これこそは苦心して築いた暖簾、積み上げた信用、厚くした自己資本である。令和4年、やってはならない外交とは、これを脱色させ、揺るがせ、あるいは希釈化させることだ。

 いままで述べてきたことは、企業の経営者にとって他人事ではない。

 中国に進出した日本企業では、共産党組織による統制が進む。情報の保全は難しくなり、持ち出しは御法度となった。新手のスローガン「共同富裕」とはつまり民間企業に負担を求めることなのだとしたら、待ち構えるのは苛斂(かれん)誅求(ちゅうきゅう)であり得る。

 台湾を取られると、日本は戦略空間を大きく狭められ、企業経営の自由度も狭隘化(きょうあいか)する。中国共産党のフロント企業が日本企業の株式を買い集めた時、仮に経済安保を重視した対抗法制がその時までに備わっていたとしても、抵抗できるのか。

 軍民両用技術を中国に渡し続けていると、それはすべて台湾を取り、日本の島々を取る目的に生きるのだから、自ら首を絞めることとなる。そのときには、これまで米国で築いた地歩とて、無傷ではいられない。

 短い算盤ばかり弾いていると、亡国の所業となる。日本企業にとっても、いいとこ取りができた時代は過去のものとなった。


《さいとう つとむ》

1972年東京外大卒 産経新聞社入社 モスクワ支局長(2回)ワシントン支局長、外信部長 東京編集局長 取締役副社長・大阪代表 現在は論説顧問 一連のソ連・東欧報道で89年度「ボーン・上田記念国際記者賞」 「ソ連、共産党独裁を放棄へ」のスクープで90年度「新聞協会賞」 著書に、スターリン秘録(産経新聞社)、日露外交(角川書店)など。

2021年12月13日号 週刊「世界と日本」第2211号 より

 

「ソ連崩壊30年に思う?」

 謀反の首謀者の野望が実現!?

 

産経新聞論説顧問 齋藤 勉 氏

 ソ連崩壊から30年たったロシアに君臨するプーチン大統領。その独裁統治はすでに21年に及び、ソ連に本家帰りしたかのような強権ぶりだ。節目の今年、「国家の中の国家」と恐れられたKGB(国家保安委員会)のスパイ出身らしいDNAが今なお脈打つような恐怖政治、国家ぐるみの犯罪、言論弾圧ーの実態を炙り出す象徴的な出来事が三つ起きた。

 

 【その1】

 3月、米ABCニュースで司会者がバイデン米大統領に「プーチン氏は殺人者(キラー)だと思うか?」と問うた。バイデン氏は「そう思う」と明確に答えた。

 

 プーチン体制下では反政権派の政治家や元スパイ、ジャーナリスト等の暗殺が相次ぎ、犠牲者は約20人にものぼる。特にチェチェン民族弾圧報道で著名だった女性記者、ポリトコフスカヤさんが2006年のプーチン氏の誕生日の10月7日に射殺された事件は国民の怒りを買った。毒殺されかけた野党指導者ナワリヌイ氏の不当な投獄も続いている。

 

 【その2】

 夏の東京五輪とパラリンピックで、ロシアは全部で56個もの金メダルを取ったが、表彰式で掲揚されたのはロシア国旗ではなくロシア・オリンピック委員会旗。演奏されたのもロシア国歌ではなく、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番だった。

 

 ロシアのスポーツ界の国家ぐるみの積年のドーピングに対する制裁として、世界反ドーピング機関(WADA)は2022年12月までの4年間、ロシアの公式選手団としての国際的な主要大会への出場を禁じている。ロシア国歌は「ソ連崩壊は20世紀の地政学的大惨事」と嘆き節を何度も口にしているプーチン氏が、大統領就任後すぐにメロディーだけソ連国歌のものに変えたいわくつきだ。

 大統領の指令でクリミア半島占領、ジョージア侵攻など別の国家犯罪も起きている。

 

 【その3】

 10月、独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ(新しい新聞)」のムラトフ編集長(59)がノーベル平和賞を受賞した。

 

 同紙はポリトコフスカヤ記者がかつて所属し、大半の反体制組織や記者らが「外国の代理人=スパイ」として言論活動が封殺されている中でほぼ唯一、プーチン政権と真っ向から闘っている。ソ連・ロシアの平和賞は反体制運動の精神的支柱だった物理学者のサハロフ博士、ペレストロイカ(再編)とグラスノスチ(情報公開)を断行したゴルバチョフ氏に次いで3人目。1993年の同紙創刊ではゴルバチョフ氏が自分の平和賞の賞金の一部を拠出して後押しした。ムラトフ氏の受賞はプーチン氏への警告と受け取れる。

 

あのクーデターを粉砕した民衆の熱狂は一体、何だったのか

 

 1991年8月19日、ソ連共産党守旧派(左翼強硬派)がゴルバチョフ・ソ連大統領兼党書記長をクリミア半島の別荘に軟禁、全権奪取を企てた、あのク—デタ—である。

 ゴルバチョフ氏に代わって実権を握ったエリツィン・ロシア大統領が戦車上で「反クーデター」の旗を振り、これに呼応した民衆の迸るような抵抗で謀反は「3日天下」に終わった。最後の夜、国民の怨嗟の的だったKGB前広場に立つ秘密警察の創始者、ジェルジンスキー像が歓喜と怒号の中で撤去された。

 集まった数万の民衆の中には独裁者スターリンの大粛清の犠牲者の親族、アフガニスタン共産化のため無謀な軍事侵攻に駆り出された若者らもいた。

 その現場に8時間も立ち続けた私は心底からソ連帝国の崩壊を確信し、2日後、ソ連共産党は解体された。

 首謀者はクリュチコフKGB議長、ヤゾフ国防相ら国家中枢の8人組だった。ゴルバチョフ氏は8月20日、中央集権を大幅に弱めた新連邦条約を締結する予定で、新連邦下では自分たちの数々の特権と高いポストが失われると危機感に駆られた末の国家犯罪だった。

 世界を震撼させたこの国家転覆未遂劇を「第1のクーデター」と呼ぶなら、4か月後の12月8日、今度はエリツィン氏とウクライナ、ベラルーシを含む改革派のスラブ三首脳がベラルーシ・ベロベーシの森で「ソ連消滅」を電撃決定し、発表したのが「第2のクーデター」である。

 その夜、ベラルーシの首都ミンスクにいた私は外務省が配った発表文をひったくり、タクシーの電気の薄明りで読んだ冒頭の文章にぶったまげた。

 「ソ連邦は国際法の主体として、地政学上の現実として、その存在を停止する」

 「ソ連崩壊」を明言した初めてのソ連公式文書だった。ホテルに戻るや、東京の外信部と電話を繋ぎっぱなしにして原稿を送った。ソ連に代わる「独立国家共同体」なる緩やかな新連邦国家が生まれた。第1クーデターとは逆に、静かに小雪の舞う中で大ニュースが世界に発信された。

 ロシア革命74年、ソ連邦成立から69年。歴史的な瞬間だった。

 ゴルバチョフ氏の「新思考外交」による民主化の怒涛は89年、東欧諸国の共産政権を次々となぎ倒してベルリンの壁をも崩壊させ、ブーメランとなってクレムリンを直撃したのだった。国内では国民生活と人権を犠牲にした途方もない軍事費が国家財政を破綻させた。全国で燃え広がった民族運動は国家の屋台骨を揺さぶった。

 第1、第2のクーデターの後、私は感情の高ぶりの中で「ロシアもこれで史上初めて本当に民主化されるのかもしれない」と夢想していた。「民主政権なら北方領土も返してくるかも」とも。

 

すべては甘かったあれから30年  

 

 世界は今、まさに第1クーデターの守旧派首謀者たちが企てた悪辣な野望がプーチン政権で実現しているのを目撃しているのではないか。しかも、隣の中国では習近平政権が人類史上最凶・最大の共産党独裁国家を構築しつつある。中露ともIT(情報・技術)の粋を極めた近代的スターリン型体制といえる。

 91年12月25日、ソ連最後の夜。クレムリンに翻った白青赤の新生ロシア国旗は、今またソ連の赤旗に取って代わられたような錯覚に私はとらわれている。

 

 


《みのはら としひろ》

1971年生まれ。神戸大学大学院法学研究科教授。専門は、日米関係・国際政治・安全保障。カリフォルニア大学デイヴィス校を卒業後、98年に神戸大学大学院法学研究科より博士号(政治学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、神戸大学法学部助教授を経て、2007年より現職。19年よりインド太平洋問題研究所(RIIPA)理事長に就任。

2021年11月15日号 週刊「世界と日本」第2209号 より

 

ポストコロナ時代の国際情勢と日本外交

 

神戸大学大学院法学研究科教授
インド太平洋問題研究所(RIIPA)理事長 簑原 俊洋 氏

 国内の新型コロナウィルスの感染状況が改善し、緊急事態も解除されると、再び国際情勢に関心を向ける余裕が生まれる。だが、徐々に平常化へと向かう国内情勢とは裏腹に、ポストコロナ時代の国際情勢はより波乱に満ちたものとなろう。当然、日本もこれらの厳しい時代への備えを怠れば、この度のコロナ禍のように後手の対応を余儀なくされるのは必至だ。では、なぜ今後の国際情勢は混沌とするのか。その主要因は、米中にあるため、両大国を考察すれば、今後の国際政治の展開はより明確に浮かび上がってくる。

 

 まず、日本の唯一無二の同盟国であるアメリカの国内情勢から見よう。現在のアメリカは、20世紀以降で最も深刻な政治的分断の局面を迎えている。アメリカは、やがて国家を引き裂かんとする数多の要素を抱えて建国されたが、政治的な対話と妥協を通じて異なる国家像を何とか調整して1つのアメリカは維持されてきた。こうした努力が破綻した顕著な例が南北戦争だが、国家再統合を無事に果たしてからは、アメリカは危機的な分裂を回避してきた。あのベトナム戦争でさえも、当時を知っているアメリカ人に耳を傾ければ、世代による分断は確かに存在したものの、政治的分断はなかったことが分かる。

 それを思えば、現在の政治をめぐる亀裂は深刻だ。共和党‐否、もはやトランプ党と呼ぶべきか‐は、民主主義をないがしろにしてまで、民主党との一切の譲歩を排し、同党が打ち出す政策の妨害に躍起となっている。そのため、1月6日の議会乱入事件への真相解明への調査はおろか、バイデン大統領が推し進める数々の政策についてもアメリカの国益を念頭に置いた是々非々の議論ではなく、ゼロサム的な態度を露わにして徹底抗戦を決め込む。

 とはいえ、今のアメリカを決定的に分裂させる大きな危険性を孕(はら)むのは、何と言っても人工中絶問題であろう。現在、テキサス及びミシシッピの両州でほとんど全ての人工中絶を禁止する厳しい法律が成立したが、その違法性が近く最高裁で審議される。

 だが、これまでは超党派であることを意識していた最高裁は、現在はイデオロギー性と党派性を露骨にしている。保守が多数を占める最高裁判事たちが、女性の中絶権利を保障した1973年のRoev.Wade最高裁判決を覆すような事態となれば、19世紀の奴隷問題に負けずとも劣らないぐらいの大きな激震が米国内に走るであろう。

 さらに、共和党が議会を牛耳る州政府では、選挙での投票をより困難とする法律が次々に成立している上に、同党にとって著しく有利となる形での選挙区割りも強引に行われている。これによって、連邦下院選における一般投票数と実際の獲得議席数の乖離が顕著となり、公正さを欠く制度によって共和党は政治力の維持に努める。こうした民主主義の劣化に危機感を抱くアメリカ人と超保守勢力との間の思想的・精神的分裂は決定的なものとなり、その過程でアメリカの国力が喪失される状況は容易に想像できるだろう。歴史を振り返れば、かつての帝国や覇権国は国内の諸問題を契機に対外的な影響力を失い、衰退の一途を辿ることになった。

 だが、アメリカは一度手にしたトップの座を譲り渡さないという国家的DNAをも有する。それゆえ、余裕を失えば失うほど、同国は躍起となって中国との全面対峙を決め込もう。

 ならばもう一方の中国はどうか。習近平体制の下で強烈な思想教育が徹底され、アメリカとは異なり、目指す国家像に一切揺らぎはない。その掲げる目標は軍事大国・経済強国としての中国の台頭であり、原動力は「100年の国辱」と称される過去のルサンチマンを乗り越えることだ。中国は共産党による一党独裁体制を建前上堅持するが、実態は習近平による独裁体制であり、党は習支配を正当化するための道具に過ぎない。独裁者が率いる中国の目標は、リベラルな価値観が支配する世界秩序への挑戦であるため、現状変更は不可避となる。

 とはいえ、強力な独裁者と雖も習近平は人間であり、寿命がある。つまり、現状変更を成し遂げる上で時間は彼の味方ではなく、68歳という年齢に鑑み、今後10年前後で「富強中国の夢」の達成を見届ける必要がある。

 くわえて、習近平は中国共産党の父、毛沢東を超えたいという大きな野心も抱く。その毛沢東が果たせなかったのが台湾統一だ。ならば共産党中国が生んだ最も偉大なリーダーという称号を得るために、南沙諸島と香港に続き、台湾を支配しなければならない。彼に行動を促すもう一つの要因は、中国経済の停滞である。不動産バブルの崩壊によってこの状況が悪化すれば、国民の不満を逸らすために、プーチンのクリミア侵攻に倣って台湾の武力統一に踏み切ってもなんら不思議ではない。ましてやアフガニスタン戦争でのアメリカの無様な敗走を見せられたのだから、分裂気味の同国は弱く、台湾防衛の意志を有さないと判断しかねない。いずれにせよ、米中二大国間の衝突は誤算によって生じる可能性は十分にあり、米中の軍事力差が縮む今後10年の間に最も危険な水域に突入するであろう。

 ならば、日本はどのような行動を求められるのか。現在の日本は、伝統的な安全保障をアメリカに依存する一方で、経済的な安全保障を中国に頼る現況を踏まえ、米中間に身を置こうとする受動的な姿勢が目立つ。

 しかし、米中関係が徐々に冷却化し、緊迫度が増していく中で、こうした中途半端な政策は堅持できるものではなく、国益も担保できない。加えて、日本はアメリカの同盟国である事実を踏まえると、将来を見据えて、米中間の亀裂に備えてリアリズムを礎とした政策を周到に用意する必要があるのは至極当然だ。

 このためには、未だに蔓延するミドルパワー的な意識を拭い去り、価値を共有する周辺国への「セキュリティ・プロバイダー」として、時代に適合する新たな安保アイデンティの構築が焦眉の急となる。

 日本はパクス・アメリカーナの揺らぐ現実を直視し、「責任ある大国」としての意識を覚醒させることこそが、覇権挑戦期を無事に乗り切るための唯一の選択ではなかろうか。

 

 

 


《にわ・ふみお》

1979年、石川県生まれ。東海大学大学院政治学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(安全保障)。2020年から現職。拓殖大学海外事情研究所附属台湾研究センター長、大学院地方政治行政研究科教授。岐阜女子大学特別客員教授も務める。著書に『「日中問題」という「国内問題」—戦後日本外交と中国・台湾』(一藝社)等多数。

2021年11月1日号 週刊「世界と日本」第2208号 より

 

「中華民国」と台湾に対する誤解

 

拓殖大学海外 事情研究所教授 丹羽 文生 氏

 10月10日は、台湾では「国慶日」という名称の祝日となっている。「10」が2つ続くことから「双十節」とも呼ばれている。これは、いわゆる「建国記念日」に当たり、「中華民国」に由来するものである。

 

 「中華民国」が成立したのは1912年1月1日のことである。それまで中国は清朝が300年近くに亘って支配してきた。その清朝に綻びが見え始めたのは18世紀末頃からだった。世界が帝国主義時代へと突入し、清朝も否応なしに、その荒波に呑み込まれ不安定な状況が続いた。日清戦争で日本に敗北し、義和団の乱後は欧米列強の餌食にされ、清朝は存亡の危機に立たされた。

 そんな中、革命家の孫文を始めとする革命勢力が清朝打倒を目指して決起し、1911年10月10日、湖北省東部の武昌において武昌蜂起が勃発する。これにより清朝は滅亡し、間もなく、孫文を臨時大総統する「中華民国」臨時政府が立ち上がった。台湾における「国慶日」とは、この「中華民国」が誕生する引き金となった武昌蜂起を記念する日なのである。

 その当時、台湾は日本が統治していた。即ち、1895年4月、日清戦争における勝利に伴い、日清講和条約(下関条約)に基づいて、日本が清朝より「戦利品」として割譲を受けたのが台湾だった。こうして1945年10月までの50年間に亘って台湾は「日本」となる。故に、この「国慶日」は本来、台湾とは全く無関係なはずである。

 ところが、第2次世界大戦の結果として日本が台湾を放棄すると、今度は蒋介石の「中華民国」政府に接収され、中国大陸から多くの国民革命軍の兵員・官吏が台湾に押し寄せる。暴虐の限りを尽す彼らに、戦前から台湾に居住していた「本省人」による反発が強まると、台湾の人々に対する無差別殺戮「二・二八事件」を惹き起こし、戒厳令を布いて、あらゆる「自由」を制限した。

 やがて、国共内戦に敗北、中国大陸を毛沢東率いる中国共産党に奪われると蒋介石は「中華民国」を丸ごと台湾に移転し、台北を「臨時首都」に定め、「大陸反攻」をスローガンに掲げる。正確な数は不明だが、この時、中国大陸から100万人を優に超える中国人が難民の如く台湾に移住した。後に「外省人」と呼ばれる人々である。

 それ以来、今日に至るまで台湾には統治機構としての外来政権たる「中華民国」政府が依然として君臨する状態が続いている。例えば、憲法も「台湾憲法」ではなく「中華民国憲法」、暦も「中華民国暦」たる「民国紀元」を使い、国旗も「中華民国旗」の「青天白日満地紅旗」を採用している。

 他方、それとは矛盾するような流れが今の台湾に存在していることも事実である。まず何より台湾のことを「中華民国」と呼ぶ人は、ほとんどいない。それは台湾のみならず世界的な現象ではないか。確実に「中華民国」なる言葉そのものが死語となりつつある。

 過日、1992年6月以降、台湾の国立政治大学選挙研究センターが毎年実施している世論調査「重要政治態度分布趨勢図」の今年度の結果が公表された。それによると、自分のことを「台湾人」とする人々の割合は63・3%で、調査開始以来、多少の変動はあるものの漸増傾向にあることが分かった。一方で「台湾人であり中国人でもある」とする割合は31・4%で、こちらは漸減傾向にあり、逆に自らを「中国人」とする人々の割合は2・7%と、初めて3%未満となった。それぞれ微増、微減しているものの、長期トレンドとして確実に台湾の人々の「台湾人」意識は強まり、逆に「中国人」意識は薄まる一方である。

 加えて今、台湾では2017年末に施行された「移行期の正義促進条例」に基づき、日本の内閣に当たる行政院の下に設置された「移行期の正義促進委員会」が中心となって、「中華民国」的なものを一掃しようという流れが加速している。かつて台湾には立像、胸像問わず、学校や公園、ロータリーに、神格化された蒋介石の銅像が数多く見受けられた。その数、約4万体とも言われている。今、これらは次々と姿を消し、回収された銅像は順次、「慈湖紀念雕塑公園」(桃園市大渓区)に移されている。

 台北中心部にある蒋介石の顕彰施設「中正紀念堂」にある高さ6・3メートル、台座を含めると9・8メートルにも達する蒋介石の巨大な銅像もターゲットとなっており、敷地全体を「歴史公園」に変えようとする計画が浮上している。勿論、外来の「中華民国」が台湾を占領したことも、台湾史の一部として記憶し、戒めとして後世に伝えていこうという未来志向の動きも見られる。

 今年(2021年)の10月10日は武昌蜂起から、ちょうど110年ということで、SNS上に日本の多くの国会議員による双十節の祝意を示すメッセージが見受けられた。思わず溜息が出たのが「中華民国」のバースデーを祝いながら、「台湾の独立」を「全面的に応援しています」と記すフェイスブックへの投稿だった。本当に「台湾の独立」を「応援」するのであれば、双十節を祝ってはならない。しかも、コメント欄には「台湾110年国慶節おめでとうございます」や「台湾独立110周年おめでとうございます」という頓珍漢な書き込みも見られ、唖然とした。

 想像するに、この国会議員は「台湾の独立」を「『中華人民共和国』からの独立」と勘違いしているのであろう。言うまでもないが、台湾は過去1度たりとも一瞬たりとも「中華人民共和国」による統治を受けていない。台湾における「台湾の独立」とは、「中華民国」体制からの「独立」を指すもので、「中華人民共和国」が台湾を「不可分の領土の一部」であると主張する明確な根拠もない。

 もちろん、悪気はないのは分かる。しかし、これは「台湾の独立」を心から願う台湾の人々に対する侮辱であると断ぜざるを得ない。日本人も、このような台湾社会の変化を直視すると同時に、今一度、史実と向き合う必要があろう。

 

 


《たかはし・かずお》

福岡県北九州市生まれ、74年大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、76年コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教授などを経て2018年4月より放送大学名誉教授。主な著書に『アラブとイスラエル』、『イスラム国の野望』、『現代国際政治』、『中東の政治』など多数。

2021年10月4日号 週刊「世界と日本」第2206号 より

 

大きな転換点を迎える中東情勢

 

放送大学名誉教授 高橋 和夫 氏

 中東各国の外交関係の組み直しが進んでいる。中東情勢は大きな転換点を迎えている。それは、中東地域が揺れているからばかりではない。この地域で一番大きな影響力を持つ米国の政策が変化しているからである。その風景を描きたい。

 

 この変化の源泉は中東ではなく中国だろう。既に米国はオバマ大統領の時期にアジア・シフトを打ち出している。これは、中東から兵力を引き抜いてアジアに振り向ける方針である。中国の台頭と膨張主義的な傾向に対抗するためである。

 しかし中東は米国の都合では動いてくれなかった。2015年に突如として出現したIS(「イスラム国」)対策で米国は一度は撤退したイラクに兵力を再派遣せねばならなかった。またオバマ自身もアフガニスタンでターレバンの復活を阻止するためにサージを実施した。サージとは、一時的な増派を意味する。つまり増派はするものの、増派された部隊は期限を区切って、それまでに撤退するという作戦だった。当然ながら、ターレバンは増派の間は身を潜め、サージが終わると攻勢に出た。成果を上げずにサージが終わった。いずれにしろ、オバマのアジア・シフトは掛け声ほどには実行されなかった。

 

アメリカ・ファースト

 

 次のトランプ大統領も、中東での世界全体での米国の関与の縮小を志向した。その政策には「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」という名前が付けられていた。トランプは、シリア、イラク、そしてアフガニスタンからの米軍の撤退を進めた。

 そして何よりも、新たな介入を拒絶した。たとえば2019年9月サウジアラビアの石油生産の心臓部分とも言えるアブカイクの製油施設がドローンなどによって攻撃された。同国の石油生産は一時的ながら大きな打撃を受けた。イランは否定したものの、使われた兵器から、また当時のサウジアラビアとの緊張した状況から判断して、同国による攻撃だとの疑いが濃厚だった。世界はサウジアラビアの保護者とも言うべき米国の反応を注視した。米軍によるイラン攻撃が起こってもおかしくない状況だった。

 というのは、第2次大戦後以降、米国とサウジアラビアは長年にわたり実質的な同盟関係にあったからだ。米国はサウジアラビアを守り、サウジアラビアは米国を含む西側諸国に石油を供給する。これが同盟の核心であった。ところが、米国は動かなかった。

 長年にわたりサウジアラビアが米国から天文学的な額の兵器を輸入し続けていたのは、それで自らを防衛するためではなかった。サウジアラビアの市民の教育レベルからして、それは望めない。単独ではサウジアラビアはハイテク兵器を使いこなせない。それでは同国は、何のために兵器を買うのか。それは、兵器輸入代金という形の「ミカジメ料」を米国という親分に支払うためである。「いざという時」に備えて。ところが、「いざという時」が来たにもかかわらず、トランプ大統領は動かなかった。

 国内でのシェール・エネルギーの生産が増大し、米国は、もはや中東のエネルギー資源を必要としなくなった。中東の黒い油のために米国の若者の赤い血を流すという政策は、国民の理解を得られなくなった。それでなくとも国民は2001年の米国同時多発テロ以降の長い長い対テロ戦争に倦(う)み疲れている。アメリカ・ファーストとは、具体的には新たな戦争を始めないという政策を意味していた。

 こうして米国という親分が頼りにならないのが明らかになった。ペルシア湾岸のアラブ諸国は、新たな後ろ盾を探した。それがイスラエルだった。2000年秋、アラブ首長国連邦とバーレーンがイスラエルと国交を正常化させた。この3国の合意をアブラハム合意と呼ぶ。アブラハムはユダヤ教聖書によれば人類の祖である。イスラム教もユダヤ教聖書いわゆる旧約聖書を神の書として尊重する。したがってアブラハムはイスラム教徒にとっても人類の祖である。この祖先の共有という点に注目して、ユダヤ教の国家イスラエルと2つのイスラム教徒の国の合意をアブラハム合意と呼ぶわけだ。

 イスラムの2大聖地のメッカとメディナを抱えるサウジアラビアは、さすがに国交の正常化までは進まなかった。だがイスラエルと接近した。いざという時にはイスラエルの軍事力への期待を込めてのアラブ諸国のユダヤ人国家への接近であった。イランの攻撃に米国が対応しなかった結果が、アブラハム合意だった。

 

バイデン政権

 

 さて、この8月にアフガニスタンでは、ターレバンが電撃的な攻勢で国土の大半を制圧し首都カブールに入った。そして米国が支援してきたガニ政権を崩壊させた。

 この軍事的な成功の背景は、バイデン政権の米軍の今年9月11日までの完全撤退という方針だった。これを見てアフガニスタン政府軍が崩壊を始めた。そして8月15日には、ついにターレバンが、首都カブールに入った。

 そのターレバン制圧下のカブールから、8月末に駐留していた最後の米軍が撤退した。

 それでは今後の米国の中東政策は、どう変化するのだろうか。

 バイデン大統領自身に中東政策を語らせよう。同大統領は、カブール陥落の翌日の8月16日の演説で、次のように語っている。米国がアフガニスタンを安定させようとして何十億ドルもの資金を無限に注ぎ続ければ、「真の競争者である中国とロシア」は大いに喜ぶだろう。同大統領は、オバマ大統領の副大統領であった時期から、アフガニスタンへの介入に反対していた。この国への関与は、米国の国益では無いとの認識である。それでは、何が米国の国益なのだろうか。

 それはオバマ時代から言われてきたアジア・シフトである。つまり軍の軸足の東アジアへの移行である。その対象は、もちろん台頭する中国である。既に見たようにオバマのアジア・シフトは、掛け声倒れに終わった。ところがバイデンは、このアジア・シフトを実際に実行し始めたわけだ。アフガニスタンに続きイラクからの米軍の撤退も予定されている。

 中東での関与の縮小は中国への対応の強化の準備である。日本の国益にも合致する決断だろう。つまりバイデン政権の中東政策は、中国政策である。

 

 


《り・そうてつ》

専門は東アジアの近代史・メディア史。中国生まれ。北京中央民族大学卒業後、新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院にて新聞学博士(Ph.D.)取得。98年より現職。同年、日本国籍取得。テレビのニュース番組や討論番組に出演、情報を精力的に発信。著書に『日中韓メディアの衝突』『北朝鮮がつくった韓国大統領—文在寅政権実録』『なぜ日本は中国のカモなのか』(対談本)など多数。

2021年9月20日号 週刊「世界と日本」第2205号 より

 

なぜ、大統領職に死活をかけるのか

韓国大統領選の行方

 

龍谷大学教授 李 相哲 氏

 来年3月9日に実施予定の次期韓国大統領選に出馬を宣言し活動中の候補は9月1日現在25名ほど。韓国では最も危険な「職業」と揶揄される大統領を目指して候補らは死活をかけた戦いに挑んでいるが、それはなぜなのか。大統領選挙結果如何によっては多くの韓国人の運命が変わるだけでなく、一人ひとりの韓国人の個人的な利益とも密接に関係があるからだ。

 

 野党が勝った場合、文在寅大統領を含め政権中枢の高官や数千人の高級公務員、公共機関の長、文政権から各種名目で巨額の補助金をもらって政権に寄生している利益団体、市民団体の運命が変わる。与党が勝てば、保守勢力は再起不能な状態に陥るかも知れない。文氏は政権発足後、前任大統領2人を含む200人あまりの高官を拘束、起訴し、占領軍のように政府各部門、司法部門、軍上層部を掌握、保守勢力を一掃した。文氏が「積弊清算(長年積もった弊害をなくすこと)」と名付けた保守系 剔抉(てっけつ)作業はいまも続いている。そんな中で野党が政権を握れば、報復に出る可能性もあるとして与党は、如何なる代償を払ってでも選挙に勝つつもりだ。

 

与野党一騎打ちの戦いに

 

 いまのところ、与党では現職の京畿道知事の李在明氏が、野党では尹錫悦元検事総長が最有力候補として浮上しているが、李氏については本選進出前の党内の予備選挙をどう勝ち抜くかが当面の課題となっている。一般の有権者はもとより与党内では李氏に懐疑的な人が多い。まず、道徳的に問題があり、品格にも欠けていると見られている。城南市長在任中に兄を無理やり精神病院に入れようとしたことや義理の姉に罵詈雑言を浴びせる音声データが出回っているほか、独身と偽って女優と不倫した過去や飲酒運転の前科があるとされる。つぎに、文支持者が李氏には好意的ではない。2017年の大統領予備選挙で李氏は、文氏を攻撃、文氏家族にまつわる疑惑を持ち出したことがあり、大統領になれば、人気を博すため文氏にまつわる各種疑惑を追及する可能性もあると見ているからだ。第3に、李氏には知事在任中100近い京畿道傘下の各種ポストに自分と利益関係で結ばれた人間を据えるなど職権乱用の疑惑も持ち上がっている。そんな中、一般の世論調査で与党候補では2番手の李洛淵元総理は李在明氏の弱みを集中的に攻撃して予備選挙を勝ち抜くつもりだ。それでも李在明氏の支持率は20%台で推移、李洛淵氏を10ポイント以上の大差で引き離している。与党は、10月の最終予備選挙で候補を選ばなければならないが、一般有権者に人気が高い李在明氏を候補に選ぶか、それとも党内で受けの良い李洛淵氏を推すかで党内は分裂の様相すら見せる。

 一方の野党第1党の「国民の力」に候補登録したのは15名、3回の予備選挙を経て12月9日までに1人に絞ることにしているが、尹錫悦氏が最有力視されている。

 

尹錫悦を待ち受けるさまざまな障害

 

 韓国大統領選挙の行方を占う手段は世論調査しかないが、厄介なことに調査は当てにならない。韓国には中央選挙管理委員会に登録した世論調査機関だけで70社を超える。これら調査機関はメディア各社、研究機関の依頼を受け頻繁に大統領の支持率や次期大統領選挙の行方を占う調査を行うが、中には「特定候補支持を誘導したり、政党支持率を改竄(かいざん)したりした」(9月2日付『朝鮮日報』)として摘発されるケースもある。8月17日「韓国リサーチ」の大統領候補支持率に関する調査では、李在明氏と尹錫悦氏が一騎打ちになった場合、李氏25・6%、尹氏18・1%と与党候補が7・5%の差で勝っているが、同じ日に「韓国社会世論調査研究所」の調査では尹氏30・6%、李氏26・2%と野党候補が4・4ポイントリードしている。問題はこのような選挙結果のどれを報じるかはメディアが判断、さらに、メディアの政治的な性向にそって解釈して世論を誘導しようとすることだ。

 それでも、これまでの韓国世論調査結果と報道を総合してわかることは、今回の大統領選挙では野党が勝つ確率がやや高い。また、各種世論調査で、有権者の55%前後が常に、次期政権は野党に委ねるべきと答えている。因みに民主党のままで良いと答える有権者は35%程度だ。また、与党候補上位4名に対する支持率と野党候補上位4名の支持率を合算して比較した場合野党支持者がやや多い。すなわち、韓国国民の大半は政権交代を望んでいるのだ。

 ただ、韓国大統領選挙は土壇場に流れが急変することもある。2002年の大統領選挙で民主党系候補の盧武鉉氏が大統領に当選したのは、民主党支持者が盧武鉉氏を大差でリードする保守系ハンナラ党(当時)李会昌候補の息子に兵役逃れの疑いがあると暴露、証拠と称して録音テープを公開した結果、李氏は2・3%の僅差で敗れた。選挙が終わった後テープはでっちあげたものと判明するが、後の祭りに終わった。このような甘い記憶、誘惑がいまの民主党には残っているらしく、尹氏の家族や本人に対する捜査に拍車をかけている。韓国メディアによれば、過去に無容疑処分となった尹氏の妻に関する「株価操作」疑惑などをめぐり韓国検察はこれまで10カ月に渡り捜査を続けてきたが、最近はチームを補強、近いうちに妻を召喚して取り調べるつもりという。尹氏本人も今年共に民主党が強行採決で法制化し、発足させた「高位公職者不正捜査庁」の捜査線上に上がっている。その過程に尹氏にまつわる不正を証明する決定的な「証拠」が出てくれば負けるかも知れない。

 尹氏が果たしてこのような障害を乗り切れるだろうか。大統領選挙という韓国ドラマの本編は、いま、始まったばかりだ。

 


《かわそえ・けいこ》

1986年より中国(北京・大連)の大学へ留学。2010年の『中国人の世界乗っ取り計画』(産経新聞出版)は、Amazon〈中国〉〈社会学概論〉の2部門で半年以上、1位を記録するベストセラー。その他の著書として、『習近平が隠蔽したコロナの正体―それは生物兵器だった!?』(WAC BUNKO)Amazon〈中国のエリアスタディ〉1位、『トランプが中国の夢を終わらせる』、『米中新冷戦の正体』(共著)(ワニブックス)Amazon〈中国の地理・地域研究〉1位など。

 

『習近平が隠蔽したコロナの正体―それは生物兵器だった!?』
『習近平が隠蔽したコロナの正体―それは生物兵器だった!?』

2021年9月6日号 週刊「世界と日本」第2204号 より

 

世界は中国をどう見ているか

再びコロナ発生源を問う

 

ノンフィクション作家 河添 恵子 氏

 

WHO調査団トップの暴露

 

 「新型コロナウイルスの患者ゼロ号は、武漢ウイルス研究所の職員の可能性がある。研究現場で感染したというのが有力説の1つだ」

 8月12日、地元・デンマーク国営テレビ2のドキュメンタリー番組でこう語ったのは、WHO(世界保健機関)の新型コロナウイルス起源調査団を率いた医師のピーター・ベン・エンバレク氏である。

 WHOは3月29日、今年1月に実施した第1段階の調査の最終報告書に基づいた見解として、研究所流出説について「可能性が極めて低い」と結論付けていたが、それを覆す“新たな説”を調査団トップが世界に投げたことになる。

 「新型コロナの宿主とみられている種類のコウモリは、武漢地域に野生で生息していない」ことや、「中国の専門家らと研究所流出説についての議論をすることが困難で、報告書に入れる同意が得られなかった」ことも番組内で暴露された。

 さて、バイデン米大統領が5月26日、「新型コロナの『起源』について追加調査し、90日以内に報告するよう」情報機関に要請したが、そのデッドラインより早い8月1日、米下院外交委員会のマイケル・マッコール(共和党)筆頭理事が、「新型コロナの起源」に関する84ページの報告書を公表。「武漢ウイルス研究所から流出」との結論を導き出した。

 WHOのエンバレク氏の説と一致しているのは、「研究所を起源」と見定めた点であり、すなわち中共政府が発生当初から大大的に喧伝した、「海鮮市場からの流行説」の否定である。

 発生の時期について、同報告書は2019年8~9月頃とし、世界109カ国の計9308人の選手が武漢に集まり、10月18日に開催された「軍人世界ゲーム」を機に世界に広がったと結論づけた。

 フランスの調査ジャーナル『メディアパルト(Mediapart)』が、7月15日に発表した「武漢ウイルス研究所の伝説 中国当局による1年半の隠蔽」にも、「2019年9月に武漢にコロナウイルスが存在していたと、専門家グループが説明」と記されており、「中共政府は嘘をつき続けてきた」と非難している。

 2015年1月に建設工事が終わり、2018年から稼働している武漢ウイルス研究所(江夏区)=通称「新しいラボ」は、中国とフランスの両首脳が2004年に調印した合意書「中仏予防・伝染病の制御に関する協力」に基づき建設された。最も危険なウイルスBSL―4(バイオ・セーフティ・レベル4)に対応できる、P4実験室が備わっている。

 

生物兵器を使う戦争計画があった

 

 マッコール米下院議員らが公表した、この度の「新型コロナウイルス」に関する報告書は、昨年6月と9月に続き、共和党が手掛けた第3弾だが、民主党の本音は「真相の追究」に及び腰か二の次のはずだ。

 その背景としてまず“オバマ・ゲート”の別称の通り、オバマ政権時代からの5年間で少なくとも60万㌦、おそらく340万㌦(『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の発表)の米国民の血税が、武漢ウイルス研究所に流れている点だ。国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士により、NYを拠点とする非営利団体「エコヘルス・アライアンス」を通じて助成された。

 そして、バイデン大統領の次男ハンター氏率いる投資会社ロズモント・セネカ・テクノロジー・パートナーズは、その「エコヘルス」と武漢ウイルス研究所と長期にわたり協力関係にあるパンデミックの追跡と対処が専門のメタビオタ(Metabiota)グループの主要投資企業なのだ。

 「エコヘルス」の代表で、渦中の英国人ピーター・ダスザック氏はWHO調査団から除名されたが、彼が武漢ウイルス研究所の「バット・ウーマン」こと石正麗研究員と長く同僚のような関係にあったことも明白な事実である。また、これは民主党議員に限らないが、ワクチン推進派のためのメディア(SNS)に化けたフェイスブックや製薬会社などからの献金にまみれている大物も、ワシントンDCには少なくない。彼らは総じて“反トランプ”なのだ。

 欧米英などの先進国が、「ウイルス起源と正体」の解明に時間をかけているのは、コロナ禍を利用し、ワクチンで錬金し、地球市民をデジタル健康管理するディープステート(DS)の思惑で動いているからではないのか?

 米シンクタンク「アトランティック・カウンシル(大西洋評議会)」の上級研究員でWHO顧問のジェイミー・メッツル氏は、5月30日、英ラジオ局「ロンドン放送協会(LBC)」のインタビューでこう述べている。

 「おそらく、中国のごく一部の人々は(新型コロナの起源や正体を)知っているでしょうけれど、彼らは口を閉ざしている。ただ、(ウイルスが)研究室から流出している可能性はある。これが真実だと証明されたら、習近平国家主席の地位は保証されるのか? 追放される可能性が高い。そして、世界中が中共政府に賠償請求をするはずだ」

 CNNやFOXニュース等にも出演するメッツル氏は、ビル・クリントン政権時代に国家安全保障会議(NSC)の多国間・人道問題担当ディレクターを務め、バイデン大統領が上院議員時代に率いた上院外交委員会で副参事だった。彼がバイデン政権に近い、“広報マン”の1人だとすれば、「中共単独犯」「中共政府に賠償請求」といった“エンディングノート”が準備されているのかもしれない。

 いずれにせよ、米国や英国、フランス、そして世界の「正義と良識を持った」科学者や疫病学者、医者ら専門家、ジャーナリストで、もはや「人工説」を疑う者はいない。習政権も「自然発生説」で押し切れないからこそ、「架空の学者」をしつらえ、官製メディアやSNSを使って意図的にデマ論説を垂れ流し、抵抗を続けている。

 中国に、「生物兵器(別名、遺伝子兵器)」を平時に敵対国に投入し襲う計画があったことも、軍が編纂した書籍『非典非自然起源和人制人新種病毒基因武器』(軍事医学科学出版 2015年)が証明している。

 これでも日本政府、マスメディアはまさか、「陰謀論」と片づけたいのだろうか?

 

 


《わたなべ・つねお》

1963年生まれ。東北大学歯学部を卒業。歯科医師を経てニュースクール大学(米国ニューヨーク市)で政治学修士。戦略国際問題研究所で上級研究員を務めた。2005年に帰国、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、現職。戦略国際問題研究所非常勤研究員を兼任。近著に『2021年以後の世界秩序—国際情勢を読む20のアングル—』(新潮新書)がある。

 

2021年8月23日号 週刊「世界と日本」第2203号 より

 

今日の国際情勢を読む5つの視点

 

(公財)笹川平和財団 上席研究員 渡部 恒雄 氏

 

 国際情勢を読む5つのアングルを考えて見たい。

 第1のアングルは、「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ前政権を批判して国際協調に舵を切ったバイデン政権の路線が今後も継続するのか、2024年の大統領選挙で、トランプ路線への支持が強い共和党が政権を取り戻すのかの見極めである。欧州の指導者たちはバイデンの国際協調路線を支持し、地政学的には距離がある中国へのけん制にも参加しているが、それが今後も続くかどうかの確証は持っておらず、国際秩序の流動化という流れは止まらないのではないかとも考えている。

 具体的には、バイデンか後継の民主党候補が2024年の大統領選挙で再選されるだけの政治的なモメンタムを獲得できるかどうかの見極めが重要だ。バイデン政権は発足以来、50%台の低位安定の支持率を維持してはいるが、分断が進む米国内で60%を超える支持は期待できない上に、むしろコロナ感染による危機を終息させつつあることで求心力が弱まるという皮肉な状況にもある。目下のところ、与野党が伯仲する議会で、大規模なインフラ投資法案を通してさらなる経済実績を作り、来年の中間選挙で民主党が上下院で過半数を維持できるかどうかが注目点だ。

 共和党内では、昨年の大統領選挙の敗北を認めず、政治活動を再開したトランプ氏への支持は高く、依然として「トランプ」党のままだ。もし2024年に政権を奪還すれば、その候補がトランプ氏でなくとも「アメリカ・ファースト」政策を取るだろう。加えて、民主主義の原則である公正な選挙結果を否定するトランプ氏の主張は、アメリカのソフトパワーの源泉である民主的価値観を大きく損ね、世界での求心力低下を継続させる。

 第2のアングルは、経済、政治、軍事において、米国の優位性に挑戦するだけのポテンシャルを持ち、既存の秩序に挑戦して国際秩序を流動化させている中国の動向だ。その中国も国内政治の動向がカギだ。習近平主席が共産党の集団指導体制から独裁体制に移行することに成功するのか、「戦狼外交」といわれる対外強硬姿勢が継続し、武力による台湾統一のようなリスクが高まるかどうか、世界は固唾をのんで見守っている。

 直近では、中国内の統制強化の動向が注目される。中国が米国を警戒させるだけの軍事力を築きつつあるのは、これまでの圧倒的な経済成長の蓄積が成し得たことだ。しかし、その前提である国内の経済競争を阻害するような決定が習近平政権により相次いで行われている。共産党最高指導部はアリババ集団や滴滴出行(ディディ)など巨大IT企業に対して統制を強め、経営は萎縮して投資家も慎重になっている。

 長期的には、米国の対中対抗路線による包囲網の形成に加え、中国経済の長期的な経済成長に深刻な影響があるはずだ。中国の経済競争力が徐々に低下することは、競争相手の日米には朗報のようだが、実際には、日米ともに中国経済と全面的なデカップリングが不可能なほど経済が密接に繋がっており大きなダメージとなる。さらに懸念されるのは、国内の不満を逸らすために、習執行部が対外強硬姿勢を強めることであり、すでに世界が懸念している台湾海峡の安定や東・南シナ海への懸念が倍増する。

 第3のアングルはインド太平洋地域の大国間の勢力均衡だ。バイデン政権のNSC(国家安全保障会議)インド太平洋調整官のカート・キャンベルは、政権入り前の論考で、地域の安定のモデルを、米国の圧倒的な力による覇権安定ではなく、19世紀の「コンサート・オブ・ヨーロッパ」という主要大国間の勢力均衡をモデルとして構想している。地域の主要国は米国と利益を共有しているために、米国の有利だとしている。中でも最重要な3国が、米国とともにクアッド首脳会議を行い、中国の地域秩序への挑戦に対抗する協力姿勢を見せている日本、インド、豪州だ。とりわけ中国に近接し、米軍に軍事基地を提供している日本の役割は重要だ。日本が自国の防衛力を強化して、中国優位に傾いている軍事バランスについて、どのような政策を取っていくかどうかが、米国の戦略の成否に影響する。現在、菅政権の支持率が低下しているが、日本の政権の方向性は地域と世界の安定を左右する重要な要素となっていることを肝に銘じるべきだ。

 第4のアングルは、2001年の同時多発テロをきっかけにした米国のアフガニスタンとイラクへの軍事関与の軽減だ。これは「アメリカ・ファースト」の米国人が望んでいることでもある。バイデン政権は、アフガニスタンからの米軍の全撤退を開始し、イラクでの年内の戦闘任務終了も発表した。その結果、アフガニスタンでは現政権が弱体化し、反政府勢力タリバンの力が拡大して、無政府状態が広がることが懸念されている。それが地域にどう影響し、米国の「負担軽減」が成功するのかは、中国を睨んだインド太平洋戦略にも影響する。

 第5のアングルは、米イラン関係と包括核合意(JCPOA)の再交渉の行方だ。トランプ前政権は、中東の同盟国のイスラエルとサウジとの関係を強め、両国が敵視するJCPOAから一方的に離脱して、核同意維持を望む欧州との関係を悪化させた。8月に保守派のライシ新政権が発足する前に交渉をまとめたいという思惑が米国にもイランにもある。米国が中東への軍事関与の軽減を試みている中で、イランとロシアの中東への影響力が増している。イスラエルでも共和党議会に影響力のあるネタニヤフ政権が退陣したこともあり、中東の勢力図も変化しており、米国とイランの再交渉の成否は大きな影響がある。

 日本は米国の対中対抗政策の最前線に位置し、地域と世界の安定に大きな影響を与える存在になっている。米中との関係は最重要だが、インド、東南アジア諸国(特にベトナム)、ロシア、イランという米国とは一線を画すが、日本とは利害を共有する国々の戦略的価値が増していることが、5つのアングルが示唆することだ。


《わたなべ・ひろたか》 

1954年生まれ。東京外語大仏語科卒。同修士課程、慶大博士課程、パリ第一大学国際関係史博士課程修了。在仏日本大使館公使。東京外大国際関係研究所所長を経て、2019年4月より帝京大教授。著書に『ヨーロッパ国際関係史』『ポスト帝国』『米欧同盟の協調と対立』『アメリカとヨーロッパ』など。

2021年7月19日号 週刊「世界と日本」第2201号 より

 

不透明な時代の欧州の「世界戦略」

 

帝京大学法学部教授 東京外国語大学名誉教授  渡邊 啓貴 氏

 

 インド・太平洋での英仏軍と自衛隊・米軍の合同演習が話題となっている。米中摩擦と「政冷経熱」と揶揄される日中関係を前に日本の外務・防衛当局は欧州の安全保障上の協力姿勢を歓迎する。しかし欧州の真意はどこにあるのか。はたしてそれはどこまで期待できるのか。

 

欧州の「インド・太平洋」戦略

 欧州の東アジア・インド太平洋への関心の拡大は、英国が「グローバル・ブリテン」を打ち出しBREXITを決定した2016年頃にまでさかのぼる。当時の離脱支持派は、「大英帝国」再生の道を求めた。そして本年3月には、それはBREXIT後の世界戦略を発表した。

 フランスはすでに2013年の段階で安倍政権の学術・官僚との接触を通してインド・太平洋をめぐる議論を開始していたが、2018年6月に『フランスとインド太平洋地域における安全保障』を発表し、2019年5―6月には軍需省(防衛省MOD)による『インド・太平洋におけるフランスと安全保障』『インド・太平洋におけるフランスの防衛戦略』、さらに同年6月には欧州・外交問題相(外務省)による『インド・太平洋におけるフランスの戦略《内包的(inclusive)インド・太平洋を求めて》』という包括的戦略を発表した。2020年9月にはドイツも『インド・太平洋ガイドライン』を発表した。こうした欧州主要国のインド太平洋への関心強化を受けて、本年4月半ばEUは「インド太平洋協力戦略(以下「戦略」)」の結論(骨子)を発表した。

 一連の欧州のインド太平洋への関心の増加の背景にある認識は、この「戦略」に記されたこの地域をめぐる利害関心だ。インド太平洋地域は、世界人口の60%を占め、世界の国内総生産(GDP)の60%、世界の経済成長の3分の2に相当し、2030年までに予想される世界の中間層24億人のうち90%がインド太平洋地域の人々だ。この地域の重要性は今後一層大きくなるが、この地域では通商貿易・サプライチェーンは、不安定な政治・安全保障環境に晒されている。

 

「接近」と「警戒」の対中姿勢

 しかし日本の多くのメディアが論じたようにこうした欧州のインド太平洋へのコミット強化を対中包囲網の一環とみなすことは早計だ。現実はそう単純ではないからだ。中国をめぐる対応では日米欧の間には隙間がある。

 EUが指摘する「インド太平洋地域」とは、アフリカの東海岸から太平洋諸島諸国までを包含する広範な地域を意味する。日本で議論されている東シナ海を中心としたコミットだけではない。中国包囲網という狭い視野だけでEUの戦略を見るのは誤りである。

 たしかに一連の欧州のアジア戦略の拡大の背景には対中観の変化があることは事実だ。しかしここに来てEUが対中認識を大転換させたとする見方は誇張になると筆者は思う。

 たしかに、冷戦後良好であった対中関係の「警戒」の表れは習近平政権誕生後認められた。2012年には「16+1」という形で中国が旧東欧圏のEU加盟国に接近、他方で習近平は「中国の夢」を語り、「一帯一路」構想を提唱したが、そうした中国アプローチがEU加盟国間の連帯にくさびを打つことは明らかだった。EUが2019年3月『EU・中国戦略展望』の中で中国を価値観や考え方が違う「システム・ライバル(制度面の競争者)」と性格づけたことはEUの警戒感を物語っていたことは明らかだ。

 しかし、また一方でEUは昨年末にそれまで滞っていたEU・中国包括投資協定を締結した。EU対中政策は硬軟両様の対応なのである。EUは気候変動や新型コロナウイルスなどでの中露との協力は期待されている。米中衝突の危険をいかに回避するか。むしろそのための役割をEUは模索する。「接近」と「警戒」という対中硬軟両様対応の姿勢が大転換したとはいえない。

 

多極時代の「接続性」の世界戦略

 それは一連の文書に中国を敵視する文言が明示されていないことにも明らかだ。それどころかインド・太平洋地域には確実に中国がその一員として想定されている。EUの基本的趣旨は中国のとり込みにあるといえる。

 その背景には本年2月本紙で述べたように、2016年のEU文書『グローバル戦略』で標榜された欧州の「戦略的自立」志向がある。米欧関係の不安定さ、米中摩擦の強まりの中で、米中対立に巻き込まれることなく、欧州も自立したアジア戦略をもたねばならないという発想はある意味では当然である。それはインド太平洋地域を含む欧州の「世界戦略」ともいうことができる。

 多極的世界の中で米中欧露などの各勢力圏がそれぞれ区分され、対立するのではなく、インフラ支援協力を通して「連結性・接続性」を強化するという相互依存関係の深化をEUは摸索する。EUは2018年9月「欧州・アジア連結性戦略」、2019年4月に日EU定期首脳会議で欧州・アジア連結性に関する協力を確認、同年9月「欧州連結性フォーラム」に当時の安倍首相が出席し、「持続可能な連結性と質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」文書に調印した。EUのインド太平洋への拡大戦略はまさにそうした接続性の延長の路線だ。

 欧州主要国は、今後この地域での政治・経済秩序をめぐる全般的なプレゼンス拡大を意図する。その場合欧州諸国が必ずしも日本の思惑通りの支持をしてくれるかどうかは不透明だ。世界観と利益の違いがそこに反映されることにもなる。たとえばEUは国連海洋法による領土問題の利益折半の解決を主張するが、それが尖閣諸島をめぐる日本の主張でないことは確かだ。インド太平洋地域での欧州との接近協力は歓迎すべき1つの方向ではあるが、同床異夢の側面も併せ持つ。次のステップの模索が必要だ。その中にほかのアジア諸国、とくにEUが同じ地域統合機構として強い関心を持つASEANとの協力を通した協力の在り方も重要な課題の1つとなるであろう。

 


《かせ・ひであき》 

1936年、東京生まれ。慶応、エール、コロンビアの各大学で学ぶ。『ブリタニカ国際大百科事典』初代編集長、日本ペンクラブ理事、松下政経塾相談役などを歴任。著書は『グローバリズムを越えて自立する日本』『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』ほか多数。

2021年7月5日号 週刊「世界と日本」第2200号 より

 

変転する政権は政権か

人事しかない日本の政権

 

外交評論家  加瀬 英明 氏

 

 本紙から「政権を支えた政治家」というテーマをいただいて筆をとったが、日本に政権が存在していても、いったい国際的に「政権」と呼ぶに価するものかという、大きな疑問が立ちはだかった。菅義偉首相は明治18(1885)年に近代内閣制度が発足してから、99代目の総理大臣に当たる。伊藤博文公が初代総理大臣だが、1人平均すると1年4カ月在職している。

 

 日本が近代に入って、大きな危機によって弄ばれた10年といえば、昭和6(1931)年の満州事変から昭和16(1941)年の真珠湾攻撃にいたる10年間だった。

 このあいだに、11人の首相が交替した。平均して在職1年に満たない。いったい1年4カ月か、1年ももたなくて、政権と呼べるのだろうか。

 占領下で連合国が行った、いわゆる東京裁判では満州事変から敗戦までの13年間のあいだに、日本の指導的な地位にあったとされた39人が、アジアを侵略した「平和に対する罪」によって裁かれて、東條英機大将以下7人が絞首刑となった。このあいだ、15人の首相が入れ替わった。

 東京裁判の訴状によれば起訴された39人が「共同謀議」を行ったが、事実は、39人は巣鴨刑務所の運動の時間中、はじめて話し合えたのだった。このように内閣が頻繁に交替しては、一貫した政策も、戦略もあったものでない。

 閣僚になると、入れ替わりがもっと激しくなる。平成19(2007)年に防衛庁が防衛省に昇格してから、今日まで18人の防衛大臣が登場した。1人平均して1年つとめていない。これでは、大臣が防衛政策や戦略を練ることは、とうていできない。

 私は日本に政治があるのだろうか、という不安に駆られてきた。人事しかないのではないか。

 私は安倍晋三前総理が首相として返り咲いてから7年8カ月後に辞任すると、憲政史上在職期間がもっとも長くなったが、新聞や、雑誌から「長《なが"》すぎた」という、批判の声があがったのに唖然とした。アメリカでは大統領が2期8年つとめるほうが多いし、他の先進諸国で7、8年が長すぎるといわれることは、ありえない。

 日本には「指導者」、英語をそのままカタカナにして「リーダー」が言葉として存在するが、指導者という概念がない。つい150年あまり前まで、江戸時代には日本語のなかに「指導者」「指導」という言葉が存在しなかった。明治以後に、英語の「リーダーleader」、ドイツ語の「フューラーführer」などの西洋語を訳するために翻訳語として造られたものだ。

 それまで日本語では上に立つ者を「頭目、棟梁、重立ち衆」などと呼んだが、リーダーとはまったく異なるものだった。リーダーシップはリーダーの個性から発する。合議制の上に成り立ってきた日本の民俗、伝承文化にそぐわない。

 一神教の神がリーダー、フューラーと、フォロアーである従う人々との上下関係に擬《なぞら》えてつくられたのに対して、日本は八百万《やおよろず"》(無限の数)の神々の社会である。フォロアーは辞書をひくと、「信奉者、追随者」と説明されている。

 アメリカをとると、大統領の下に閣僚以下課長あたりまでの数千人にのぼる政治任命職(ポリティカル・アポインティ)がおり、全員が大統領の代理人、あるいは大統領の人格の延長とみなされている。

 菅内閣の閣僚は菅首相を支えているが、首相の代理人ではない。

 いったい、日本の政権が何によって支えられているのだろうか?

 日本の政権は国民的、あるいは大多数のコンセンサス―意見、感情などの一致、総体的で曖昧な合意によって支えられている。世論といっても論理が欠けているから、総体的な感情といったほうがよいだろう。

 では、日本のコンセンサスはどうやってつくられるのだろうか。

 日本民族はしばしば得体が知れないコンセンサスによって、支配されてしまうことが多い。日本では人々が得体も知れないものに、寄りかかることが起きる。

 護憲主義や、国連信仰がそれに当たる。無防備によって平和が保たれるはずがないし、国連は諸国の国益が激突する場だから、“平和の殿堂”でありえない。

 いったん、奇怪なコンセンサスが生まれてしまうと、それによって呪縛されて身動きできなくなる。

 日本ではほんとうは不十分なものであるのに、あたかもそのものに大きな力が備わっており、権威があるかのように、まわりから作りあげることが起こる。戦前の極端な神国思想や、軍国主義のように、まったく得体の知れないようなものが、コンセンサスとして権威をもって横行することが多い。

 私たち日本人にはどこか無意識に、満場一致を求める心情が働いている。そして、なぜか動かないものに対して憧れを持ちやすい。

 多くの日本人にとっては、自我の中心が自分のなかにあるよりも、集団のなかにある。

 しっかりした自分を確立することがないので、自分をひとりぼっちの人間として意識することがなく、自分が属している集団の部分としてみる。人々が中心を探り合ううちに、コンセンサスの中心として、得体がしれないものが生まれてしまうことが多い。

 人間生活ではあらゆるものが流動しているから、状況に合わせてゆかねばならない。憲法も手段であるはずなのに、現行憲法を墨守しようとする。

 安倍晋三政権は、多くの戦略的決定を行えた。日本における珍しい政権だったといえた。

 


《おはら・ぼんじ》

1985年防衛大学校卒。98年筑波大学大学院(地域研究)修了(修士)。2003〜06年、駐中国防衛駐在官。09年第21航空隊司令。11年IHS Jane,s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャー。13年東京財団を経て、17年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』、『軍事大国・中国の正体』、『何が戦争を止めるのか』、『曲がり角に立つ中国』(共著)等多数。

2021年6月21日号 週刊「世界と日本」第2199号 より

 

重要 米中の戦略的競争の文脈

変化なし 米の対中強硬姿勢

 

(公財)笹川平和財団 上席研究員 小原 凡司 氏

 

 台湾海峡をめぐる緊張が高まっている。2021年4月17日にワシントンDCで実施された日米首脳会談後に発表された共同声明には、「台湾海峡」という文言が盛り込まれた。首脳による共同声明として台湾に言及したのは、1969年以来、初めてのことである。

 中国は型通りの反発を見せただけで公式には強い米国批判を避けているが、『環球時報』などには本音も見える。4月17日付の同紙は、「日米同盟は、当時の日独伊のように、アジア太平洋の平和に致命的な破壊をもたらす枢軸になる危険性がある」と日米両国を非難した。

 このように中国が危機感を強めるのは、台湾統一の可能性が低くなるからだ。台湾は中国共産党の統治の正統性に関わる問題である。中国共産党は、自らの権威を維持するためにも台湾統一を必ず成し遂げなければならない。

 1977年8月の中国共産党第11回全国代表大会および1978年3月の第5期全国人民代表大会第1回会議において採択された『中華人民共和国憲法』には、「必ず台湾を解放しなければならない」という方針が規定されている。

 しかし間もなく、1978年5月にカーター米大統領が米中関係正常化に舵を切ると、この方針は変更された。米中両国による国交樹立のための交渉の過程で、鄧小平氏が方針を調整したのである。「台湾を解放しなければならない」という言葉を「台湾が祖国に回帰し、統一という大事業を実現する」という表現に変えたのだ。以後、中国では、「解放」という言葉の代わりに「解決」という言葉が使われている。

 中国の台湾統一は実現に近づいている訳ではない。それどころか、中国は台湾独立を心配している。2016年5月、台湾に民進党の蔡英文総統が誕生すると中国は危機感を強める。さらに同年11月、米国大統領選挙においてトランプ氏が勝利し台湾との関係を深化させると、中国の危機感はさらに強くなった。

 危機感を強めた中国は台湾に対して強硬な態度を見せる。2019年1月2日、習近平主席は、『台湾同胞に告げる書』発表40周年記念大会における講話の中で、台湾独立分裂主義者およびその活動に対し、「武力の使用を放棄せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を保留する」と述べ、台湾武力統一の可能性を示したのである。

 同年、中国の香港民主派弾圧が苛烈さを増すと、台湾における中国共産党および「1国2制度」に対する信頼は地に落ち、中国は台湾の平和的統一の望みが薄くなったと感じている。中国は、ますます軍事的手段に頼らざるを得なくなったのだ。H―6K爆撃機を含む軍用機が頻繁に台湾に接近し、また、空母「遼寧」機動部隊が台湾周辺海域で演習を繰り返すのはその例であると言える。

 2021年1月には、中国のネット上で「逼統」や「冷武統」という言葉が広まった。「台湾の平和的統一の望みはなくなった。しかし、武力侵攻すれば中国が受ける傷が大き過ぎる。そのため、武力による圧迫の下で平和的統一に導く」という趣旨のものである。2021年1月10日に中国共産党が発表した『法治中国建設計画(2020―2025年)』でも、改めて「『1国2制度』台湾方案を模索し、祖国の平和統一の過程を促進する」ことが明記されたが、台湾に対する軍事的圧力はますます強くなっている。

 バイデン政権は、中国に対する強硬姿勢を引き継いでいるが、その特徴は同盟国との協力の重視である。中国は米国の軍事力行使を恐れてA2/AD(接近阻止、領域拒否)能力を構築してきたが、米国は第1列島線に精密打撃ネットワークを構築するなど同盟国のアセットを用いて中国のA2/ADに穴を開け、米軍の兵力の中国へのアクセスを確保しようとしている。

 これは、日米等にとっては中国の軍事力を用いた現状変更に対する抑止である。しかし、中国にとっては、台湾武力統一というオプションを失うことを意味する。中国は実際に武力統一したいと考えている訳ではないが、武力統一の現実味が失われれば、台湾に対する軍事的圧力は意味を失う。

 中国は、東シナ海から南シナ海にかけての海域は中国が軍事的にコントロールできることを示し、米国の抑止は効果がないと台湾や周辺国に信じさせなければならない。一方の米国は、東シナ海や南シナ海は中国軍がコントロールしているのではないと示すために軍事プレゼンスを示す作戦を活発化させる。米中双方が、相手の抑止は効果がないと示すために軍事プレゼンス競争を行っているのだ。同じ海空域に、対抗する2国の軍事力が集中すれば、両国ともに戦争を避けたいと考えていても、予期せぬ軍事衝突の危険性は高まってしまう。

 台湾だけでなく、東シナ海や南シナ海の情勢も、米中の戦略的競争の文脈の中で捉えなければならない。これら海域の状況は相互に関連し、尖閣諸島も台湾情勢の影響を受けるのである。しかし中国は、直ちに実力をもって尖閣諸島を奪取することはないだろう。日本が怒って米国との協力を深化させ中国に対抗するのは、中国にとって最悪のシナリオだからだ。

 中国は、バイデン政権の対中姿勢を見て、米国は単独で中国に対抗する意思も能力も不足していると認識している。そうすると、米国の圧力を低減させる最も効果的な方法は、同盟国を米国から切り離すことである。そのため中国は、日本に対して、協調とけん制の2つの姿勢を使い分けながら、米国と距離を置くよう要求を強めるだろう。

 4月17日の『環球時報』の記事は、「近代以来、何度も中国に危害を加えたことを日本は忘れたのか?」と問い、「最後に日本に忠告する。台湾問題から離れろ。他の問題は、外交手段を用いなければならないが、台湾問題に巻き込まれたら、いずれヤケドする。関与の程度が深くなれば、支払う代償は大きくなる」という日本への威嚇で締めくくられている。

 日本は中国の実力による現状変更を受け入れられない。一方米国は、日本に対して協力を強めるよう要求し、総体的国家安全保障観を掲げる中国は経済制裁等も用いて日本をけん制する。日本は難しい舵取りを迫られているのである。

 


《り・そうてつ》

専門は東アジアの近代史・メディア史。中国生まれ。北京中央民族大学卒業後、新聞記者を経て1987年に来日。上智大学大学院にて新聞学博士(Ph.D.)取得。98年より現職。同年、日本国籍取得。テレビのニュース番組や討論番組に出演、情報を精力的に発信。著書に『日中韓メディアの衝突』『北朝鮮がつくった韓国大統領—文在寅政権実録』『「反日・親北」の韓国 はや制裁対象!(共著)』など多数。

2021年6月7日号 週刊「世界と日本」第2198号 より

 

文氏 退任後の行く末は

辿るのか 歴代大統領運命の道を

 

龍谷大学教授 李 相哲 氏

 残り任期1年を切った文在寅(ムンジェイン)韓国大統領の最大の関心事は退任後安全に余生を送れるか否かということのようだ。2017年の大統領選挙で自由韓国党(現最大野党、国民の力の前身)候補として文氏と闘った洪準杓(ホンジュンピョ)議員は5月14日、記者懇談会で「李在明(イジェミョン)京義道知事が大統領になれば文在寅大統領は1年以内に監獄に入るだろう。それだけは自信をもって言える」と言った。

 

 李在明氏は現与党、共に民主党に党籍をおく知事で次期大統領にもっとも近い人物とされる。韓国ギャラップが5月4日から6日にかけて満18才以上の1002名の有権者を対象に実施した「次期大統領候補好感度」に関する調査で李氏は25%の支持を獲得して1位、野党有力候補の尹錫悦(ユンソクヨル)前検事総長の22%支持率を抜いて先頭に立った。

 これまでの韓国メディアの次期大統領選挙に関する報道を総合すればこのような傾向は続く可能性が高い。各種世論調査で尹氏の支持率は李氏を上回る場合が多いが尹氏はまだ大統領選に立候補する意向すら明らかにしていな状況であり、いまのところ李知事は大統領にもっとも近い人物と言ってよい。

 

与党候補に文氏の後継者なし

 「東亜日報」によれば「いま、文大統領の立場では退任後自身の安全を保障してくれる候補を探すのが最大の課題だ」(5月14日付)が、今のところ与党内では李氏と競争できる人物は見当たらない。文氏の後継者とみなされた曺国(チョグク)前法相(現ソウル大教授)は、いまや起訴され裁判を受けている身。

 もう1人、文氏の秘蔵子と言われた現慶尚南道知事は選挙法違反で1審、2審とも2年禁錮刑が言い渡され、大法院(最高裁判所)で争っているので次期大統領選挙には間に合わない。これから韓国政界によほどの異変が起こらないかぎり野党候補か、李氏が大統領になるのは必然の趨勢とみられる。野党候補が大統領になった場合でも文氏の失政の責任を問わないわけにはいかないだろう。

 韓国では、歴代大統領が悲惨な末路を辿ることがほぼ常識とされてきたが今後はこのような悪しき「伝統」は断ち切るべきとの意見もあるが、大勢の有権者、識者、メディアは文在寅大統領までは仕方ない、必ず責任を追及すべきという意見が圧倒的に多い。文氏の指示に反して時の権力者の曺氏の不正を暴き、文氏の関与がささやかれる事件にメスを入れようとして辞任に追い込まれた尹氏に有権者の多くが拍手喝采をおくり、支持していることからもわかる。いまや、尹氏は大統領選挙に立候補さえすれば当選されそうな勢いだ。

 このような世論を意識したからだろうか。昨年の新年記者会見で文氏は、「退任後私は忘れた存在になりたい」と語り、今年に入っては退任後、政治の世界から離れ田舎で農業を営むつもりであることを見せかけるためか、慶尚南道東部の田舎、梁山に巨大な農地を購入して大邸宅建設を始めたが果たして文氏が描く人生設計通り上手くいくかは疑問だ。

 

時限爆弾抱える文在寅

 まず、文氏はいくつもの時限爆弾を抱えている。

 これまで文氏の関与が疑われる事件は表に出ているものだけで3つある。①2018年6月の地方選挙で文氏は、自分の長年の友人を蔚山広域市長選挙に当選させるため大統領府をはじめ政府の8つの部門と地方警察庁長官を動かして各種選挙不正を働いたという事件。②政権公約の脱原発を無理やり押し通すため、データを改竄し最良の状態の原発を停止させ、建設中の原発工事を中断させ1兆ウォンにのぼる損失を出していながら、北朝鮮に原子力発電所の建設を推進したのではないかという疑惑、③企業から賄賂を受け取るなど不正を働いた元青瓦台国務調整室管理官、後に金融政策局長、釜山市副市長を歴任した柳在洙(ユジェス)に対する捜査もみ消し事件への関与などなどだ。他に、北朝鮮との関係では市民団体からすでに「与敵罪(反逆罪)」で告訴されている。

 これら事件捜査は現在すべて宙に浮いた状態だ。尹検事総長が在任中に手を着けたものの文氏が任命した法相により悉く潰された。法相はこれら事件捜査に当たる検事数十人を左遷、捜査チームを解体すると同時に、指揮権を発動して検事総長の尹氏を捜査から排除、それでも捜査を続けようとすると職務停止処分、懲戒処分まで下した。最終的に尹氏は辞職に追い込まれ、いまこれら事件への捜査は止まったままだが、政権がかわれば再調査するのは間違いないだろう。つぎに、在任中に作った安全措置が崩れつつある。文氏は政権の命運をかけ「検察改革」を推進、検察の権限の一部を警察に移譲させ、新たに法律をつくり大統領のコントロールが効く「高位公職者犯罪捜査処(高捜処)」を発足させた。

 目的は検察の権限を大幅に縮小、勝手に大統領やその親族、高位公職者の捜査はできなくするものだが、「高捜処」については違憲の疑いがあるという意見が根強い上、組織づくりすら円滑に進んでいない。政権が代わればどうなるかわからない。また、退任後を睨んで法務部、検察、大法院の要職に「親文勢力」で固めてはいるものの、政権が求心力を失い、レームダック化が進めばこれら安全措置はもろく崩れ落ちるだろう。すでに、これまで文氏や文政権に関係ある事件への捜査を決死阻止してきたとして「防弾検事」と言われるソウル中央地方検察庁の検事長で文氏がもっとも信頼する李盛潤(イソンユン)氏は、5月12日、職権乱用、権利行使妨害容疑で起訴された状態だ。検察組織のナンバーツーに当たるソウル地検検事長の起訴は史上初めてのことだ

 3番目に、国会の3分の2の議席を占める与党が、文氏退任後の安全な暮らしを保障する法的措置(憲法改正など)を取ることも考えられるが国民から支持されず、求心力低下が進む文氏のために自分の政治生命をかけようとする議員はいまのところいない。

 文氏が歴代大統領のような運命を辿るまいともがいてもその前轍を踏むのは間違いなさそうだ。

 



《かみや・またけ》

1961年京都市生まれ。東大教養学部卒。コロンビア大学大学院(フルブライト奨学生)を経て、92年防衛大学校助手。2004年より現職。この間ニュージーランド戦略研究所特別招聘研究員等を歴任。専門は国際政治学、安全保障論、日米同盟論。現在、日本国際フォーラム理事・上席研究員、日本国際問題研究所客員研究員、国際安全保障学会副会長。主な著作に『新訂第5版安全保障学入門』『新段階の日米同盟のグランド・デザイン』『日本の大戦略』など。

2021年4月5日号 週刊「世界と日本」第2194号 より

 

日米同盟は対等な「対中同盟」へ

 

防衛大学校教授 神谷  万丈

 

 3月16日の日米安全保障協議委員会(2+2)は、日米同盟が2つの意味で新たな段階に入ったことを実感させた。1つはこの同盟が、ついに双方がお互いの力を必要とし合う対等な同盟になったということだ。もう1つはこの同盟が、中国の突きつける安全保障上の挑戦に立ち向かうための同盟という性格を強めたことだ。
 最近まで、米国は日本を対等な安全保障上のパートナーとはみてこなかった。集団的自衛権の行使禁止をはじめとするさまざまな国内的制約により、日本が同盟国として十全の役割を果たすことができないことへの不満があったからだ。

 だが第2次安倍政権の誕生以降、状況は大きく変わった。安倍晋三前首相は日米同盟重視を唱えるとともに防衛費を増額し、集団的自衛権の行使を限定的に可能にする憲法解釈の変更に踏み切るなど、同盟強化のための方策を相次いで実行した。またトランプ政権下の米国が国際的リーダーシップを発揮できなかった空白を埋め、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想を提唱し「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」を締結に導くなど、自己主張を強める中国を前にアジアや世界の戦略的問題に対処する上で主導的な役割を果たした。その結果、ついに米国側も日本を対等な同盟国と認めるようになった。昨年12月に出された第5次アーミテージ・ナイ報告書は、2000年に最初の報告書を発表してから20年目にして初めて、日米同盟を「対等な同盟」と呼んだ。
 報告書で印象深かったのは、「日米同盟は……相互依存へと移行しつつある」というフレーズだ。これまで、日本が安全保障上米国の力を必要としているのに対し、米国にとっての日米同盟の価値は、日本の力よりも在日基地の戦略上の意義などが中心だと考えられがちだった。だが今や米国も、中国や北朝鮮などの挑戦に立ち向かう上で日本の力を必要とするようになっている。このフレーズにはそうした意味が込められている。今回の2+2は、バイデン政権が日米同盟をまさにそのような目でみていることを浮き彫りにするものだった。
 今回の2+2が、菅・バイデン時代における日米連帯の再確認を目指したことは確かだ。だがブリンケン国務長官は、会合の冒頭で「同盟を再確認するだけではなく実行するために日本に来ている」と述べたと報じられている。今回双方は、日米同盟がインド太平洋地域の平和、安全、繁栄の礎であり続けることを再確認し、拡大する地政学的な競争や新型コロナウイルス、気候変動、民主主義の再活性化といった課題の中で、FOIPとルールに基づく国際秩序を推進していくことで一致したが、右の発言は、これをレトリックに終わらせることなく着実に実践していかなければならないという米国側の決意と、そのためには日本の力が必要だという認識の表れとみることができる。
 中国の台頭などによる国際的な力のバランスの変動の結果、FOIPもルールに基づく国際秩序も、今や米国単独では達成できない。そこで重要になるのが、この8年積極外交を続ける同盟国日本の力だ。国務・国防両長官がバイデン政権の閣僚による初の外国訪問先として日本を選んだのも、菅義偉首相がバイデン大統領と対面式で会談する初の外国首脳となるのも決して偶然ではない。米国外交の中での日本の位置づけは、頼りにできる同盟国としてかつてなく重みを増している。日本にとっては好ましい変化だ。
 そこに、中国が「21世紀における最大の地政学的なテスト」(ブリンケン長官)だとの認識が重なる。日本側も「インド太平洋の戦略環境は以前とは全く異なる次元にある」(茂木敏充外相)と呼応する。日米同盟は、冷戦後はアジア太平洋地域の安定化装置であり特定の国に向けられたものではないとされてきた。だが今回の共同発表では、日米は中国の「既存の国際秩序と合致しない行動」への警戒を隠していない。「ルールに基づく国際体制を損なう、地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対する」との表現で、中国の力任せの国益主張や現状変更の試みに対抗する意思が明確にされた。中国海警法への深刻な懸念も明記され、尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用や、台湾海峡の平和と安定の重要性も強調された。香港や新疆ウイグルの人権状況にも懸念が示された。
 会合後の記者会見でブリンケン長官は、「中国が言い分を通そうとして強制や侵略を行った時に必要であれば押し返す」との決意を表明した。日米同盟が「再々定義」されたわけではないが対中同盟の性格が強まったといえるだろう。米国が経済的な考慮などから中国に甘過ぎる姿勢をとる可能性が低下したのは、やはり日本にとって好ましい。
 かくして日本にとって望ましい形で新段階に入った日米同盟だが、この状況を発展させるためには条件がある。まず、近年の積極外交の継続だ。FOIPを促進し続けること、その核として最近活性化が著しい日米豪印のクアッド協力でも主導権を発揮すること、コロナ、気候変動、人権などの問題に対応するための多国間協力でも積極的な役割を果たすこと。こうした取り組みを継続し、米国に日本の価値を認めさせ続けることが必要だ。
 安全保障努力のさらなる強化も不可欠だ。今回の共同発表には日本が「国家の防衛を強固なものとし、日米同盟を更に強化するために能力を向上させることを決意した」との文言が入ったが、米国はこれが実践されるかどうかを注視するだろう。新段階に入った日米同盟を「更に強化する」ためには、インド太平洋全域における日本の安全保障活動の拡大や、中国の「既存の国際秩序と合致しない行動」への抑止力と対処力を強化するための能力整備が求められる。
 日本国民がそれを負担増ではなく自国に必要な投資とみることができるかどうかが、今後の日米同盟のあり方を大きく左右しよう。

 


《おはら・ぼんじ》

1985年防衛大学校卒。98年筑波大学大学院(地域研究)修了(修士)。2003~06年、駐中国防衛駐在官。09年第21航空隊司令。11年IHS  Jane,s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャー。13年東京財団を経て、17年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』、『軍事大国・中国の正体』、『何が戦争を止めるのか』、『曲がり角に立つ中国』(共著)等多数。

 

2021年3月15日号 週刊「世界と日本」第2193号 より

 

バイデン政権  その姿勢は

是々非々の対中政策

 

(公財)笹川平和財団 上席研究員 小原  凡司

 

トランプ政権下の米中関係
 政権交代を伴うバイデン政権の誕生は米国の対中政策に変化をもたらすだろう。その変化を理解するために、まず、トランプ政権の対中政策を概観する。トランプ政権は、米中関係を新冷戦構造に導こうとするかに見えた。「『冷戦後』の終焉」の認識を示すかのように、信頼情勢枠組みから撤退すると同時に、経済的には中国製品を自身の市場から締め出し、軍事的にも圧力をかけ、ポンペオ国務長官(当時)の講演等によってイデオロギー対立を鮮明にして見せたのである。
 こうした米国の姿勢に対して中国は反発しながらも、米中新冷戦を回避しようとしてきた。全面的な米中対立が中国にとって不利になるからである。中国の目的は中国共産党による安定統治の継続であり、これが変わることはない。そのため、共産党は権威を誇示して国民の支持を得なければならい。中国は発展して強大になり「中華民族の偉大な復興」を成し遂げたと、目に見える形で国民に示さなければならない。この目的をいかに達成するかが戦略であり、理想である目的と制限を伴う現状のギャップを埋めるものだとも言える。目的は変化せずとも、状況が変化すれば戦略は変化し得るのである。

中国のバイデン政権に対する見方
 そして、バイデン政権の誕生という状況の変化が生じた。中国は、バイデン政権の閣僚等の発言や論文を分析し、その対中政策を見極めようとしている。中国は、トランプ政権が課した経済制裁が簡単には解除されないと認識しているが、米国が軍事力を行使しないという保証を得た上で、米国が中国の行動を妨害せず、協力の側面を強調するという状況を作らなければならないと考えている。中国では、「冷戦思考は米国の長期的な競争力を犠牲にする」と主張するサリバン・キャンベル論文などがその根拠として取り上げられている。また中国は、米国の経済界に対する世論工作等を強めれば、経済制裁の解除もあり得るという。
 「米中新型大国関係」という表現は使用されなかったが、2020年11月に習近平主席がバイデン氏に送った祝電の中に「非衝突非対抗、相互尊重、協力ウィンウィン」の3つが掲げられた。この3つは、2013年6月にパームスプリングスにおいて実施された米中首脳会談の中で、習近平主席がオバマ大統領(当時)に働きかけた「米中新型大国関係」の核心とされたものである。しかし、中国が創出したい状況は同様であっても、2013年当時に比して現在の中国の経済力および軍事力は飛躍的に高まっている。同様の状況を追求するにしても、米国や周辺国、さらには国際社会に対する中国のアプローチはより自信に満ちた強硬なものになり、時には攻撃的なものになるだろう。

変わらない対中強硬姿勢
 2021年2月4日、バイデン大統領は国務省において外交政策についての演説を行い、中国を「最も容易ならない競争相手」と呼び、「我々は、中国の経済力の乱用に立ち向かい、中国の攻撃的で威圧的な行動に対抗し、人権、知的財産、グローバル・ガバナンスに対する中国の攻撃を後退させる」と述べる一方、続けて「しかし、我々は、米国の利益になる時には中国政府と協働する準備ができている」とも述べた。
 バイデン政権の演説の内容は、是々非々の対中政策という政権の基本的な考え方を示すものだ。バイデン政権は、台湾問題でも中国に対して強い態度を示している。2021年1月23日、米国務省は、中国が台湾を含む近隣諸国や地域の威嚇を図っていると「懸念」を表明し、中国政府に対して台湾への軍事、外交、経済的な圧力を停止し、台湾との「意味ある対話」に取り組むよう促す声明を発表している。

空白は中国に有利
 一方でバイデン政権は、気候変動問題では中国との協力を模索するだろう。さらに、バイデン政権の対中政策やインド太平洋への関与の方針が固まるまでに6カ月から1年程度の時間がかかる可能性がある。中国は、この期間に能動的に動けば、米中関係において中国が優位な位置を占めることができると主張する。
 実際に中国は、対外政策の方針が固まった米国が中国と向き合おうとした時に、中国に対して軍事力を行使したり、中国を国際社会や市場から排除したりすることができない状況を創出しようとしている。中国は、投資に関する合意を結んで欧州との経済協力を深化させ、王毅外相が歴訪するなど東南アジア各国に対して積極的な外交攻勢をかけるとともに、軍事力増強にも余念がない。
 バイデン政権は、トランプ政権が課した対中経済政策を継続すると考えられており、ウイグル族等少数民族に対する人権侵害や台湾に対する軍事的圧力に関して中国を非難しているが、具体的な政策や行動を取るまでに時間がかかれば、自らに有利な状況を作る時間を中国に与えることになりかねない。さらに、バイデン大統領やサリバン大統領補佐官が用いる「中産階級のための外交政策」といったスローガンは、バイデン政権が経済安全保障を重視する意図を示すものと考えられ、中国に対して経済的圧力を継続する一方、軍事力の行使が米国中産階級の利益にならないと認識される可能性もある。

日本がなすべきは
 しかし、バイデン政権が日本にとって有利か不利かを議論することに意味はない。バイデン大統領は選挙によって米国民が選択した米国の政治指導者である。日本がなすべきは、バイデン政権を批判することではなく、米国が引き続き「自由で開かれたインド太平洋」構想に積極的に関与するよう外交努力を継続することである。日本単独の対米、対中影響力は限定的であることから、欧州や豪州といった米国の他の同盟国、インドや東南アジア諸国といった友好国との協力も不可欠である。そして、米国および中国に対する日本の影響力を向上させ、他国に日本との協力の必要性を認識させるためには、日本自身の外交力、経済力、軍事力を高い水準で維持しなければならない。

 


《むらた・こうじ》

1964年、神戸市生まれ。同志社大学法学部卒業、米国ジョージ・ワシントン大学留学を経て、神戸大学大学院博士課程修了。博士(政治学)。広島大学専任講師、助教授、同志社大学助教授を経て、現職。専攻はアメリカ外交、安全保障研究。サントリー学芸賞、吉田茂賞などを受賞。『現代アメリカ外交の変容』(有斐閣)など著書多数。

 

2021年3月1日号 週刊「世界と日本」第2192号 より

 

バイデン 限られている持ち時間

カギは国内再建の成否

 

同志社大学法学部教授 村田 晃嗣 氏

 

 様々な混乱の末、2021年1月20日にアメリカでジョー・バイデン民主党政権が発足した。78歳と史上最高齢の大統領の登場である。南北戦争以来、最も困難な状況の下での大統領就任と言われている。おそらく、バイデンは1期4年で退任しよう。しかも、少なくとも最初の1年はコロナ対策で忙殺されるし、22年11月の中間選挙で敗れれば、早くもレイムダック化する。持ち時間は限られている。

 

 バイデン大統領は長い政治経験を持ち、対立や怒りではなく妥協と中庸の人である。高齢という共通点を別にすれば、個人的資質では、前任者のドナルド・トランプと好対照である。

 しかし、トランプがバラク・オバマ政権のレガシーを強く否定したように、バイデンも政権発足直後に数々の大統領令を発して、トランプ政治を覆していった。

 また、民主党の支持基盤や党内左派に配慮して、バイデン政権は多くのマイノリティーを起用している。文化的、社会的属性をめぐる争い、「アイデンティティー・ポリティックス」は、バイデン政権にも継承されている。カマラ・ハリス副大統領は、初の黒人、アジア系、女性の副大統領であり、多様性の象徴である。2024年の大統領選挙で彼女が民主党の大統領候補になれば、共和党内のトランプ派は反発を強めるであろう。

 さらに、バイデン政権は対中政策でもトランプ政権の強硬路線を概ね継承することになろう。アントニー・ブリンケン国務長官やロイド・オースティン国防長官ら主要閣僚も、中国への強い警戒心を表明している。リチャード・ニクソン以来の対中関与政策を、トランプは大きく軌道修正した。しかも、ヘンリー・キッシンジャーなしに。

 トランプ政権内には、ブリンケンやジェイク・サリバン(国家安全保障担当大統領補佐官)、カート・キャンベル(インド太平洋政策調整官)のように、日米同盟を機軸に中国に対処しようとする同盟派と、ウイグルや新疆、チベット、香港での人権問題、民主化問題を重視する人権派、地球環境問題などグローバル・アジェンダで米中協力を模索する環境派が共存している。とはいえ、コロナ・パンデミック以降、世論は総じて中国に否定的である。バイデン政権内の合従連衡でも、当面は同盟派が中心となろう。

 2028年とも予測されるGDPでの米中逆転、軍事技術での中国の急速な追い上げに直面して、これは現実的な対応である。サリバンが指摘するように、勢力均衡を考慮すれば、同盟関係や多国間協力はアメリカの「武器」なのである。また、バイデン政権は米ロ関係の改善にも意欲を示している。ただし、ニクソン・キッシンジャー外交のように戦略的三角形を操縦するには、相当の力量が求められる。

 このような外交課題を抱えながらも、バイデン政権は当面、国内再建を最優先せざるをえない。国内インフラの整備や教育への再投資なしには、中国との競争を勝ち抜くことはできない。あくまで国内再建を優先させつつ、同盟重視の対中政策で時を稼ぎ、人権や環境問題でアクセルとブレーキを踏む―これがバイデン政権の構図であろうか。

 イギリスの前首相ウィンストン・チャーチルが「民主主義は最悪の政治形態である。ただし、過去に試みられた他のすべての政治制度を除いては」と語って、逆説的に民主主義を礼賛したことはよく知られる。「アメリカ人は常に正しいことをする。ただし、他のあらゆる可能性を試みた後に」とも、そのチャーチルは述べている。試行錯誤を重ねながらも、アメリカ人は最後には成功を手にする、という確信である。

 地理学者のジャレッド・ダイアモンドも、アメリカの恵まれた地理的環境と豊かな天然資源、人口増大などを指摘して、「中国やメキシコがアメリカを破壊することはできない。アメリカを破壊できるのはアメリカ人自身だけである」と喝破している。むしろ、アメリカが中国との競争を勝ち抜いた後に、トランプ流の外交レバレッジを再活用し、果てには「ならず者の超大国」になるのではないか、と懸念する専門家もいる。

 他方、中国はすでに生産人口の大幅な減少局面に突入し、世界一のGDP大国になる頃に世界一の人口大国の地位をインドに譲り渡す。人口性比(女性100人当たりの男性数)も105といびつである。

 実は、日本も人口減少に苦しみながら、すでに総人口の2.3%を外国人が占めるようになっている。2050年には、日本の総人口は1億人を割り、その1割が外国人との予測もある。性的マイノリティーも社会的存在感を増している。「アイデンティティー・ポリティックス」は、日本の問題にもなりつつある。われわれはアメリカの国内的対立と和解への努力から学びつつ、アメリカの国際的関与を促す努力を一層重ねなければならないのである。

 日本でも昨年9月に、菅義偉内閣が成立した。菅首相とバイデン大統領はともに70代、優れた実務家であり、年下の上司を支えてきた経験もある「苦労人」である。長期的には地球環境問題への対処、短期的にはコロナ対策と政策アジェンダも共有している。安倍晋三前首相とトランプ前大統領のような良好な関係を構築することは可能であり、また大いに必要でもある。もし今年9月の自由民主党総裁選挙で菅首相が再任されれば、2024年9月まで菅内閣が続く可能性もある。同年11月にはアメリカも大統領選挙を迎える。そうなれば、日米両国政府は時間軸を共有しながら政策調整を行い、次のリーダーを育成することができる。

 しかし、コロナ対策の遅れや相次ぐスキャンダルから、菅内閣の支持率は低迷している。来るべき衆議院選挙で自民党が現有議席数(282議席)を維持することはどのみち至難の業だが、単独過半数(233議席)を確保することは容易である。「菅首相では選挙は戦えない」という議論は、ボーダーライン如何によるイメージ論という側面が強い。コロナ対策の成否が菅内閣の命運と日米関係の将来をたぶんに左右することになろう。

 


《わたなべ・つねお》

1963年生まれ。東北大学歯学部を卒業。歯科医師を経てニュースクール大学(ニューヨーク市)で政治学修士。戦略国際問題研究所で上級研究員を務めた。2005年に帰国、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、現職。戦略国際問題研究所非常勤研究員を兼任。近著に『2021年以後の世界秩序』(新潮新書)がある。

 

2021年2月15日号 週刊「世界と日本」第2191号 より

 

遠い団結への道のり

バイデン選出「天の配剤」

 

(公財)笹川平和財団上席研究員 渡部 恒雄 氏

 

 1月20日、米国ではバイデン新大統領が就任演説を行った。演説の中心テーマは、米国の団結だった。それは、1月6日に「トランプ大統領は不正な選挙によってバイデン候補に敗れた」と信じる暴徒による議事堂への乱入で5人の死者が出た事件を反映している。バイデン氏は「数日前、暴力が議事堂の土台を揺るがそうとしたこの神聖な場所で、我々は、神の下、分かたれることのない1つの国家として結集し、2世紀以上続けてきたように、平和的な権力の移行をしている」として、民主主義の勝利と国民の団結を訴えた。

 

 ただし、実際の団結への道のりは遠い。1月10日から13日に行われたワシントン・ポスト/ABC共同世論調査によれば、回答者の32%および共和党支持層においては7割が「バイデン氏は大統領選で正当に勝利しなかった」と考えている。

 このような状況で共和党議会の与党民主党への協力が和解の鍵となる。通常、新大統領就任後、100日間ぐらいは「ハネムーン期」といって、野党議会もある程度反対姿勢を控える。

 通常であれば、大統領選挙で勝利した与党は、大統領の人気に便乗する形で、議会選挙でも議席を増やすことが多い。これは大統領のコートの裾に乗って当選するという意味で「コートテール効果」というが、今回、上院では1月5日のジョージア州決選投票での民主党2議席勝利の結果を受けて、民主党対共和党が50議席対50議席の同数で、カマラ・ハリス新副大統領による1票だけの過半数である。下院でも民主党222対共和党211のわずか11票差の過半数だ。今回、バイデン氏のコートテール効果はほとんどなかった。当然ながら、政府高官の承認や法案審議で共和党議会の影響力は大きくなる。

 しかも民主党内も一枚岩ではない。バイデン氏は中道派だが、バーニー・サンダース上院議員らの党内左派と昨年の民主党予備選で指名を争い、米国の民主主義を壊しかねないトランプ大統領を打倒することで合意して、サンダース支持の左派がバイデン支持でまとまった経緯がある。しかし共通の敵であるトランプ氏が退場した後、バイデン政権は政策に乖離がある左派を繋ぎとめることも必要だ。党の分裂は、それでなくとも薄氷の議会の過半数を、2022年11月の中間選挙で、共和党からより深刻な挑戦を受けることになる。

 現在、バイデン政権は、共和党議会と党内左派の両にらみで政権運営を行っている。例えば、イエレン前FRB(連邦準備制度)議長の財務長官指名は、両にらみの産物だ。彼女はオバマ政権からトランプ政権にかけてのFRB議長として、安定した経済成長を支えた人物として、共和党議会と市場の信認がある人物である。同時に、貧富の格差是正に大きな関心を持つ労働経済学者としての顔は民主党左派からの信任も得られた。

 バイデン政権の最大の課題は、コロナ感染対策と、コロナ感染から深刻なダメージを受けている経済、特に雇用の回復だ。バイデン大統領と民主党議会は、1兆9000億ドルという大規模な追加経済対策の実現のために、議会で共和党と協議している。しかし、小さな政府を志向し、かつバイデン政権の正統性に疑いをもつ支持者が多い共和党の合意を得ることは難しい。実際、トランプ前大統領に最も批判的な共和党のミット・ロムニー上院議員ですら、国家財政に大きな負担となる1兆9000億ドルという規模には疑問を持っている。これらの大規模な政府支出は、その財源として、バイデン氏が提案している法人税増税や高所得者層への増税に繋がりかねず、それは「小さな政府」を志向し、高所得層を支持基盤とする共和党議員には容認できないからだ。

 このような中で、民主党上院は、共和党との歩みよりのために、「パワーシェアリング」という協議を行っている。これは、上院で50対50の同数で副大統領の1票だけの過半数の与党民主党が、本来ならば上院の委員長ポストを独占できるところを、共和党側にも委員長職をシェアすることで、協力を求めることだ。

 民主党としては、与党が60議席を確保すれば防げる野党のフィリバスターと呼ばれる議事妨害を、このパワーシェアリングにより、回避したいと考えていたようだ。実際に、このパワーシェアリングは2000年の上院で50対50の議席になり、副大統領の1票差の与党だった共和党が、民主党に持ち掛けて実現したことがある。

 このようにバイデン政権と民主党は、共和党との一定の歩み寄りを図っている。例えば、トランプ前大統領が1月6日の議事堂乱入の暴動を扇動したことに対して、下院は2度目の弾劾決議を通したが、上院での弾劾裁判開始について、民主党は1月中の開始を予定していたが、共和党はトランプ前大統領に十分な準備期間を与えるように要求していた。民主党はこれを受け入れ、2月8日からの開始となった。この妥協によりバイデン政権の政権人事に共和党からの協力を期待したが、これまでのところ、ヘインズ国家情報長官、オースティン国防長官など、共和党側が指名に難色を示す可能性がある閣僚人事においても、共和党上院は協力的で、2人の就任は承認された。

 ただし、2月からのトランプ氏への弾劾裁判は、バイデン政権にとって両刃の剣である。共和党内には依然として根強いトランプ支持者がおり、国内の分断を深めかねない。一方で、マコネル上院院内総務などの共和党指導部がトランプ氏の弾劾に投票すれば、弾劾が成立しなくとも、共和党が分裂含みとなり、民主党の議会運営は大分楽になる。

 そもそもアメリカ国民を分裂させ、共和党支持者の多くをトランプ支持に向かわせた背景の1つには、議会の機能不全と、それに対する国民の信頼低下という要素がある。ジェラルド・フォード大統領(1974―1977年)以来の生粋の「議会人」であるバイデン氏が大統領に選ばれたのは「天の配剤」かもしれない。国民の分断を回避するためには、議会における党派間協力が最優先課題だからだ。

 


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