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防衛・安全保障チャンネル

防衛・安全保障チャンネルは、1976年に始まった『国防論』の延長線上にある企画です。『なぜ今必要なのか?集団的自衛権の(限定的)行使』の刊行等、これらの難解な問題を皆様に十分理解していただける内容となっております。

《かわの かつとし》

1954年、北海道生まれ。防衛大学校を1977年に卒業し、海上自衛隊に入隊。護衛艦隊司令官、統合幕僚副長、自衛艦隊司令官、海上幕僚長を歴任。2014年に第5代統合幕僚長に就任。2019年4月、退官。2020年9月に『統合幕僚長 我がリーダーの心得』(ワック)を出版。

インド太平洋の安定と日本の抑止力

前統合幕僚長 河野 克俊 氏

週刊「世界と日本」2021年10月18日 第2207号より

 

1 「自由で開かれたインド太平洋構想」と中国の海洋進出。

 

 1949年に建国された中華人民共和国(以下中国という)は、毛沢東の下、幾多の混乱を経て、鄧小平が実権を握った。そして1970年代後半から、いわゆる改革開放路線に舵を切り、今や世界第2の経済大国となった。

 国家の経済発展が海軍力増強と海洋進出を伴うのは、ある意味、歴史的必然とも言える。

 なぜなら、経済発展をすれば、そのための海洋権益が必要となり、通商交通路としてのシーレーンの安全確保も必要になる。その意味で中国が海洋進出することについては理解できる。問題は海洋に対する中国の考え方である。

 海洋は本来自由というのが国際法の精神だ。領土、領空に他国が無断で侵入すれば、絶対にアウトだが、領海については条件付きだが基本的にセーフである。したがって「自由で開かれたインド太平洋構想」の基本理念は、「みんなのものである海洋を利用して、みんな楽しく仲良く豊かになりましょう」というものだ。その意味で本構想は、地域の経済的繁栄を目指したもので、本来中国包囲網ではないはずである。

 ところが中国は、太平洋・東シナ海及び南シナ海で第一、第二果ては第三列島線そして九段線と勝手に線を引き「海洋の自由」に反する行動に出ている。要する国際法に基づく「海洋の自由」という価値観を中国が共有していないことが大問題なのである。

 地域の経済的繁栄を目指すためには、海洋の平和と安定が保たれていることが前提である。そのためにも中国の国際法を無視した海洋における勝手な振る舞いを極力抑制しなければならない。そこで価値観を共有し、あるレベル以上の海軍力を保有している国々が連携することが必要になってくる。そのための枠組みが日米豪印のクワッドだと考えている。これにさらに米英豪(AUKUS)の枠組みが加わることになる。いずれはこの2つの枠組みが合流して5カ国の枠組みになることが望ましいと思う。いずれにしても、各個撃破を狙う中国に対しては、多国間で当たることが得策だということだ。

 

2 日本の戦略環境の変化

 

 4月17日未明(日本時間)、日米首脳会談がワシントンで行われた。ここでやはり特筆すべきは、日米共同声明の中に「台湾海峡の平和と安定の重要性」が明記されたことであろう。

 冷戦時代の世界の安全保障の最前線は、米国を中心とするに西大西洋条約機構(NATO)とソ連を中心とするワルシャワ条約機構が対峙するラインであった。しかし、今や世界の安全保障の最前線は第一列島線に移り、日本は、好むと好まざるとに関わらず冷戦時代の西ドイツのような位置に「立っちゃった」のである。なぜなら、米国が中国を脅威ナンバーワンに据えたからである。「立たされた」となるとあまりに自主性に欠け情けない。「立った」となると、今のところそこまで自発的かとなると少し疑問が残るので、やはり「立っちゃった」が実態に合っているように思う。

 バイデン大統領は、同盟国重視を打ち出した。しかし、これは米国が同盟国を庇護するということではなく、同盟国と一緒にやりましょうということだ。つまり同盟国もそれ相応の責任を果たせということである。この観点からすれば、米国の対中戦略上の最大のパートナーが地政学的にも、価値観、国力等の観点からも日本であることは自明である。

 

3 日本の抑止力の構築

 

 このような日本を取り巻く戦略環境の変化を受けて日米同盟のあり方も見直す必要がある。

 日米同盟は、本来あくまで日本防衛のためのものであったが、今後は日米が共に協力して地域の平和と安定を創造する同盟に発展させていかなければならない。そのためには日本は防衛力の増強とともに安全保障上の役割を拡大し、日米がともにリスクと責任を分かち合う関係にすることが必要である。

 台湾有事が起きれば、南西諸島も含めて1つの戦域になることは軍事的には常識だ。すなわち、台湾有事は日本有事になる可能性が極めて高い。

 台湾という日本のシーレーンを扼する戦略的位置を考えると、台湾が今のような我々と価値観を同じくする民主主義国であってくれた方が日本の国益に明らかに資する。

 それでは、中国による台湾武力統一を起こさせないためにはどうすればよいのか。それは中国に対する抑止力を強化し、台湾進攻のリスクを中国に認識させることである。

 ここでは抑止力の観点から中距離ミサイルに焦点を絞りたい。米国にとって中距離ミサイルのギャップを埋めることは喫緊の課題だ。将来的には第一列島線への中距離ミサイルの配備が議論されることになろう。その際、米国の中距離ミサイルの配備とともに、日本独自の中距離ミサイルの配備も求めてくる可能性がある。それは「同盟国と一緒にやりましょう」というのが米国の考え方だからだ。その場合、日本では専守防衛の観点から大議論になるはずである。しかし、これを契機に日米同盟の「盾」と「矛」の関係を見直すべきだ。これは簡単に言えば日本は専守防衛の観点から基本的に防御だけ、攻撃はアメリカに依存するというものである。もちろん日本は他国を攻撃する国であってはならない。その意味で、戦略的専守防衛の国であるべきだ。しかし、他国の攻撃によって、日本の国民の安全が脅かされるときには戦術的攻撃は認められるべきだ。それもすべて米国に依存するというのでは国家の品格に欠ける話だ。

 第一列島線への中距離ミサイルの配備は通常弾頭でも大きな抑止力になることは間違いない。なぜなら、こちらの中距離ミサイルは中国本土を射程に収めるが、中国のミサイルはアメリカ本土を射程に収めることはできないからだ。これが引いては日本の抑止力を高めることにもなる。つまり、INF条約によって地上発射型中距離ミサイル全廃へと導いた当時のヨーロッパの戦略環境と同じ状況を創り出すことができるのだ。

 いずれにしても米国から言われたからではなく、日本独自の判断で通常弾頭中距離ミサイル配備の問題をとらえるべきである。

 


《やまだ・よしひこ》

1962年千葉県生まれ。学習院大学卒業後、金融機関を経て日本財団に勤務。海洋グループ長、海洋船舶部長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院にて博士号(経済)を取得。2008年東海大学海洋学部教授。専門は海洋政策、海洋安全保障、離島経済。15年、海洋問題に関する評論により正論大賞新風賞受賞。主な著者は『日本の国境』(新潮新書)、『日本は世界4位の海洋大国』(講談社)など多数。

必須 独自の難民対策の樹立

東海大学海洋学部教授 山田 吉彦 氏

週刊「世界と日本」2021年7月19日 第2201号より

 我が国は、四方を海に囲まれた海洋国家であるがため、歴史的にみても難民および不法入国者への対応が定まらず、難民政策は脆弱である。近年、欧州におけるシリア難民、アジアにおけるロヒンギャ難民の問題が発生し、我が国においても、入国管理法の改正が求められ、難民に相当する外国人の受け入れ、不法入国者、不法滞在者の処遇に目が向けられている。

 

 近年は、人権問題が重要しされ、難民および不法入国者の対処には慎重を要する。しかし、これまで我が国に、難民として入国しようとした中に偽装難民が多く存在していたことも判明している。さらに北朝鮮からの工作員の侵入などの事件があり、不法入国の取り締まりに時間と労力を割いているのが現状である。

 第2次世界大戦直後、我が国は、朝鮮半島からの大量の不法入国者の流入に苦慮した。朝鮮戦争における紛争地から難を逃れてきた人々と、ビジネスによる一攫千金あるいは職を求めて日本への流入を目指す人々が混在していたのである。戦後の混乱状態にあったため、厳密な難民か不法入国かの区別もなく、入国を黙認せざるを得なかった。さらに、この入国者たちは日本にコレラを持ち込み、朝鮮半島に近い九州をはじめとして国内全域において大混乱を招く一因となった。

 1948年に創設された海上保安庁は、朝鮮半島からの感染症の流入を防ぐため、不法入国者を取り締まる必要性からGHQにより創設が指示されたといわれている。

 1952年1月、韓国の初代大統領・李承晩が、同国の一方的な主張により「海洋主権宣言」を発し軍事力を背景に、国際法に反した境界線いわゆる「李承晩ライン」を設定した。このことにより、朝鮮半島からの不法入国は落ち着いたが、李承晩ラインに厳格な対処を怠ったため、竹島問題をはじめとした日韓の境界が未だ問題になっている。

 朝鮮半島からの不法入国が収まると、海を越えた不法入国や難民の流入は極めて少なくなったが、時を経て東シナ海を越えて来る外国人の問題が発生した。

 1975年4月30日、ベトナム戦争終結時、旧ベトナム共和国(南ベトナム)から多くの人々が国外へ逃亡し難民となった。これらの人々の多くは、船に乗り新天地を目指し、「ボートピープル」と呼ばれた。当時、香港が受け入れたベトナム難民は20万人といわれている。そして、小型船で逃げた人々は、遠く日本まで流れ着いた。

 75年、日本へ漂着したボートピープルは、9隻126人であった。76年11隻247人、77年には25隻833人、その後も増え合計1万1000人以上のベトナム難民を受け入れている。ボートピープルの日本漂着は、1980年にピークを迎え、その後は、減少していた。しかし、1989年、再びボートピープルの漂着が増加したのだ。

 主に流れ着いたのは、九州各県の海岸であった。当時の様子を長崎県五島列島の小値賀島で調査をした。小値賀島の人が記憶しているのは、同島の沖15㌔㍍にある孤島・<RUBY CHAR="美良","びりよう"><RUBY CHAR="島","しま">が、89年5月29日、アジア系の人々に占拠されてしまったというのだ。美良島は、東西、南北、それぞれ1㌔㍍ほどの東シナ海に浮かぶ小さな島だ。この島に、長さ20㍍ほどの小型の木造船が漂着し、この船には107人もの人が足の踏み場もないほどに乗っていた。乗船していた人々は、美良島に上陸し、実質的に占領したのである。

 この年、東シナ海に面した九州各県のみならず、日本海沿岸の鳥取県にまでボートピープルが漂着し、漂着事案は、22隻2804人に上り、漂流しているところを発見され洋上で救助された者も含めると3498人のボートピープルを保護している。

 同年8月に、熊本県の天草諸島牛深に、167人の外国人が漂着し上陸を始めた。地元の人々は、警察に通報したが、漂着民の内、28人がすでに姿を消していたのだ(翌日までに全員を保護)。

 当初、漂着した外国人は、本人の供述によりベトナムからの難民であると考えられていたが、翌年、中国人留学生の女性から「上陸した漂着民のなかに自分の夫がいる」との申し出があり、入国管理局がボートピープルを再調査した。その結果、漂着した2804人のボートピープルは、ほぼ全員が中国人であり、主に中国福建省を密出国した偽装難民であることが判明した。

 当時、中国では1978年以降鄧小平の指導の下、改革・開放政策が導入され、一時、経済が自由化に向かった。しかし、急速な自由化の進展を警戒した中国政府は、自由化の抑制を始めた。1989年には民主化を求めて天安門広場に終結した人々を、共産党政権が武力鎮圧する六四天安門事件が起き、海外に逃げ出す人が現れたのだ。

 その動きの中で、「蛇頭」と呼ばれる犯罪組織が、福建省を中心とした中国人に偽造のベトナムの出生証明書などを与えベトナム難民を装い、日本へ送り込んだ。日本に不法入国した偽装難民は、翌91年6月までに、1520人が中国に強制送還されている。

 海上保安庁による沿岸監視の強化などにより、偽装難民の動きは断ち切れたが、その後も中国からは、貨物船や漁船を使っての密入国、偽装留学など、新手の密入国が後を絶たなかった。そして、一部の不法入国者や不法滞在者が犯罪組織を作り、多くの薬物事件や暴力事件を起こしている。

 難民および保護・収監中の外国人に対する人権的な配慮は不可欠である。我が国は、欧州を始めとした諸外国とは、海に囲まれているという地理的要件や宗教観等において大きな隔たりがあり、独自の難民政策が必須である。また、我が国が政治難民を受け入れたとして、警備体制・保護システムが整わず、国内においての安全を保証することは難しいのが現実だ。

 現在、我が国には大量の難民を受け入れる施設、不法入国者を収容する施設は少なく、早急に対処すべきである。また、難民か不法入国者・滞在者であるかの判断も迅速化しなければならない。東アジア情勢が不安定な状況下において、朝鮮半島および中国、台湾において騒乱が発生した場合に備えた難民対応を準備する必要があると考える。

 


《やまだ・よしひこ》

1962年千葉県生まれ。学習院大学卒業後、金融機関を経て日本財団に勤務。海洋グループ長、海洋船舶部長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院にて博士号(経済)を取得。2008年東海大学海洋学部教授。専門は海洋政策、海洋安全保障、離島経済。15年、海洋問題に関する評論により正論大賞新風賞受賞。主な著者は『日本の国境』(新潮新書)、『日本は世界4位の海洋大国』(講談社)など多数。

中国の海洋支配 尖閣諸島を守り抜け

東海大学海洋学部教授 山田 吉彦 氏

週刊「世界と日本」2021年5月24日 第2197号より

 中国の尖閣諸島侵出は、最終局面に近づいている。恒常的に海警局の警備船が我が国の接続水域内を航行し、月に3回程度の割合で領海にまで侵入している。さらに、領海内において我が国の漁船を追尾し、海域から排除する行動に出ている。これは、尖閣諸島に中国が主権を持っているかの行為であり、日本政府は早急に排除しなければ、領土および管轄海域を失うことになり、周辺で活動する国民の安全を脅かしているのだ。

 

 国際法では、船舶は他国の領海内においても沿岸国に害を及ぼす可能性がなければ、自由に通航することが許されている。無害通航権と呼ばれるものである。

 中国警備船の行動は、日本の漁船の行動に危害を加えており、無害通航に当たるものではない。しかし、日本の海上保安庁は、海域からの退去を勧告するだけである。海保は、原則として、他国の公船に法執行することは許されていないのだ。尖閣諸島周辺における中国海警局の勢力は日本の海上保安庁の体制を上回り、その行動は過激さを増している。いずれ、漁民だけでなく、海保の巡視船さえも排除する動きを見せるだろう。

 中国の尖閣諸島への侵出の目的は時代と共に変遷している。1970年代は、東シナ海に眠る海底油田の利権を獲得することが主な目的であった。1990年代以降は、中国の経済が発展し、対外貿易を担う海上輸送路の確保、管轄海域の拡大を目指した。そして、現在は、中国にとって「核心的利益」である台湾を攻略するための戦略の中で尖閣諸島の獲得に向け突き進んでいる。中国の最高指導者である習近平は、香港の取り込みに成功し、次なる目的を台湾の制圧に向けている。中国共産党にとって、台湾の制圧は悲願である。その目標の達成には、台湾の北側における日米の軍事的優位性を排除しなければならない。海底資源の確保や管轄海域の拡大は、あわよくば手中に収めたいというレベルであったが、台湾問題が絡むと尖閣諸島の意味合いも変わる。尖閣諸島は、「取りたい島」から「取らなくてはならない島」に代わっているのだ。

 中国は台湾への軍事的な野心を隠さず、航空機や航空母艦などを周辺に派遣するなど挑発的な行動を続け、台湾と親密な関係にある日米両国にとり、看過できる限界を超えている。今月行われた日米首脳会談においては、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と共同声明に明記し、中国の過激な動きをけん制した。

 特に世界がコロナウイルスの被害に苦しみ始めてから、中国の海洋侵出が加速し、常軌を逸している。今年、フィリピンなどと管轄権を争う南シナ海スプラトリー諸島周辺海域に、200隻を超える1000㌧級の漁船を並べ、この海域を実効支配していることを示した。この時、洋上にいた中国漁民は1万人を超えていた。中国の遠洋漁業に携わる漁民の多くは、所属する企業単位で中国当局に管理され、その指示のもとに活動する。また、彼らは、軍事訓練を受けているため海上民兵と呼ばれる。海上民兵は、武装もせずに他国の海域に侵入し、海域のみならず領土さえも占領する。1998年、フィリピン・ルソン島の西約230㌔㍍にありフィリピンが領有権を主張するスカボロー礁では、4隻の中国漁船が送り込まれた。この漁民をフィリピン軍が拘束したところ、人民の保護の名目で中国海軍の攻勢が始まった。そして、武力に勝る中国は、2012年までに実効支配体制を完了し、翌2013年には軍事施設を建設している。いずれ尖閣諸島にも同様な施策をとることが考えられる。

 2018年中国の海上警備機関である中国海警局は、中央軍事委員会の指導を受ける武装警察部隊に編入され軍事組織に変貌した。さらに、今年2月には、海警法を制定し、海警局を中央軍事委員会の命令に基づき「防衛作戦」を担う機関に位置付けている。海警局は、国家の主権や管轄権が、他国の組織、個人に侵害されたとき、武器の使用も含めたあらゆる必要な措置をとることとされ、さらに、中国の許可を受けずに中国の島・岩礁などに建設した構築物は、強制的に取り壊すことができるとした。海警法は、国連海洋法条約に抵触する可能性が高いが、中国にとって国際法は意味を持たない。中国は、独善的な国際法解釈を行い、自国の正当性のみを主張するからだ。実際に、2016年、中国の九段線による南シナ海の支配を否定した仲裁裁判所の判決を、紙くずと述べ黙殺したのだ。

 中国海警法の想定は、海保との対峙にある。海保に力ずくで立ち向かう宣言をしたのだ。

 日本国内には、日米安全保障条約第5条1項に基づき、米国の行動に期待する考えもある。しかし、我が国が行動を起こす前に米国が動くことはない。また、中国が島を占領し、日本の施政権を奪ったならば、米国が見解の変更をすることも考えられる。さらに、同条2項では、日米安全保障条約に基づいた行動は、速やかに国連安全保障理事会に報告することになっている。しかし、中国は安保理の常任理事国であり、中国との紛争を報告することにも無理があり、国連の崩壊へとつながることになる。尖閣諸島は、他国に頼らず自力で守れる体制を作らなければならないのだ。

 4月20日、自由民主党議員による「尖閣諸島への公務員常駐実現に向けた勉強会」が開催された。施政権を国の内外に示すために、国の機関を置き公務員を常駐させることを目指す。自民党は「2012年政策集」において、尖閣諸島における公務員の常駐を政策として決定している。しかし、9年の年月が経っても、政策は実行されず、尖閣諸島の危機はさらに深まった。ようやく、責任感のある議員が行動に転じたのだ。

 今、我が国が尖閣諸島を守り抜くことは、台湾をはじめアジア全域の平和と安定に寄与するものである。また、今すぐにでも動かなければ、事態がさらに悪化することは必定だ。胆略的な日中友好を重視するのではなく、将来を見据えた安全保障戦略を優先すべきと考える。

 


《やまだ・よしひこ》

1962年千葉県生まれ。学習院大学卒業後、金融機関を経て日本財団に勤務。海洋グループ長、海洋船舶部長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院にて博士号(経済)を取得。2008年東海大学海洋学部教授。専門は海洋政策、海洋安全保障、離島経済。15年、海洋問題に関する評論により正論大賞新風賞受賞。主な著者は『日本の国境』(新潮新書)、『日本は世界4位の海洋大国』(講談社)など多数。

危機 海の安全保障情勢

東海大学海洋学部教授 山田 吉彦 氏

週刊「世界と日本」2020年10月5日 第2182号より

 海洋国家日本は、有史以来、国家の危機は海を越えやってくるのが常である。2020年、本来であれば、東京オリンピック、パラリンピックで国全体が盛り上がり、好景気に酔いしれているはずだった。しかし、2019年の年末に中国の武漢市を発信源として新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界を恐怖のどん底に陥れた。

 

 日本においては、外航クルーズ客船ダイヤモンド・プリンセス号での船内クラスターの発生で一躍問題視されはじめると、国内での感染者数が急速に増加し、4月7日、政府は新型インフルエンザ等特別措置法に基づき、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言を発令し、同月16日には対象を全国に拡大した。この発令により、在宅勤務が奨励され、旅行など移動および飲食店や劇場・映画館、スポーツジムなど人が集まり感染が予想される施設の開業、営業の自粛が求められ、日本全国が火の消えたような状態となった。

 欧州においては、日本どころの騒ぎではなかった。EUの拡大により国境の壁が低い、欧州では瞬く間に感染が広がり、島国英国にも伝搬した。英国では、過去の感染症の経験からコロナウイルスを封じ込めることは無理だとして「緩和」策をとったが、4万人を超える死者を出した。新型コロナウイルスは、海を越え米国においても蔓延し、さらに恐ろしい事態となった。米国では、8月末時点で600万人を超える感染者、19万人の死者を出すに至った。

 そのような状況下において、発信源とされる中国では、感染者数8万5千人、死者5千人弱と比較的被害が少なく、一時期は武漢市の都市封鎖など大胆な施策をとったが、社会的な回復は早かった。

 世界中の国が自国の感染症対策に翻弄されている中、中国は海洋強国に向けた施策の推進を急いだ。6月30日、香港において国家安全維持法を制定し、香港における言論の自由を制限し、政府に対する抗議活動を封じ込めた。香港では英国から中国に返還された際、50年にわたり継続が認められた自治が事実上消滅し、1国2制度も崩壊した。この法律では、「外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為」を禁じ、この法は、外国人にも適用されることになっている。例えば、尖閣諸島は日本の領土であると主張し、領土保全の活動をする日本人が、香港、あるいは中国の影響を受ける地域に訪れた場合、逮捕される可能性もあるのだ。当然、南シナ海における中国の九段線による支配を否定し、航行の自由を守る行為も無期懲役の厳罰に値するものだ。

 外航海運の世界は、船籍国が船上の行政権、司法権を持つ。香港船籍と中国船籍が一体となることで、中国の支配下に置かれる外国船は、全体の15%となり、パナマに次いで船籍数の多い国となり、世界の海運界に対する影響力を持つこととなった。

 さらに、中国の南シナ海支配は、国家安全維持法が制定されたことで強化された。かつての香港港は、世界1位の取扱量を誇るコンテナターミナルであった。しかし、1997年に英国から中国に返還されて以降、中国はハブ港としての機能を上海、寧波など中国本土に移行し、世界7位に後退した。さらに、国家安全維持法により、香港港は中国の支配下に入ることになり、南シナ海を通過する船は、中国の港に入出港するものがほとんどとなった。中国の港に出入りする船の安全は、寄港国として中国が守るという理論が成り立ち、米国をはじめとした自由主義国が行っている「航行の自由作戦」の趣旨が突き崩されたのだ。また、中国は、3つの人工島を軍事拠点化するとともに、スプラトリー諸島を南沙区、パラセル諸島を西沙区として行政区を設置し、実効支配を明確化している。

 さらに中国は、8月26日、4発の弾道ミサイルを南シナ海に向け発射した。このミサイルは、米軍のグアム基地への攻撃が可能な中距離弾道ミサイルと航空母艦を標的とする対艦弾道ミサイルの2タイプであり、米国に対し、南シナ海が中国の支配下にあることを示す行為と考えられる。

 同日、米国政府は、南シナ海の軍事拠点工事に関与した中国企業24社に対し、実質上米国製品の輸出を禁止する措置を取ることを発表した。これは、中国の一帯一路を担う国策企業が対象となり、今後、南シナ海を巡る情勢が緊迫度を増すことは免れないだろう。

 東シナ海への中国の侵出もさらに強化されている。第1列島線支配への攻勢も最終局面に入ったようだ。中国の海上警備機関である中国海警局は、2018年に中国中央軍事委員会の指導下に組み入れられ、准軍事機関となり人員、装備共に増強された。尖閣諸島海域では、恒常的に中国の警備船が航行し、派遣される警備船も5000トン級が主力となり、海保の装備をはるかに上回る状況となっているのだ。

 今年は111日間連続で、日本の接続水域まで侵入し、海上保安庁の警告を無視し40時間近く領海内に侵入を続ける領海侵犯を行った。さらに、日本の漁船をたびたび追尾し、排除するように行動している。この状況は、中国中央電視台(CCTV)などのメディアを通じ国際社会に喧伝されている。これを見た世界中の人々は、尖閣諸島が中国の施政下にあるよう誤解することだろう。

 今年の夏、中国は、大規模な漁船団を尖閣諸島海域に派遣する準備を整えていた。このことに備え、日本政府は、防衛外交により米国を動かし、沖縄周辺で大規模な日米合同演習を行うことで中国をけん制し、中国の自制を促した。米国安全保障なくしては、自国の領土、領海を独力では守ることが難しいのだ。米国は、日米安全保障条約のもとで活動するが、その領域は、日本の施政下にある地域に限定される。

 まずは、尖閣諸島が同海域および島々の環境調査、漁業資源調査等を行うことで、同諸島の重要性を国民に伝えるとともに、日本の施政下にあることを世界に向け発信する必要がある。国会議員有志も「尖閣諸島の調査・開発を進める会」を設立し、具体的に動き出している。

 日本政府は、海洋基本法第3条「(海洋)安全の確保のための取組が積極的に推進されなければならない」という規定を順守し、速やかに尖閣諸島が施政下にあるいう明確な措置をすべきである。

 


ミサイル防空 総合的方策提言

岡崎研究所理事 金田 秀昭 氏

週刊「世界と日本」2020年9月21日 第2181号より

 北朝鮮や中国の多元的なミサイル攻撃(航空機、艦船、地上基地等を発射母体とする戦術・弾道・巡航ミサイルによる対地・艦攻撃)による対日脅威が高まりつつある中、日本は弾道ミサイル防衛システムの整備に取り組んできた。

 その1つのイージス陸上型について、河野防衛大臣は安倍首相の了解を得て計画を停止し、本年9月末を目途に全般見直し作業を進めることとした。自民党の小野寺検討チームは、イージス陸上型の代替案と他国領域内への打撃力保持を含む抑止力向上のための提言を行った。本稿ではミサイル防空のための総合的方策「5D」を私案として提示する。

 

1.総合ミサイル防空のための5方策(5D)

 日本への多元的なミサイル攻撃を制止するのは容易ではない。先ずは予防措置としての諫止(Dissuasion)外交、国家としての抑止(Deterrence)態勢により未然に被攻撃を防止するが、これら措置の効なく、相手の攻撃準備の進捗が確認されるなど、現実に攻撃が切迫または実施された場合に備え、軍事手段による発射された弾道ミサイル等の破壊(防衛(能動防御):Defense)、弾道ミサイル等の発射阻止(拒否(攻勢防御):Denial)、着弾した際の被害限定(局限(受動防御):Damage Confinement)といった方策を欠落なく具備し、かつ相乗効果を最大限に図ることが重要となる。これらを総称して「5D」という。

 

2.諌止外交 Dissuasion Diplomacy

 「諫止外交」は、信頼醸成措置などを通じてソフトパワーにより脅威の顕在化を予防する方策であり、ミサイル等の拡散防止や軍備管理・軍縮等が挙げられる。

 北東アジアには、中朝露など弾道ミサイル等の保有国がありながら、拡散防止や軍備管理・軍縮の地域枠組みは存在しない。米朝交渉は成果なきまま頓挫した。米露間の中距離核戦力全廃条約は廃止され、両国は軍拡競争再開の動きを見せており、新STARTの再締結も不透明である。

 今こそ日本は、周辺国との個別または集団の信頼醸成措置を積極的に進め、地域の「信頼醸成レジーム」創設を経て、「地域軍備管理・軍縮・不拡散レジーム」への発展の推進役を担うべきである。

 

3.抑止態勢 Deterrence Posture

 相手に対し日本へのミサイル攻撃の効果に疑念を抱かせ、使用を躊躇、抑制させるためには、報復攻撃や後述する能動(防衛)・攻勢(拒否)・受動(局限)防御能力を保有し、堅固な防衛意志を明示する抑止態勢の構築が不可欠となる。

 報復攻撃については核兵器が最も有効であるが、日本は核兵器を保有しない政策をとり続けてきた。日本は当面、米国の拡大核抑止力に依存することとなろう。

 一方「専守防衛」という防衛政策の下、日本は従来から能動防御のみを保有し、相手の基地を攻撃する攻勢防御は保有せず、必要な場合は米軍がその機能を果たすこととしてきた。受動防御についても態勢は整っていない。

 しかし周辺国のミサイル脅威は日米のミサイル防衛能力を凌駕しつつあり、日本自身が相手のミサイルを発射・上昇段階で阻止する攻勢防御と、中間・終末段階で阻止する能動防御を兼備、強化し、着弾段階での受動防御も整え、国家の抑止態勢を万全にする必要性が出てきた。

 

4.防衛機能 Defense Capability・・・能動防御

 政府は2003年12月、弾道ミサイル防衛のための「防衛機能(能動防御)」として、イージス(SM―3)及びペトリオット(PAC―3)の導入、JADGEによるシステム連接等を決定、2017年にはイージス陸上型の導入を決定した。

 既述のように現在、防衛省を中心として、イージス陸上型代替案の検討が行われている。ベストの案は、2018年7月のレーダー選定時に基本性能、経費、納期、後方支援の全評価項目で高い評価を得たSPY―7を空自レーダーサイト等に配備するのを基本に、発射機を近傍の地上適所に置くことである。これが適わぬ場合は遠隔交戦能力(EOR)を備えた発射機を遠隔の地上適所に設定することを次善案とする。この際EOR能力を具備した発射艦を補用する。

 その上で米軍の統合防空ミサイル防衛(IAMD)との連接を考慮しつつ、小型衛星群、航空機、艦艇、地上装備(レーダー、迎撃ミサイル等)、指揮通信中枢(JADGE)、高性能データリンク(CEC)等の関連装備の能力向上を図りつつ、それらを有機的に連接した総合ミサイル防空システムを構成する。

 

5.拒否能力 Denial Power・・・攻勢防御

 相手の発射母体を攻撃し、ミサイルを発射または上昇段階で無力化するという「拒否能力(攻勢防御)」は、ミサイル攻撃を有効かつ確実に阻止する最有力の手段である。

 日本には「他に手段がない場合、誘導弾等の基地をたたくことは、自衛の範囲に含まれる」との政府解釈(1956年鳩山答弁)があるにも関わらず、専守防衛政策の下、「予防」、「先制」はもとより、自衛のための「反撃」としてすら「策源地攻撃」即ち、相手のミサイル発射基地攻撃については米軍にその機能を委ねてきた。

 だが現在の日本は、中間・終末段階での複雑な飛翔形態、極超音速、複数弾頭・囮、飽和攻撃等、進化する多元的なミサイル攻撃脅威に晒されている。

 この変化に適応するには、現状の中間・終末段階で阻止する能動防御だけでは困難となり、相手の地上発射を含むミサイル攻撃に反撃するため、中間段階以前の発射・上昇段階で阻止できる攻勢防御をも保有する必要が出てきた。

 手段としては、スタンド・オフ機能(トマホーク、SM―6、JASSM、現有対地・艦ミサイルの性能向上、マルチロール編成航空攻撃等)の保持・充実、スタンド・イン機能(F―35A/B海空協同)の追求が当面の課題となろう。将来的には小型衛星群やUAV(無人航空機)等の利用が考えられる。

 

6.被害局限 Damage Confinement・・・受動防御

 主要国では、大量破壊兵器によるミサイル攻撃に対し、被害を最小限にとどめる民間防衛の諸方策として、警報システムの整備、ミサイル攻撃への避難訓練、民間「自衛団」の活用、医療品等の貯蔵、公共避難施設の設置等を講じている。

 日本では有事における「被害局限(受動防御)」、すなわち、民間防衛(国民保護)については、2005年に国民保護の基本方針が策定され、武力攻撃事態の類型として、弾道ミサイル攻撃や航空攻撃も含まれたが、以後、国民保護に関する計画は十分に進展せず、国民の意識も低い。

 

 政府は機会を捉え、国民の関心を高め、前述のような措置を進める必要がある。

 


新型コロナ 自衛隊の対応は
絶えず「備えあれ」の態勢を

 

衆議院議員 防衛大臣 河野 太郎 氏

 週刊「世界と日本」2020年8月24日 第2179号より

 

 新型コロナウイルス感染症に、自衛隊はどのように対応してきたのでしょうか。今日までの自衛隊と新型コロナウイルスの関わりをまとめました。

 自衛隊と新型コロナウイルスの関わりは、武漢の在留邦人の引き上げから始まりました。航空自衛隊が運航する政府専用機で迎えに行く必要があるかもしれないと、政府専用機を千歳で待機させました。

 しかし、ANAのチャーター機が飛べるということで、その必要はなくなりましたが、厚労省からの依頼に基づき、在留邦人の帰国のために武漢に向かったチャーター機に、検疫支援のため自衛隊中央病院の看護官2名を派遣しました。

 そして1月31日、新型コロナウイルス感染症に関して、自衛隊法83条2項ただし書に基づいて自衛隊に災害派遣命令を出しました。「新型コロナウイルス感染症対策本部の方針を踏まえ、同感染症の感染拡大の防止が、特に緊急を要し、都道府県知事等の要請を待ついとまがないと認められることから、自衛隊法第83条第2項ただし書に規定する災害派遣により、感染症拡大の影響により帰国した邦人等に対し、救援活動を実施せよ」そして、災害派遣の実施命令に基づき、この日から陸自衛生隊員など約40名を、武漢からの帰国者の宿泊施設に派遣して生活支援を行っています。

 また、PFI船舶「はくおう」を、帰国者の一時停留場所として活用するため、東京湾に向けて出港させました。

 しかし、2月5日、横浜港沖に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客・乗組員の中に新型コロナウイルス陽性患者が10名いることがわかり、医療機関に搬送することになりました。そして自衛隊は、2月7日から、クルーズ船の乗客および乗組員の生活支援を開始し、「はくおう」はそのための自衛隊員の活動拠点・宿泊場所として活用することになりました。

 さらに自衛隊は、チャーター便第4便の帰国者の生活支援のため、税務大学校に約20名を増派し、3カ所の陸上の宿泊施設で計約70名が、生活支援や健康状態の確認、健康相談を行っています。

 「ダイヤモンド・プリンセス号」においても、乗船者への医療支援、物資の搬入や仕分けなどの生活支援、さらに、自衛隊の救急車による患者の病院への搬送を行いました。2月10日からは、自衛隊の医官5名が、船内で検疫支援業務を開始、また、この日より自衛隊から薬剤官も派遣されました。

 自衛隊の病院でも「ダイヤモンド・プリンセス号」などから感染者128名を受け入れ、3月12日までに、116名が退院しました。特に自衛隊中央病院では、受け入れた新型コロナウイルス感染者の6割が外国人だったので、外国語通訳ができる予備自衛官を招集しました。

 自衛隊中央病院では、当初、感染症のための病床は10床でした。この10床がいっぱいになると、次の病棟の約50床を感染症用に割り当て、さらにその次の50床というように拡大していきました。感染症の病床を担当する医官、看護官は専属にする必要があったため、自衛隊中央病院では他の自衛隊病院の医官、看護官の支援を受けたほか、医師、看護師の資格を持つ予備自衛官を招集し、一般患者の診療に従事させました。

 自衛隊中央病院では、陽性患者の肺のCT画像を撮り、肺炎の影がなければ比較的軽症にとどまり、影があると重症化する可能性が高いということを突き止め、これは権威ある医学誌『ランセット』の姉妹誌(LANCET Infectious  Diseases)にも論文の形で掲載されました。

 さらに市中感染が広がるなかで、都道府県知事の要請による災害派遣も始まりました。海外からの帰国者が1日最大で2700人にもなるなかで、空港検疫が厚労省だけで対応できない状況となり、3月28日、水際対策強化のための災害派遣の実施に関する大臣命令を発出し、災害派遣活動を実施しました。

 PCR検査の結果待ちの帰国者に対する輸送支援や生活支援に関しては、速やかに態勢を構築する必要があり、また、感染リスクや風評被害の懸念があったため、当初は民間事業者による実施が困難でした。自衛隊の災害派遣と防衛警備などの任務を両立させるために、市中感染に対する災害派遣は、1週間を目処とした期限を設けて派遣することとしました。

 まず自衛隊が輸送支援や生活支援の業務を行い、その後、OJTで民間事業者に感染防護のノウハウを教育した上で、業務を移管していきました。防衛省の共済組合が経営するホテルグランドヒル市ケ谷で、ホテルの従業員による生活支援を行ったことが、他の宿泊施設の民間事業者の理解を得ることに寄与しました。

 3月28日から5月31日までの間、延べにして約8700名の自衛隊員が活動しましたが、この期間中に、自衛隊は、民間事業者と自治体の職員等を合計して1700人を超える人たちに感染防護教育を行いました。自治体と民間事業者の対応能力が向上するにしたがって、自衛隊への災害派遣のニーズも少なくなってきました。

 4月27日、まず、検査結果待ちの帰国者を宿泊施設に輸送する業務の民間事業者への移管が完了し、5月29日には、生活支援の民間事業者への移管が完了しました。5月31日、災害派遣終結の大臣命令を発出しました。

 こうして新型コロナウイルス感染症との戦いの第1幕は終わりましたが、自衛隊は、今後の第2波、そして自然災害にもしっかり備えていきます。

ダイヤモンド・プリンセス号内で活動する隊員
ダイヤモンド・プリンセス号内で活動する隊員

《にしはら・まさし》

1937年大阪生まれ。62年京都大学法学部卒。75年京都産業大学教授。77年防衛大学校教授(国際関係論)、2000年同大学第七代目学校長に就任。06年退官、(財)平和・安全保障研究所理事長に就任。08年瑞宝重光賞、12年正論大賞を受賞。安倍政権の日本版NSC設立有識者懇談会メンバー。著書に『激化する米中覇権競争―迷路に入った朝鮮半島(監修)』、『激変する朝鮮半島情勢―厳しさ増す米中競合(監修)』など多数。

記憶に残る防衛大臣諸氏

平和・安全保障研究所理事長 西原 正 氏

週刊「世界と日本」2020年8月3日 第2178号より

 第2次大戦後の日本で防衛問題を担当した「国務大臣」は、警察予備隊本部長の名称に始まり、保安庁長官、防衛庁長官、そして平成19(2007)年1月に名実ともに防衛大臣になったが、今日までの防衛を担当した大臣は総計88人にのぼる。

 その中の1人、第25代防衛庁長官となった中曽根康弘氏は、戦後の日本政治史を通して最も防衛大臣にふさわしい人だったとして、記憶に残る。もともと憲法改正、対米自立、自主防衛を自らの政治信念としていたが、昭和45(1970)年1月に佐藤栄作政権の防衛庁長官として登場した時には、日米安保条約の重要性を強調する立場をとった。

 しかし中曽根氏は「私の中には国家がある」と述べていたほど、日本の自主独立を望む国士であった。のちに総理になってからは、日本が「不沈空母」となって日米同盟を強化することを強調した。

 中曽根大臣は、昭和45(1970)年、国民の防衛問題に関する理解を深めるため、自らも筆を執って原稿を修正し、防衛白書『日本の防衛』を創刊した。この意義も大きい。

 中曽根氏とは対照的だったのが、昭和49(1974)年12月三木武夫内閣の第32代防衛庁長官になった坂田道太氏であった。防衛問題は素人であることを公言しながら、大臣就任後は有識者を集めて「防衛を考える会」を開催するなど、猛烈に防衛問題を勉強した。そして、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」や「基盤的防衛力」の基本構想を打ち出し、「防衛計画の大綱」を策定した。この間、自衛官の待遇改善などにも努力した。

 こうして坂田大臣の在任期間は、防衛大臣としては最長の747日となった。坂田大臣は温厚な政治家ではあったが、文部大臣であった1969年1月、全共闘の東大占拠のため、東大入試を中止するという決断をしたことがあった。衆議院議員を17期44年間務め、その間衆議院議長にもなった。

 平成13(2001)年4月にスタートした、小泉純一郎政権の第64代防衛庁長官となった中谷元氏は、初の自衛官出身の長官であった。自衛隊では最もタフな隊員といわれるレインジャーの訓練教官をしていた。弱冠44歳で長官となり、防衛大出身の先輩たちで占められる自衛隊上層幹部を動かすのは一苦労あったであろうが、逆に多くの同窓の仲間に支えられた。それでも防衛庁長官として、庁内の内局と制服組との権限、命令系統などにおける整合欠如に不満で、『誰も書けなかった防衛省の真実』(幻冬社、2008年)を著して厳しく指摘した。

 ついで中谷氏は、平成26(2014)年安倍第3次内閣で2度目の大臣を務めた。第14代防衛大臣および安保法制担当大臣として、中谷氏は平和安全法制の成立に関わったが、国会審議では大臣の答弁で審議がしばしば中断し、苦労した。

 平成24(2012)年12月に、安倍第2次政権の第12代防衛大臣に任命された小野寺五典氏は、その後第3次政権で第17代、第18代防衛大臣も務めた。松下政経塾と東大大学院政治学科で学び、1997年衆議院議員になってからは外交や安全保障問題に精力を注ぎ、米国ジョーンズ・ホプキンズ大学での客員研究員も経験した。

 こうして2007年には第1次安倍改造内閣で外務副大臣に任命された。また2012年、衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員長に就いた。同年末、防衛大臣になってからは、新しい「統合機動防衛力」概念の具体化と日米同盟の強化に取り組んだ。

 2017年7月、稲田朋美防衛大臣が陸自の南スーダンおよびイラク派遣部隊による「日報隠ぺい問題」で責任を取って辞任した後、揺れる防衛省の立て直しのため、小野寺氏が再度防衛大臣に起用された。

 2018年10月大臣を退任するまで、ほとんどの週末に部隊視察をして激励をした。全任務中の視察先は158カ所に上った。災害などでの隊員の献身的な任務遂行に対して、離任の挨拶で涙を流して感謝した。自衛隊員の心をつかんだ数少ない大臣であった。

 


《かみや・またけ》

1961年京都市生まれ。東大教養学部卒。コロンビア大学大学院(フルブライト奨学生)を経て、92年防衛大学校助手。2004年より現職。この間、ニュージーランド戦略研究所特別招聘研究員等を歴任。専門は国際政治学、安全保障論、日米同盟論。現在、日本国際フォーラム理事・上席研究員、日本国際問題研究所客員研究員、国際安全保障学会理事。主な著作に『新訂第5版安全保障学入門』『新段階の日米同盟のグランド・デザイン』『日本の大戦略』など。

直視せよ 中国リスクの継続を

防衛大学校教授 神谷 万丈 氏

週刊「世界と日本」2020年4月20日 第2171号より

 

 世界は新型コロナウイルスの問題一色の感があるが、それでも国際政治は動き続けている。日本国民が特に忘れてならないことは、中国のリベラル国際秩序への挑戦という問題が、今もわれわれにつきつけられ続けているということだ。

 

 実は、新型コロナウイルス問題が世界的に深刻化してから、本稿執筆時点でまだひと月も経っていない。

 3月2日の段階では、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、中国の状況は改善しつつあり、それ以外では韓国、イタリア、イラン、日本の状況が懸念されるものの、この感染症がパンデミック(世界的な大流行)にならないよう封じ込めることは可能との見通しを示していた。同事務局長が新型コロナウイルス感染症はパンデミックといえると表明したのは、11日になってからのことだ。

 これまでの世界では、米国主導の「リベラルなルールを基盤とする国際秩序」と中国主導の「権威主義的な国際秩序」のどちらが好ましいのかという体制間競争に関心が集まっていた。冷戦後、日米などのリベラルデモクラシー諸国は、中国を打ち負かすのではなく発展を助けることで、その体制を自由で民主的な方向に動かそうとする戦略をとってきた。

 だが実際には、経済的に躍進した中国は、リベラルな価値や理念の受け入れを拒む態度をかえって強めた。そうした中国の自己主張の強まりを前に、これまで東アジアと世界の平和と繁栄の基盤になってきたリベラル国際秩序が動揺しつつある。

 こうした懸念が、世界のリベラルデモクラシー諸国に広がっていたのだ。

 忘れてならないのは、中国の既存のリベラルな国際秩序への挑戦という問題が、新型コロナウイルス感染症の拡大の中でもなくなったわけではないということだ。

 中国では、武漢で問題が深刻化し始めた当初、日本からマスクなどを送る支援が相次いだことから、「新華社」(2月11日)や「人民日報」(同12日)などで感謝と賞賛の報道が相次いだ。

 だが、中国政府の日本に対するふるまいにはあまり変化がない。たとえば、中国の公船は依然として尖閣諸島周辺の接続水域での航行をほぼ連日続けており、隻数はむしろ増えている。上記報道の前後の2月5日と13日、さらに3月20日には4隻づつが領海を侵犯した。

 2019年4~12月の自衛隊機の中国機に対するスクランブル回数が523回と過去2番目に多かったことなどを考えあわせると、新型コロナへの対応に追われる中でも、力により国際秩序の現状を変更したいとする中国の願望と挑戦が、日本に向けられ続けていることは明らかだろう。

 また中国外交部は、3月26日に、昨年5月に中国に一時帰国した東アジア国際政治史専攻の袁克勤(えんこくきん)北海道教育大教授が、「スパイ犯罪に関わった疑い」で当局に拘束されていることを認めた。昨年9月に中国専攻の北海道大教授が中国当局に拘束された(11月に保釈名目で釈放)のを彷彿とさせる事件だ。袁教授は中国籍だが、1980年代の半ば以降日本で研究を続け、日本の国立大学で教鞭をとっている。そうした人物が、日本政府のスパイという容疑で10カ月以上も拘束され続けている。それは、中国がそのシャープパワー(嫌がらせや圧力で忖度させる力)を日本にも向けて、日本に言論の自由をはじめとするリベラルな価値をどこまで本気で守る意思があるのかを試そうとしているということではないのか。日本の中国専門家の間には、これら2つの事件をみて、今後は中国の意向に配慮した言論を行わなければ恐ろしくて中国には行けないとの声さえ出ている。

 ただ、中国という存在がやっかいなのは、それが、われわれにこうした安全保障上のリスクとともに、経済的な機会をも提供しているということだ。

 冷戦期のソ連が経済や技術では西側に太刀打ちできず、その原因が自由の欠如にあると信じられていたのとは全く異なり、今日の中国は自由でも民主的でもないが、世界を驚嘆させる経済的成功を手に入れている。中国と協力して経済的な果実を手にしたいという願望は、リベラルデモクラシー諸国を含む世界の全ての国に共通している。

 特に、発展途上国にとっては中国との協力の魅力は大きい。中国の提供する機会には「債務の罠」のようなリスクが潜む。ファーウェイなどの先端技術には、秘密裡に機器を遠隔操作して情報を窃取する仕組みが組み込まれているのではないかとの疑惑があり、中国政府による悪用の懸念がある。

 だが、多くの途上国にとっては、そうした危険はあっても、中国との協力は豊かで便利な生活を手に入れるための安価な近道に映る。

 そもそも多くの途上国の社会は、われわれの社会ほどには自由でも民主的でもない。国民の間で、米国が中国と比べて際立って信頼されているということもない。そのため、日本などのリベラルデモクラシー諸国が、“米国主導のリベラルな国際秩序”が“中国主導の国際秩序”に置き換わる弊害を説いても、彼らには説得力が不十分なのだ。

 リベラルデモクラシー諸国は、中国の与える機会が多くの国にとって無視できないものになっているという現実を直視するべきだ。中国のリスクには対抗しなければならない。だが同時に、われわれは第三国に対して中国の与える機会の代替案を示す必要もある。

 中国の与える機会をすべて取り除くことは不可能なので、中国との協調という視点も必要になる。中国のリスクと機会を総合的に見て、中国にどこで対抗するか、一方どこで協調するのかを考える必要がある。それが、今回のウイルス問題が起こる前のわれわれの問題意識だった。

 今はウイルスとの闘いに力を集中させる時ではあるが、われわれは、中国という問題が世界に存在し続けていることを忘れてはならない。今回のウイルス騒ぎは、われわれが中国と、好むと好まざるとに関わらず密接な相互依存関係で結びついていることを如実に示した。

 そうした中国のもたらすリスクとどのように向き合っていくかを、考え続ける必要がある。

 


《いとう・としゆき》

1958年、名古屋市生まれ。防衛大学校機械工学科、筑波大学大学院地域研究科修了。潜水艦はやしお艦長、在米国防衛駐在官、第2潜水隊司令、海幕広報室長、海幕情報課長、情報本部情報官、海幕指揮通信情報部長、第2術科学校長、統合幕僚学校長、呉地方総監を経て2016年退官後、現職。キヤノングローバル戦略研究所客員研究員。

酷い 護衛艦派遣への野党対応

与野党一体で危機管理に臨め

金沢工業大学 虎ノ門大学院教授 伊藤 俊幸 氏

週刊「世界と日本」2020年4月6日 第2170号より

 

  中東を航行する船舶の安全確保のための情報収集を目的として、海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が中東に派遣され、活動を開始している。しかしこの派遣に至る野党の対応は酷いものだった。

 

対米追従で自衛隊を派遣した民主党政権

 1月8日、国会内で立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党の野党4党は国体委員長会談を開催。

 立憲民主党の安住国対委員長は「今の状態で海上自衛隊を現地に派遣すべきではない。閣議決定そのものを白紙に戻す、撤回することの方が正しいのではないか」と述べた。なんでも反対の共産党や社民党が言うのならともかく、民主党政権当時、防衛副大臣だった安住議員のこの発言は許されない。

 民主党政権は、鳩山首相の発言で日米関係がかなりギクシャクしたことはご承知の通りだ。そのため次の菅首相は、クリントン国務長官の要求に応じて、南スーダンへの自衛隊派遣を表明、野田首相は派遣命令を出した。

 内陸部にある南スーダンに、自衛隊の装備品を搬入するのは大変なことであり、そもそも同国を支援することにどんな国益があるのか? 当時我々制服組は反対したが、これを「対米追従」で押し切ったのは、民主党政権だ。ハイチPKOも同じ理由で自衛隊を派遣した。

 その後の東日本大震災や福島原発の対応を通じ、政策手段として自衛隊を活用する意味を改めて理解したはずの彼らが、野党に戻ったらなぜこうも簡単に態度を変えるのか。

 平和安全法制とは、そもそも民主党政権が作ろうとした法律だった。ところが自民党が作ると徹底的に反対した上、立憲民主党は今も憲法違反の法律と言っている。

 

防衛省にとっては悪夢ではなかった民主党政権

 悪夢のような民主党政権と言われるが、実は防衛省にとっては、必ずしも悪夢ではなかった。当時までの自民党政権は、「基盤的防衛力」という防衛力整備構想を長らく採用していた。これを警戒監視活動など、自衛隊の艦艇や航空機が実働し中国や北朝鮮を抑止する「動的防衛力」という新たな概念に変えたのは民主党政権だ。自衛隊の活動実態に即したものであり、その後の自民党安倍政権にも踏襲されている。

 また「武器輸出三原則」の緩和や防衛省職員の総理秘書官への配置など、自民党ではできなかった防衛政策を次々と前に進めたのは民主党政権だ。

 長年防衛省は総理秘書官ポストを望んでいたが、警察庁が強く反対してきた。自民党政権では関係省庁との既得権益関係(族議員)があり、何かを新しく変えることに大きな抵抗があるのは事実だ。しがらみのない野党が政権をとる、2大政党制の良い部分の反映だったといえよう。

 しかし自民党政権で防衛政策の前進を強く阻んできたのは、やはり野党による根強い反対だ。つまり自民党以外が政権を取ると、なんでも反対の「野党」がなくなるから現実的な防衛政策が推進されるのだ。

 

分かっているのに政局にする野党議員

 「自衛隊の中東派遣。こんな理屈でいいなら、政府の簡単な判断だけで自衛隊を世界中好き勝手に派遣できるようになる。それこそが総理の狙い。もはや憲法も国会も関係ない。理屈はどうにでもなる。戦後この国が守ってきた基本線を簡単に超え、逆にこの国と国民の生命を危機にさらす行為で、容認できない」と、小沢一郎氏はツイッターで述べた。

 かつて、憲法9条と国連の集団安全保障措置は別ものだから、「現憲法のままで自衛隊は武力制裁決議に参加できる」と述べた人物とは思えない発言だ。小沢氏は、国連憲章の意味を初めて正しく理解した政治家だった。湾岸戦争後の機雷処理のため、野党やマスコミが一斉に反対する中、海部首相の尻を叩き、特措法も作らず閣議決定で掃海部隊を中東に派遣したのは小沢自民党幹事長だ。

 国民民主党の玉木雄一郎代表も「『調査・研究』というあいまいな法的根拠で自衛隊員を危機にさらすわけにはいかないうえ、状況の変化も踏まえ反対だ」と述べたが、自衛官を馬鹿にしているのかと言いたい。

 今回対象となるのは、小型ボートに乗っているテロリストやイラン革命防衛隊であり、拡声器(LRAD)による警告で退散させることができる。LRADは音響兵器といわれ、その指向性と大出力で聴覚に後遺症が残るほどの威力があり、実際に海賊を撃退してきた。

 それよりも本来重要な議論は、イラン革命防衛隊が発砲した場合、これは軍艦からの攻撃になるということだ。他国軍艦に自衛隊が反撃をすれば、それはいわゆる「マイナー自衛権」の行使になる。

 しかし日本は、軍艦や公船という、ある国家の一機関が「平時」において不法行為をした場合の対応が憲法解釈上整理されていない。

 「平和安全法制を認めるか否か」という踏み絵を踏まされ、立憲民主党に行かなかった議員の集合である国民民主党ならば、憲法改正にもつながる本質的な議論をすべきだったのだ。

 

護衛艦中東派遣の本質的な意義

 丸腰の商船が危険な地域に行くことには異論は唱えず、武装した自衛隊が行くのは反対する。このような本末転倒の議論がまかり通る日本は、外国から見たら非常識と映る。どの国においても、国民の生命と安全を確保することが国家の使命だからだ。

 今回の派遣の意義は、民間商船の乗員に安心感を与えることにある。商船の近傍海域にプレゼンス(存在)する、これが海軍の一番重要なミッションなのである。

 「危険だから」「戦争に巻き込まれる」。これは55年体制で自衛隊を動かさないための屁理屈だった。民主党政権当時、「自衛隊をおもちゃにしない」「防衛や安全保障を二度と政局にしない」。ある民主党幹部は我々自衛官に断言した。

 今の新型コロナウイルスの国会議論も同様だ。新型インフルエンザ等特措法を作ったのは野田政権だ。なぜ1月の段階で、その改正案を野党から提出しなかったのか。国防や安全保障など、国家の危機管理は政局にしてはならない。与野党が一緒になって政策・対策を練り上げるテーマだ。

 これができない議員に政治家の資格はない。

 


《にしはら・まさし》

1937年大阪生まれ。62年京都大学法学部卒。75年京都産業大学教授。77年防衛大学校教授(国際関係論)、2000年同大学第七代目学校長に就任。06年退官、(財)平和・安全保障研究所理事長に就任。08年瑞宝重光賞、12年正論大賞を受賞。安倍政権の日本版NSC設立有識者懇談会メンバー。著書に『激化する米中覇権競争―迷路に入った朝鮮半島(監修)』、『激変する朝鮮半島情勢―厳しさ増す米中競合(監修)』など多数。

安保の根幹 防衛力を確実なものに

防衛上の6課題

平和・安全保障研究所理事長 西原 正 氏

週刊「世界と日本」2020年3月16日 第2169号より

 去る1月20日の国会施政演説で安倍首相は、「いかなる事態になっても、我が国の領土、領海、領空は必ずや守り抜く。安全保障政策の根幹は、我が国自身の努力に他なりません」と力説した。防衛の重要性を説く指導者がいることは、国民にとっては心強いことである。

 

 しかし日本は「いかなる事態になっても、我が国の領土、領海、領空は必ずや守りぬく」状態にあると言えるのだろうか。軍事力を増強し、西太平洋から米国の影響力を追い出そうとしている中国の覇権主義的行動は、日米同盟の分断を企み、インド洋への長い日本のシーレーンの安全を脅かしている。また、尖閣諸島に接近する中国の海空軍力も日本にとっては脅威である。

 日本は外交によって良好な国際関係を構築し、同時にそれを支える防衛力を確実なものにしておく必要がある。

 以下、日本の防衛上の課題を6点挙げたい。

 

1.中露朝の軍事的脅威に対抗する防衛戦略

 中露や北朝鮮などの軍事的脅威が増大しつつあるとき、日本はこの脅威にどのように対抗していくかについての防衛戦略を持つべきである。基本的には、日米同盟が中露の軍事力や北朝鮮の動きを牽制すべきである。それと併せて、日米は印豪韓などとの連携を強化すべきである。

 朝鮮半島には今後これまでにない、厳しい力関係が生まれる可能性を念頭に、いくつかのシナリオ(米韓離反、中韓接近、韓朝離反、韓露接近、日韓離反など)を描いて、日本にとっての有利な選択肢を備えておくべきである。

 

2.多次元防衛力の必要性

 昨年の『防衛白書』は、日本の防衛が宇宙、サイバー、電磁波といった新しい領域での防衛能力開発が必要であると述べている。安倍首相も国会で、航空自衛隊に「宇宙作戦隊」を新設することに言及した。

 日本の衛星の脆弱性への対応、サイバー攻撃に対する防護、電磁波妨害状況を把握する能力の向上などが必要になっている。しかもこれらの指揮と従来の陸、海、空の防衛力の指揮とを統合した統率組織が必要となる。日本はこれを早期に実現できるだろうか。

 これらの領域の専門家を自衛隊の中で育成するのが急務であるが、民間の研究者を採用するなど、教育界との連携も望ましい。ただ教育界に残る、自衛隊への強いアレルギーの解消がまず必要である。

 

3.自衛隊の深刻な隊員不足の解消

 自衛隊の隊員充足率低下は、「静かなる有事」といわれる。現在の自衛隊は、国土の防衛任務と併せて、海外任務が増えている。その上、地球温暖化の影響による大型自然災害救援に関わることの多い近年、逆に自衛隊員の規模が縮小している。

 自衛隊員の定員は、24.7万人のところ、実際には92%の22.7万人。組織の下になると充足率が7割と言われる。人口減少の日本がこうした脅威に対応できる自衛隊員をどのようにして確保することができるのかは、大きな課題である。

 これに対して、省人化、無人化、ドローンや人工知能(AI)、女性隊員など、いくつかの対策案があるが、容易ではない。

 日本の人口減少は社会のあらゆる部門での懸念材料になっているが、国を守る自衛隊員の不足は深刻な安全保障問題である。

 

4.集団的自衛権の行使制約の除去

 自衛権、とくに集団的自衛権に関しては、国会の内外で最も議論されながら、成果に乏しい課題である。2015年に安保法制が決定された際、集団的自衛権の「限定的」使用が合憲とされた。しかしその「限定的」が限定的過ぎて余程の事態でなければ行使できないようになっている。

 その「余程の事態」とは、「武力攻撃・存立危機事態法」にある事態のことで、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」を指す。

 そうした事態が実際にどれほど起きるだろうか。集団的自衛権は行使できないのと同じではないか。行使の法的制約を除去し、政治的制約に任せるべきである。

 

5.憲法改正による自衛隊の“明確な”法的地位

 自衛隊が発足したのが1954年であるからすでに66年が経過しているが、いまだに自衛隊は違憲であるとする政党や政治団体がおり、そのために国会の議事進行がしばしば妨げられる。世界の主要国の1つであり、G7(先進国首脳会議)などのメンバーである日本が外交を支える軍事力を持たないで、どうして諸国の信頼を得ることができようか。

 いまだに「自衛隊は軍隊ではない」、「自衛隊は憲法違反だ」との主張があり、日本の立場を弱めている。

 そればかりか、すべての自衛官は「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います」と宣誓している。自衛隊は憲法違反だとの議論は自衛官の誇りを傷つけている。

 こうした事態を一刻も早く解消すべきである。憲法に明記される軍隊を持つことが、健全な国をつくる。

 

6.沖縄の「基地問題」の早期解決

 沖縄の米軍基地である、普天間基地(将来辺野古に移転予定)および嘉手納基地は、那覇空港にある航空自衛隊基地とともに、日本の防衛および極東の平和と安全のために不可欠な存在である。

 同基地は、東シナ海に対する中国の制覇意欲を牽制し、太平洋からインド洋に伸びる長いシーレーンを監視することもできる。もちろん尖閣諸島へ接近する中国艦船や軍用機を牽制することもできる。したがってきわめて重要な戦略的基地を安定的に使用できることが日米同盟の根幹である。

 そうした基地の存続に強く反対する勢力が本土にいて支援を続けている状態を、一刻も早く解決することが重要である。

 マスコミの多くの報道では、沖縄の住民の大半が基地反対であるかのようなイメージを流しているが、実際に知事選や県議会選などを見ると、県民の基地容認派もほぼ半数いることが分かる。容認派を元気づける方策を忍耐強く続けるべきである。

 



関連情報リンク

防衛白書は、わが国防衛の現状と課題およびその取組について広く内外への周知を図り、その理解を得ることを目的として毎年刊行しており、令和2年版防衛白書で刊行から50周年を迎えました。

(防衛省ホームページより)

https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/


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