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防衛・安全保障チャンネル

防衛・安全保障チャンネルは、1976年に始まった『国防論』の延長線上にある企画です。『なぜ今必要なのか?集団的自衛権の(限定的)行使』の刊行等、これらの難解な問題を皆様に十分理解していただける内容となっております。

《おはら・ぼんじ》 1985年防衛大学校卒。98年筑波大学大学院(地域研究)修了(修士)。2003~06年、駐中国防衛駐在官。09年第21航空隊司令。11年IHS  Jane,s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャー。13年東京財団を経て、17年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』、『軍事大国・中国の正体』、『何が戦争を止めるのか』、『曲がり角に立つ中国』(共著)等多数。

中国軍 その実力と脅威

笹川平和財団特任研究員 小原 凡司 氏

週刊「世界と日本」2017年8月1日 第2106号より

 2017年5月14~15日、北京で開催された「一帯一路」に関する国際フォーラムの開幕式で、中国の習近平国家主席が行った演説は、国際社会において「中国が強者として振る舞い始めた」ことを印象づけるものであった。習主席は、一帯一路の建設を通じて自由貿易体制の推進を訴えたのだ。すなわち、強者は「自由」を唱道し、弱者は自国の「国益」を保護しようとする。「自由」は強者にとって有利だからである。

 中国が強者たり得るのは、経済力を用いた活動においてであり、自国の経済的権利をさらに拡大するために経済ルールを変えようとしている。中国はまた、そうした経済活動には、軍事的な保護が必要だと考えている。米国が中国の発展を妨害すると信じているからだ。その手段には軍事力行使も含まれる。
 軍事的には、中国は強者であるとは言い難い。少なくとも現在、中国は、米国に対して軍事力を行使し、国際秩序を変更しようとする意図はない。現段階では、米国との戦争に勝利できないことを理解しているからだ。
 2016年2月、国防大学政治委員(国防大学トップ)の劉亜洲上将が、『環球時報』に「米国は遥かに先を行っている」という論文を発表し、「米国の真似をしても追いつくことはできない」と主張した。軍事衝突したら米国に勝てないとする中国が、第一に考えることは、いかに米国との軍事衝突を避けるか、である。
 12年に、北京大学の王緝思教授が、「米国との衝突を避けて、経済活動を西に展開し、内陸部の経済発展を実現する」という「西進」戦略を打ち出した。中国が主導する「一帯一路」は「西進」戦略の実践であるとも言える。
 それでも、中国の経済活動の軍事的な保護には不安が残る。中東などにおいて、米国およびロシアと、軍事プレゼンスを競わなければならない可能性があるからだ。
 こうした状況の下、中国は、複数の軍事戦略を同時に展開しているのである。
 第1は、米国との戦争に勝利することだ。このため中国は、15年11月から始めた、軍の改革を含む人民解放軍の近代化を進めている。もちろん、最新技術を用いた武器装備品の研究開発も活発である。
 国産のステルス戦闘機J―20が間もなく部隊配備され、対米核抑止の切り札として新型の戦略原潜「096型」と攻撃型原潜「095型」も開発建造が進んでいる。さらに、国際関係のゲーム・チェンジャーになり得る戦略兵器「極超音速滑空体」の開発にも熱心である。
 しかし、中国が増強を図っているのは武器そのものだけではない。NCW(Network  Centric  Warfare=ネットワーク中心の戦い)を理解し、衛星も含めた、指揮通信情報網を構築しようとしている。
 中国は、16年に少なくとも20回の衛星打ち上げを行った。中国の「北斗」衛星測位航法システムは現在、23基の衛星によって運用されているが、12年には既に、中国周辺での誤差10㍍以内を達成したとしている。
 また、リモートセンシング衛星を利用して、ASBM(Anti-Ship  Ballistic  Missile=対艦弾道ミサイル)の発射諸元用として、太平洋上に500万平方キロメートルの目標探知範囲を持つとしている。
 さらに、こうした情報をやり取りする指揮通信網も構築されている。こうしたNCWを支えるのが、15年12月31日に設立された戦略支援部隊である。このように中国は、米国同様に、戦闘概念を変化させようとしているのだ。
 「米国に勝利する」という第1の軍事戦略は現在、50年頃に設定されている。しかし軍事戦略には、その前の段階があり、第2の軍事戦略は、20年頃までに「中国の軍事プレゼンスを世界に展開する」ことである。
 中国にとって、この2つの期限は非常に重要である。21年の「中国共産党結党百年」と、49年の「中華人民共和国成立百年」という「2つの百年」を意味するからだ。
 中国では、この「2つの百年」をターゲットにした各種の発展戦略に加え、中国海軍も、1980年代半ばには、2000年、20年、50年に期限を切った、3段階の発展戦略を指示されている。
 20年までに中国の軍事プレゼンスを中東等の地域に展開するのが、空母である。
 17年4月26日、中国海軍は、大連造船所において、初の国産空母を進水させた。この空母は、1998年にウクライナから購入し、設計図もなしに修復した訓練空母「遼寧」を改良した艦艇であると中国国防部は述べている。
 一方、中国海軍は、上海江南造船所で別の型の空母を建造しており、中国の空母はいまだ「型の統一」を図る試験段階にあるのかもしれない。そして、駆逐艦建造でも、同様の「型の統一」のプロセスを経ているのだ。
 しかし、中国が軍事プレゼンスを展開できるようになるまで、米国が待っていてくれる訳ではない。そこで、中国が採らなければならない第3の軍事戦略が「非対称戦」である。
 前出のASBMも中国自身が「非対称戦における重要な兵器」だと述べており、サイバー攻撃や衛星破壊兵器も「非対称戦」の一部である。また、戦略支援部隊の設立は、ネットワーク上での戦闘能力の向上を図るものでもある。
 南シナ海の実質的な領海化および軍事拠点化も、戦略的縦深性を保ち、米国に対する核報復攻撃を保証するものだ。中国は、核兵器の数においても、米国が中国を圧倒していることを危惧しており、「核戦力においても米中は非対称」なのだ。
 中国は、米国のミサイル防御のネットワークを無効化するためにサイバー攻撃や衛星破壊を仕掛けているが、これと同時に、戦略原潜を隠密裏に行動させ、核抑止に効果を持たせている。
 また、南シナ海を中国がコントロールすることによって、米海軍の自由な航行を妨げ、中東等における軍事プレゼンスの競争でも有利に立ちたいのである。
 17年6月現在、中国の南シナ海における人工島の軍事拠点化はほぼ完成している。滑走路やハンガー(格納庫)だけでなく、対空ミサイル用のシェルターや対空ミサイル・システムのレーダー等も建設されている。地下には、水や燃料の貯蔵庫も作られている。
 現段階では、米国と軍事衝突できない中国であっても、米軍の影響力を排除するための軍備増強は着実に進んでいるのである。


現実のミサイル脅威に如何に備えるか

能動防御に加え攻勢・受動防御も

岡崎研究所理事 金田 秀昭 氏

週刊「世界と日本」2017年7月3日 第2104号より

 金正恩政権の暴走振りは一向に止まない。中でも核・ミサイル開発の継続は、周辺諸国や国際社会に不安を投げかけている。金委員長の絶対的指導の下、北朝鮮は「並進路線」を正当化しつつ、今後ますます、核兵器システム(核弾頭・運搬手段)の取得を目指して、その限られた国力を集中するものと考えられる。

 

 米国トランプ政権は、北朝鮮の暴走を阻止するため、中国を巻き込んだ形での非軍事的解決を優先させている。同時に、軍事的選択肢を排除しないとの強い意志を表明し、2個空母打撃群などを半島周辺海域に展開して、警戒態勢を維持している。
 新たな空母打撃群も派遣され、加えてトマホークを多数搭載し、特殊作戦部隊を潜入させる能力を持つ複数の攻撃型原潜、無人機や戦略爆撃・戦闘・攻撃機などを含めた海・空軍や海兵隊などによる圧倒的な兵力投入能力を見せつけている。
 さらにICBM(大陸間弾道ミサイル)に対する迎撃実験を成功裡に行い、金委員長の無謀な冒険心を抑え込む構えを見せている。
 すでに5回の核爆発実験を行い、ICBMの取得にもあと一歩と目されている北朝鮮が、核兵器システムの開発に飛躍的な進歩があったと自己認識した場合、金委員長は、いかなる行動をとるか。これに対し、わが国としていかなる対応が必要となるのか。もはや対岸の火事では済まされなくなっている。
 北朝鮮の「核弾頭」開発の選択肢としては、核爆弾の製造や核弾頭化に加え、ダーティボム(放射能爆弾)やHEMP(高出力電磁パルス)兵器の開発などを想定する必要がある。
 「運搬手段」開発については、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)「KN-11/15」、IRBM(中距離弾道ミサイル)「火星-10/12」およびICBM「KN-08/14」などの開発を継続している。また、実戦配備済みの各種ミサイルの同一地点同時弾着など、迎撃側の弱点を衝く高度な運用試験なども続けると想定する必要がある。
 北朝鮮が核兵器システムを用いた威嚇等を、日本に向けて仕掛けてくる可能性は捨てきれない。こういった動きに適切に対処するため、北朝鮮が採り得る幾つかのシナリオを設定し、この中で、日本自身の採るべき対応、さらに日米同盟として必要な対応について、適切に態勢を整えておかねばならない。
 北朝鮮が、少数といえども核兵器システム保有の兆候を示し、それをもって日本に対し威嚇等の動きを示した場合は、不測の事態に備え、国内全般にわたって所要の警備態勢を取る必要がある。
 また、原子炉など重要施設の確実な防御や厳重な警護を含むBMD(ミサイル防衛)即応・継続態勢の確立など、常続的かつ緊密な日米BMD共同体制の構築・維持が緊要となる。韓国も含めた形での日米韓3国BMD共同体制の構築も必要である。
 次に、北朝鮮による米韓両国への核兵器システムを用いた威嚇等の兆候があり、そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至る恐れのある「重要影響事態」と認定され、日米防衛協力指針に基づく米軍からの協力要請があった場合は、日本はBMD態勢を強化する一方、重要影響事態法および船舶検査法を適用する。そして日本を後拠地として活動する米軍への、後方地域支援を主体とした支援活動を行うこととなる。
 さらに対米韓事態が緊迫し、わが国と密接な関係にある両国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある「存立危機事態」と認定され、限定的な集団的自衛権の行使が不可避と判断した場合は、BMD態勢をより強化する。
 一方、指針に基づき、米国からの要請があれば、第3国の領域外で、出動する米軍の護衛など、米国防衛に必要な限度での防衛活動を念頭に置いた協力措置をとるために、防衛出動を下令し対処する。
 一方、北朝鮮によるわが国への核兵器システムを用いた威嚇や攻撃が切迫し、わが国への「武力攻撃事態」と認定され、個別的自衛権の行使が不可避であると判断した場合は、日本防衛のために必要な武力行使措置をとるために、防衛出動を下令し対処することとなり、自衛隊は、全力でのBMD作戦の実施が可能となる。
 この際、本来であれば、敵策源基地への攻撃等、日本単独または日米共同による攻勢作戦の実施も可能とすべきである。
 今まで述べたBMD態勢の具体的方策として、現状では、BMDシステム(各種センサー、指揮統制装置および上下層迎撃ミサイル「イージスSM‐3・ペトリオットPAC‐3」で構成)により対処する。既にSM‐3およびPAC‐3ともに、「より速く、より高く、より遠く」へ飛翔して迎撃範囲を拡大するなど、画期的な能力向上での態勢強化が図られている。
 しかし、わが国周辺には、北朝鮮を質量両面ではるかに凌駕する中国の多元(弾道・巡航・戦術)ミサイルが存在し、これらが同時に同一目標に襲来する多元経空飽和攻撃の能力があると見積もられている。これに、いかに対処すべきか。
 自民党や防衛省では、陸海空自衛隊の特徴を生かした形で、対ミサイル能力を集約、補完し合い、効率よく機能発揮するため、3自衛隊を統合し、かつ米軍との共同も視野に入れた「IAMD(統合防空ミサイル防衛)」システムの導入を、次期中期防衛力整備計画(平成31年度~)で図るべく、検討を進めている。
 この中では、米軍が既に配備している「イージス陸上型」や「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の導入も検討されている。迎撃ミサイルのみではなく、レーザーやHEMPなどを活用した迎撃手段の開発も検討されている。
 ここで重要なことは、これら脅威の進展に有効に対処するため、日本としては、飛来する敵ミサイルをBMDやIAMDシステムにより迎撃する「能動防御」のみならず、敵策源基地で日本への攻撃準備を整えた敵ミサイルを無力化・無害化するための「攻勢防御」、迎撃を回避した敵ミサイルが日本領域に着弾した場合に、被害を局限するための「受動防御」について、国民の理解を得つつ真剣かつ十全に対応していくことである。


《たけさだ・ひでし》

1949年兵庫県生まれ。専門は朝鮮半島論。慶應義塾大学大学院修了。韓国延世大学韓国語学堂卒業。1975年から防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。その後2年間、韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書は『東アジア動乱』(角川学芸出版)、『韓国は日本をどれほど嫌いか』(PHP研究所)など多数。

北朝鮮のミサイル脅威 日本はどう対処するか

「敵基地攻撃能力」獲得の検討を

拓殖大学大学院 特任教授 武貞 秀士 氏

週刊「世界と日本」2017年5月1日 第2100号より

北朝鮮の核兵器の脅威

 北朝鮮の核兵器の脅威が増している。北朝鮮は核兵器関連のデータを詳細に公表したことはないが、実験映像から能力は推定できる。ミサイルは液体燃料か固体燃料か。潜水艦発射弾道ミサイルに必要なコールドローンチの技術を取得したか。発射の角度、飛翔距離、落下地点、大気圏再突入の有無などで、その技術力を推し量ることができる。その能力は確実に向上している。

 2月12日に発射したミサイルについて、米国戦略軍のハイテン司令官は、新型弾道ミサイル「北極星2型」は「非常に挑戦的な技術だ」と述べた。

 固体燃料を使い、液体燃料とは異なり、短時間でミサイルに着けることができる。移動式発射台を使うので事前に発見するのが困難だ。国際社会の探知網をかいくぐってミサイル発射をする能力がある。誘導技術、合金技術は向上し、再突入技術、弾頭の小型化と固体燃料技術などを取得しつつある。射程が1300キロメートルのノドンミサイルは配備済だ。日本にとり直接的脅威だ。

北朝鮮の政策目標、軍事戦略

 北朝鮮は本気で核兵器を使うのだろうか。北朝鮮は「米国が望むあらゆる戦争に対抗する準備ができている」と述べてきた。米原子力空母などが太平洋西部に向かっていた4月11日、北朝鮮は「米国による先制攻撃の兆候があれば米国に核攻撃する」「われわれの核の照準は韓国と太平洋区域の米国の侵略的基地だけでなく、米国本土にも向いている」と述べた。

 北朝鮮が米国の首都を狙うのはなぜか。「米朝核戦争になると米国の首都が危なくなるので全面戦争を回避すべき」と伝えながら、米国が朝鮮半島の警察官をつとめることを断念しなさいと主張している。

 米国の首都攻撃のためには、究極の核戦力である潜水艦発射弾道ミサイルが必要になる。金日成主席が「潜水艦は海の王さまだ」と言ったのは、潜水艦発射弾道ミサイルという究極の核戦力保有を追求するという意味である。北朝鮮には核戦略がある。

朝鮮半島戦争のシナリオは4つ

 朝鮮半島危機には、4つのシナリオがある。

 第1のシナリオは、北朝鮮が弾道ミサイルを発射する。それが大陸間弾道ミサイルの場合、「米本土の安全を脅かす装備と訓練だ」とトランプ政権が判断して、限定作戦としてミサイル撃墜行動に出る。それを北朝鮮は米国による侵略と見なして、限定攻撃を韓国に対して加える。それが在韓米軍や韓国軍への攻撃に拡大して軍事衝突にいたる。

 第2のシナリオは、米韓軍、あるいは北朝鮮軍の演習に際して、偶発的な事故が起こる場合。相互不信から誤認を招いて、双方の限定的な軍事衝突を引き起こす場合である。

 第3のシナリオは、北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを完成して、弾頭の小型化に成功したあと、米朝関係が改善されるときが危ない。米朝関係正常化が進み、米朝不可侵協定が成立したあと、米韓関係悪化が進んで在韓米軍が撤収していれば、自信をもった北朝鮮は、大陸間弾道ミサイル発射を示唆して、米国の軍事介入を阻止したうえで、通常戦力で韓国に侵攻する。

 第4のシナリオは、北朝鮮の体制に異変が起き、内部混乱、対立、軍同士の衝突が起きるときだ。難民を追走した朝鮮人民軍が南下するという事態になる。米韓軍は「北朝鮮内異変は、大韓民国北部の混迷であり、統一の好機」と解釈して、北朝鮮内に入る。朝鮮半島有事である。

 いま戦争を起こることは避けたいと各国は考えている。しかし、トランプ政権はシリア・アサド政権を攻撃した。米国は北朝鮮問題に関して「常にあらゆる選択肢を確保している」と言う。核と通常兵器の両方で同盟国を守るだけではなく、人道に反する化学兵器使用や、約束に違反する国家、集団には軍事力を行使する政権であることがわかってきた。

 ただ、ティラーソン国務長官は、「米国の目的は北朝鮮の非核化であり、体制転覆ではない」と明言している。軍事衝突という事態にならないように、中国が責任を持って北朝鮮を説得することを米国は期待していることがわかる。いまは中国が北朝鮮の核兵器放棄に向けての具体策を注視する過程にある。

日本はどうすべきか

 1994年春、クリントン政権が寧辺(ニヨンビヨン)の核施設への空爆を検討したとき、北朝鮮の韓国への報復攻撃で米韓連合軍の死傷者は50万人を超えるとの計算がでた。韓国は軍事力行使に反対したし、米国政府内では、花崗岩質の地下の核施設の破壊には技術的困難が伴うことを確認していた。そして米韓は、北朝鮮を空爆する計画を放棄した。

 同年6月、北朝鮮が南北首脳会談提案をカーター特使に託したあと、7月、金日成主席が死去し、米朝協議が本格化し、1994年10月に米朝枠組み合意ができた。

 いま危機を回避するには、あまりにも条件が違う。北朝鮮のノドンミサイルは実戦配備が終わり、300ミリ多連装ロケットは韓国の主要施設を狙っている。トランプ政権は、「約束違反者には軍事力で懲罰を」という政権だ。

 いま中国の北朝鮮への説得は不可欠だし、日米韓の情報共有が必須だ。長期的には北朝鮮の「統一のための核兵器」を念頭において、日本は敵基地攻撃能力の獲得を検討すべきだ。巡航ミサイル、空対地ミサイルの導入、作戦用の空中給油機確保、ミサイル発射に備える早期警戒衛星などの保有などである。

 悪い条件ばかりではない。4月11日の最高人民会議で外交委員会委員長に就任したリ・スヨン前外相とは昨年9月、平壌で3時間余り懇談をする機会があった。日朝関係改善を熱っぽく説き、スポーツ交流を通じた信頼醸成を強調していた人が外交責任者になったことを日本はどう考えるか。


週刊「世界と日本」2016年8月15日 第2083号より

涼風対談 今そこに有る軍事的脅威に・・・

左から、ジェームス E.アワー氏、西原正氏、金田秀昭氏
左から、ジェームス E.アワー氏、西原正氏、金田秀昭氏

ヴァンダービルト大学名誉教授 ジェームス E.アワー氏 VS. 

平和・安全保障研究所理事長 西原 正氏
(司会)岡崎研究所理事 金田 秀昭氏

 日本を巡る安全保障環境は、国際的にも地域的にも大きく変化している。即ち日本は、「今そこに有る軍事的脅威」に晒されている。しかも、冷戦時代のように単純明快な対立構造ではなく、また手段も多岐多様に亘っている。こういった状況下、我々国民が正確に現状を理解し、かつ日本は如何に適切に立ち向かうか、日米の専門家2人、ジェームスE.アワー氏と西原正氏に、金田秀昭氏が伺った。

(本記事は、対談のダイジェスト版です)

変化する、北の「核ドクトリン」

アジア太平洋地域の安全保障

 金田 アジア太平洋地域の安全保障情勢全般に関し、どのような認識をお持ちですか? また、日本を取り巻く領土問題については、どのように評価されますか?

 西原 アジア太平洋地域には2つの喫緊の脅威がある。その1つは北朝鮮、もう1つは中国です。アジア太平洋地域のパワーバランスは米国が維持していますが、南シナ海など、一部の地域や地方では、中国に傾こうとしています。

 太平洋に関する中国の基本的、戦略的な動機は、大国のパワーバランスを図ることで、大国同士の「新しいスタイル」の関係を言っています。つまり、太平洋を2つに分け、西太平洋は中国の支配下に、東太平洋は米国の支配を許すということです。

 金田 尖閣諸島問題に少し触れてください。

 西原 特に中国が、尖閣諸島への主権を主張しているのが懸念され、中国独自の考え方には注意を払う必要があります。

 アワー 米国の立場に関する私の見方は、基本的には西原先生が今言われたこととあまり変わりはありませんが、実はこの点を裏付ける事実があります。

 1990年、冷戦の最後の年ですが、米国は西欧に24万人の兵士を配置、その大半はドイツで、ソ連による大規模侵略からドイツを守るためでした。

 同じ時期、西太平洋の日本、韓国、そして第七艦隊、全体での配置は10万人でした。今日では、欧州の24万人は10万人以下に大幅に削減されましたが、西太平洋では依然として10万人が配置されています。

 この大きな違いの理由はなんでしょう。

 脅威の違いです。西欧に対するソ連の大規模侵略の脅威が消滅したからです。ところが西太平洋では、北朝鮮の現実の脅威があり、さらに中国はこれから何をしてくるのか、という中長期的な不確実性があります。

 このように、「脅威がどこにあるか」の現実的な評価に基づき、米国は、兵力の大半を配置しており、これまでも常にそうでした。

 中国が太平洋の2分割を希望していることですが、このことは米国にとっては大きな損失です。米国は今まで、太平洋の東も西も全てで他を圧倒するパワーを維持してきたからです。また、西側全部を中国側に譲ることは、日本や韓国、台湾、他の同盟国、そしてフィリピンなど、パートナーに対する米国の信用を大きく損なうことになります。

北朝鮮の現実的な脅威への対応

 金田 次は北朝鮮の脅威ですが・・・。北朝鮮のByongjin(並進)政策。核兵器の開発と経済の発展を同時並行で行うという「2―トラック政策」を進めており、また、新しい「核兵器ドクトリン」にどう対応すべきか。

 アワー 北朝鮮の論理は我々のものとは異なりますから、彼らへの対応はなかなか難しい。たとえば、通常兵器での大規模な日本や韓国への攻撃などです。

 旧ソ連の場合、そして今日の中国の場合もそうですが、彼らはパワーというものを認識し、理解しています。このため、こちら側にパワーがあれば、抑止が効くのです。ところが北朝鮮に対しては、単純な抑止力が効くかどうか、私は疑問視しています。

 西原 私は、北朝鮮が、そして金正恩が、基本的に何を達成しようとしているのかと。米国と直接交渉したいのだと。だから北朝鮮は、核兵器を開発した、などというプロパガンダをしているのだと考えています。

 しかし、現実に北朝鮮は、韓国に脅威を与える核兵器を持ちながら、朝鮮半島で北朝鮮が存続できるように、核兵器ドクトリンを変更しました。これまでは、韓国と同等の方法で自国を守るということだけでしたが、今や、自国の防衛には第1撃(first strike)能力を持ち、韓国に対し第1撃を行う意思を持つべきだ、と。北朝鮮は変化しており、極めて危険です。

 金田 北朝鮮問題に関する、日韓米の安全保障協力関係について、どのように考えますか? また、朝鮮半島の非核化のプロセスはどうあるべきですか?

 西原 朝鮮半島の非核化は、北朝鮮が自国の核開発計画を断念して初めて可能になりますが、断念する可能性は低いです。北朝鮮が崩壊する、北朝鮮に一種の崩壊が起きる、あるいは北朝鮮の指導力が弱体化するまでは、朝鮮半島の非核化を見ることはないでしょう。

南シナ海 中国とは多国籍で対応 切れ目のない「コアリシヨン」を構築

中国の現実の脅威への対応

 金田 次に中国の現実の脅威への対応ですが・・・。南シナ海での軍事基地建設への対応についてどう考えますか。

 西原 南シナ海での軍事行動に関して、近く、国際仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)がフィリピンの提訴に対し、フィリピンに有利な裁定を出しても(編集註=7月12日、仲裁裁判所が、南シナ海での中国の主権・主張を否定する判決を出した)、中国は聞き入れないでしょう。この状況はしばらく続くと。

 アワー 判決に対し、中国はこれを無視し批判すると思います。中国が過激になればなるほど、一層強力な国になるのか、友人をさらに怒らせてしまうのかです。中国が行っている懸念には、日本、米国、東南アジア諸国、豪州、印度などが協力して行動し、努力していく戦略があれば、対抗できると考えます。

 金田 それは大変良い指摘です。

 アワー 伊勢志摩のG7会議は大きな成功でした。それまで欧州諸国、英国、フランス、ドイツは、南シナ海での中国の行動に関心をもっていませんでした。

 安倍首相はこの問題を取り上げ、地図を使って説明しようとしました。このため、欧州諸国は、中国が行っていることの重要性、そのマイナスの点に、ある種、気付かされたのです。それ以後、中国は多くの友人を失いました。

海上交通路の脅威への対応

 金田 日本と米国は、地域の海洋安全保障に対する取り組みを主導しています。南シナ海の事例を考えると、我々は、現在は組織だったものはありませんが、切れ目のない「地域海洋安全保障協盟(コアリション)」を構築する必要が大いにあります。

 これは、幾つかの小地域のコアリションを地域全体に広げ、連結していくものです。この場合、日本と米国、豪州と印度の4カ国は、その根幹として一定の責任を持たなければなりません。

 アワー 今日の日本と米国の海洋軍事力を合わせると、中国の軍事力よりはるかに強力です。しかし、この問題にどう取り組むかという明確な戦略に欠けているのです。

 金田 特に南シナ海の航行で、海洋安全保障が破られたと判断した場合、中国は、一種の破壊行為を行うでしょう。ではどのような協力をすべきか? どのようにすべきか? 海上交通路の安全を守るため、良識ある地域の海洋国と協力する必要があります。

 アワー 私も同じ考えです。中国は強力な国になってきてはいますが、圧倒されるほど強大ではありません。米国は、航行の自由作戦を行っていますが、これをもっと積極的に、過激なほど行うべきです。非合法ではなく合法的に。正直なところ、中国には、日本の船舶の航行を妨げる勇気があるとは思えません。

 我々はフィリピンやベトナム、他の諸国が、海洋安全保障コアリションの中にある、特定小地域コアリションに参加することを慫慂(しょうよう)(又は奨励)すべきです。そうすれば、だれもが中国の非合法活動に連携して対抗することになります。これこそ切れ目のない協力の連鎖です。

 金田 その通りです。

 西原 お話しの4カ国ですが、現時点では日本、米国、豪州、印度が考えられますが、実際にはどう協力しあうのですか? 日本とインド洋の間の海域を分割し、ここは印度担当、ここは豪州担当、ここは米国の担当といった形にして行くのですか?

 それは中国と新たな緊張関係を生み出す可能性がありますので、東シナ海では、より多くの国の軍隊を組み合わせるべきです。米国は当然として、印度、豪州などの艦船です。

 地域全体でコアリションが、シーレーン、海上交通路を守ることになり、うまくいくかもしれません。一国で中国に対峙するよりは、おそらく政治的に良いでしょう。

 金田 たとえば、南シナ海の北西部では、日本、米国、ベトナムが小地域コアリションを組み、南シナ海の南東部では、日本、米国、フィリピンがコアリションを作り、これに豪州が加わる。柔軟性のある小地域コアリションを地域内の小地域ごとに構成する、これらを切れ目なく連鎖させる。それが私の考えです。

 アワー 中国との緊張関係は高まる可能性がありますが、そうなった場合、中国に対しては、「このコアリションができた原因は、そちらの行動にある。いやならそちらの行動を変えてはどうか。中国との戦争は望んでいませんから」と答えます。

 金田 本日は、忌憚のない討論を、ありがとうございます。

ジェームス E.アワー氏

1941年米国ミネソタ州生まれ。米国海軍に所属後、国防総省安全保障局日本部長。2008年「旭日中綬章」、15年「正論大賞」受賞。日本戦略研究フォーラム特別顧問。

金田秀昭氏

1945年神奈川県生まれ。防衛大学校卒後、海上自衛隊入隊。統幕第5幕僚室長、護衛艦隊司令官などを経て退職(海将)。元ハーバード大学上席特別研究員。

西原正氏

1937年大阪生まれ。京都大学法学部卒。元防衛大学校長。2008年「瑞宝重光章」、12年「正論大賞」を受賞。安倍政権の日本版NSC設立有識者懇談会メンバー。



中谷元 防衛大臣への提言

岡崎研究所理事 金田 秀昭 氏

週刊「世界と日本」2016年1月18日 第2069号より

「自衛官」の心で根本問題解決を

  中谷防衛大臣は、1昨年12月、2回目の防衛大臣に就任(1回目は防衛庁長官)し、安保法制国会という政治的難局を乗り切り、第3次安倍改造内閣で再任を果たした。

 現在は来年3月の同法施行に向けて、ROE(部隊行動基準=交戦規程)の制定など省内における諸準備を統括する一方、繁忙な省務の合間を縫って、諸国国防大臣との対話にも積極的に臨んで関係改善、緊密化を図っている。同時に、遠隔地の自衛隊小部隊の視察を重ねるなど、防衛省・自衛隊の業務の円滑化、士気の高揚にも腐心している。

 わが国の安全保障にとって、防衛大・自衛隊出身の政治家である中谷大臣の存在意義は大きく、また「融通無碍(ゆうずうむげ)」とまではいかないが「有徳無碍(ゆうとくむげ)」の政治姿勢で、着実にその政治使命を果たしている。

 安保法制が成立したとは言え、自衛隊の存在、権限などを巡っては、根源的な諸問題が未解決のまま放置されている。新年に当たり、中谷大臣であればこそ、「自衛官の心」をもって、実現に向けて真摯に取り組まれることを期待し、幾つかの点を要望したい。

1.安保法制の実効化と追補

 今般成立した安保法制は複雑極まる構造になっており、任務を付与された自衛隊の現場部隊や上級司令部等の行動判断は、容易ではない。部隊行動の自由を過度に束縛することなく、瞬時に的確な行動をとることができる実効的なROEの制定や、適切な教育訓練環境の構築などに指導力を発揮し、同時に、自衛隊向けROEが国際標準からかけ離れることのないよう留意して頂きたい。

 さらに、今般の安保法制で積み残された部分については、早期に再挑戦する気概を持って頂きたい。例えば、グレーゾーン事態における領域警備を万全にするため、法執行機関や自衛隊の省庁間の壁を超え、切れ目のない対応を可能とする「領域警備法」の制定が必須である。

 一方、憲法上「自衛権や自衛隊の保有」は依然として曖昧のままであり、国際法で保有が認められている「部隊の自衛権」の論議も見送られた。また、パリのテロに見るまでもなく、「緊急事態対処法」の制定は急務である。これら基本問題の解決のため、まず準憲法たる「国家安全保障基本法」を提起し、憲法改正に結び付けて行くことを期待する。

2.防衛力の根幹部分の改善

 日本の防衛予算は、平成25年度から微増しているが、GDPの1.0%程度であることに変わりはなく、主要国では最低である。次に低いドイツでも、GDPの1.2%程度を国防費に割り当てている。わが国周辺の軍事増強の傾向を見れば、少なくとも同程度とすべきである。

 さらに重要なことは、「定員の確保」である。近年自衛隊の海外活動実任務は増し、各自衛隊ともに負担が増えている。充足率100%を確保していれば何とか遣り繰りもできようが、現実には各自衛隊ともに充足率は90%強程度で推移しており、各自衛隊は教育所要と部隊運用の狭間で四苦八苦している。

 国家防衛基盤の充実も重要である。即ち、予備自衛官制度の拡充、防衛装備や運用支援に関わる民間業者との提携、防衛問題に関する学校・社会教育の充実、緊急事態での民間・地方自治体との自衛隊の連携といった面の改善が必要となる。

 一方、自衛官に対する国家的に適切な処遇も大切である。近年統幕長(議長)経験者に対して、瑞宝大綬章が授与されていることは喜ばしいことではあるが。願わくは、上級者のみならず、一般自衛隊員に対しても、国際標準に照らした、正当な評価に基づく適正な処遇が行われることを期待する。

3.統合防衛体制の整備

 現防衛計画の大綱では、海空優勢及び陸上機動展開能力の確保を柱とする「統合機動防衛力」の整備が目標として設定されている。

このこと自体は正しいが、前述したように、近隣諸国の軍事力増強を見れば、わが国の防衛力強化は、予算面では十分とは言えない。

 この解決策として、運用面でカバーする方法がある。即ち「統合防衛体制の強化」である。これにより自衛隊運用の柔軟性と防衛力整備の効率性の向上が期待でき、防衛力強化に必要な防衛力整備への投資が、無駄なく可能となる。

 2017年を目処に陸上総隊が発足し、3自衛隊の中央司令部組織が出そろう。この際、それらを統括する統合中央司令部を編成し、隷下に常設及び臨機の統合部隊を束ねて、統合防衛体制を整えることが緊要である。

 行政組織としての統幕と部隊組織としての統合中央司令部を併置する体制を充実し、各幕が行う防衛力整備や政策立案に対する統幕の調整・指導責任を付加することができれば、効果が倍増する。

4.日米同盟強化および地域友好国との協調

 本年の日米防衛協力指針の改訂において、同盟調整メカニズムと共同計画策定メカニズムの設置が同意され、先般の日米防衛首脳会談において、正式な開始が合意されたことは喜ばしい。ついてはこれらメカニズムを活用し、「日米同盟戦略」の構築を目指してもらいたい。

 わが国でも「国家安全保障戦略」が策定され、次いで「国家防衛戦略」の順番となる訳であるが、日本の防衛が日米同盟に大きく依拠していることを考えれば、同等又はそれ以上に「日米同盟戦略」の策定が重要となる。これにより、周辺諸国に対する抑止効果は絶大なものとなろう。

 また日本は、南・東シナ海を含む印度太平洋地域において、日米を基軸としつつ地域友好諸国を加え、平素からの多国間共同行動を念頭に置いた常設海上共同部隊の設置に重要な役割を担うべきである。これと同様に、地域を貫通する海上交通路の多国間共同防衛を目的とし、地域ごとの特性を生かした一連の海洋安全保障協盟(有志連合)の構築にも主導性を発揮すべきである。

 一方、日本の地域貢献の新たな役割として、防衛装備移転3原則の下、防衛装備面での能力構築支援を図るべきである。このためには、新設の防衛装備庁が主導性を発揮し、日米豪3国による豪国向け潜水艦開発の取り組み、インドやASEAN諸国が期待するUS―2の移転など、今まで以上に地域友好国の期待に応えていくべきである。


関連情報リンク

防衛白書は、わが国防衛の現状と課題およびその取組について広く内外への周知を図り、その理解を得ることを目的として毎年刊行しており、平成29年版は刊行43回目になります。

(防衛省ホームページより)

http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/


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